『大番狂わせ』な真実〜前編〜
『ブルル…』
『ヒヒ…ルルル…』
ヤギサイズの原始的な馬のヒラコテリウムが朝日を浴びながら平和そうに川の水を飲んでいた。
『……』
『…!?』
しかし彼らは近くの茂みで何者かの気配に気が付き殺伐とした雰囲気になる。
『ウオオオン!』
『ヒヒー!?』
『ブルル…!?』
茂みからニホンオオカミが飛び出したことに驚いたヒラコテリウム達は一斉に草原を駆けるように逃げ出す。
「やあっ!」
『ヒヒ!?』
ところが逃げた先にはいつの間にか穴が開いており、穴の中には人間の子供が隠れていて、しかも身体が青白く発光しており手から同じように発光する石を一頭のヒラコテリウムに当てる。
『グルルル…!』
『ヒヒ〜!?』
石はみぞおちに当てられたためにヒラコテリウムはその場でのたうち回り、その間にニホンオオカミが追いついて首に噛みつき気道を圧迫して空気の流れを塞ぐ。
「君の死は…無駄にしない!」
その子供は一瞬躊躇うものの覚悟を決めて、謝罪しながらトドメを刺すように艶のある尖った石を苦しそうに暴れているヒラコテリウムの首筋に当てる。
そしてそのまま頸動脈を切り裂き大量の血を流させると暴れていたヒラコテリウムは失血死して暴れていた脚がピタリと動かなくなる。
「だいぶ上手くなったな。エイン」
「シスカさんのお陰ですよ」
その子供とニホンオオカミ…エインとパートナーであるロボを遠くから見ていたシスカが賞賛してくる。
「今日も特訓かい?精が出てるね」
「次はお前の剣術を教えてやれ、ラピス」
バスケットを持って来たラピスにシスカは剣術を教えるように促す。
「やあっ!はあっ!」
「まだまだ脇が甘いよ!」
さすがに本物の剣ではやれないため木で出来た模擬刀でラピスはエインに剣術の手解きをする。
「順調か?」
「まあな。メリアスもケガの具合は良いのか?」
人攫いによって負傷したメリアスも何とか松葉杖をつきながら動けるまで回復し様子を見に来ていた。
「次は私の番だな。次は解体をやってみろ、腹の皮膚を裂くようにな」
「はい!」
近くの岩に座り込み、今度は先程仕留めたヒラコテリウムの解体をエインにやらせてみる。
「最初は戸惑っていたがだいぶ慣れたじゃないか」
「はい!」
『ウウウ…』
「あ、ダメだよロボ!勝手に食べたら…」
皮膚を裂いて内臓や骨と言った部分に切り分けるエインを満足に見つめる中で、ロボはちゃっかりヒラコテリウムの内臓を食べていた。
「昨日のシスカさんには驚かされましたよ。昨日いきなりエインくんを国の外に連れ出そうとして衛兵の人達を下したんですから」
「…それは忘れろ」
突然何も言わずに国王の前からいなくなり許可なく国外に出ようとしたシスカの行動は国王の前で自国の方針に逆らったのだから反逆罪に問われても不思議ではない。
「王様のお陰ですよね」
「分かっている…」
そのためシスカは牢獄行きの可能性だってあっただろうが、融通をきかせて自分達を国に通してくれた国王の計らいにより今回は不問としてくれたのだ。さすがのシスカもそれを指摘されてぐうの音も出なくなっていた。
「…しかしあれから三日近くか」
「この国の冒険者が他の人攫いに連れ去られたエルフの人達を探してくれるけど…音沙汰がないですね」
話題を変えようと今だに行方不明のエルフ達の安否を気に掛ける素振りをし、目論見通りラピスもまた心配する様子を見せる。
『ギィ〜!』
「励ましてくれるのかい?ありがとう」
そんな心配を察知してかフォークがラピスの脇腹に頭を擦り付けてくる。
「…しかし気が付くとこいつもかなり大きくなったな」
「エインくんも少しずつ逞しくなっているけど、君も角の騎士に少しずつ近付いているんだね」
この三日間でエインは実力を身に着けていたが、その間にフォークもまた身体が大きくなり、エインぐらいなら背中に乗せられるまでに成長し角も尖りを見せていた。
「シスカさん、ラピスさん!ご飯にしましょうよ!」
