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山『賊』VS『陸のサメ』

「ふわぁ〜…ん?何だ?」


「どうした?」


暇そうにしている山賊達の側を障害物や相手の死角を利用して確実に奴隷の檻に近付く者がいた。


「ここまでは隠れながら来れたけど…」


『クゥン』


それはエインと彼の服の中から顔を覗かせるロボだった。彼は脱出プランの肝であるキオナ達の救出へ向かっていたが、ここからは奴隷を逃さないように監視の目が昼間でも光っていた。


「こんなことを姫様にして…ただで済むと思うなよ!」


檻から聞き覚えのある反抗的な台詞にエインは物陰から覗くと、檻の中から山賊に怒号を飛ばすリオーネの姿があった。


「うっせぇわ、その姫様を守れなかった女の虚勢(きょせい)なんかでビビると思ってんのか!」


喧嘩を売られた山賊は気が短いらしく乱暴に檻を蹴り飛ばし、中にいる他の奴隷達を驚かせていた。


「そんなことを言ってられるのも今の内だ。ボスとお得意様の話が終われば明日中には姫様二人は引き渡しになる!せいぜい別れを惜しんでおくんだな!ひゃーはははは!」


どうやらキオナとシーナを誰かに引き渡すらしく、作戦実行は今日を置いて他にはないと言うことだった。ふと物陰から見ていたエインはある事に気が付いた。


「フォークがいない…捕まらなかったのかな」


それはエインのもう一匹の相棒、トリケラトプスのフォークだった。あの時は留守番を任せたがキオナ達が砦にいると言うことは同じく捕まったと思っていたが、同じ檻にいないことに首を傾げる。


「それとも…ん?」


その時近くの小屋の中から聞き慣れた鳴き声が聞こえ、不審に思ったエインはその中に入り込む。そこにはサイズはバラバラだが幾つかの檻が無造作に置かれていた。


『ギィー!』


「フォーク!ここにいたんだね!」


その檻の一つに相棒が入っており、最初は元気がなかったがエインを見て嬉しそうに檻の中で暴れる。


「でも、ここは一体?」


よくよく見てみると檻に入っているのはフォークだけではない。見た目は幼いがステゴサウルスやエンボロテリウムなど、様々な恐竜や獣の幼体が檻の中に入れられていたのだ。


「酷い…こんなことをするなんて」


相棒のこともだが、本来は自然界を自由に生きているはずの生き物達がこんなすし詰めにされているのを見てエインは心を痛めている、また聞き覚えのある鳴き声がしてくる。


『『クキュウ…クキュウ…』』


「って、トロオドン?もしかしてあのトロオドンはそのためにこれを…?」


檻の中には砦の外で出会ったトロオドンと同じであるが、頭数が合わない上に最初見た時よりも小柄なため別個体のようだった。そう言えば檻の数の割には鍵の数が合わないと思っていたが、エインはもしやと思い返す。


「ようこそおい出ました」


「相変わらずここは獣臭いな」


「ここはだいぶマシだけど、あたしらが来るなら掃除ぐらいしなさいよね」


隣の部屋から酒ヤケしたような野太い中年男性がもてなす声と、居心地悪そうに難癖をつけている若い男性の声と、やたら高圧的な若い女の声が聞こえてくる。


「それで最近は景気はどうなんですかい?」


黒曜石のナイフで穴を開けて覗いてみると、その部屋だけ客間や応接間のように机やソファなど家具が置かれており、そこで手揉みごますりながら話を切り出しているのは太めの体形とスキンヘッドが目立つ中年男性だった。


「ボビン、あの姫様の相手は疲れるよ。大した美人でもないくせにギャアギャア喚くのだけは一人前だからな」


その中年男性…ボビンの話し相手はやたら豪華そうな勇者の鎧を身に纏った偉そうな男性だった。彼は何処かの国に仕えているのか、自国の姫に対して愚痴を零していた。


(姫様…?そう言えばさっきも…)


