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「僕」のとある文化人類学的事件簿  作者: 梅雨前線
燃える猫は何を思う(前編)
15/19

学園祭にトラブルは付き物

 僕が住む町では往々にして不思議な出来事が起こる。気が付く者はそれが怪異や怪奇な出来事だと言い、気が付かない者は気のせいだ、気がおかしいのだと断罪する。しかし中には気のせいでは終わらないことがある。それは現実社会に被害が出たときである。その場合、犯人不明のまま未解決事件となったり自作自演の事件という形であっけのない結末を迎えたりする。例えそれが異常で異質な死に方だったとしても、状況証拠によって自殺と断定されることもあるのだ。


 一件目の事件が新聞に載ったのは、僕が合宿から帰ってきて三週間ほど過ぎた、秋が深まってきたころのことだった。


「あらやだわ、火事ですって・・・。怖いわねえ」

 昨日から旅行がてら母が家に泊まりにきていた。母は新聞が大好きなので、母が来るときは僕が毎朝コンビニまでその日の朝刊を買いに行かされるのだ。母は新聞のニュース欄を見ながら呟いた。

「昨日の晩みたいね。・・・あんた、この辺近いわよ」

 そういえば、昨日夜に消防車の音がしたようなしなかったような・・・。僕は母に適当な相槌を打ちながらぼんやりとそんなことを思った。


 朝食を済ませて僕は大学に向かった。健全な学校生活を送る僕はサボったりなどしない。しっかりと授業を受け、単位を得るのだ。母はどこかに観光に行くらしい。子育てがひと段落して羽を伸ばしまくっている。伸ばし過ぎてどこかへ羽ばたいていきそうなくらいだ。


 大学は学園祭が近いこともあり活気づいていた。既に少しずつ準備を始めているサークルや部活もあり、高揚した不思議な空気が学内に流れていた。僕は授業を受けるため講義室へ向かった。いつも通り後ろの方に座る。隣に誰かが座ってきた。


「や!いい大学生活日和だね」

 そんな日和があってたまるか。僕は友人の人脈モンスターに言った。

「なんのようだ」

「冷たいなあ、私と君の仲じゃない」

 こいつがこんなことを言ってくるときは大抵、課題そのせて欲しいときか課題を見せて欲しいときだ。つまりは課題を見せて欲しいときである。

「課題はもう提出したぞ。教卓に提出用のカゴが置いてあった」

「課題なら私もさっき出したよ」

 じゃあ何用だ。


 コーンと授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。その音とほとんど同時に教授が講義室の前の扉から入ってくる。ざわついていた講義室に一瞬で静寂が訪れた。

「講義が終わったらちょっと話があるの」

 彼女は小声でそう言って前を向いた。その話、なんだか面倒くさそうなにおいがする。


 僕の数少ない同じ学科の同級生でありサークル仲間でもある友人、二本柳あかりは人脈をこよなく愛する人間である。先輩後輩問わず知り合いが大勢いて、誰とでも仲良くなることができるという特異体質の持ち主だ。そしてその類稀なる行動力もあってか学外学内問わず様々なイベント毎に首をつっこんでいる。


「私、今学園祭の実行委員をやっているんだけどね」

 講義が終わり、僕がそそくさと教科書を片付けていると彼女が話しかけてきた。

「何だ藪から棒に」

「話があるって言ったじゃん」

 彼女は、まあただの世間話みたいなもんだよと言って話を続けた。


「実はちょっと変なことがあってさ。実行委員の一人に滋元っていう男の子がいたんだけど」

「・・・知らないな」

 彼女はそれはそうだろうという顔で僕を見た。どうやらその男の子を知っているかという話ではないようだ。しかし、妙な言い方をする。

「いた、というのはその彼は実行委員を辞めたのか?」

「いやまあ・・・、辞めたというのかなんというか」

「なんだ歯切れの悪い」

 彼女は珍しく、言葉を迷っているようだった。しばらく黙った後、彼女は言った。

「実はね、亡くなったんだよ。昨晩、家が火事になってね」

 火事。母が今朝言っていた話だろうか。

「・・・そうか。それはお気の毒に」

「どうやら自殺らしくて」

「自殺?焼身自殺ってことか?」

 この時代にそれは珍しい。というかほとんど聞かない。

「その彼は世間に何かを訴えたかったのか?と

「いや、そんなに自己主張の強いタイプじゃないと思う。ただ変なんだよね」

「何が?」

「自殺かもしれないっていうのはまだニュースにはなっていなくてね。たまたま現場近くに住んでいたこの大学の学生が現場検証に来た警察の話をちらっと聞いたみたいなんだけど、どうやら部屋に炭と七輪が置かれていたらしいの」

「練炭自殺を図って家が火事になってしまったということか。別に変な話ではないな」

「問題はそこじゃなくてね。私が見ていた彼は確かに目立つタイプじゃない。でも命を絶つほどの悩みを抱えているようには見えなかった。ついこの前も推しのアイドルのライブチケットが当たったって喜んでいたんだから」

「自殺じゃないってことか?」

「それはまだ分からないよ。私も話を聞いただけだから。まあ自殺じゃないと判断された場合は警察も動くだろうからすぐ分かると思うけど」


彼女は何か変な感じがするから話をしておきたかっただけだと言い残し、次の講義があるからと僕を残して去って行った。僕は一人講義室の椅子に背中を預けて考えた。まあただの自殺かもしくは自殺に見せかけた他殺か。なんにせよ普通の事件だ、僕の出る幕じゃない。ただ、こうも思う。


 学園祭にトラブルは付き物だ。

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