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『三本角』の勇者〜前編〜

「おい!早く行けよ!?」


「痛い!?押さないで!?」


「誰か潰されたぞ!?」


ティラノサウルスとプテラノドンの襲撃によって城は大パニックになっていた。我先に助かろうと城へ民衆がごった返しており、押し合い圧し合いによって食い殺される前に踏み潰されて死んでしまう者もいた。


「はあ、はあ、急がねば!」


「城の中も大騒ぎですね…。」


リオーネとメリアスは何とか別路から騒ぎを見渡せる壇上を移動していた。


「姫様!ご無事ですか!」


「リオーネ…国の人々は大丈夫ですか?」


扉が壊れん勢いで部屋に入り、キオナの無事を確認する。しかしキオナは外の様子を、ティラノサウルスが城の中に攻め込んだのを見てしまったため表情が青ざめていた。


「…国民は…無事です。」


「嘘よ!あのタイラントドラゴンが群れを成して攻め込んで来たのよ!今も大勢犠牲になったのを見てしまったわ…。」


答え難そうにリオーネは誤魔化すが、それ以前にキオナは既に外の様子を見てしまったため通用しなかった。


「姫様、()()タイラントドラゴンと言いましたか?もしかして見たことがあるんですか?」


ふとメリアスは過去に見たことがあるようなキオナの台詞に首を傾げる。


「あのドラゴンとは昨日、夜の街で迷ってエインと共に小屋に籠もった時に出会いました…。」


「…!やはりあの無能が…!」


エインと共にティラノサウルスと出会ったと聞いて、リオーネは思い出したようにエインに対する憎悪を強める。


「リオーネ!エインはどうしたの!」


「そんなこと気にする必要は…。」


「ありますわ!彼がいなければ私はあのドラゴンやリザードマンに食べられていたかもしれないんですよ!」


ロボの件も含めればエインはキオナをディノニクスやティラノサウルスからも助けたことになり、彼が無事であるかどうかは彼女に取っては重要なことだった。


「それは…。」


「姫様!?窓から離れてください!?」


『ケエエエエ!』


リオーネが口籠っていると部屋にいた侍女が慌てた様子で駆けてくると同時に、窓ガラスが割れてプテラノドンがクチバシを突っ込んでくる。


『ケエエエエ!』


「きゃあっ!?」


「姫様から離れて!?」


侍女はキオナを守るために、持っていたモップでプテラノドンの頭を殴って外へと追いやる。


『ケエエエ…!』


「はあ、はあ、ビックリした…。」


身体の大きさが災いしてプテラノドンはそれ以上は入って来れず、侍女のモップ攻撃のこともあって窓から離れていく。


「ここにいれば取り敢えずは安全なはずです…。」


「ですが民をむざむざ置いて見殺しにすることは…。」


窓から離れた位置にいれば安全だが、キオナの不安を案じさせるように部屋の外から悲鳴や喧騒が聞こえてくる。


『ギエエエ!』


「ぎゃあああ!?」


避難者がごった返す広間に子供のティラノサウルスが乗り込み、元々は勇者として名を馳せた男の腕に食らいつき犬のオモチャのように振り回す。


『グルルル…!』


「ひいいっ!?」


有名な魔法使いの女性は腰が抜けてしまい、這いながら逃げていたがマントを咥えられ足元へと引きずられていく。


「な…なんてことだ…!?奴らが侵入して来たのか!?」


子供とは言えこの場における捕食者としてのヒエラルキーは間違いなく彼らだろう。子供のティラノサウルス達の侵入は避難者を更にパニックにさせた。


『グルルル…!』


「うわああ!?来るな!?来るな!?」


「あんた何とかしなさいよ!?」


「無茶言うなよ!?」


逃げ惑う人々は子供のティラノサウルス達から離れようと来た道を気付かずに戻ってしまう。


「待て!そっちは城の外に続いているぞ!?」


メリアスが止めるのも聞かず、と言うよりもパニックになって耳にも入っておらず人々は城の外へと出てしまった。


『ガオオオオン!』


「ひいっ!?そ…そんな!?」


城の外に出て大人のティラノサウルス達が待ち構えているのを見てようやくハッとなる。パニックになるあまり自分達は暴君の皿の上へと自ら飛び込んでしまったも同然だった。


