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『引き裂き』ジャックの正体

草木も眠る丑三つ時。キプロニアス王国はすっかり夜更けになり、人々は殺人鬼に出逢わないように家の中で息を殺すように閉じ籠もって眠っているため、人の行き交いが失くなりより静かになっていた。


「今だよ、おいで」


『クオオオ…』


静寂(せいじゃく)と言う言葉がこれほど似合う真夜中の街中で息を殺すように移動している影が幾つかあった。


「お兄ちゃん、何だかドキドキするね」


「夜更かしするの初めて〜」


「僕も!」


「皆、静かにしてて」


その内の小さな影三つはリリー達で、いつもは寝ている時間なのに起きていることが楽しいのかはしゃいでおりエインに宥められていた。


「そう言えばあの卵はどうしたの?」


「リリーがね、リュックに入れて温めてるの」


獣人達が大切にしていた卵はリリーが前向きに背負ったリュックに温めるように入れていた。


「それでハヤテさん、どう移動すれば大丈夫なの?」


「少なくとも今は夜中に出歩く人はまずいないため多少は大丈夫なはずでござる」


そんな四人のやり取りを尻目にメロルは協力者であるハヤテに話しかけていた。彼女は恥ずかしい秘密をメロル達に知られてしまったが、律儀にも有益な情報を収集してくれたようだ。


「しかしネイルのサイズ感を考えれば、やはり正門を行くのは危険かと…」


「じゃあ、どうやって外に出すの?それともそんなのはそもそもないの?」


つまり寝静まった国内とは言え、ネイルの身体では否応なしに目立ってしまうと言う。それでは脱出するなんて夢のまた夢と言うことにメロルは落胆してしまう。


「いえ、キプロニアス王国には他国からの侵略を受けた際には避難用の地下通路があったとロイル様から聞いたことがあるでござる」


「地面の下に?もしかしてそこから外に出られるの?」


「運搬用の馬や家畜なども外に出せるようになっているためネイルでも通れるはずでござる」


くノ一のような出で立ちであるため自分達の知らないことを網羅しているらしく、巨体のネイルが通れる場所は地下にあるようだ。


「その場所って何処にあるんですか?」


「基本的には城や人が一番集まる所にあるかと…そう、公園や広場などは避難場所として使われることが多いためそこかと…」


王族ならば城の中に非常用の通路があるだろうが、国民が真っ先に避難する場所となると一同に会することが出来る広場や公園などが候補に挙げられる。


「もしかしてあの公園に?」


「そう言えばネイルを散歩させてた時に、地面に大きな扉みたいなのが設置されてるのを見たことがあるんだけど…まさか、あれなの?」


公園で思い付くのはリリー達と遊び、カリコテリウムやネイルと出会ったあの公園だけだ。そこに解決の糸口があるとは思わなかったが取り敢えず行ってみることにする。


▷▷▷


「この公園に非常用の通路が…」


「確かあれは池の側にあったはず。おいで、ネイル」


公園に辿り着くや否やメロルは例の扉を見つけた場所へとネイル達を案内する。


「あった、この辺だわ。手伝って」


『クオオオ』


「僕らも手伝うの!」


非常用の通路への扉は落ち葉や芝生などでカモフラージュされており、ネイルは鉤爪を使って、カイとカナは犬の獣人であるがために元から得意であった穴掘りで地下に通ずる鉄製の扉を露わにする。


