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君は『一』人ではない

「モルマ先輩の…バカぁ…」


尊敬する先輩の側にエインがいて、しかも正体が毛嫌いしていた男だったと知り、不信感と失望感から勢いに任せて走っていたラーナは力なく呟きながら夜道を歩いていた。


「何で…何で男なんかを側に置いて…あんまりだよ」


堪えきれない涙を何度も拭いながら誰がいる訳でもないのに口々に呟き続ける。


すると何処かでガサガサと言う音にビクッとなる。動揺の余り忘れていたが今は引き裂きジャックが活動する時間であり、妊婦ではないにせよ自分も危ないのではと血の気が引き咄嗟に茂みの中に隠れる。


『グルルル…』


「何なのあれ?」


音は樹上から聞こえており、ラーナは茂みからこっそりと見上げてみると、枝の上にドリプトサウルスがいるのを目視出来た。


「ううん…」


「子供…!?」


暗闇でよく分からなかったがドリプトサウルスの口元にはぐったりしたリリーが咥えられており、ラーナは目の前の出来事に血の気が引くのだった。


「あのままだとあの子が…!」


ドリプトサウルスはラーナには気が付かずに枝を伝って何処かへと去るのだが、最悪の事態を考えたラーナは意を決して後を追うのだった。


▷▷▷


「リリーちゃん!リリーちゃん!?」


「落ち着け、間違いなくあのモンスターが引き裂きジャックだな。これまでの手掛かりとも一致する」


突然のことでパニックになるエインを引き止め、一同をハッとさせるようにシスカが本当の敵が誰かとハッキリと告げてくる。  


「貴様ら!紛らわしいことをして捜査を混乱させおってからに!」


「あなた達がネイルを犯人と決めつけたのにバカなことを言わないで!それにこうなると思ってこんなことをしたのに!」


シスカの言葉に反応したのはオーサイスだった。後がなかったのに、またしても的外れなことをしてしまったためにメロルとネイルに向かって八つ当たりを始める。


「それどころじゃないだろ!今はリリーちゃんを助けないといけないだろうが!」


カルロスの言う通り、今すべきは責任転嫁ではなくリリーをどうやってドリプトサウルスから救出するかだった。その場で捕食はされなかったが巣に持ち帰られたら間違いなく食われてしまうだろう。


「枝を伝って移動していたのね。だから目撃情報も少なかったし、遺体も木の上に置かれていたのね」


「いずれにしても本当の敵が分かった以上は何とかしないといけませんわ」


モルマもロイルもドリプトサウルスを何とかしようと色々と考えている様子だったが、どうやって助けるかと言う具体案はなかった。


「僕が卵を持ってて欲しいって言ったから…早く助けに行かないと!」


「待てと言っている。闇雲に動くのは危険だし、その上で今は奴の土俵だ」


卵をリリーに預けたために危険な目に遭ったと責任を感じたエインは焦っていたが、今は夜でドリプトサウルスに取ってはホームグラウンドであるため危険であるとシスカが止めてくる。


「でもこうしてる間にリリーちゃんが…」


「だからと言って冷静さを欠いて、下手に動けば奴に狙われリリー以外にも失うかもしれないのだぞ」


闇雲に突っ込めば逆にこちらが狩られて全滅する恐れだってあり得る。ましてや責任を感じて気が動転しているなら尚更だ。


「トランちゃんは…こんな気持ちだったんだね」


エインはふと何を言い出すのかと思えば、エルフの里のルミナスを脱出した際に他のエルフ達が人攫いに襲われて行方知れずになり、トランを始めとする他のエルフ達が安否を気がけていた時のことだった。


「トランちゃんも他のエルフの人達も…大切な人がスゴく心配だったって言うのがよく分かるよ」


「エイン…」


この国に着くなりバンシアナ国王から法的処置も含めて止められていたが、その時のエルフ達の葛藤がどれほどの物だったか今の自分と重ねていた。


「トランちゃんの友達が死んだ状態で見つかった時のショック…今ならスゴく分かるよ」


「…あんたまさか」


そしてトランの友人であったカリエが変わり果てた姿で発見され、遺体を埋葬しようにもアクロカントサウルスが現れたためにエインが彼女を止めたが、その時のトランの気持ちを理解したつもりだった。


