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『頭』領の職務『怠慢』〜前編〜

リリーとドードー鳥、そしてミクロラプトルがキプロニアス王国で出会っていた頃…


魔法が消失した異世界で戦えるように『銃』の製作と、火薬の最後の材料である『硫黄』を調達するためにドワーフの王国であるバリオンにエイン達は向かっていたが…


「何でドワーフの人達がこんなに元気がないの?」


「私も聞いた話ではドワーフの人達は常に作業に忙しくて、鉄を打つ音が響いて騒がしいとは聞いたことがあるけど…見る影も無いわね」


世間知らずのエインからしてみてもここまで元気がないのはおかしいと思っているらしく、ルシアンもこれまでとは一転して静か過ぎることに疑問を抱いていた。


「ここもモンスターの襲撃が関係しているのでしょうが…あの、何があったか教えてください」


「んあ…?ああ…」


さっきから近くにいるドワーフに訊ねてみるも、返答する気力もないらしく全然事態が進展していなかった。


「少なくともドワーフ達はルミナスの一件や倒木のこととは関係性がないようね」


気力もないし、よく研がれた斧や(のこ)もないとなれば木を切り倒した犯人はドワーフとは別にいることになる。


「けど、これは明らかにドワーフ達に何かあったと考え調査を進める必要があるわね」


キプロニアス王国のシーナ姫はドワーフとエルフの仲介人として同行したが、ドワーフは無実で木を切り倒した犯人が他にいると結論づけた後、ドワーフの身に起きたことの事実確認を取ろうとしていた。


「お主達。お主達の頭領であるボルグはどうした?あいつならばこんな状況は見過ごせないはずだろう」


「頭領…?ああ…頭領ね…はは…」


長年対立したこともあって、ドワーフの長であるボルグとは面識があるのか、このような事態を見過ごすドワーフではないと考え所在を訊ねるも彼らは答える気力もなかった。


「やはりおかしい…いつものドワーフ達ではあり得ないほどに腑抜(ふぬ)けておる」


「はあ…これじゃあたしも張り合う気も失くすわよ。何なのよこの武器も…刃こぼれしまくってるじゃない」


「コラー!それはまだ修理中なんだぞー!」


トランが呆れながらその辺にあった剣を手に取ると、誰かが怒りながら置いてあった建物の奥から誰か出てくる。


他のドワーフと比べると体型は通常と言うよりも、ほっそりとしたラインをしており、何か鍛冶仕事をしていたのかハンマーや革製のエプロンのような作業着を身に着けていた。


「あー!何でエルフ達がここにいるんだよ!」


「あっ!ドワーフ!何よいつも通りなのがいるじゃない!」


顔に防塵(ぼうじん)のためのゴーグルとマスクを身に着けていたが、トランやソルラスのようなエルフを見て取り外すと小動物のような大きな目に八重歯と愛嬌のある顔が覗かせる。


