第11話:旅立ちの灰
朝靄に包まれた灰の街は、夜よりもいっそう静かだった。
崩れた塔の影には、昨夜の焚き火の残り火がわずかに赤を宿している。
その灰色の中に、小さな温もりが確かに残っていた。
リサは木箱を胸に抱え、広場に立っていた。
箱の中には、燃え残った欠片たち。
家族の名を刻んだ布切れ、砕けた器、擦れた文字の石片
――彼女の「忘れない」という誓いが詰まっている。
「……本当に行くの?」
ミナが問いかける。
リサは頷いた。
「この街は、もう止まってる。でも、わたしは止まりたくない。灰を抱えたままでも、前に進みたいの」
リオは微笑み、掌に小さな火を灯した。
「灰は消えた証じゃない。残った証だ。だからきっと、それを抱えて歩いてもいい」
その言葉に、リサは目を伏せた。
涙が落ちそうになるのを必死に堪えながら、小さく笑う。
「……ありがとう。君たちとなら、忘れずに進める気がする」
アウラの声がリオの胸に響いた。
『また一人、炎に寄り添う者が加わったね』
村の出口に立ったリサは、一度だけ振り返った。
瓦礫に覆われた街。
灰に沈む塔。
その光景を目に焼きつけ、木箱をぎゅっと抱きしめる。
「――さよなら。でも、忘れない」
リオとミナがその隣に並ぶ。
三人の影が、朝の光に長く伸びていく。
灰の街を後にしたその足取りは、重さを抱えながらも確かだった。
あたたかな灰を胸に、リサは新たな仲間として歩き出したのだ。




