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予言の壁画と『選ばれし者』

「皆!しっかりしろ!」


「っ!頭領…?」


「頭領ですか!?」


国も民も意気消沈としていたバリオンにずんぐりむっくりだが筋肉質で立派な(ひげ)を持ったバイキングのようなドワーフが喝を入れてくる。それに気が付いた他のドワーフ達は目を疑い感極まっていた。


「皆…迷惑を掛けたな。戻って来たぞ!」


「頭領〜!?」


「嬉しいぜ!?」


頭領のボルグを見てドワーフ達はようやく立ち直れたらしく揃って大喜びで出迎える。


「まずは俺達の作業場を取り戻すぞ。作戦は既に考えてあるのだろう?」


「ってことは例の作戦をやるのね!」


「エイン、例の物は出来ているのですか?」


洞窟内のメガテリウムを追い払う作戦はボルグにも話しており、誘い出す餌の準備が出来たのではと問いかけるもエイン達は難しい顔をしていた。


「それなんだけどキオナ、エリーシャさん達を見ていない?何処にもいないんだ」


「いいえ、まだ戻って来ていません。何かトラブルに巻き込まれたのでしょうか?」


もしやバリオンに戻っているのではと考えるも空振りに終わり、いないのは何かしらのトラブルに巻き込まれたのではと心配になる。便りがないことは良いことだなんて言葉が存在するが、弱肉強食が強調されたこの異世界では全く真逆の意味になるだろう。


「僕はエリーシャさん達を探してみるよ。皆は先に準備してて!ロボ、お願い!」


『キャン!』


「一人じゃ危ないよ!私も行く!」


ジッとしていられないとエインはロボとラピスと共にエリーシャ達の捜索に向かう。


「よし、俺達は奴らを追い払う仕事に掛かるぞ!気合を入れ直せ!」


「「「おう!」」」


すっかりやる気を取り戻したドワーフ達はボルグの指示を受け、待ってましたと言わんばかりにテキパキと作業を始める。


「レーヌちゃんからアボカルドの実はこの辺で手に入るって聞いたけど…」


「何処まで取りに行ったんだろう」


アボカルドの実の群生地はあらかじめ聞いており、後はロボの嗅覚だけが頼りだった。


『キャンキャン!』


「見つけたの?」


地面の匂いを嗅いでいたロボは吠え始めたため辺りを見回していると何処からか声が聞こえてくる。その声を頼りに目を凝らしてみると地面に穴が空いているのが見えた。


「エリーシャさん?」


「あ、エイン!お願い!助けて!?」


穴を覗いてみると行方不明だったエリーシャ達が全員こちらを見ながら、届かないと分かりながらも救いの手を求めていた。


「早くここから引き揚げてくれ!ここはモンスターの巣穴だったんだ!」


「このままだと食われる!?」


『シャアアア!』


『グルル…!』


洞窟の奥から身体つきは一回り小さなディノニクスのような小型恐竜『ドロマエオサウルス』が群れをなして近付いてくる。


「ロープか何かないのか!?」


「そんなこと言ってもロープなんて…あれ、エインくん?」


この穴から引き上げるにはロープが必要だが生憎(あいにく)と持ち合わせてないし、代用の(つる)も見当たらなかった。しかも同時にエインの姿もいつの間にか見当たらなかった。


「ちょっと!まさかあたしらのこと見捨てたの!?」


「おい!嘘だろ!?」


確かに元の世界ではエインに対して色々と酷いことをしていたが、今ではそのことを恥じて親しく接してきたと思っていたが、今だに根に持っていたのだろうか、見捨てたと考えても不思議ではないだろう。


「ラピスさん!助けて!?」


「そんなこと言われても…ええい、それ!」


残された希望はラピスだけだが、彼女もどうしたらいいか分からず半分やけくそ気味に穴に飛び降り、豪快に着地してエリーシャ達とドロマエオサウルス達を驚かせる。


「くぅ〜…!?大丈夫かい?助けに来たよ…」


「お前こそ大丈夫かよ…ってか、お前まで来たらどうやって穴から出るんだよ!」


助けに来てくれたのは嬉しいが、他に手立てがなかったとは言えこれではミイラ取りがミイラ取りになってしまった。


「このモンスターを倒してから考えよう!それにこのモンスターがいると言うことは少なくとも他に出入り口があるはずだよ!」


「やるしかないってことね…」


だがラピスは頭の回転は悪くないらしく、ドロマエオサウルスがこの洞窟を住処にしているのなら何処かに出入り口があるはずだと指摘し、ここは強行突破あるのみだとルシアン達も武器を構える。


