殺人『鬼』は誰だ
エイン達が山賊の砦から命からがら脱出した後のこと…
「ちょっと!エイン達はまだ帰ってこないの!」
「もう一日過ぎたのにどうしたのかな」
エリーシャ達はエイン達とハグレてしまい最初は戸惑うものの、彼らは先に目的地に向かったと考えてキプロニアス王国へと帰還したがまだ帰っていないことに騒ぎ出していた。
「やっぱり何処かで迷っているのか」
「探しに行こうぜ!」
リュカとマーキーが居ても立ってもいられないと言わんばかりに再び捜索に行こうとする。
「いや、待て。来たぞ」
だが、静かに待っていたシスカは気配を察知して二人を制止させる。
「皆〜!」
地平線からパラサウロロフスの引く馬車と見慣れた人物の姿…エイン達の姿が見え、エリーシャ達は共に顔を見合わせて喜び合う。
「バカ!何処に行ってたのよ!」
「またあのドラゴンに襲われたのかと思ってたぞ」
「ごめんなさい…色々あって」
喜ぶと同時にこっちの心配を他所に何処をほっつき歩いてたのかと責め立てるも、エイン達もハグレた後でキオナ達が山賊に捕まり、助けて脱出しようとしたらカルカロドントサウルスやディノニクスに砦を襲撃され、そこから命からがら逃げ出ス羽目になったのだ。
「とにかくエイン達のお陰で今の私達があるんです。さもなくばきっと…」
「そんなことになってたなんて…」
キオナから事情を聞かされ知らなかった面々も責め立てたことに対してバツの悪そうな表情になっていた。
「見慣れない獣人がいる理由は分かったが、何故エインにベッタリなんだ?」
「えっと…僕にも分からなくて…」
脱出する際に共に囚われていた獣人族も解放し連れて来たと言う経緯は聞いてて分かったが、何故か彼らはエインに擦り寄っていて、端から見ると彼が獣人達を侍らせているようにも見えた。
「俺達は彼に救われたんだ!」
「希望なんてないとずっと思ってたけど、彼のお陰で私達は自由になれた。何よりも底知れぬ強さのような物を感じ取ったからこそ彼に付いて行くわ」
どうやら獣人達は自分達を奴隷から解放し、自由にしてくれたエインを恩人として英雄として慕っていた。
「ほう、獣人族は強者や優秀な者には絶対服従を誓う習慣や文化があると聞いたことがあるか、まさか見ない間に英雄扱いか。成長したな」
シスカは自分の弟子であるエインが彼らに取っては強者どころか勇者にも匹敵する英雄として讃えられていたことに満足に微笑む。
「それよりも!パパはどうなったの!?」
再会に喜び合っていたが今シーナに取って一番大事な事は自分の父親の安否であり、そのことに一同はハッとなる。
「シーナ姫!こちらです!」
「パパ!」
シーナは衛兵四兄弟のイワン達にキプロニアス王国城内の王室に案内され、そこにはキングサイズのベッドが置かれておりバンシアナ国王が静かに眠っていた。
「シー…ナ…」
最初出会った時バンシアナ国王は威厳のある雰囲気があったが、今は包帯に巻かれ掠れるような弱々しい呼吸をしており衰弱しており、シーナの声を聞いて意識を取り戻し弱々しい声で話しかけてくる。
「パパ…!?」
シーナは父親が痛々しい傷を負い、生死の境を彷徨うような有様に言葉を失うと同時に両手で口を覆う。
「あと少し処置が遅ければ…危なかったでしょう」
ベッドの付近には白衣を身に纏った医者達が尽力を尽くしたと言わんばかりに汗を拭きながら重々しく容態を告げてくる。
「パパ…誰がこんな事を…!?」
ベッドの側で泣き崩れるシーナに様子を見に来たエイン達もどう言葉を掛けたら良いか分からなかった。
「この中で怪しいのはグランドレイク王国の方々ですね」
「シモンズ大臣」
言われようのない濡れ衣に近いことを平然と口にしながら、シモンズと呼ばれる細身の男が王室に入ってくる。
