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『頭』領の職務『怠慢』〜後編〜

『ギアアアアア!』


怒ったイノシシも執拗に追いかけて来るが、このパキケファロサウルス達は自慢の石頭を破城槌(はじょうつい)のように振りかざしながら目に付く物を破壊する様はそれよりも質が悪いだろう。


「ぎゃあああ!?な…何だコイツらの頭!本当に硬いぞ!?剣が折れた!?」


マーキーがリュカと同じく剣で防御しても、パキケファロサウルスの頭突きで吹き飛ばされてしまい、おまけに剣まで折れてしまう。


「なら…これならどうだ!俺の上腕二頭筋が唸るぜ!」


『ギアアア!』


ルマッスがハンマーを振り下ろすと、それに応えるようにパキケファロサウルスが頭突きで応戦する。


「お…おおっ…!?痺れるぜ…!?」


「バカ正直に挑む奴があるの!とにかくアボカルドの実を集めて早く逃げるわよ!?」


応戦出来たもののルマッスは腕が痺れてしまい、対するパキケファロサウルスは頭を振って持ち直していたためエリーシャは戦うだけ無駄だと判断した。


「早く逃げてください!」


「俺の大腿二頭筋(だいたいにとうきん)よ、頑張ってくれ!?」


木の実を拾い、カバンに詰めてすぐさまパキケファロサウルスの群れから離れ始める。


『ギアアアアア!』


「うわあっ!あいつまだ追ってくるぞ!」


子供に無闇に近付いたからか、或いは反撃されたからかは不明だが群れの中から一頭のパキケファロサウルスが追撃してくる。


「きゃあ!?」


「うわあっ!?何だぁ!?」


必死に逃げていると地面の感触がフッと消えたかと思えば、気が付くと身体が地面の下に沈んでいくのだった。


「こんな所に穴があったなんて…」


「お…重い…痛い…」


気が付くと薄暗い穴の中にいて、上を見上げると自分達が落ちてきたであろう穴からハラハラと枯れ葉が落ちてくる。どうやら穴の上に枝や落ち葉が重なって天然の落とし穴になっていたようだ。


「うわ!これは登れそうにないぞ…」


「最悪!助けが来るまでここに缶詰めなの!」


登ってみようとするが壁は脆くてとてもよじ登れそうになかった。


「缶詰めではないだろう。見ろ、どっかに続いてるぞ」


しかし落ちたのは単なる縦穴ではなく、横穴も開いていて何処かに通じているようだった。


「もしかしてドワーフの坑道なのかな?」


「どうする?進むか?」


「…ヤバかったら戻って来よう」


助けを待つのもありだろうが、自分達がここにいることを誰も知らないしミイラ取りがミイラ取りに遭う可能性もある。それに危険の有無の確認も必要だし、運が良ければ横穴に通じる出口に出られるかもしれないと進み始める。


「おい、見ろよ!松明(たいまつ)があったぞ!」


「ってことはやっぱりドワーフの坑道なのか?」


少し進んだ先に壁に掛けられた松明を見つけたリュカとマーキー。どうやらこの穴は少なくとも人工物らしく、いずれ出口に辿り着けると希望が見えてくる。


「…おい、何だよこれ…」


「これは…何?」


ところが少し進んだ先に目を奪われるような物を見つけてしまう。それは…


「わあああ!?『タジマミツバチ』だあああ!?」


「いたたた!?」


場面は変わって、こちらは落ちて来た蜂の巣から飛び出したタジマミツバチに襲われて阿鼻叫喚(あびきょうかん)となっているエイン達だった。


『ギャンギャン!?』


『ギイイイ〜!?』


「ちょっと!あいつを止めなさいよ!いたっ!?あいつが暴れるせいで他の蜂の巣がどんどん落ちて数が増えてくるじゃない!?いた〜い!?」


パニックになっていたのはエイン達だけではない。ロボもフォークも例外なくタジマミツバチに襲われているのだが、身体が大きくなり力強くなったフォークは刺されて暴れることで木にぶつかり、他の蜂の巣も落としてしまっているのだ。


