第6話 第3の能力
騒音に目が覚めた。テントから顔を出すと外は大雨だった。テントの中はかろうじて無事だが、いつ雨が入って来てもおかしくないように思えた
昨日は買い出しの後、また拠点へと戻りテントを作って寝た
「寝る前は雨なんて降ってなかったのに、まさかこんな事になるなんて・・」
薄っすら危険を感じ始めた
「戻って来たばっかだけど、正直ここにいるのは危険だよな?・・・どうするか、山を降りるか」
(いや、、違う・・。オレが山へ来たのはこういう普段味わえない事を、味わう為だったじゃないか)
「逃げる訳にはいかないんだ。今ここで・・」
復讐を誓ったあの日を思い出した
「これから進む道はこれ以上に困難で危険な道なんだ。この程度、危険でも何でもない。状況を理解しろ!打開できる策を考えろ!そしてそこに気持ちを・・・思いを乗せろ」
全身から"闇"が出た
それは纏まり、テントを覆い尽くした。さっきまでの雨音が、、侵入しそうだった雨の気配が消えた
降る雨は闇に当たると吸収されたように消えていた。地面から流れる水も同じく消えた
テントの周りだけが雨を感じさせない
オレはどうなっているのかを確かめたくて外に出る
闇はオレを中心に動いた
テントから出た時、雨を感じなかった理由が分かった
闇はオレの周りをドームの様になって広がっていた
(まるでバリアーだな。外を見る事は出来るが、周りからはオレがどう見えてるんだろう)
振り返ってテントを見た。テントは雨に晒されていた
「オレの周りしか守れないのか。それに"絶剣闇夜"と違って遠隔操作も出来ないし。でもこれは使えるな、不安だった防御面が補える」
(大我の火に対抗する為に発現させようとしていた水の"能力"。水ではないけど、意図は間違ってない。"絶剣闇夜"が絶望を与える刃なら、、これは、絶望から守る、、壁)
「"絶壁闇夜"」
新しい能力をさらに試したくなり河へ向かった。氾濫しており、間違いない危険を感じさせてくる
それでもなお、効果を確かめるならこれ以上の場所は無いと思い、意を決して河の中へ入った
「思った通りだ」
オレの周りだけ水が消えた。河に入ったのに足元に水は無く、砂利の上を歩ける
(水が避けているようにも思えるけど)
河から出ると次は形を変えられるのか確認する
「ダメだ。何も変わらない」
変化しない"絶壁闇夜"に少しだけ意気消沈したがある事を思った
「この状態で"絶剣闇夜"は出せないか?それなら"絶壁闇夜"がこのままでも問題無いし。よし、、"絶剣闇夜"」
オレを覆っていた"黒いドーム"は雲散し
そして右手に集まった
「え!?触れてる・・」
触れた。けれど"絶壁闇夜"と一緒には使えなかった
「一緒には使えないか・・・でも、触れてるのはありがたい!使いやすくなった。よし、いけ」
オレの声と共にそれは飛んでいき、近くの木の幹に刺さった
いや、正確には木を貫いた。前に使った時は刺さり、その後木を飲み込み消えたが、今回木自体は消えていない
ただ、貫いた部分に穴が空いていた
(ん!?)
「何で変わったんだよ?正直前の方が凄かった気がするけど、、」
そう思いながらも次は逆に"絶壁闇夜"を使ってみる事にした
刃は雲散し闇になり周りを覆い尽した
「逆も同じか、、というか"絶剣闇夜"がオレの"感情"、、能力の基礎だと思ってたけど、もしかして闇が大元なのか?今までは"絶剣闇夜"が大元だと思っていたけど、"絶壁闇夜"が発現した事で、闇の力が2つに分かれたのか?」
そう考えるとしっくり来た
「なんか納得いかないな」
"絶剣闇夜"が弱体化した事が少し悲しかった
「でも、防御手段が出来たのは悪くないし、、それに、"絶剣闇夜"が触れるようになって操作性が増したと思えば、ただ弱体化した訳でもないよな」
そう思い気持ちを切り替えた
「やばい、やばい!テントが!!」
テントは以前雨に晒されていた。焦ってテントに戻る事にした
"ピカッ"
"ドゴゴゴォォォォン〜〜〜ッッ!!!!!"