「私達が原因とはどう言うことですか」
「我々はこの異世界に転移した以降も盤石な守りを敷いていました。それだと言うのにあなた達が来てからと言うものの、モンスターの目撃情報が相次いでいるのですよ?疑われて当然ですよね?」
もちろんキオナは反論するが、シモンズはさも当然みたいな言い方で容疑を掛けるため鼻持ちならなかった。
「我々がやったと言う証拠はあるのか。この国は規律や法律を何よりも大事にする国のはずだろう」
キプロニアス王国は規律や法律を常に厳守しているため、元の世界ではギルドのルールにすら介入し決められるほどだった。だからこそ人を裁くにしてもそれ相応の証拠や事件との因果関係を求めるはずなのにそれも無しに疑って良いものかとリオーネは疑問に思うのだった。
「我々が法なのですよ。だから疑わしいと思うのなら罰するのは当然でしょう?」
「な…貴様、それでもキプロニアス王国の者なのか!」
ところが証拠なんて元からなく、それどころか自分達こそが法であるため証拠も無しに裁けるし曲解することも出来ると言わんばかりのシモンズの発言にリオーネは鼻持ちならないどころではなかった。
「他の者達も!キプロニアス王国の民ならばこれがおかしいことが分からないでもないだろう!」
大臣と言う肩書きを持つものの全員が同じ考えではないはずだろうとリオーネは王室にいる医者や執事やメイド達に呼び掛けるも、誰も同意するどころか『沈黙は同意と受け取ってくれ』と言わんばかりに視線を逸らしたり黙り込んだりしていた。
「とにかくあなた達は我々が拘束します。特に王女様」
「バカな…こんなことが許されるのか!それでもキプロニアス王国の者なのか!」
それを見ていたシモンズはこれ以上は話しても無駄だと言わんばかりに合図をすると戸惑っている衛兵四兄弟を始め、他の衛兵達が近寄って来ることにリオーネは信じられないと訴えてくる。
「…良いでしょう。あなた達に従います」
キオナは一歩前に出て自らの身を差し出し、投降することを決意したのだ。
「しかし姫様!これでは…」
「何もしてないのにも関わらず、今争えば私達の容疑は確かな物になってしまいます」
このまま拘束されて良いのかとリオーネは引き止めるが、キオナは下手に抵抗すれば自分達には何かやましい事があるのではと人々から更なる疑いを掛けられてしまうのではと考えていた。
「それに相手がモンスターだとするのなら、いずれまた行動を起こすはずです。拘束されている間に事件が起きれば無実を証明出来るはずです」
ここで争って疑いを深めるよりも敢えて拘束され、不謹慎ながら事件がもう一度起きれば、少なくとも自分達が無実であると相手に認めざるを得なくなるのだ。
「ですが、相手はこちらを容疑者として信じて疑っていません。寧ろ私達を容疑者として祀り上げるつもりなのでしょう。このままだと冤罪で姫様は処される可能性もあります」
疑うも何も全ては濡れ衣だし、何の因果でか自分達を犯罪者に仕立てようとしている相手に通用するかどうか分からない。おまけにもしも事件が起きなければ逆に容疑が成立してしまいいよいよ危うくなるのではとリオーネはキオナの身を案じていた。
「そこでエイン、あなたにお願いがあるんです。良いですか…」
「分かったよ」
だがキオナには他にも考えがあるらしく、エインにとあることを耳打ちする。
「そこのあなた達も拘束させて貰いますぞ」
「おっと、待ちな!俺達は拘束は出来ないはずだぜ!」
エイン達も拘束される中で狼獣人の青年が寸前でそんなことを言い放つ。
「何をバカなことを」
「あなた達が拘束するのは誰でしたっけ?」
シモンズは怪訝な顔を浮かべるも、今度は猫獣人の少女が確認するような質問を投げかける。
「誰って、やはり獣人族の方々は頭が悪いですね。あなた達には容疑が掛けられているんですよ?」