『ガオオオオン!』


「「「ああああっ!?」」」


取り囲まれた人々は我先にと口を開け、食らいつくティラノサウルス達によって肉も骨も臓物も血飛沫を飛散させながら噛み砕かれるのだった。


「本当に何が起きているんですか!?」


「姫様は部屋に…!?」


キオナはずっと部屋にいるように言われて、状況がさっぱり掴めないでいたが悪いことが起きていることだけは確かだった。


『グルルル…!』


「姫様を守れ!?」


リオーネが青ざめて叫ぶと同時にティラノサウルスの子供が剣の刃に食らいついてくる。


『グガア!』


「おわっ!?」


「リオーネ!?」


剣を咥えたまま頭を首を振り回し、リオーネを壇上から振り落とす。それなりの高さなため落ちたら大ケガは免れないが、リオーネは天井のシャンデリアに掴まって難を逃れていた。


『ギエエエ!』


「ぐっ!?姫様を…!?」


更にメリアスにも襲い掛かるが、彼女は弓で何とかガードしてくる。しかしそのためにメリアスは攻撃が出来なくなってしまう。


「姫様!?こちらへ!?」


「リオーネ!?メリアス!?」


侍女はキオナを連れて避難しようとするが、目の前にティラノサウルスの子供とは別の生き物が現れた。


『ギュイイィィ!』


「イ…イノ…イノシシ!?」


姿形はイノシシのようだが頭部の左右にコブらしき物があり、何よりも身体の大きさは軽自動車とほぼ同じであった。


「に…逃げろぉ!そのイノシシは…」 


『ギュイイィィ!』


全て言い終わる前に血塗れの衛兵の頭をリンゴのように噛み砕くイノシシ。通常のイノシシや豚でも指を噛みちぎれるほどに顎の力が強いのに、まさか人間の頭部を頭蓋骨ごと噛み砕くとは信じられなかった。


「うぷっ…!?ひ…姫様…部屋に!?」


衝撃的な光景に吐きそうになるも侍女はキオナを連れて逃げようとする。


『ギュイイィィ!』


『エンテロドン』。太古に生息したとされるイノシシのような四足獣だ。イノシシのようだがクジラやカバに近い種らしく、顎の力だけで相手の頭部を噛み砕く顎の力と鋭い牙を持つ。


『ギエエエ!?』


「何!?」


侍女とキオナは部屋に逃げるも、エンテロドンは子供のティラノサウルスに体当たりしたのだ。


『ギュイイィィ!』


『ギエエエ!』


獲物の取り合いか或いはテリトリーに侵入した外敵を排除しようとしているのか不明だ。しかしエンテロドンの『地獄のブタ』と言う名の通り、この城を更に地獄へと変えていくことは間違いないだろう。


「ぐすっ…何だか騒がしいね…。」


その頃、地下牢に放り込まれ泣いていたエインは外がお祭りムードとは異なる喧騒に支配されていることに気が付く。


『グルル…。』


一旦泣くのを止め、僅かに揺れる天井から土埃が落ちてくるのを見上げていると、異変の正体に気が付いたのかロボが唸り声を発する。


「助けてくれえぇぇ!?」


「えっ…!?」


声を掛けられたと思ったら牢屋の外に見慣れた顔を持つ男がいた。昨日エインに八つ当たりとして暴力を振るった男子生徒の取り巻きの一人だった。


「あ…おい!そこのお前!?俺をここに入れてくれ!?」


「ど…どう言うこと…?」


パニックになって気付いていないのか、それとも地下牢であるため暗くて誰がいるのか分からないのか、取り巻きの男子生徒は仕切りにエインに助けを求めていた。


「ここにいればまだ安全なんだ!?くそ!開けよ!?」


牢屋にいればまだ安全と考えた取り巻きは蹴ったり物をぶつけたりしてこじ開けようとするが、罪人が逃げ出さないように頑丈に作られているのが災いしてビクともしなかった。


「なあ、おい!難しいことは言ってないだろ!?何でも良いからここを開けてくれ!?」


「そ…そんなこと言われても…。」


鍵を開けられればエインだっていつまでもこんな所に燻ぶっている訳ではない。そのためエインに頼み込んでもどうしようもなかった。


「早くしねぇとあいつらが……っ!」


ふと横を見た瞬間に取り巻きの顔が青ざめていき、腰を抜かしながら後退りをしていく。エインには何が起きたか分からないが、取り巻きが後退りすると同時にその原因がゆっくりと姿を現す。