「フォーク!いたっ!落ち着いて!?あいた!?」


『ギィ〜!?』


「無駄だ!それよりもあの水の中に逃げるぞ!」


エインの呼び掛けにも応じないほどに取り乱しており、もはや不可能だと判断したシスカは木々の隙間から覗く池のような場所を指差す。


「フォーク!ロボ!あそこに!」


「早く早く!?」


水の中ならタジマミツバチを退けられると考え、一目散に池らしき場所へと飛び込む。案の定タジマミツバチは水の中までは追いかけられず泣く泣く立ち去っていく。 


「熱っ!?何これ!?」


しかしエイン達は慌てていたためにその池が何処か熱くて、湯気が立ち込めていたことに誰も気が付かなかったらしく、浸かった途端に焼けるような水の温度に誰もが慌てて這い上がる。


「これってお湯…?」


「魔法も何も使ってないのにお湯が?何なのこの池?」


お湯を手に入れるには火で沸かすか、魔法で沸かすかのどちらかになるのだが、そのどちらでもないのならどうして自然の中でお湯が池のように存在しているのか理解出来なかった。


「これは温泉って言うんだよ。この辺の地下水脈が地熱で温められて、お湯となって地表に出てくるんだよ。たまに洞窟内にも出てくるんだ」


「そうか。噂には聞いたことがあるな。普通の湯と違って、温泉には傷を癒す効果があるとな」


鉱山での採掘が生活の基盤となっているドワーフに取って、地下から湧き出す温泉は馴染み深いものらしく時折見つけてはレーヌ達も浸かっていると言う。


「ちょうどいい、身体に着いた蜂蜜を洗い流せるな」


「そうね!しかもお風呂に入れるなんて最高ね!あ、でもあんたらは後から入ってね!」


今は蜂蜜を頭から被りベトベトだったし、しかもこの異世界に来て長らく入っていなかった熱々のお湯に入れるとあっては好都合だとこのまま入浴しようとする。しかしトランはエイン、レーヌ、ラピスには後から入るように指摘する。


「良いよぉ〜、蜂蜜ってこんなに甘くて美味しいんだね〜♪」


指名されたエインはまだ身体に着いている蜂蜜を猫のように舐め回して、その甘さと美味しさに骨抜きになっており入浴は後回しでも良かった。


「虫歯になっちゃうよ?…ずぶ濡れでベタつくけど仕方ないね」


「え〜?別に男女一緒でも問題ないんだけどな〜」


ラピスも残惜しそうに了承していたがレーヌだけは一緒に入ろうとしていた。


「何言ってんのよ!普通は男と女とで分かれて入るのよ!」


「オイラ達ドワーフは男女一緒に入るんだけどなぁ」


「な…あんたら野蛮人と一緒にしないでよ!」


「野蛮人って何だよ!お高く止まった綺麗事ばっか並べんなよ!」


これも文化の違いと言うべきか、エルフとドワーフとでは入浴する際は男女で分かれる・分かれないがあるようだ。


「おわっ!?何だ!?」


「シスカさん!?」


入浴文化の違いでトランとレーヌは再び言い争うも、シスカが二人の襟を掴んで子猫のように持ち上げる。


「ふん、面倒だ。皆して入れば問題なかろう!」


もはや拳骨するよりも早いと考えたシスカは二人を温泉の中に放り込む。


「お前達もだ」


「私は…ひえっ!?」


「待って、もう少しだけ…ひゃあ!?」


巻き込まれまいと離れようとしたラピスだが逃さぬとシスカに放り込まれ、蜂蜜を舐め足りないエインも後退りするもやはり放り込まれたのだった。


「ぷはっ!酷いじゃないですか…」


「ふふっ…まあ、良いじゃないか。どれ、私もひとっ風呂浴びるとするか」


するとシスカは微笑みながら服を脱ぎ始めるのだが、男の目があると言うのに惜しげもなく生まれたままの姿を晒す。その際に身体のあちこちに痛々しい刀傷や縫合(ほうごう)の跡が刻まれているのが目に入る。


「ちょ…何やってるんですか!?」


「お前らも服を着たまま入る気か?脱がんと落ち着かんぞ」


「いや、そうではなくてですね…」


シスカは服の上からでも出るところは出ているとハッキリ分かるボディラインを持っており、傷跡もだがそれを差し引いても艶姿は同性でも思わず見惚れてしまうほどのプロポーションだった。


「良いなぁ、オイラもああなりたいなぁ」


「はあ?何言ってんのよ?男のあんたがあんな風になれる訳ないでしょ」


半分バカにしているが、よほどのことがない限り男性は女性のような身体付きにはなれないとトランから告げられ、レーヌは一瞬キョトンとするもすぐにその意味を理解した。


「ああ、そう言えば言わなかったっけ?ほら…」


「ちょっと!汚い物を見せな…え?」


服も下着も脱いでレーヌも生まれたままの姿を露わにする。男の裸なんて見たくないと両手で慌てて目を隠すトランだが、やはり口ではそう言っても興味があるのか指の隙間からレーヌの裸体を覗くと目を疑う。


