『小さな』助っ人
「サンボはシロだな。様子を見ていたがあいつは単に魚が好きってだけらしいな」
後日、容疑者の一人であるサンボをマークしていたカルロスはモルマ達と合流して危険人物ではないと報告してくる。
「ロイルさんもシロね。彼女は元々港沿いの貴族だったらしくてね、魚はベビーフードの頃から食べてるから自然と多く注文していたらしいわよ」
モルマは下着泥棒の騒動の中でもロイルのことはマークしていたが、彼女も容疑者のリストから外すべきだと報告する。
「残る二人はまだハッキリしないけど、いずれ尻尾を出すはずよ」
残る容疑者も何かしら動きを見せるだろうから、白黒ハッキリさせるつもりだった。
「しかしお前ら、昨日はやたら騒がしかったけど何があったんだ」
「下着泥棒だよ!下着泥棒!エイヌちゃんが最初から事情を話してくれればこんなことにならなかったのに」
女子寮での下着泥棒の騒動は男子寮にも響いており、事情をラーナやモルマから聞かされる。
「お前…ぷふっ…モンスターのせいで、下着泥棒に間違われたのか…ぐふ…」
「何で笑ってるんですか」
「いやだって…ふふっ…絵に描いたような誤解だから…つい…」
確かに傍から見れば本でしか聞かないような誤解にカルロスも笑いを堪えていた。
「下着泥棒なんてしないとは思ってたけど、単なる誤解だったんだよね」
「うん、結局メイってモンスターが下着を巣の材料にするために盗み続けていたのが原因だったのよね」
「私も見たけど、身体が小さいから通風孔を通って女の子の部屋に出入りして下着を盗んでたとはね」
あの騒動の後でエインはメロルと騒ぎを聞きつけたラピスと共に出頭してきたが、彼女の口添えと男装したラピスの甘いマスクもあって下着泥棒の犯人がメイだと女子生徒達が理解してくれたお陰で濡れ衣は晴らされたのだった。
「そいつはどうしたんだ?」
「下着の代わりに新しい巣の材料を与えてケージに入れてるよ」
犯人であるメイは下着を盗んだこともあって、最初は女子生徒から怖がられていたが、要らない布切れを与えたら新しい巣を作って鳥のような寝方で眠ったために可愛がられるのだった。
「それでメロルさんの方はどうなったの?」
「…特に変わったとこはなかったと思います」
突然話を振られたことにエインはドキッとなる。と言うのも自分のことを庇って貰う代わりに彼女がこっそりと飼っていたデイノケイルスのネイルのことを秘密にして欲しいと約束したのだ。
それを守ろうとしたが良くも悪くも素直な性格であるため、思わず目線を逸らして変な汗も出てきてしまう。
「何か隠してない?」
「はえっ!?そ…そんなことは…ない…です」
「不自然なくらいに間があるな」
状況証拠で決めつける訳にはいかないが、ラーナとカルロスはエインの態度を怪しく思っていた。
「危険ではない…のは確かです」
視線を逸らし続けていたエインは少なくともメロルとネイルは引き裂きジャックではないと確信していた。
と言うのもデイノケイルスは確かに雑食ではあるが植物食寄りでしかも肉と言っても基本的に魚しか食べないため、人を積極的に襲って食らうことはまずない。そもそもビジョンを見る限りでは人を捕って食ったと言う記憶もなかったため、まず違うことは確かだった。
そのため自分達が追っている引き裂きジャックではないし、人が襲われる危険性はないと言うことでエインはそう言葉を濁すのだった。
「危険性はない…か。何を見たか知らないけど、少なくともそこは嘘を言ってないようね」
あんまり深く追求するのもどうかと思うし、そこだけはエインもしっかりと答えたためモルマも了承するのだった。
「おい、良いのか?あいつ絶対何か知っているんじゃないのか?」
「少なくとも彼の言っていることに嘘はない。本当に危険はないとは思うわ」
目を伏せることにカルロスは懐疑的になるがモルマはエインの言葉を信じている様子だった。
「取り敢えずメロルさんのことは一時保留とし、残るはロイルさんの側にいる彼女…名前はナクアさん。彼女の裏を取る必要があるわね」
「そもそも魚を生で食うなんてよほど珍しい事例だしな。何かあるのは確かだ」
ロイルの取り巻きにはラーナにも負けないほどの元気な少女がいたが、名前はナクアと言うらしく残る容疑者の一人であり引き裂きジャックと何かしらの関わりがないか調べることにする。