「だから僕は…一人でもリリーちゃんを助けに行く!」


あの時のエルフの人達やトランが何を思っていたのか…確かに大切な人の安否を案じる以上はジッとなんかしてられないと、エインは本当の意味で理解しそして決意するのだった。


「あんた、バカなの!あんた一人で何が出来るのよ!」


「僕のワガママで誰かが危険になるなら…僕一人でやる」


まさかとは思っていたがエインは自分一人でもリリーを助けに行くつもりだったらしく、トランが止めに入るも腕を振り払って前へ進み続ける。


「思い上がるな!」


だが、シスカから殴られてしまいエインはその場に尻もちを着いてしまう。


「今回ばかりはこいつの言う通りだ…お前一人で何が出来る!わざわざ死にに行くようなものだぞ!そんなバカなことをさせるために教えを説いた訳ではないぞ!」


シスカはエインに強者として生き残る術を教えてきたが、こんな無謀なことをさせるために教えた訳ではなかった。


「でも…僕が行かないと」


「確かに私だって助けたい。お前が責任を感じているのは分かる。だが、お前がそこまで冷静さを欠く程になるとはリリーとは何者なのだ」


助けたくない訳ではないが悪く言えばシスカからすればリリーは赤の他人だ。踏ん切りが付くからこそ冷静に物事を進められるのだが、自分の弟子は殴られても尚も立ち上がり助けに向かおうとするため肩を掴んで問いかける。


「リリーちゃんは…僕の妹なんです」


エインは振り向かずに答えた。それはまるで決意は揺らがないと背中で語っているようだった。


「なん…だと?」


「はあっ!?あんたそれって…」


対するシスカとトランは唖然となる。と言うのもリリーがエインの実妹だと言うのはキオナしか知らないからだ。


「なら頭を冷やせ。そんな気が動転した状態で家族を助けられると思うのか」


「僕に取って家族が何なのかは分からない。妹とかもよく分からないよ」


事情は分かったがそれでも視野が狭くなったエインに行かせるのは危険だとシスカは肩を掴む力を強くするも、エインも負けじと前に進もうと家族のことを口にする。


「よく分からないけど…あの子が泣いているのを見ていると心がザワつくんだ。まるで小さい頃の僕を見てるみたいで」


元の世界でエインは魔法やスキルの才能がなかったために、リリーとほぼ同じぐらいの年齢の時に両親から虐待や暴言を受けて捨てられた過去があった。


「あの子が笑っていると僕も嬉しいから…リリーちゃんには笑顔でいて欲しいから…助けに行きたいんだ。それが僕の考える『お兄ちゃん』なんだと思う」


やはりどうこう言っても血を分けた兄妹だから、似たような境遇にいるからこそエインは自分の思いの丈をぶつけるようにシスカに面と向かって話す。


「やはり行くのですね」


「キオナ」


見たことのない程に強気な面持ちであったエインに唖然とするシスカの背後からキオナも毅然(きぜん)とした面持ちで現れたのだ。


「僕は一人でも…むぐっ!?」


「…あなた一人で抱え込まないで」


殴られるかと思っていたがキオナはエインを抱き寄せて押し殺すように呟き始める。それと同時にエインの頭にポタポタと水滴が落ちてくるのを感じる。


「確かにあなたの境遇を思えば一人で何でもしなければと思うでしょう。ですが、もうあなたは独りではないのですよ…」


「キオナ…どうして泣いてるの」 


顔を上げるとキオナは目から大粒の涙を流していた。何故に泣いているのか分からずエインは戸惑ってしまう。


「元の世界で私達は強力な魔法とスキルに恵まれ、英雄として最強の名を欲しいままにし、エインを無能呼ばわりしていました。ですが私はそんなあなたと出会ったのはほんの偶然でしかないですが、この異世界で過ごした日々を思うと決してそうとは思えません」