『グルル…っ!?』


『グルル…?』


「おい、何か揺れてないか?」


「まさか地震か?こんな穴ぐらの中で地震なんか起きたら俺達の墓穴になっちまうぞ!」


穴の中にいるからか地響きが直に伝わり、壁からパラパラと土くれや小石が落ちてきて地震が発生したのかと、リュカとマーキーに限らず全員が生き埋めの未来に不安がっていた。


「うわあっ!?土が降ってきた!?」


「ま…待って!?何これ!?」


頭上から何か降ってきてもう崩落し始めたのかと血の気が引くが、上から来たのは土でも岩でもなく木の根のような太く長い物体で先に行くに連れて細くなっていた。


「根っこ…じゃないよね?」


「これ温かいよ。もしかして…」


木の根のように見えるが表面は滑らかで温もりを感じる辺り、どう見ても植物の根と言うよりもルシアンにはとある物にしか見えなかった。


「皆!それに掴まって!」


「エイン!?これあんたがやったの!?」


頭上からエインの声が聞こえてきて驚くと同時に一気に表情が明るくなる。見捨てたかと思っていたが、やはりそんなことはなかったようだ。


「し…信じてたぜ!お前のこと!」


「ええ…?」


半分見捨てたのではと考えていた何人かは調子の良いことを述べていたのはここだけの話…。


『シャアアア!』


「早く!来るよ!」


同じく驚いて硬直していたドロマエオサウルス達は気を取り直してエリーシャ達に襲い掛かろうと迫ってくる。生体電流(パルス)で気が付いたエインは急ぐように催促する。


「うわっ!柔らかいし滑る!?」


「生温かいな…何だよこれ?」


「良いよ!上げて!」


「お願い!皆を助けて!」


全員が木の根のような物の感触と温度に違和感を覚えながらしがみつき、ルシアンの合図でエインも誰かに合図すると謎の物体は上へと持ち上がり始める。


ドロマエオサウルスの牙はルシアンの靴底に傷を着けるだけで空振りに終わり、間一髪のところで助かるものの少なくとも危機は終わっていなかった。


『ウオオオオオ…!』


「やっぱり…!?これってモンスターの尻尾だったんだ!?」


と言うのも自分達が掴まっていた木の根のような物体はディプロドクスにも引けを取らない体格を誇る『アパトサウルス』の太く長い尻尾だったのだ。


「ごめんね、ロープや蔓がなかったから代わりにブロント…じゃなくてアパトサウルスの力を借りることにしたんだ」


助けるための道具を探していたエインだったが見当たらず、代わりにアパトサウルスを見つけたことで生体電流で意思疎通をし、長い尻尾をロープ代わりにしたのだ。


「は…はは…まさかロープとかじゃなくて、モンスターの尻尾を使うなんて君らしいね…」


「何にしても助かったわ…ありがとうね」


まさかの方法で助けられ、もはや笑うしかなくなったエリーシャ達。少なくとも良い意味で笑っていることは確かだ。


『ブオオオオ…』


『グウウウ…』


「あいつら…俺達の洞窟を別荘にでもする気か?」


「父ちゃん、どうするの?オイラ達全員が束になっても敵わないよ」


ドワーフ達は自分達の作業場である洞窟を取り返そうとしていたが、相手は熊をも上回る巨体を持つメガテリウムなため下手に手出しが出来なかった。


「蜂蜜は手に入ったんですよね?」


「はいにゃ、後はアボカルドの実であのモンスターを引き付けられれば…んにゃ?」


エイン達から蜂蜜を手に入れており、後はエリーシャ達のアボカルドの実が必要だと口にした瞬間にズシン…ズシン…と地震に似た音がしてくる。


「何だ?地震か?」


「いや、これはもしかすると…!?総員、戦闘態勢!?」


聞き慣れない音にドワーフ達は地震を疑うも、キオナ達に取っては今も夢に出てきそうなあのドラゴンの足音ではと武装し警戒していた。


『ウオオオン〜…』


「あら…大人しい方でしたか」


「脅かさないで欲しいな」


しかし嬉しいことに杞憂(きゆう)に終わった。足音と共に森の奥から出てきたのは、身体は大きいがとても穏やかな性質の竜脚類であり、特徴的な長く太い首を見て全員が肩の力を抜くのだった。