「って、何かと思えばドワーフのガキンチョじゃない」


「ガキンチョだと!そっちだってチビスケじゃないか!」


「はあっ!?万年ガキンチョみたいな体型のドワーフに言われたくないわ!」


「うるさいな!そっちこそシールドみたいな体型のくせにそこまで言われる筋合いはないよ!」


先程の静けさは何処へやら、会うや否や二人はお互いの種族の体型に関する言い合いを始めてしまう。


「…もしかしてこれがエルフとドワーフの対立なの?」


「ええ…まあ、これでも小規模かと」


こっちのことはそっちのけで言い争う様を見てエインも物珍しそうにキオナに訊ねていた。


「あ〜ら、あたしはいつかメリアスさんやアレシア姉さんのようなナイスバディになるから大丈夫よ!あんたなんか将来は(たる)よ樽!」


「なっ…ぐぬぬぬ〜!力強いと言って欲しいな!オイラ達ドワーフに取っては力の象徴なんだぞ!お前らこそヒョロヒョロのもやしっ子だろうが!」


どんどん言い争いがエスカレートしていく中で二人の頭に拳骨が落とされる。


「話し合いしに来たのに言い争いをしてどうするか?」


「いった〜!?村長〜…!?」


「お前もだぞ。こんなことしてる場合か?」


「な…何だよ〜!?客人でも殴るなんて酷いじゃないか〜!?」


トランはソルラスが、ドワーフの子にはシスカが拳骨を落として黙らせるのだった。


「ワシらはここへボルグと話し合いに来たのだ。何処へ行ったか知らぬか?」


「うん?父ちゃんのことか?」


「ん、お主はよく見たらボルグの子供のレーヌか。最後に見たのはこのくらい小さかったのに大きくなったな」


頭領のことを訊ねようとしたが、どうやら彼女は頭領の子供らしくソルラスも多少面識があるらしく、まるで親戚のおじさんのような言い回しをしながらレーヌの頭に手を置く。


「ところでボルグはどうしたのだ?あいつならバリオンのこの有様は放っておかないだろう?」


「それなんだけど、父ちゃんは今は…」


本題のドワーフの頭領であるボルグの行方を訊ねるとレーヌは難しい顔をしながら頬を掻く。その後、レーヌの案内でバリオンの外に出て森の中に入ることとなる。


「何?モンスターとの戦いに明け暮れているだと?」


「そうなんだよ。ここ最近、見たことないモンスターが彷徨(うろつ)いてて、そいつと父ちゃんがずっと戦ってるんだ」


話を聞くにボルグは見慣れないモンスターと一人で戦っているらしく、それがここ数日間ずっと続いているのだと言う。


「そんなに長い間モンスターと戦ってるの?」


「ドワーフは鍛冶仕事はもちろん、力仕事や山仕事もこなすため力が強くタフネスで、他の種族と比べてスタミナもあるんですよ」


「その分、魔法やスキルを使う頭は弱いけどね!」


「何だと!」


ラスコのドワーフの説明に誇らしげに鼻高らかになっていたレーヌだが、トランの一言で再び言い争いになりそうになるが再び拳骨を落とされる。


「でもモンスターと戦ってるんでしょ?それなら何で他のドワーフの人達はあんな無気力になってるのよ?訳分かんないし!」


「異世界の見たことのないモンスターが相手ですし、魔法もスキルも使えなくなってますし」


「問題ないですよ!だって頑丈さだけが取り柄ですし、元から魔法やスキルを扱うだけの…ぎゃん!?」


「いい加減にしろ」


エリーシャは疑問を覚え、キオナは心配しており、トランはダメ出しをしようとするが三度目のシスカからの拳骨を受けてしまう。


「それで君のお父さんは大丈夫なの?」


「それが…そのモンスターは草食なんだけど、父ちゃんがずっとそいつと戦っているから、バリオンがああなっていることは知らないんだと思う」


少なくともそのモンスターに捕食される心配はないだろうが、それなのにボルグはバリオンや仲間のドワーフを放置するほどにずっと戦い続けているのだと言う。


「あいつは一度決めると中々譲らない頑固者だからのう。もしかすると今回も…」


「ぬあああ!俺は負けんぞ!もう一度来い!」


突如森の中に野太い声と硬いものがぶつかり合う鈍い音が響き渡る。


その方向にはドワーフの中でもより身体が大きくずんぐりむっくりで、赤茶色の立派な(ひげ)を生やしたよりバイキングらしい男が何かと戦っていた。


『ギアアアァァ!』


「何あのモンスター…頭が禿(はげ)てる?」


戦っていたモンスターの体の大きさは人間と同じぐらいで二足歩行だが、一番の印象はまず禿頭を彷彿とさせるツルツル頭だった。それならスキンヘッドと言っても良いだろうが、その頭の周りには小さなトゲのような物が密集しており独特な形状になっていた。