「だから、誰に対してよ」
多少、獣人を差別するような言い方に今度は彼女らが不機嫌そうな顔になって強い口調になるも詳細を更に追及してくる。
「ですから…あなた達ですよ」
「あなたって誰だよ。ハッキリ言えよ」
白々しいと苛立ち始めるシモンズだが、彼らは今度は誰を疑っているのかと質問を少し変えてみる。
「だから!グランドレイク王国のあなた達ですよ!」
遂にシモンズは多少キレながらグランドレイク王国から来たキオナ達を疑っているのだと怒鳴りつける。それを聞いて彼らは作戦通りと言わんばかりの不敵な笑みを浮かべた。
「グランドレイク王国…けど、俺達は国民ではないぜ?」
「な…何をバカなことを…」
突然何を言い出すのかと思っていたが、シモンズはその言葉の本当の意味に気が付き、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「私達はグランドレイク王国の出身の者ではないわ。そもそもここに来たのはこれが初めてよ」
「嘘だと思うなら渡航来歴を確認してみな」
今回の容疑はグランドレイク王国の人間がキプロニアス王国に来たことが発端とされている。
しかし獣人達は元々は奴隷として囚われていたため、グランドレイク王国の国籍は持たないし、事件が起きた後でエイン達と共にこの国を訪れたたためアリバイが成立するのだ。
おまけにこの国は渡航来歴…出入国者の管理も徹底的にしているため、最初にエイン達がこの国を訪れた時の記録も残っているため、それを確認すれば嘘を言っているかどうかは一目瞭然であり、そこまで言われてしまいシモンズは反論する余地をなくしてしまう。
「これでもまだ拘束するのですか?」
「…分かりました。取り敢えずは取り止めましょう」
こんな大勢の前で言質を取られた上に拘束する理由もなくなってしまったため、シモンズは悔しさを押し殺しながら獣人達を拘束するのを取り止めにする。
ついでにバリオンから共に来ていたレーヌも『グランドレイク王国の出身じゃないし、ここへ来たのもこれが初めてだよ!』と該当したために拘束されずに済んだ。
「暫くはここに拘留させて貰います」
「牢屋よりはマシだな」
それ以外のエインを始めとするグランドレイク王国の人間達は会食をするホールのような場所に案内され軟禁されることになった。扉が開くとそこには既に誰かいたのだ。
「あ!お兄ちゃん!」
「リリーちゃん!」
真っ先に飛び出しエインに飛び付いたのはリリーだった。彼女は嬉しさの余り長いポニーテールを振り乱しながら彼の胸に頬擦りをして甘えてくる。
「レイさん、アルロさん。エルケさんも無事でしたか」
「事件が明るみに出て、僕らも拘束されたんです」
「まったく!失礼にもほどがありますわ!」
バリオンには向かわなかった元魔法使いであるレイ達も今回のことで先に拘留されていたようだ。再会を喜んでいると、衛兵達は全員が入ったのを確認して扉を閉ざし鍵を掛けるのだった。
「…でよ、これからどうする?」
「私達はやってないって無実を証明しないと!」
再会の喜びもそれまでにしてドランはキャラバンの仲間であるキャロラインにどうするか話を持ち掛けるが、やはり濡れ衣を晴らさない限りは出して貰えそうになかった。
「あ、メリアスさん!ケガの具合は良いんですか?」
「ああ、もう大丈夫だ。しかし今回のことはどう考えても仕組まれたとかしか思えないな」
ホールの中には以前の人攫いとの戦いで負傷し、バリオンでの旅には同行しなかったメリアスもいて、今回のことが何者かの策略ではないかと考えていた。
「それについては私も同意だ。あのシモンズと言うのはいけ好かない。態度がどうとかではないが、何か良からぬことを企んでいるとかしか思えん」