元の世界でロボに纏わりつかれて困っていた所を助けられたキオナに取って、無能と呼ばれていたエインがこの異世界に転移してから目覚ましい成長を遂げたことにそれらは運命的な出逢いだったと口にする。


「この異世界に転移してからあなたは魔法とスキルが消失し無能と化した私達を分け隔てなく何度も助けてくれました。かつて無能と呼ばれていたあなたにですよ」


対して英雄として名を挙げていた自分達がこの異世界で魔法とスキルが使えなくなったことで無能に成り下がり、(さげす)んでいたエインに助けられるなんて滑稽(こっけい)な話だろう。


「ここにいる全ての人達は()()()()()()でこの異世界で生きてこられた確かな生き証人なのです。あなたがいなければ私達はきっと…」


どっちにしてもエインがいなければ全員がこの異世界の恐竜達の餌食になっていたのは間違いないし、こうやって生きていられるのが何よりもの証拠だった。


「気付かないでしょうけど、私達はあなたが思っているよりもあなたのことを大切にしたいと思っていますよ?あなたがリリーちゃんや私達に優しくしてくれたようにね」


だからこそキオナ達に取ってエインの存在はとても大きく希望の星そのものと言っても過言ではなかった。


「それに私はエイン…あなたのいない世界なんて考えたくもないです!だからおいそれと自分の命を粗末に扱わないでください!」


キオナに取ってエインが一人で何でも抱えて本当に死んでしまうのではと憂いており、そのことを思うと涙が溢れ出てしまい、これでもかと自分の素直な気持ちをぶつけるのだった。


「でも…僕はリリーちゃんを…」


「ですから…私も行きます!決してあなたを一人で戦わせはしませんからね!」


シスカには面と向かって言ってのけたが、キオナの(かたく)なに揺るがない意思を前に何も言い返せなくなる。


「ふっ、さすがに姫様からそう言われては逆らえんな。案ずるな私達も救う手立てを考えながら助けに向かうとしよう」


「あんたは一人で抱え過ぎなのよ!あたしらも頼りなさいよ!」


「そうですよ。絶対にリリーちゃんを助けましょう」


「キオナ…皆…ありがとう!」


キオナ達からの思いを受け取ったエインは涙を拭い、決意を改めてリリーを助ける方法を皆で考えながらドリプトサウルスの後を追うことにするのだった。


▷▷▷


『グルルル…』


その頃ドリプトサウルスは戸惑っていた。数日ぶりのお目当ての獲物を手に入れて巣に持ち帰ったは良いのだが…。


「う〜ん…」


捕らえた獲物であるリリーは腹部が大きく膨らんでいたのに、持ち帰ってきた時にはいつの間にか膨らみが失くなってしまっていたからだ。


『グルルル…っ!?』


しかし小ぶりとは言え、獲物には違いないためそのまま丸(かじ)りにしようかと考えていると、投げ込まれた石が頭に当たってドリプトサウルスの注意が反れる。


『ガルルル…』


何者かは知らないがドリプトサウルスは自分の縄張りを脅かす不届き者を探し出すために気を失ったリリーを放置してその場を離れる。


「う〜ん…ひゃあっ!?」


「しっ!静かにして、あたしはラーナ。助けに来たよ」


目を覚ましたリリーは自身を見下ろす影を目にして、先程のドリプトサウルスかと思い悲鳴を挙げそうになるもラーナによって口を塞がれる。


「とにかく今はあのドラゴンが戻って来る前にここから離れよう。一緒に行こう」


「あ、待って、卵がない」


手を繋いで避難しようとするがリリーは持っていた卵がないことに気が付き辺りをキョロキョロと探していた。


「卵?」


「あれは大切な物だから…」


「あっ、あったよ。さあ、早くここから離れよう。ここは…廃品置き場かな?」


ラーナは近くに卵が転がっているのを見つけ、拾い上げると同時にリリーの手を引いて辺りを確認する。周囲には壊れた家具や馬車などが散乱していて、巣のある場所が廃品置き場であることを証拠づけていた。