『グルル…!』


「あれは…!?」


身体が小さく羽毛が生えているなどの差異はあるがティラノサウルスに間違いなかった。


『ガルル…!』


「来るな!?来るな!?俺に近寄るな!?」


必死に拒絶するも子供のティラノサウルスはそんなのお構い無しにと、侵入者を見つけた猛犬のように涎を垂らし牙を見せながら近付いてくる。


「ぎゃあ!?汚い足を退けろ!?」


逃げるなと後ろ脚で取り巻きの足を踏みつけるティラノサウルス。子供とは言え重さは人間の大人を遥かに越えており、抜け出す以前に重さで足の骨が悲鳴を挙げる。


「退けって言ってんだろ!?死ねよこのクソトカゲ!?」


そもそもスキルや魔法が使えれば取るに足らない相手なのに、苦痛を与えられ苛立ちが募り取り巻きはティラノサウルスの子供を持っていたナイフで斬りつけ鱗で覆われた皮膚に一筋の傷を付けた。


『ギシャアアア!』


「ぎゃあああ!?」


しかし傷つけられたことで激昂したティラノサウルスの子供は、その手首にステーキナイフのような牙を食い込ませメリメリと言う音を牢屋中に響かせる。


「ああ…ああああっ…!?俺の…俺の手がああぁぁ…!?」


ブチンと言う嫌な音と共に自身の手がティラノサウルスの子供の口の中にあっという間に呑まれていく。


『グルルル…!』


「や…やめてぇ…!?」


腕を食いちぎられた苦痛と死の恐怖に取り巻きは涙と鼻水、更には失禁によってぐちゃぐちゃになっていた。


『グオオオオ!』


「ああああっ!?助け」


今度は一気に頭に齧りつき牙を食い込ませる。取り巻きは最後に牢屋の中にいるエインに助けを求めるように、こちらを見ながら食いちぎられた腕を伸ばすもグキッと言う音と共に事切れるのだった。


「ううっ…!?」


『グルルル…。』


頭に齧りつきそのまま取り巻きの首を捻って絶命させたのだ。そして動かなくなった取り巻きの腹に牙を食い込ませ内臓を引きずり出すように噛みちぎると言う、あまりの生々しい光景にエインは目を背ける。


「ティア!リオーネとメリアスは…!?」


「今は姫様の身が大事です!?」


ティアと呼ばれる侍女はタンスやテーブルなどでドアにバリケードをする。外から入って来れないようにするため、二人が無事だったらどうするのかと訊ねるが彼女も彼女でキオナを守る義務があるのだ。


『ギャアギャア…!』


部屋の中には自分達以外がいる訳でも、ましてや先程までのモンスターがいる訳でもないのに不気味な鳴き声がベッドの側面から聞こえてくる。


「姫様…ここにいて…!?」


モップを掴んでベッドの側面に何がいるのか確認しようと恐る恐る覗き込む。


「な…何これ…!?」


身体付きは先程のプテラノドンと同じだが、サイズは小さく大型のコウモリ程であり頭は大きな顎を持つ肉食のトカゲのようなモンスターがキオナの枕を噛みちぎっていたのだ。


『ギャア!』


鋭い牙がズラリと並んだ大きな口を開けてティアを威嚇する。この生き物は翼竜の『ディモルフォドン』と呼ばれており、基本的には魚を食べるが小動物なども積極的に襲うとされる。