一番怪しいのは大臣のシモンズだろう。誰に対しても偉そうにして見下すような発言をしているだけならまだしも、自分達を貶めようとしている雰囲気がだだ漏れであった。
「あのさぁ…思ったんだけど、シーナ姫はあたし達と行動を共にしているなら、姫様に無実を証明して貰ったらどうなの?」
「確かにそれが一番良いアイディアだが、父親のあの有様を見た彼女に私達の弁護が出来ると思うか?」
トランの核心を突いた発言に誰もが『その手があったか!』と言う表情を浮かべるも、父親が痛々しい重傷を受けてしまい動揺し心が乱れているシーナ姫に果たして務まるかは賭けだった。
「それにあのシモンズって人は大臣で、この国の法律だと言うのはあながち間違いではないんです。立場的に言えば法にも介入出来る身分でもありますし」
委員長のような見た目であるためにアルロは法律や国家情勢などにも詳しいらしく、シモンズの官僚国家に置いての身分がどれほどの物なのか説明され一同はぐうの音も言えなくなる。
そうなると気が動転しているシーナ姫の弁護もシモンズの立場に対して何処まで通用するか分からないからだ。
「つまり逆に言えば自分のやりたい放題に法律や規律を捻じ曲げると言うことか。国家での犯罪は合法と言う感じにな」
「…残念ながら今回のことはそうとしか言えませんね」
裁く相手が庶民や一般人ならどうと言うこともないが、法を定めるはずの国家の上層部が立場を利用して不正を働く様にアルロもがっくりと頭を落としていた。
「よく分からないけど、王様みたいな偉い人がズルいことをしようとしてるの?そんなのどうやって覆すの?」
国そのものから除け者にされていたエインに取って国家情勢や国家間の不正なんてザックリとしでしか分からなかったが、少なくとも自分を無能呼ばわりし国の外れに追いやったドレイク王のような相手の発言権を覆すことはかなり難しいのではと考えていた。
「確かに立場が上ですが、その不正を暴いて国民の方々に知らしめ、味方に付けることが出来れば私達の無実は証明されるはずです!」
まだよく理解出来ないエインのためにキオナが説明するに、相手は王様の次に位が高い大臣であるが無敵と言う訳では無い。そもそも王や大臣が選出されるのは国民からの支持率や先代からの指名などがある。
「もしもシモンズ大臣が不正を働いていると言う証拠をこの国の人々に見せれば失脚…つまり国民は彼を大臣として認めなくなり、その立場を利用出来なくなるはずです」
王も大臣も国民あってこその偉大な存在だ。そんな彼らが支持するのを止めれば、幾ら威張っても何の効果もなくなると言うことだ。
「つまり…この国の人達に大臣が悪い人だって知らせて味方に付いて貰うってこと?」
「その通りです。そしてそれを担ってくれるのが獣人の方々とレーヌさんです」
「さっきあの人達に頼んだことだね」
先程エインに耳打ちした内容は動けない自分達に変わって真犯人を探して欲しいと言う内容だった。しかも彼らは立場的にシモンズの拘束理由に含まれないため自由に動けるはずだ。
「しかしそうなると問題は真犯人が何者かだな。モンスターとはあったが本当にモンスターかどうかも怪しい…モンスターに変装した人間と言うことあるしな」
「全ては彼らの情報が鍵ですね…」
動けない以上はどうにもならないが、今はレーヌ達が有力な手掛かりを持ち帰ってくることに期待するしかなかった。
「リリーちゃん、元気そうで良かったよ。これお土産の綺麗な石」
「ありがとう!あのね、リリーね、新しい友達が出来たの!」
ほんの数日とは言え…いや、この異世界に置いては生きて戻れるか保証はないためエインとリリーは再会出来たことを互いに喜び合う光景に、殺伐した雰囲気で満たされていたホールが和やかになる。