その身体はきめ細やかな肌の質感をしており、腰のラインも着込んでいた分よりほっそりと見えた。しかし一番気になったのは下半身だった。何故なら男と女とでは決定的に違う部分がそこにあるのだが、レーヌの場合は()()がなかったのだ。


「あ…あんた…女だったの!?」


「何だよ!ドワーフは樽体型だとか言ったくせにバカにしてるのかよ!」


見た目だけだと男の子のようにも見えたがレーヌはなんと女の子だったと言うことにトラン達は驚くのだった。


「レーヌくん…いや、レーヌちゃんだったんだね。僕も最初は男の子かと…」


「まあ、無理もないけど…もう少しおっぱいは欲しいけどさぁ…」


さすがに自覚しているのか寂しげに胸を撫で回し落ち込むレーヌ。


「って!幾らドワーフって言っても嫁入り前の女の子が男の子前で裸は…!」


「だからオイラ達は別にそんなのは気にしないって」


レーヌが男ならまだエインとかに見られても良かったが、女となればさすがに敵対関係にあるドワーフでもダメだと諭すも、レーヌは相変わらずあっけからんとしていた。


「…何だ、エインに他の女の裸を見せるのは気に食わんのか?」


「は…はあああ!?何を言ってんですか!?」


ふと、遠巻きに見ていたシスカが意地悪な笑みを浮かべて指摘すると、トランはトマトのように顔を赤くし大声で否定した。


「とにかくいつまでそうしてる気だ?早く湯に浸からんと風邪を引くぞ」


「くちゅん!…そうだよ、今は争ってる場合じゃないよ…」


「…しょうがないわね」


蜂蜜を頭から被り、蜂を撒くために温泉に飛び込んでずぶ濡れになったのだ。一糸纏わぬ姿のレーヌが可愛いくしゃみをしながら言い聞かせたことでトランも仕方ないと折れるのだった。