「あれは『パキケファロサウルス』だよ」


「パ…パンケーキ…パフェ…?」


正体はパラサウロロフスに続いてこれまた発音しにくい名前のモンスター、パキケファロサウルスだった。


「ぬああああ!」


『ギアアアアア!』


するとボルグとパキケファロサウルスは睨み合った後に走り出し、頭と頭をぶつけて鈍い音を響かせ互いにノックバックする。


「一体何をしているのでしょうか?」


「頭突き勝負…?」


一見すると戦い合っているようにも見えたが、突如として互いに頭突きし合う光景は奇行にも見えた。


「パキケファロサウルスは頭が頑丈で、ああやって頭をぶつけ合って戦うんだよ」


パキケファロサウルスの頭蓋骨の厚さは恐竜の中でも随一で主に闘争用に使われていたとされており、そのため『石頭恐竜』と愛称されている。


「でも、君のお父さんはパキケファロサウルスと頭突きをしても大丈夫なの?」


「オイラ達ドワーフは石頭なんだ!ご先祖様の頭蓋骨を兜に加工して身に着けるのが習わしなんだ!」


「そんな事するんですか…?」


しかし石頭と呼ばれているのはパキケファロサウルスだけではない。ドワーフも自慢するだけの石頭らしく、場合によっては頭蓋骨を兜にするほどだとレーヌが豪語するもののキオナは引いてしまう。


『ギアアア…!』


「ぬうう…!今度こそ俺が勝つ!」


「って、父ちゃん!止めてよ!」


再びぶつかり合おうと睨み合う中でレーヌは慌ててボルグの腕を掴んで引き止めに掛かる。


「レーヌ!お前、留守番していろと言っただろ!」


「それどころじゃないんだよ!バリオンが大変なことになってるんだって!」


「何も俺がいなくてもお前達だけで何とかなるだろ!俺はこいつに勝たなくてはならんのだ!」


ボルグは自身の子供であるレーヌの言葉に耳を貸すどころか、ソルラス達の存在にも目もくれずにパキケファロサウルスと尚も戦おうとする。


「ぬおおお!」


『ギアアアアア!』


「父ちゃん!?」


結局ボルグはそのままパキケファロサウルスと戦い続け、話を聞くような様子ではなかった。


「ソルラス長老、ドワーフの長はいつもあんな感じなんですか?」


「あいつは昔から自分がやると決めたら、口出しされるのを嫌うからのう。これでは話し合いどころではないのう」


エルフならまだしも同族であるドワーフの話をここまで聞かない相手にトランも戸惑う様子を見せるが、長い付き合いであるソルラスは慣れた様子で諭してくる。


「ぬあああ!」


『ギアアア!』


「ダメだ…父ちゃんはあの見たことないモンスターに勝つことで頭がいっぱいだよ」


ボルグとパキケファロサウルスが頭突き勝負を続ける中でレーヌも諦めた様子で肩を落としていた。


「見たことがないって、この辺には生息していないの?」


「あんな頭、一度見たら忘れられないよ!」


台詞からパキケファロサウルスがここら辺に生息していないのかとシーナはレーヌから確認を取り、それを聞いて暫く考える素振りをする。


「これまでにもこの辺には生息していないモンスターを何度か見てきたけど、こんなにも生息地が密集しているなんて不自然ね」


たくさんの見たことないモンスターと出会えたのは、モンスターや生き物が大好きなシーナに取っては嬉しいことだが、だからこそこんなにも複数種のモンスターが狭い範囲で生息しているのが気掛かりだった。


「…実は僕もこれまでに出会ったモンスターが何かに恐れているのを感じているんだ」


「恐れている…?」


エインも自然と生体電流(パルス)で他のモンスターの考えを読み取っていたのだが、彼らが何かを恐れていると口にした。


「君、もしかしてモンスターの気持ちが分かるの?」


「え?うん…何でかは分からないけど、この電流を纏えるようになってから分かるようになったんだ」


その話を聞いていたレーヌは詳しいことを聞こうとするもエイン本人にもよく分からないが確かにモンスターの気持ちが分かると伝える。


「随分前に極地で出土した石碑(レリーフ)の予言にモンスターの心を理解する選ばれし者のことが書いてあったけど…」


「それは…どう言うこと?」


言っている意味が分からないが、少なくともエインに当てはまるため何か関係があるようにも思えた。


「だったら…あの問題も解決出来るかも!来て!」


しかし答えを聞く前にレーヌはエインの手を引いて何処かへと連れて行く。親のボルグもだがレーヌもまた人の話や返事などを聞かないタイプらしく、親にしてこの子ありと血は争えないようだ。