迷う羽目になったランベオサウルスの暴走。その時にも何やら同じことを呟いて騒いでいるのを耳にしたが何のことかは分からなかった。


「あんた達は逆に景気が良さそうね。山賊にしてはこんな立派な砦に、あのたくさんの獣も…」


男性の側には紫色の髪をロールさせたキツめの若い女性が座っていた。プロポーションは中々だが、部屋に充満する獣臭に耐えれずに高そうな香水を辺りに撒いていた。


「お陰様ですよ。そちらが我々を雇ってこんな所を提供してくれたのですからねぇ〜」


「こんな辺境の土地の砦なんて使い道ないと思ってたが、無駄にはならなかったな」


捨てる神あれば拾う神ありと言うように、ここは元々あの若い男女の二人が所属する国の所有物のようだったらしく、使い勝手が悪いため山賊に引き渡したようだ。


レーヌが先程から山賊にしては設備が充実過ぎると言っていた理由は他者、他国から譲り受けた砦を使用していたからだ。


「それよりもグランドレイクとキプロニアスの姫君を明日には引き渡しの約束でしたね?」


「両国は政権が傾いているからね。姫君がこちらの手にある以上はこのふざけた異世界での覇権を手にするのも夢ではないわ」


思い出したように若い女性はふんぞり返って、両国の政権を我が物顔にしたかのような不敵な笑みを浮かべていた。


「それよりも山賊のあんた達がよくあれだけの獣人族を支配出来るわね。この異世界では魔法もスキルもないから、相手を隷属させるのも一苦労なはずなのに」


元の世界でも人間や異種族を支配し、隷属化させるには主に魔法やスキルなどが使われた。


ところがこの異世界ではその方法は失われており残された手段として力技で屈服させる他ない。


だが、獣人は基本的に力が強く身体能力も高いため幾ら山賊達でもこれだけ従えるのは簡単じゃないはずだ。それこそ今こそ反逆の機会を狙っているのではと女性は危惧していた。


「心配は御無用ですよオリア様。獣人達は無駄な仲良しごっこが好きなため、このように奴らの仲間の卵をワシの手中にあるのですからね」


ボビンは若い女性オリアの心配を既に予測しており、彼は綺麗な台座に載せられたダチョウの卵のような物を見せてくる。


「こいつは…どうやって手に入れた?」


「コレイア様、お目が高いですね。こちとら人身売買に掛けてはプロですから、獣人達やこの卵のことは手に取るように分かるのですよ」


オリアの隣にいる若い男性コレイアはその卵を物珍しそうに見ており、ボビンもその反応に満足し得意げになっていた。


「とにかくこれがある限り獣人達は下手にワシに逆らえないし、逃げ出すことも出来ないのですよ。ところで今度はいつ奴隷をお買い上げしますか?()()エルフですか?それとも獣人ですか?」


(…奴隷をお買い上げって、もしかしてさっき馬車で聞いた山賊のボスってこの人?よく分からないけどあの卵がボスの手元にあると、獣人の人達は逃げられないのかな…)


障子に目あり壁に耳ありと言うように、エインが聞き耳を立てると同時に中の様子を探ったことで脱出のための鍵をもう一つ見つけることとなった。


「と言うことはあの卵を何としても持ち出さないと…それに何だか誰かを呼んでいるような気がする」


理屈は不明だが隙を見てあの卵をボビンから奪わないと、獣人達を檻から出しても山賊達からは逃げられないようだ。何とかして方法はないかとエインは今いる部屋に何かないか探してみる。


「あれ、君達は…うっ!?そんな…ってことは…」


しかしエインは檻の中に入れられていたとある見覚えのある恐竜の幼体を見つけるのだが、生体電流(パルス)を読み取った瞬間に息を呑むのだった。


「こんな…こんな所で足止めしている場合じゃないのに」


その頃、檻の中ではシーナが父親の安否を気に掛けており、一刻も早くここから出たい気持ちでいっぱいだった。


「無駄だ。俺達と同じでお前らはもうここからは出られない」


「もう何も考えない方が楽よ…」


彼女の言葉を耳にした獣人達は力無く否定してくる。自分達は未来永劫(みらいえいごう)自由を奪われ、逃げ出すことも叶わず搾取され続ける未来を悟っているために、脱走だなんて夢のまた夢の話だと言わんばかりだった。


「皆さん、気を落とさないでください!きっと私達は助かります!だから希望を捨てないでください!」


そんな獣人の言葉にシーナも他の奴隷の人間達もすっかり気落ちして絶望してしまっていたが、キオナはまだ希望はあると激励をする。


「はははは!助かるって、お前は明日には売られるってのによ!」


「違いねぇ!世間知らずのお姫様はお気楽だべ!ひゃははは!」


キオナの激励を酒の(さかな)にして聞いていた山賊達は下品な笑い声を挙げていた。


(どんな時でもあなたは来てくれますよね…エイン)


