悪意への『手』掛かり
時間は遡り、エイン達がバリオンに向かった時のこと…その日の夜に馬を載せられるほどの大きな二台の馬車が、キプロニアス王国の正門前に辿り着いた。
「何者だ。その後ろの馬車の荷物は何だ」
夜間に馬を載せられるほどの大きな馬車で、しかも降りてきた行商人が暗黒面に堕ちたかのような真っ黒な外套を身に纏っていたため見張りをしていた二人の衛兵は警戒していた。
「…手を焼く荷物を持ってきた。と言えば良いか?」
「…待ちわびていたぞ」
声色からして行商人は女性らしく、何か合言葉のような物を呟くと二人の衛兵は警戒を解いて正門を開け始める。
「頼まれていた荷物か。でも確か遣いも寄越すとは言っていたが?」
「それがあたし達なんだよね〜」
事前に聞いていた話では荷物とは別に人間もここに来る予定だったことに衛兵は首を傾げていると、もう一台の馬車に載っていた同じ格好の女性が自分達のことだと付け加えた。
「早く移動させるぞ。薬の効果が薄まっているのか、中でこいつらが暴れているんだ」
合言葉を話した女性はガタガタと揺れる馬車を見ながら、自分達の存在がバレないか憂いていた。
「その前に例の物は?」
「これでしょ?さあ、案内して」
ジャラジャラと音がする小袋を衛兵に渡し、彼女らは馬車と共にある場所へ案内されるのだった。
▷▷▷
「もっと遊びたい〜」
「雨に濡れても良いから〜」
時間は戻って現在。公園の倉庫内で雨宿りをしていたが犬獣人の双子のカナとカイは遊び足りないらしくエインの手を引いていた。
「でも、結構水が冷たいよ。オイラ達でも風邪引くかもよ」
「僕も、あんまり冷たいのは…」
雨に濡れて分かったが思ったよりもヒンヤリしており、さすがのエインでもこの中で水浴びはしたくなかった。
『ウウウッ…!』
「どうした…っ!何かいる…!」
側にいたロボが倉庫内に向かって唸り声を出していたため、振り返ると暗がりの中で何か動いているのを察知するエイン。
『…ブルルル…!』
「お馬さん?」
相手もこっちに近付いてきたことで次第に顔がハッキリと見えてくるが、長い顔にピンと上に伸びた耳などはリリーの言う通りどう見ても馬にしか見えなかった。
「なんでこんな所に?逃げ出したのかな」
「危ない!」
レーヌが近付いて宥めようとするが、エインが手を後ろに引いたためにバランスを崩して倒れそうになるが、その直後に先程まで立っていた場所を何かが通り抜けていき倉庫の備品に突き刺さる。
「え…何この鉤爪!?」
何が起きたかは分からないが、目の前を通り抜けた物体の正体は大きな手に備わった鋭い鉤爪で、ペンキ缶のような物を貫いていた。
『ウオオオオ!』
「お馬さんじゃ…ないよ!?」
その大きな手と鋭い鉤爪の持ち主は馬だと思っていたモンスターの前脚だったのだ。暗くて分からなかったが顔は確かに馬だが、首から下はナックルウォーキングをするゴリラののような身体をしていたため一目で馬ではないと判断出来た。
「これは馬じゃなくて『カリコテリウム』だ!」
正体は確かに馬の仲間ではあるが、何処をどうしてそうなったか分からない進化を果たしたカリコテリウムだった。これまでにも元の世界では見たことない見た目をしたモンスターはたくさんいたが、カリコテリウムもランクインしそうな見た目だった。
『ウオオオオ!』
「見てよ、あの爪。もしかして犯人はあのモンスターじゃない?」
腕を振り回して刺さったペンキ缶を引き抜くカリコテリウム。缶には木の幹に着けられた爪痕と似た痕跡があった。
『ウオオオオ!』
「お兄ちゃん!お姉ちゃん!来るよ!?」
