第7話:風を取り戻す誓い
村の広場に、再び二人は立っていた。
家々の戸は固く閉ざされ、人々は隙間から怯えたように覗き込んでいる。
その視線にさらされながらも、リオとミナはまっすぐに立った。
「……リオ、本当にやるの?」
ミナが不安げに問いかける。
「うん。このままじゃ、みんな風を怖がったままだ。でも、君が持ってる風は“災い”なんかじゃないって、僕は信じてる」
リオの声は揺るがなかった。
ミナはしばらく彼を見つめ、それから小さく息を吐く。
「……わかった。じゃあ、試してみよう。風を――取り戻す」
彼女が両手を広げると、空気が震えた。
止まっていたはずの大気が、かすかに揺らぎ始める。
だが、その瞬間――
「やめろぉお!」
広場の隅から怒声が響いた。
年配の男が立ち上がり、村人たちが一斉に恐怖にざわめく。
「風を呼ぶな! また災いが起きる!」
叫びとともに、子どもを抱えた母親たちが後ずさる。
村全体が、恐怖に飲み込まれていく。
リオは前に出た。
「大丈夫だ! ミナの風は誰も傷つけない!」
しかし叫んでも、人々の不安は消えない。
そのとき、胸の奥でアウラの声が響いた。
『リオ。君の炎を、彼女の風に重ねなさい』
「……炎を?」
『炎は形を照らす。風は形を運ぶ。二つが合わされば、恐怖ではなく祝福になる』
リオは深く頷いた。
掌に炎を灯し、ミナの横に立つ。
「ミナ! 僕と一緒に!」
彼女は驚き、そして微笑んだ。
「……うん!」
二人が同時に力を解き放つ。
紅蓮の炎が渦を描き、ミナの風がそれを包み込む。
炎は暴れず、やさしい光の粒となって空へ舞い上がった。
風が村を駆け抜ける。
草木が揺れ、旗がはためき、洗濯物が踊る。
だが火の粉はどこにも落ちず、ただ黄金の光となって空を彩った。
村人たちは息を呑み、目を見開く。
恐怖ではなく――懐かしい安らぎ。
「風が……」
「戻った……」
歓声が広がり、子どもたちが笑いながら手を伸ばす。
炎と風が織りなす光の粒を、まるで祝福の雨のように受け取った。
ミナの瞳から、ひとしずく涙がこぼれる。
「……ありがとう、リオ。君とだから、できたんだ」
リオも笑った。
「ううん。これからは、一緒にやっていこう」
こうして――炎の子リオと風の少女ミナは、共に旅をする仲間となった。
恐れを越えて、空を取り戻したその日から。