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『暴君』の晩餐会

「「「乾杯ー!」」」


グランドレイクの城では兵士と一般市民が輪になって焚き火を囲いキャンプファイヤーのように楽しんでいた。


「いやー、何とか食糧が手に入って良かったぜ。」


「おまけにあのモンスター達もいつの間にかいなくなってて助かったぜ!」


エインを囮にしたことを知ってか知らずか、彼らは備蓄倉庫からまんまと物資を回収して、殺伐とした空気を一時的に忘れられたため上機嫌だった。


「しかしあいつら、いつか絶対に八つ裂きにしてやる!」


「ああっ!雑魚モンスターの分際で人間様に…このグランドレイクの英雄に向かって歯向かいやがって!」


だが、徐々に自分達を追い詰め、仲間達を惨殺した恐竜達に対する憎悪が募っていくのだった。


「……。」


「姫様、お身体は?」


「私はもう大丈夫ですわ。それよりも国民の方々は…。」


キオナは手に入れた薬によって完治しており、自力で歩き回れるほどに回復していた。彼女は見ない間にケガ人が続出したことに、自室に入ってきたリオーネに状況を訊ねる。


「…ケガ人は大勢いますが、薬などが大量に手に入ったので暫くは大丈夫ですよ。」


「ですが…大勢の人が犠牲に…。」


「それは…もはや仕方がないことです…。」


しかしキオナはこれまで恐竜達の犠牲になってしまった人々のことを思うと胸が痛くなって仕方がなかった。


(さすがはお優しいキオナ姫様…なんと麗しい…!)


キオナのお世話係を務めるリオーネだが、心酔する余りロリコンを心配されるような気質を持っていた。


「エインも…大丈夫でしょうか…。」


(…!あの汚物畜生め…よくもキオナ様を…!?…まあ、もう死んだんだから安心だな…!)


しかしキオナはエインの心配しており、そのことに嫉妬心を募らせるも既に亡き者になっているのだと思い出し心の中でほくそ笑む。


「はあ…良いなぁ…俺もあの輪に入って酒を飲みたいぜ。」


「バカを言うな。モンスターの姿が見えないとは言え安心や油断はまだ出来ないぞ。ましてや今は酒でも飲み物は貴重なんだぞ。」


城の跳ね橋の前で二人の衛兵が見張りをしており、城内の賑わいに交えれないことにボヤいていた。


「す…すみません!?」


「ん…何者だ貴様は!」


このまま異常がなければ良いと思ったてのに、暗闇の中からエインが現れたことに衛兵達は槍を構える。


「貴様は…落ちこぼれのエイン!」


「バカな…死んだんじゃ…!?」


「え…死んだって…。」


城の衛兵であるためか、或いは作戦に参加していたかは不明だが死んだと思っていたエインを目の当たりにして思わず口を滑らせる。


「死んだってどう言うこと…僕はまだ…。」


「貴様が知る必要はない!それに何だその汚らしい有様は!」


知らない間に死んだことにされていたエインはその理由を聞こうとするが、やはり取り付く島もないと突っぱねられてしまう。しかしながらエイン本人も例の悪臭がする水溜りに落ちたせいで近寄りがたいのも事実だ。