「あの…何処に行くの?」


「オイラ達の作業場、洞窟に行くんだよ」


気になることはたくさんあるが、取り敢えず何処へ向かっているのか訊ねるとドワーフ達の作業場である洞窟だと言う。


「そう言えば私達はここに硫黄を採取しに来たのですが、ついでに採取したいのですが…」


「それは構わないけど、今は無理じゃないかな」


思い出したようにラスコは硫黄の採取をしたいと願い出ると、レーヌは二つ返事で了承するがそれとは別に何か問題があるようだ。


「あれがあんた達ドワーフの作業場?めちゃくちゃ凝った入口ね」


「うん…芸術作品みたい」


案内されると目の前には洞窟があったのだが、入口にはギリシャ神殿のような大理石の門が建てられていた。作業場と言う汚れ仕事をしそうな場所にしては妙に綺麗で神々しいため本当にそうなのか分からなかった。


「オイラ達は良い武器やアイテムを作るためにデザインも重視してるんだ。アルローマの建物なんかもオイラ達が手掛けたんだ」


「なあ、そう言えば何で俺達はこんな所にコソコソと隠れてるんだ?」


レーヌは自慢気に話していたが、話を戻すようにドランは洞窟に入らずに何故近くの茂みに隠れているのかと問いかける。


「あ〜…実はオイラ達の作業場がモンスターに占拠されててな…」


「モンスターに?まさか他のドワーフの方々が無気力になっていたのは…」


気まずそうにレーヌは洞窟の中にモンスターが住み着いてしまって困っていることを打ち明け、キオナもバリオンで起こっていた異変が何なのか気付き始める。


「そう、そのモンスターのせい。追い払おうにも力が強過ぎて敵わないし、しかも数頭はいてオイラ達でも歯が立たないんだ」


そのモンスターはとても力が強く、しかも複数いるためにバリオンのドワーフ達が束になっても敵わないと言うことだ。


「そんな時に父ちゃんがあのモンスターの相手をし続けて、結局立ち向かう術を失くした他の皆は無気力になっちゃったってこと」


「こう言う時こそ、長は民を導き共に力を合わせることが大事だと言うのに職務怠慢ね」


話を聞いていたシーナは厳格なキプロニアス王国の王女だけにボルグに対して厳しい言葉を投げかける。


「つまり俺達の目的を果たすにはそのモンスターを何とかしなきゃならない訳ね」


バリオンには火薬の材料である硫黄の採取と銃の製造のためにここまで来たが、職人のドワーフ達を再起させるにはそのモンスターを何とかしないとならない。


「そうなるかな。そのためにもモンスターのことが分かる君の力が必要なんだ」


「僕の力…あ、何か洞窟から出てくるよ」


だからこそレーヌはエインをここへ連れてきたのだが、目の付け所が良かったと言うべきか洞窟から何か出てくるのを察知する。


『ブオオオオ…』


「な…何ですかあの大きなモンスターは…!?」


中から出てきたのは大人のヒグマですら子供に見えるほどの巨大な毛むくじゃらの哺乳類だった。


場合によってはティラノサウルスとも相撲が取れるほどのサイズで、ドレッドノータスやブラキオサウルスよりは大きくないとは言え圧巻されてしまう。


「あいつらが洞窟を占拠してるせいで作業が出来ないんだ」


「あんなのドワーフでなくとも敵わないだろ」


あそこまで大きなモンスターが群れを成しているのならバリオンのドワーフ達が敵わないのも納得だった。


『ブオオオオ…』


「ジガーズリーは体の大きさの割に素早く動けるけど、あいつらは随分と(どん)くさいのね」


ジガーズリーとは元の世界の赤色の毛を持つクマのモンスターで、ヒグマと同じ体格ながら馬にも追い付く速度で骨まで貪ると言う貪欲な性格をしている。


しかし目の前のモンスターはジガーズリーやヒグマを上回るのに速度は恐ろしくゆったりとしており、近くの大木の木の葉を長い舌で絡め取って食べていた。


『メガテリウム』。またの名をオオナマケモノと呼ばれている巨大なナマケモノの仲間だ。ナマケモノと言うだけあって動きはゆったりだが、その巨体で当時は無敵の存在だったとされている。