山賊に下品に笑われてもキオナは気丈に振る舞っていた。それもこれもきっとエインが助けに来てくれると信じていたからだ。


「だいぶ暗くなったわね。後は合図を待つだけね」


別行動をしていたトランは何処かに隠れ潜んでおり、手には火打石とロープ、更にロープ終点にある黒い砂山を見ながら合図を待っていた。


「もう夜に…パパ…」


早く戻りたいのに囚われて、そのまま日暮れになってしまい、父親のことが心配になる余りシーナは大粒の涙を流してしまう。


「大丈夫ですよ。きっと…」


「きっと…何だよ?」


また励まそうとするが再び山賊が現れ、下品な笑みを浮かべてながらキオナの顔や髪に触れてくる。


「貴様!汚い手で姫様に触れるなぁ!」


「うるせぇんだよ、てめぇは!」


リオーネは当然キオナを守ろうと攻撃的になるが、山賊を激昂させてしまい檻越しに胸ぐらを掴まれて引き寄せられてしまう。


「離せ!触るな!」


「どうやらお前には奴隷としての教育が必要らしいな!」


中に入ってくれば応戦出来るが檻越しでは山賊の方が優位であった。そのためリオーネは今にも身体を触られたり、キスをされそうになり嫌悪感で顔を歪ませるも山賊を喜ばせる結果になってしまう。


「女騎士の嫌がる顔は(そそ)るねぇ…がはっ!?」


お楽しみはこれからだと山賊が舌舐めずりをしていると、青白い光と共に山賊の顔が硬直しリオーネを掴む手が緩む。その直後に檻の格子に前のめりに倒れ、顔を擦り付ける形でその場に倒れてしまう。


「キオナ!皆!大丈夫?」


「エイン!やはり来てくれたのですね!」


山賊の後ろから心底ホッとしたようなエインが現れたために、キオナ達も心の底から笑顔になる。


「エイン…信じていましたよ」


「無事で良かったよ」


檻越しにキオナはエインの手を取り合い、互いに見つめ合い二人だけの世界を作り出す。


「おほん!エイン、今回は褒めて遣わすぞ」


ところがせっかく良い雰囲気だったのに嫉妬に駆られたリオーネがぶち壊してしまう。当然キオナは膨れっ面になってしまうも、周りでは奴隷達が顔を赤らめながらこちらを見ていたのだ。


「とにかくここから出してくれないか?」


「鍵は開けるけど、合図を待ってくれない?」


そう言うとエインはトロオドンから受け取った鍵束で檻の鍵を開けていく。檻の鍵が開いてキオナ達はもちろん、長年囚われていた奴隷達は最初は戸惑うも直感的に自由になれると分かり、今すぐにでも飛び出しそうな勢いだった。


「まだですかエイン?」


「まだだよ。ロボ、お願い」


『アオオオオン〜…!』


何とか奴隷達を引き止めているがそう長くは保たないらしく、エインに先を急がせようとするが彼は慌てず騒がずロボに遠吠えをさせる。


「何だ?遠吠え?」


「獣人共がまた遠吠えしてんだろ」


砦内に遠吠えが響き渡るも外にいる狼か、狼の獣人が遠吠えしているのだと思い大して気にしなかったが、ある人物には作戦決行の合図だった。


「…合図だ!」


トランは遠吠えを聞いてカチカチと火打石を打ち、そこから出る火花をロープのような物に着火する。ロープが火花を伝うのを確認してから離れる。


「おい!いつまでこんなとこにいれば良いんだよ!」


「早くここから出たい!」


「待って…まだ…」


奴隷達はもう我慢の限界で檻の扉を蹴破らんほどに息巻いていたが、それでもエインはストップを掛けていた。しかしすぐその後で砦内に不吉な爆発音が響き渡り、突然の閃光が辺りを明るく照らし始める。


「まだ…ですの?」


「いいや、これが合図だよ!脱走開始だよ!」


「「「いやっほー!」」」


待ってましたと言わんばかりに爆発音の残響もある内に、奴隷達は解放された喜びの声を張り上げながら檻から飛び出す。


「何だ!今の爆発音は!?」


「お頭!大変です!物見やぐらが燃えています!?」


当然、砦内は騒然となっており寝ていたボビンも何事かと小屋の外に出てくると、物見やぐらが燃えて灯台のようになっていることに我が目を疑う。


「雷でも落ちたのか!?」


「何でもいい!燃え広がる前に消火しろ!」


砦の中でも高く目立つ場所である物見やぐらが燃えるなんてよほどの事態だ。動揺はするもののこのままだと火の粉が飛び散り、燃え広がる危険性が出てくるため誰もが上を見上げて消火活動を行うため、近くをコソコソと人間が徘徊していても気付かなかった。