「あ、キオナ!皆!」


「エイン!あなたが連れて来たのですか!」


更にその竜脚類…アパトサウルスの背中にはエインを始めとする行方不明だったエリーシャ達もいたことにホッとすると同時に驚くのだった。


『オオオオ〜』


「デカい牛みたいだね」


「そう?あたしらの所じゃブドウリアの実を貪ってたのよ」


アパトサウルスが樹木の草木を食べる様子を牛だと比喩(ひゆ)するレーヌに対して、トランはルミナスでシュノサウルスに収穫した果実を食べられたことを思い出し忌々しそうにしていた。


「ここをこうして…出来ましたにゃ!アボカルドの蜂蜜和えにゃ!」


「美味しそう〜!」


受け取った材料でモナはメガテリウムを引き付けるための餌を調理し、蜂蜜の虜になったエインは思わず(よだれ)を垂らしていた。


「ねぇねぇ、僕にもちょうだい」


「あんたが物を欲しがるなんて珍しいことあるのね」


「それだけ好きな物が出来たってことだよ」


考えてみれば元の世界での生活もあって何かを欲しがるような素振りを見せてこなかったエインだが、今日初めて甘い蜂蜜の虜になったことで、物欲が出るようになったことに全員が微笑ましく思うのだった。


「これはあのモンスターに与える餌にゃ。けど、エインくんのために後で美味しいお菓子を作ってあげるにゃ!」


「ありがとうございます!」


メガテリウムの餌のためあげることは出来ないが、モナも嬉しく思っているらしくお菓子を作る約束を決めてくれる。


「それで餌を運ぶ準備をしたいにゃけど…」


「それなら任せて!」


お菓子を作ってくれるお礼と言わんばかりにエインはメガテリウムの餌を運ぶ方法にあてがあるのか自信満々に答える。


『…!ブオオ!」


『グオオオオ…!』


木の葉を舌で舐め取って食べていたメガテリウム達は大好物の甘美な匂いを放嗅ぎつけ、のっそりとだがそちらへと動き始める。


「暫くはお願いね。さあ、行って!」


『ウオオオ…』


エインはアパトサウルスの頭を撫でた後に、ドワーフの作業場である洞窟とは反対側を指差すと、アパトサウルスはそちらへとゆっくりと歩き出す。


『『『ブオオオオ…!』』』


よく見るとアパトサウルスの胴体には蜂蜜が垂れる(たる)がぶら下がっていた。この中にアボカルドの蜂蜜和えを入れており、メガテリウム達は作戦通り餌に連れられて洞窟から離れていく。


やがてメガテリウムの巨体はアパトサウルスの通った道を通って森の中へと姿を消すのだった。


「…!ありがとう!君のお陰でオイラ達の居場所を取り戻せたよ!」


ようやくの思いで居場所を取り返せたことにレーヌは立役者であるエインに感極まって抱き着くのだった。


「わっ!?…僕のお陰じゃないよ、全部アパトサウルスのお陰だよ」


「あれなら視線が上を向くため、あのモンスター達も見逃すことはないですね」


偶然とは言え、アパトサウルスがいてくれたお陰でエリーシャ達が助かっただけでなく、メガテリウム達の気を引く役目まで引き受けてくれたのだからアパトサウルス様々である。


「でも、君がいなきゃ出来なかったよ!ありがとう!」


「っ!?」


それでも感謝しているらしくレーヌは人前だと言うのに大胆にもエインの頬にキスをしたのだ。突然のレーヌの柔らかい唇の感触と未知の感覚にエインは硬直してしまう。


「あ…!?あ、あ、あ…あんた!?何してんのよ!?」


「ど…どう言うつもりよ!?」


「んえ?良いじゃん別に!」


トランとエリーシャは顔を真っ赤にしてしれっとするレーヌを詰問し、ルシアンも同じく顔を赤くしてドギマギした様子で見つめていた。


「英雄色を好むと言うからな。我が弟子ながら隅に置けないな」


「ほう、俺の娘に将来の婿が出来た訳か」


シスカは不敵な笑みをニヤニヤと浮かべており、ボルグは自分の娘にボーイフレンドが出来たことに怒るどころか、ナーストケラトプスを手懐けてレーヌを助けたことも含めて寧ろ認めた様子を見せていた。