しかし考える暇も与えないとカリコテリウムは前脚を持ち上げて威嚇し、エインもレーヌも慌てて立ってその場から離れると前脚がドスンと落ちてくる。
「皆、早く外に!」
「あわわわ…!?」
『ウオオオオー!』
鬼ごっこは楽しかったが、ここからは命懸けの鬼ごっこらしく誰もが死に物狂いで倉庫の外へ駆け、カリコテリウムはそれを追いかける。
「僕が相手だ!」
『ギィー!』
追ってくることに気が付いたエインは黒曜石のナイフを手にフォークと共に殿を務めることにする。
『グオオオオ!』
「えっ!?そんな!?」
ところがカリコテリウムは拳を地面に打ち付けたかと思えば、陸上選手も顔負けの跳躍力でエイン達の頭上を飛び越えて倉庫の出入り口に立ち塞がる。
『ウオオオオー!』
「「「ひゃあ!?」」」
「リリーちゃん!カイくん!カナちゃん!」
三人を先に逃がそうとしていたが、返って仇となりピンチになってしまう。そして無情にもカリコテリウムの前脚が振り下ろされが、直後にガリガリと言う嫌な音が響き渡る。
『グオオオ…ガハッ!?』
硬いものを引っ掻いたために爪を痛めたカリコテリウムにトゲ無しのモーニングスターのような尻尾が叩き込まれる。
『ギァー!』
「ゴンちゃん!」
リリー達の前に立っていたのはアンキロサウルスのゴンだった。彼が鎧で鉤爪を防ぎ、痛みで怯んだカリコテリウムに尻尾を叩き付けたのだ。
「外に出て何処かに隠れるんだ!」
「でも…」
「早く!」
「うっ…カナちゃん、カイくん、こっち!」
心配するもいつもは優しいはずのエインから強く言われて泣きそうになるも、リリーは二人の手を引いて倉庫の外へと脱出する。
『…!ウオオオオ!』
『ギァー!』
ダメージから立ち直ったカリコテリウムは起き上がり追いかけようとするが、フォークが角を振りかざしかながら対面してくる。
「こんなモンスターと戦うのは初めてだけど、どうやって攻略しようか?」
「やっぱりあの爪には用心して。ジャンプするとは思わなかったけど、ある程度の動きは分かるよ」
生体電流を読み取れるエインからすれば、カリコテリウムのある程度の動きは予測が出来るはずだ。
「まずは…左から来るよ!」
「おっと!本当…だね!」
『グゲェ!?』
エインの言う通りカリコテリウムは右腕を振り降ろしてくるが、予測を聞いていたレーヌは避けて、空かさずハンマーでカリコテリウムの脇腹を穿つ。
『ギィ〜!』
『ウオ!?』
痛みで脇腹を押さえていたところをダメ出しでフォークが突進で突き飛ばす。
「次は…うわっ!?ロボ!?」
『バウ!』
突然ロボがエインに飛びつき押し倒したかと思えば、頭上スレスレを鋭い鉤爪が備わった逞しい前脚が掠めていく。
『ウオオオオ!』
『ブルルル…!』
「え、別のカリコテリウム!?」
「二頭いたの!?」
どうりで意図しない方向から鉤爪が掠めていったと思ったら、倉庫の中にはカリコテリウムがもう一頭いたのだ。
「攻撃が右から来るよ!」
「え、どっちの右から…うわっ!」
幾らエインが生体電流で考えを読めるとは言え、カリコテリウムは見た目はほぼ同じなためどっちの個体が攻撃してくるかはレーヌには判断出来なかった。
「どうしたら…あれ?」
見分けがつかない以上は反撃どころか、避けるのも難しいためどうにか出来ないかと考えていると、一体のカリコテリウムの足首に鎖が巻き付いているのに気が付く。
「あれだ!」
エインは咄嗟にその鎖を掴んで倉庫の鉄柱に結び付ける。
『ウオオ!?』
「隙あり!それ!!」
突然脚が動かなくなったことに動揺したカリコテリウムにレーヌはハンマーの一撃を顔面に当てて脳震盪を起こさせる。
「一体おしまい!後は…うわっ!?」