「この卵は…そんなに大事な物なの?」


「うん、預かってて欲しいって頼まれてたの」


「何の卵なの?」


「分かんない」


恐怖を和らげようと卵のことについてリリーと話しながら手を引くラーナ。


『グアアアアアア!』


「ひっ!?」


「こっちに隠れて!」


遠くからドリプトサウルスの恐ろしい唸り声が闇夜に響き渡り、ラーナはリリーの手を引いて壊れた馬車の中に隠れる。


『グルルル!ガルルル!』


隠れた瞬間にドリプトサウルスが現れ、何処か鬼気迫った様子で辺りを探っていた。


「何だかさっきりより殺気立っているような気がする」


獲物であるリリーを奪われたからか、さっきと比べるとドリプトサウルスは気が立っているようで仕切りに唸り声や怒号を挙げていた。


『グアアアア!』


「怖い…」


「見つかったら八つ裂きだね」


苛立ちが募るドリプトサウルスは特徴的な前脚の鉤爪でソファーやイスをズタズタに引き裂くのを目にしてリリーとラーナは馬車の中で縮こまる。


「ここは下手に動くと危険だし、暫くはジッとしてよ」


通り過ぎるまで大人しくしていようと座り込むラーナとリリー。


「取り敢えずもう少しだけ我慢して…ひゃっ!?」


「な…なに?」


すると座り込んでいる馬車の床板が不自然に動き出したために二人はそこから飛び退いて寄り添う。


『…グルルル』


思わず声を出してしまったために慌てて口を塞ぐが、ドリプトサウルスは招かれざる客の声を聞き逃さなかったらしく警戒を強めながら音がしたと思われる場所ににじり寄る。


▷▷▷


「それであのモンスターの巣は何処にあると思う?」


助ける方法を考えながら移動するも、ドリプトサウルスが向かったのは恐らく縄張り内にある住処だろうと考えるも、詳しい位置までは特定出来ていなかったためカルロスは地図を作成したマルトに質問する。


「ラスコさんと一緒に行動範囲を調べ直してみたんだけどね、被害者と遺体の数が一致してなかったんだよね」


「数が一致しないって?」


「被害者はだいたい八人ぐらいなんだけど、見つかったのは五人。つまり内三人の遺体がまだ見つかってないんだよね」


これまで事件発生後に遺体は何度か見つかったが、まだ見つかってないの遺体もあると言うのだ。


「見つかってないと言うことは骨も残さず食べたと言うことでしょうか」


「いいえ、キオナ姫。行方不明者をもう一度洗ったら、まだ見つかってないのは廃品置き場を根城にしてる荒くれ者だったんですよ」


「この国の廃品置き場はグレーゾーンであるため捜査の目が行き届いておらず、そこにモンスターの巣がある可能性が高いかと」


人目に付かないからこそドリプトサウルスは廃品置き場を住処にし、地図に記された円内で狩りを行っていたのではとモルマとマルトは考えていた。


「じゃあ、リリーちゃん達はそこにいるんだね。待っててね」


「ただ少し気になることが他にもあって…きゃっ!?何よこれ?」


他にも何か付け加えようとしたマルトだが何かに(つまづ)いてしまう。足元には丸みを帯びたリュックが転がっていた。


「これはリリーちゃんのリュックと卵だ!こんなところに落ちてたなんて」


どうやら連れ去られた際にここでリュックを落としたらしく、ドリプトサウルスが通ったであろう確かな証拠であった。


「さて、どうやって助ける?ここは奴の庭も同然だからな」


「僕が囮になります。その間にリリーちゃんをお願いします」


言い終わるよりも先にエインはリュックを前に背負って、リリーが攫われた時と同じようにして囮になるつもりだった。


「またそんな危険なことをする気ですか」


「でも、これでリリーちゃんが攫われた訳だから同じ方法で誘い出せるはずだよ」


「なるほど、是非とも誘い出すが良い!」


キオナは止めようとしてくるがオーサイス達はその方法には賛同し有無を言わさずにエインに囮をさせようとしていた。


「あなた達は黙ってて」


「何を言うか!奴の作戦が一番手っ取り早い上にその他の方法など無かろう!」


メロルは露骨に態度を悪くしながら反論するも、悔しいが今はオーサイスの言う通り、リリーを救助するために迅速対応が求められており、他に良い解決策を用意してる場合ではなかった。


