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「僕」のとある文化人類学的事件簿  作者: 梅雨前線
燃える猫は何を思う(前編)
16/19

二度あることは

 滋元くんの件は自殺として処理されたらしいと後日あかりから話を聞いた。彼女は納得していない様子だったが、まあ他人には言えない大きな悩みを持っていたんだろう。しかし顔も知らぬ他人とはいえ同じ学内で過ごした人間が亡くなるというのは多少なりともショックな出来事だ。実行委員として共に働いていたあかりは特にそう感じているだろう。まあ、僕にはどうしようもない。


 二件目の焼身自殺が起きたのは清家くんの件から三日後の夜のことだった。その日僕は実家に帰る母を見送るため駅にきていた。「あんた、人よりよく見えるんだから気を付けなさいよ」とありがたいお言葉を残して母は実家である神社へ帰るため電車に乗って行った。母を見送り家に帰っている途中、あかりから電話がきた。


「・・・もう一人亡くなったわ。滋元くんと同じ焼身自殺みたい」

 話を聞くとどうやら同じ大学の女の子のようだ。学園祭の実行委員などではなく、あかりも知り合いではないらしい。ただ・・・。


「二人続けては妙だな」

「ええ。それに二人とも同じ方法で自殺をしている」

「うーん、きな臭くなってきた」


 しかし、警察が自殺と判断したということはここに事件性はないということだ。そこを素人の我々が覆すことなどできないだろう。


「あかりはこうなることを予想していたのか?」

「そこまでではないけど。なんとなく変な感じがしていただけ。ただ・・・」

「ただ?」

「これが続くとさすがに偶然では片付かなくなる。そうなると学園祭の開催も怪しいわ。そうなる前に手を打ちたい」


 僕はあかりと明日、大学のカフェで会う約束をしてその日は電話を切った。また厄介なことに巻き込まれたものだ。僕は軽くため息をついて家路についた。


 翌日、待ち合わせ場所のカフェに向かうとあかりはテラス席で座って待っていた。ホットコーヒーを注文し席へ行く。彼女は何か甘そうなクリームの載ったホットドリンクを飲んでいた。外はかなり寒く、テラス席には僕達しかいない。


「手伝ってほしいの」

「・・・何を」

 僕はコーヒーを一口飲んでから一応聞いた。なんとなく答えは想像がつく。

「この二件の焼身自殺。警察が自殺と判断したということは恐らく確かな状況証拠があったのだと思う。でもこの短期間に同じ大学の学生が二名同じ方法で自殺をするなんてそう起こることじゃないわ。それに、そのうちの一人は・・・」

「君も知っている人間で、自殺をしそうなやつじゃなかった」

「そう」

 彼女は時折カップを口へ運びながら話をする。

「だから、この二人に何か繋がりがあるのかを調べたいの。自殺をする理由が二人にあるとすれば私も納得ができる。でもそうでないなら」

「何かしらの外的要因でこの大学の学生が連続で自殺をしたとなると、この二件だけで終わるという確証もないと」

「ええ。そうなると学園祭の開催も危ぶまれる」

 

 彼女は、学園祭のような大きなイベントを特に大切にしているように感じる。参加するだけの人間としては一年中止になろうがそこまで気にならないがやはり企画する側に回ると気持ちが入るのだろう。


「僕はただの調べごとには役に立たないと思うけど」

「それも分かってる」

 分かっていたならそれはそれで失礼な話だ。

「でも、あなたが興味を持ちそうな話が一つだけあるわ」

「なんだい?」

「最初の滋元くんの件、現場近くに住む学生が警察の会話を聞いたという話をしたでしょう?あの後、その学生から少しだけ話が聞けたの。現場は部屋一室が全焼したけど鉄筋コンクリート造りのアパートだったこともあって周りにはそこまで被害がなかったらしいわ。その日の夜はとても乾燥していて風も強かったそうよ」

「火事が起こりやすい環境だったということだね」

「そしてもう一つ。これはこの件に関係あるか分からないけどと、その彼が言っていたことがあるの」

「それが、僕が興味を持ちそうな話?」

「ええ。彼が言うにはその日の夜、火事が起こる数時間前に外から数人の子どもの歌声が聞こえたそうだよ」


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