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『傷』ついたハート

「取り敢えず間に合わせだが、武器と防具を新調して入れて置いたぞ」


「ありがとうございます。まだ立ち直ったばかりなのにいそがせてしまって」


ドワーフ達は急遽(きゅうきょ)キプロニアス王国に戻ることになったキオナ達の馬車に防具や武器などの装備一式を積み込んでいた。


「念のためレーヌも同行させる。お前さんにはまだ借りを返していないからな。詳しいことはこいつに話したから後は俺の娘を頼んだぞ」


「よろしくね!」


「こっちこそよろしくね」


パラサウロロフスを連れて馬車に繋ごうとしたエインにボルグはレーヌも同行させるらしくエインに後を託し、レーヌもウィンクしながら挨拶をしていた。


「パラサウロロフス達はいつでも出せるよ」


「餌も食糧もバッチリにゃ!」


「ご苦労さまです」


レーヌとの挨拶を終えたエインは馬車にパラサウロロフスを繋ぎ、更にモナは食糧や餌の入った(たる)も積み込み終えていた。


「残る硫黄を採取すれば火薬は製作出来ます。これが調合法のメモです」


「火薬は危険な代物ではありますが、このメモがあれば…必ず製作いたします!」


ラスコは火薬の作り方を記したメモをバリオンの中でも製薬に精通した女性のドワーフに渡して火薬作りを一任していた。


「後は私達に任せて皆さんはキプロニアス王国とバンシアナ国王のことをお願いします」


「パパ…無事でいて…!?」


慌ただしく出発の準備を整えていたキオナ達はバリオンを出てキプロニアス王国へ急ぎ、モンスターに襲われたと言うバンシアナ国王の安否を確認する必要があり、特にバンシアナ国王の娘であるシーナは気が気でない様子だった。 


「では、キプロニアス王国へ向け出発します!」


全員が出発の準備が整い、いつでも行けると言う面持ちを確認したキオナの合図と共に、パラサウロロフスの引く合計五台の馬車がバリオンを出発するのだった。


「キオナ、モンスターの襲撃ってどんなことがあったの?」


「急いで送ったために詳しい内容は記載されていませんが始まりは行方不明事件から始まったそうで…」


出発して数分ぐらいのところでエインは事の発端(ほったん)を手紙を呼んだキオナに訊ねると、内容はここ最近キプロニアス王国では行方不明事件が相次いでいたことだった。


最初は荒くれ者や野犬が行方不明になっていて、管轄(かんかつ)外と言うこともあり大きく取り上げず、対策も警備を強めるだけで留めていた。


ところがそんなある日、夜中に病院に向かっていた夫婦の内の男性が『妻が忽然(こつぜん)と姿を消した』と騒ぎ立てたことで事件がエスカレートし始めたと記載されていたのだ。


「今では行方不明者は七人になっており誘拐事件かと思われたのですが、行方不明者の一人が…その、身体をバラバラにされた無残な姿で見つかり、痕跡と殺害方法からしてモンスターに襲われたと判断したそうです」


「人間をバラバラに…グランドレイクの人達が襲われたみたいに?」


人間の体をバラバラにするなんてエインには想像出来なかったが、ティラノサウルス達が攻める前に街中を歩いて、カルノタウルスやディノニクスに襲われてバラバラにされた人々のことを思い出していた。


「しかし解せないですね。確かに緊急ですが私達全員が呼ばれる理由は何なのですか?ラスコだけは残って調合しても良かったのでは?」


一つ分からないのは何も全員がキプロニアス王国に向かう必要があるかどうかだった。シーナならまだしも、同行するのなら全員でなくとも良いはずだからだ。


「それがですね、私達が来るまではモンスターの襲撃はもちろん侵入を許したこともなかったのですが…」


「まさか私達が()()()()で容疑が掛けられているのですか?」


キオナの返答の歯切れが悪かったが、要するにキプロニアス王国はこれまで水も漏らさぬ警備体制だったと言うのに、自分達が来たことで瓦解(がかい)したのではと言う疑いがグランドレイク国民に向けて掛けられているのだ。


