表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FLARE  作者: Hiro S.Inchi
失われた契約者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/63

第17話:契約の終焉

――静寂。


火も、風も、声もない。

ただ、灰が舞う音だけが、世界のすべてだった。


アレスが消えたあと、王都には奇妙な“静けさ”が訪れた。

かつて焦土だった場所に、もう煙は上がらない。


炎の匂いが消え、空は青を取り戻しつつある。


けれど、その静けさは平穏ではなかった。

何かが“終わった”という、圧倒的な喪失の気配――それが、空気のすべてを支配していた。


灰の海の中。


光の粒が、風もないのにふわりと舞い上がる。

その中心に、炎の影が現れた。


イフリート。


もはや神々しい輝きはない。

かつて紅蓮に燃えていた体は透け、炎の輪郭は風に溶けるように揺らいでいた。


> ――……ここか。


声は低く、かすれている。

だが、その響きには確かな温もりがあった。


イフリートは焼け跡の中央に膝をつき、両手を地に添えた。


> ――アレス・フレア。

>  この世界に灯を遺した王子よ。

>  おまえの願い、確かに受け取った。


風がそよぎ、灰の中から小さな光が浮かび上がる。

それは、かすかに脈動する“炎核えんかく”だった。


アレスの魂が変じた、最後の灯。

火ではなく、命の鼓動そのもの。


イフリートはそれを見つめ、そっと指を伸ばした。

触れると、柔らかな熱が伝わる。


> ――まだ、生きている。

>  おまえは本当に……人間というものは、恐ろしいな。


微笑のような、ため息のような声。


> ――この火は、もう我のものではない。

>  人の想いで生まれ、人の心で燃えている。


イフリートは立ち上がる。

燃え尽きた空を見上げ、静かに右手を掲げた。


> ――アレス・フレア。

>  ここに、“炎の契約”を終える。


その声とともに、空が微かに震えた。

風が吹き抜け、灰が螺旋を描いて舞い上がる。


> ――火の誓いを破り、

>  心の痛みを抱き、それでも最後まで灯を捨てなかった。

>  その生の記録を、“精霊の書”に刻む。


イフリートの胸から、光が漏れる。

それは、彼自身の炎の核。

彼はその光を引き抜き、両の掌で包み込んだ。


> ――我が名において、この契約を解く。


掌の間で、火が白く変わる。

眩い閃光が空を照らし、燃えた王都のすべてを、一瞬だけ純白に染めた。

 

光が収まると、そこには何もなかった。

ただ、灰の中にひとつ――アレスの“炎核”だけが、静かに残されていた。


イフリートはそれを見下ろし、ゆっくりと跪いた。


> ――おまえの火は、我を超えた。

>  これからは、人が灯を継ぐ番だ。


両手で炎核を包み、額に当てる。


> ――“火は、心と共に在れ。”


祈りの言葉が響く。

それは、アレスと交わした最初の契約の言葉だった。


一陣の風が吹き、灰が円を描いて舞う。

まるで世界が、その終焉の儀を見守っているようだった。


> ――さらばだ、王子。

>  おまえが信じた火が、いずれ再び世界を照らすだろう。


イフリートの姿が、風の中に滲み始める。

身体が光の粒になり、ひとつ、またひとつと消えていく。


> ――我は……眠ろう。

>  この火が、再び人に拾われるその日まで。


最後の言葉とともに、炎の精霊は消えた。

残されたのは、小さな炎核と、それを包むように吹き抜ける優しい風だけだった。


風が草を揺らす。

そこに、芽吹きの音がした。


灰の大地に、緑の葉が顔を出す。

炎のあとに訪れたのは、破壊ではなく――再生だった。


――こうして、“炎の契約”は終わった。

だが、火はまだ眠っているだけ。


いつか、この灯を拾う者が現れる。

その日まで、世界は静かに呼吸を続ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