「今すぐに…王に…王女様に会わせてください!?」


「バカを言うな!貴様ごときが謁見出来ると思ったのか!」


彼らはエインを送り出す際にはあんなにも激励してくれたのに、今度は一変して正しく汚物を扱うように追い返そうとする。


「何?エインが生きて戻って来ただと?」


「はっ…酷い身なりですがピンピンした状態で跳ね橋に…。」


エインが生きていることにリオーネは青ざめた様子で衛兵の報告を聞いていた。


「どうしたのですか?」


「いえ、何でもありません!」


慌てていたのを勘付かれるも何とか誤魔化すリオーネ。今ここでエインと顔を合わせれば後々で始末がしにくくなるからだ。


「上手くあのモンスター達から逃げられたのか…とにかく始末は任せろ。このことはキオナ様には内密に…。」


誤算ではあったがまだ修正出来ると判断しリオーネは何とかしようと跳ね橋の方へと急ぐ。


「お願いだから会わせてください!?」


「しつこいぞ!」


跳ね橋ではキオナと会おうとするエインとそれを防ぐ衛兵達が小競り合いを続けていた。


「エインか。どうした。」


「あ、リオーネさん…あの話したいことが!」


小競り合いをしているところにリオーネが来たのを見てエインは藁にも縋る思いで話しかける。


「え、リオーネ様?」


「ここは任せろ。汚物の始末は私が一任する。」


努めて穏やかな顔をするリオーネを見て、衛兵達は大人しく引き下がる。


「どうした?何があったのだ?」


「すみません…薬は既に失くなっていて持ち帰ることは叶いませんでした…それよりもこの城に危機が迫っています!」


よく見るとリオーネは笑顔が引きつっているのだが、エインは構わず何があったのか話し始める。


「ここに…ここにタイラントドラゴンの群れが向かっています!?今すぐに守りを…!?」


「タイラントドラゴン…?」


タイラントドラゴンはSランクモンスターの中でも指折りの強さを誇り、その強さ故に群れを作らないはずだ。それなのにエインはタイラントドラゴンの群れがここへ来るから守りを固めろと言っているようだ。


「なるほどなるほど…そう言うことか。」


「ですから…え?」


無我夢中で気が付かなかったがエインはリオーネの顔が引きつっていることに気が付いた。


「がはっ!?」


しかし手遅れだった。気が付いた時にはエインの腹部に強い衝撃と激痛が走り、呼吸が出来なくなって蹲る。


「な…何を…!?」


「黙って食い殺されれば良いものを…つくづく私達の神経を逆撫でにしてくれるなこの汚物が!」


苦しむ中でエインは何故なのかと訊ねるが、化けの皮を剥がしたリオーネはエインを再び汚物のように見下す。


「今は皆が辛いことを忘れられる夜なんだ…貴様には場違いだ!」


「がっ!?」


まだ苦しくて動けないエインを容赦なく蹴り飛ばす。プルプルと小刻みに震えていて今にも気を失いそうだった。


『バウ!バウ!』


「うるさいぞ!」


エインのピンチに再びロボが立ち塞がるがリオーネは八つ当たりするようにロボも蹴り飛ばす。


「ここで始末してやりたいが…無能な貴様でも囮として頑張ってくれた褒美をやらんとな。地下牢に連れて行け、奴の処刑は国の今後の方針を決めてからだ!それまでは私自ら褒美の拷問をくれてやる!」