「ちょっと、こっち見ないでよね」


トランが木陰で隠れながらラピスとエインを監視するかのように睨みつけながら服を脱ぐ。


「お前は脱がんのか?」


「あ、えっとね…」


睨まれたラピスは戸惑っている所をシスカに指摘され、何処か諦めたように何か告げようとする。


「実は私もね…女の子なんだよ」


「…はあ!?あんたも女だったの!?」


胸のプレートアーマーを外し、シャツのボタンを外して男の胸筋とは思えない柔らかな胸元を見せ、自身が女性であることを明かしたのだった。


「何故最初に出会った時に言わなかった」


「あはは…言うタイミングを逃しちゃって…」


あの時はバリオニクスとの遭遇もあり、話すどころではなかったと苦笑いしながらラピスは弁明してくる。


「まあ、いい。とにかく入れ、風邪を引くぞ」


「はふぁ…これは良いねぇ」


「良いじゃないの!」


「最高…!」


気を取り直してラピス、トラン、レーヌは改めてお湯に浸かるとうっとりした様子で身をお湯に預けるのだった。


「こんなの熱いだけじゃないか」


「あんた風呂の良さが分からないなんて人生の半分を損してるわよ」


「最初は嫌がっていたのにエインの前では平気そうなんだな」


「だから違うってば!ただ…慣れただけだもん…」


最初は服を脱ぐことを嫌がっていたのにエインとも普通に温泉で話せていることにシスカは再びからかってくるも、苦しい言い訳をしながらそっぽ向くトラン。


「そう言えばお前には褒美をやっていなかったな」


「褒美?」


「私の修行に最後までやり遂げた褒美だ。こっちへ来い」


突然のことで困惑しつつもエインはシスカの元まで来ると彼女は彼をしっかりと抱きしめる。


「シスカさん…?」


「ふふふっ…これだけのことをされて欲情せんとは。まあ、良い。これが褒美だ、私の温もりを心ゆくまで堪能するが良い」


「な…な…な…!?」


端から見ると年端(としは)も行かない少年を女性が裸で抱き合うと言う、下手をすれば犯罪的な光景にトランはのぼせた訳でもないのに顔を赤くする。


「何やってるんですかシスカさん!嫁入り前の女の人がすることじゃありませんよ!?」


「生憎とそこまで綺麗な身体ではないんでな。経験なら一度だけある」


「はえっ!?そうだったんですか…!?」


この中では一番大人びた人物だとは思っていたがシスカはどうやら男性経験も既にあるようだった。


「しかしまあ…こんな外も中も傷だらけの身体を欲しがる物好きはいないだろうな」


自嘲気味に呟きながら湯の中から立ち上がるシスカの身体は、傷跡や縫合の跡などが目立つものの大人のボディラインがトラン達の視線を釘付けにさせるのだった。


「とにかくエイン、お前には私の身体を好きにする権利があることは確かだな」


「……」


再び湯に浸かりエインを抱き寄せて自慢の胸に顔を埋めさせるシスカ。その中でエインは何処か黄昏(たそが)れた様子を見せていた。


「…お母さん…」


「ふふふっ…そうか、母親のことを思い出したか。無理もない」


目を閉じながら母親のことを呟くエインにシスカも穏やかな笑みを浮かべながら頭を撫でてやる。


「…っ!来る!」


「何だと?」


「皆!下手に動かないで!」


しかし突然立ち上がり何かが迫ってくることを警戒するエイン。すると向こう岸の林の中からたくさんの影が出てくる。


『ブオオオオ!』


『グオオオオ!』


「角の騎士だ!って…ひゃあ!?」


姿を現したのはフォークと同じ角竜で、角の騎士と称して敬愛しているラピスは喜びの余り立ち上がるも、中性的だと思っていたが以外に着痩せするらしく女性的な柔らかな身体のラインがエインに丸見えになってしまう。


『ブルルル…』


『オオオオ…!』


「あいつら、モンスターのくせに温泉に入るの?」


「草食だから下手に刺激しない限りは大丈夫だよ」


水を飲みに来たとかならまだ分かるが、人間のように温泉に浸かるモンスターは見たことがないため、その行動に一同は目を丸くしていた。


「にしてもあの角…まるで牛みたいね」


「確かにね。よく見たら鼻の上には角がないね」


温泉に浸かる角竜達の角はこれまた一線を画して変わっていた。目の上の角は湾曲していて牛の角のような形状をしており、鼻の上には角がない代わりにコブのように盛り上がっていた。