「いよいよね…ここを出たらあなたは…」


『クオオオ…』


必死になってて忘れていたがこの扉の先は国の外。つまり野生の世界が広がっており、ネイルは疑いの矛先が向かぬよう野に放たれることになる。


卵から孵して我が子も同然に育てていたネイルと別れることになりメロルも悲しそうに擦り寄り、ネイルも本能的に別れを察して鼻先を彼女に押し付ける。


「…妙でござる。静か過ぎるでござる」


「僕も何だか嫌な感じがする」


しかしそんな悲しい別れの雰囲気を打ち破るように、と言うよりも虫の鳴き声も聞こえなくなるほど静かになったことにハヤテもエインも不吉な予感を覚えていた。


「捕らえろ!」


『クオオオ!?』


突然、四方八方から光を当てられたと思ったら投網がネイルに絡みつく。


「ネイル!?きゃあ!?」


パニックになるネイルを心配するメロルだが彼女にも投網が覆い被さる。


「リリーちゃん!隠れて!」


「ひゃあ!?」


これはマズいと考えたエインは咄嗟にリリー達を押して茂みの中に隠す。


「取り押さえろ!」


「首謀者は一人たりとも逃がすな!」


茂みからこの国の衛兵や軍候補生などが武器や篝火(かがりび)を構えて飛び出してネイルを取り囲んでいく。


「脚だ!脚に掛けろ!」


「尻尾と前脚に気を付けろ!」


『クアアアアア!?』


やがて網越しに鞭が首や後ろ脚に巻き付き、数人掛かりでネイルはその場に横倒しにされてしまう。


「連続殺人を犯したモンスター『引き裂きジャック』!このオーサイス様がお縄にしてくれる!」


ようやく連続殺人事件を引き起こしたモンスターを捕らえれたことに正しく鬼の首を取ったようにオーサイスがネイルを踏みつけながら叫ぶ。


『クアアアアア!?』


「止めて!ネイルに酷いことをしないで!?」


網の中で暴れるネイルを助けようとエインは黒曜石のナイフを手に駆け寄り、武器を持って近付く衛兵を威嚇しつつも網を切ろうとする。


「貴様が首謀者か!転校初日から何か怪しいとは思っていたが…まさか裏でモンスターを飼育して人々を襲っていたとはな!」


しかしその行動とこれまでの経緯がエインを状況的に第一容疑者として見られてしまう形となり、オーサイス達から疑いの矛先を向けられてしまう。


「なんと嘆かわしい!まさか君が黒幕だったとは何とも残念だよ!」


ところが突然ナルスがエインに向かって(ひざまず)き、ロミオのように語りかけてシリアスな空気をぶち壊し辺りを騒然とさせる。


「そこでどうだろう?私の(きさき)になるのならば、伯父上(おじうえ)の顔を立てて許して貰っても良いんだよ?」


「それ、本当ですか?」


エインはネイルのことを見逃して貰うと言う甘言に頭がいっぱいで、妃になると言う意味はまるで知らなかったために了承しそうになる。


「勝手な事を言うな!首謀者とモンスターはここでトドメを刺す!」


だが、オーサイスはこの場でネイルとエインを共に処刑しようとナルスと言い争いになる。


「待ってちょうだい、その子は…私の従姉妹(いとこ)よ。だから私の問題でもあるし、彼女のことなら私のことがよく分かるわ」


「モルマか。確かにお前の従姉妹でもあるから、お前の責任でもあるしな」


軍候補生の中からモルマが前に出て責任なら自分にもあると口にすると、オーサイスは揚げ足を取るように責め立てる。


「エインくん…これはどう言うことなの?何かあるとは思ってたけど、まさか引き裂きジャックを匿ってたの?」


「モルマさん…黙ってて、ごめんなさい。でもこの子は引き裂きジャックではないんですよ」


一言ぐらい相談して欲しかったと言うモルマの視線に落ち込みながらエインは謝罪するも、ネイルが引き裂きジャックではないと弁明しようと今度こそ自分が見てきたもの全てを話すのだった。


「オーサイス様、このモンスターは引き裂きジャックではありません。この子達はこのモンスターがこんな前脚をしているために、周りから誤解を受けるのが恐ろしくて逃がそうとしていたんですよ」


「ほう?それをどうやって証明するのだ?証拠はあるんだろうな?まさかお前までそいつを庇い立てする気なのか」


事情を聞いたモルマはエインに代わって弁明を始めるも、親戚と言う間柄で通しているため完全に依怙贔屓(えこひいき)だと思われてしまっていた。


「このモンスターは雑食だけど魚しか食べないわ」


「何故それが分かる?それに魚を食べるからと言って、肉を食べないとも限らないだろう」


エインからネイルの種であるデイノケイルスが雑食で魚しか食べないことは聞いて代わりに説明するも疑いは晴れない。ワニやサメのように基本的に魚を食べるからと言って人間や他の動物を襲わない証拠にはならないからだ。


「じゃあ、実際に食べさせたらどうかなぁ?それならハッキリするんじゃないかなぁ?」


間延びした口調で食性の立証を提案したのは容疑者の一人として挙げられ、後にカルロスの調査でシロだと判明したサンボだった。


「正気か貴様は?こいつを自由にしたら瞬く間にお前をバラバラに引き裂いて食ってしまうぞ」


「でもそれを言ったらメロルさんやその子が食べられてもおかしくないんじゃないかなぁって思うんだけど」


サンボは食いしん坊でのんびりした様子だからあまり気にもしなかったが、そんな彼だからこそ食に関する件については意外にも鋭い指摘が出てきたことに一同は「確かに…」と呟いていた。


