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「僕」のとある文化人類学的事件簿  作者: 梅雨前線
裏には気をつけろ
13/19

裏庭には

 宿の待合室に戻るとまだ事情聴取は終わっていなかった。足根先輩は「カップルの女の方が時間がかかっている」と教えてくれた。これで警官に怒られる事態は避けられただろう。


「・・・どう思いますか?」


 僕は鯖江先輩に尋ねる。先輩は、「やっぱりカメラのデータの件が気になるな」と言った。え、そこですか先輩。廃墟の中は?

 ・・・まあいい。僕は先輩の言うデータについて考えたことがあった。


「そのことですが、カメラにはSDカードが入っていて容量がいっぱいになったから他のカードと入れ替えたというのはないでしょうか?」


「宿で撮っただけだろう?そんなすぐに容量は無くならないよ」


「道中でも撮影していたのかも。ほら、よくいるでしょう。電車とか何かを使って来ましたって言っている動画」


「じゃあ実際に彼の動画を見てみようか」


「探すの大変でしょう」


「実はもう見つけているんだ」


  先輩はそう言っていそいそと携帯を取り出した。この人はいつの間にそんなことを・・・。


 彼の今までの動画は全て5分前後の短いもので、そのどれもが現地からスタートしていた。


「SDカードの入れ替えの線はないな」


 先輩は何故か勝ち誇ったかのように言った。そして僕に尋ねた。


「君は何か気が付いたかい?」


「そうですね・・・。おかしいと思うことは何点か」


「おお!教えてくれ!」


 先輩が食いついてくる。これは気分がいい。


「まず廃墟までの道には街灯はもちろん、他の光源もありませんでした。ここを真夜中、しかも雨の中歩くのはかなり大変だと思います。そして彼が廃墟の奥の道に行ったというのも疑問です。廃墟の中だけで十分取れ高があったはず。わざわざ廃墟の奥の何もない道に行って、そこで行方が途絶えたということが引っ掛かりました」


「うむ、確かにその通りだな」


 だんだんと情報が出て整理されてくる。やはり彼は廃墟には行っていなかったのではないか?では行方はどこで分からなくなった?なんとなく考えが整理される。


 僕たちが話していると女将さんが待合室に入ってきた。そして、僕たちが何やら話しているのを見てこちらに近づいてきた。


「なんのお話ですか?」


 鯖江先輩は笑顔で、「少し不思議なことがありまして」と話した。


「カメラに動画が残っていないのが不思議なんですよね。彼、宿でも撮影していたみたいなので」


「ああ、そういうことですか。でも容量も少ないし予備のカードも無かったから、廃墟の動画を撮るために宿の動画は一度消したんじゃないですか?」


「その話も出たんですけどね・・・。彼の動画、どれも五分程度の短いものばかりなので・・・、容量が足りなくなるという線は薄いと思うんですよ」


 その後鯖江先輩と女将さんは少しだけ話をした。女将さんは「では夕食の準備をしてきますね」と言って退席していった。


 女将さんの姿が見えなくなって僕と鯖江先輩は目を合わせた。あの人がやったのなら、いるとしたらあそこだろう。あそこ以外ここで隠せる場所はなさそうだ。鯖江先輩も気が付いている。女将さんの言葉の違和感に。




 僕と鯖江先輩はまっすぐ裏庭へ向かった。直接繋がっている道はなかったので一度玄関口から外に出て裏へ回った。


 裏庭は昨日窓から見たときも思ったがそれはそれは美しいものだった。紅葉が色づき始めている。そして地面にも既に葉が落ちて絨毯のようになっている。一部分、葉がない地面がある。僕たちは裏庭にある納屋を開く。そこには、まだ乾いていない土の付いたシャベルがあった。


 シャベルは僕が持った。先輩は腕を組んで静かに僕を見る。僕は葉の落ちていない地面を掘る。掘る。しばらく掘り進めるとシャベルの先が何かにぶつかった。シャベルを置き土を手でどけていく。先輩は走って警官を呼びに行った。


 ちょうど捜索隊が到着し、指示を出していたらしい警官を先輩が連れてきた。警官はそれを見て目を見開いた。


「なんてことだ」




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