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容疑者は魚臭い

グランドレイク王国を始め、全ての国がこの異世界に来てから幾つかの機関や組織が麻痺し、特に周囲の環境が一気に変わったことで農相や、学校などの教育機関などが一時的にストップしていた時期があった。


しかし徐々にこの異世界に慣れ、元の機能を取り戻しつつある所もあり、特に軍候補生を育成するキプロニアス王国の教育機関の『セレイヤアカデミー』は他の国よりもいち早く立ち直ったとされている。


「えー、皆さんに留学生を紹介します」


そんなアカデミーの教室には軍候補生となる少年少女達が軍服のような制服を着用して着席し、同じ制服を着用した四十代ほどの男性教師から留学生を紹介される。


「入りたまえ」


「は…はい!うわっ!?」


上ずった声と共に教室の外にいた生徒が入ってくるが勢いよくドターンと転んでしまい別の意味で生徒の注目を集めてしまう。


「いたた…」


「大丈夫かね?緊張しなくていいぞ」


先生に支えて貰うと同時に励まされながら生徒は何とか立ち上がる。


「では、自己紹介を頼む」


「はい!えっと、僕…じゃなくて、私はエイン…いや、エイヌ・デルマンって言います!モルマさんとは従姉妹(いとこ)になります!」


自己紹介をした女子生徒の正体はエイヌ…ではなく、その正体は学校に侵入した引き裂きジャックを見つけるために女装して潜入したエインだった。彼は初めての学校に来たことで緊張していた。


「私は付き人のラピス・ルフォード。よろしくお願いします」


「「「きゃあああ!」」」


(何で私はわざわざ男装を…)


次に自己紹介をしたのはエインと同じく潜入したラピスなのだが彼女はエインとは逆に男装していた。何もしなくても美男子と思われていたのに、しっかりと男装したために女子生徒から黄色い声を浴びせられる。