「それにしてもエインくん、物見やぐらを燃やすだなんてよくそんな大胆なことを思い付いたね」


「あれを燃やしたらきっと消すのに夢中になるだろうって思ってね。それにあそこから見られているのなら燃やしちゃえば…」


エインの考えた脱出作戦とは物見やぐらを燃やして山賊達の注意を惹くと同時に、彼らの監視の目を奪うことでより動きやすくするためだったのだ。


「ですが、どうやって物見やぐらに火を?」


「そこはあたしがやったんですよ。物見やぐらに登って、あいつらの火薬を設置して火を着けたんですよ」


エインが檻の鍵を開けている間に、トランは物見やぐらで山賊の倉庫から持ち出した火薬を使って火を放っていたのだ。


「皆は先に入り口に向かってて!僕は少しやることがあるから!」


「エイン!…気を付けてくださいね」


他に何かやり残したことがあるのか、エインはキオナ達と別れて何処かへと向かう。


「くそ!こんなの消せるか!」


「消さなきゃ砦が燃えるだろうが!」


火災が起きているのは高所であり、言ってみれば木の上で起きている火事を木に登って消せと言っているような物だ。まだ小屋が燃えているとかなら対処はしやすかっただろう。


「こうなりゃ奴隷共に行かせて…あ?」


こう言う危険なことは何も自分達でなくとも、奴隷達にヤラせれば良いと考え檻の中を見てみるともぬけの殻になっていた。


「まさか…お頭!大変です!奴隷達が…!?」


情報をイマイチ整理出来なかったが何が起きたかは一目瞭然であり、慌ててお頭であるボビンの元へと向かうのだった。


「レーヌ!鍵はどうなったの!」


「トランちゃん!思ったよりも早かったね!もう少しだよ!」


通用門では(かんぬき)に大きな南京錠がされていたが、レーヌがピッキング道具を鍵穴に刺して解錠しようとしていた。


「あれ、エインくんは?」


「何かやることがあると…ですがきっと彼なら戻って来ます」


エインの姿が見えないことを気に掛かるもキオナの真っ直ぐな視線にレーヌは頷いてピッキング作業を続ける。


「開いた!」


「よし、皆を外に…危ない!?」


ガチャリと言う音と共に南京錠と閂が地面に落ちるとトランが慌ててレーヌを押し倒す。その直後に彼女が立っていた場所に矢が飛んできて、そのまま通用門に突き刺さるのだった。


「貴様らぁ…!よくもワシらをコケにしてくれな!」


「ボビン!よくも俺達を今まで…!」


気が付くとボビンは仲間の山賊を全員引き連れて集まっており、それを見た狼の獣人の男が奴隷全員の怒りを代表するかのように唸っていた。


「皆さん、相手が多過ぎます。今は脱出を考えてください」


「あなたの仲間に助けられた恩はあるけど、それでもこいつらだけは…!」


モナとは別の猫の獣人の女性も直接助けてくれたエインや、その仲間であるキオナには恩義を感じているようだが復讐は別問題らしく譲る気はなさそうだった。


「ふん、バカめ!お前らのアキレス腱はこっちが握っていることを忘れたか!」


「それは…!卑怯だぞ!」


ボビンは懐から台座に飾られたダチョウの卵のような物を見せつけると、獣人達は復讐心よりも動揺が上回り苦虫を噛み潰したようになる。


「あの卵がどうしたと言うのだ」


「教えてやろう、これは獣人達が大層大事にしている物らしくてな。こいつがワシの手元にある限りはこいつらは逆らえないのだよ」


あれほど復讐心に駆られていたはずの獣人達が悔しそうに(うつむ)いており、それを見た山賊達がニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら手錠や鎖などを手に近付いてくる。