「レーヌちゃん!」
脳震盪で一頭をダウンさせ、残る一頭も撃破しようとするがレーヌはその一頭に前脚で鷲掴みにされて倉庫の外へと連れてかれてしまう。
「くうっ…離してよ!」
『ウオオオオー!』
カリコテリウムは鷲掴みにしたレーヌを木に押し付けて吠え立てる。
「フォーク!お願い!」
『ギィー!』
しかしがら空きになった胴体にフォークが突進してカリコテリウムは倒れる。
「レーヌちゃん、大丈夫?」
「ありがとう。また助けられたね」
ナーストケラトプスの時のようにエインは生体電流を纏ってレーヌをお姫様抱っこで救出する。
『ウオオオオー!』
『ギィ〜!』
「もう止めてよ!」
頭を振りながら立ち上がったカリコテリウムはフォークとエインを威嚇しまだ戦うつもりだった。その時、雨の音に混じって金属音が響いてくる。
『グオオオオ!』
「あっ!縛った奴が…ぐうっ!?」
鎖に繋がれたカリコテリウムが柱を力任せに壊して外に出てきたのだ。突然のことで対処が間に合わずレーヌは再び前脚で抑え込まれてしまう。
「レーヌちゃ…うわっ!?」
『ウオオオオー!』
気が逸れた瞬間に今度はエインまでもがカリコテリウムの前脚で抑え込まれてしまう。
『ウオオオオ…!ウオウ!?』
トドメを刺そうともう片方の腕を振り上げるカリコテリウムだが、その腕に矢が刺さった苦痛に唸り声を出す。
「なんだこの風変わりなモンスターは?」
「馬みたいで変なの!」
「メリアスさん!トランちゃん!」
馬の頭にゴリラの身体をしたカリコテリウムに弓を構えたメリアスとトランも目を丸くしていた。
「お兄ちゃん!お姉ちゃん!大丈夫!?」
「ちょっと!何よあのモンスターは!」
「リリーちゃん!ゴンちゃんも!助けを呼んでくれたんだね!」
メリアスの背後には泣きそうな様子のリリーがゴンの背中に乗ってその場に現れるが、更にその後ろにはエリーシャ達も何事かと集まってくれた辺りを見るに逃げ隠れするだけでなく助けを呼びに行ってくれたようだ。
『ウオオオオ!グオオオオ!』
「こいつの前脚には気を付けろ。引っ掻かれたら一貫の終わりだぞ」
二体のカリコテリウムはエインとレーヌを抑えつけたまま残った前脚を振り回して威嚇してくる。
「あの鉤爪…なあ、皆同じこと考えてるか?」
「きっとこのモンスターがこれまでの事件の犯人かもってことだろ」
その際に前脚に備わった鉤爪を見て、木の幹にあった爪痕とも一致しそうに思えた。
「じゃあ捕まえるしかないわね!」
「そのようだな」
このカリコテリウムが一連の事件の犯人ならば捕獲する必要があるためモルマ達もそれぞれ武器を構える。
「弟子は返して貰うぞ!」
『ギャア!?』
シスカが日本刀のような剣でエインを抑えつけている前脚を斬りつけて自由にさせる。
「ありがとうございます。ロボ、レーヌちゃんを!」
『バウ!』
『ウオオ!?』
レーヌを抑えつけている前脚にはロボが噛み付いて自由にさせる。
『ウオオ!』
「ロボ、危ない!」
「任せろ!」
当然カリコテリウムはもう片方の前脚を上げて、噛み付いたロボを叩き潰そうとする。だが、ドランがロープを投げてもう片方の前脚に巻き付かせる。
「今だ!引けぇ!」
「「それぇ!」」
『グウ…!?』
巻き付いたのを確認してドランを始めルマッスとリュカとマーキーの四人でロープを引っ張る。ロープは枝に引っ掛けられており滑車の要領で引く力が増すのだった。
『ウオオオオ!?』
「俺の上腕二頭筋が…唸るぜぇ!!」
負けじとカリコテリウムもロープを引っ張ることでドラン達は引きずられそうになるも、ルマッスが渾身の力で踏ん張ったことで力が拮抗し、ロープとカリコテリウムの前脚の動きが止まる。