「とにかくリリーちゃんのことはお願いします」


『ウウウッ…バウバウ!』


とにかく今はエインが囮になろうとするが、ロボが急に騒ぎ立てるように吠え始める。


「貴様の飼い犬か?やたらに騒いでいるが、(しつけ)がなってないぞ」


メロル同様にエインを囮にするのが気に食わずに吠えているのかとオーサイスは怪訝な顔をして睨み返す。


『ゴガアアア!』


「危ない!?」


恐ろしい雄叫びと共に木の上から巨大な影がオーサイスが立っていた場所に飛び降りてくる。


『グアアアア!』


「ドリプトサウルス…もうこんな所にまで」


「邪魔だ退け!ここで成敗してくれる!」


助けてくれたのにエインを突き飛ばしたオーサイスは剣を抜いて吠えているドリプトサウルスを斬ろうとする。


『シャアアア!』


「なっ…なんと言う身のこなしだ」


横薙ぎに振るうもドリプトサウルスはジャンプして刃を避け、オーサイスの頭上を軽々と飛び越えて背後に回り込む。


「何をしている!援護せんか!」


身のこなしに圧倒された取り巻きの衛兵達はオーサイスに言われて槍を突き出す。さすがにこれは敵わないと判断したのかドリプトサウルスは木に登って姿を隠してしまう。


「ドリプトサウルスがここにいるってことは、まさかリリーちゃんはもう…」


「いや、食ったのなら口に血が付着しているはずだ」


囮になって姿を炙り出すはずが向こうから現れたことで、最悪の展開をエインは予想するもそれはないと宥められる。


『グアアアア!』


「ぎゃああああ!?」


衛兵の一人がすれ違いざまにドリプトサウルスに食らいつかれて闇の中に消えていき、骨と肉が噛み砕かれて血の雨が降り注いでくる。


「うわっ!?何処から来るか分からないぞ!?」


「ぐわあああ!?」


全員が恐怖し何処から襲われるか分からないために武器の切っ先を暗闇の向けるも、健闘虚しく再び誰かが犠牲になる物音と悲鳴が闇夜に響く。


「そこだわ!」


『ガルルル…!』


するとアレッサが矢を放って狙い澄ましていたドリプトサウルスを牽制する。矢は当たらなかったもののドリプトサウルスは仕切り直しと闇の中に再び姿を消す。


「夜の戦いなら私達が得意よ」


「エイン、ここは俺達に任せてリリーを助けに行け」  


獣人であるため夜目が効くらしく、こんな闇夜の中でもドリプトサウルスの姿を捉えられるようだ。二人はエインにここは大丈夫から先に行くように語りかけ背中を押すのだった。