「二人はまだ知らないことが多いため誰か教えて貰って良いですか?」


「トレイア先生、従姉妹のことなら私に任せてください」


「よし、モルマくん。君の従姉妹にここを案内してくれ」


トレイアの呼び掛けに応じたのはモルマだった。従姉妹ならば何も問題ないだろうと丸投げするのだった。


「ここが学校…何だかスゴいなぁ」


「こう言うのは初めてなの?」


着席したエインは自己紹介が終わってもドキドキが止まらず落ち着かない様子だった。


「とにかく私達の目的はモンスターと黒幕の正体を明かすことよ。こう言うのは聞き込みが重要よ」


「でも、スゴい人数がいるのに一人一人聞くなんて…」


「なにも全員に聞く訳じゃないわ。とにかく後で詳しく話すわ」


側にはモルマが控えており、エインとラピスに後で詳しく段取りをすると話す。


「えー、ですからここは」


「ほわぁ…これが学校…」


潜入とは言え生徒として授業を受けるエインは教えられる内容に目から鱗が落ちたかのように目をキラキラさせていた。


「お前、学校行ったことないのか」


「僕は元の世界では捨てられて…ずっと一人だったから」


エインは無能や役立たずと蔑まれた上に親からも捨てられ、街外れでずっと一人で人と離れて生活していたため学校は行ったことがないのだ。


「そう…だったか、悪かった」


知らなかったとは言え、心の傷を抉るようなことを聞いてしまったとカルロスはバツが悪そうにする。


「学校って初めて来たけどワクワクしてドキドキするね」


「もう一つ失礼で聞くけど、学校に行ってない割には言葉が流暢(りゅうちょう)だし、ある程度のことは分かってるよね。誰かに教えて貰ったの?」


そんな境遇を聞いていたラピスはエインが自分達となんら差し障りもなく会話が出来たり、ある程度の常識を心得ていることに疑問を覚える。


「お父さんとお母さんから教わったり、僕に仕事をさせた人から色々と…」


話を聞くに両親からはもちろんだが、追いやられた場所で家畜の世話や農作業などをさせるためにそこの責任者から渋々ながら色々と教えられたと言う。


「その人は他の人達と違って、失敗しても殴ったり蹴ったりせずにキチンと教えてくれたせど、三年前に死んじゃって…後はその人が遺してくれた本とかを読んだりとか」


「なるほど、壮絶ね」


恐らく責任者としての務めからか或いは世話焼きだったかは不明だが、少エインに取って一年間ではあるが、ある程度のことを教えくれた恩師であったことは確かだ。


「それで君は女装や女の人と一緒にお風呂に入っても何ら気にしなかったんだね」


教えられたことと言えばだいたいが農作業や仕事のことと極端であったため、友人など人との関わりを持たなかったエインに取って女性との距離感や羞恥心などが欠如していたため、女装や混浴でも平然としていたのだ。


「そこ、何を話しているのですか」


思わず話を聞き込んでしまい、教師に注意されてしまう。それから数式や歴史など様々な授業を受けていき、その内容を理解出来なくてもエインの好奇心を強く刺激し続けた。


「では、最後にこの異世界のモンスターについての授業をしましょうか」


そう言うと担当をしていた教師は小さな鳥かごのような物を教卓の上に置く。


『ギィー、ギィー』


中に入っていたのはニワトリサイズの肉食恐竜だった。首と尻尾が細長く、二足歩行をしているがトカゲと言っても誤魔化せそうな見た目をしていた。


「この異世界には我々の知らないモンスターが闊歩しています。よく観察して皆さんなりの考察纏めてみましょうか」


軍候補生となるのならこの異世界のモンスターの生態に詳しくなる必要がある。それを理解した軍候補生の生徒達は近寄って観察するも誰も考察を纏めれなかった。


「これは『コンプソグナトゥス』。身体はとても小さく非力でスライムにも負けるため、死体を漁ったり小動物や虫などを食べます。また群れを作ることで場合によっては大きな獲物を…」


しかしそれをただ一人纏めた者がいた。これまで転入生と言うこともあり、答えられないであろうと思っていたエインが、突如としてコンプソグナトゥスの生態を事細かく言い当てたことで生徒達からだけでなく教師からも注目を集めてしまう。


「どうしたの?まるで別人みたいだったわよ」


「潜入しているのに変に目立ってどうする」


「ごめんなさい、僕にも何が起きたのか…」


時間は昼休みとなるもそのことでモルマから心配されカルロスからも注意されてしまう。しかし先程はエインも無意識の内にやってしまったらしく、本人もどうしたら良いか分からなかった。


「取り敢えずこれからのことを話すわ。モンスターが女子寮にいると言うことは女子生徒が何かしらの手掛かりを持っているはずよ」


「俺は男の方に聞き込みをするからな。そっちの方は任せたぞ」


カルロスは男子生徒きと聞き込みに向かい、残る三人は女子生徒の聞き込みに向かうこととなる。


「けど、女子生徒と言っても結構な人数がいるけど、絞り込む方法って他にあるのかい?」


「残念だけどここはダメ元で色々な人に聞くしかないわ」


男子と女子とで分かれて聞き込み調査をするようだが、分けても相当な人数がいるため他に何か絞り込む要素があるのかとラピスは訊ねるも数をこなすしかないとモルマは答える。