「あれは『ナーストケラトプス』だよ」


『ギィ〜!』


『ギギィ〜!』


この角竜の名前は『ナーストケラトプス』。牛のような見た目だが角竜であり、同じ角竜であるフォークはナーストケラトプスの子供と触れ合いを始めていた。


『ブルルル…』


『グオオオオ!』


『ムオオオ!』


他にも温泉に横たわって温泉を堪能したり、岸辺で互いに顔面をぶつけてじゃれ合ったりと各々で(くつろ)いでいた。


「皆も温泉を楽しみたいみたいだね」


「あんなのがいたらあたし達は寛げないわよ!」


ナーストケラトプスは思い思いに過ごしていたが、人間からすればあんな巨体で寝返りでもされたら一巻の終わりのため温泉だと言うのに冷や汗が流れてくる。


「服が乾くまではこのままが良かろう」


「でもさすがのオイラも気が気じゃ…あっ!オイラ達の服が!?」


レーヌが脱いだ服の方を見てみるとナーストケラトプスの子供が服を噛んでいたのを目にする。


「それは食べ物じゃないのよ!」


「返して!」


『ギァ〜!』


レーヌとトランが慌てて服を取り返そうと子供のナーストケラトプスと引っ張り合いになる。するとビリリッと言う音と共に何か破けてしまう。


「あー!あたしの…パンツが!?何すんのよ!?」


『ギァ!?』


勢い余って下着が破れてしまい、激昂したトランはその子供を思わず蹴り飛ばしてしまう。


『ブオオオオ!』


「いっ!?」


「うわっ!何やってるの!?」


しかしそれがいけなかった。子供の悲鳴を聞きつけたナーストケラトプスの親が恐ろしい唸り声と、温泉を掻き分けながらトランとレーヌに向かってくる。


「危ない!?トランちゃん、レーヌちゃん!逃げて!?」


「ちょ、嘘でしょ!?」


エインは慌てて生体電流(パルス)を使って止めようとするが間に合わず、迫りくるナーストケラトプスにトランとレーヌは慌てて木の上に登る。


『ブオオオオ!』


「ひいいいっ!?ちょ、何とかしてよ!?」


「そんなこと言われても…!?」


「あのバカ共…また面倒を起こすとはな。暫くそこで反省してろ」


木の上に登っても何度も突進して木を揺らし、トランとレーヌを落とそうとするナーストケラトプス。二人は助けを求めるもシスカはうんざりした様子で静観をするのだった。


「そ…そんな…うひゃあ!?何よこれ…!?」


絶望的な顔になるトランの足に何かネバネバした生温かい触手のような物が絡みついてくる。


『ブオオオオ…』


「ぎゃああああ!?何でこいつがここにいるの!?」


「メガテリウム!」


触手のような物の正体はメガテリウムの長い舌で、二人が登った木の葉っぱを食べようとしていたのだろう。


『グオオオオ!』


『ブオオオオ…』


ナーストケラトプスもメガテリウムの存在に気が付くも邪魔するなら容赦しないと威嚇するも何処吹く風であった。


『グオオオオ!』


『グッ…!?ウオオオオオ!』


意に介さず木の葉を食べようとするメガテリウムにナーストケラトプスは角で突いてくる。刺さりはしなかったが激昂したメガテリウムは大きな前脚で豪快に()ぎ払ってナーストケラトプスを横たわらせる。


『グオオオオ!』


『ウオオオ!』


「うわ…スゴい光景…」


「互いに力と力でぶつかり合っているな」


まるで相撲のようにナーストケラトプスとメガテリウムががっつりと組み合っており、互いに譲り合わない様子に目が離せなかった。


ナーストケラトプスはトリケラトプスよりも小柄とは言え並大抵の植物食恐竜より力が強い。対するメガテリウムはその巨体から発揮される怪力と木を圧し折る重量はそう簡単には覆せないだろう。


『ブオオオオ!』


『グググッ…!?』


「角の騎士が潰される!」


拮抗した状態から先に抜け出したのはメガテリウムだった。巨体でナーストケラトプスの身体にのしかかり押し潰そうとしてくる。


『グオオオオ!』


『ブオア!?』


「スゴい!メガテリウムの身体がひっくり返った!」


だが、ナーストケラトプスはアッパーのように頭を振りかぶぶり、角でメガテリウムの鳩尾(みぞおち)を穿って巨体を押し退ける。


『ブオオオオ…!?』


「ひゃあ!?」


しかし仰け反った巨体はトランとレーヌがいる木にぶつかり、勝負を見ていて油断していた二人は突然の揺れに対応出来ずにバランスを崩して落ちてしまう。


「あう!?何これ…?」


『ブオオオオ…!』


「いっ!?角の騎士の顔じゃない!?」


地面が柔らかく生温かいと思ったら、二人が落ちたのはナーストケラトプスの顔面だったのだ。


『グオオオオ!』


「きゃあああ!?何処に行くのよー!?」


邪魔者に勝ったと思えばトランとレーヌが顔にへばりついたことを鬱陶しく思ったナーストケラトプスは怒りの余り走り出してしまう。


「レーヌちゃん!トランちゃん!」


「ええい、世話の焼ける…追いかけるぞ!」


「はい!」


事態がどんどんややこしくなり、見るに耐えかねたシスカを先頭に温泉から揚がったエインとラピスがナーストケラトプスの後を追いかける。


『ギアアアアア…!』


「はあ…はあ…やるな!だが今度こそは俺が勝つ!」


場面は変わって今だにパキケファロサウルスと戦っているボルグだが、お互いにフラフラしておりこれでようやく決着が着くと言った様子だった。


『グオオオオ!』


『ギア!?』


「何だ!?」


その決着の場にナーストケラトプスが乱入する形で駆け込んで来るために互いに目を丸くする。


『ブオオオオ!グオオオオ!』


「いやあああ!?」


「うわわわ!?」


「レーヌ!?」


そのナーストケラトプスの角に自分の娘がしがみついているの目の当たりにする。


「何をしているんだ!?早くそこから離れるんだ!」


「そ…そんなこと…言われても…うわっ!?」


訳が分からなかったがレーヌは暴れるナーストケラトプスに振り回されていて、このままだといつ振り落とされてもおかしくなかった。


「俺の…俺の娘を離せ!」


『グオオオオ!』


娘の危機にようやくパキケファロサウルス以外のことに目を向けたボルグは正面からナーストケラトプスと向き合う。


「ふんぬぅ!」


『ブオオオオ〜!』


正面から組み合い動きを止めるボルグだが、ナーストケラトプスも猿のような生き物に動きを止められたことに目を丸くするも振り解こうと足腰に力を込める。


『グオオオオ!』


「うおあっ!?」


さすがに重量差までは覆せずにボルグはナーストケラトプスに投げ飛ばされてしまう。


『ブオオオオ!』


「ひゃあ!?」


「きゃあ!?」


遂に限界を迎えたレーヌとトランはナーストケラトプスが頭を振り上げた途端に二メートルは投げ飛ばされてしまう。このままだと二人は地面に激突してケガをしてしまうだろう。


