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『大番狂わせ』な真実〜後編〜

『グルルル…!』


「前にはドラゴンが…!?」


前方からディプロドクスを捕食していたアロサウルス達がにじり寄る。


『ガオオオ!』


「後ろからはキラーパンサー!完全に囲まれたじゃないのよ!?」


「キラーパンサーだけならまだやれんこともないが…ドラゴンもいるとは…」


後方からは体格差からディプロドクスを襲うよりも人間であるトラン達を追いかけて来たスミロドン達が迫り挟まれてしまう。


「突破口を開きます!エイン、キラーパンサーを退けることは可能ですか?」


「フォーク、手伝って!」


『ギィー!』


生体電流(パルス)を纏い艶のある尖った石を取り出したエインはフォークと共にスミロドンの群れに向かっていく。


『ガオオオ!』


「右から…!えい!」


飛び掛かるスミロドンの動きを呼んで回避したエインは石から生体電流を流して痺れさせる。


『ギィ〜!』


『グガアッ…!?』


「身体が大きくなって、キラーパンサーにも相手取れるようになったね!」


成長したフォークは以前と異なりスミロドン相手にも戦える程に力強くなっており、角の騎士に憧れるラピスは自分のことのように嬉しそうにしていた。


『グルアアア!』


「牙に気を付けろ!噛まれたら命はないと思え!」


「分かってるよ!けど…」


スミロドンの牙を武器で防いでいるリュカとマーキーの背後からアロサウルスが迫ってくる。


『グアアア!』


「キラーパンサーでなくとも、こいつらに噛まれても同じなんだからな!?」


「って言うか食い物が目の前にデデンとあるんだからわざわざ俺達を狙わなくてもいいだろ!?」


人間からすれば餌が欲しいならアロサウルス達が仕留めたディプロドクスがあると言うのに、自分達を執拗に狙う理由が分からなかった。


『ガオオオ!』


「この!幾らなんでもこんなには…うわっ!?」


『ガルルル…!』


アロサウルスの噛みつきを避けて剣で斬りつけるも、背後からスミロドンに押し倒されてしまうラピス。


「ラピスさんから離れて!」


『グルルル…!?』


しかしエインがスミロドンの背中に飛びついて生体電流を流して痺れさせる。


「大丈夫ですか?」


「ありがとう…けど、困ったぞ。両軍に挟まれてしまった場合、突破口を開くには片方の陣形を崩す必要があるんだけどお互いに隙がない…」


互いに群れを成して襲ってくるため、まだ体格的に立ち回れるスミロドンの方から突破口を開こうにも、そこを空かさずアロサウルスが狙ってくるため状況はかなり険しかった。


「皆の者、森の中に入るのだ!木々が入り組んでいるのならドラゴンはそう安々とは入ってこれないはずだ!」


「そうね!森の中ならあたし達エルフのホームグラウンドよ!」


相手を減らすために戦う場所を変えようとソルラスは森を指差す。あそこなら身体が大きいアロサウルスは身動きを制限されるため入ってはこれないはずだ。


「皆!伏せて!」


『グルルル…!?』


『グアアア…!?』


石を数個拾い上げたエインは生体電流を纏わせて放り投げると、強い電光を放ちながら側を飛んでいきスミロドンとアロサウルスの目を眩ませる。


「走ってください!」


『…ガオオオ!』


キオナの呼び掛けで全員が森の中へと駆け込み、遅れてアロサウルス達も後を追い始める。


『グアアア!』


「ぐわああ!?」


「木々が多いところを走れ!?狙われるぞ!?」


森の中に逃げるも障害物に四苦八苦するのは人間も同じらしく、遅れた者達から一人、また一人と追いかけて来たアロサウルス達の餌食になっていく。


しかし木々に阻まれてアロサウルスの追撃が少なくなっていく。


「やった!逃げ…ぎゃあ!?」


『グルルル…!』


「油断するな!それでなくともキラーパンサーが来るぞ!?」


アロサウルスが見えなくなったと思ってたが今度はスミロドンの追撃が来る。


「皆の者!木に登れ!」


体の大きさや構造から木登りは不可能と考え、今度は急いで近くの木に登るように叫ぶソルラス。


「皆!木に登って!」


「キオナ!こっちに!フォークとロボは何処かに隠れてて!」


トランやエインが先導するように周りの者達を木の上へと押しやる。フォークとロボは先に行かせて何処かに隠れるように指示する。


『グルルル…!』


『ゴガア!』


「良かった…ここまでは来れないらしいな」


ソルラスの見立てた通りスミロドン達は幹に爪を立てるも、本来は当時の巨獣を相手にするように身体を大きく進化させたためにその重量が災いしてズルズルと下に落ちてしまう。