「あれ、それ何?」
「卵みたいなんだけど…何の卵かは分からないんだ」
「獣人の方々が大事そうにしている代物のようですが…」
そんな中でリリーはエインが山賊達から取り返した卵を服の中に入れているのに気が付いた。何の卵かは不明だが獣人達はこれを奪われたために逆らえなかったのだ。
▷▷▷
「吉報だ。お前達の無実が証明された」
「あら?随分とあっさりですね」
一夜を過ごして翌朝、有力な手掛かりが来る前に衛兵四兄弟がホールの鍵と扉を開けてキオナ達をあっさりと解放してくれたのだった。
「済まない…我々は立場上は口出しも出来んのだ」
「何よそれ…でも、どうやって無実が証明されたの?」
四兄弟は拘束をしたことを謝ってくるが、それならとエリーシャは自分達をたった一日で解放した理由が知りたかった。
「詳しくは言えないが、今朝バラバラになった変死体が見つかった。拘束されているはずのお前達には不可能だと言うことが立証されてな…」
解放されたのは嬉しかったが、悲しいことに再びこの国で殺人事件が起きてしまったようだ。しかも現場が街中であったためすぐ人々に周知され、エリーシャ達に疑いの目を向けられるも軟禁されているためアリバイが立証され解放に至ったのだ。
「ですが、真犯人が見つかっていないため王女様と側近様はもう暫くだけ拘留させて貰います。こちらへ…」
アリバイが成立したとは言え事件はまだ解決していないため、人質として王女であるキオナは暫く拘留するようだ。
「仕方ありませんね。リオーネ」
「…!ははっ、ここは姫様の側近である私も同行しますので!」
側近としてキオナに尽くしていたリオーネだが、そんな自分を差し置いてエインと何かと距離が近かったことに嫉妬心を抱いていたが、側近として名前を呼ばれたことに彼女は心底嬉しそうであった。
「あれ、でも僕は…むが?」
「エイン、あなたは私の親友。そして…ふふっ」
前々からキオナから側近と呼ばれていたが、自分の名前がないことにふと疑問に思っていると彼女はエインの口を塞ぎウィンクしながら語り掛ける。
「とにかく真犯人であるモンスターを探すには、あなたの力が必要不可欠なはずです。ですからここは私を助けるためにもお願いしますね」
「分かった!」
エインを側近と言わなかったのは、キオナに取って彼は親友としてそして特別な存在として見ていたからだが、もう一つの理由としては犯人であるモンスターを探すにはエインの力がどうしても必要であり、自由に動けるようにしたかったからだ。
「それで何か分かった?えっと…」
キオナとリオーネと別れたエイン達は一足先に情報収集をしていた獣人達と合流し、何を知り得たのか聞こうとするが名前が出てこなかった。
「俺はマルスだ。こっちはアレッサだ」
「そう言えば名前を言ってなかったわね。よろしく」
狼獣人の青年はマルス、猫獣人の少女はアレッサと言うらしく改めて自己紹介をしてきた。
「分かったのはこの国には複数種類のモンスターが侵入しているってことだ。けど、その多くは肉食ではなく草食だって話だ」
「分かっているだけで殺されたのは六人ね。最初は行方不明者が出て誘拐事件かって騒がれてたけど、ある日その行方不明者がバラバラの死体になって見つかったらしいのよ」
彼らはたった一日でかなりの情報を集めていたらしく、事件の全容が次第に浮き彫りになってくる。
「それと殺され方は常にバラバラにされていたそうだ。腹肉や内臓も食い荒らされていて、どう考えても人間の仕業ではないそうだ」
そこまで聞くとやはり人間がやったとは思えないし、人肉を食べるなら尚更あり得ないだろう。
「事件がどんなのかは分かったけど、そもそもモンスターは何処から入ったのさ?」
「そうだよね。肉食のモンスターはもちろん、草食のモンスターまでどうやって?」
