第7話 2度目の天井
(なんか、、最近こういうの多いな)
目が覚めると天井を仰いでいた。普段よりも蛍光灯の明かりが眩しく感じた
「あ、北大路くん!良かった、目が覚めたんだね」
ベットの隣には、"士部崎みゆ"が座っていた
そして必死な顔でこちらを見ていた
「士部崎、、どうして此処に?」
「あら、とおるくん目が覚めたの!色々話したい事はあるけどまた後でね」
病室の扉が空き見たことのある看護師さんが現れた
(やっぱり此処は、ちょっと前まで入院していた病室なのか)
「あ、あの私、北大路くんが起きたみたいだから、帰りますね」
そう言うと士部崎は立った
「いや、士部崎さんにはまだ同席してもらおうと思います」
見知らぬスーツを着た中年の男の人が入って来た。シュッとした立ち姿にきちんとした身なりを感じさせる人だ
「よろしいですか?」
男が看護師の女性に尋ねた
「一度先生に診て頂いた後で良ければ大丈夫ですよ」
「士部崎さんもいいですかね?」
「え?、あ、はい!私は大丈夫です」
状況をまだ理解しきる前に話は進んでき、医師の先生診てもらった後、中年男と士部崎がオレの病室に残った
「北大路さん、申し訳ありません。意識が戻ったばかりですのに」
そう言って男は頭を下げてきた
「別に大丈夫ですから、頭を上げて下さい」
(何だよこの状況・・・)
「ワタシは、"能力管理協会"の"汐留"と申します」
名刺を渡されたが、名前の前に良くわからない事を言われた気がする
「え!?その、能力管理協会って何ですか?」
「ご存じないですよね。ですが、その話をする前にまずは今の状況から説明させて頂きたいのですが、よろしいですか?」
男はそう言った
「あ、お願いします」
「まず北大路さん、貴方は一週間ほど意識不明の状態でした」
そんなに眠っていたとは思わず、声が出なかった
「貴方がどこまで覚えているのか、分かりませんので最初から順にお話させて頂くと、まず貴方は、ある山で血塗れになり倒れていました」
その言葉に記憶が蘇った
あの熊との激闘が
「近くに住む猟師の方が熊の声を聞き、探していた所、貴方が倒れており救助し病院に運ばれたと言う事です」
「でも、オレが居たのって此処から結構離れた所ですよね?何でこの病院に居るんですか?」
「あの近くには大きな病院も無く、検査等するには此処が良いとなったからですよ。それに貴方は以前この病院に入院していた様ですし」
(なるほど・・)
と、ここで違和感に気づいた。熊との闘いで負傷した左腕が全く痛まない。一週間ぐらいで治るような負傷では無かったはずなのに、、
左腕を触ったオレを見て男は続きを話す
「気づきましたか」
「え!?、はい、確かに左腕をケガしていたと思ったんですけど」
「はい。間違いなく負傷していました。貴方が血塗れだったのも、意識が戻らなかったのも、それが原因ですから」
オレは着ていた服を脱ぎ傷を確認した
「無い!?傷跡が」
驚いていると不意に見た腹部にさらに驚いた
「え!?」
オレは訳がわからず、答えを求めるように汐留さんを見た
「はい。腕の傷以外にも、貴方の身体にあった火傷の後も治っています」
「いや、、それは見れば分かります。そうじゃなくて、何で無いんですか?おかしいですよね?」
自分の身に起こった不可解な出来事に混乱は更に高まった
「それが、ここに士部崎みゆさんが居る理由です」
何を言っているのか分からない
「士部崎が居るのとオレの傷が無い事、何が関係あるんですか?」
「それは、士部崎さんが貴方の傷を治した張本人だからですよ」
「・・・"能力"」
「「!!!」」
「やはり貴方も能力を発現していますね」
その言葉に動揺した
「な!?なんでそうなるんですか」
汐留さんは余裕のある顔をしている
「能力というモノがある事を知っていても、普通は傷が治った事とすぐに結びつきません。もし、結びつく人がいるのなら、その人もまたセンシティブが使えるという証拠ですよ」
冷や汗が出るような感じだ
「たまたま口にしただけで、能力で治されたなんて思いませんでしたよ」
汐留さんは近くの手鏡をオレに向けてきた
「どうです?」
手鏡に写ったオレの顔には、無いはずの左眼が映し出されていた
右眼と違う黒い部分が赤、白い部分が黒色という異形の左眼が・・・
オレは左眼を能力で作った時の事を思い出した
「残ってる・・」
問い詰められている事を忘れ、ある左眼に喜んだ。そして視野が広がっている事にも気づいた
「北大路さん、いいですか?」
(あ、)
「そのご様子だと、やはり能力で創ったんですね。それに発現したのはごく最近、、もしかしたら倒れるほんの少し前ですかね?ともかく、これで認めてもらえますか?」
「・・はい」
何も言い返せず、ただ肯定するしか無かった
「続きですが、北大路さんが思った通り士部崎さんが能力で傷を治しました。そして何故そうなるかに至ったかは、ワタシではなく士部崎さんに話して頂きましょう」
話を振られた士部崎は"ビクッ"反応とした
「え!?わ、私ですか?」
「はい。お願い出来ますか?」