『ゴルルル…』


「あいつら…あたしらが降りてくるまで見張ってるつもり?」


「僕らのことを諦めないのかな…」


やがてスミロドン達は幾らやっても木に登れないと分かり、諦めきれないのか何度か掴まり立ちするかのように爪を立てたり、木の上のエイン達を見上げながら辺りをウロウロしていた。


「もう!どっかに行け!」


嫌気が差したトランはその辺の硬い実を一頭のスミロドンに投げつける。


「バカ!何やってるの!」


「怒らせたら危ないよ!」


『ギャン!?グルルル…!』


マリーとルシアンが慌てて引き止めるも、既に時遅く実はスミロドンの頭にクリーンヒットしてしまい、痛みに悶えた後トランを睨みつけてくる。


「あのスミロドン…トランちゃんのこと八つ裂きにするって思ってるよ」


「エインでなくとも何を考えているかは分かりますわ」


怒り狂っているが手の届かない相手にどうしてやろうかと木の幹に爪を立てまくっているのを見て息を呑む。


「けど、どうしよう…私達ここから動けないよ」


「ねぇ、前みたいに即席の橋を作れない?」


「そう思って探してるけど、ここには(つる)がないし枝もそんなに伸びてないみたいだし…」


以前のカルノタウルスの時のように木と木の間に蔓と枝による即席の橋は作れないかとエリーシャがエインに訊ねるも材料がないためお手上げだった。


「ん…んん…!?何この匂い…」


「うわ…何か腐った匂いがするわね」


「肉が腐敗した匂いか?」


その時、風に乗って腐敗臭が漂ってきてエインだけでなくその場にいた全員が不快感に染まる。


『グルルル…!』


『ガオオオ!』


「あら、キラーパンサー達が何処かに行きますわ」


するとスミロドン達は頭に木の実を当てられたことを忘れてくれたのか一目散に立ち去ってしまう。


「あたしに怖気付いたのかしら?」


「よし、お前をそこで吊るして試してみようか」


「ぎゃあっ!?冗談、冗談!?」


調子のいいことを言ったトランをロープで縛ったシスカはニヒルな笑みで枝から吊るし本当にスミロドンが寄ってこないか試そうとした。


「冗談はさておき、奴らが向かった方向からするにあの腐敗臭が関係しているだろう。肉食だろうから腐ってても肉に変わりはないだろうからな」


「何にしても助かったんだな!お陰で大腿四頭筋(だいたいよんとうきん)が鍛え上げられたぜ!」


考えられるとしたらスミロドン達はあの腐敗臭を嗅ぎつけ、腐っているとは言え肉が安易に手に入ると考えそちらへ向かったのだろう。


「しかし問題は解決しておらん。バリオンはあのキラーパンサーが向かった先じゃぞ」


「おまけに死肉を漁るのは何もキラーパンサーだけとは限らん。さっきのアロ何とかと言うドラゴンもいるだろうな?」


「それってつまり目的地に先回りされたってことかよ?」


大腿四頭筋を自慢しながらルマッスが喜ぶもつかの間、単純に自分達の目的地にスミロドンを始めアロサウルスなどの捕食者が待ち構えることになっているだけだとソルラスとシスカは静かに告げてくる。


「見たことがないドラゴンとキラーパンサー…興味が尽きないけど、このままじゃロクに進めそうにないわね」


「そうですね。あの二種だけでもいっぱいいっぱいだったのに、他にも別のモンスターがいたら…」


キプロニアス王国の姫であるシーナとドラグングニル王国の代理王女であるキオナはこれ以上の行軍には危険が伴うものの、進む必要があるため何か方法はないかと慎重になっていた。