「ましてやバンシアナ国王が襲われて負傷したのであれば、国民の疑いを止めることも叶わなかったのでしょう」


根も葉もない疑いを向けるなんて、規律や証拠を重視しているキプロニアス王国らしくない行いだ。それもこれも彼らを取りまとめる国王が襲われて負傷したことが原因だろう。


「どっちにしても急いで戻らないと!」


「そうですね。エイン、先を…きゃっ!?」


国のこともだが父親のことが心配になっているシーナの言葉でキオナはエインに急がせようとするが、森全体に響き渡るほどの爆音が鳴り響く。


『プオオオン!?』


「落ち着いて!どうしたの!?」


凄まじい爆音にパラサウロロフス達はパニックになっており、エインも何とか宥めようとしていたが、前方の森から爆音とは異なる騒がしい物音が聞こえてくる。


『『『プオオオン!?』』』


「何ですか一体!?」


「『ランベオサウルス』だ!?」


森を掻き分けて出てきたのはランベオサウルスで、体格はコリトサウルスに似ているが、頭のトサカが丸みを帯びた物とは別に後頭部から尖った突起物が生えていて、手斧を頭に載せたような見た目だった。


『プオオオン!?』


『オオオオン!?』


ランベオサウルス達は甲高い鳴き声を発しながら、まるでラグビー選手のように群れの仲間や馬車を引くパラサウロロフスにタックルしながら走り抜けていく。


「わっ!?ちょっと!?」


「ど、何処へ行くんですか〜!?」


タックルされたからか、或いはパニック伝播(でんぱ)したからなのか、パラサウロロフス達も暴走を始め闇雲に走り回る。


「ひ…姫様〜!?」


「え、今のは…?」


暴走するランベオサウルスの鳴き声に混じって、誰かの悲痛な叫び声が聞こえるもすぐに喧騒に掻き消された。


「ここは…一体何処なのよ?」


「分からない。闇雲に走り回ったからな」


「おまけに皆さんと離れ離れになるなんて…」


ランベオサウルスの暴走はそ数分間に渡って続き、辺りがようやく静かになると自分達は見知らぬ場所に辿り着いてしまった上に、気が付くとここにはエイン、ロボ、フォーク、キオナ、リオーネ、シーナ、ラピス、トラン、レーヌだけだった。


「最悪…早く戻らないと行けないのに!」


『クゥン…』


「ここら辺には知ってる匂いがないの?」


一刻も早く国に戻りたいシーナであったが、嗅覚の鋭いロボでもおいそれと元のルートは見つけられないようだ。


「もう少しロボに匂いを嗅がせてみるよ。皆はここで待ってて」


「待ちなさいよ、一人で行くと危ないわよ。仕方ないからあたしが付いていってあげるわ!」


エインはロボと共に辺りを捜索しようとするが、自分の本心に素直になれないトランまで同行することとなった。


「って…何であんたまで来てんのよ!」


「オイラはまだエインくんにお礼をしてないの!良いじゃないの!」


ところがそれに加えてレーヌまで同行し、上機嫌だったトランは一気に不機嫌になり食って掛かるも、レーヌはあっけからんとしていた。


「二人共、今は喧嘩してる場合じゃないよ。ここには何がいるやら…」


シスカと言う抑止力がなくなった二人の喧嘩を自分なりに止めようとするエインだが、自分のことで争っているとは露知らず。


『クゥン…』


「あれ、川に出ちゃった」


そんなこんなで探し回っている内に三人と一匹はそれなりに広い川に出てしまう。川を隔てているのなら匂いが残らないため、これ以上ロボの嗅覚を頼れないようだ。


「残念ね、一旦戻りましょう」


「でもその前に喉が渇いちゃった。少し水を飲むね」


捜索を切り上げ、そろそろキオナ達の待つ馬車まで戻ろうとする。その前に水分補給をしようと川の前で(かが)むと向こう岸の茂みからガサガサと音がしてくる。


「モンスター?」


「音からしてそこまで大きなのじゃないけど…」


先程まで喧嘩していた二人だが、ここで下手に騒ぎ立てると危険なモンスターを呼び寄せてしまうことを思い出し縮こまる。


『……』


「ロボもそこまで警戒してない…トランちゃんの言う通り大きな相手じゃないのかも」


匂いで辺りを探るニホンオオカミのロボも、茂みの中に潜む相手がトランの言うように大きな存在ではないと認識しているようだが、三人と一匹は警戒を緩めないようにしていた。


『クキュウ…?』


茂みから出てきたのは鼻先が長く、正面を向いた大きな目以外はディノニクスを一回り小さい体格をした肉食恐竜だった。


「リザードマン…?」


「でもリザードマンには羽毛は生えてないはずだよね?」


その姿は元の世界ではリザードマンと酷似しているため、ふとそんな想像をしてしまうも獣のような背格好に鱗とは別に羽毛が全身を覆っていることにトランもレーヌも首を傾げていた。