気が付くと解体を終えたエインはヒラコテリウムの肉を焚き火で焼いていた。
「あむ…美味しい…!」
「あれだけ苦労して仕留めて解体したのだからな。美味しくて当然さ」
「この三日でだいぶ仕上がったな」
この三人で三日間エインを鍛え上げたが、逞しくなった彼を見て満足そうにしていた。
「次は何をするんですか?」
「私からは基本的な戦士としての立ち回り。ラピスからは武器の扱い。そしてメリアスからは狩猟技術を学んだ。教えられることは一通り教えたはずだ。後は実戦でどれだけやれるかどうかの問題だな」
教えられる側としては実直なエインだったがシスカ達は満足そうに微笑みながら無事に教え子を卒業したことを伝える。
「リリーちゃん、寂しがってるだろうな…そろそろ遊んであげないと」
「ずっと訓練してたもんね。息抜きには持って来いじゃないかな」
この三日間はドワーフとエルフのいざこざはもちろん、こちらの当初の目的達成のためにキプロニアス王国に滞在していた。
その間に人の命を奪ってしまい落ち込むエインにシスカは荒療治と称して稽古をつけており、それに暇を持て余していたラピスとメリアスが加わっていたのだ。
落ち込んでいたこともあるが、ずっと三人から鍛錬を受けていたためリリーと遊べれないでいたためきっとフラストレーションが溜まっているだろうと考える。
「それには及ばないわよ!」
「お兄ちゃん、来ちゃった!」
「トランちゃん!リリーちゃんも!あれ…?」
話を聞いていたトランの側には恥ずかしがりながら微笑み返すリリーがいたのだ。しかしそれだけではなかった。
「君達はあの時のエルフの…」
「あの…お兄ちゃん!」
「助けてくれて…ありがとう!」
リリーの側には人攫いに連れ去られていたエルフの子供達がいたのだ。そしてエインをおずおずと見た後に感謝の言葉を投げかけてくる。
「よく見ろ。お前があの時動かなければ…この子達は存在していなかっただろう。お前のしたことはこの子達の命を救ったも同然だ。胸を張って誇りに思うが良い」
「シスカさん…皆…」
確かに人の命を奪ってしまったかもしれないが、そうでなければエルフの子達は守れなかった。
助長する訳ではないだろうがそれでも人を助けたこともまた事実であるため、それだけは誇りに思っても良いと言われ更に助けたエルフの子達からの感謝の言葉でエインは胸が熱くなる。
「それでね…お兄ちゃんが疲れてるだろうと思ってね…」
「マッサージをしてあげるよ!」
「え…ちょ…あ…あはは!?」
リリーと子供達は我先にとエインに寄り添うと腕や脇や背中などをマッサージしようとするが、子供の力ではあまり効果がない上にやり方を知らないためにマッサージと言うよりもくすぐりに近かった。
「あははは!待って…くすぐった…あははは!?」
「喜んでる!」
「もっとやってあげる!」
「きゃははは!?ちょ…ストップ!?くすぐったいんだって〜!?」
マッサージが効いて笑っているのか、或いは分かっているのかは不明だがリリーとエルフの子達はエインを押し倒して一斉にマッサージと言う名のくすぐり攻撃をする。
「はあ…はあ…もうダメ…笑い疲れた…」
「あはは…大変だね」
それから数分近くはくすぐられてさすがのエインも肩で息をするほどにぐったりと横たわっていた。
「あれ、どうしたんですか?」
「あ、マリーさん!他のエルフの人達はどうなりましたか?」
そこへ行方不明になったエルフの仲間達を捜索しに行っていたマリー達がキプロニアス王国付近まで戻って来てため、トランは不安と期待が入り混じった表情を浮かべながらマリーに訊ねる。
「人攫いが通った場所を捜索しましたが、争った形跡と血痕があるだけで死体らしい物は…」
「おまけにドラゴンの足跡らしき物がありました。恐らく争った後で死体を食べ尽くしたのかと…」
子供達から聞いた情報を頼りに襲われた場所へ行ってみるもやはり既に手遅れであった。あったのは同族が流したであろう血痕とそれに釣られて寄ってきた肉食恐竜の足跡だけだった。