「貴様らも残念だったな!ようやく自由になれると思ったが、所詮は全てワシの手の内!詰めが甘かったな!」


人が絶望する様を見て愉快そうに笑うボビンにキオナ達も獣人達と同じく絶望感と不愉快さで表情を険しくする。


「従う必要はないよ!」


「エイン!」


しかしそんな彼らにまるで希望の光を放つかのように明るく呼び掛ける声が聞こえてくる。キオナは待ち望んでいたエインの言葉に自然と表情が明るくなるのだった。


「な、貴様は何処から入ってきた!それに従う必要がないだと?何を勝手な…」


「その卵があれば獣人の人達は従うんでしょ?でも、それって逆に手元になければどうしようもないってことだよね?」


もっともらしいことを言うためにボビンはイライラしながら聞いていたが、エインが懐から出した物を見てそうも言ってられなくなる。


「この卵は獣人の人達に返して貰うよ!」 


なんとエインの手には獣人達が大事にし、ついでにボビン自身も大事に保管していたはずの卵が握られていたのだ。色もサイズも同じであるためにボビンは呆気に取られる。


「なっ!?何でそれをお前も持ってるんだ!?じゃあ、こっちのは…!?」


考えられるとしてどちらかが偽物と言うことになるのだが、ボビンは自分の持っている卵こそ本物だと信じて確認してみるとカラカラ音がすると同時に中で何か動いている感触があった。


「まさか…何だこれはああぁぁ!?」


卵にしては変な音と感触がするため青ざめながら叩き割ってみると、卵だから簡単に割れはするが中に入っていたのは卵黄でも卵白でもなく同じ重さになるように入れられた小石だった。


「それは僕が食糧庫で見つけた卵の殻と蜂蜜、そして小石を入れて作った偽物の卵だよ!」


覗き見たのが功を奏したのか、エインは隙を見て偽物の卵を作ってボビンの持つ卵とすり替えていたのだ。


「本物の卵は僕が持ってる!だからもう従う必要はないよ!」


「お…おおっ…マジかよあいつ!」


「嬉しい限りだ!」


服従関係を断ち切り、大切な卵と自由を取り返してくれたエインは獣人達から見れば英雄のように見えたのだった。


「き…貴様〜!あの卵を取り返せ!」


「エイン!逃げてください!」


子分の山賊達が武器を手に迫ってくることにキオナはエインに逃げるように勧告する。


「…皆!出入り口から離れて!」


「はい?何を言ってるんですか?」


ところがエインはキオナ達に通用門から離れるようにと、まるで逆に逃げろと勧告しているようだった。


「来るんだよ!」


「来る…まさか!?」


最初は訳が分からなかったがズウウン…ズウウン…と言う重い足音と木々を掻き分ける音が森の奥から聞こえ、キオナ達はその聞き覚えのある音に何を警告しているのか判明し血相を変える。


その直後に鍵と閂が開けられて半開き状態だった扉が外から押し開けられ、砦の中に巨体を持つ侵入者が二頭入り込んでくる。


『ガルルル…グオオオオン!』


『ギエエエエ!』


「「「ド…ドラゴン!?」」」


入ってきたのはティラノサウルスと同じサイズの獣脚類で、鼻先が細く伸びていて、口から覗かせる歯は三角に尖っていてまるでサメの歯のようになっていた。


「『カルカロドントサウルス』…!」


「唐揚げ…丼?」


「そう言えばこのドラゴンの顔…まるでご馳走を前にした私達みたいな顔をしているぞ…!」


侵入してきたのは二頭のカルカロドントサウルスでサメのような尖った歯の間からダラダラと(よだれ)を垂らしており、空腹時の獣人のように正しく飢えた野獣状態であることは間違いなかった。


「当然よ…ここら辺の獲物はこいつらが皆狩り尽くしたんだから!」


『ガオオオオン!』


「皆さん!逃げてください!?」


言われなくとも逃げるつもりだったが、カルカロドントサウルスの咆哮に奴隷だろうと山賊だろうと蜘蛛の子散らすように走り出すのだった。


『グオオオオ!』


「ぎゃあああ!?」


『ギエエエエ!』


「かはっ…!?」


カルカロドントサウルスは目に付く山賊達を片っ端から顎や三本指の前脚で捕らえ手当たり次第に食べていく。


「「はあ…はあ…ひい…!?」」


「くそ!囮になれ!?」


双子の犬獣人の子供も死に物狂いでカルカロドントサウルスから逃げていたが、後から逃げていた山賊に妹を突き飛ばされてしまう。


「カナ!大丈夫!?」


「カイお兄ちゃん!助けて!?」


『グアアアアア!』


双子の犬獣人の子供の兄であるカイは妹のカナに駆け寄るが、背後には恐ろしいカルカロドントサウルスが迫ってくるため二人は恐怖で固まり丸くなる。


「危ない!」


『…グオオオオン!』


「はあ!?何で…ぐぎゃあああ!?」


生体電流を纏ったエインが二人を抱えてその場を離れると、カルカロドントサウルスはそれを見ても深追いはせずに先に逃げた山賊を追いかけて捕食する。


「…大丈夫?ケガはない?」


「ありがとう、お兄ちゃん…」


二人に大したケガはなく、何とか逃げ切れたことにホッとするエイン。


「このドラゴン達…さっきから山賊しか狙ってないみたいだけど」


「やはり気のせいではないようですね」


カルカロドントサウルスは先程近くにいた双子とエインは狙わず、わざわざ遠くに逃げていた山賊を狙っていたが、単なる偶然や気まぐれなどではなく山賊だけを選んで捕食していたのだ。


