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1.7話 写真展と、夜の商店街で

1.7話 写真展と、夜の商店街で


 


 「夏の計画」は、すこしずつ現実になっていった。


 梅雨が明け、空が高く澄み始めた頃。

 私と蒼は、ふたりで小さな写真展の準備を始めた。


 場所は、商店街の空き店舗。

 普段は使われていないそのスペースを、「うたかた」のマスターが交渉して貸してくれた。


「展示は、あんたが撮った写真でいいのよ」とマスターは言った。

「でも最後に、一番大事なのは“誰と並んで見るか”ってことね」


 その言葉は、ずっと胸の奥に残っていた。


 


 放課後、蒼と並んで写真を選ぶ時間が、私はとても好きだった。


 波打ち際で笑っているしおり。

 喫茶店の窓辺でぼんやり空を見ていた蒼。

 夕暮れの屋上。雨上がりの坂道。咲きかけた紫陽花。


 それぞれが、過ぎていく季節を確かに刻んでいた。


「この写真、好きだな。……ほら、君がこっち見てるやつ」


「それ、ピント外れてるけど?」


「そこがいいんだよ。ちゃんと“今”が映ってる。君の目が、俺を見てる」


 不意に言われて、私は視線を逸らした。

 でも心の中では、嬉しさと少しの照れが、静かに混じり合っていた。


 


 そしてある夜、商店街で夏祭りがあった。


 提灯の明かりが揺れて、浴衣姿の子どもたちが走り回る。

 出店からは甘い綿あめの香り。風鈴の音が、夜の空気に溶けていた。


「どう? 浴衣、似合ってる?」


 しおりがクルリと回って見せた。


「うん。めっちゃかわいいよ」と蒼。


「……天音のほうが、似合ってると思うけど?」


「そう? 自分じゃよくわからないけど……ありがとう」


 私も、蒼も、浴衣を着ていた。

 マスターが貸してくれた、古いけど丁寧に手入れされたものだった。


 


 夜空に、花火が咲いた。


 ひとつ、またひとつと、光の花が開いては散っていく。


「綺麗……」


「うん。……でもさ」


 蒼は、空ではなく私を見ながら言った。


「花火って、消えるから綺麗なんだよね。……だから、僕たちも、きっと大丈夫だと思う」


 私は、何も言えなかった。


 けれど、その言葉の裏にある覚悟が、痛いほど伝わってきた。


 そして、そっと彼の手を握った。


 その温度を、心の底に焼きつけるように。

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