第10話:灰を照らす炎
夜の広場。
崩れた塔の影に、小さな焚き火が灯っていた。
炎は紅く揺れ、ミナの風が灰の舞い上がりを抑え込む。
その火は決して暴れず、ただ穏やかに街の残骸を照らしていた。
「……こんな火、初めて見た」
リサがぽつりと呟く。
その瞳には、恐怖ではなく驚きが浮かんでいた。
「火は怖いものだと思ってた。燃やして、奪って、何も残さない……」
言葉は震えていた。
しかし次に零れた声は、どこか温かかった。
「でも、この火は……あたたかい」
リオは焔を見つめながら、静かに答える。
「火は奪うこともある。でも、本当は照らすこともできる。僕は、そのために炎を使いたい」
アウラの声が胸の奥で響いた。
『君が選んだ“誓い”は、確かにここにある』
リオは立ち上がり、焔を掌に宿した。
その光は焚き火と溶け合い、広場全体を柔らかく染める。
瓦礫も、灰も、リサの抱える木箱も
――全てを否定せず、ただ“ここにある”ことを照らしていた。
「リサ」
リオは彼女を見つめた。
「君の想いも、この街の記憶も、一緒に守りたい。……だから、一緒に来てほしい」
リサは目を見開いた。
「わたしが……?」
「うん。過去を抱えたままでいい。僕たちと旅をすれば、その想いを未来に運べるはずだから」
しばらく沈黙が落ちた。
リサは焚き火に手をかざす。
灰に染まった指先に、やさしい熱が伝わっていく。
やがて彼女は、静かに笑った。
「……不思議。灰は冷たいはずなのに、この火はあたたかい。――わかった。わたしも行く」
ミナがぱっと顔を輝かせる。
「本当?」
「ええ。もう一人で灰を抱えるのは嫌だから」
その言葉と共に、焚き火がひときわ大きく揺れた。
灰の街に、ようやく“旅立ちの火”が灯った瞬間だった。