『ギャア!』


「ひいっ!?来ないで!?」


ティアは飛び掛かって来たディモルフォドンをモップで殴り返す。一旦は怯むもののディモルフォドンは再びティアに襲い掛かろうとする。


「えい!?」


ナイトテーブルを持ち上げたキオナはディモルフォドン目掛けて振り下ろす。さすがに効いたのか気絶してしまう。


「ティア、大丈夫ですか。」


「姫様…ありがとうございます…。」


侍女の中でも親しい関係にあるのかティアの身を案じるキオナ。


「まさかこんなのもいるなんて…。」


「これってコウモリ…じゃないですよね?」


プテラノドンはさっき見たがこんな小型の翼竜もいて、部屋にいるとは思いもよらなかった。


『ギ…ギギ…ギャギャギャギャ!』


「ひっ!?」


ナイトテーブルで殴られたディモルフォドンは耳障りな甲高い鳴き声を発してそのまま再び気を失う。


『『『ギャアギャアギャア!』』』


「「きゃあああ!?」」


その直後に残った窓ガラスをぶち破りながらたくさんのディモルフォドンが天井を埋め尽くすほどに侵入して来たのだ。


「いや!?いや!?いや〜!?」


「は…早く外に!?」


部屋の中なら安全かと思っていたが、ディモルフォドンのような小さな翼竜の侵入までは完全に想定外だった。


『ギャア!』


「ひう!?」


外へ出るためにバリケードを退けようとするがディモルフォドンが乗っかり威嚇してくる。これでは不用意にバリケードに近付けそうにない。


「…どうなったかな…。」


『クゥン…。』


地下牢では取り巻きが食べられてしまっていたが、生々しい音がようやく止んでどうなったか確認するが、ティラノサウルスも取り巻きの死体もなく引きずられた血の跡だけが残されていた。


