第15話:焔を持たぬ勇気
その日の夕暮れ。
村を囲む森の奥から、低い唸り声が響いた。
獣の群れ――飢えに駆られ、畑を荒らしに出てきたのだ。
「く、来たぞ! またあの獣どもだ!」
村人たちが怯えた声を上げ、家の中へと逃げ込んでいく。
リオはすぐに駆け出した。
掌に炎を宿し、森の入り口で立ちはだかる。
ミナの風が草を揺らし、リサが背後を固める。
だが、群れの数は予想以上に多かった。
鋭い牙をむき出しにし、獣たちは一斉に飛びかかってくる。
「くっ――!」
炎で牽制し、風で弾き、灰の記憶で敵を惑わせる。
三人は必死に食い止めるが、それでも数の圧力がじわじわと迫ってきた。
そのとき。
「やめろおおっ!」
叫び声とともに、ひとりの小さな影が獣の前に飛び出した。
――カイだった。
「カイ! 下がれ!」
リオが叫ぶ。
だが、カイは後退しなかった。
彼の手には、昼間の稽古で握っていた小枝。
それを必死に構え、獣の前に立ちふさがる。
「僕は……逃げない! 母さんを、村を、守りたいんだ!」
獣が唸り声を上げ、飛びかかる。
その瞬間――リオの炎が走り、ミナの風が軌道を逸らし、リサの灰が視界を覆った。
カイは倒れ込んだが、枝を離さなかった。
その姿に、リオの胸が熱くなる。
「……見たか、アウラ」
『うん。彼の中に“火”は確かにある』
リオは立ち上がり、炎を大きく広げた。
仲間と共に反撃し、ついに獣たちを森へと追い払う。
静けさが戻った畑に、リオは膝をつき、カイの肩を抱いた。
「よくやった、カイ。君は……“焔を持たぬ子”じゃない」
カイは荒い息を吐きながらも、笑った。
「……僕、守れた……?」
「ああ。勇気で、みんなを守ったんだ」
ミナが優しく微笑み、リサもそっと頷いた。
村人たちも戸口から顔を出し、その光景を呆然と見つめていた。
――焔を持たずとも、勇気は人を照らす。
その夜から、カイは“外れ者”ではなく、胸を張れるひとりの村の子となった。
そして、リオにとっては――初めての弟子であり、師としての第一歩を踏み出させてくれた存在となった。