『ギィ〜!』


「フォーク、無事で良かった…あれ、ロボは?」


大きくなって木に登れないでいたフォークは別の場所に避難させ合流するも、ロボがいないことに気が付いた。


「何かでカモフラージュしたらどうだ?そうだな…奴らの排泄物を使うとか」


「ええ…排泄物を…!?」


「絶対にイヤだし!?」


確かに臭い消しや他のモンスターを近づけないために排泄物などを使う場合があるが、モンスターが嫌がるようなことを人間がそう簡単に出来る訳がない。


「とは言え相手のモンスターがどれほどいるか分からないのに、丸見えの状態で行くのは危険過ぎる。明日を迎えたいのならそれくらいは我慢しろ」


「いや…皆、シスカさんのように割り切れないですって…」


正論ではあるがそう簡単に実行は出来ないことだ。ラピスも流石にそれはどうかと説得しようとする。


「皆!カモフラージュの必要はないかも」


ところが説得するよりも前にフォークから何かしらの話を聞いていたエインがそんなことを話してくる。


「臭いがキツくなってきたにゃん…」


「ねぇ、本当にカモフラージュの必要はないの?」


腐敗臭で鼻が曲がりそうになるほどに近付く中で、獣人であるために嗅覚に敏感なモナは辛そうに鼻を摘む中で、トランは難色は示したが本当にカモフラージュの必要はないのかとエインに聞き返す。


「フォークがロボの遠吠えを聞いたんだ。この先には肉食のモンスターが集まってるって」


「ちょっと!あたし達をあいつらのメインディッシュにしようっての!?」


カモフラージュの必要はないと言うからには、何か方法があって近寄っているのかと思えば何も考えなしに向かっていると知って一同は青ざめどよめく。


「大丈夫だよ。フォークも近寄ったらしいけど、気にしないみたいだよ」


「どう言うことですか?」


幾ら身体が大きくなったとは言えフォークが肉食恐竜に襲われない訳がないはずなのに近寄っても平気だなんて前代未聞だった。そうこうしてる間に森を抜けるのだが、腐敗臭の原因を見た瞬間に一同は言葉を失う。


「な…何なのこれ…」


「こんなことって…」


森を抜けると平原だったのだが、互いに肝の据わった姫二人は目の前の光景を見て思わず開いた口が塞がらなくなる。


「ディプロドクスが…たくさん死んでる…!?」


エインは目の前で起こっていることを呆然とした様子で呟く。そう、たくさんのディプロドクスがズタボロの巨体を横たわらせ、ピクリとも動かず平原を埋め尽くしていたのだ。


その光景は二人の姫やエインでなくとも目を疑うような悲惨な有様であった。


体格差で圧倒的優位に立ち回れていたはずのディプロドクスがこんなにも死んでいる光景なんて早々見られる物ではない。寧ろ、何かの不吉さを案じさせるかのようだった。


「これ…寝てるとかじゃないの?」


「ううん、間違いなく皆死んでるよ…酷い」


「うわ…内臓が散らばってるぞ…」


恐る恐る近付いてみるとどのディプロドクスも身体がとても冷たく、体の一部分が他の捕食者に食べられたのか腹肉が引き裂かれ、中に詰まっていた内臓が外に飛び出てており死んでいるのは間違いなく、腐敗臭の正体は間違いなくこのディプロドクス達からだった。


「バカな…あれほど大きなドラゴンがこんなにも死んでいるなんて…」


「あのアロ何とかって言うドラゴンの仕業か?」


「あり得ません。幾らあのドラゴンでも群れていたとしても仕留められるかどうかは五分五分のはずです」


人間からしても恐竜からしてもディプロドクスはとてつもないほどに大きい。


人間でもモンスターでも身体の大きな獲物を仕留めるには大勢の仲間や武器や装備、更には罠や作戦などを用意して初めて渡り合えるのだ。


確かにアロサウルスはディプロドクスなどの竜脚類を専門に狩りをしていた恐竜だが、一頭を仕留めるだけでもアロサウルスに取っては命懸けのはずだ。


「それなのにこんな肉の大安売りみたいに、たくさん仕留めるなんて…不自然です」


以上のことからラスコはこのディプロドクス達の死に方は捕食者に仕留められたとは思えず、何かがおかしいと不審がっていた。


『キャンキャン!』


「ロボ、お腹空いてたの?」


そこへ別行動をしていたロボが肉を咥えてエインに近寄ってくる。するとロボは何処かに案内したいのか数歩進んで後ろを振り返るを繰り返す。


「…何か見つけたみたい」


「まさかさっきのキラーパンサーとかじゃないでしょうね?」


その意図を汲み取ったエインだったが、ここには他の捕食者もいると聞いている。ロボが見つけたのがそうじゃないと願っていたが、そんなエリーシャの思いを一蹴するかのように、近くのディプロドクスの死体の陰から不気味なシルエットが出てくる。


