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『不思議な鳥』とリリー

時間は戻ってエイン達がドワーフ達の王国バリオンに向かった頃…


「はあ…久しぶりの優雅なひと時だね」


「たまにはこう言うのも良いよね」


「これまでのことが嘘のようですわね」


バリオンに向かったのは剣士や戦士などの前衛職の者達ばかりで、魔法使いなどの後衛職の者達はキプロニアス王国にて待機していた。


その内のレイとアルロ、そしてエルケがキプロニアス王国の喫茶店にて優雅なティータイムをしていた。


これまでにもティラノサウルスや翼竜達に追いかけ回され、死ぬような思いをした彼らからすればちょっとしたご褒美だった。


「思わぬ形でバリオンに行くことにはなったけど、エルフの人達は大丈夫なのかしら?」


「長年敵対していましたし…そう簡単に解決するとは思えませんわ」


「対談もだけど、あれ以降も人攫いの捜索が続いているけど、まだ進展がないらしいよ」


優雅なひと時と言いたいところだが世間話する内容はどれもこれも不穏めいていた。


「エインさん達は大丈夫でしょうか」


「…ふふふっ、エルケちゃんもすっかり変わったわね」


キオナ達はもちろんだがエインのことをより心配するエルケを見てアルロはくすくすと笑っていた。


「何が言いたいのよ?」


「だって最初はエインくんのことを酷く言っていたのにウィルマ以降はすっかり丸くなったねってこと」


反論したかったが以前はエインを罵倒していたのに、今では毒気が無くなるどころか、彼の無事を心配しているなんて不思議だと言われると何も言い返すことが出来ずむくれてしまうエルケ。


「あのエインくんが僕らに取って…いや、ひょっとするとこの異世界に置いては台風の目になるなんて思いもしなかったよね」


レイやアルロは元の世界ではエインを無能扱いはしなかったが、それでも親や仲間がそんな認識をしていたため織り込み済みではあった。


しかし今では何度も自分達の危機を救ってくれただけでなく、絶望視されていたこの異世界でも生きていける希望の星とも言える存在になっていた。


「正直、わたくしは彼には前線には出ない方が良いと思いますわ」


「どうして?やっぱり心配だから?」


委員長風な見た目の割には多少意地悪な部分があるのか、エルケのエインに対する認識の変化をからかうように訊ねるアルロ。


「それもあるわ。けど、出る杭は打たれると言います。彼の力が私達だけでなく、この異世界で生きていく上で必要不可欠ならば他のきな臭い国に取っても…」


しかしエルケは敢えてそれは認めるが、本当に心配なのはこの異世界で生き抜くために他国がエインを欲しがるのではと言うことだった。


「確かにそれは考えられるね。この異世界のモンスターと一応は意思疎通が出来る訳だしね」


「ウィルマのワイバーンとも、私達も手を貸したとは言え渡り合った訳だしね」


必死過ぎて忘れていたが王国に攻めてきたティラノサウルスを説得する形で退けたり、ウィルマの頂点であったケツァルコアトルスのホワイトアウトとは仲間達の協力もあって渡り合った後に話し合いをして見逃して貰ったりしていた。


それでなくともどんな恐ろしいモンスターを前にしても誰かを助けるために、或いは相手がモンスターであっても困っているなら分け隔てなく助けたりと優しくも勇敢な心を持つエインは正しく勇者にも匹敵する素質を持っていた。


