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FLARE  作者: Hiro S.Inchi
炎を渡す者たち

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第19話:炎と水の誓い

湖面を割り、赤黒い炎の獣が姿を現した。


イフリート――かつて街を焼き、歌となって今も人々の絶望を吐き出し続ける存在。

その咆哮ひとつで、空が震え、湖畔の木々が黒く焦げていく。


「……すごい力……」


ミナが震える声で呟いた。


リサは木箱を抱きしめ、カイは必死に小枝を握り締めて立っている。

彼らはまだ歌の残響に囚われていた。


リオは一歩前に出る。

掌の炎を強く灯し、イフリートの瞳をまっすぐに見返した。


『――なぜ抗う。炎は奪い、焼き尽くす。それが定めだ』


低く重い声が、炎の獣から響いた。


「違う!」


リオは叫んだ。


「炎は奪うだけじゃない。照らすことも、守ることもできる!」


『……偽りだ。わたしは見た。炎に焼かれ、泣き叫ぶ人々を。お前もまた、同じ道を歩む』


イフリートの咆哮とともに、紅蓮の波が襲いかかる。

リオは掌を突き出し、アウラの力を解き放った。


「アウラ、力を貸して!」


『共に!』


金色の炎が盾のように広がり、紅蓮の波を押し返す。

水面が蒸気をあげ、湖は一瞬で霧に覆われた。


その霧の中から、蒼い光が差し込む。

水底の守り人リュシアが再び姿を現し、声を響かせた。


『リオ。炎と水は相反するが、互いを制するのではなく、支え合うことで均衡する。ここで誓え。炎を暴走させず、水を滅ぼさず。“希望のために使う”と』


リオは胸に手を当て、深く息を吸った。

仲間たちの姿が脳裏に浮かぶ。


ミナの風、リサの灰、カイの勇気――そして、自分を選んでくれた炎の精霊アウラ。


「……僕は誓う。炎を恐怖にしない。希望を照らす光として――仲間と共に、歩む力にする!」


その言葉と同時に、リオの炎が膨れ上がった。

だが暴れることなく、蒼い水流と混ざり合い、虹色の光を生み出す。


イフリートが咆哮を上げる。

しかし、その瞳の奥にあったのは怒りではなく――哀しみだった。


『……忘れられぬ。焼いてしまったものを』


「忘れないでいい! でも、立ち止まるんじゃない。僕たちと一緒に、未来を照らしてほしい!」


炎と水がぶつかり合い、やがて静かに収束していく。

湖面は光に満ち、赤黒い影は淡くほどけていった。


残ったのは、小さな赤い炎の結晶。

それをリオが手に取ると、温かい声が胸に響いた。


『……お前の誓いを、見届けよう。炎を継ぐ者よ……』


イフリートの歌は止み、湖は静けさを取り戻した。

仲間たちがゆっくりと顔を上げる。


「……終わったの?」


ミナが震える声で尋ねる。


「うん」


リオは結晶を握りしめて微笑んだ。


「炎はもう、絶望の歌じゃない。――希望の誓いだ」


その言葉とともに、朝日が湖を照らした。


水底に沈んだ街は静かに眠り、湖面に虹色の光が揺れていた。

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