「…持ち去ったみたい…。」


取り巻きを食べて満足したか、ゆっくり食餌するために持ち去ったかは不明だが危険はないようだ。


『キャンキャン!』


「あ…これは…。」


その時ロボが吠えて鼻先で何かを指し示す。そこにはあの取り巻きが身を守るために使ったナイフが落ちていたのだ。


「ん…取れた!」


先程は取り巻きが恐竜に使っても大した対抗手段にはならなかったが、今は武器がないよりはマシでありエインに取っては貴重なアイテムだった。


「これで何とか…。」


ナイフを鍵穴に挿して何とか鍵が開かないかやってみる。


「んん…ダメだ…。」


しかし数分やってみるも刃と鍵穴とでは合うはずがないため開かず、寧ろ無駄に体力を使ってしまったために空腹でその場にへたり込んでしまう。


『キャン!』


「あれ、どうしたの?」


ロボの鳴き声が聞こえ、また何か見つけたのかと後ろを振り返ると壁からチョロチョロと水が流れているのを見つける。


「わあ…!ちょうど喉渇いてたんだ!」


思えば水分補給もロクにしてないためエインはこれ幸いと壁の水を舐めてみる。


「もっと欲しいな…。」


一度水を含むと渇きが癒されるまで飲みたくなるのが心情だ。そこでエインはさっきのナイフで水が出ている部分を削ってみる。


「うわっ!?」


ところが水が出ている時点で脆くなっていたのか、深く刺した途端に壁が崩れて大穴が開いてしまう。


「びっくりしたぁ…ここは…?」


恐らく城の地下基礎のような所なのか、石造りの柱や壁が幾つか散見された。


『キャンキャン!』


「あ!待って!何処に行くの!」


エインが躊躇うのを他所にロボはその中を通り抜けて先へと行ってしまう。


「ロボ…何処まで行くの?」


暗がりの中を辛うじて見えるロボの尻尾を追いかけ、エインは登ったり下がったり潜り抜けたりを繰り返しながら城の奥まで進んで行く。


『…キャンキャン!』


するとロボはその場に座り込み、一度エインを見た後で鼻先を壁に向けて吠えていた。そこの壁にも小さな穴が開いていて、触ると瓦礫がパラパラと崩れてくる。


「これは…食べ物の匂い?」


それだけではない、その壁の穴から調理前の食べ物の匂いがしてくる。エインは考えるよりも先にナイフを握った手を壁に近付けていく。


『キャンキャン!』


「わあ…ここは厨房だったんだ!」


穴を開けて壁から出ると、その先には調理器具や食材が散乱してはいる城内の厨房に辿り着いたのだった。


『キャンキャン!』


ロボは真っ先に散乱していたハムに齧りついて、嬉しそうに食べていた。


「ぼ…僕も…!」


人が食われる様を見たものの、それでも腹は減るらしくエインも散乱している野菜に齧りつく。その時、隣接する食材の貯蔵庫らしき場所から物音がしてくる。


「…!まさか…!?」


空腹で忘れていたがここには肉食恐竜達がいるのだ。物音を立てたのが先程のティラノサウルスか、或いは他の捕食者であればエインもたちまち餌食になるだろう。


『ウウウッ…!バウバウ!』


ロボもそのことに気付いて隠れている相手に吠え立てる。しかしそれが挑発になってしまったのか、隠れていた生き物が飛び出して来た。


『ギィー…。』


飛び出して来たのは四足歩行のモンスターだが、一番の特徴は頭にあった。


頭の周りをグルリと取り囲むように盾のようなフリル、口はまるでオウムのようなクチバシをしており、両目の上に長い角と鼻の上に短い角の計三本の角が生えた四足獣のようなモンスターだった。


『グルルル…!』


『ギィー!?ギィー!?』


ロボは見慣れない生き物が現れたことに一瞬驚くも歯を見せ唸り声を挙げながら威嚇し、三本角のモンスターも甲高い鳴き声を挙げながら角を振りかざしながら威嚇してくる。


『ギィー…!?』


「あ…ロボ、待って!」


しかし三本角のモンスターは威嚇すると同時にロボとエインを見て後退りしていた。その様子を見たエインはロボを止めさせる。


「大丈夫だよ…僕達は君に酷いことをしないから…。」


そのモンスターは明らかに怯えていた。自分も同じように周りから虐げられたことがあったために、そのモンスターが自分達を敵と認識して威嚇していることに気が付いたのだ。


『ギィー…!?』


「うっ…!?」


手を伸ばすもモンスターは角で乱暴に振り払う。あまり尖ってないため刺さりはしなかったものの、殴打されたことでエインは手を引っ込める。


『グルルル…!』


「ロボ!大丈夫…だから…。」


エインを攻撃されたことでロボは飛び掛かりそうになるが、彼は制止させて諦めずに振り払われた手をモンスターに伸ばす。


「ほら…何もしないよ。」


『…ギィ…。』


攻撃せずに手を差し伸べ微笑むエインを見て、モンスターも今度は振り払おうとせずに恐る恐る頭を擦り付けてくる。


「ロボ、もう大丈夫だよ。」


『クゥン…。』


取り敢えず落ち着いたことでエインもその場に座り込み、ロボは振り払われた手を舐めてくる。


「ふふっ…くすぐったいよ…。」


『ギィ…。』


先程のモンスターはお詫びのつもりかレタスのような食べ物を器用に頭で転がしてエインに渡す。


「ありがとう…もしかして君は草を食べるモンスターなの?」


隕石落下直後に出会った生き物達は全て肉食性であったが、ここで初めて植物を食べる生き物と出会えたのだった。


「それよりもこれからどうしよう…。」


ひとしきり食べ物を失敬したところで今後のことを考えるが、よくよく考えてみれば自分は処刑されそうだったのに牢屋から脱走していたのだ。


「明日には僕は処刑…でも…。」


正直言ってエインはこのまま処刑されるつもりはなかった。そもそも客観的に見て濡れ衣であることは確かだし、エイン自身も何かおかしいと直感的に分かっていた。


「キオナ…。」


しかしながらこのままどさくさ紛れに逃げ出そうとはしなかった。彼を繋ぎ止めていたのは人生で一番最初に出来た友達であるキオナだった。


「キオナが無事なら良いけど…でも…!やっぱり気になる!」


エインからすればキオナは雲の上の人だ。護衛の人はリオーネをはじめ大勢いるため心配するなんておこがましいかもしれない。それでもたった一人の友達のことを思うと居てもたってもいられないのだった。

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