『ゲエエエエ!』


「ロック鳥!?」


元の世界には巨大コンドルのようなロック鳥と言うAランクの鳥系モンスターが生息していたが、ディプロドクスの死体を我が物顔にしていた巨大な鳥は正しくそのロック鳥ようだった。


大昔に生息した世界最大のコンドル『アルゲンタヴィス』。シンドバッドの冒険にも同じく巨大なコンドルのロック鳥が登場するが、そのモデルになったのがアルゲンタヴィスだとされている。


『ゲエエエエ!』


『グエエエ…!』


「くそ…ウィルマで散々ワイバーンは見たんだよ!」


「その上でロック鳥なんて冗談じゃないぞ!」


ボヤくリュカとマーキーを尻目に獲物を横取りに来たのかとアルゲンタヴィス達は羽ばたきながら近寄って来る。


ケツァルコアトルスよりは大きくないが、それでも翼開長は人間の身長を上回っており、その翼を畳んでも身長は人間と大差ないほどに大きかった。


「待って!僕達はここを通りたいだけなんだ…お願い、通して…君達のご飯を取ったりしないから」


『…グエエエ』


エインの意思疎通に『なら良いんだよ』と言わんばかりにアルゲンタヴィス達はそっぽ向いてディプロドクスの死肉を漁り始める。


『ウオオオン〜!』


「ロボ?急に何を…」


突然ロボが遠吠えをしたために驚くものの、別のディプロドクスの死体から出てきた捕食者の影に息を呑む。


『グルルル…』


「ひっ!?あれはイーロスの街にいたドラゴン…!?」


「こんな所にまで来てたの!?」


なんと現れたのはイーロスの街の人々を食べ尽くし、何も知らずに迷い込んだルシアン達を追い詰めたダスプレトサウルスでこちらをジッと見つめていた。


「あいつがいるってことは…」


『…グルルル』


「やっぱりあの狼も…!」


イーロスの街ではダイアウルフと共生関係を持っていたが、やはり彼らも同じくディプロドクスの死肉を漁っていたようだが、エリーシャ達を目にしてこちらをジッと見つめてくる。


「こんな所で再会するなんて…あ?」


『アオオオン〜!』


エリーシャが剣を握り締めようとした矢先、側にロボが近付き遠吠えを始める。


『ウオオオン〜!』


『…グルルル』


その遠吠えを聞いたダイアウルフは同じく遠吠えで返す。その途端にダスプレトサウルスもダイアウルフもエリーシャ達に興味をなくしたかのように死肉を漁り続ける。


「ロボがダイアウルフ達にここを通りたいだけだよって伝えたんだよ」


「狼は遠吠えをして無駄な争いを避けるとは聞いたけど、今それが行われたのね!」


狼は群れを成して行動をするが、縄張り内で鉢合わせた場合は争いが必ず起きてしまうため、無駄に争って負傷しないよう遠吠えをすることでお互いに不用意に接近しないよう警告し合うのだ。


狼の生態を知っていたシーナは目の前でそれを目にして嬉しそうにしていた。


『グルルル…』


『ガルルル…』


「よく見るとさっきのアロ何とかってドラゴンやキラーパンサーも同じように食べてるけど見向きもしないわね」


「良かったじゃないのよ、因縁つけられなくて」


死肉を漁っているの捕食者の中にはアロサウルスやスミロドンもいたが、一同が冷や冷やしながら側を通ってもジッと見つめてくるだけで、すぐに興味を失い死肉を漁り続けていた。


「理由は不明ですが、これだけ大きな獲物が楽々手に入ったんですよ。しかもこの量なら暫くは食べ物にも困らないでしょうし…わざわざ大変な思いをして私達を襲う理由がないんでしょう」


