第5話:閉ざされた空の理由
リオとミナは村の広場に足を踏み入れた。
だが、人影はほとんどない。
市場の屋台も、窓の格子も、すべて固く閉ざされている。
「……やっぱり、変だよね」
ミナが小声でつぶやく。
彼女の髪だけは、かすかな風に揺れていた。
「どうして、みんな隠れてるんだろう」
「理由を知らなきゃね」
二人が話していると、杖をついた老婆が現れた。
背を丸め、震える手でリオたちを制する。
「旅人よ……ここで長居はするでない」
「えっ、どうしてですか?」
リオが一歩近づく。
老婆の瞳には恐怖が宿っていた。
「風を……呼ぶ者は災いを招く。この村は、そうして幾度も痛みを受けたのじゃ」
「災い……?」
ミナの表情が固まる。
老婆は震える声で語り始めた。
――十数年前、この村には風を操る若者がいた。
彼は空を自由に駆け、嵐すら鎮める力を持っていたという。
だが、ある日、制御を失い、暴風が村を襲った。
家々は倒れ、畑は荒れ、何人もの命が奪われた。
「それ以来、村人は“風”そのものを恐れるようになった。風を呼ぶ者も、外からの風も……すべてが忌むべきものになったのじゃ」
語り終えた老婆は、怯えたようにミナを見つめる。
ミナの肩にかかる髪が、ふわりと揺れていたからだ。
「まさか……おぬし……」
リオがとっさに前に出る。
「違います! ミナは……村を傷つけるつもりなんてない!」
老婆は目を細め、深いしわを刻んだ顔をさらに険しくする。
「信じられぬ。風は――災いの兆しじゃ」
そう言い残すと、老婆は背を向け、杖を突きながら家の中へと消えていった。
広場に残されたリオとミナ。
重苦しい沈黙が流れる。
「……これが、この村の真実か」
ミナは苦笑した。
けれど、その笑顔は寂しさでにじんでいる。
「ねえ、リオ。風は、本当に災いかな?」
彼女の問いに、リオは言葉を失った。
炎もまた、恐れられる力だ。
けれど、それをどう使うかは――持つ者の心に委ねられている。
『炎も風も、同じ。光にも影にもなる。』
アウラの声が、リオの胸の奥で響いた。
リオは拳を握りしめる。
「……違う。風だって、きっと人を救えるはずだ」
ミナの瞳が、驚きに見開かれる。
その奥に、ほんの少しだけ光が戻った。