閃光と、爆音、衝撃がその場を支配した
「初めて見た」
その衝撃は凄まじくただ呆然も立ち尽くした
「ッ!ヤバいヤバい!"絶壁闇夜"」
天上から降り注いだ雷は目の前の木を両断し燃やした
オレは急いで能力を出して万が一に備えた。幸い落雷はその1回で終わった
燃えた木も大雨の影響ですぐに鎮火した。テントに戻りしばらくすると雷を思い出した
「凄かったな・・・」
それ以外の言葉が思いつかない
「あれ、、オレの能力に出来ないかな」
燃やすという結果だけをみるなら"不知火"
の方が優れている。それでもあれが忘れられない。それほどまでの衝撃があれにはあった
("経験"し、"想像力"も湧く。だけど発現出来そうに思えない。肝心な"感情"が"要素"として作用させれない。凄かったという感情しか湧いていないから)
その日は1日中雨が降った。オレはテントの中で"絶壁闇夜"を使い続ける練習をした。能力を長時間使用する練習も必要だと思っていたのでちょうどよかった。その間も雷がずっと頭の片隅に残っていたが
次の日も雨は続いた。初日ほどの大雨では無かったが、降り続けていた
また次の日、ようやく雨は止んだ。オレは久しぶりに外へ出た
「ん~~〜疲れた」
その間ずっと"絶壁闇夜"を使い続けていた。一度、寝てしまった時があったが、能力も消えるので眠気を堪え、約2日間起きていた
身体は疲労のピークで今にも寝てしまいそうだ。それでも収穫はあった。今使える能力ならほぼ無意識に使う事が出来るまでになった
「キツかったけど、それに見合う成果は得られたな。"絶剣闇夜"、"絶壁闇夜"」
出現した漆黒の刃を振り、すぐさま消して自分の周りを闇が覆った
「かなりスムーズに切り替える事も出来るようになったな」
成長を実感してガッツポーズをした
その後、改めて周りを見た。テントの周り以外は葉っぱや土砂が散らばっていた
河は氾濫が進んでおり、澄んでいた面影もない。完全に濁流だ
「これじゃあしばらく、水浴びも出来そうもないし、流石に、眠い」
オレはテントに戻りそのまま寝た。余りの疲れに食事も何もかも忘れて眠り続けた
次に目が覚めた時、は夜の3時を回った頃だ、十数時間眠っていた
「んっあ〜〜よく寝た」
変な時間に起きた事は理解したが、流石に眠くもならず、空腹を感じたので食事をした
ぼーーとしていると薄っすら明るくなりだした。外は昨日と変わり無いが、河だけ少し濁流が収まったように思えた
「よしっ!今日はどうしようかな?流石にずっとここにいる訳にもいかないし、新しく住む所も考えないとな。それに、もう後半月ぐらいで学校も始まるし」
学校の事を考えると苦しくなった
いや、、力が漲ってきた
「間違いなく今のオレなら出来る」
その思いがより一層力を滾らせた
"ガザッガザッ"
遠くの物音に後ろを振り向く。まだそこまで明るく無い為、よく見えないが目を凝らして物音の方を見た
次の瞬間
目の前に熊が現れた
オレより身長は少し低いがそれでも150cmはある。だが、それよりも遥かに大きく感じた
ブボォォォッ!!!!!