「お腹空いてるのにわざわざエサを選ぶなんてことがあるの?」


人間社会に置いて誰だって死ぬほどお腹が空けば、嫌いな物でも食べたくなるはずだ。


ましてや今日の食い扶持(ぶち)ですら手に入るかどうか分からない自然界で、しかもこの辺一体は山賊が獲物を狩り尽くしたため餌を選ぶなんて贅沢なことはしないはずだ。


「もしかして山賊達は身体が大きいし、動きが鈍いからそっちを優先してるんじゃないのかしら。モンスターの中には獲物の特定の部位だけを食べる種類もいるらしいから」


しかし全くないと言う訳では無い。クマは鮭を獲るのはご存知だろうが、中にはイクラだけを食べてその他は食べ残すと言うことをするのだ。これは主に鮭が豊作であった場合に行われるため滅多にないそうだが…。


カルカロドントサウルスの場合はガリガリに痩せて素早く動く小さい子供よりも、でっぷり太って動きの鈍い大人の山賊を捕食する方が効率が良いのだ。


「とにかく今はここから…いっ!?」


最初は恐ろしかったが、今がチャンスだと通用門を見るがシーナは凍りついてしまう。


『プオ!プオ!プオ!グアァァァグククク!』


『『『ギャア!ギャア!』』』


「あれは…リザードマン!」


甲高い不気味な鳴き声と共に森を掻き分けて集団で飛び出したのはディノニクス達だった。グランドレイクでも自分達を恐怖させたディノニクスとの思わぬ再会にリオーネ達はゾッとする。


『ギシャアアア!』


「うぎゃあああ!?」


『ギエエエエ!」


「あああ!?助け」


ディノニクス達は目に付いた山賊に飛び掛かり、顎はもちろんのこと後ろ脚の鉤爪で肉を引き裂き生きたまま捕食し、耐え難い苦痛と地獄の苦しみを与えて断末魔を挙げさせる。


「皆!固まって!バラバラになったら真っ先に襲われるよ!」


「こいつらも獲物を選んでくれば良いものを…!?」


カルカロドントサウルスと違い、ディノニクス達は山賊だこに限らずラピス達にも狙いを定めたかのように威嚇してくる。そのため子供を中心に円陣を組んで襲われないようにする。


『シャアアア!…っ!?』


「…何だ?」


襲い掛かろうと身体を低く身構えていたが、不意に頭上に鼻先を向けて匂いを嗅ぎ始めたのだ。それと同時に砦の外から再び地響きに似た足音と木々を掻き分ける音がしてくる。


『ガオオオオン!』


「嘘でしょ…何であんたまでここに来んのよ!?アクロカントサウルス!?」


さすがに故郷を奪った怨敵の名前を覚えたのかトランは砦の中に侵入したアクロカントサウルスを睨みつけながら名前を叫ぶ。


『ギエエエエ!』


「ぎゃはっ!?」


「ぎひいっ!?」


カルカロドントサウルス、ディノニクスと続いてアクロカントサウルスも山賊を食べに来たのかと思っていたが目に付く山賊を顎で噛み潰したり、前脚で握り潰したり、尻尾で薙ぎ払ったりと捕食と言うよりも殺戮(さつりく)の限りを尽くしていた。


『ウガアアアア!』


『…!ギエエエエ!』


その際に殺された山賊の身体がカルカロドントサウルスに当たってしまい吠えられてしまうも、アクロカントサウルスも負けじと顎を開いて威嚇するように吠える。


「おいおい、まさかこれは…!?」


「ヤバいぞ!?」


野生の勘とでも言うべきか、カルカロドントサウルスとアクロカントサウルスの睨み合いが良くない結果を産むと直感的に判断した獣人達は青ざめていた。


『ギエエエエ!』


『グアアア!?』


睨み合った後にアクロカントサウルスは素早く吠えてきたカルカロドントサウルスの鼻先に食らいつき組み伏せようとし、その際に逃げていた山賊を何人か跳ね飛ばす。


『グルアアア!』


『ギャアアア!?』


もう一頭のカルカロドントサウルスがアクロカントサウルスの背びれに噛みついて腰が抜けた山賊を巻き込みつつも逆に地面に組み伏せる。


『ガルアアア!』


『ゴファ…!?』


負けじとアクロカントサウルスは後ろ脚でカルカロドントサウルスの身体を蹴り飛ばす。反撃によろめいたカルカロドントサウルスは小屋に倒れてしまい、隠れていた山賊を身体で潰してしまう。