「へぇ〜、あの子ってモテるのね〜…っ!?」


「…エイン?」


シーナ姫も物珍しい様子で見ていたが、キオナだけは背景にブリザードが似合いそうな引きつった冷たい笑顔を浮かべながらエインに近付いていく。


「エイン?これはどう言う訳か説明出来ますか?」


「キオナ…!?どうしたの…!?」


肉食恐竜や虐待をしてきた人間にも立ち向かって来たエインだが、キオナの引きつった冷たい笑顔を前にして言いようのない未知の恐怖を目の当たりにする。


「あなたは私の側近…それはお分かりですね?あなたも男の子ですから仕方ないですけど、少々お遊びが過ぎるのでは?」


「お遊びって…」


「それと二つ聞きたいことがあります。レーヌさんのことですが…もしかして女性なのですか?そしてそれをどうやって知ったのですか?」


「キオナ…目が怖いよ…!?」


今思えばボーイッシュな見た目や言動をするレーヌが女の子のように振る舞っているのに対し、エインは冷静であることにキオナは違和感を覚えていたのだ。


そしてキオナの目は笑顔と反比例してとても冷めていると同時に何かどす黒い感情がメラメラと燃えていて、エインへ質問攻めと相まってたじたじになってしまう。


「いいから私の質問に…」


「あ〜、そう言えばオイラが女だって知ってるのは()()()()()()()()人達だけだったっけ」


「そ…それはどう言う…」 


キオナの質問に答えたのは矛先を向けられたエインではなく、女の子なのかと真偽を問われていたレーヌだったのだが、端から聞くとエインと混浴をしていたと言うその場が凍りつくような爆弾発言をしてしまう。


「ほほう、そうか…キオナ姫は知らないのでしたな!エインが私とトラン、それと実は女だったレーヌとラピスと共に温泉で裸の付き合いをしたことを!」


これを面白いと思ったシスカはレーヌとだけでなく自分やトラン、そして実は女性だったラピスとも混浴したと更なる爆弾発言をしてその場の空気を凍りつかせるのだった。


「つまりシスカさんと…トランさんと…レーヌさんに実は女の人だったラピスさんと…裸の付き合いを…したのですかエイン…?」


「あの…その…えっと…キオナ…?」


目尻がピクピクと動きながら冷たい笑顔で詰め寄るキオナにエインは押されてしまう。


「それよりもラピスさんって…女の人だったんですか!?」


「あはは…ゴメンね、騙すつもりはなかったけど言うタイミングを逃しちゃって」


エインが混浴したこともだが、女性陣に取ってイケメンの騎士だと思っていたラピスが実は女の人だったことにどよめきが走っていた。


「エ・イ・ン〜?」


「ちょ…ちょちょ…!?」


顔をこれでもかと近付けるキオナの表情はエインにしか見えないが、逃げ出したくなるほどに恐ろしい形相なのかエインは涙目になっていた。


「ふふふっ…姫様、エインの御婚礼は()()()()として、今は我々にはやるべきことがあるのでは?」


意外にも助け舟を出してくれたのはリオーネだったが、台詞の一部は修羅場に拍車をかけるような物だった。


と言うのも彼女は前と比べればエインをある程度は認めていたものの、キオナのエインに対する態度と自身の側近としての立場を脅かされる以上はライバル視しており、このままレーヌと結ばれてくれた方が都合が良かったのだ。