おまけにいざと言う時は機転を利かしたり、魔法やスキルとは全く別の力を使ってモンスターを使役したりと実力事態も申し分ないほどだ。


弱肉強食が強調されたこの異世界で彼らが今まで生き抜いたのはエインのお陰であり、そんな人材を他の国が黙って見ている訳がないとエルケは考えていたのだ。


「今は良くても態勢が整えば恐らく他の国も動き出すはずです」


「そう考えると確かに余り前線には出ない方が良いかもね。帰ってきたらキオナ姫にも打診しよう」


この異世界に転移したことで他国もそれどころではなかったはずだが、生き残るためにもエインの力を欲する輩も出てくるだろうと結論に至る。


『ギァ〜』


「ゴンちゃん、新しいお友達を紹介するね」


「あら、リリーちゃん?何をしているのかしら?」


そんな時アルロはゾウガメと同じぐらいのサイズになったゴンと共に何処かへパンを持っていくリリーを目にする。


「何処かでパンを食べるんじゃないのかい?」


「あの子小さい割には意外とアグレッシブよね。最初は私達の荷物の中に隠れて付いて来たりとか、思いのほか大食いだったり」


「…でも新しい友達って、何だか気になるわ」


最初はレイもエルケもあまり気にしなかったが、アルロだけは何か引っかかるのか気になっていた。


「ここで新しい友達でも出来たんじゃないの?一体何が気になるんだい?」


「根拠がある訳じゃないんだけど、もしかして別のモンスターに餌付けしてるとか…」


「まさかそんな…」


アルロはリリーがゴン以外の別のモンスターに餌でもあげているのではと気になっており、最初は否定しようとするも何故か断言出来なかった。


「…ここのモンスターって必ずしも敵対する訳じゃないよね?」


「寧ろ私達が攻撃される前にしてるみたいな…?」


元の世界でのモンスターとは敵対関係だった。それは冒険中や開拓中に出会えば戦闘になることはもちろん、道中で住処があれば危険性を排除するために積極的に攻撃することが多い。


ましてや強力な魔法やスキルを持つがために排除はもちろん、遊び感覚や覚えたての技を使うための実験や的にしたり、もっと言えばモンスターを目にしたら問答無用で攻撃したりと理由も無しに戦うのが習慣化していた。


そのため人間とモンスターの関係は基本的に敵対しており、話し合うなんてことはまずあり得ない話だ。


しかしこの異世界のモンスターは基本的に攻撃的で人を捕食することがあるが、エインやリリーのように仲良くなれる個体や話が通じ合う個体もいるためない話でもないはずだ。


「友達を紹介するのでしたら何もリリーちゃんとゴンちゃんが向かう必要があるのでしょうか?」


これはあくまでも推測だが友達を紹介するのなら何もリリーが友達を連れてくれば良いのに、わざわざゴンを連れて行くなんてどうも不思議でしょうがなかった。


ふとした疑問から三人は支払いをした後、喫茶店を後にしてリリー達の後を追ってみる。


「よいしょ、よいしょ…」


『ギァ〜…』


「こんな薄暗い路地裏を抜けていくなんて…」


リリーとゴンは人通りの多いところから路地裏や裏道など、昼間だと言うのに薄暗い場所を通って行く。それに比例してか街並みもみすぼらしく、廃墟のような建物が目立ち始める。


「ちょっと、この辺はキプロニアス王国の中でもグレーゾーンな場所じゃないか…」


「そんな所があるの?」


「ここら辺は廃品置き場になってて、国の行政で処分出来なかったたくさんのガラクタを寄せ集めている場所なんだ。捨てられた場所だからこそ、ここにはルールに従わないゴロツキなんかが勝手に住み着いているらしいんだ」


誰かにこの王国の情勢を聞いたのか、レイはここが管理や規律が行き届かず、キプロニアス王国でも法にギリギリ触れることがない危険な場所だと告げてくる。


「リリーちゃんはこんな所に一体何を…?」


「出ておいで」


入ってすぐの場所に瓦礫の山が積み上げられた場所があり、リリーはパンを差し出す形で置くと中から何か出てくる。


『ドゥ、ドゥ』


「よしよし…」


「あれは鳥?」


「まあ、なんとも不細工な鳥ですわね。七面鳥でしょうか?」


瓦礫の中から出てきたのは太い(くちばし)に丸々としたずんぐりむっくりな身体をした七面鳥のような鳥であり、リリーから差し出されたパンをつつき始める。


「リリーちゃんその鳥、どうしたの?」


「ひゃっ!?お姉ちゃん…?びっくりしたぁ…」


アルロが後ろから声を掛けて目の前の七面鳥もどきはどうしたのかと聞くもリリーに驚かれてしまう。


「その七面鳥は何なんですの?」


「前にお散歩してたら変な声がしてね、ここまで来たらこの子がいたの」


「好奇心でここまで来たの?」


好奇心の塊である子供のリリーの行動は珍しいことではない。寧ろ子供なら入るなと言われた場所を探検したくなる衝動があっても不思議ではないだろう。そのお陰でリリーはこの七面鳥もどきに出会えたようだ。