「手を貸すぜ!ロボとやら!」
『バギャア!?』
ならばと痛みに堪えてロボが噛み付いたままドラン達を蹴散らそうとするが、マルスがロボに賛同するように腕に噛み付いた。
『ガアッ…!?』
「安心しなさい。峰打ちよ」
アレッサが双剣でカリコテリウムの後ろ脚を血を余り出さないように斬りつけて膝を着かせる。
「そのまま抑えていろ!だあっ!!」
『グガァ…!?』
動きを封じたところでカルロスがジャンプし、持っていた鉄棍を振り下ろして頭部を殴る。その直後にカリコテリウムは暫くの間フラフラした足取りをした後そのまま卒倒してしまう。
『ウオオオオ!』
『ギィ〜!』
残るカリコテリウムはフォークと組み合っており、こちらも力が拮抗していた。
『グオオオオ!』
『ギィ〜!?』
しかしカリコテリウムは前脚の鉤爪でフォークの背中を切り裂く。痛みで力が緩んだフォークはそのまま横倒しにされてしまい、このままだと腹部に鉤爪を刺されてしまう。
「そんなことはさせない!」
『ギャア!?』
横倒しにされたフォークの身体を踏み台にしてモルマが一回転してカリコテリウムの肩に槍を貫通させる。
『ギァ〜!』
『グオオオオー!?』
痛みに耐えれず槍を引き抜くも、その前脚の関節にゴンの尻尾が命中してボキリと言う嫌な音が雨の中でも聞こえてきた。
『オオオオ…ウオオ…!?』
「どうやら腕が折れたようですね」
前脚の関節が逆に曲がっていてロナが説明しなくとも骨折したことは間違いなかった。いずれにしても肩を貫かれた上に前脚が折れては勝敗は明らかだった。
「今だ!突撃だー!」
「えっ!?何ですか!?」
ところがロナ達でも予想しなかったことが起きた。オーサイスが仲間の衛兵達を武器を持たせた状態で連れて来て、騎兵隊よろしく一斉にカリコテリウムに向かって行くのだ。
『ギャアアア!?ウオオオ!?』
飛んでくる槍や矢にカリコテリウムはされるがままだった。二本足で立てるとは言え、基本的にカリコテリウムは四つん這いで移動する。それなのに片腕が折れて使えなくなっては身体を支えられないため攻撃に転じることが出来なかったのだ。
「オーサイス様!これはどう言うことですか!」
突然のことで呆気に取られるも勝敗がほぼ決まった直前に出てくるなんて好いとこ取りとしか考えられなかった。
「どう言うことも何も貴様達を襲っていたモンスターを我らが仕留めて助けようと言うのだ」
「ちょ、さっきから何を根拠にそんなことを!」
白々しいことをベラベラと言い放つためエリーシャ達も我慢出来なくなり抗議する。
「こんな雨の中なんだ。襲われているとしか思えなかったし、なんら不思議でもないだろう。寧ろ助けてくれて感謝して欲しいぐらいだがな?」
「さては最初からそれが目的で…!?」
しかしこんな雨の中ではそれを証拠する第三者とも言える人間はいなかったし、これだけ武器で攻撃していれば傷跡も証拠にはならない。
逆に端から見ればカリコテリウムに襲われているルシアン達を助けるために、オーサイスが他の衛兵達を引き連れて倒したとなれば仮初めの因果関係が成立するよう計算されていたことになる。
『ウオオオー!?』
このままでは命の危機だと感じたカリコテリウムは慌てて公園から逃げ出した。
「むっ、逃げたか!追え、この国を恐怖に陥れた殺人鬼を逃がすな!」
オーサイスを先頭に衛兵達はカリコテリウムの後を追いかけていくのだった。
「…何だよあいつ!俺らの手柄を横取りしやがって」
「今まで出てこなかったくせにどう言うつもりよ」
「…ごめんなさいね、オーサイス様は昔からああでね」