「しかし…魚がなければ証明の仕様がないだろう」


辺りがざわめき始めたことにオーサイスは少し焦り始めていた。と言うのもカルノタウルスの子供やカリコテリウム、そして今回のことも含めれば三度目の誤解となり自分の信用と立場がいよいよ危うくなるからだ。


「魚が欲しいの?」


「貴様はナクア…なんだその成りは」


そんな問いに答えるように全身ずぶ濡れになったナクアが姿を現す。まるで何処かで素潜りをしていたような有様にオーサイス達は怪訝な顔をする。


「魚ならここにあるよ」


「なっ…何でそんなのを持っているんですか?」


ロイルは取り巻きである彼女の手にピチピチと生きの良い魚が握られており、素潜りをしていたことはもちろんタイミング良く持って来たことに開いた口が塞がらないでいた。


「リリー達が捕ってきて頼んだの!」


「急に頼まれたからびっくりしたよ〜」


「リリーちゃん、いつの間にその人と仲良くなったの…」


どうやら事情を知っているリリー達が手回しをしてくれたようだが、ナクアと親しい間柄になっていたことに今度はエインが唖然となる。


「僕からは干し肉を提供するよ。これでどっちかハッキリするでしょ」


「この魚を与えれば良いんだよね」


サンボは干し肉を、そしてナクアは捕ってきた魚をネイルに差し出してみる。すると抑えつけられて暴れていたネイルは空腹だったのか両者を目にして匂いを嗅ぎ始める。


『…クオオオ』


「…干し肉よりも魚が好きみたいだね」


ネイルはサンボの干し肉には目もくれず、ナクアの持ってきた魚をペリカンのように丸呑みにし、立証されたことで干し肉は彼のお腹に納まることとなった。


「これで分かりましたよね?このモンスターは魚しか食べないことが」


「ではその前脚は何だ!それで引き裂いたのではないか!」


肉を食べないどころか眼中にないのなら人を襲う理由はまずない。そのことにより焦るオーサイスはネイルの前脚のことについて言及する。


「それを言ったら前の馬面のモンスターだってそうですよ。鉤爪があるからと言って必ずしも人を襲うとは限らないですし、被害者は鉤爪で引き裂れた後に必ず身体を食べられています」


「ラスコさん!」


白衣をはためかせながらラスコが雑踏を掻き分けて、眼鏡の奥の鋭い眼光を光らせながら自分なりの考察を述べてくる。


「だからと言って人を攻撃しない訳でもないだろう!」


草食性のモンスターでも時と場合によっては人を攻撃する場合だってある。オーサイスはネイルが捕食はしなかったものの、やはり鎌のような鉤爪で人を殺したのではと食い下がる。


「捕食以外で襲う場合があるとすれば縄張り争いや身を守るため…いずれにしてもこれまでの被害者には捕食以外の行動ではまずあり得ない傷痕がありました」


証拠や証明などを重んじるこの国だからこそラスコはある証拠を持ってきたらしく、懐からカーブした鋭く尖った白い手のひらサイズの物を見せてきた。


「それってもしかして…()ですか?」


「そうです。これは被害者の身体の中に残っていた()()()()()()()()()です」


それはラーナの言い当てた通り生き物の歯だった。それも形状からして肉を裂くに適した物で、ラスコは被害者の司法解剖に立ち会い、その際に体内に残っていた歯を見つけていたのだ。


「そうか!その歯とこのモンスターの歯が違えば立証になる!」


「その通りです。ではちょっと口を開けて…おや」


またしてもラーナが答えを言い当てたところでラスコはその歯を手にネイルの口の中を見るが首を傾げた。


「…やはりこのモンスターは引き裂きジャックではありません」


「おい、見比べてもいないのに何故そんなことが言える」


自分達が見る前にいきなり結論を出したことにオーサイスは機嫌が悪くなる。何が分かったかは不明だが自分だけ何もかも分かって勝手に進められれば誰だって気に食わないと思うだろう。