「見た感じはとても大人しいけど…」


「まあ、こっちから刺激しなければ大人しいけど、大人し過ぎて追い払おうにも見向きもしないんだ」


「それにあんなに大きくては私達は虫も同然ですね」


基本的に人を襲うような気質ではないが、それは逆に居着いて追い出そうとしても全く意に介さないことを指す。仮に反応しても虫を払うかのように軽くあしらわれるだけだった。


「エイン、あのモンスターと意思疎通は可能ですか?」


「……」


「エイン?どうしたんですか?」


「メガテリウム達も…何かに怯えてるみたい」


既に意思疎通をしていたエインだがメガテリウム達もまた何かに怯えていることを打ち明ける。


「ちょっとちょっと、さっきからモンスターが何に怯えているってのよ!」


モンスターが怯えているのは分かったが、その内容が曖昧(あいまい)だとトランは文句をつける。


「分からない…けど、最近妙なのが見えてくるんだ」


「見えてくる…また何か新しい能力が目覚めたのか?」


その中でエインは目を何度も(まばた)きしたり擦ったりして、目の前の光景がおかしいことを伝えてくる。


「…多分だけど、メガテリウム達の気持ちと一緒に見たものも僕に伝わってるのかも」


「記憶の伝達と言うことでしょうか」


生体電流を扱うエインはメガテリウムの生体電流を読み取ったことで、気持ちだけでなくその時の記憶も鮮明に伝わり、エインの目を介してビジョンのように映るようだ。


「その記憶ではあいつらは何を伝えているんだ」


「何かが燃えてる…これは火事?」


エインの目には木々が炎に包まれ、森が真っ赤に染まっている光景が映っていた。焚き火やキャンプファイヤーとかならまだ安心出来るが、炎が自分達を取り囲むように勢いよく燃えている光景は見ているエインにも恐怖を与えてくる。


「山火事かしら?確かに生き物に取っては火は大敵なはずよ」


火に耐性を持つモンスターならまだしも、生き物は本能的に火を恐れるのだが、巨体を誇るメガテリウムに取っても例外ではないのだろう。


「山火事…もしかしてこれまでに出会った見たことないモンスター達は山火事を恐れてるんじゃ?」


「まさかこんなにも見かけるのは山火事で生息地を追われたから…?」


「あり得ない話じゃないわ。生息地を追われたのならこんなにも狭い範囲で生息しているのも納得だわ」


山火事と聞いてエインはモンスターが恐れている炎の記憶は山火事による物で、キオナとシーナも生息域が狭まっているのもそれが原因なのではと考える。


「とは言え証拠がないからこれ以上の追及は出来ないわね」


「それよりもあのモンスターはここから出ていってくれるのか?」  


原因がそうだったとして、今のレーヌに取ってはメガテリウムが洞窟から去ってくれるかどうかが問題であった。


「…仮にエインくんの話を信じるのなら、生息地を追われた以上はここから立ち退くのは難しいわね」


火事によって生息地を追われ、この洞窟を住処にした以上はメガテリウム達が簡単に立ち退くとは思えなかった。


「じゃあ、やっぱり戦うしかないの?」


「まあ、森の中で戦えるエルフがいれば百人力よ!あんなノロマなモンスターなんてあたし達がいれば」


トランが『勝てる』と言おうとした瞬間にバキバキと言う音と共に、メガテリウムが全体重を載せて大木を圧し折っているのが目に入る。


『ブオオオオ…』


『グオオオオ…』


他のメガテリウム達も全体重を載せたり、或いは巨体から繰り出される怪力で木々を次々と薙ぎ倒す。まるで生きた重機のようだった。


「…本当にエルフでも勝てると思ってる?」


「ち、力技じゃ芸がないから作戦を練りましょ!」


レーヌがジト目で睨んできて、これじゃドワーフが勝てなくて当然だと結論づけたトランは別の方法を考えることにした。あんなのを見せられたら、木々の上で戦っても簡単に引きずり下ろされそうだ。


