表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「僕」のとある文化人類学的事件簿  作者: 梅雨前線
燃える猫は何を思う(前編)
17/19

子ども

 まずは聞き込みを始めることにした。捜査は足が大事だとこの前見た刑事もののドラマで言っていた。僕はあかりとともに一件目の事件で現場を見たという近所の大学生に話を聞きに行った。

 どうやら彼はサッカー部らしい。練習の休憩中なら話ができるということで、あかりにアポイントを取ってもらい僕たちは大学のグラウンドへ向かった。


 見るからに爽やかなサッカー青年という見た目の彼はタオルで汗を拭きながらにこやかに僕たちの質問に答えてくれた。


「この前は色々とありがとう。またちょっとお話聞いてもいい?」

「もちろんですよ、あかりさんの頼みは断れません」

 あかり・・・。彼に何をしたんだ。

「じゃあ火事が起きた時から簡単に教えてくれる?」

 彼は軽く息を吸い、話し始めた。


「火事に気が付いたのは夜中のことでした。大学のレポートが終わらなくて夜更かししてパソコンとにらめっこしていたんですが、外から消防車のサイレンがかなりたくさん聞こえてきて。何事かと思って外に出てみたらすぐ近くのアパートから炎と煙が見えたんです。大変だと思いましたけど、野次馬感情が芽生えて・・・。現場近くまで行ってみたんです。すぐに火は消し止められていました。ただ、部屋の一室が焼け焦げていて規制線越しでも現場の部屋の中が見えました。かなり真っ黒になっていたので、大きな火事だったんだなと思いました。そのとき警察の方たちが話しているのが少し聞こえたんです。自殺だろうとか、練炭がどうだとか。窓にテープが張られているとも聞こえました。その話を聞いて誰かがこの部屋で自殺を図ったのだと知りました。それがこの学校の学生だと知ったのは翌日のことでした・・・。僕が知っているのはこんな感じですね」


 とてもよくまとまった話だ。分かりやすい。爽やかで話も上手いとは・・・。


「ありがとう。それと、この前少しだけ話していた子どもの歌について教えてくれる?」


 ああ、と彼は何かを思い出す素振りを見せ一拍置いて話し始めた。


「その日の夜だったと思います。子ども2、3人くらいが歌っているような声が聞こえてきたんです。時間も時間だったし少し気になって。でもしばらくして聞こえなくなりました」


「近所の子どもが遊んでいたんじゃないんですか?」

 僕は思わず口を挟んだ。彼は不思議そうな顔で僕を見る。まるで今僕の存在に気が付いたみたいだ。さては彼、あかりに気があるのか。


「彼は私の友人よ。調べ物を手伝ってくれているの」

 あかりが僕を紹介する。彼は少しほっとしたような表情を浮かべた。ような気がする。


「そうでしたか。・・・近所の子どもですよね、僕もそうかなとは思いました。ただ今まで近所で子どもの声が聞こえたことがなかったんですよね。それに、ちょっと変だなと思った点はもう一つあって」


 彼は一呼吸おいて、まるで怖い話でもするかのように声のボリュームを下げて言った。

「その歌、何かの流行の歌とか童謡とかそんなんじゃなかったんです。何か一定のリズムで同じ言葉を繰り返しているような・・・。『かごめかごめ』ってあるでしょう?あんな感じに聞こえて少し不気味に感じたんですよ。」


 いつも子どもの声なんて聞こえない場所で、夜に子どもの声でそんな歌が聞こえてきたら確かに不気味だろう。ただ、それだけでは変な話ではない。ありうる話だ。

「ありがとう」と笑顔であかりが言った。しかし、今までの話はあかりから聞いた内容とさほど変わらない。僕はもう一つ彼に質問をした。


「他にあなたのご近所で何か変なことはなかったですか?火事に関係なさそうなことでもいいので」


「変なことですか・・・」

 彼は最近の出来事を思い出そうとしているのか、探偵さながらに顎に手を添えて俯いた。そして何かを思い出し顔を上げた。


「そういえば、猫の死体を見ました」


「猫の死体?」

 あかりは少し嫌そうな表情だ。


「ええ。野良猫もあまり見ない地域なので覚えています。火事の数日前だったかな。うわっと思ってすぐに立ち去ったんですけどね。車にはねられたとかじゃなさそうでした。あまりよく見てないですけど・・・。珍しいなと思いました」


 彼は話し終わると、そろそろ休憩終わるのでと笑顔で走り去った。ありがとうと笑顔で手を振るあかりに少しはにかんで手を振り返していた。爽やかな青年だが女を見る目はないのかもしれない。僕がそれをあかりに言うと鋭い蹴りが飛んできた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