「彼女は私達が調べるけど、カルロスには代わりに昨日食堂に現れたと言う岩石トカゲのことを調べて欲しいの」
ナクアは当然モルマとエイン、ラーナで調べるがカルロスには昨日現れた岩石トカゲこと、アンキロサウルスのゴンのことを任せようとする。
「待ってください。その岩石トカゲのことなんですけど、多分知っている個体かもしれないんですよ」
「あら、そうな…って、もしかしてその岩石トカゲってもしかして…」
エインが岩石トカゲに心当たりがあると言ったところでモルマもその正体に気が付いた。
「何だか様子がおかしくてどうも気になるんですよ。それにどうやってここへ入ったのかも…」
馴染み深い相手のパートナーであるため、どうにも放って置くことは出来ないとエインは探す決意をしていた。
「思えばこの国にはたくさんモンスターがいますよね。何処から入っているのでしょうか」
「壁の穴は塞いだし、馬面のモンスターが見つかってからは検閲も厳しくなってるわ。引き裂きジャックはそれ以前から侵入しているけど、他に侵入出来るような方法ってあったかしら?」
「壁の穴の面積と木の幹に付けられた爪痕の高さからして体格が合わないな」
エインの言葉にレーヌは改めてモンスターの侵入経路を考えており、モルマもカルロスも他に心当たりがないことに首を傾げていた。
「けど、おかしいんじゃないのかな。馬面のモンスターを連れてきた黒幕は何をしようとしていたのか?それに引き裂きジャックはどうしてこの学校に…?」
「その二つは直接は関係ないんだろうな。きっと、偶然似たようなモンスターを引き連れた連中が複数いたんだろう」
今だ分かってない事件の真相をラピスは口にすふが、カルロスは二つの事件が同時に多発したと返答した。
「目的は不明だが一つのグループは馬面のモンスター、そしてこの学校に侵入した引き裂きジャックを引き連れている別のグループがいることだけは確かだ」
「そう言えばカリコテリウムと出会ったのはレーヌちゃん達と遊んでいる時だったし、引き裂きジャックとは関係ないのかも」
カリコテリウムと出会ったのは公園で遊んでいた時だったし、カイとカナが別のモンスターを目撃したのも単なる偶然で、それらが重なり合ったことで事態がここまで発展したのだった。
「いずれにしてもいち早く引き裂きジャックを見つけないと。今は大人しくしてても、またいつ被害者が出るか分かったものじゃないわ」
それを聞いたエインは少し考え込む。この学校には連続殺人を犯したモンスター『引き裂きジャック』を追って女装までして潜入したが、結局見つかったのは無害なデイノケイルスのネイルだけだった。
だとするのなら殺人を犯しているモンスターは別にいるのだが、それを知っているのはエインとメロルだけでこのままだとネイルが殺人モンスターとして殺処分されてしまうだろう。
いっそのこと話してしまうと言うのも手だろうが、一瞬オーサイスのことを思い出し口を閉じる。もしもそのことが彼の耳に入れば問答無用で始末されてしまうだろう。例え引き裂きジャックでなくとも…。
「ゴンちゃんを見つけたら、ネイルを何とかしないと…」
ゴンのことも気掛かりだが、ネイルのことも早く対処しないと悲惨な結末を迎えることだけは間違いなくエインは何とかせねばと意を決するのだった。
▷▷▷
「ゴンちゃん?リリーちゃん?」
エインはゴンと同時に一緒にいるであろうリリーを探して中庭に出ていた。
「食堂から出てここへ来たと思ってたけど」
「おやおや、お嬢さん、誰かをお探しかな?」
キョロキョロと辺りを見回していると食堂でナンパしてきたナルスと取り巻きの男子生徒が話しかけてくる。
「そうですけど、僕…いや、私には興味がないんじゃ?」
額の傷もあってナルスから興味を失っていることも含め、エインは一刻も早くゴン達を探し出すためにも立ち去りたかったがいつの間にか男子生徒に取り囲まれてしまう。
「それについては私も反省しているよ。傷ぐらいで冷たくあしらって悪かったね」
「よく見たら可愛いじゃん」
「俺達は気にしないよ〜」
手のひら返しと言わんばかりに取り囲んで近寄ってくるナルス達にエインは次第に木を背後に追い詰められてしまう。
「さあ、私達と共に愛を育もうじゃないか」
「私は他にやることが…うわっ!?」
「げほっげほっ!?何だこれは…!?」