「アレッサさん、マルスさん…ありがとうございます!」


「私も付き添います!行きますわよリオーネ!」


「待って!道に詳しい私も同伴するわ」


何はともあれこれでリリーを助けられるようになり、キオナとリオーネと共にモルマとロボを先頭に進むのだった。


「それにしてもあのモンスターは何処からこの国に入ったのだ?」


「そう言われてみると変よね。壁の穴は塞いだし、検閲もあるのに」


引き裂くジャックの正体はドリプトサウルスと分かったがどうやって国の中に入ったのかはまだ分かっていなかった。


「お兄ちゃん〜!?」


「え…リリーちゃん!?」


すると暗闇の中から最初はドリプトサウルスに攫われ、その後ラーナに助けられて一緒だったはずのリリーが慌てた様子でエインに駆け寄って飛びついてくる。


「良かった、無事だったんだね!ごめんね…怖かったでしょ?」


エインは嬉し泣きしながらリリーを抱き寄せるが、彼女は怖い思いをしたからか青ざめながら泣いていた。


「ううっ…リリーを助けてくれたお姉ちゃんが…お姉ちゃんが…」


「え…他にも誰かいるの!?」


よくは分からないがリリー以外にも誰かいて、彼女を助けるも逆に襲われているのかとモルマ達は顔を見合わせる。


▷▷▷


「何なのあれ」


「怖い…」


数分前、馬車に隠れていた二人の目の前で床板がガタガタと動いており、ドリプトサウルスか或いは別の捕食者が侵入しようとしているのではと固唾を飲んで見守る。


『クルルル?』


「…鳥さん?」


床板を押し上げて顔を覗かせたのは羽毛に覆われた鳥のような恐竜だった。最初はその恐竜も二人の姿を見て戸惑うも敵意がないと分かると上半身を乗り出してくる。よく見ると前脚がほぼ無いと言って良いぐらいに短く、指も一本しかない上に大半を鉤爪が占めていると言う極端な形態をしていた。


『クルルル…』


「何してるの?」


するとその恐竜は二人に構わず、その特徴的な前脚で馬車の床板をガリガリと削り取り始めたのだ。


『クルルル』


「虫さんを食べてる」


床板を削ってそこから出てきた虫を(ついば)んでは食べていく。どうやら床板を前脚で壊して隠れている虫をほじり出すためだったようだ。


この恐竜は一本の指しかない前脚から『モノニクス』と呼ばれており、朽木や蟻塚などを壊して虫を捕食していたとされている。


『グルルル…!』


「ひゃっ!?」


突然馬車がミシミシと軋んで(ほこり)が上から落ち、更に恐ろしい唸り声が聞こえたことにリリーは思わず声を出しそうになるもラーナが口を塞ぐ。


『カロロロ…』


「「……!」」


息を殺しながら天井に目をやると、こちらを探しているのかドリプトサウルスが一歩一歩進む度に馬車をミシミシと軋ませるのが見て分かった。暫くすると見失ったのか何も聞こえなくなり不気味な静けさが辺りを支配した。


「ねぇ、何処に行っ『グアアアア!』きゃあああ!?」


静かになったから何処かに行ったと思ったら、ドリプトサウルスは馬車の屋根を突き破ってきたのだ。そのことにリリーだけでなくラーナも尻もちを着いてしまう。


『クアアア!?』


「リリーちゃん!この中に!?」


驚いたモノニクスが入って来た床板の穴から外へと逃げ出したのを見て、ラーナはそこにリリーを逃がすことにする。


「お姉ちゃんは?」


穴は子供のリリーなら通れそうだが、他の人と比べて小柄であるとは言えラーナには小さ過ぎるため通れそうになかった。


「良いから…行って!?」


「わっ…!?ううっ…!?」


鬼気迫るラーナに穴へと突き飛ばされたリリーは馬車の外に出る。心配になるもどうしようもなくなり、取り敢えずは言われた通り逃げることにするが恐怖と無力感からか泣き出してしまうのだった。


▷▷▷


「それでね…お兄ちゃん達の声が聞こえて…でも、お姉ちゃんがこのままだと…」


泣きじゃくりながらリリーは何があったか伝え、再びボロボロと涙を流し鼻水と入り混じってグチャグチャになってしまう。


「ラーナ…今、助けに行くわよ!」


まさか喧嘩別れしてしまったラーナがそんなことになったと知り、モルマは血相を変えてラーナを救助に向かうのだった。


「あれ…ドリプトサウルスはリリーちゃんとラーナさんを襲っているんだよね?」


「ええ、そうですが…あら?」


ふとエインとキオナはリリーからの話を聞いてとある相違点に気が付いたが、すぐにそれどころではなくなった。


『ガルルル!』


「この!来るなぁ!?」


馬車をガタガタと揺らしながら上半身を中に突っ込んでいるドリプトサウルスの姿があったからだ。その中からはラーナの叫び声がしており、まだ生きていることにホッとするも時間の問題だった。