「危ない!?」


「エインくん!?」


そこに生体電流を纏って身体能力を高めたエインがジャンプしレーヌとトランをキャッチし、自分の身体をクッションにして着地する。


「いたた…大丈夫?ケガはない?」


「あたし達は…と言うかあんたの方が大丈夫なの!?」


トランは大したケガはなかったが、身体を張って受け止めてくれた上にかなりの勢いで着地したため、逆にエインの身体の方が心配だった。


「レーヌ…!無事か!?」


「父ちゃん…オイラはエインくんのお陰で大丈夫だよ」


ボルグはレーヌに駆け寄るが、彼女も下敷きになっているエインのお陰で無傷であった。


『グオオオオ!』


話は終わっていないとナーストケラトプスが興奮しながら前脚で地面を蹴って威嚇していた。


「下がっていろ!ここは俺が…!」


「待ってください!僕が何とかします!」


ボルグが斧を持って対抗しようとするが、トランとレーヌに自分の服を着せたエインが割って入って生体電流で意思疎通を計る。


「ごめんね…この子達も悪気があった訳じゃないんだ」


『ブルルル…』


「何だと…」


さっきまで殺気立っていたナーストケラトプスがエインの言葉に応じるかのように大人しくなったことにボルグは呆然となる。 


『グオオオオ…』


「よしよし、君達にはもう手出ししないからね」


「信じられん…」


迎撃しようとしていたナーストケラトプスを大人しくさせただけでなく、優しく撫で回して宥める光景にボルグは言葉を失う。


「さあ、皆の所に帰っても大丈夫だよ」


『グオオオオ…』


「何者なんだお前は?」


「グランドレイク王国のエインくんだよ」


ナーストケラトプスを宥めて仲間の元へと帰したエインに何者か訊ねるもレーヌが代わりに答えるのだった。


「グランドレイク王国の者だと?いつからいたんだ?」


「父ちゃんに話しかけた時だよ!そのモンスターとずっと戦っていて眼中にもなかったでしょ!」


ここでようやく娘とは別の人間達がいることに気が付き、意識が向いている内にレーヌは自分の気持ちをぶつけ始める。


「今バリオンがどんなに大変なことになっているのか分かってるの!」


「大変なことだと…なっ!?」


『ブオオオオ…』


ちょうど近くの木の葉を食べるために姿を現したメガテリウムが目に入ったボルグ。


「あの大きなモンスターがオイラ達の作業場を占拠して鍛冶場も使えなくなってるんだよ!」


「何だと…!?」


来客だけでなく招かれざる客がバリオンの生活に影響を及ぼしていると知り動揺を隠せなかった。


「父ちゃん!モンスターと戦うよりも大事なことがあるでしょ!オイラを…皆を…守ってよ!?」


「俺は…」


自分の気持ちをぶつける余り、感極まって涙目になって訴えてくるレーヌにボルグは思わず目を背けてしまう。


『ギアアアアア!』


『ギギィ…』


『ウウウ…』


先程まで戦っていたパキケファロサウルスの周りにはいつの間にかエリーシャ達の一悶着を起こしていたパキケファロサウルスの群れが集まっていた。


『……』


「お前にも守るべき家族がいたんだな…」


あのパキケファロサウルスは恐らく群れのリーダーであり、ボルグと戦っていたのは自分の群れを脅かす敵を排除しようとして戦っていたのだろう。


「それなのに俺は…済まなかったレーヌ!?」


「それは…バリオンの皆にも言ってよ」


自身の行いを恥じるように両手を付いてレーヌに謝るも、娘は他にすべきことがあると返すのだった。


「そうだな…バリオンを何とかしなくては…それよりもエインと言ったか?俺のたった一人の大切な娘を助けて頂き感謝する!」


「あ、いえ、僕はそんな大したことは…それよりも今はレーヌちゃんの言うようにバリオンを何とかしないと」


「こんな不甲斐ない俺のために色々と迷惑を掛けた上に、この国をそこまで…済まない!俺も協力は惜しまないぞ!」


エインにお礼を述べ、これからは心を入れ替えて国と民そして家族のために戦うことを決意するのだった。

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