「あの…こんなのはどうですか?モンスターの大好物を馬車に載せて何処かに誘導するのは?」


力で勝てないなら戦略で勝とうと作戦会議を始め、ルシアンが餌を利用して洞窟から誘い出そうと提案した。


「単純な作戦ですが、相手はトロールのようにそこまで知能があるようにも思えませんし…イケるかもしれませんね」


身体が大きく力も強いメガテリウムはパワータイプのテンプレみたいなモンスターだ。しかしその多くは動きが鈍く知能も高くないと相場が決まっており、トロールと同じであるとキオナが例えながら作戦を採用する。


「けど、問題はあのモンスターが草食と言うことよ」


「ん?草食なら周りの木々から木の葉を集めて誘えば良いだけだし、私達を襲う心配もないから大丈夫なのでは?」


ラプスはシーナの台詞に懐疑的になるも、彼女だけはとある問題に気が付いていた。


「木の葉なんてそこら中に生えているから、何も馬車を追いかけたりしないってことよ」


「あ〜…確かに私だったらありきたりな食材なら、わざわざ馬車を追いかけたりしないにゃ」


草食であるため食べ物となる草木は周りに腐るほどに自生している。


そんなのを集めて誘い込まれても、人間で言うなら簡単に手に入る食べ物で誘われているのと同じであり、例えモンスターだってわざわざ馬車を追いかけてまで食べようとは思わないだろう。


「だったらあのモンスターの大好物で誘わにゃいと効果がありませんにゃ」


「大好物…レーヌくん、メガテリウムの好きな物って何か分かる?」


「くん…あいつらは確か蜂蜜が大好物だったかな」


誘い込む餌は上等でないとダメだと聞いてエインはメガテリウムの大好物をレーヌに訊ねると少し戸惑った様子で蜂蜜だと答える。


「前にあいつらが蜂蜜を食べるために蜂の巣を作業場で落として割ったんだけど…エラい騒ぎになったからな」


「うわ、確かにスゴい騒ぎになってそう」


洞窟と言う閉鎖的な場所で蜂が飛び交う光景はかなりの修羅場だと想像に(かた)くない。いずれにしてもメガテリウムは蜂蜜が大好物だと言うことが分かった。


「それとアボカルドの実が好物だな。食糧庫の中からそれだけをよく食べてたな」


「じゃあ、アボカルドの蜂蜜和えを作るにゃ!」


更に果実を加えれば絶対に食いつくと考えてモナは蜂蜜もアボカルドの実で料理を作ろうと考える。


「それで材料は?」


「えっと、アボカルドの実は川の近くで、蜂の巣はそこら辺を探せばあるはずだよ」


メガテリウムを誘い出すための餌作りのために蜂蜜を手に入れるために蜂の巣を、アボカルドの実は川の近くで採取することにする。


「アボカルドの実ね…スゴいハイカロリーな果実よね?」


「となると他のモンスターも好む可能性があるわね」


エリーシャとルシアン、ドラン達はアボカルドの実を探すために川の近くへと向かっていた。


「しかしシーナ姫とキオナ姫を残してきて良かったのだろうか」


「仕方ないだろ。姫様二人を危険な目に遭わせられないからな」


キオナとシーナはバリオンで待機することになり、当然二手に分かれる最後の時までごねられてしまう。しかしリオーネや衛兵の監視からは逃れることは出来ず泣く泣く留守番することとなった。