『ドゥドゥ』


「けど、随分(ずいぶん)とお腹が大きいわね。地面を(こす)ってるわよ」


「幾ら七面鳥でも太り過ぎですわ」


基本的にニワトリや七面鳥は食用のために丸々と太らせるが、この七面鳥もどきは逆に丸々し過ぎて歩く度にお腹を地面に擦っていたのだ。


「と言うかこれ本当に七面鳥?」


「…絶対違うと思うわ」


サイズやフォルムは七面鳥に似ているが、明らかにこの異世界の固有種であった。


「じゃあ、ドゥドちゃんは何なの?」


「ドゥドちゃんって…」


何度も足を運んでいるためかリリーはこの七面鳥もどきを『ドゥドちゃん』と名付けていた。


「ドゥドゥって鳴くからドゥドちゃんって呼んでるの。ゴンちゃんは尻尾でゴンゴン叩くからゴンちゃんってね」


『ギァ〜!』


「だからゴンちゃんって名前なのね」


子供らしい安直な名前の付け方だが、暖かみがあって悪くはなかった。


しかしながらリリーの名付け方は七面鳥もどきに取っては的を得ていた。何故ならこの鳥の名称は鳴き声から由来しており、命名されたのが『ドードー鳥』であったからだ。


「とにかくここは危ないから早く立ち去った方がいいよ」


「そうだよなぁ?へへ…」


「まあ、だからと言ってみすみす帰さねぇけどな?」


レイが警告するも既に手遅れだったらしく、背後には人相の悪そうな男達がナイフやロープなど物騒な代物をチラつかせながらこちらをニタニタと見ていた。


「悪いですが私達は大切な用事があるため、立ち去らせて貰いますわ」


「おっと、通りたかったら通行料を払いな。規律を守るなら当然だよな?」


「金がないなら、体での支払いでも良いぜぇ?げへへ…」


厄介事は御免だと立ち去ろうとするが男達はタダでは帰す気はないらしく、あわよくば彼女達の身体を貪るつもりらしく下品な笑みを浮かべていた。


「あなた方のような品のない方に支払いの義務はありませんわ。行きますわよ」


話すだけ無駄だと判断したエルケは髪の毛を払いながら優雅に立ち去ろうとする。しかし彼女の前に(よだれ)を垂れ流す猛犬が数頭現れる。


「おいおい、ルールに従わないと礼儀正しい俺達のワンちゃんが黙ってないよ?」


「ルールを破る奴は許さないってよ?」


男達は猛犬を繋いでいる鎖を握り締めながら嫌らしい笑みを浮かべ、いつでもけしかけられるように身構えさせていた。


「こう言う悪い人がいるからここへ来ちゃダメなんだよ!とにかく君はここから逃げて!」  


「お姉ちゃん達…でも、ドゥドちゃんが…」


『ドゥ…』


レイ達は不安そうにしているリリーを先に逃がそうとするも、彼女はキョトンとしているドードーを心配しており戸惑っていた。


「何だ?美味そうな丸々と太った鳥がいるじゃねぇか!」


「ちょうどいい、腹減ってたんだ!」


ゴロツキ達もドードーの存在に気が付き、彼女らから金と身体をせびるだけでなく、ドードーも一緒に食べようとしていた。


『ドゥ!ドゥ!』


「ぐあっ!?何だこいつ!?他にもいたのか!?」


しかし別個体が太い(くちばし)で後ろから突いてきたためにゴロツキの一人は飛び上がる。


「ふざけんなこのクソ鳥が!」


『ドゥ!?』


激昂したゴロツキは滑稽な見た目をしたドードーに腹を立てて乱暴に蹴り飛ばして転ばせる。


「よーし、こいつはお前らにやる…思う存分に食いやがれ!」


『バウバウ!』


仕返しにとゴロツキ達は持っていた鎖を緩めて猛犬達をけしかける。


『ドゥドゥ!?』