リオーネの命令を受けて衛兵達はエインとロボを地下牢へと連行していく。


「ここに入ってろ!」


「お前にはお似合いの場所だ!」


身動きが取れないため衛兵達にされるがままカビ臭い地下牢へと放り込まれてしまうのだった。


「な…何でこんなことを…。」


ダメージから回復したエインは声を振り絞って衛兵達に問いかけるが、彼らは冷めた目付きで見てくるため思わずビクッとなってしまう。


「何でかって?お前が生き残ったことが気に食わないからだよ!」


「無能のくせして上手く生き残りやがって…殺された奴らが報われねぇんだよ!」


檻を蹴って憤りを露わにする衛兵達にエインは怯えながらロボを抱き上げる。


「お前は良くてここで死ぬか、或いはリオーネ様に処刑されるかだ。あのモンスター共に食われれば良かったのによぉ…面倒なことしてんじゃねぇよ!」


「やっぱり無能だな…お前は。」


酷い言葉を吐き捨てて衛兵達は地下牢から去っていく。暫くは不気味な静けさが辺りを支配したが…。


「うっ…ううっ…ロボぉ…僕は…僕は…!?」


『クゥン…。』


嘘とは言え激励を受けて人を好きになり希望を持てていたのに、あっさりと見限られた上にあの激励も上辺だけの嘘だったと思い知らされ泣き崩れてしまう。


「ったく、あの役立たずには最後まで足を引っ張られたな。」


「タイラントドラゴンが来るだって?ふざけてるにも程があるだろ。」


エインを投獄してそれぞれの持ち場に戻るとエインに対してはもちろん、Sランクモンスターが来ると言う警告を嘲笑うような話題で持ちきりになる。


「あんな汚物の話をしてたら便所に行きたくなったぜ。」


「そのまま抜け駆けするなよな?」


一人の衛兵が用を足すために城の中へと入っていき、もう一人の衛兵はそのまま跳ね橋を見張る。


「リオーネ、何か変わりはありませんでしたか?」


「いえ、何も問題はありませんよ。」


リオーネもキオナの元へと戻り、何もなかったと平然と振る舞うのだった。


「ふぅ…スッキリしたぜ。あれ、おい?」


暫くして用を足しに行った衛兵が戻ると、相棒の衛兵がいなくなっていることに気が付いた。


「あの野郎…さては抜け駆けするなとか言って置きながら…ん?」


相棒に出し抜かれたかと思い、彼は城のお祭りムードの中を意気揚々と探そうと思ったが不可解な物を見つける。


「これ…血か?」


見つけたのはまだ乾いてない上に生暖かい血液が点々と何処かに続いていたのだ。お祭りムードに染まりかけていた衛兵も血の気が引くような感覚に襲われながらも血液の後を辿る。


「あ…が…。」


「あ…何だそんなとこにいたのか。何してんだ?良い女とイチャついてんのか?」


曲がり角で上擦った声と共に相棒の衛兵の上半身が小刻みに震えているのが見えた。見た感じは情事をしているようにも見えたため、心配させたお返しにと軽口を叩くのだった。


「あ…うあ…助け…?!」


「は?」


どんな魅力的な女を抱いているのかと見てやろうと思ったが、相棒の下半身には女なんておらず代わりに巨大な口が相棒に食らいついていたのだ。


『グルルル…!』


「あ…ああ…!?」


曲がり角で見えず分からなかったが、相棒は巨大なモンスターに下半身を食べられていたのだと気が付き、恐ろしさの余り声が出せなくなる衛兵。


『ゴアアア…!』


「ぎゃあああぁぁぁ……ああっ!?」


弧を描くように上半身しかなくなった相棒を口で放り投げ、落ちてきた所を再び口でキャッチし、顎の力で残る断末魔を挙げる上半身を骨ごと粉々に噛み砕き歯の隙間から血液が噴き出てくる。


『グルルル…!』


『ガルルル…!』


「あ…ああ…ああ…!?うわああああ!?」


そのモンスターの背後の暗闇から、サイズはバラバラだが同じ種類のモンスター達が次々と姿を現し衛兵を狙うような目付きで見ていた。


「どうした?」


「跳ね橋を…跳ね橋を上げろおおおっ!?」


悲鳴が聞こえ城内を守っていた衛兵達も、お祭りムードになっていた国民も何事かと城の外に注目が集まり、衛兵の一人が跳ね橋を上げろと騒いでいたのが目に入る。


「何で跳ね橋を上げるんだ?」


「それは……ぐあああ!?」


何があったか知らないためいきなり跳ね橋を上げろと言われても訳が分からなかった。しかしその意味はすぐに知ることとなった。


『ガオオオオオン!!』


逃げてきた衛兵は突如として巨大な口に断末魔を挙げながら食われ、あっという間に噛み殺されてしまう。そしてその巨大な口の持ち主はこの世の地獄を体現するかのような咆哮を挙げる。