この国に限らず他国に置いてもモンスターの生活圏への侵入は大事だ。一匹ならまだしも複数の種類のモンスターが侵入し、しかも水も漏らさぬ鉄壁の守りを誇っていたはずのキプロニアス王国ともなれば未曾有の事態だろう。
「まずは侵入経路を探す必要がありますね。そうしないと根本的な解決にはならないですし」
「モンスターに聞いた方が早いかもね。そのモンスターって何処にいるの?」
火のない所に煙は立たないとあるように、モンスターの侵入には出入りするための抜け道のような物があるはずだ。更なる被害の拡散を防ぐためにも侵入経路を塞ぐ必要があるため、エインはそのモンスターが何処から入ったか意思疎通を図ろうとするために案内をマルス達に頼む。
▷▷▷
城からだいぶ離れた場所には国の農作物を作る菜園や畑が点在し、それらを管理する平民や農民の人々が住まう農村エリアがある。
「コラー!貴様らまたワシのキャベッタを食いおったなー!」
そこでは一人の老人がキャベツのような野菜を畑に入って食い荒らしているモンスターに向かって怒鳴りつけていた。
『ブオオオオ…』
『ブウゥ〜…』
畑の中には体高が膝小僧ぐらいしかない鎧竜が老人の怒鳴り声を他所にキャベッタを呑気そうに食べたり、畑の土の中に体を埋めて寝そべったりとやりたい放題だった。
「ゴンちゃんのお友達がいっぱいいる!」
「あのモンスターがここら辺の農作物を荒らしてるんだって」
エイン達もここへ来る途中でも畑の農作物のほとんどが食い荒らされたり、畑の土が掘り返されたりと酷い有様を見てきたがあの鎧竜達の仕業だった。
「あれは『ピナコサウルス』だね」
「ピナ…何か可愛い名前ね。被害はエグいけど」
名前はピナコサウルスと言うらしく、鎧竜の中でも比較的小柄なのだが群れを作るため、農作物への食害は名前の割に尋常ではなかった。
「この野郎!もう我慢ならねぇ!追い出してやる!」
一人の若者がこれ以上は好きにさせるかと鍬を一頭のピナコサウルスに向かって振り下ろす。
「ぐああ…!?か…硬いいぃぃ…!?」
鍬が鎧に当たると『ガキイィィン〜!』と言う金属音が響き渡ると同時に弾き返され手が痺れてしまう。
「剣でも通じないのに農具じゃ尚更だよ」
一度ラピスもエドモントニアの鎧に剣を振り下ろしたことがあり、手が痺れている若者に同情するのだった。
『ブオオオ!』
「危ない!」
「ぎゃはっ!?」
ピナコサウルスが尻尾を振り上げたことにエインが警告すると、ハッとなった若者は咄嗟に開脚すると股間まで数センチと言う所にトゲなしのモーニングスターのようなコブが地面にめり込む。
「くそ…ダメだ、あいつらの身体には何やっても通用しない!」
「その上であの尻尾の武器があったら、下手に手出しして返り討ちに遭うのが関の山か…!」
駆除しようにもダメージを与えられない上に、手痛い反撃を受けてしまうのではなす術もなく農作物を食われるしかないと悔しがる。それを他所にやはりピナコサウルスは農作物を食い荒らし、お腹いっぱいになれば畑の中で眠りに就いていた。
「このままだと食害が酷くなり食糧問題に発展しますね」
「でも実際のところあの鎧に覆われてるんじゃ手出し出来ないわね」
殺人鬼とは異なるが相手が鎧竜となると簡単には追い払えないだろうしこれもこれで問題ではあった。
「僕が聞いてみるよ。ねぇ、ちょっと良いかな?」
当初の目的はもちろんだが、これ以上食い荒らさないよう説得出来ないかとエインは生体電流を纏いながらピナコサウルスに近付く。
「ここにある野菜はここの人達の物なんだ。悪いけどここから別の場所に行って欲しいんだけど。出来ればこの国の壁の外に…」
刺激しないように一頭のピナコサウルスに優しく話し掛けながら、説得すると同時に何処から入ってきたか生体電流で意思疎通を図る。