「ご覧なさい。比べるどころか()()()()()()()んですよ」


しかしながらそう結論づける理由はキチンとあった。なんと驚くことにデイノケイルスの(くちばし)の中には食物を噛み砕くための歯が一本も生えていなかったのだ。


「歯がないだと…」


「そうです。これではこの歯が死体から見つかった理由が成り立ちません。つまり引き裂きジャックはこのモンスターではありません」


デイノケイルスに歯がないのでは被害者の死体に歯が残ることはまずあり得ないため、引き裂きジャックとして疑うのは成立しなかった。


「じゃあ、やっぱりネイルは無実なんだね」


「っオーサイスはまた濡れ衣を着せたってことだね」


ホッと大きな胸を撫で下ろしているメロルを網から出すラーナはこれまで手柄を横取りしてきたオーサイスに仕返しするように吐き捨てる。


「だ…黙れ黙れ!貴様らそいつの知り合いなのだろう!全員で俺を嵌めようとしているんだな!」


それが引き金になったのかオーサイスは異論を唱えた人間達がエインと関係が深いことを逆手に取って贔屓(ひいき)を疑う。


「それこそ言い掛かりだよ!もうエイヌちゃん達を解放して!」


「言い掛かりであるものか!それなら現場に残されていた爪痕は何だと言うのだ!そもそもその歯も死体の破損も捜査の目を眩ませるためのカモフラージュとも言えるだろ!」


ラーナが止めるのも聞かずオーサイスは剣を抜き、ネイルを始末しようと剣を振り上げる。


「止めて!」


「邪魔をする…っ!」


それをエインが組み付いて止めようとして来るのだが、オーサイスは彼の(また)が足に当たったことでとある違和感に気が付いた。


「貴様…男なのか!」


「ええっ!?エイヌちゃんって…男!?」


「うっ…」


メロルにも同じ方法でバレてしまっていたが、オーサイスは興奮していたこともあって大声で正体をここにいる全員に明かされてしまう。


「モルマ先輩、どう言うことなんですか!まさかずっとあたしのこと騙してた上で先輩は男と一緒に過ごしてたんですか!?」


敬愛しているモルマからエインを女だと信じ込まされた上に、慕ってきた自分よりも男であるエインを側に置かれたことにラーナは強いショックを受け、せめて外れて欲しいと食い気味でそんな質問をする。


「ごめんなさい…そうなの。でも分かってちょうだい、これはあくまでも捜査のためであなたが考えているようなことは…」


「先輩の…バカぁ!?」


無情にも自身の疑念は確信となり、ラーナは大粒の涙を大きな瞳から流しながら走り去っていく。


「見ろ、やはり怪しいではないか!性別を偽っている者の言うことなんて信じられるか!」


悪口を言っていたラーナが泣いていたのを見て溜飲(りゅういん)が下がったのか、満足そうに笑いながらオーサイスは再び剣を抜くが傷痕が目立つ手のひらが柄を抑えていた。


「可愛い弟子の不始末は私の不始末だ。まずは私に話を通して貰おうか」


「シスカさん!」


顔は笑っているが獣のような攻撃的な本性を隠しきれない様子のシスカがオーサイスを睨みつけると同時にエインを守ったのだった。


「色々頑張ったな。早くそいつを逃がすんだな」


「はい!ありがとうございます!」


シスカがオーサイスを止めてくれるお陰でエインは黒曜石のナイフで網を切断することに専念出来るのだった。


「おい!誰かそいつを抑えろ!」


何人かは無実と言うこともあって手出しはしてこなかったが、やはり貴族の命令には何人かは逆らえないらしく躊躇いながらも取り押さえようとしてくる。


『グオオオオ!』


『ガルルル!』


「フォーク!ロボも!」


しかしそんな人間達をフォークは巨体で押し退け、ロボは吠えたり噛み付いたりして網を切断するエインと濡れ衣を着せられたネイルを守ろうとしていた。


「エイヌ!よくも私の心を(もてあそ)んでくれたな!」


「うわっ!?」


しかし別方向から女装に騙されたことに激昂したナルスがエインにズカズカと寄ってきて乱暴に掴みかかられて黒曜石のナイフを落としてしまう。


「ゴンちゃん!お兄ちゃんを助けて!」


『ギァ〜!』


今度はゴンが身を(ひるがえ)して尻尾をナルスに向かって振り被る。


グシャン!!