「馬車の扉を開けませんと!」


「壊れてる…!」


廃棄してあるからか、馬車の扉は壊れて押しても引いてもビクともしなかった。


「フォーク!」


『ギィー!』


それならとエインはフォークを向かわせる。助走を付けて馬車の扉に突進しひしゃげさせるのだった。


「後は…えい!」


「あ!あなたは…!」


ひしゃげて隙間が出来た所で黒曜石の双剣を挿し込み梃子(てこ)の原理でこじ開けると、何事かとこちらに目線をやっていたラーナと目が合う。


「早くこっちに!」


『グアアアア!』


因縁の相手ではあるが今は生きるか死ぬかの瀬戸際であり、しかもドリプトサウルスが天井を壊して今にも侵入してきそうなためラーナはエインの言う通り扉から外に出る。


「ラーナ!大丈夫!?」


「先輩…あたしは」


迅速に対応したためケガはしなかったものの、喧嘩別れしたために反応がギクシャクしてしまう。


『グガアアアア!』


そんなのお構いなしと言わんばかりに、天井を壊して馬車の中に降りたドリプトサウルスは前脚で扉を破壊しながら外に出てくる。


「見れば見るほどリザードマンもどきによく似ているな」


「残酷そうでありながら力強さと逞しさ…それに何処か美しさもありますね」


暗闇でよく分からなかったが見れば見るほどティラノサウルス類の力強さを残しつつも、ラプトルのような(しな)やかな身体付きは弱肉強食の異世界を生き抜くために洗練されており思わず見惚れてしまいそうだった。


「今までずっと妊婦の人ばかり襲っていたけど、何でラーナやリリーちゃんを襲うようになったのかしら」


「そう言えばリリーちゃん、卵の入ったリュックを落としたでしょ?ほら」


「え?それお兄ちゃんが持ってたの?あれ、お姉ちゃんが卵を持ってたんじゃないの?」


エインは思い出したように卵の入ったリュックのことを訊ねるも、リリーはラーナが持っていたと思っていたため唖然となる。


「え、卵ってこれのことじゃ…」


「それ…リリーが落としたのじゃない」


拾ったと思った卵を見せるも形は楕円形で、サイズも片手で持てるぐらいの大きさしかなく違いは一目瞭然であり、当然リリーが落とした卵ではなかった。


「じゃあ、この卵は…?」


『グアアアア!』


それならこの卵は何なのか。それは怒り狂ったドリプトサウルスの鉤爪が呆然とするラーナに迫って来たことでハッキリとした。


「それはドリプトサウルスの…卵だよ!?」


黒曜石の双剣で鉤爪を弾き返したエインが、ラーナの持っている卵がドリプトサウルスの卵だと突き止める。


「まさかあたし…間違えてあのモンスターの卵を持ってきちゃったの!?」


「だから妊婦じゃない相手を襲い始めたのね。卵を奪い返そうとして」


悪意が無かったとは言え、ラーナは誤ってドリプトサウルスの卵を巣から持ち出してしまい、結果的に攻撃的にさせて守備範囲を越えて人を襲うようにさせてしまったようだ。


「待ってください。そう言えばここへ来る前にも同じモンスターにも襲われましたが…確かアレッサさんが引き受けたはずでは」


「あら、確かに変よね?ついさっきバッタリ出会って、皆が引き受けてくれたはずなのに」


ここでキオナが相違点に付いてモルマと話すが訳が分からなかった。ドリプトサウルスとは先程遭遇して襲われたものの、アレッサ達が足止めをしてくれたはずなのにここへ来てみるとラーナとリリーを襲って今に至るからだ。


「それに卵があると言うことは…」


『バウ!バウ!』


「キオナ!危ない!?」


重要なことに気が付きそうになるキオナにロボが吠え立てており、エインはハッとなって彼女を抱き寄せる。その直後に何かが駆け抜けて行きドリプトサウルスとは対角線上で停止する。


『ガルルル…グアアアア!』


『グガアアアア!』


()()()()の…ドリプトサウルス!?」


鏡合わせでも見ているのか、対角線上には同じ見た目をしたドリプトサウルスが立ってエイン達を挟み込むように吠え立てていた。


「…!やはりモンスターは()()いたのですね…!」


卵が巣の中にあって、時系列にも違和感があると思っていたがどうやらドリプトサウルスもまた()()()()()()()()ようだ。

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