「くっ…それもこれもドワーフのせいよ!あいつらがあたしらの森を切り開くから…!」
「トランちゃん、バンシアナ様が言うように証拠も無しに決め付けるのは良くないわ」
「でもあいつら以外に誰があんな嫌がらせみたいなことをやるのよ!」
今の境遇はドワーフが森を切り開いたせいだと決め付けるトランだが、マリーはそうは思わないと否定してくる。
「バンシアナ様が言ってたことが気になって、もう一度森の入り口を見に行ったけど、ドワーフがやったとは思えないのよ」
「木の切り口のことか。確か道具で切断したのではなく、力任せに圧し折ったとか言う…」
「改めて見てみたけど、どの木も全て圧し折られていたわ」
キプロニアス王国付近の樹木が圧し折られていたのを聞いて、もしやと思い森に戻って調べた結果、案の定斧やノコギリで切断したのではなく力任せに圧し折られていたのだと判明した。
「でもそれは状況証拠でしかないと王様は言ってたわよ!たまたま切断する道具を使わなかっただけでドワーフがやってない証拠にはならないわよ!」
しかしこの情報はあくまで倒された方法が違っているだけで、本当にドワーフが木を倒さなかった証拠にはならないと反論する。
「やっぱりバリオンに行って詳しい調査をしないとダメなんじゃ…」
「当然よ!もし本当にドワーフが全てのことに関与しているのなら徹底的に問い詰めて責任を取らせてやるんだから!」
これからの方針を決めるため一度国の中へ戻ろうとすると衛兵四兄弟達が他の衛兵達と国を囲う壁の方で何か作業をしていた。
「どうしたんですか?」
「ああ、お前達か。また誰かが許可無しに周辺の木を切り倒していたんだ」
「お陰で壁にもたれ掛かってしまってその撤去に追われてるところだ」
四兄弟のサンスーとイワンが忌々しい表情で壁に掛かった木に視線を移す。まだ枝に葉が付いているため倒されてそう時間は経過していないようだ。
「見てください。ルミナスの森の入り口にあった木と同じように圧し折られています」
「何で木が折られたってことが分かるの?」
倒れた木の側には切り株があるのだが、子供であるため刃物なんて扱ったことがないリリーからすれば倒れている木がどうやって倒されたのか分からずそんな質問をする。
「じゃあ、この枝で試すね。ラピスさん、この枝を切ってみてください」
「こうかい?」
リリーの疑問に答えるようにエインは二本の枝を手に取り、まずはラピスにその内の一本を切らせる。
「ドワーフの人達はラピスさんみたいによく切れる道具を使ってこの枝みたいに大きな木を切るんだよ。でもこの木は…えい!」
切った枝とは対照的に残ったもう一本はエインが折ってみせる。
「ほら、切り口が全然違うでしょ?」
「本当だ。こっちはツルツルだけど、こっちはトゲトゲしてる…」
「あの木の切り口はトゲトゲしてるでしょ?だから切ったんじゃなくて折ったんだよ」
切った方は切り口が滑らかだが、折った方はささくれが出来ており、壁に掛かった木と切り株の断面は後者であることは一目瞭然だった。
「お〜…だから皆、折ったって言ってるんだね!」
「そうだよ!」
疑問が解消されてリリーは喜んでおり、エインも彼女の明るい表情を見て満足そうにしていた。
「…しかし圧し折ったとするのなら到底人間の仕業とは思えないな。もし折ったとするのならよほどの馬鹿力か巨大な身体の持ち主の仕業だな」
「巨大な身体の持ち主、もしかして…」
「気付いたようね」
シスカの言葉で何か考え込むエインは何かを言いかけそうになるが、聞き慣れない声だが同じことを考えていたであろう銀髪ツインテールが特徴的な十六歳ぐらいの少女が衛兵達の中から出てきた。
「あなたは?」
「控えろ、この方はキプロニアス王国の第一王女であるシーナ姫であるぞ!」
衛兵達が彼女に道を譲るかのように左右に分かれて膝をつき頭を下げながら紹介をする。
「皆、頭を上げて作業に戻ってちょうだい。それよりもあんた、エインって言ったかしら?」
「あ、そうですシーナ姫。それよりもさっきのは…」
