第18話:歌に呑まれる心
水底から響く歌声は、もう旋律ではなく呪いに近かった。
低く、重く、骨の芯まで揺さぶり、心の奥に眠る恐怖を呼び覚ます。
「やめ……頭が……!」
ミナが耳を塞ぐが、意味はなかった。
リサは木箱を抱きしめたまま、嗚咽のような声を漏らしている。
カイは小枝を握りしめたまま、必死に立とうとするが膝が笑っていた。
リュシアの蒼い光も揺らいでいる。
『……この歌は魂を呑む。イフリートの“記憶”が形を持って響いているのだ』
「記憶……?」
リオの掌の焔が、不規則に脈打つ。
『彼がかつて滅ぼした街、人々の悲鳴。そのすべてを呑み込み、歌として吐き出している。炎が力ではなく“絶望”として残った姿――それがイフリートだ』
歌がさらに強まり、仲間たちの表情が次々と恐怖に染まっていく。
「もう……燃やさないで……」
リサの目から涙が溢れる。
過去に失った家族の記憶が、無理やり抉り出されていた。
「母さん……母さんを連れていかないで……!」
カイの声は悲鳴に変わる。
焔を持たぬ心が、逆に歌に晒されてむき出しにされていた。
ミナも唇を噛みしめ、かろうじて風で自分を支えていたが
――その瞳は絶望に濡れていた。
リオは全身を震わせながら立ち尽くした。
自分も炎に怯えられてきた。
火がすべてを奪った夜を、まだ忘れられない。
――歌が、その記憶を突きつけてくる。
『リオ……! 飲み込まれるな!』
アウラの声が必死に響く。
「でも……僕も……」
焔が揺れ、今にも消えそうになる。
そのとき――カイのか細い声が届いた。
「リオ兄ちゃん……負けないで……」
焔を持たない少年の震える声。
けれど、確かにそこには勇気があった。
リオは拳を握りしめた。
胸の奥でアウラが共鳴する。
「……そうだ。僕は、選んだはずだ。炎を照らすために使うって!」
掌の火が爆ぜ、歌声を押し返すように広がった。
仲間たちの影を照らし、絶望の波に小さな亀裂を入れる。
リオは叫んだ。
「イフリート! お前の歌に負けない!僕は炎を、希望のために使う!」
湖面が激しく揺れる。
赤黒い影が形を取り、巨大な炎の獣が咆哮した。
その瞳に宿るのは、怒りと悲しみ。
――決戦の時は近い。




