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「僕」のとある文化人類学的事件簿  作者: 梅雨前線
燃える猫は何を思う(前編)
18/19

 現場を見に行ってみようというあかりと共に、一件目の現場へ向かった。大学から三駅ほど離れたその場所はアパートが何件か並んでいる住宅街のようなところだった。


「ここね」

 現場のアパートは築浅でしっかりした造りをしていた。部屋の周りには黄色いテープが張られていて中に入れないようになっている。近くまで行くとまだ少し焦げ臭いにおいがした。


「少しまわりを歩いてみましょう」

 鯖江先輩みたいなことを言う。僕の周りには探偵志望者のような人間が多いのか。僕は仕方なく歩き出した彼女の後を追った。


 マンションやアパートが多くあり、その中にぽつぽつと戸建てがあった。近くに公園や幼稚園などはない。そして人気もあまりない。おそらく学生が多く住んでいる地域なのだろう。確かに子どもはいなさそうだ。しばらく二人で歩いていると、主婦らしき女性が犬の散歩をしていた。


「すいません」と、あかりが話しかけに行く。


「なんでしょう?」

「数日前、この辺りで火事があったと思うんですけど」

「ええ、ありましたけど・・・」


 女性は明らかに警戒している様子だ。それはそうだろう。


「私、二本柳あかりといいます。近くの大学の学生なんですけど。実はそのとき亡くなった人が私の友人でして・・・。どうして亡くなってしまったのかが気になってこうして聞いてまわっているんです」


 それは苦しくないだろうか。僕はあかりと女性を交互に見た。女性は警戒の表情からすぐに哀れみの顔へ変わる。おお、さすがだ。


「あらあら、そうなのね。それはお気の毒に・・・。でも、私あまりなにも知らないわよ?」

「ちょっとのことでもいいので。何か気付いたこととかありますか?」

「そうねえ・・・。夜中に近くでサイレンが鳴って旦那と飛び起きたわ。外がサイレンの光と火事の光かしら?少し明るくなっていたわ。旦那と怖いわねって話をして。旦那は外に様子を見にいったけれど、私はそのまま寝てしまったわ。住人の方が亡くなったのは次の日の朝知ったかしら」


 サッカー部の青年とほとんど同じ証言だ。


「他になにかかわったことはありませんでしたか?例えば子どもの歌声が聞こえたとか」

「あなた、変なこと聞くのねえ。私はその時間お風呂に入っているから分からないわ。・・・ああ、かわったことといえば」

「何かありますか?」

「最近、猫の死体が多くて困っているのよ。警察の方にも言ったんだけどねえ。この辺はあまり野良猫はいない地域だから、誰かのいたずらかしら。気味が悪いのよね」


 女性から話を聞いた後、僕たちはしばらく周辺を歩き回った。あかりはすれ違う人に話を聞いていた。中には子どもの声や歌声を聞いた人、さらには夜道路を走っていた2、3人の子どもを見かけたという人までいた。その子どもたちが歌を歌っていた子どもたちと同じかは分からなかったが。そして、ほとんど全員が猫の死体を見かけたという話をしていた。


「猫の死体、複数体あったみたいね。火事と関係があるかは分からないけど」


 子どもの歌、火事、猫の死体。

「気味が悪い要素が集まっているな」

 あかりは僕の言葉を聞いて軽く頷いた。


 空が綺麗なオレンジ色に染まっている。徐々に日が落ちる時間が早くなっているような気がする。この日は解散し、明日二件目の火災現場へ行くことにした。


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