第23話 デートしなさい
あの夜から数日後。いつも通りに学食で飯を食べて、次の講義に向けてキャンパスを歩いていたところ、ポケットに入れていたスマホが鳴った。
「ん」
ブーブーと震えるそれを取り出し、画面を見てみる。……知らない番号だな。080から始まっているから、たぶん携帯だとは思うんだけど。まあいい、出てみるか。
「はいもしもし」
『ちょっとアンタどういうことよ!!』
「!?」
急に大声で何だってんだ!? っていうか、この声は……白兎? なんで俺の番号を知ってるんだ?
「もしかして白兎さんですか?」
『そうよ。アンタに用があるの!』
「なんで僕の番号を知っているんですか?」
『アイツに聞いたのよ! 同じ予備校に通ってたって言ってたでしょ!』
「ああ、なるほど」
松岡から聞いたのか。……俺、松岡と同じ予備校だったなんて言ったっけ? あのファミレスのときに言ったのかなあ。また酔っぱらって記憶をなくしているのかもしれん。というか、今はそんなことはどうでもいい。
「それで、何の用ですか?」
『この間! アンタ夏織に何もしなかったでしょ!?』
「ダーツは教えましたよ」
『もっと教えることがあったでしょー!? この根性なし! いくじなし! チキン! 牛タン!!』
「牛タン!?」
なんでいきなり電話された挙句に罵られなくちゃいけないんだ!? っつーか牛タンって何だよ!?
「そもそも、白兎さんは僕から夏織さんを守りたいんじゃなかったんですか?」
『い、いいじゃん! 気が変わったの!』
「はあ……」
よく分からん奴だな。とにかく次の講義もあるし、さっさと用件を聞きだすとするか。
「で、結局何が言いたいんですか?」
『アンタ、夏織をデートに誘いなさい』
「……は?」
デート? 飲みじゃなくて?
「な、なんでそうなるんですか!?」
『夏織はまだ未成年なんだし、いつも飲みに付き合ってたら変でしょ? だったら、たまにはお昼から遊んであげてよ!』
「ああ、なるほど」
たしかに、それは一理あるな。飲みに行くのはいいけど、俺だけ酒を楽しんでいても仕方ないってことか。
でも、デートかあ。改めてそう言われるとなんだか恥ずかしいな。
「デートって言っても……何をすればいいんですか?」
『それを考えるのがアンタの仕事でしょー!?』
「そりゃ、そうですけど」
『……まあでも、そう言うと思ってたわ。この間のこともあるし、アンタにいいものあげる』
「いいもの?」
『じゃ、頑張って。夏織のこと、よろしくね』
「ちょっ、ちょっと――」
さらに聞こうとしたところで、電話が切れてしまった。どうしようかと思った数秒後――メッセージアプリに通知が来た。
「ん?」
なんだろう、これ? えーと、アプリを開いて……電子ギフト? 白兎っぽい名前のユーザーからだ。松岡からIDを聞いて、俺のことを友だち登録したんだろうな。さて、ギフトの中身は……
「チケット?」
ペアチケットだ。なになに……水族館? なるほど、これで夏織さんと遊びに行けって言いたいんだな。随分とベタな行先だけど、ベタってのは「悪くはない」ってことだからな。
水族館デートかあ。ちょっと暗い部屋で、二人きりで水槽を眺めて、そこを泳ぐは不気味な深海魚……あれ、なんか違うな。最前列でイルカショーを見て、思いきり水をかけられて、スマホが濡れて使用不能に……これも違う!
「知らん!!」
もういいや! 水族館なんて何年も行ってないし! とにかく夏織さんに電話してみよ! 電話帳から夏織さんの番号を探して、電話をかけて――
『もしもし! 篠崎だが!』
「早っ!?」
やっぱり早いって! なんだよもう! というか、用件を伝えないと。
「えっと、岸本ですけど。今日は夏織さんに提案したいことが――」
『まさかとは思うが水族館で逢引しようという提案ではないだろうな!?』
「!?」
なんで知ってんだ!? ぜったい白兎が何か言っただろ! っていうか夏織さんももうちょっと言い方あるだろ! バレバレじゃねえかいろいろと!
「は、話が早くて助かります。今度の週末、ぜひ水族館に遊びに行かないかと……」
『もちろんだ! 私はいつでも構わない!』
「なら決まりですね。待ち合わせ場所はまた連絡します」
『ああ! 楽しみにしてるからな!』
そこで電話は切れた。……こっちからかけたのに、嵐みたいな電話だったな。
まあいいや、女の子とデートするなんて久しぶりだ。ただ水族館に行くだけじゃつまらないし、いろいろと考えないと。夏織さんのためにもな――