「モルマ先輩!その子が先輩の従姉妹なんですか?」


「あら、ラーナじゃない」


そこへ元気いっぱいの八重歯を生やしたピッグテールヘアの少女がモルマに話しかけてくる。


「紹介するわ。私の後輩のラーナよ。元気で何でも一生懸命頑張るんだけど…」


「幾ら従姉妹でもモルマ先輩は渡さないよー!」


「ちょっと我欲が強いと言うか、負けず嫌いなのよね」


第一印象からして元気印だと言うのは分かったが、それとは別にモルマを敬愛しているらしく例え従姉妹であっても譲らないと言わんばかりに舌をエインに向かって出してくる。


「ちょうど良いわ。ラーナ、ここ最近何か変わったことは起きていないかしら」


「変わったことですか?例えばナルスのアホが糞を踏んづけたことですか」


恐らく気に食わない相手なのか、ラーナは質問に対してナルスと言う人物が酷い目に遭って滑稽(こっけい)だと話してくる。


「糞…それって馬の糞とかってこと?ここから厩舎(きゅうしゃ)は離れているはずよ」


「そうなんですよね。糞の後始末はちゃんとして貰わないとダメですよね〜」


「それでその場所って何処なの?」


糞と言うことはこの学校で飼育している馬と言うこともあるが、引き裂きジャックの落とし物の可能性があるためモルマ達はその場所へと向かうのだった。


▷▷▷


「この中庭です」


案内されたのは花や観葉植物が育てられている庭園で、他にも何人かの生徒がいてお茶をしたり、草花のお世話をしたり、掃除をしたりと各々やりたいことをやっていた。


「見た感じは何ら変哲があるようにも見えないけど」


「取り敢えず聞いてみましょうか。ここを利用している人なら何か異変に気が付いているはずよ」


パッと見は特に変わった所は見られないが、きっと誰かが何かしらの異変に気が付いているはずだとモルマは聞き込みを始める。


「変わったことですか?そう言えば花壇の花が荒らされていたことがありましまが…」


「そう言えば最近どう言う訳か魚の骨が捨ててあるんだよ。誰かが猫かに餌をあげてるのかな」


「誰かが庭園の置物を荒らしたり、糞をそのままにしてるんだ。管理している私に取ってははた迷惑な話だよ」


モルマの言う通り花壇の手入れをしていた女子生徒、お茶を飲んでいた男子生徒、庭師の男性などに聞き込みをすると幾つかの証言を得られた。


「間違いないわ。やはりジャックはこの学校内に侵入してるわ」


「だったら何処に隠れてるんだろう?カイくんとカナちゃんの話だと相当大きな身体をしているらしいし」


「むぅ〜、先輩!何の話をしているんですか」


自分の知らない話をしているエインとモルマの関係に嫉妬したラーナは大きめの声で話し掛ける。


「そうね…あなたなら問題ないでしょうけど、内密にしてちょうだいね」


出来るだけ知っている人間は少ない方が良かったが、成り行きで付いてきてしまったラーナにはある程度信頼を置いているのかモルマは事情を話す。


「ええっ、連続殺人事件を引き起こしたモンスターと手引きした黒幕がこの学園内にいるんですか?」


「そうなのよ。だから学園内で何か異変があれば、それはきっと引き裂きジャックの仕業と考えて良いわ」


「でも、そんな殺人鬼がいるのに誰かが殺されたと言うことはまず聞かないんですけど」


話を聞いたラーナもその内容に驚くものの、それだけのことをしたモンスターが学園内ではきな臭いことを起こしていないと告げてくる。


「そのモンスターは特定の人しか狙わないから、ここでは誰も殺さなかったのかも」


「特定の人って?」


「それが非道なことに犠牲者の多くが妊婦なんだ」


引き裂きジャックは主に妊婦を狙っていたため、学園内ではまず殺人は起きなかったのだろう。しかしそれを聞いていたラーナはムッとした表情になっていく。


「何それ!女の人ばっかり狙うなんて最低!どうせならバカでアホな男を狙えば良いのに!」


殺人に怒っているのかと思えば、ターゲットを女ばかりにしていることが気に食わないようだ。


「こら、ラーナ。不謹慎よ」


「だって先輩!男なんて皆エッチで品のないことばっかりだし、バカでやることすること最低なんですよ!」


よほど男性と何かあったのか毛虫やナメクジでも見るかのように吐き捨てるように言い放つラーナ。


「彼は男なんだけど?」


「それは最初はうわって思ったけど、話してみてあなたは顔も良いし問題ないって思ったから」


モルマは男装したラピスは大丈夫なのかと訊ねるも、面食いと言うべきかラーナはラピスは大丈夫なようだった。…元々ラピスは男性ではなく女性であるため反応としては間違ってはいない。