『…クキュウ』


「虫…?」


その恐竜は暫く三人と一匹を観察するも敵意はないと理解し、口に咥えていた虫を川に投げ入れる。そして水面をジッと睨んでおり、水面下で虫に向かって何かの影が動いたと思った瞬間に長い首を前に動かして何かを捕まえる。


『ググッ…!』


「魚だ」


「まさかさっきの虫を使って捕まえたの!?」


口にはバタバタと暴れる魚が咥えられており、先程虫を投げ入れたのは捕まえるための餌だったようだ。その肉食恐竜はまるで獲物と捕獲法を自慢するかのように魚を見せびらかしてくる。


「スゴいね〜、リザードマンみたいだけどオイラ達みたいに虫を使って魚を捕まえるだなんてね」


「あれは『トロオドン』だよ。とても頭の良いモンスターなんだ」


その肉食恐竜の正体はトロオドンであり、恐竜の中でも知能の高いラプトル系譜(けいふ)の中でも取り分け知性が高かったとされているのだ。


『ググッ…クキュウ』


「…?付いて来てだって」


魚を丸呑みにしたトロオドンが鼻先を森の奥へと指すようなジェスチャーをし、更にこちらを何度も振り返る様子に何処かへ誘導しようとしているようだ。


「付いて来てって…あんたまさか本当に付いて行く訳じゃないわよね?明らかにあたしらを食卓に誘い込むための罠よ」


「こんなこと言うことは滅多にないけど、オイラも賛成。きっと付いて行ったら仲良くあのモンスターの胃袋の中だよ」


だが、肉食恐竜が自分達を何処かへ誘導するのは大抵は食餌をするための餌場か、自身の胃袋の中と言うのが相場が決まっている。だからこそトランとレーヌは否定的になるのだった。