「わ、わかりました。え、えっと北大路くんを助けた猟師さん、その、私の叔父さんで。叔父さんが山で男の子が倒れてるのを見つけて、救急車を呼んで、一緒に町の病院に行ってるって連絡が来て、ね。それで、一応警察の人も話がしたいって事で、私や叔母さん達も病院に行ったんだ。そこで荷物から倒れてた男の子っていうのが北大路くんって事を知って、、同級生だと伝えたら顔を確認して欲しいって事になって、、治療を受けている北大路くんの所に行ったら・・・」
士部崎が言葉を詰まらせた
「わ、私、なんだか、辛くなって、どうして、き、北大路くんだけ、こんな目にって、思ってとっさに手を握ったんだ。そうしたら急に、北大路くんの身体が光って、傷を治せたの」
今にも泣き出しそうな声で士部崎は言った
「ありがとうございます。士部崎さん、
そこからは私が話しますね」
士部崎の様子を見て汐留さんが代わりに話しだした
「傷は治りましたが意識は戻らず、より多くの検査を行う為、この病院に移されたんです。士部崎さんは意識が戻らないのは、自分が何かしてしまったからかもしれないと気にして、毎日お見舞いに来られてたんですよ」
(士部崎・・・)
士部崎は申し訳なさそうな顔をして下を向いていた
「・・ありがとう士部崎」
オレの言葉に士部崎は涙した
「では、いよいよ能力協会とワタシの話をさせて頂きますね。そもそも能力協会というのはまだ公になっていない機関でして、ワタシはそこに所属している政府の人間とでも思って下さい」
「その政府の人が何故此処に?」
「ワタシが何故ここに居るかというと、病院と警察から士部崎さんが貴方の傷を治したという話を伺ったからなんです。今、政府ではそういった不思議な出来事等を調査しており、そこから有能な能力を発現した人を集めているんです。そしてそういった調査等をしているのが能力協会という訳です」
なんとなく言っている事は分かった
「士部崎さんに会う為、ここを訪れると北大路さん、貴方の件もお聞きしたので、話を伺おうと思い意識が戻るのを待っていました。単刀直入にお聞きします。山で何をしていました?」
汐留さんの言葉に焦った
「警察の方から現場の様子は聞いています。北大路さん、貴方の能力を教えて頂けますか?」
(左眼が能力で創ったと知られた以上、発現しているのはバレてるか。それに熊が倒れていた事まで知ってるとなるともう逃げ道無いのか・・・)
それでも少しでも考える為にオレは話を逸らした
「政府の、、能力協会の人は発現した人を集めてどうするんですか?」
「発現しただけの人に関しては特に関与致しません。知っての通り大多数の方が発現しないか、してもちょっとした能力ですから」
(政府の人もまだ能力や"要素"について詳しく知っている訳では無いのか)
「しかし、極稀に強大な力を秘めた能力を発現する方がいます。それが此処に居る士部崎さんなどです」
士部崎の方を見ると士部崎もこちらを見て来て目が合った。士部崎はすぐ目を逸らしたが
「士部崎さんのような方には、政府が作った専用の学校に来て頂き、更に能力の力を伸ばすサポートを考えております」
オレは以前ニュースで言っていた話を思い出した
「士部崎さんは、北大路さんの傷を治して以降能力を使えておらず、協会としても傷を治せるなどのセンシティブは大変希少で且つ可能性があるとして、傷を治された北大路さんが何かしらのトリガーに絡んでいると考えております。そして貴方自身も、その左眼の能力、、そして熊を殺した能力」
汐留さんの言葉に驚き、士部崎がこちらを見てきた。
(士部崎は知らなかったのか)
「なので、北大路さんにも我々が用意する学校へ来て頂きたいのです」
真剣な顔をして汐留さんはこちらを見てきた
「その、よく分からないんですよね。熊もオレが倒した訳じゃ無くて、、元々重傷を負っていました。キャンプをしてたら、いきなり襲われて、何とか逃げようとしてたら、気づいたら左眼が出来てて。でも、これもほとんど見えてないので大して意味は無いですよ。なので学校の話はお断りします」
オレは頭を下げた。今までの話からバレている部分は隠さず、不確かなものだけを隠蔽した
「・・そうなんですね。士部崎さんも北大路さんが来て頂けるのなら考えると言われていたので残念です。名刺に連絡先が書いてあるので気が変わればいつでも言って下さい。今日の所はこれで失礼しますね」
いい返事を期待していたのか、かなり落ち込んだ様子で汐留さんは出て行った
そして士部崎と2人になった
「その、私もそろそろ帰るね」
士部崎は元気無くそう言った
(何でお前がそんなに元気無いんだよ。そんな顔するなよ・・・)
我慢出来ずオレは士部崎に言った
「士部崎、ホントありがとうな。おかげで助かったよ。それにこの火傷の傷も」
「ううん、お礼を言われる様な事じゃないよ。それは、、私のせいだったんだから」
(何だよそれ、、お前のせい何かじゃ無いのに・・・)
そう思ったがこれ以上は何を言ったら良いのか分からなかった。そして士部崎は部屋を出て行った。元気は無かったが、それでも、、先ほどよりは僅かに晴れやかな顔をしていた様に思えた
「まさか士部崎に助けられるなんてな、、それに能力協会か・・・」
(まだ知られる訳にはいかない。これだけじゃ足りないんだ)