第21話:影に囚われた村
影の巨人をなんとかやり過ごし、リオたちは谷を抜けて小さな村にたどり着いた。
けれど、そこに広がっていたのは「生きているはずの場所」とは思えない光景だった。
人の気配はある。
だが、畑も市場も沈黙し、村人たちはぼんやりとした瞳で座り込んでいる。
声をかけても、まるで夢の中にいるように反応は鈍い。
「……これ、まるで灰の街みたい」
リサが木箱を抱きしめ、不安そうに呟く。
ミナが風を流すと、村全体を覆う黒い靄がゆらりと揺れた。
その匂いは土のものではなく、焦げた石のように重苦しい。
『影に囚われている……大地の精霊が蝕まれ、人々の心まで縛られているのだ』
アウラの声がリオの胸に響く。
そのとき、ひとりの老人がふらふらと近づいてきた。
白濁した瞳でリオたちを見上げ、掠れた声を落とす。
「……影の神に……抗うな……」
「影の神……?」
リオが問い返すと、老人は肩を震わせて笑った。
「抗えば……大地に呑まれる……声に従えば……楽に……眠れる……」
そう言い残し、再びうつろな目で歩き去っていった。
「楽に眠れる……?」
カイが震えた声で呟く。
まだ幼い彼には、その言葉があまりに恐ろしく響いたのだ。
リサが彼の肩に手を置き、強く首を振る。
「駄目。眠るんじゃない……忘れることは、生きることをやめることだから」
リオは二人を見守り、唇を固く結んだ。
仲間が影に呑まれるわけにはいかない。
「……この影を祓わなきゃ。そうしなければ、この村は……」
だが、村の中心へ近づくほど、影の濃度は増していく。
心に直接囁きかける声が、リオたちの胸を刺した。
『抗うな……諦めろ……楽になれ……』
その声に、リサが膝をつく。
「やめて……やめて……!」
リオは慌てて支え、仲間を守るように立ち塞がった。
影の囁きが強まるほどに、大地が低く唸り、巨人の気配が再び迫ってきていた。