「きょえあああああぁぁぁ〜!?」


「「「いいっ!?痛そう…」」」


ゴンの尻尾の先のモーニングスターはよりにも寄ってナルスの股間に命中してしまい、痛々しくも生々しい音と悲鳴が夜の静けさを破るように響き渡り、見ていた男性陣は口を揃えて同じことを言いつつも股間を押さえて縮こまる。


「あれ、何処に行ったんだろう」


取り敢えず邪魔者はいなくなったが、肝心のナイフを何処かに落としてしまい慌てて探していると、目の前に二本の黒光りする剣が刺さってエインは驚き尻もちをつく。


「エインくん!それを使ってー!」


「レーヌちゃん!これは?」


剣が投げられた方向にはレーヌがいて、エインに使って欲しいとのことだった。


「バリオンで助けてくれた時のお礼がまだだったから君の持ってるナイフと同じ物で双剣を作ったんだ!」


地面から抜いてみると見れば見るほどエインの持っていた黒曜石のナイフと同じく黒光りしているが、表面は岩特有の粗さが失くなって綺麗な刃の双剣だった。


「これなら…えい!」


『クオオオオオ!』


生体電流(パルス)も使わずに持ち上げて使える辺りエイン用に製作したのは間違いなく、彼は早速試し切りと言わんばかりに網を切り裂いてネイルを解放した。


「さあ、早くそいつを逃がしなさいよね!」


「トランちゃんも…皆、ありがとう!」


「ネイル、行こう!」


トランからも背中を押されてエインは黒曜石の双剣と見つけた黒曜石のナイフを拾って、メロルとネイルと共に避難用の通路へ通じる鉄の扉へと向かう。


『グアアアアアア!』


その時、不気味な鳴き声がナルスの声を上回る声量で響き渡り、騒がしくなっていた夜の街を再び静かにさせるのだった。


「何よさっきの鳴き声は…」


「今のってロボ達の鳴き声じゃないよね?」


『グルルル…!』


レーヌが聞くまでもなくロボ達は先程の不気味な鳴き声の主を警戒しているらしく唸り声を出していた。


「お兄ちゃん、今のは…ん、何これ?」


鳴き声にリリー不安になっており、エインに声を掛けるが肩に生暖かい粘液が付着していることに気が付いた。


「リリーちゃん、皆から離れ…そこから離れるんだ!?」


エインはリリーを心配するように視線を移した瞬間に血相を変えて叫ぶと同時に走り出し、対するリリーも何事かと動けなくなる。


『グアアアア!』


「きゃああああ!?お兄ちゃん!お兄ちゃああん!?」 


木の上からラスコが持っていたのと同じ尖った歯が並んだ恐ろしい口が見えたかと思えば、唸り声と共にものすごいスピードでリリーの服を咥えて木の上へと連れ去って行く。


「リリーちゃん!?」


「待て!篝火(かがりび)で木の上を照らせ!」


紛れもなく今のが引き裂きジャックであり、衛兵達はエインを止めるシスカに言われるがままに木の上を照らすとモンスターの全容がハッキリとする。


サイズは人間とほぼ同じぐらいの獣脚類だが、ラプトルを彷彿とさせるスマートな体型であり、一番の特徴はアンバランスとも言える前脚と長い鉤爪だった。


『グルルル…!』


「ドラゴン?…リザードマンか?」


「あれは…『ドリプトサウルス』ですよ」


暗闇に照らされた両者とも似つかない見た目のモンスターの名はドリプトサウルスと言うらしく、忌々しそうに木の上からこちらを下に見ていた。


「あれが引き裂きジャックの正体なの?」


「あの前脚と鉤爪…間違いない、あいつが連続殺人事件を起こしていた犯人だ」


そのアンバランスとも言える前脚と鉤爪を持つことから、捕らえた獲物をズタズタに引き裂いたと考えられ『引き裂くトカゲ(ドリプトサウルス)』と命名されたのだ。


「けど、どうしてリリーちゃんを?妊婦の人を狙ってるのは聞いていたけど」


これまで引き裂きジャックことドリプトサウルスは妊婦を中心に狙っていたが、何故にリリーを襲う理由がレーヌには分からなかった。


「待って、そう言えば今のリリーちゃんの姿って妊婦の人に見えない?」


トランに言われてよく見てみると、確かにリリーは卵の入ったリュックを前に背負っているため妊婦に見えなくもなかった。


「まさか…僕のせいでリリーちゃんが…!?」


自分が卵を受け取らずにリリーに預けたことでドリプトサウルスに狙われる切っ掛けを作ってしまったと思いエインは心臓を鷲掴みにされる嫌な感じが胸の内を支配する。


『ガルルル…!』


「ひゃあああ!?お兄ちゃんー!?」


「リリーちゃん!?リリーちゃんー!?」


そんなエインの心情と叫びを他所にドリプトサウルスは木々を伝って、助けを求めるリリーを咥えたまま暗闇の中に姿と声を消してしまうのだった。

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