「そうね。私もこの木を倒したのは巨大な身体の持ち主のモンスターだって言いたいのよ」
衛兵達を作業に戻し先程の台詞の意味を答えるシーナは木を圧し折ったのは巨大な身体のモンスターが原因だと述べる。
「珍しいな。証拠がなければ物事を断定しない国柄じゃなかったか?」
規律や法律に厳しと言うことは何事にも証拠や了承を必要としていることを指す。それは真実に辿り着いたり決断するまでそれ相応の時間を要するはずなのにシーナはあっさりと結論を語ったために物珍しそうにする。
「もちろんこれだけでモンスターの仕業と決め付ける訳じゃないわ。けどこんなに大きな木を倒せるとなったら人間じゃないだろうし、身体が大きいモンスターと言えばこの異世界にはたくさんいるからあり得なくもないわ」
もちろん証拠もなしに決め付けている訳では無かった。それでも大きな木を倒せるとなれば人間技ではないだろうし、この異世界のモンスターは身体が総じて大きいためあり得ない話ではなかった。
「確かにブラキオサウルスやドレッドノータスも草を食べるから…この辺の葉っぱを食べようとして圧し折ったとか」
「ブラ…それって城の窓からも見える、あの首の長いドラゴンのこと?」
「うん。あのモンスターのことだよ」
恐竜の名前を聞いたシーナは興味深くそのことをエインに訊ねる。
「へぇー!あんたそう言う名前付けてんのね!私も『ロングネックドラゴン』って命名してたけどあんたも同じことをしてたのね!」
「え…そう言う訳じゃ…」
「あたしね、この異世界のモンスターの生態には興味があるのよ!元の世界のモンスターはある程度は知ってたけど、この異世界のはどれもこれも初めて見るから興味が尽きないわ!」
よくは分からないがシーナはモンスターの生態に興味があり、特にこの異世界のモンスターは見たことがないためその話題になると興味津々でエインに詰め寄る。
「シーナ姫…あんまりお戯れが過ぎますよ?」
「あっ!キオナ姫…」
笑顔だが背後に絶対零度が似合いそうなキオナに話しかけられ慌てた様子でエインから離れるシーナ。
「キオナ、どうしたの?」
「これからバリオンに向かうのですよ。ようやく許可が降りて今日出向するのですよ」
よく見るとキオナの背後には前衛職の人間や冒険者はもちろん、キプロニアス王国の衛兵や冒険者も入り混じった編成となって待機していた。
「いよいよバリオンに向かうのね!あいつらとっちめてやるんだから!」
「トランよ、お主は留守番じゃ」
「えっ!?何でよ!」
このままカチコミでもするんじゃないかと言う様子のトランだったが、ソルラスから留守番を言い渡されて反論してくる。
「今回は話し合いとグランドレイクとの交渉をするだけじゃ。争いは出来るだけ避けたいところなのじゃ」
「そうねぇ〜…トランちゃんが行くとややこしいことになりそうだし…」
ただでさえ長い間対立していたため、トランが証拠もなしに決め付ければ話し合いも交渉も成立しないと考え留守番を言い渡したようだ。アレシアからも同じく同意されてトランはぐうの音も出なくなる。
「でも…あたしだって何であんなことになったか知りたいし…仮にあいつらがやったんじゃないってのなら確かめたいじゃない!」
しかしトランは確かに問い詰めるつもりではいたが、一番はドワーフが関与している・していないにしても何故故郷を追われたのかその真相を知りたがっていた。
「だからこそ話し合いをする必要がある。お主はまだドワーフに対して強い遺恨や偏見を残し過ぎている。そうすると彼らの機嫌を損ねてしまうだろうからな」
「それを言うんだったらこれまで対立して来たことは何だったの!産まれた時からドワーフと争い続けてそれを見てきて育ってきたのに!この異世界に転移してから勝手が色々変わったから協力が必要不可欠なのに!そう言う育て方をしてきたソルラス長老達にもそれが可能なんですか!?」