猛犬達はドードーの骨を砕かん勢いで何度も首や胴体に容赦なく噛みつく。


「ああっ!?ドゥドちゃんのお友達が!?」


「見ちゃダメ!?」


仲間のドードーが残酷に殺されたことにリリーは恐怖で凍りつき、アルロは慌ててそれ以上は見ないよう彼女に抱き着くのだった。


「よくやったぞ。さて、俺らも後でいただくとしようか」


猛犬達が仕留めたのを見計らってゴロツキ達はドードーの肉の一部をむしり取り、後で火を通して食べてみようとしていた。


「酷い…こんなのって…」


「さて、お前らもこうなりたくないだろ?」


アルロの行動も虚しくリリーは目の前でドードーが殺されたことに泣き出しており、追い打ちをかけるようゴロツキ達がナイフと猛犬を手に近寄ってくる。


『ギァ〜!』


「ゴンちゃん!」


「あ?何だこの岩石トカゲは?」


しかしリリーやアルロ達を守るかのようにゴンが前に出て吠えてくる。


『ギァ!ギァ〜!』


「一丁前に威嚇してんのか?やっちまえ!」


尻尾のハンマーで地面を叩きつけて近寄るなと威嚇するゴンに、再び腹を立てたゴロツキ達は猛犬達を仕向けてドードーのように殺させようとする。


「ゴンちゃん!危ない逃げて!?」


リリーが青ざめながら大声で叫ぶも、猛犬はゴンの背中に噛み付いた。


『ギャイン!?』


『ギァ〜!』


「何だ!?どう言うことだ!?」


しかし猛犬はすぐさま飛び退いて、その場に前脚で口を押さえるようにのたうち回り、ゴンは突進して突き飛ばすのだった。


「そうか、ゴンちゃんによく似たモンスター…エドモントニアって言ったっけ?あれも確か身体が鎧に包まれていたよね?」


「なるほど、その鎧のお陰で犬の歯を防いだのですね」


同じ鎧竜であるエドモントニアもディアトリマの攻撃を跳ね除けていた。そのためアンキロサウルスのゴンも鎧で猛犬達の牙を跳ね除けたのだ。


「何やってんだ!さっさと噛み殺せ!」


『バウバウ!』


『ギァ〜!』


別の猛犬が飛びつくもやはりゴンの鎧には文字通り歯が立たないらしく、今度はボキリと言う音と共に歯が折れてしまう。


『ギァ〜!』


『ギャイン!?』


「うわ、歯が折れた所に尻尾のモーニングスターで…」


歯が折れた痛みに悶絶していたがリリーを怖がらせた奴は許さないと言わんばかりに、鼻息を荒くしていたゴンは尻尾のハンマーで猛犬の顔面を殴打する。


『ギァ〜!』


『ギャン!?』


他の猛犬達も何とか噛みつこうとするがやはり鎧に跳ね除けられ、そこを尻尾のハンマーを叩きつけられ次第に後退りしていく。


「ふざけやがって!こんな岩石トカゲに舐められてたまるか!」


「ぶち殺してやる!」


こんな悪人でも猛犬達を可愛がっていたのか、ヤラれたことに激昂したゴロツキ達は一斉にゴンに襲い掛かろうとする。


「そこのお前達!何をしている!」


「ヤバい!?軍候補生の連中だ!?」


「ちっ!覚えてろこの野郎!?」


そこへ騒ぎを聞きつけた軍服を着た少年・少女達がドタバタと駆けつけて来て、それに気付いたゴロツキ達は慌ててその場から立ち去る。


「あなた達、大丈夫ですか?」


「はい…ありがとうございます。しかしあなた方は…」


「俺達はキプロニアス王国の軍人候補生だ。規律を守るにも行使する人間もそれに合わせて強くなければいけないからな」


年齢はエルケ達と同じ十五歳ぐらいの少年・少女達だが王国を守る立派な軍人の候補生で、単純な戦闘能力だけなら下手な冒険者よりも高いとされており、ゴロツキ達がバカにするよりも逃げ出すのも納得だった。