嵐のように過ぎ去ったオーサイスに必死に戦ったドラン達は怒りを露わにするため、モルマは申し訳なさそうに謝罪するのだった。
「しかしお前達だけでよくこのモンスターを相手にしたな。偉いぞ」
「はう…」
「えへへ…それほどでも」
やはり褒められるのは慣れないのかエインは縮こまっており、レーヌも照れくさそうに後頭部を掻く。
「にしてもこいつが殺人鬼の正体?」
「やっぱり馬みたいだけどスゴい爪ね」
モルマとトランは改めてこの国を騒がせたカリコテリウムを観察する。馬のような頭はもちろん前脚の鉤爪を見て、これならば人をバラバラにするのも容易いのではと考える。
「そもそもこのモンスターはどうやって侵入した?あの壁の穴を通り抜けるにはこいつはデカいし、他にキプロニアス王国に出入りする方法なんてあるか?」
この国の侵入経路は壁の穴ぐらいだろうが、ピナコサウルスやカルノタウルスの子供は通れても、カリコテリウムほどの大きさのモンスターは通れそうに思えなかった。
「それなんだけどね。これどう思います?」
「それ…鎖か?」
思い出したようにエインはそのカリコテリウムの後ろ脚にあった鎖…と言うよりも足枷から伸びている鎖を見せる。
「合ってるかどうかは分からないけど、このカリコテリウムは誰かが連れて来たんじゃないかなって思うんだ」
自然界に生きるモンスターがこんな人工物を、それも相手を拘束するような物を好き好んで身に着けるとは考えにくい。寧ろ、誰かが一度カリコテリウムを拘束してこの国に持ち込んだのではと考えるのが自然だった。
「私もこれを見る限り、そうとしか思えません。ただ問題は誰がそれをしたかですよ」
「この国は確か生きたモンスターを…それもこんな危険な種類を持ち込む際は許可や申請が必要なのではないか?」
科学者であるラスコもエインの意見に同意するどころか更なる問題があると説明し、この国のことをよく知るソルラスも懸念を抱いている口振りでカルロス達に話し掛ける。
「これほど危険なモンスターを許可したとは記録にありません…!」
「まさかこの国にモンスターを無断で連れ込んだ…いや、それを黙認した奴もいるのか!?」
つまりカリコテリウム達は自分達で侵入したのではなく、何者かの手によってここへ連れ込まれたのだが、連れ込んだ人間もだが黙認した人間がこの国にいることにカルロス達はショックを隠せなかった。
「もしそうなら由々しき事態よ。不正を黙認したのだからね」
「殺人鬼を追いかけていてトンデモないことを知ってしまったな」
カリコテリウムは一体は無力化し、もう一体はオーサイスが追っているがあのケガでは大したことは出来ないため、この殺人鬼事件は幕を閉じたものの事件の元凶はまだ健在していることだけは間違いなかった。
「カリコテリウムは殺人鬼じゃないよ」
「は?何言ってるのよ。こいつの鉤爪なら人を殺すのも木の幹にあんな傷跡を残すことだって出来るでしょ?」
ところがそうもいかないらしく、エインはカリコテリウムが追っていた殺人鬼ではないと異議を唱えたために誰もがいぶかしげむ。
「そうだけど、カリコテリウムは草食なんだよ」
「え…草食…?」
エインの口からトンデモないことを聞かされ今度は誰もがキョトンとしてしまう。確かに爪痕や殺害方法は当てはまるが、草食なら死体を食べることはまずないからだ。
「…エインくんの言う通りですね。歯を見てみましたが、歯並びや構造からするに草食性が強いかと」
真っ先にラスコがカリコテリウムの口を見てみたが間違いないようだ。カリコテリウムは馬のような頭部を持つが、見た目は風変わりだが馬の仲間ではあるため草食性なのだ。