野太い雄叫びにも似た声で迫ってくる。焦って後退りをした
石につまずきよろけてしまった
次の瞬間、オレは右側に飛ばされていた
何が起こったのかまるで分からない。パニックになっていると、左腕の方が熱い事を感じた
見てみると、左肩から腕にかけて血が溢れ出ていた・・・抉られた
見た瞬間実感しそれは痛みとなって現れた
「ッア゙ァ゙ァァッ〜〜〜〜!!」
(熱い!!痛い!!何なんだよ、、これ)
熊はオレの声を聞き、少し驚いている様子だが、血の匂いを嗅いでかさらに興奮したように迫ってきた
「ヤバい!!ヤバい!!」
思考が回らず、危険が、、絶望がすぐそこまで迫ってきた
「っぺきんや・・"絶壁闇夜"」
闇がオレを覆い、熊から守った
「はっ、はっ、はっ、は、はぁ~危なかった」
(良かった、、訓練の成果が出た)
パニックになりながらも能力を出す事が出来た事に安堵した
しかし同時に違和感に気づいた
「何で!?」
目の前の熊は"絶壁闇夜"に触れているのに消えていなかった。もちろん熊の攻撃を防いではいるがそれだけだった
熊は今もなおオレを覆う、黒い壁を襲っていた
「今まで雨とかに使っただけだったから気づかなかったけど、もしかして生きている物は消せないのか。けど破られる感じはしないな」
そう思うと、頭が冷静になってくる
(もし、そうならとりあえず"絶壁闇夜"があればこれ以上危険は無さそうだけど。あとは熊がどこかに行くのを待てば)
「いやダメだ!試さなきゃ、何の為に能力を発現させたんだよ。復讐するなら此処で試さないと」
いくら暴れても効果が無いので、熊は"絶壁闇夜"を襲うのをやめた
「今だ!"絶剣闇夜"」
覆っていた闇は刃へと姿を変え右手に握られた。オレの姿を確認した熊は再びこちらへ襲い掛かってきた
「やられてたまるかっ〜〜」
オレは無我夢中で振り回し熊の左手を切断した
"グボォォォッ〜"
斬られた熊は叫び声を出した
威嚇なのかそれとも叫び声なのか分からない
「ざまぁーみろ、これであいこだ」
それでも熊は向かってくた。左手が無いので進みは遅いがこちらへ
「殺してやるよ」
オレ言葉に呼応して"絶剣闇夜"は2つに分かれた
1つは空中に浮き、もう1つはオレの右手に握られていた
空中に浮いている剣が熊へ向かった。熊も斬られた経験から残った右手で弾こうと暴れた
だが、熊の抵抗虚しく右手も切断された。
(チャンスだ)
オレは熊に向かって走った
そして手にした剣を熊の胴体へと突き刺した。熊の身体には穴が空き、力なく倒れた
「やった、、倒した」
倒した事を喜び安堵した
「いっってぇ、、」
余裕が出来た事で再度左腕の抉られた痛みを思い出した
「はぁ〜はぁ〜いたい、クソッ、完全に左側が見えていなかった」
大我達によって失った左眼は、今は眼帯を付けている
(もし、左眼があれば、、怪我しなかったかもしれない。いや、もっと早く熊の存在にも気づけていたかもしれない)
冷静になってきた今だからこそそんな事を思いながら振り返った
「今後は左側の死角にも注意しないとな」
(というか創れるんじゃないか?)
自分の考えながら驚いた
「そうだよ。剣を作れもしたし、大我達はダーツの"矢"を作ってたんだ。人の眼だって作れるはず」
出来そうな感じがしてきた
「元々左眼はあったんだから、絶対に出来る。意識するんだ」
闇が左眼に集まった。眼帯を外し閉じていた左眼を開けた
「み、見える!!出来たぞ」
しかし再び光を失った
「なっ!?出来ていたのに、、何で」
間違いなく一瞬発現した。そしてすぐに消えた
「何か足りないのか!?十分3つの要素を意識した筈なのに・・・」
出来そうで、出来ない。そんなもどかしさを感じる中、熊の死体が視界に入った
「"絶剣闇夜"」
オレはナイフのような形をした"絶剣闇夜"を出した
「復讐心が能力の要素なら、、絶望を与えるとは、つまり"希望を奪う"と言う事。なら作るんじゃない。奪うんだ」
オレは、手にした漆黒のナイフで熊の左目を抉った
「これが、、眼」
(人の目とは多少違うが機能は一緒の筈)
「なら問題無い。オレの眼になれ!!」
闇が取り出した熊の左眼を包み込み、飲み込んだ
眼は消え闇はオレの左眼へと入ってきた
閉じていた左眼を再度ゆっくりと開けた
景色が広がり眩しかった
感動に涙が頬を伝う
「・・・キレイだ」
さっきまでの景色と変わらない。それでもオレには輝いて見えた
それが最後の・・・記憶