「それよりもお前らはここで何をしている!ここは立ち入り禁止区域だぞ!」


「そうよ!ここには規律を守らない悪人達がたむろしているんだから!」


もちろん彼らは悪人から人々を守るのだが、襲われる以前に危険とされている場所に赴くなんて愚かだとエルケ達を叱責する。


「すみません、この子がここに迷い込んじゃって…」


「ドゥドちゃんにご飯をあげたくて…」


『ドゥ…』


候補生達は今だに泣きじゃくるリリーと見たことないドードー鳥を見て溜息を吐く。


「まったく…子供はちゃんと見てないとダメだろ」


「でもまあ、私達も私達でこの鳥の侵入を許してしまったことだし…今回は厳重注意で済ませるわ」


「しかし、この犬の有様はそこの岩石トカゲがやったのか?」


事情を聞いて仕方ないと言った様子で候補生達は大目に見てくれるが、ゴロツキ達の犬のヤラれようを見て事情聴取を始める。


「正当防衛ですわ。あの男達が犬をけしかけて来たのでそこのモンスターは抵抗したまでですわ」


「だが、どう見ても岩石トカゲだが…」


「このモンスターは草食だから問題ないですよ」


猛犬のヤラれようを見て、ゴンが岩石トカゲに似ているため人間への危険性はないかと疑うものの、その心配はないし、寧ろ友好的なのに懐疑的になるのはお門違いだと言及する。


「とにかくその鳥は許可なく国に侵入したんだ。国の外へ逃がすぞ」


「ドゥドちゃんを…外に出しちゃうの?」


ゴンは特別に許して貰えたが、ドードー鳥までは認められないと候補生達は連れ出そうとするが、リリーが立ち塞がり涙目かつ上目遣いで訴えてくる。


「うっ…可愛い…」


「おい、モルマ。お前は子供には甘過ぎるんだ。この鳥がどんな危険な存在か分からないのか?」


癖のあるショートカットの候補生の少女モルマはリリーの訴えに心が揺らぎそうになるも、他の候補生達は(かたく)なにドードー鳥を危険視して追い払おうとしていた。


「危険って…危険なのかな?」


「鳥自体には何の危険性はないだろう。しかしどんな病原菌を持っているか分からないんだぞ」


元の世界のモンスターにも体内に細菌や病原菌、更には寄生虫などの危険性もあったが、これまで長いことこの異世界のモンスターと出会い触れ合って来たが、その危険性は無視できないとも言えるだろう。


「とにかくこいつは追い払う!それでなくともここ最近は不穏な影が動いているのだから疑わしい存在は出来るだけ早めに摘み取っておく必要があるんだ!」


「不穏な影…事件ですか?」


彼らが基本的に人畜無害なドードー鳥に対しても過剰反応を示していたのは、彼らが別の事件を追っていたからだったらしく、口が滑ったとは言え見抜かれたことにしまったと言う顔をする。


「パニックになるし、あなた達は他国の人だから迷惑は掛けたくなかったけど…そうなのよ。キプロニアス王国では三人の捜索願いが出ているのよ」


こうなっては仕方ないとモルマはこの国で行方不明者が出ていると話してくれる。


「行方不明者ですか?」


「それも血痕を残してね。どう考えても迷子とかじゃないでしょ?」


「人の出入りはもちろん、モンスターの侵入も許さず、水も漏らさない堅牢な守りを敷いてきた俺達に取っては由々しき事態だからな。事実確認のために怪しい箇所を捜索していたんだ」