「彼女は男が嫌いなのかい?」


「この子、小柄で子供っぽいけど結構発育が良いから男に身体目的で近寄られたことがあるから…」


確かに子供と間違うぐらい背丈は低くく、エインより少し高いぐらいだった。その割には胸の辺りがふくよかであり、やましい男が一人や二人近寄ってもおかしくなさそうだった。


「とにかく君は男だってバレないようにしてね」


「はい…」


潜入する前にも念押ししたが、女装がバレればラーナだけでなく他の女子生徒からエインは粛清されてしまうため、モルマは再度エインに注意喚起するのだった。


「ここでの聞き込みはこれぐらいかしら」


取り敢えず中庭での聞き込みはこれぐらいにして、次の場所へと移動することにする。


「次は何処を探すんですか」


「そうね…魚の骨があったことを(かんが)みるにモンスターが魚を好むのは分かったわ。だからきっと魚のある場所に何か手掛かりがあるかもしれないわ」


カイとカナの証言、中庭での聞き込みでモンスターが魚を好んでいることが分かったため、今度は魚を取り扱う場所である食堂や食糧庫に向かうことにする。


▷▷▷


「魚かい?そう言えば最近は魚をよく注文する人が多いんだよねぇ」


「お陰で魚料理が上達したのよね」


食堂で聞き込みをするとコック達は口を揃えて魚料理がよく注文されると話す。


「けど、変なんだよな。料理するとかならまだしも、生魚のままで注文してくる人もいたんだよなぁ」


魔法もスキルが失われた上に冷蔵庫なんて存在しないため、腐敗しやすい魚は基本的に調理するか塩漬けするのに、中には調理せずに生のままで魚を食べる人もいたようだ。


「生魚…と言うことはもしかしてモンスターの餌にしてるんじゃ」


「あり得るわね。その人ってどんな人?」


ラーナとモルマは魚を生のまま大量注文するのはモンスターに食べさせるための餌に使うためだろうと考えてその人物について聞き込みを行う。


「いや、それが四人ぐらいいるんだよ。魚をたくさん頼んだり、生のままで食べる人がさ」


聞き込み調査だからコック達は応じるものの、心当たりのある人物は四人いると答えてくる。


「一人はあそこのぽっちゃりした人のサンボさん。あの人は魚料理をよく注文するんだ」


エイン達は食堂にて一休みをするついでに、話にあった人物についてカウンター越しに眼鏡をかけた少年コックから教えて貰う。


「フィッシュフライと魚の煮付けに焼き魚をくださ〜い」


「怪しい…のかな?」


一人目はまず単に食いしん坊で魚が好きと言うだけで例え生魚でも平気で自分で食べそうな感じだったため容疑者かは断言出来なかった。


「次はあそこのお嬢様のロイル様。お上品な印象はもちろん文武両道で誰からも好かれる人で、主に魚料理を注文するんだ」


「フィッシュアンドチップスを所望しますわ」


ロールした赤髪に吊り目のお嬢様が注文する中で話をしてくれるコックは羨望の眼差しで見ていた。生徒とコックとしての間柄だが、憧れるのは別問題と言うことだろう。


「それでその側に控えている女の子の中で…ほら、あの活発そうな女の子。あの子が魚を生で食べたがるんだ」


「私は生魚をお願い」


ロイルの取り巻きの一人であるラーナにも負けないほどに活発そうな女の子は調理をしていない生の魚を注文していた。


「それと最後のが…ほら、あそこの人、メロルさんって言うんだけど…」


コックはロイルの時よりも食い入るような視線をその人物に向けていた。と言うのもルシアンよりも魅惑的なボディラインを誇る女子生徒のメロルが注文をしていた。


「う〜んと…生魚をください。それと魚の煮付けにフィッシュフライもね」


彼女はサンボにも負けないほどに生魚を始め、たくさんの魚料理を注文していたのだ。


「メロルさん、いつ見てもドキッとするなぁ…」


「はあ…男はこれだから」


たくさんの注文をしたメロルはトレイを歩く度にポヨポヨ揺れるに載せて運ぶ様子にコックはうっとりした表情で見ており、ラーナは軽蔑(けいべつ)するような視線で彼を見るのだった。