「…エイン、あなたには私の側近としての自覚をキッチリと…!教え込む必要がありそうですね?」


リオーネの密かな野望を知る由もないキオナだったが、確かに今はやるべきことがあるためこの話題は後回しにすることにする。


「それで…これで作業は可能になりましたか?」


「あ、ああ…今回のことで色々と迷惑を掛けたな。これで作業が出来るぞ!」


「「「うおおお!」」」


修羅場になっていたがようやく仕事場を取り戻せたと実感したボルグとドワーフ達は大喜びで洞窟の中に入っていく。


「さあ、炉に火を着けろ!薪も鉄もどんどん運べ!」


ボルグが中心になってドワーフ達は製錬炉に火を着け、洞窟から採取した金属や鉱石を運び込んで()べ、武器や防具などをせっせと製造していく。


「良いねぇ〜!やっぱりオイラ達はこうでなきゃ!」


「だな、ずっとお前達を放置していたこと、我ながら恥ずかしく思うぞ」


「全くだな。負けず嫌いなのは知っているが今回は度が過ぎているぞ」


「幾らお前が相手でも今回ばかりは返す言葉もないが、そもそも何故お前達がここにいるのだ?」


ボルグは作業場とドワーフ達に活気が戻ったことに満足していると、メイナスの言葉に申し訳なさそうに答えると同時にいがみ合っているエルフ達が何故バリオンにいるのか気になっていた。


「まさかあたしらのこと…本気で気が付いてなかったの?」


「ああ、まったくな」


「昔と変わっとらんのう。まあ、説明するとだな」


パキケファロサウルスと戦う余り、対立しているはずのエルフの存在に気が付いていなかったことにトランは呆れ、ソルラスは事の発端を全てボルグに話すのだった。


「それで俺達を疑ってここまで来たのか?」


「半分はそうだけど…今回ばかりは完全にあたし達の早とちりだったわ」


「キプロニアス王国の者としてドワーフの方々が無実であると認めるわ」


エルフの里のルミナスがアクロカントサウルスに襲われた原因がドワーフなのではと聞いて最初は良い顔をしなかったが、トランがソルラスに代わってそれは自分達の誤解だったと発言しシーナも同意したのを見て当然だと言う表情をした。


「まあ、今回ばかりは俺も強くは言わん。しかし半分は俺達の容疑だったが、もう半分は何なんだ?」


「それはあなた方にお願いがありまして…」


もう半分の目的として今度はキオナが自分達の目的の内容を説明するのだった。


「なるほど銃の製造と硫黄の採取か」


「それがあれば魔法が使えなくとも魔法使いの方々は戦えるはずです」


「良いだろう。世話を焼いてしまった借りがある上に、皆も物作りをしたくてウズウズしていただろうからな!問題ないだろう!」


事情を聞いたボルグは頑強な胸板を叩いて同意を表すのだった。


「…これでようやくその銃が出来るの?」


「そうですね、長かったですがこれでようやく銃が出来ます!」


「良かったね!」


「ええ…側近としての自覚、長くミッチリと教え込みますからね♪」


何気ない会話で何とか機嫌を取ろうとするエインだが、キオナは忘れてないと言った満面の笑みで返すため顔を引きつらせるエイン。


「うわああ!何だこいつらは!」


『シャアアア!』


「あ!あれはあたしらを襲ったリザードマン!」


他の場所に通ずる通路らしき場所から、ドワーフ達がドロマエオサウルス達に追われて出てくる。


「止めて!ここにいたら君達のためにもならないよ!」


『グクク…』


ここは生体電流(パルス)を身に纏ったエインの出番であり、ドロマエオサウルス達と意思疎通を計り説得を開始する。


「ここから立ち去って…お願い」


『…ギシャア!』


『グルル…』


気持ちが通じたのかドロマエオサウルス達はエインや他のドワーフ達に目もくれずに洞窟の外へと出ていくのだった。


「「「おおおっ〜!」」」


「本当にスゴいな、手綱も鞭も使わずにどうやってるんだ?」


「あんな小さい奴ならまだしも、首の長いデカいドラゴンすらも言うことを聞かせるなんて…」


「そのお陰で俺達の洞窟も取り返してくれるし、ありがたい限りだ!」


小柄ながら凶暴そうなドロマエオサウルス達を道具や魔法も使わずに言うことを聞かせたことや、アパトサウルスを使って作業場を取り返したエインにドワーフ達は賞賛を贈っていた。


