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FLARE  作者: Hiro S.Inchi
失われた契約者

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第27話:眠りの精霊

夜が深まり、森が静けさに包まれていく。

木々のざわめきも止まり、ただ風だけがゆるやかに流れていた。


“契約の森”の中心――炎樹の根元に、淡い赤の光が灯っていた。

それは精霊イフリートの魂。


長き時を見届けた彼は、いまようやく、安らぎの中にいた。


> ――これが、人の選んだ火の行く末か。


イフリートは静かに思考する。


かつての怒りも、嘆きも、今はもうない。

ただ、静かに満ちる満足と穏やかさ。


> ――アレス。

>  おまえが命を賭して伝えたもの、

>  それが確かに、この地に根づいた。


風がそよぎ、炎樹の葉が微かに鳴る。

それは、王子の魂が応えるような音だった。


「……そうだな」


イフリートは小さく笑った。

その声は風に溶け、森を包み込む。


> ――人は、恐れながらも、火を使う。

>  壊しながら、また創る。

>  だが、それでも生きようとする。


彼はそれを見守ってきた。

灰の巫女メイラの祈りも、エリアスの言葉も、小さな子どもたちの笑顔も。


それらすべてが、火と人との絆を再び結び直す“灯”だった。

 

やがて、空に星がひとつ落ちた。

それは流星となり、森の中心に降り注ぐ。


光が炎樹を包み、夜が昼のように明るくなった。


> ――そろそろ、時か。


イフリートはゆっくりと立ち上がる。

彼の姿は炎のように揺らめき、やがて人の形を取った。


紅蓮の衣をまとい、瞳には金の光。

その背からは淡い炎の羽が広がっていた。


「……長い旅だった」


彼は森を見渡す。

赤く輝く木々、芽吹く花々、そして遠くに見える人の灯。


そのすべてが、彼の歩んだ“証”だった。


> ――この世界はもう、火と共に歩ける。

>  ならば、我の役目は終わりだ。


炎の羽がゆっくりと閉じる。

彼の体が光の粒となり、空へと昇っていく。


その瞬間、森の奥から声がした。


> 『ありがとう、イフリート』


それは、メイラの声。

もうこの世にはいないはずの巫女の想いが、風に溶けて届いたのだ。


> ――巫女よ。おまえの詩が、火を守った。


> 『あなたがいたから、灯は消えなかったのよ。

>  どうか、安らかに眠って』


> ――ああ。

>  だが、火は眠らぬ。

>  我が眠りの間も、誰かの心で燃え続ける。


空に流星がいくつも走る。

それは、火の精霊の欠片。


大地に降り注ぎ、森のあちこちに小さな灯が生まれる。

その光を見ながら、イフリートは目を閉じた。


> ――火は、人と共に。


光が完全に消えたあと、森は再び静寂を取り戻した。

だがその静けさの奥に、確かな鼓動が残っていた。


炎樹の根元――そこに刻まれた赤い紋様が、ゆっくりと光っている。

まるで精霊の眠る心臓のように。


時は流れ、季節は巡る。

雪が降り、やがて溶け、森は変わらず命を育て続けた。


人々は言う。


> 「あの森には、“眠りの精霊”がいる」


焚き火を囲む夜、子どもたちはその話を聞いて目を輝かせた。


> 「精霊さまは、本当に眠ってるの?」

> 「うん。でもね、火を大切にする人のそばでは、

>  ちゃんと目を覚ましてくれるんだって」


笑い声が広がり、炎が揺れる。

その炎の奥で、ほんの一瞬――

金色の瞳が開いたように見えた。


> ――まだ、終わってはいない。


風が吹く。

火が小さく跳ねた。


まるで、次の時代へと合図するように。


――火の物語は続く。

今は眠る精霊も、いつか再び、人と共に歩き出すだろう。

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