「…そうだね、ここはキオナ達の所に戻ろう」


これまで肉食恐竜とは何度も対峙したこともあり、意思疎通が出来るとは言え襲われないことはなかったため、ここは二人の言う通りトロオドンに付いて行くのは止めにする。


『……』


「ちょっと…何であいつの方が付いて来るのよ?」


「分からないけど、襲うつもりはないみたい」


ところが逆にトロオドンが川を渡ってエイン達の後を付かず離れずで追いかけてくるのだ。何のつもりかは不明だがこっちとしては気が気でなかった。


『キャンキャン!』


「どうし…た…の……」


その時匂いを辿って先導してくれていたロボが何か警戒するように吠え立てるのだが、目の前の茂みを隔てた先に血まみれの死体が転がっていることに三人は息を呑む。


「え…嘘…まさかキオナ姫達…!?」


まさか留守にしている間にモンスターの襲撃を受け、最悪の展開になってしまったのではと青ざめるも、その死体が誰かを確認するために恐る恐る覗いてみる。


「…違う、誰だろう?」


「けど、酷いヤラれようだね」


しかしその死体はボロボロの麻布の服を纏った見慣れない少女であった。ホッとするものの腕や足があらぬ方向に曲がっていて、それでなくとも複数の傷跡が見受けられた。


「カ…カリエ…!?カリエなの!?」


「知ってるの?」


しかしトランはその少女が誰なのか知っているらしく全容を見て身体を小刻みに震わせながら青ざめていた。


「友達よ…!?ずっと人攫いに連れ去られてたのに…どうしてこんな…!?」


「もしかしてルミナスのエルフの人…!?」


なんと目の前の死体はルミナスを脱出して以降、誘拐されたトランと友達だったエルフの少女だったのだ。


「カリエ、あんたをこんな風にしたのは…まさかあいつ!?」


『…!?』


友を殺された憎しみに駆られトランはトロオドンが彼女を殺したのかと睨みつける。対するトロオドンはトランの殺気に怖じ気付いて後退りする。


「待ってよ、この人の体に矢が刺さってる。それにこの傷は刀傷だね。どう見てもこれは人為的な物だよ」


切り傷はモンスターの爪痕とも取れるだろうが切れ味と本数からして剣や刀による裂傷だろうし、この異世界のモンスターが矢を使うとは考えにくい。


「つまり、トロオドンの仕業じゃないよ」


「…どっちにしても誰かがカリエを殺したってことね。許さないんだから…!」


武器に詳しいレーヌの発言によりトロオドンの仕業ではないと分かり一応の平静さは保つも、トランは仇を見つけ次第真っ先に手を掛けるつもりのようだ。


「どうするの?」


「決まってるでしょ、手厚く(ほうむ)るだけよ」


これまで多くの人が捕食されて死ぬ所を見てきたが、やはり出来ることなら友人の遺体を自分の手で手厚く墓に葬り(とむら)ってやろうとトランは考えていた。


『グルルル…プオ!プオ!プオ!』


「今のは…?」


「隠れて!?」


聞き覚えのある恐ろしい甲高い鳴き声を聞いたエインは慌ててトランの手を引いて茂みの中に隠れる。それと同時に森の奥から複数のモンスターが姿を現す。


『グルルル…』


『ガルルル…!』


「さっきのよりずっと大きいリザードマン…!?」


「『ディノニクス』だよ…!」


現れたのはこの異世界でグランドレイク王国を真っ先に襲い、人々を恐怖のどん底に陥れたディノニクス達だった。


『グルルル…』


ディノニクス達は(よだれ)を垂らしながらカリエの遺体を踏みつけたり、鼻先で突いたりして死んでいるかどうか確認していた。


「あいつら、まさかカリエを…!?」


「ダメだよ!今出たらトランちゃんまで…」


このままだと友の遺体を食われると判断して立ち上がろうとするもエインに止められる。そうこうしてる間にディノニクス達は遺体を食べようとした矢先、ズシン…ズシン…と重い足音と木々がへし折られる音が響いてくる。


『グルルル…!』


「アクロカントサウルス!?何でここに…!?」


「あいつはルミナスを奪ったドラゴン…!?」


森の中から新たに姿を現したのはこれまた何の因果かトラン達がルミナスを追われる切っ掛けとなった肉食恐竜アクロカントサウルスだったのだ。


『ギシャア!』


『プオ!プオ!』


体格差では負けているがディノニクス達はおいそれと横取りされてたまるかと甲高い鳴き声で吠える。


『グアアア!』


しかし野生の世界に置いては身体の大きさは常に優位に立てる要素だ。ましてや捕食者であるアクロカントサウルスの恐ろしい咆哮に、被食者にもなりうるディノニクス達はすごすごと立ち去るしかなかった。


『グルルル…!』


「あいつ…里を追いやっただけじゃなく、あたしの友達まで食べようっての…!?」


邪魔者がいなくなりアクロカントサウルスは鼻先でカリエの身体を突いて転がし弄んでいた。ただでさえ里を乗っ取られたのに友達の遺体まで食べられるなんてトランには我慢ならなかった。


「話には聞いていたけど、ルミナスを乗っ取ったのはこのドラゴンとは別の奴でしょ?怒ってもしょうがないんじゃ…」


「…分かってるわよ」


確かにレーヌの言う通り、このアクロカントサウルスはルミナスを乗っ取った個体ではないし、今ここで怒って飛び出せば友の後を追うことになってしまうと、彼女の言葉で再び冷静さを取り戻すトラン。


「いや…このアクロカントサウルスはルミナスに来ていた個体だよ」


「え?ここはまだバリオンの近くでルミナスとは方角がまるで反対だよ?」


「それにあいつは夫婦になってて卵も産んでるのよ。あそこからここまで来る理由が分からないわ」


ところがエインはこのアクロカントサウルスがルミナスを襲った同一個体であると告げるが、それだと矛盾することがたくさんあるのだ。


「…僕には分かる。これはあの時のアクロカントサウルスだよ。それに…何だか嫌な気配がする」


「嫌な気配?」


「よく分からないけど、怒りや悲しみを…嫌と言うほどに感じるんだ…」


エインの言っている意味が分からないが、アクロカントサウルスはこちらには気付かずにカリエの遺体を咥え歩き去っていく。


『グルルル…』


「カリエ…」


トランは友を葬れなかった無力さと悔しさを噛み締めながら、アクロカントサウルスに噛み砕かれる亡骸を見送るのだった。


「トランちゃん…僕もリリーちゃんやメリアスさんが危ない目にあって死んだらって思った時があるんだ。もしもあの時本当に死んでいたら、僕もトランちゃんみたいに…今は思う存分落ち込んでも良いんだよ。でも辛い時は僕が側にいるからね…」