ディプロドクス達の死体が手に入ったと言うことは大量の肉を大安売りで手に入れたも同然だ。


彼らは恐ろしい捕食者だが満腹で、しかも食べ物が目の前にあるのならわざわざ狩りをする必要がないため、目の前をラスコ達が通っても見向きもしないのだろう。


「それにしてもディプロドクス達に何があったんだろう?」


「集団感染…伝染病でしょうか?」


分からないのはこれだけの巨体を持つディプロドクス達が群れ単位で死んでいることだった。


一頭なら捕食者に襲われたとかで説明出来るが集団で死んでいるとすれば伝染性の高い病原菌に感染した可能性もある。


『キャン!クゥン…』


「そのディプロドクスがどうかしたの?」


捕食者だらけの平原を抜け掛けようとした所で最後に横たわっているディプロドクスの死体に何かあるのかロボは前脚で指し示していた。


「あら?この死体は他と比べると食べられた形跡がないですね」


「これだけあるんだから手を着けられてない死体もあっても不思議じゃないわよ」


そのディプロドクスの死体は腹肉を食い破られた形跡がなかったため違和感としてすぐに伝わってきた。


「でも、この傷は?」


しかし無傷と言えばそれは間違いであった。そのディプロドクスの腹には首から尻尾の付け根に掛けて綺麗な切り口が着けられていたのだ。


「これって刃物による切り口?」


「ってことは…人間の仕業?」


幾ら鋭い牙を持ってても腹肉がここまで綺麗に切れるはずがない。あるとすれば剣やナイフによる鋭利な刃物だろうが、それを扱えるのは人間や異種族人ぐらいなためこのディプロドクスを仕留めたのは人間と言うことになる。


「そうにゃ、手を着けられてないのなら肉を少し分けて貰うにゃ!」


思い出したように手を叩いたモナはナイフを取り出してディプロドクスの肉を切り分け食糧にしようとしていた。


「止めておけ。仮に伝染病に感染していたら我々にも病原菌が感染る可能性があるだろう」


「あにゃ、そうだったにゃ…ここは諦めあっつ!?」


鳥インフルのように死因が伝染病なら人間に感染して悪化すると言うリオーネの警告にモナも泣く泣く諦めようとするが尻尾を抱えて悲鳴を上げる。


「どうした?」


「あちちっ!?尻尾に何か熱いものが?!」


モナの尻尾があった場所には丸い石がたくさん散らばっているだけだった。


「熱っ!…本当だ。この石、スゴく熱い…」


「ふむ…熱した石ですか。この辺は火山付近とは言え、溶岩と言う訳ではないでしょうし…」


しかし触ってみると幾つかの石は熱を持っており触ることも出来なかった。


「皆さん、これを見てください。このモンスターの内臓、同じような石がたくさんあります!」


「え、何でこんなに石がたくさん…」


更に不思議なのはその丸い石がディプロドクスの内臓の中からたくさん敷き詰められていたことだ。


「石の他に植物も入ってますね。もしかするとこれは胃袋なのでしょうか?」


「何で胃袋の中に石が…まさかこれが死因?」


「ううん…多分違うんじゃないかしら」


中には植物や木の葉が混じっており、これはディプロドクスの胃袋だと言うのが判明するも石が入っている理由は分からず、これが死因なのではと考えるもシーナはそうは思っていなかった。


「鳥の中には食べた物を磨り潰すために小石や砂を一緒に呑み込むんだけど、もしかしてこのモンスターのお腹の下を通った時に聞こえた雷のような音は…」


「そうか、ディプロドクスがこの石でお腹の植物を磨り潰していたからだね!」


現代の鳥も人間のように歯を持たないため咀嚼(そしゃく)は出来ないものの、代わりに地面をつついて小石や砂などを呑み込んで食物を磨り潰しているのだ。


竜脚類の多くも小石を呑み込んで食べた食物を胃袋で磨り潰しており、これは胃石と呼ばれお腹の化石と共に出てくることがあるのだ。


「でも、それだとこれが原因じゃないんだよね?」


「そうね。寧ろこれがないと消化不良を起こすはずよ。それにこのモンスターを仕留めたのが人間ってのも気になるけど…」


そうなると小石が原因で死んだ訳ではないし、仕留めたのが人間の仕業となると色々疑問は残るがいつまでも謎解きをしている訳にはいかない。


「今は前に進みましょう。彼らの気が変わらない内に…」


キオナや他のメンバーもディプロドクスの死体を漁る捕食者達の気が変わって自分達を襲わないかどうか心配だった。そのため急いでここを通り抜けてバリオンに辿り着きたかった。


「あれ、何だろう?この石」


皆が平原を後にする中でエインは視界の隅でキラキラ光る石を拾い上げる。


「僕の持っている石よりずっと綺麗…リリーちゃんのお土産にしよう!」


その石は黄金色に輝いており、物珍しさからエインはキプロニアス王国で留守番しているリリーのお土産にと懐にしまう。


「はあ…はあ…遂に辿り着いたわよ!バリオン!」


「もう夕方ですね…」


やはり一筋縄ではいかなかったが日没前にバリオンに辿り着いた一行を代表するようにトランが大声を張り上げる。


「これまでにもたくさんの国は見てきたけど、ここは随分と変わった見た目だね」


「機械仕掛けのようですね」


一行の目の前には国境の壁があるのだが、これまでの国と違い歯車やシリンダーなどの機械のパーツが散見されておりスチームパンクのような見た目だった。エインでなくとも、この見た目は早々お目にかかれないだろう。