偶然、この場所に候補生達が来たのは行方不明者と先程のゴロツキ達が何か結び付くのではと考えてのことだった。


「でも、だからと言ってこの鳥が関係しているんでしょうか…」


「…まあ、確かに決め付けるにしても無理があったようね。カルロス、私達は事件の真相を追い求める余り異物に過敏になっていたようね」


切り揃えられた毛先をしたロングヘアの候補生の少女もメガネをかけ直しながら、リーダー格の候補生の赤毛の少年カルロスにドードー鳥を疑うのを止めさせるのだった。


『ドゥ…』


「…確かにこんな間抜けな鳥が人を消せるとは思えないしな。とにかくお前達はここから立ち去れ。さっきの連中が戻って来るかもしれんぞ」


最初は疑っていたもののドードー鳥のキョトンとしながら首を傾げる様に疲れたように溜息をついたカルロスは注意だけしてその場を去るのだった。


「ですってよ。ここは危険ですから行きましょう」


「うん。ドゥドちゃん、行こう」


『ドゥ』


リリーがパンでドードー鳥を誘い出すと、その後ろから何か他にも出てくる。


『『『ピィピィピィ…』』』


「ぶっ!?雛がいたの…!?」


「わあ…いっぱい着いてくる〜!」


「可愛いわね♡」


小さなドードー鳥の雛が三羽出てきて親鳥の後を追いかけ、その親鳥はリリーとゴンの後をまるでカルガモの親子のように追う様子は何処か愛らしかった。


「はい、食べて良いよ」


『ドゥドゥ…』


『ピィピィ』


『ピィ!』


廃品置き場から離れ、リリーはパンをドードー鳥にあげると雛と共に食べ始める。


「それでこの鳥達はどうするのさ?宿屋で飼う訳にはいかないしね」


「う〜ん…あれ?」


『ギギィ…ググ…』


ドードー鳥達のことをどうするかと考えていると、リリーはドードー鳥に混じって妙な鳥がパンを食べていることに気が付いた。


羽毛に覆われているが翼には前脚らしき部分があり、口先は(くちばし)らしき物が見当たらず小さな歯が生えていた。


「ドゥドちゃんの友達?」


『ギギィ!』


リリーはその鳥のような生き物に触ろうとするが逃げられてしまう。


「ひゃっ!?わっ!?何なの!?」


「ちょっと、大丈夫!?」


その生き物はリスのようにリリーの小さな身体をよじ登ったかと思えば素早く駆け回る。突然のことと駆け回られるくすぐったさにリリーは驚く。


『ギギィ!』


やがてその生き物はリリーの身体からジャンプすると、前脚と後ろ脚を大の字に広げてムササビのように滑空し何処かへと飛んでいく。


「何なの今の…鳥なの?」


「どうだろう…?」


ドードー鳥も変わっていたが、先程の奇妙な生き物は鳥かどうかすらも分からなかった。


それもそのはず。この奇妙な生き物は恐竜が生きていた時代、獣脚類の中から空へと進出した恐竜『ミクロラプトル』であり、彼らは手足を大の字に広げて滑空するように進化したのだ。