「スゴい光景だ…魔法もスキルもないが、目が離せないぞ」


「お互いに殺し合おうとしているからね…」


魔法やスキルの中には爆発や魅了される派手さがあり、その上で元の世界ではドラゴン同士の戦いなんて滅多に見れないため、それらは人々の心を掴んで離さないだろう。


しかしこの異世界の恐竜(ドラゴン)達は魔法もスキルもない代わりに自らの肉体と力をぶつけ合って、生きるか死ぬかのせめぎ合いをしている。弱肉強食が強調されたこの命懸けの異世界を生き抜くように進化した彼らの生き様は悪く言えば荒削りで原始的だろう。


だが、原始的だからこそ『生きたい』と言う確固たる生存本能が存在し、互いに命を懸けて生き抜こうとするこそ人々は昔から『恐竜』と言う存在に憧れを覚えるのだろう。


「どっちにしてもこのままだとどっちかが勝ってあたしらを襲うわよ」


思わず釘付けになってしまったが、アクロカントサウルスとカルカロドントサウルスのどちらが勝っても襲われることに変わらない。


『ギシャア!』


「とは言えリザードマンがこう多くては…」


しかしその前にディノニクス達が自分達に狙いを定めている以上は下手に動けなかった。


「フォーク!」


すると突然エインはもう一頭の相棒の名前を叫び、口笛を吹くと小屋の壁が内側から破壊される。


『ギィ〜!』


『『『ギャア!ギャア!』』』


突進で小屋の壁を破ったフォークの背後から恐竜や動物の幼体達が続いて出てくる。


『…!グガアアア!』


すると騒ぎに気付いたアクロカントサウルスは大きく目を見開き、その幼体の群れを追いかけ始める。


「おい!こっちに来るぞ!?」


「あなた!何をする気なの!?」


「…!」


アクロカントサウルスが鬼気迫る勢いで来るためにディノニクス達は逃げ出すが、自分達もこのままだとヤラれてしまうのにエインは逃げずに面と向かい合っていた。


『ギィ〜!』


「待たせたねフォーク。それに皆も」


『『『クキュウ…』』』


フォーク達は側に集まり嬉しそうにエインに寄り添い、エインも全員がいることを確認するのだった。


『グルルル…!』


「エイン…!?」


「ちょっと…逃げないと…!?」


ほぼ全員がその場から逃げ出していたが、エインだけはその場に留まってこちらを睨むアクロカントサウルスと向き合う。


「…ほら、お父さんだよ」


『『『クルル…』』』


エインは幼体の群れの中にいるアクロカントサウルスによく似た姿の三頭の幼体達を押して、アクロカントサウルスの元に向かわせようとする。


『『『クキュウ!クキュウ!』』』


『グウウウ…』


するとその幼体達はアクロカントサウルスの足元まで駆けていき嬉しそうに吠えており、対するアクロカントサウルスも目に涙を溜めて何処か慈愛に満ちた唸り声を出す。


「待って…あの赤ちゃんはもしかしてアクロカントサウルスの?」


「うん、そうなんだ」


どうりで姿形が似ていると思えば、あの幼体達はルミナスで産み落とされた卵から孵ったアクロカントサウルスの実の子供だったのだ。


「あの時のドラゴンでしたか…しかし何故ここに?」


キオナ達はずっと囚われていて知らなかったが、目の前にいるアクロカントサウルスとはルミナスで一度遭っていてここにいること事態は知らなかった。


「それは…あたし達にも分りません。エインがそうだって言うまでは知らなかったですけど」


しかし子育てのために腰を下ろしたはずのルミナスからここまで来た理由はトラン達にだって知る由もなかった。


『…!グオオオオン!』


「ぐっ…何だ、ワシが何をしたって言うんだ!」


子供の無事に安堵していたアクロカントサウルスは一転して復讐心に燃える瞳でボビンを睨みつける。


「怒って当然だよ!そのアクロカントサウルスは…あなた達が()()()アクロカントサウルスの旦那さんだったんだ!」


代弁するかのように怒号を張り上げるエインの台詞に一同は耳を疑う。ルミナスで見たアクロカントサウルスの内の一頭がボビン達に殺されていたのだから。