「それでどうやって開けるの?」


「ドワーフの国の門の開け方を知っているのは…」


(わし)に任せてくれ」


初めてお目にかかる他の国の人間達や、敵対関係にあるエルフ達もドワーフの国の門の開け方は知らない。だが、長いことここの長と渡り合ってきたソルラスだけが開け方を知っている。


「エルフは寄せ付けない仕組みになっておる…しかし互いの長にだけ伝わるこの鍵ならば…」


ソルラスは首に掛けていた装飾ネックレスを外し、装飾品を鍵に変形させて鍵穴らしき場所に差し込み回す。


「おおっ…動いた」


「なるほど、族長自ら開ける鍵を持っていたのですね」


門の中で歯車やシリンダーが(せわ)しなく動き、重厚な音と共にゆっくりと扉が開いていく。


「さあ、ドワーフ達!あんたらに言いたいことが…っ!?」


やはり長年敵対したこともあってかトランの最初の一言はどうも喧嘩腰であったが長くは続かなかった。


これまでの経緯からすれば、モンスターが国に侵入し国民を襲っていると誰もが思っただろうが今回はそうではなかった。


「あ…エルフのお嬢さんかい?」


「いらっしゃ〜い…」


「まあ、何も無いけど見てってくれよ…」


中には総じてずんぐりした見た目にモジャモジャの(ひげ)、装備は二本の小さな角が生えた兜とゴーグルに作業服と、まるでバイキングを彷彿とさせる人間達が無気力を表すようにその場で突っ伏していたのだ。


いや、彼らだけではない。まるで街全体が無気力を体現するかのように不気味なほどに静まり返っていたのだ。


「…この人達がバリオンのドワーフさん達ですか?」


「ええ、そうですキオナ姫。けど、これは変です」


大陸中の武器を製作しているため常に忙しく活気付いているとは噂で聞いていたバリオンが、思っていたよりも暗い雰囲気に包まれているため、ここで合っているかトランに確認を取るも、間違いないが何か異変が起きていることは確かだった。


「エルフであるあたしを見ても何とも思わないなんて…」


「おかしい。いつもなら悪態の一つはつくはずじゃが?それにあちこちの工房や鍛冶場から鉄を叩く音が絶え間なく聞こえてくるのじゃが…」


ソルラスの言葉が本当なら悪態や金属音が聞こえてもいいのに、まるで眠りに就いたかのようにただただ静けさが国中を支配していた。


「あの…何があったんですか?」


「ん…?ああ…」


取り敢えずこれまでと違い捕食されず、今日まで無事だったことは間違いないため、何があったのか近くのドワーフにエインが訊ねてみるも彼らはうわ言しか言わなかった。


「ちょっとどうなってんのよ!いつもは張り合ってばっかりのドワーフがこんな腑抜(ふぬ)けになるなんて!」


我慢出来ずにトランは声を張り上げるも、それでもドワーフ達は何も答えず無気力のままだった。


「トランの言葉でも何の反応も示さない…それに見てよこの武器。最近まで手入れした様子がないわ」


それだけでなくシーナは刃こぼれしてボロボロになった剣や斧を見せてくる。 


武器の製造を一任されているドワーフ達だが、使い古した武器を万全の状態にするために整備やメンテナンスの依頼だって受けているはずだ。


そのためボロボロの状態で放置するなんてドワーフ達からすればあり得ない事態だ。


「どれもこれも最近使われた形跡もない。と言うことは…」


「どう言うこと?」


しかしシーナはバリオンにある斧がボロボロで放置され、最近使われた形跡もないところを見るにある事実に辿り着いていた。


「この斧では木は()()()()()()。それに彼らには二つの国に行き作業をする気力も見受けられない。つまりルミナスやキプロニアス王国の木を切り倒したのは彼らバリオン王国のドワーフではないことが立証されたわ!」


こんなボロボロの道具では木はまず切り倒せない。しかもドワーフ達は何があったかは知らないが遠くへは移動出来ないほどに無気力になっていた。


以上のことから少なくともエルフの里のルミナスやキプロニアス王国の木を倒したのはドワーフではないと言うことがシーナの口から立証されたのだ。

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