「な…何だあれは!?」


「タイラントドラゴン!?」


「でも…前脚が異様に小さい上に翼もないぞ…。」


大きさや見た目はタイラントドラゴンによく似ているが、通常と比べると見た目が異なるようにも見えた。


『グルルル…!』


『ゴアアア…!』


「お…おい!いっぱいいるぞ!?」


「このタイラントドラゴン…群れを作っているのか!?」


ただでさえSランクモンスターの中でも強いとされるタイラントドラゴンが、群れを作って押し寄せるなんて国家間の戦争レベルのような異常事態だ。


ましてや対抗手段の魔法やスキルも使えなくなり、多くの英雄達が死んでしまっているため、人々はこの世の終わりを目の当たりにするかのように絶望するのだった。


「タイラントドラゴンの群れだと!?」


「跳ね橋より五十メートルほど離れた位置にいるそうです!このままだと乗り込まれてしまいます!?」


「くっ…キオナ様、この部屋でお待ち下さい!」


衛兵からの報告にリオーネは青ざめるもすぐさま事態解決のために部屋を後にする。


「…!あれは…!」


幾ら何でも変だと考えたキオナはナイトテーブルにこっそりお小遣いで買った双眼鏡で外の様子を見る。


しかし騒ぎの大元を見て彼女は言葉を失うのだった。忘れもしないはずだ、自分に死の恐怖を与え自尊心を粉々に砕いたドラゴン…『ティラノサウルス・レックス』が城の前にいたのだから。


「しかしタイラントドラゴンの群れだと…まさかあいつの言っていたことは…。」


認めたくはないがエインがわざわざ城まで戻って来た理由がこれを知らせるためだったのかと後悔していた。


「私のせいで城の民達や姫様が…。」


エインが死ぬこと事態は問題ではないが、もしも取り合っていればこんな切羽詰まったことにはならなかったはずだ。


「リオーネ様は悪くありません。それを知ったのが『無能のエイン』だから悪いんですよ。」


衛兵の一人は後悔して落ち込むリオーネに、異常事態に気が付いたのが信用がないエインだからこそ悪いのだと告げる。


やはり弱肉強食が強調されるこの国に置いては弱者の立場に否応なしに落とされているエインには弁明の余地はなかった。


「総員、防衛体勢を取れ!大砲も用意しろ!跳ね橋も急いで上げるのだ!」


リオーネが現場に辿り着くと恐怖の余り凍りついたことが幸いしてパニックにはなっておらず、彼女は的確な指示を与えて人々を動かしていく。


「大砲の用意だ!火薬を濡らすなよ!」


「火種を用意しろ!」


さすがに城となれば防衛の要であるため、魔法やスキルなどに頼らない武器も多数用意されており街中と比べると防衛力は桁違いだ。


「急いで跳ね橋を上げろ!」


「巻き上げろ!?」


跳ね橋は滑車を数人の男の衛兵達が巻き上げることで徐々に持ち上がり始める。


「見たところタイラントドラゴンのようにも見えますが、翼はないため空は飛ばないかと…。」


「ならばここで討ち取って我々の復興の足掛かりにしてくれる!」


飛ばないのなら跳ね橋を上げて侵入を阻み、迎撃体勢が整い次第ティラノサウルス達を一方的に大砲で駆逐するつもりだ。


「見てろよ…このままヤラれてたまるか!」


「待て、リオーネ様から合図がまだだ。」


これまで散々煮え湯を飲ませられ、更には仲間達も大勢殺された怒りからか大砲を構える衛兵達は殺気立ち、リオーネからの合図を今か今かと待っていた。


『ガオオオオオン!』


『『『ギエエエエ!』』』


暫くは様子を見ていたティラノサウルス…それもエイン達を襲った個体は群れの中でも一段と大きく、跳ね橋が上がって道が閉ざされると判断し、他の仲間達と共に跳ね橋に向かって走り出す。