「あの四人の誰かがモンスターを(かくま)っているのかな?」


「怪しいと言えば怪しいけど、モンスターとの因果関係は不明ね」


モンスターが魚を食べることは分かったし、四人とも疑わしい部分があるため人数を絞り込むことは出来たもののまだお互いの関連性は不明だった。


「まだ詳しい調査が必要だけど…」


「はははは!随分と堅苦しい話をしているじゃないか!麗しい花々達よ!」


会話を遮るように突然ナルシストな男子生徒が話し掛けてきて、それを見たラーナはゴキブリでも見たような顔を浮かべる。


「ナルス…あんたなんの用よ。馬糞臭いからあっちに行ってよ」


「おやおや、不躾(ぶしつけ)なウサギちゃん。私はモルマさんとそこにいる可愛らしい子リスちゃんに話があるのだよ」


お互いに睨み合いながら言葉の応酬をする。彼こそがラーナが吐き捨てるように言っていたナルスのようだ。


「そこの子リスちゃんは先程の講義、中々良かったよ。まるで人が変わったように考察を述べていて惚れ惚れしたよ」


「はあ…どうも」


ナルスはエインのコンプソグナトゥスに関する考察を聞いていたらしく、そのことを口実に口説いてくるがエインに取っては何がなんだか分からず呆然としていた。


「なんだったら私と一緒にお食事でも」


「ご飯ぐらいなら」


「待って待って、ダメだよ」


ナルスは相手が男と知らずにナンパしており、エインもナンパされること事態も生まれて初めてであるため額面通りに受け取ってしまうもラーナが止めに入る。


「こいつは貴族であるのを良いことに女の人を取っ替え引っ替えしている放蕩者(ほうとうもの)だよ!」


「失礼だな。私は純粋に彼女と…あ、なんだ傷物じゃないか君は」


ラーナの言葉なんて何処吹く風でいたナルスだが、エインの額に傷跡があるのを見て冷めた態度を取る。


「やれやれ、トンデモない物を掴まされるところだったよ」


「そっちが絡んできたんでしょ!アホー!」


向こうから絡んできたのに被害に遭ったかのような口振りで立ち去るナルスにラーナは激昂して追い払う。


「何ですの?そんなに騒いで淑女(レディ)としての自覚がありませんよ」


余りの騒がしさにロイルと取り巻き達が顔をしかめながらラーナを咎めにくる。


「ロイル先輩!そんなこと言ったってナルスのアホが…」


「あの人はあなたより立場が上ですわよ。年齢的にも権力的にも。それだけの暴言を吐いても平然としていられるのも彼にも貴族としての余裕があるからよ」


権力の高い人間や貴族に暴言を吐くことは処刑されても文句が言えないのがテンプレである。これまでにもラーナは色々とナルスに暴言を吐いていたが殺されていないのは彼の心の広さによるものだった。