完全に追い詰められてしまったエインの髪をナルスが触った瞬間、木の上からボールが落ちてきて破裂し煙が辺りに充満する。
「何だろう?でも…!」
よくは分からないがナルス達が混乱している間にエインはチャンスだと文字通り煙に巻くのだった。
「さっきの人達がいたらゴンちゃん達を探せないよ。どうしたら…ん?」
進展しないことに途方に暮れていると後頭部に何か柔らかい物が当たり、振り返ってみると丸められた紙が足元に落ちていた。
『リリーはメロルお姉ちゃんと一緒にいるよ!お兄ちゃんも一緒に来て』
「リリーちゃん…いつの間にメロルさんと仲良くなったんだろう」
それはリリーからメロルと共にいると言う手紙だった。まさかの内容にエインも目を丸くし、一緒にいるのなら例のボイラー室だと思いそこへ向かうのだった。
「リリーちゃん?」
「こっちだよ」
ボイラー室に辿り着いたエインはいるであろうリリーの名を呼ぶと、暗がりから姿は見えないが幼い声が聞こえてきた。
「まさかリリーちゃんがここにいるとは思わなかったけど、ゴンちゃんはどうしたの?」
「ふ…ふふふっ…」
「あれ、声が何かおかしいけど…うわあっ!?」
声を頼りに近寄るとリリーの笑い声が変わっていくことに首を傾げていると、手首を掴まれて床にねじ伏せられてしまう。
「こうも容易く捕縛出来るとは思わなかったでござる」
「あなたはあの時の…」
ねじ伏せてきた相手は何処か見覚えがあると思えば、昨日自分を追い詰めて来たくノ一のような女子生徒のハヤテだった。
「お嬢様の下着を盗んだのはモンスターのようでござるが…その前にメロル殿に連れられて何やら怪しい密会をしていたでござるな?」
下着泥棒の騒ぎの時にハヤテはエインの動向を探っていたが、メロルと共に何処かへ去って行くのを見ており、しかもその後で真犯人であるメイを連れてきたことを怪しんでいるようだった。
「突然編入されたかと思えば講義であそこまでの知識、それに加えてこの騒動を起こしてメロル殿と怪しい密会…それから暫くの間は見張っていたでござるが何を隠しているでござる?」
やはりこれまでの行動で怪しまれていたらしく、ハヤテに探りを入れられていたようだ。
「まさかリリーちゃんの手紙は…」
「拙者が書いたでござる。先程から口にしていた人物の名前を利用させて貰ったでござる」
今思えばあの手紙も不自然だった。ゴンがいることは分かっていたが、リリー本人がいると言う確認は取れていなかったのに、示し合わせたように手紙が投げ込まれるなんておかしいとこだらけだった。
「途中でナルス殿の邪魔が入ったでござるが、思いのほかここまで事が進むとは思わなかったでござる。さあ、ここでメロル殿と何をしていたござるか」
ナルス達を追い払ったあの煙玉はハヤテが投げ入れた物のようだ。
「何でここだと分かったんですか」
「動向を探るにエイヌ殿は通風孔ら入浴場に落ちて、メロル殿を押し倒す騒ぎを起こしたのにも関わらず、下着泥棒の騒動の際にはまるで助けるように手を引いていた…恐らく裏で何かしらの取引をしており、円滑に進めるために密会する場所があると踏んでメロル殿の名前を使わせて貰ったでござる」
くノ一のような見た目だから寡黙かと思えば、ハヤテはエインをねじ伏せたことで生殺与奪を奪ったと思い色々と打ち明けてくれた。多少の誤解はあるもののメロルの秘密を隠す取引をしたことは間違いないためドキリとなる。
「さあ、ここで何をしていたでござる?吐かぬのなら関節を外すでござるよ?」
脅しではないと関節を決めて軋ませるハヤテ。頭巾とマスク越しではあるもののほくそ笑んでいることは間違いない。
「ビュンちゃん!お兄ちゃんを助けて!」
『シャアー!』
「ぬあっ!?目が…!?」
しかし背後から幼い声が聞こえたと思えば鳥のような生き物がハヤテの顔面に貼り付き、羽毛に覆われた何かが彼女の視界を遮ったのだ。
『ギァー!』
「がはっ!?不意打ち…不覚!?」
視界がハッキリしない内に今度は背後から硬い鎧を身に纏った戦士に体当たりされたかのような衝撃を受けてしまう。
「お兄ちゃん!」
「「大丈夫!?」」
『ギァ〜!』
「リリーちゃん!それにカイくんにカナちゃん!ゴンちゃんも!」
今度こそ本物のリリーであり、その側には食堂の時とは違い落ち着いた様子のゴンとカイとカナがいた。
『ギャア』
「ビュンちゃん、ありがとう」