「跳ね橋を急いで上げろ?!」


意図に気付かれ急がせるように号令を出す。それと同時に城壁を見て砲手達がティラノサウルス達を打ち倒すことを切に願う。


『『『ガオオオオオン!』』』


「撃てぇー!」


射程範囲内に入り、大砲で一網打尽にしようとリオーネが城内に響き渡るほどの合図を出す。


『グオオオオオン!』


ところがいつまで経っても大砲の轟音は聞こえず、代わりにティラノサウルスの咆哮だけが響いてくる。


「何をしている!?撃て!?撃てと言っている!?」


聞こえなかったのか何度も叫びながら砲撃命令を下すも、やはりいつまで経っても大砲からは砲弾どころか火花すら出てこなかった。


「ダメだ!?もう大砲の死角に入った!?」


「何をしてるんだあいつらは!?酒でも飲んでるのか!?」


もう既に大砲の可動範囲外にまで近付いており、下手に砲撃すれば自滅か城内や城壁にダメージを負わせる危険性がある。そのためもう大砲で一網打尽は不可能となった。


「早く跳ね橋を上げろ!?思ったよりも早いぞ!?」


「んなこと言ったって…!?」


跳ね橋は進軍する兵隊達を支えられるほどに丈夫に出来ているが、その分重量はかなりのもので滑車で上げるにしても大勢で巻き上げなければいけないためどうしても時間が掛かってしまう。


相手は空を飛ばないドラゴンだからあまり脅威ではないと高を括ったが、その分地上を走る速度は馬にも追いつけるほどだった。


『ガオオオオオン!』


「急げ…!?来るぞ…!?」


ドシンドシンと地震のような足音を響かせ、地獄のような雄叫びに恐怖心を駆られ急いで滑車を巻き上げる。


「分かってる…でも、これだけ跳ね橋が上がってれば容易には…!?」


その甲斐あって人間がジャンプしても届かない高さまで跳ね橋が上がったのだが、急に滑車がガクンと止まったかと思えば逆方向に強制的に回り始める。


『グルルル…!』


「嘘だろ…跳ね橋に噛み付いてやがる!?」


跳ね橋にティラノサウルスのリーダーの巨大な口が食らいついており、力任せに跳ね橋を降ろそうとしていたのだ。


「いかん!早く巻き上げろ!?」


「そんなこと言っても…うわっ!?」


『『『グルルル…!』』』


他のティラノサウルス達もリーダーと同じく、跳ね橋に食らいついて力任せに下へ下へと降ろそうとする。そのために滑車は逆方向に回るため、兵士達も思わず振り回されそうになる。


『ガルル…!』


『グルルル…!』


「おい!小さい奴が入って来ようとするぞ!?」


跳ね橋が下がっているのを見て、ティラノサウルスの子供達も跳ね橋の端からよじ登ろうと身体を載せているのが見える。


「跳ね橋に上げちゃダメよ!迎撃して!」


『ゴアアア!?』


メリアスは先頭に出て、弓を構えてティラノサウルス達に矢を放つ。その内の数本が仲間の一体に当たり、怯んで跳ね橋を放すとガクンと上に動く。


「メリアス様…俺達も加勢するぞ!」


「なるべく遠距離で追い払うんだ!」


メリアスの鼓舞とティラノサウルスが怯んだのを見て、自分達でも撃退出来ると考えて弓矢を手にする。


「あっち行けこの野郎!」


「あんたらなんかに食われてたまるもんか!」


『『ゴアアア!?』』


矢を大量に放つと矢に驚いたティラノサウルスの子供達は跳ね橋から逃げるように転げ落ち、仲間の個体を更に二体怯ませることに成功する。


「良いぞ!このまま行けば…!」


「深追いはよせ!今は跳ね橋を上げるんだ!」


何とか奮い立つも今は防御に徹するべきだとリオーネが注意し、跳ね橋の巻き上げ具合を確認する。


「くそ…あいつら何て力だ…!?」


「このままだと…俺達か、或いは滑車か鎖かが負けちまう…!?」


あれから何人かの衛兵や国民までもが加わって二十人で巻き上げようとするが、やはりあのリーダーのティラノサウルスの力は尋常じゃなく強く、これだけの大人数でも押し負けようとしていた。