「その子達を通じて伝わって来たんだ…お父さんが留守中にあなた達がその子達の兄弟を殺して!動けなくさせたお母さんを一方的に殺して!皮を剥いだことを!」


エインの脳裏には産卵で弱体化した雌のアクロカントサウルスがボビン達に拘束され、その直後に産まれたばかりの子供達を人質にされた上にまだ孵っていない卵まで踏み荒らされ、仇を討つことも出来ずに無念のまま殺されたビジョンが映っていた。


恐らく子供のアクロカントサウルスの過去の記憶を生体電流で読み取ると同時に鮮明にビジョンとして捉えていたのだろう。あまりの悲惨さにエインも頭が痛くて辛そうだった。


「なるほど!だからアクロカントサウルスはルミナスを出て!ここまで来てあんたらを殺しに来たのね!」


「いずれにしても下賤(げせん)な奴らには相応しい末路だな。今の内にここから脱出しよう」


カルカロドントサウルス、ディノニクスに加えて復讐に燃えるアクロカントサウルスと砦内は混沌としているが、後のことは彼らに任せて自分達が脱出するにはまたとないチャンスだった。


「貴様ら!逃がしは」


『グガアアア!』


奴隷達やここまでのことをしたエイン達を追いかけようとするが、アクロカントサウルスも『お前だけは許さない!』と言わんばかりに前に立って吠えてくる。


「こっちだよ!」


『プオオオン!』


単独行動をしていたエインは脱出のために馬車も確保していたらしく、脱出のタイミングに合わせてパラサウロロフスが馬車を牽いて駆けつけてくれる。


「とんだ道草を食ってしまったわ!」


「とにかく急いでキプロニアス王国へ向かいましょう!」


思いがけない足止めを食らってしまったため、一刻も早くキプロニアス王国に向かうために、まずは二人の姫を馬車に乗せてすぐさま出発しようとする。


「待ってくれ!俺達を解放してくれたあんたに恩を返したい!」


「私達もどうかお供させてください!」


「ええっ…?そんなつもりじゃ…」


せっかく奴隷の束縛から解放したのに、獣人達がまさか自分に付き従ってくるとは思わず困惑するエイン。


「彼らも連れて行きましょう。エイン、今は彼らと行動を共にしてください」


「…分かったよ。皆、行こう!」


元からキプロニアス王国へ連れて行く手筈ではあったため、経緯はどうあれこのままエインが引き連れて行くこととなった。


「はあ…はあ…ははは!やったぞ!逃げ切ったぞ!」


エイン達が脱出した直後にボビンは怒れるアクロカントサウルスに追われながらも、肉食恐竜に食われながら助けを求める子分達を見捨て、自分だけが知る秘密の抜け道を使ってアクロカントサウルスと砦から脱出していた。


「しかし、よくもこんな大損害を出してくれたな、あいつら…!?見つけ出して八つ裂きにしてくれるわ…!」


命の危機を脱したことでホッとするも、徐々に己で見捨てたとは言え、自分の拠点や子分を失ったことに復讐心を抱く。


『ギャアッ!』


「ぐわあっ!?な…何だぁ!?」


しかしアキレス腱が鋭い牙によって噛みちぎられボビンは前のめりに倒れてしまう。何が起きたか分からず振り返ると茂みの中に隠れていたモンスターが姿を現す。


『クキュウ…!』


『ギギギ…!』


「お…お前らは…」


自身のアキレス腱を噛みちぎって食べていたのはトロオドンだった。それも一頭ではなくエインが解放した個体も含まれており、昼間と比べると強い殺気が籠った目付きをしていた。


「ゆ…許してくれ…お前らの羽毛が高く売れるからって、仲間を大勢殺したことをよぉ…!?」


恐竜に復讐心があったかは分からない。しかしカラスや象などの知能の高い生き物は仲間意識や相手の顔を覚えることが出来るとされている。


そのため恐竜の中でも知性の高いトロオドンからすれば、ボビンは羽毛のために大切な仲間や家族に手を出した憎き相手だと言うことは間違いなかった。


『『『ギギギ…ギシャアアア!』』』


「ぎゃああああああぁぁぁ…!?」


闇夜にトロオドンの復讐の咆哮とボビンの断末魔が響き渡るのだった。

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