「じゃあ、何でオイラ達を襲ったの?」
「人間に酷い目に遭わされたからか…もしくは元々気性の荒い奴だったかだな」
草食性でありながら襲ってきた理由は分からないが、後者であれば象やカバだって草食性でありながらとても凶暴であるため、必ずしも大人しい性質とも限らないだろう。
「結局、また振り出しに戻ったのか」
「ですがこのモンスターが人為的に持ち込まれたとしたら、それを装った殺人…?」
犯人が別にいる、もしくは何者かがカリコテリウムを持ち込んだのなら相手がモンスターとは限らないだろうと堂々巡りになってしまう。
「少なくともオーサイスが恥をかくことだけは間違いないわね」
暗い空気が立ち込めるもエリーシャの励ましで多少は空気が軽くなるのだった。
「あれ、ところでカイくんとカナちゃんは?」
「あ、お魚さん見た川の茂みに隠れているはずだよ」
ふとリリーの他にカイとカナも逃がしたが、姿が見えないことに疑問に思うも、彼女が別の場所に隠れさせていたようだ。
▷▷▷
「お兄ちゃん達…大丈夫なのかな」
「きっと大丈夫だよ」
茂みに隠れていたカナはエインのことを心配するも、カイが気丈に振る舞って励ましていた。すると何処からか足音が聞こえてくる。
「「お兄ちゃん!……っ!?」」
足音からエインが来たと思い込み声を出すも、すぐに言葉を失い茂みの中に縮こまる。何故なら雨が上がるも既に辺りは暗くなっていたが、足音の正体は少なくとも人間とは思えなかったからだ。
『……?』
双子の声を聞いて謎のモンスターは辺りをキョロキョロするも興味を失い池に向かって歩み寄って行き、そのまま後ろ脚を池の中に入れて中腹辺りまで歩いていく。
「何あれ…」
「怖いの…」
縮こまりながら見ていると、そのモンスターは水を飲むと言う訳では無いのに池の中を覗き込んでいて、一見すると何をしているのか分からなかった。
『……!』
「あいたっ!?」
その瞬間にモンスターの目の前で水しぶきが上がり、何かがカナの顔に命中してしまう。それはピチピチと跳ねる魚のアカントーデスだった。
「ひっく…わぁ〜ん!?いた〜い!?」
何にしても獣人とは言えまだ三歳の子供の顔に魚が当たったのだから、カナは最初は面食らうも痛みの余り泣き出してしまう。
『…!?』
ところが泣き声を聞きつけたモンスターは池から出て、二人が隠れている茂みに向かって歩み寄ってくるではないか。
『クアアア!』
(どうしよう…!?)
カイは慌ててカナの口を塞ぐも、隠れている相手を威嚇しているのかモンスターは鳴き声を発しながら近寄ってくるためカイも泣き出しそうになる。
『クルルル…』
「「…!」」
目と鼻の先と言う例えがあるが、カイとカナの隠れている茂みまでモンスターの鼻先が近寄っており、伝わってくる鼻息の荒さと生温かさに、二人は恐怖の余り泣き声も出ない代わりに尿が出てしまう。
『…クアアア!』
魚の生臭さで尿の匂いは嗅ぎ取れなかったのか、モンスターは茂みの前で跳ね回るアカントーデスをヘラサギのような平べったく長い嘴で咥える。
『クルルル…』
咥えられたアカントーデスは暴れ回るも、モンスターは構わず頭から丸呑みにし立ち去ってしまう。その際に二人が隠れている茂みの側の木に前脚を載せるのだが、ガリガリと鉤爪によって樹皮が削られるのだった。
「スゴい爪だったの…」
「でも怖かったの…あっ!お兄ちゃん達の声だ!」
「お兄ちゃんー!?」
モンスターが立ち去ったのを確認して二人で抱き合いながら茂みから出てくるが、今度こそエイン達の声を耳にして泣きながらそちらへ駆けていくのだった。