「あれ、リリーのリボンがない!?」


慌てた声に振り返るとリリーのポニーテールが解けて髪が腰まで下がっているのが目に入る。


『ギギィ…』


「あー!リリーのリボン返して!?」


ミクロラプトルの口には青いリボンが咥えられており、そのまま持ち去ったためにリリーは慌てて追いかける。


「くそ…何処のどいつだ!また木を倒して壁にぶつけやがって!」


「退かすのも大変なんだぞ!」


キプロニアス王国の国境の壁では衛兵四兄弟が寄り掛かった倒木を退かそうと苦戦していた。


「お疲れ様です。また倒木の案件ですか?」


「ああ、モルマさんにロナさん。差し入れありがとうございます」


「ったく、何度も倒木が当たるから壁に傷がついたんだぞ」


そこへサンドイッチと紅茶を入れたバスケットを手にモルマとメガネを掛けた候補生のロナが衛兵四兄弟に差し入れを渡しに来たのだ。


「待って〜!?」


『ギギィ!』


青いリボンを咥えたミクロラプトルが門の外へ駆けてきて、それを追いかけるようにリリーが国の外へ出てくる。


「何だこいつは!」


『ギギィ!』


衛兵四兄弟のサンスーは恐竜とも鳥とも見えるミクロラプトルを警戒するように槍を構える。しかし、ミクロラプトルは壁に寄り掛かっている倒木をスルスルと登ってしまう。


「返して!リリーのリボン!」


「あなた達…今度は何をしたの?」


こんなにも早く再会した上にこれまた妙な鳥を連れていたことに何事かと目を疑う。


「…で、今度はリリーちゃんのリボンがあの鳥もどきに盗られたと言う訳です」


「なるほどね。でもこれは諦めるしかないわね。あんな高所では届かないわ」


ロナは倒木の枝の上でこちらを見下ろすミクロラプトルを見つめるも、これでは手が出せないと諦める様ようリリーに諭す。


「でも…あれはママから貰ったリボンなのに…」


「リリーちゃん…」


しかしリリーも盗られたリボンには思い入れがあるらしく、簡単には諦めきれないと涙ぐんでいた。


『ギァ〜!』


「え、おい…何をして」


するとゴンはリリーを見た後で倒木に近寄ったと思ったら尻尾のハンマーで幹を叩き始める。


「バカ!何してんだ!?止めろ!?」


『ギァ〜!』


イワンが止めるのも聞かずゴンは尻尾のハンマーを高く上げ、そして勢いよく振りかぶって幹に尻尾を叩きつけると倒木が(きし)みながら傾いて、落雷に似たような音と共に倒れたのだった。


「わひゃあっ!?…スゴい…」


「一体どう言うつもりだ…」


誰も下敷きにならなくて済んだがゴンが何をしたかった分からなかった。


『ギギィ…!?』


「あ、リリーのリボン!?」


しかし倒れた木の枝の下からミクロラプトルが這い出てきて、口にリボンがあるのを見てリリーはひったくるように取り返す。


「なるほど、リリーちゃんのリボンを取り返そうとしたのね」


『ギァ〜』


倒木を完全に倒したのは高所にいたミクロラプトルを地面に引きずり下ろし、リボンをリリーに取り返させようとしたのだ。


『ギギィ…!?』


「あれ…大丈夫?」


あんな高い位置から留まっていた木ごと落とされたために負傷したのか苦しそうにしており、リリーは心配して優しく抱きかかえる。


「ちょっと…そのモンスターは君のリボンを盗んだんだよ?」


「でも…痛がってるんだよ。かわいそうだよ…」


確かに盗人ではあるがリリーは苦しそうにしているミクロラプトルを放って置けなかった。


「あの…この子を治療出来ませんか?」


先程ドードー鳥のことを見逃して貰ったモルマに頼れば何とかなると思ったのかリリーは再び彼女に頼み込むのだった。


「しょうがないわねぇ…着いておいで」


「ありがとう!」


溜息はつくもののリリーの優しさに感銘を受けたのかモルマはミクロラプトルの治療のために診療所へと案内するのだった。


「幾ら何でもあのモンスターも違うわよね」


「でなきゃリリーちゃんが襲われてますよ」


行方不明事件にミクロラプトルも関与しているのではと疑いの目を向けるも、大きさはキジと同じぐらいだが人を積極的に襲うようには見えなかったし、やれることと言ったらそれこそ小さな泥棒(ミクロラプトル)ぐらいだろう。


「くそ…まさかあそこで候補生と出くわすとは…」


「あいつら何を嗅ぎ回ってるんだ?」


猛犬達と共にアジトでドードー鳥の肉を焼いているゴロツキ達は、あそこで候補生と出会ったことをボヤいていた。


「よし、焼けたな…」


「ぶっ!?不味い…!?」


焼けたドードー鳥の肉を食べるも、丸々太っていた割には肉の味はお世辞にも美味いとは言えなかった。


「ったく…散々だな。肉はお前らに…あれ?」


食べられない肉を猛犬達に与えようとしたが、その場で(くつろ)いでいた猛犬達がいなくなっていることに気が付いた。


「お前ら…どうした?おい、あいつらは何処に…あ?」


相棒に猛犬達の行方を聞こうとするが、その相棒もいつの間にか姿を消していたことに目を疑う。


「ど…どう言うこと…あがっ!?うわあああ…!?」


後退りするゴロツキだったが足に激痛が走ったと思えば、強い力で何処かへ引きずられていき悲鳴が掻き消される。


『グアアアアア!!』


引きずらた場所では巨大な影がゴロツキの肉を貪っており、廃品置き場に響き渡るような不気味な鳴き声を不穏を知らせるかのように放つのだった…。

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