「ははは!これは良いな!俺の娘の婿は力はひ弱そうだが、俺達にはない物を持っている!これは将来安泰だな!」


「父ちゃん…照れる…」


ボルグは豪快に笑いながらポッと顔を赤くして照れているレーヌの背中を叩いていた。


「あのですね、私の側近だと言ったはずですか?」


「側近でも結婚は自由でしょ?べー!」


それをワナワナと身体を震えながら見ていたのは、まだ氷の笑みを浮かべているキオナだった。しかし恋愛に置いては身分差など関係ないとレーヌはあっかんべーをするのだった。


「これはエインはここに腰を据えることになりそうですなー、はっはっはっ…っ!?」


今回ばかりはリオーネもレーヌの背中を押しており、もはや包み隠す様子もなく笑い声を挙げていると、キオナの王家譲りの威厳ある睨みに本気で血潮が凍ったかと思うほどに硬直する。


「リオーネ?意地でもエインは連れて帰りますからね!」


「…はい」


結婚式を挙げようならば式場に殴り込んでエインを半殺しにしてでも国に連れ帰らんとする覇気に調子に乗り過ぎたとリオーネも押し殺しながら返事するしかなかった。


「女の情念って怖いんだな…お前も相当罪の男だな」


「どう言うことですか?」


『キャンキャン!』


エインには生体電流を使ってもドランの言っている意味は理解出来ないだろう。そんな時、ロボがドロマエオサウルス達が出てきた通路から吠えてくる。


『クゥン…』


「中に何かあるの?」


「そう言えばこの穴…私達がアボカルドの実を探している時に落ちた穴じゃないかしら?」


よく見るとその穴は先程までルシアン達が落ちていた穴へと続く通路であり、ロボの案内で奥へと進んでみる。


「何か壁にいっぱい描いてある…」


「そうなのよ。穴に落ちたら壁にいっぱい落書きがされてたのよ」


進んでみると通路の壁には子供の落書きと思わしき物が書き殴られていた。エリーシャ達は穴に落ちた際にも見かけたと言う。


「でも、ロボくんが伝えたいのはもっと奥にある奴だと思う」


何か心当たりがあるのかロボがここへ案内したのは奥にあるとルシアンが付け加える。すると奥まで行くとロボはその場で座り込み、何を見せたかった指し示すように座り込んだ。


「これは…何?」


「多分、壁画(レリーフ)だとは思うんだけど…」


案内された場所はルシアン達が穴に落ちた時の落下地点で、ロボが見上げていたのは洞窟の壁に描かれた壁画だった。


「壁画って何なの?」


「昔は岩や壁などに絵や文字などを刻んで記録や歴史を残したとされています。恐らくこれはドワーフの方々が残した物でしょう」


ドワーフの土地の壁画ならそれを残したのはドワーフで間違いない。


「これはハンノフの壁画じゃないか」


「ハンノフって、父ちゃんがオイラを寝かしつける時に聞かせてくれた『変わり者ハンノフ』のこと?」


その壁画のことは長であるボルグは知っており、自分の娘にも読み聞かせのように話していたようだ。


「詳しく聞かせてくれませんか?」


「俺の爺さんから聞いた話でな、何でも北の寒い大地『コキュートニア』に向かったドワーフがいたんだ。それがハンノフだったんだ」


聞くに壁画を残したハンノフと言うのはボルグがまだ子供の頃に同じように話として聞かされていたようだ。


「そいつは北の大地に仲間と共に向かったは良いが、吹雪に見舞われて仲間と離れ離れになってしまったそうだ。しかしある時ひょっこり姿を現したかと思えば、一心不乱に絵や文字を描くようになったそうだ」


「それがこの壁画なんですか?」


「そうだ。ハンノフはバリオンに戻って来ても以来ずっと何かを書き記していたそうだ。そして最後にこう言ったそうだ」


ハンノフは戻って尚も壁画を書き記し続け、その生涯を終えるまで続いた後にある遺言を残していた。


『私は北の大地で未来を見た、この壁画は私の見た全てを書き記す。いずれこの予言の壁画に記された者が現れれば未来への道標(みちしるべ)となるだろう』


「…とな、最初は訳が分からなかったが…」


「言われてみると…これは私達がこの異世界に来てからのあらゆる出来事が描かれていますね」


予言と聞いてもう一度壁画を見てみると、空から不吉な星が降り注ぐ絵、魔法やスキルが消失し困惑する人々の絵、襲い掛かるディノニクスにカルノタウルスやティラノサウルスなどの恐竜の絵、これまでに起こった出来事が全て書き記されていたことに息を呑む。


