第3話 友達の様子がおかしい
キャンパス内のカフェテリアでお昼を食べているんだけど……友達の様子がおかしい。いつも無口で、誰に対しても塩対応で、言葉遣いもぶっきらぼう。それが普段の夏織なのに――
「まだ来ないか……まだか……」
今朝からずっとソワソワしてる!! いつもお昼ご飯の時は絶対にスマホなんか触らないのに、今日はテーブルの上に出してちらちら見てるし!
「か、夏織?」
「なっ、なんだ!?」
なにこの反応!? こんなに動揺している夏織なんて見たことない!
「今日の夏織さ、変だよ? 昨日飲みに行けなかったの……怒ってる?」
「そっ、そうじゃないんだ。すまない、心配をかけてしまって」
夏織はサンドイッチを手に持ちながら、またスマホの画面に視線を落とした。そもそも携帯なんて全然使いこなせないとか言ってたのに。夏織と連絡するとき、いっつも電話するしかなくて困ってるんだから。
「やっぱり来ないか……」
がっかりしたように、はあとため息をつく夏織。ここまで感情を出しているのも珍しいな。高校時代からずっと一緒だけど、こんな表情を見るのは初めてかも。
やっぱり昨日、何かあったのかな。お刺身が美味しいって噂の居酒屋に行ってみたくて、夏織を誘ったんだけど……彼氏と会う予定が出来てドタキャンしちゃったんだよね。
怒ってるかと思ってドキドキしてたのに、いざ今朝に会ってみたら――こんなに浮ついているから、こっちが拍子抜けしちゃった。おまけに普段よりお洒落にしてて、ちゃんとメイクもしてたしね。
「桜」
「えっ、何?」
サンドイッチを置いたかと思えば、私の名前を呼んで、こちらを真剣な表情で見つめている夏織。そうそう、あなたはこうでなくっちゃ――
「私に……恋をするのは早いのだろうか?」
「!?」
恋!? 夏織が!? 男どころか他人に興味なさそうなのに!?
「ど、どうしたの!?」
「いや、忘れてくれ。桜には恋人がいるから、つい聞いてしまっただけだ」
「待って待って待って! 何!? 何があったの!?」
「じ、実は昨日――」
と、その時だった。テーブルに置いていた夏織のスマホが鳴って――
「も、もしもし! 篠崎だが!」
早くない!? 着信音すら聞こえなかったんだけど!?
「あ、ああ! すまない、店の外に出るから少し待っていてくれ」
なんでそんなに笑ってるの!? 夏織がこんな笑顔をしてるの初めて見たかも! っていうか笑うともっと美人! いったい誰と電話してるの!?
「すまない桜、外に出ている」
「ま、待って!」
スマホを持って店外に出て行く夏織を、慌てて追いかけていく。あんなに笑って電話する相手なんて――本当に恋をしているのかも。だとすれば……夏織を落とすなんて、いったいどんな人なんだろう?
なんとか店の外に出ると、夏織はちょうど話を再開しようとしているところだった。私はそっと物陰に隠れて、こっそり様子を見守る。
「い、いいのか!? 今日も飲んでくれるのか!?」
今日も飲んで……って、前にも飲んだことがある人ってこと? でも夏織、居酒屋なんてほとんど行ったことない(そもそも私たち飲める年齢じゃないし)って言ってたのに。
って、あれ? 夏織の様子が変だ。急にもじもじしてるし、顔も真っ赤。こんな女の子らしい姿なんて、見たことな――
「何を言っている? 君が……その、あれだけ……」
……へっ? ちょっと待って、それってどういう意味? まさか、夏織……?
「だから……君が……」
ちょっと待って本当に待って。どんどん夏織が小さくなっていくんだけど。もう耳まで真っ赤だし、これはその……そういうことだよね?
「嘘でしょ、夏織……?」
夏織を手籠めにしたのは――どこのどいつなの!? 何も知らない夏織を、こんな純粋な夏織を……!
「――五時に購買の前で待ち合わせではいかがだろうかっ!?」
なるほど、購買の前で待ち合わせか。ちゃんとした男なのか、私が見極めてあげないと……!
意気揚々と電話する夏織の様子を窺いながら、静かに決意を固めたのだった。