「頼む!負けないでくれ!?」


「頑張れー!?」


加わることが出来なかった人々は声援を送り、押し負けないように鼓舞していた。その中には滑車を巻き上げている人の家族だって大勢いた。


正しく命懸けの綱引き勝負は暫くは続くも、その勝敗はバキンと言う音と共に唐突に決定するのだった…。


『…!ガオオオオオン!?』


「…!や…やった…やったー!!」


木片を吐き出しながらティラノサウルスが悔しそうな咆哮を挙げ、城内では歓喜の声が沸き立つのだった。進軍を支える跳ね橋だが、ティラノサウルスの強い顎の力によってその部分が噛み砕かれたようだ。


しかもその反動で一気にティラノサウルス達の顎が届かない位置まで橋が上がり、これ以上の進撃は出来ないとティラノサウルス達も城の人々も判断したのだった。


「これで侵入を阻めたな…。」


「しかしドラゴンのようですがブレスを吐かないのですね…ワイバーンもどきと言い…。」


何とか危機を脱せたことにリオーネも胸を撫で下ろし、メリアスもドラゴンなのにブレスを吐かないことに疑問に思うも今は安堵するのだった。


「しかし砲手は何している!あそこで一網打尽にしていれば良かった物を…!?」


「でも変ですね…あんなに意気込んでいたはずなのに…。」


話は変わって砲手達が砲撃しなかったことにリオーネは職務怠慢だと怒りを募らせるが、メリアスは衛兵達があんなにも殺気立っていたのに何もしないなんて変だと首を傾げる。


「ぐえっ!?」


「は?」


その時、メリアスとリオーネの目の前に衛兵が空から落ちてくる。しかもその衛兵は砲手を担っており、身体のあちこちが鋭い槍か何かで突き刺されたような傷があった。


「な…何だと…?」


一体何が起こったかは分からないが、砲手達は何者かに襲われて城壁から落とされたのではと考えて頭上を見上げてみる。


『『『クアアアア!』』』


「ワ…ワイバーン!?」


なんと空には腕に翼膜を持つドラゴン、ワイバーンがいつの間にか城の上空を覆い尽くしていたのだ。


『ケエエエン!』


「ワイバーンにしては身体の構造が異なります…頭もドラゴンと言うよりも鳥に近いような…?」


ワイバーンは腕に翼膜があるだけだが、目の前のモンスター達の翼膜は後ろ脚まで伸びていてほぼ全身を占める形であり、尻尾は極端に短く、極めつけは頭部はトサカを持つ鳥のようにクチバシがあった。


『『『クアアアア!』』』


「うわああ!?な…何だ!?」


「ぎゃあああ!?」


モンスター達は一斉に翼を畳んで急降下し、城の中にいる人々に脚の鉤爪で引っ掻いたり、長いツルハシのようなクチバシで突き刺したりしてくる。


『翼竜』。恐竜の時代に置いて制空権を握った既に絶滅した生物だ。恐竜と同類とされているが彼らは空を飛ぶ爬虫類であり、人間で言うなら空を飛ぶ哺乳類のコウモリのような生物だ。


『『クアアアア!』』


「うわああ!?」


「やめてぇー!?」


その中でも最も有名とされているのが翼竜の『プテラノドン』だ。プテラノドン達は地上からの攻撃に敏感になり、勝利を確信した人々を混乱に陥れるのにこれ以上ない刺客だった。