ハヤテの顔面からビュンちゃんと呼ばれるミクロラプトルが離れてリリーの側に寄ってくる。
「まさかモンスターを引き連れた幼子とは…」
「お兄ちゃんをイジメないで!」
不意打ちを受けたこともだが、思わぬ相手が現れたことにハヤテも面食らうが聞き捨てならないことを耳にした。
「お兄ちゃん…?まさかエイヌ殿は女ではなく男…!?」
「あ…!」
激情の余り真実を喋ってしまったことにリリーは慌てて口を閉じるも、ハヤテの目の色は完全に驚きに染まっていた。
「見事な変装。しかしますます持って怪しいでござる。捕縛は不可能でござるが、このことはお嬢様に報告させて貰うでござる!」
驚きの真実とこれまでのことをロイルに報告すべく、ハヤテはボイラー室から駆け抜けようとする。
「む?青白い光…がはっ!?」
しかしエインに視線を移すと全身が青白く発光しており、そのことに注意が反れていると背後から強い力で上から抑え込まれてしまう。
『クアアアアア!』
「「あー!あの時のモンスター!?」」
「ありがとう、ネイル」
その正体にカイとカナは公園で見たモンスターだと叫ぶ。そう、出てきたのはボイラー室の奥にいたネイルの前脚であり、エインは生体電流で意思疎通をしてハヤテを傷つけないように覆い被させたのだ。
「何か騒がしいと思ったら…尾けられたの?」
「ごめんなさい、そうみたいで…」
「くっ…不覚」
暫くしてメロルもネイルのためのエサを持ってくるが、何やらボイラー室が騒がしいと思えばロープでぐるぐる巻きにされたハヤテを見て最初は唖然となるも、すぐに何があったかは理解したのだった。
「まさか隠していたのがモンスターをこっそり飼育していたこととは…」
「そう、こんなのがいたら今頃大騒ぎだし殺処分にされちゃうでしょ」
こうなっては仕方ないとエイン本人から秘密を打ち明けたらしく、メロルもやれやれと言った様子だった。
「許可なくモンスターを飼育するのは違法でござる!それにエイヌ殿…もといエイン殿は男で偽名を使い女子寮に侵入した!これも深く掘り下げなくとも違法でござる!」
危険性はそれほどないとは言え、エイン達のやっていることは違法だとハヤテはまくし立てる。
「そうだ、実はメロルさんに話したい事があるんだ」
「へぇ?愛の告白?」
「このままだとネイルが『引き裂きジャック』と間違われて殺処分されちゃうよ!」
冗談を言うメロルだがエインは真剣な様子で自分の考えを打ち明けるのだった。
「なるほどね…確かにこのままだとマズいわね」
話を聞いたメロルも真剣な面持ちになり深刻な顔を浮かべる。
「ここから移動させないと。ハヤテさん以外の人がここを嗅ぎつけるかもしれないし」
「でも、何処に移動させるの?」
助けたい一心で何処かへ移り住ませたいのは分かるが、カイの言う通り何処へ向かわせるかが問題だった。
「…こっそり王国の外に出すのは?」
「それが出来ないからここにずっと住まわせてるんだけど…」
メロルも最初は卵から孵してずっと育ててきたが、いつの間にか自分の身長を上回るほどに成長したネイルを自然に返そうとは思っていたが、ここは検閲が厳しくて外に出して散歩させるのも一苦労なため断念していたのだ。
「ハヤテさん。ハヤテさんは誰にも気付かれないでここまで来たけど、もしかしてあなたなら…」
「まさか拙者にお嬢様を裏切れと?」
人を欺くことに特化した技術を持つハヤテを見て、彼女ならば何とかなるかもしれないと思うも嘲笑うかのように突っぱねられてしまう。
「協力してくれないと困るよ。あなたは色々と知り過ぎたんだからね」
「お願い、リリー達に力を貸して」
自分達の秘密がハヤテのみに赤裸々になったのは不幸中の幸いだった。しかし協力してくれれば隠蔽は訳ないだろうが、そうでなければ厄介なことになるのは間違いないため何とか食い下がろうとする。
「ふん、知ったことか。そもそもお前らが全て悪いのだろう」
「どうしようかな?このままにしておく訳にもいかないし」
しかし取り付く島もないとハヤテはメロル達の提案には乗ってくれなかった。
「お姉ちゃんはどうしてそんなの被ってるの?」
「うん、顔がよく見えないよ」
「なっ…そ…それには触れないで欲しいでござる!?」
カイとカナは好奇心からかハヤテが顔を隠していることに興味を持ち始めると彼女は慌てた様子を見せる。
「「見せて見せて〜!」」