「この予言はお爺ちゃんの代から遺されているんだよね?皆は何で取り合わなかったの?」


「皆は気がおかしくなってしまったんだと真剣には取り合わなかったんだ」


当たることもあれば外れることもあるため、占いにせよ終末論にせよ予言の信憑性(しんぴょうせい)は確実なものでは無い。


ましてやこれを遺したのは気がおかしくなったと思ったドワーフだから誰も真剣には考えず噂にもされなかった。あるとしたら子供を寝かしつける時に話すぐらいしかなかったのだろう。


「そう言えば予言って何なの?」


「予言とは未来に起こることを言い当てることです。しかし予言とは外れることが多いのですが、これまで私達の身に起こったことをここまで明確に書き記しているとは恐れ入りますね」


「俺も今となっては恐ろしく感じてるよ。なにせこれまで予言通りなんだからな」


これまで壁画の予言は子供に聞かせるお話で済ませていたが、今となっては書き記されている内容がここまで的中し現実に起こっているのなら恐ろしいと感じるのも当然だろう。


「…予言は全部でなんて書き記されているの?ここまで本当なら知っておくべきなんじゃ?」


「言えてるな。予言は他にはなんと書き記されている?」


それと同時にここまで当たっているのなら…いや、予言とは未来を書き記しているのならそれを知っておいて損はないはずだ。


「それが記されている文字が古代ルーン文字で読み取れないのだ」


「ルーン文字…かつて昔の魔法使いの間で使われていた魔術の呪文に使われた文字ですね」


「俺達はドワーフはルーン文字はまず使わない。だからルーン文字の解読はもちろん、書き記すことも出来ないのにその時のハンノフには出来たんだ」


皮膚の色や特異的な力、或いは劣っていたり不可解な行動や異なる姿をしているなど様々な理由から、人間も生き物も他とは異なる存在や異物を排除しようとする傾向がある。


元の世界で魔法もスキルも扱えなかったエインが人里離れた場所に追いやられた時のように…。


他のドワーフもハンノフのことをおかしいと思ったのは、彼が一心不乱に予言を書き記していたこともだが、ドワーフが使える訳がないルーン文字を使っていたことも原因だったのだろう。


「予言…そう言えばレーヌちゃんと初めて会った時もそんなこと言ってなかった?」


「ああ、言ったよ。確か誰かが置いていった壁画の一部が翻訳されてて、読み解くとモンスターの心を読み取る選ばれし者が現れるって…」


予言で思い出したが最初レーヌと出会った時にも、エインのモンスターとの意思疎通する力を見て選ばれし者だと言っていたが、この壁画とは別の壁画があったようだ。


「そんなのがあったのか?」


「父ちゃんはあのモンスターに夢中だったから…いつからあったかは知らないけど、確か皆が北方から来た人が置いていったって話してたから」


「北方…もしもその壁画もコキュートニアから来たと仮定するのなら、予言の真相はそこにあるようですね」


ここまで予言が現実となっているのにも何かしらのカラクリがあるはずだ。もしもそのコキュートニアに行ければ真実が明らかになるはずだろう。


「銃も火薬も出来るし、次の目的はそこ?」


「それは…」


「姫様!今よろしいですか!」


見逃せないが今行くべきかどうか迷っていると、ルマッスが自慢の上腕二頭筋にリョコウバトを止まらせた状態でキオナの元に駆けつける。


「どうしたのですか」


「キプロニアス王国からの伝書鳩です!緊急の連絡のようです!」


ルミナスの時のように今度はキプロニアス王国から伝書鳩が来たようだ。キオナは手紙を受け取りその中身を読んでみるのだが…


「すぐさまキプロニアス王国に向かいます!準備を!」


「え、どうしたの?」 


突然キプロニアス王国に向かうと言い出したために何事かとエインでなくとも注目が集まる。


「キプロニアス王国が…モンスターの襲撃を受けたそうです!その過程でバンシアナ国王が…」


「パパが!?パパがどうしたの!?」


手紙の内容はキプロニアス王国と国王であるがモンスターの襲撃を受けたと言う内容であり、娘のシーナ姫は青ざめてキオナに詰め寄るのだった。

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