「砲撃が使えなかったのはこいつらの仕業ですね!?」


『クエエエ!?』


メリアスは弓矢で飛び交うプテラノドンを正確に射抜いて撃ち落としていく。


「まさか空からも来るとは…!?」


『ケエエエン!』


剣を抜いてプテラノドンを追い払っていたリオーネだが、一瞬の隙を突かれて押し倒されてしまう。


「ぐあああ!?」


「リオーネ様!」


リオーネを(つつ)こうとクチバシを振り下ろすプテラノドンの背中に、メリアスは短剣を抜いて突き刺す。


『クエエエ!?』


「ふん!」


怯んだ所で首に至近距離から矢を放って貫通させて絶命させる。


「リオーネ様、大丈夫ですか?」


「ああ…掠り傷程度だ…。」


「ぐあああ!?」


一難去ってまた一難、プテラノドン達の襲撃は一匹仕留めただけで終わらず今度は跳ね橋の滑車にいる衛兵達を襲っていた。


「いかん!滑車のワイバーンを仕留めるんだ!?」


『ケエエエン!』


「うわあああ!?」


リオーネが指示を出す前にプテラノドンは衛兵の一人を掴んで空へと飛び上がり連れ去ってしまう。


『クアアアア!』


「ひいいいっ!?」


「いやだああぁぁ!?」


別のプテラノドンも滑車にいる人々に襲い掛かり、その恐怖から逃げ出す者も次々と現れ、跳ね橋を巻き上げる力が次第に失われていく。


「いかん!?」 


「跳ね橋が!?」


滑車を巻く力が完全に失われ跳ね橋が一気に下がっていき、大きな物音と土埃を上げて橋が掛かってしまう。もはや最悪の事態は免れない。


『…!ガオオオオオン!!』


「うわあああ!?タイラントドラゴンだああぁぁ!?」


跳ね橋の上を渡りティラノサウルス達が城内へと侵入してくる。それを見た人々は更にパニックになり我先にと城内へと逃げ惑うのだった。


『グルルル…!』


「ぎゃあああ!?」


『ゴアアア…!』


「いやあああ!?」


パニックになった人々の押し合い圧し合いによって弾かれた者や動けない者達から次々と捕食していく。これならわざわざ走って追いかける必要がないのだ。


『クアアアア!』


「こっちにも来たぞ!?」


「おい、そっちは!?」


『ギエエエエ!』


プテラノドン達も追い込まれた人々の群れを狙って急降下し空へと連れ去っていく。それに恐怖して逆方向に走ればティラノサウルスが待ち構えている。どちらに進んでも最悪な結果に繋がり、地獄絵図のような有様だった。


「皆の者!慌てずに城へ避難しろ!パニックなれば奴らの思うツボだぞ!」


「むざむざ殺されろってのかよ!?」


「急いで城へ!?」


リオーネは努めて平静を保ちつつ避難誘導をしようとするが、衛兵の何人かも精神的ストレスで限界となりほぼ取り乱した様子で我先にと城内へ逃げようとする。


「貴様!それでもグランドレイクの衛兵か!?他の者達も英雄として名を馳せただろう!?」


「英雄だって!?その英雄を語ってアルフレッド達は死んだんだろうが!?」


「こうなりゃもう英雄もクソもねぇだろ!?」


魔法やスキルが使えなくなり、他の英雄達がほぼ一方的に殺されて死んでいくのを目の当たりにしたことで、既に彼らの精神も限界に来ていたらしく誰もリオーネの言葉に耳を貸すどころか反発するかのように我先にと逃げ惑う。


「ぐっ…リオーネ様、ここは我々も…!?」


「しかし…。」


「ああああ!?」


『ギエエエエ!』


メリアスから撤退すべきだと言われるも、国民を放って置く訳にはいかないと言おうとしたら先程リオーネと口論していた英雄がティラノサウルスに虫けらのように踏み潰されていた。


「…!ちっ、メリアス!姫様の所に戻るぞ!不安になってきたぞ…!」


力の差は歴然としており、このままでは共倒れの危険が考えたリオーネはメリアスと共にキオナのいる部屋へと急ぐのだった。


『…!グルルル…ゴアアア!』


しかし子供のティラノサウルスがリオーネとメリアスを見ていた。子供と言っても顎は人の頭を丸齧りに出来るほどに大きく、トラやライオンにも匹敵する体格を持っていた。


『『ゴアアア!』』


他の子供のティラノサウルス達も集まり大人では通れなくとも、子供のティラノサウルスなら難なく通れる道を暫く見つめた後で、リオーネとメリアスの後を追いかけるように通路の中を通っていく。

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