落ち込むトランを人を殺して塞ぎ込んでいた自身と重ね、シスカや色んな人がいて励ましてくれたように、エインもまた誰かが落ち込んだ時は側にいて励まそうとしていた。


「…ありがとうね」


エインなりの励ましにトランも涙目を擦りながら微笑むのだった。


「…それでこれからどうするの?」


「アクロカントサウルスやディノニクスがいるのならキオナ達にも知らせないと」


話を切り替えて肉食恐竜がいる以上は今後のことを考えればキオナ達にも急いで知らせる必要があった。


「じゃあ、皆のとこに戻らないとね!」


エインの励ましの甲斐あってトランも立ち直ろうとする反動で躍起になって先頭を走るのだった。


「あれ〜?合流地点はここだよね?何でも誰もいないの?」


「ちょっと!誰かいないの!」


ところが道に迷わずに待ち合わせ場所に戻って来たはずなのに、そこにはキオナ達や馬車の姿形が見当たらなかったのだ。


「地面が踏み荒らされてる…何かあったのかな」


「まさかさっきのリザードマンかドラゴンが…?」


『クゥン…』


「匂いはしないって」


最初はディノニクスかアクロカントサウルスがここを襲ったのではと考えるも、ロボはその二種類はもちろんその他の捕食者の匂いを嗅ぎ取れなかった。


「どうする?ん?」


『クキュウ…』


何があったかは知らないがキオナ達と離れ離れになったことは変わらないためレーヌが途方に暮れていると、先程のトロオドンがまだ付いて来ていたのだ。


「あのモンスター…何がしたいのかしら」


「あれ、何か落としたよ?」


トロオドンは虫とは別の何かを口に咥えていたらしく、こちらを一目見た後で咥えていた物をその場に落として何処かへ去ってしまう。


「鍵束…?」


「何の鍵よ?」


落としたのは何かの鍵を鉄製の輪で一纏めにした鍵束だった。すると近くで誰かのひそひそ話が聞こえてくる。


「おい、この辺なのか?鍵束を落としたのは?」


「ああ、何処に行ったんだ?」


モヒカン頭とスキンヘッドの二人組の男が鍵束を探しているらしく、三人と一匹はすぐに手にした鍵束のことだと理解しなおかつ二人が何者か分からないため茂みの中に隠れて様子を探る。


「ダメだ、ここで失くしものをするとまず見つからないな」


「親分に相談するか。何よりも今回は上玉が二人も手に入ったらしいからな」


二人は鍵束を探すのを諦めて何処かへと去っていく。


「これ…あいつらの物みたいだけど、嫌な予感がするわ」


「それに上玉が二人って何のことだろう?」


「怪しいね…」


何の鍵束なのか、相手が何者かは不明だったが、少なくとも人に褒められるようなことをしているとは思えなかった。


『クキュウ…!』


「あれ、トロオドンまで…後を追いかけよう!」


その二人組の鍵束を渡したトロオドンが密かに追いかけ始め、三人と一匹もどうにも気になり後を追いかけ始める。


「あれは…木の壁?」


「あいつらの(とりで)のようね」


追いかけていくとジャングルが拓けており、そこには木製の壁や見張り台などが見受けられる砦らしき建築物群だった。


「こんな物がバリオンの近くにあったなんて…ここは何なんだろう?」


「そこの高台から全容が見えるかもしれないわ」


平地からでは外壁に阻まれて中の様子は見えないため、トランの提案で高台から様子を探ることにした。


「おい、酒がないぞ!酒が!」


「肉も持ってこい!女も追加でな!ぎゃははは!」


「こいつは高値で売れるぜ!ひゃははは!」


砦の中では先程の二人組と似たような人間達が、酒や肉などを我が物顔で食べたり飲んだり、カリエのように麻布の衣服を着用した鎖で繋がれた人々をこき使い、中には泣き喚く女性を下品な笑みを浮かべながら舐め回すように見ていた。


「これは…何なの?」


「嘘でしょ…ここは山賊の住処よ!」


エインには目の前の光景が何なのか分からなかったが、トランはこの光景を見てここが山賊の砦だと突き止めるのだった。


「山賊って?」


「野蛮な人間達の集団のことよ。あたし達エルフも何度も狙われたのよ」


「ねぇ!あそこ見てよ!」


山賊はエルフに取ってはドワーフとは別に浅からぬ因縁を持つ相手らしくトランも苦虫を噛み潰したような顔をしていると、レーヌが青ざめた様子で砦の中央を指差す。


「離しなさい!私に何をするんですか!」


「汚い手で姫様に触れるな!?」


「何すんのよ!?」


「ぐっ…くそ!?」


なんと中央の檻のような物の中にキオナ達が押し込まれようとしていたのだ。


「そんな…キオナ達が捕まっちゃった…!?」


「どうりで見つからないはずよ…!?」


自分達が留守にしている間にキオナ達が山賊に捕まり砦に連れて行かれたことにエインもトランも青ざめるのだった。


『グルルル…!』


『ゴルルル…!』


所変わってエイン達が去った合流地点ではアクロカントサウルスとは異なる肉食恐竜が二頭いて、地面の匂いを仕切りに嗅いでおり、サメのような尖った歯の合間から(よだれ)を垂らしながらエイン達が去った方向を見据えていた…。

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