「ところでそこの…エイヌさんと言いましたか?あなたは額に傷があるのですね?」


「これ?随分前にケツァルコアトルスに…」


「ケツ?お尻…のことじゃありませんわよね?」


顔を真っ赤にしながら聞き返すが無論お尻のことではない。ナルスが見たエインの額の傷痕はウィルマを支配していたケツァルコアトルスによって負わされた物だ。


「こう言ってはなんですが、その傷のお陰であの愚か者の毒牙から免れたのですわよ」


「傷があると何かダメなの?」


エインからすれば傷痕があるとないとでは何が違うのか分からなかったため、ロイルの言っている意味が理解出来なかったがその質問に彼女は答えづらそうにしていた。


「女性に取って傷があることは不名誉なことなの」


男性に取って傷は勲章ではあるが、女性からすれば清らかな存在であるべきと人々の中で織り込まれているため、()()()()()綺麗な身体の女性が好まれるのが前提とあるため、身体に傷がある場合は傷物と侮蔑的(ぶべつてき)に扱われるのだ。


「傷一つでそんなに変わるのかな」


「嫁ぎ相手が見つからないのは死活問題ですのよ」


人は見た目より心が良いなんて言葉があるが、残念ながら人は相手の第一印象を見た目で判断してしまうため、たかが傷されど傷一つで色々と認識が変わってしまうのだ。


「でもやっぱり傷ぐらいでそこまでダメって思わなくても」


「あなたは女性でありながら傷物と言われながらも平然とし、それでいて今ある在り方に疑問に思うとは…嫌いではありませんわ」


男であることもだが傷どころか魔法とスキルが扱えず無能扱いされていたエインに取って、女性の傷への考え方は理解出来ないがロイルにはその考えた方がとても斬新に聞こえたのたか微笑んでいた。


「これは良いわよ。容疑者の一人と仲良くなれたから、このまま親密になって真偽を明らかにしてちょうだい」


「分かりました」


お陰で容疑者の一人であったロイルと親しくなれたため、このまま彼女から引き裂きジャックのことに関する手掛かりや有力な情報を入手出来るとモルマがアドバイスする。


▷▷▷


「大きな建物だねぇ」


「お兄ちゃん達はここにいるの?」


「そうだよ、ここに行くって言ってたよ」


『ギァ〜』


学園の敷地外からこっそりと外の様子を(うかが)っていたのは双子の犬獣人のカイとカナ、そしてリリーと相棒のアンキロサウルスのゴンだった。


「お兄ちゃん達のお手伝い…」


「何か出来ないかな?」


「中に入ったら何か出来ると思うけど…」


三人は潜入捜査をしているエイン達のために何か出来ないか、それを手伝うために中に入るべきかどうか考えているようだった。


「何か中に入れる方法は…」


目の前には仕切るための壁と柵が設置されていて三人の行く手を遮っているため、リリーは身の回りの物で何か使えないか探す。


「あ、ここだけ外れかかってる」


柵の一部分が内側から押し込まれたようにへこんでいて、しかも少し引くと外れそうになっていたのをリリーは目にする。


「どうしてここだけ?」


「でも後少し引っ張れば入れそう。後は何か引くものがあれば…あ、ちょっと待ってて」


再び辺りを見回すと敷地内には水を撒くためのホースがあるのを見てリリーは顔を明るくし、何処かへと向かう。


「お待たせ!」


『ブオオオ…』


暫くした後でリリーは一頭のピナコサウルスを引き連れて戻って来る。


「それって畑にいたゴンちゃんのお友達?」


「うん!それと…ビュンちゃん!」


『ギギィ』


リリーの小さな背中から羽毛に覆われた鳥みたいな恐竜、ビュンちゃんと呼ばれる『ミクロラプトル』が姿を現す。


「お願い、あそこのホースをここまで持ってきて」


『ギギィ!』


ミクロラプトルのビュンは身体の小ささを活かして柵の隙間を通り抜けてホースまで駆けていく。


『ギギィ』


「ありがとう、後はこれを…」


ビュンからホースを受け取ったリリーは端をピナコサウルスと柵に結び付ける。


「さあ、お願い」


『グオオオオ』


呼び掛けに応じるようにピナコサウルスは前へ進むとホースが引っ張られて柵が外れる。


「今だよ!」


「「スゴいスゴい〜!」」


柵が外れたのを見て三人と一頭は学園の中に侵入するのだった。

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