「うわっ!?」
しかし二人は構わずハヤテの頭巾とマスクを取り払い、その下にあふ長いまつ毛が生えた大きな二重まぶたの目を持つ整った小柄な顔が露わになる。
「綺麗」
「あ…ああ…きゃあああああ!?」
素顔を見たエインが思わずそんな言葉が出るほどの美顔だと言うのに、ハヤテはリンゴのように顔を真っ赤にすると同時に涙目になって鼓膜が割れんばかりの悲鳴を出す。
「やだやだやだやだ〜!?見ないでぇ〜!?」
「え、どう言うことなの?」
「顔を…って、これじゃ隠せない!?これ解いてぇ!?」
「そんなに顔を見られるのが嫌なの?」
よく分からないがハヤテは顔を見られたのが死ぬほど恥ずかしいらしく、口調も年相応になってしまい顔を隠そうとするも、縛られているため叶わずに動揺してしまっていた。
「あ、これだ!」
「「あ、パンツ見えてるー」」
空箱を見つけるなりハヤテは慌ててそれに頭を突っ込んで隠そうとするが、まるっきり頭隠して尻隠さずな有様になっており先程までの雰囲気が形無しだった。
「へぇ〜、パンツを見られるよりも顔を見られたのがそんなに恥ずかしいんだ〜」
「くぅ…拙者の一族は表立って活動することを禁じられており、特に顔を見られるのは裸を見られるよりも恥ずかしいと教えられたから…」
空箱を被って少し落ち着いたのか幼少の頃から厳しい習慣があったことを話すハヤテ。
「でも綺麗な顔だったよね」
「うん、僕もそう思うよ。顔を出した方が良いよ」
「やだやだやだやだ〜!?止めて〜!?恥ずかしい〜!?」
エインもリリーも屈託のない様子で率直な感想を述べながら空箱を取ろうとするが、やはりハヤテは素顔を晒すのを嫌がるのだった。
「それじゃあ、私達の協力をしてくれる?」
「そ…それとは話が別…」
「このまま素顔を皆に晒しちゃおうかなぁ〜?」
「ひっ!そ…それだけは…!?」
「じゃあ、協力するよね?ね?」
エインの時もだったが、メロルはハヤテの秘密を握ったことで完全に優位に立って取引を進めるのだった。
「このモンスターは危険じゃないけど、このままだと殺されちゃうよ。国の外に連れ出すまで協力してくれれば良いんですよ」
「くぅ…侮ったためにこんな…不覚だ」
あくまでも主人たるロイルを裏切るのではなく、無実の者を守るために隠蔽工作を手伝って欲しいと言う内容であるため、自身の秘密を守るためには背に腹は代えられないと折れ屈辱を受けるのだった。
「それでまずはどうしたら良いかな」
「夜になったらネイルを外に連れ出そう」
活動するのなら夜になって人々が寝静まった時が一番だと考える。
「後はどうやってカモフラージュして外に連れ出すかね」
「ハヤテさん。どう思います?」
残る隠す方法と道のりはハヤテの協力が必要不可欠だろうと考えて彼女を見つめる。
「拙者にそれを調査しろと言うことでござるか」
「お願い〜…」
辛酸を舐め続けられたハヤテからすればエインもメロルも目の敵にしか見えなかったが、リリーの上目遣いのお願いに思わずたじろぐ。
「…これまでのことを秘密にしてくれるのなら、今回だけは協力するでござる」
「ありがとうございます!リリーちゃんもありがとう」
「えへへ…そうだ、お兄ちゃんにこれを持ってきたんだけど」
ハヤテの協力を得られたのはリリーのお陰だと頭を撫でていると、彼女は思い出したようにパンパンに詰まったリュックから何か取り出す。
「この卵がね、お兄ちゃんを探してたの」
「これはあの時の卵…僕を探してた?」
リリーがリュックから出したのは山賊の砦でボスのボビンが獣人達を抑える切り札として後生大事にしていた卵だった。
「僕達にも分かるよ」
「卵がお兄ちゃんのことが大好きなのを!」
この卵の本来の持ち主はそこで出会ったカイとカナ、それにアレッサとマルス達獣人が大切にしていた物なのだが、二人も卵がエインを必要としているとハッキリ告げてくる。
「でも、どうしたら…」
獣人達に返したはずなのにまた自分の所に戻って来るとは思わなかったが、今はネイルを無事に国の外に連れ出すためにもそれどころではなかった。
「ごめんね、ネイルを外に連れ出したら改めて受け取るよ。今はまだリリーちゃんが持ってて」
「分かったよ」
取り敢えず今はまだリリー達に卵を預けるのだった。しかしこの行動がエインを後悔させることになるとは夢にも思わなかったのだった…。