『…ピュルルル〜!』
『ピュルルルオオ〜!』
『ピュルルル!』
説得に応じたか不明だがそのピナコサウルスは鳥のような綺麗な鳴き声を発すると、他のピナコサウルスも応答するように同じ鳴き声を発する。
「見た目の割に綺麗な声出すじゃん」
「あ、動き出したよ。分かってくれたのかな」
ずんぐりした見た目で鳥に似た鳴き声を発するとは思わず面食らっていると、全てのピナコサウルスが立ち上がって畑から出て何処かへと歩き出す。
▷▷▷
「ピナコサウルスはここから入ったみたい」
暫く歩いていく内にピナコサウルスは廃品置き場まで歩いて行き、やがて地面が削られた大きな穴のある壁の前で立ち止まる。
「こんな所にこんな大きな穴があったなんて」
「それにこの穴の地面は何かで掘り起こした跡がありますわ」
「こんな穴があったらモンスターが出入り出来るはずだよ。ましてやここはグレーゾーンで人目につかないのも災いしたんだろうね」
レイ達は以前にリリーを追いかけてここへ来たことはあるが、まさかこんな大きな穴が開いているとは思わなかったが、誰がどう見てもこの穴からモンスターが出入りしたとしか思えなかった。
『ウウウッ…!』
「肉食のモンスターの匂いがするの?」
すると匂いを嗅いでいたロボは危険な匂いを嗅ぎつけたのか唸り声を出していた。
「やっぱりここを通ったんだ」
「私、このことを衛兵の皆さんに知らせて来ます!」
とにかくこの壁の穴ことを知らせる必要があるため、ルシアンは一足先に城へと急ぐのだった。
「さあ、君達は外に出て」
『『『……』』』
その間にピナコサウルスを壁の外に出そうとするが、子供を中心にして取り囲むようにその場に寝そべり始める。
「これは…何してるのさ?」
「おしくらまんじゅう?」
見た感じはリリーの言うようにおしくらまんじゅうのようにも思え、何処か愛らしい雰囲気があるが何故にこんな事をするか理解出来なかった。
「エイン、こりゃ何か気配を感じるぞ」
「そうね、腐った肉の匂いがする。少なくとも肉食のモンスターが付近を彷徨いているかも知れないわ」
「実は僕も…ピナコサウルスが何かを警戒しているのが伝わって来るんだ」
獣人故に勘が鋭いマルスやアレッサ、そしてピナコサウルスを通したエインは周りに肉食のモンスターがいると確信していた。
「ひゃあああぁぁぁ!?」
「ルシアン!?まさかあっちに!?」
そして確信が現実になったと言わんばかりに城に向かったはずのルシアンの悲鳴が聞こえてくる。
『ガルルル…!』
「いやっ!止めて!?」
ルシアンは突如飛び出したモンスターに薄暗い路地裏に引きずり込まれ襲われていた。
身体の大きさは大型犬ほどとこの異世界に置いては小柄かもしれないが、充分に脅威であるし彼女に取ってはそのモンスターは恐怖の象徴であったことは間違いない。
『グル…!?』
いざ彼女の柔らかい肉を喰らおうとした時、顔面スレスレを矢が通り抜けたことで怯みルシアンから離れる。
「悪いがそいつのお持ち帰りは止めて貰うか」
「まさかこうも早く犯人と出くわすとはな」
事件解決は長引く物だと相場が決まっているが、こんなにも早く犯人が現れるとは思わず全員がその場に駆け付けたのだ。
「けど、よりにも寄って…」
しかしその犯人の正体を見てエリーシャはルシアンと共に恐怖心を呼び覚まされる。
『グオオオオン!』
「小さいけど…あの時のワイバーンもどき!」
「『カルノタウルス』の…子供?」
犯人の正体はエリーシャがまだエインを無能と呼んで蔑んでいた時、彼女とルシアンに死の恐怖を植え付けた肉食恐竜カルノタウルスだった。しかしまだ子供なのか大きさは大型犬ほどしかなかったが、それでも恐怖と脅威の象徴であることは間違いなかった。