『ギアアア…!』


『ギイイイ…』


「あれ、あのパンケーキ何とかってモンスター、ここにもいたんだ」


森の中にはボルグと戦っていた個体とは別のパキケファロサウルス達が数頭いて、仲間同士で頭突きをしたり、頭突きで木の実を落として食べたりしていた。


「あ、あのモンスターが食べてるのって、アボカルドの実じゃない?」


「そうか、あんなデカいモンスターがやみつきになるほどの果物なんだ。あいつらの大好物でもある訳か」


パキケファロサウルスが木から落として食べているのは探していたアボカルドの実だった。


「ちょうどいい、分けて貰うぜ」


「あ、おい!リュカ!」


探す手間が省けたとリュカはパキケファロサウルスの群れに近付いていく。


「なあ、悪いけどよぉ。これを俺達にも…」


『ギィ!?』


その中でリュカは群れの中でも小さな個体が食べているアボカルドの実を採ろうとする。


「バカ!寄りにもよって子供に近付くある奴があるか!?」


『ギアアアアア!』


何も獲って食おうとした訳では無いが、パキケファロサウルスからしたら子供に手を出そうとしたため、リュカに対して頭をヘッドバングしながら威嚇してくる。


『ギィィアアアア!』


「どわあっ!?」


その内の一頭が頭を突き出しながら突進し、リュカは咄嗟に剣でガードするもバキンと言う音と共に弾き飛ばされる。


「蜂蜜か…何度か採ったことはあるけど、そんなに美味しいの?」


「人によって好みは変わるけど、とても甘くて美味しいんだよ」


「食べたことないの?」


蜂蜜はエイン、ラピス、レーヌ、シスカ、トラン達と言った面々で採取に向かっており、その中でエインは採取したことあるのに蜂蜜の味を知らないと告げてくるため一同は不思議がる。 


「この異世界に転移する前は国の人達から蜂の巣から蜂蜜を採ってこいってやらされて…採った蜂蜜は全部渡してたから」


「え、あんたまさか、防護服も着ずに蜂蜜を採取したの?」


蜂蜜とは蜂がせっせと働いて巣の中に蓄えた貴重な栄養源だ。


天然にしても養殖にしても、蜂蜜を採取するには巣を破壊する必要があるため、蜂達は巣と幼虫と蜂蜜を守るためにお尻の針で戦おうとするはずだ。


それなのにエインはこの異世界に転移する前、無能として扱われていた時に生身で蜂の巣から蜂蜜を採取させられていたのだ。


「あんた…そんな痛い思いをしながら採取したってのに、蜂蜜は全部そいつらに渡したの?」


「うん…」


「あんたバカじゃないの!何でそいつらに反撃しなかったのよ!」


酷い目に遭わせた人間達に仕返しもせずに、蜂蜜をあっさり渡しただなんてトランには考えられなかった。


「…それが僕に与えられた仕事だったから。それに僕だけが痛い目に遭うだけで他の人達は蜂蜜を手に入れられる訳だしね」


「…っ、あんたねぇ」


「恐ろしくお人好しだね」


他人のことを思いやる余り、自分のことを後回しにするエインにトランもラピスも言葉を失う。


『ギィ…ギィ〜!』


「フォーク?どうしたの…って、蜂?」


そんな微妙な空気を破るようにフォークが自分の周りを飛び交うミツバチに対して声を張り上げていた。


『ギィ!?ギィ〜!?』


「わっ!ちょっと落ち着いて…!?」


するとミツバチが耳の穴の中に入ったのかフォークは取り乱しながら木に突進してしまう。


「わぶっ!?何これ…」


「何よこれ!?ベタベタじゃない!?」


ぶつかった木から何か落ちてきて、割れたと思ったらベタベタする液体がエイン達の頭から勢いよく浴びせられる。


「何か甘くて美味しい…?」 


その液体はエインの口にも入ったが、生まれてから体感したことのないほどの甘味を持ち、何度でも舐めてしまいそうなほどに美味であった。


「うわ、これもしかして…蜂蜜?」


「フォークがぶつかった木に蜂の巣があったようだな」


ベタベタする甘い液体の正体は探していた蜂蜜であり、フォークが激突した木に蜂の巣があったらしく、衝突によってラピス達の頭上に降り注いだようだ。


「あ…蜂の巣があったってことは…」


「うわあっ!?蜂だあああ!?」


しかし呑気に蜂蜜を舐めている場合ではなかった。蜂の巣があって、それが壊れてしまったと言うことは…レーヌの叫び声で頭上を埋め尽くさんばかりのミツバチ達が怒りを表すかのように羽音を響かせていた。

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