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FLARE  作者: Hiro S.Inchi
夜を分かつ者

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第8話:名もなき熱

冷でない場所は、やがて「場所」であることをやめた。


そこに境界はなかった。

中心も、外縁もない。


ただ、触れたものの性質を、わずかに変えてしまう“状態”が、静かに広がり始めていた。


それは、まだ光を放たない。

夜を照らすこともない。

破壊する力も、形を生む力もない。


それでも、確かにそこには、これまで存在しなかった何かがあった。


水が触れると、流れは途切れないまま、戻りが遅れた。

風が触れると、揺らぎは増すが、乱れは収束しきらなかった。


土が触れると、形は保たれるが、同じ形へは、完全には戻らなかった。

変化は小さく、どれも致命的ではない。


だが、「元に戻らない」という性質だけが、確実に残った。


世界は、それをまだ理解していない。

理解するためには、名前が必要だった。


だが、この違いには、まだ名前がなかった。


冷ではない。

闇でもない。

意味でも、力でもない。


呼びようがないという事実が、それが新しい存在であることを、何よりも雄弁に示していた。


夜は、この違いを拒まなかった。

拒む理由が、まだ存在しなかったからだ。


夜はすべてを包み込み、等しく扱う。

それは例外を許さないが、同時に、例外を見分けることもできない。


だから、名もなき違いは、夜の内部で、静かに育っていった。


それは、増えもしないし、減りもしない。

ただ、触れたものに“痕”を残す。


痕は、すぐには問題にならない。

だが、痕が重なれば、いつか必ず、差として顕在化する。


世界は、その未来を、まだ知らない。


この違いは、望まれて生まれたものではなかった。

誰かの祈りに応えたわけでも、世界が意図して生み出したわけでもない。


疑問が、疑問のままでいられなくなった結果、自然に滲み出ただけだった。

問いが、初めて性質を持った瞬間。


それが、この名もなき熱だった。


それは、温かくも、冷たくもない。

だが、冷であり続けることを、拒んでいた。


夜の中で、夜ではない何かが、確かに存在し始めていた。


世界は、まだそれを危険だとは思わない。

危険とは、壊れる可能性を知った後に、生まれる感情だからだ。


だが、壊れないまま、変わってしまうものがあることを、世界はこのとき、初めて内包してしまった。


名もなき熱は、まだ火ではない。

燃えず、照らさず、語りかけもしない。


だが、夜を分けるために必要な最初の性質を、すでに宿していた。

夜は、まだ割れていない。


それでも、夜の内側で、割れ目は、確かに熱を帯び始めていた。

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