厳しい言われ方をしたトランは反論するようにこれまでドワーフとエルフの対立や因縁の中で育てた大人のエルフ達にそこまで言われる筋合いはないと反論する。
「トラン!あなたいい加減に…!」
「いや、待ちなさい…」
穏やかなアレシアだがさすがにそれは言い過ぎだと怒ろうとするがソルラスは止めてくる。
「トランよ。そこまで言うならお主が交渉するのだ」
「…!あたしが…?」
彼女も言い過ぎたとハッとなるもソルラスからの静かな言葉に息を呑む。
「トランもトランでこの異世界で生き抜くために何が必要か分かっていたのだ。それはどの異種族とも力を合わせることだ。それは長い間ドワーフと対立していた我々エルフも例外ではないはずだ」
弱肉強食が強調されたこの異世界で魔法とスキルが消失し、あらゆる常識が崩れ去ってしまった現在、自分達の対立も今は捨て去り力を合わせないとならない時期だとソルラスはトランの言葉からそう結論づける。
「しかし長老…彼女はまだ若い。とてもあのドワーフの長が相手にしてくれるとは…」
「だからこそ若い芽を摘まずに経験を積ませるのだ。いざと言う時は私も話し合いに参加する」
「そうね。話を聞いた私も立ち合い人になるわ。こう言う時こそキプロニアス王国の私がいないと始まらないわ!」
他のエルフ達が交渉決裂にならないか心配するも、そこは同じく長い間二種族の中立の立場を保っていたキプロニアス王国のシーナが取り持つことになった。
『ブオオオ…』
『グウウウ…!』
「わあっ!あれはまた見たことないモンスターね!頭にあんなにトゲがあるなんて!」
それから一時間後に各自準備を済ませた後に一同はいよいよバリオンに向けて出発をし、仲を取り持つことになったシーナは道中でスティラコサウルスの群れを見つけて興奮していた。
「あれはスティラコサウルスですよ」
「そうなの?スパイクホーンって名前にしてたけど、それも書き記しておきましょう」
名前を聞いたシーナは自作の本らしき物にそう記入していた。
「それはシーナ姫が作ったんですか?」
「そうよ。この辺のモンスターは大体は書き記したかしら?」
指摘されて嬉しくなったのかシーナはかなり書き留めたであろう中身をエインに見せてくる。
「…エイン、随分とシーナ姫と仲がよろしいことで?」
「そうかな?」
二人がそんな話をする度に仲間達は場が和むものの、キオナはその逆に何処か穏やかではない感情で微笑んでおり、エインはそのことに全く気付いていなかった。
「姫様…エインはずっと人と離れて生活していましたからそう言うのは疎いのかと」
「あらリオーネ?何を言っているのかしら?私は怒っていませんよ?」
(((いや、目が怒ってるよ…)))
リオーネはフォローしたつもりだがキオナは笑顔で王族特有の威厳ある怒りを見せたために、リオーネは少し涙目になり他の仲間達も気圧される。
「それにしてもシーナ姫はモンスターが好きなんですね」
「規律だの法律だの色々厳しい環境で育てられたからね。あんな風に自由に生きてても何処か法則やルールがあるようにも思えて少し羨ましく思ってね」
元の世界でもだったがモンスターは人間と違い理性よりも本能で動いている。それは人間の定めた法律や規則を守らず自由気ままに生きられることを意味している。
色々厳しい王国の王女であるため、自由に生きるモンスターのことを羨ましく思う節もあり、野生で生きていても何かしらのルールがあるようにも思えたこともシーナが興味を持った要因だろう。
「にしても少し変ね。この辺では見かけないモンスターを最近よく見かけるのよね」
「それどう言うことですか?」
「さっきのスティラコサウルス?ってのもだけどさ、元々この辺にはいないモンスターなのよ」
シーナが言うにはスティラコサウルスはこの付近には生息していないらしく、何故か最近はよく見るようになったと疑問に思っていた。
『ブルルル…』
「あら、馬ですわね。モンスター以外の生き物がいるとホッとしますね」
草原には馬もいた。この異世界に来てから見たことないモンスターばかり目にしてきた分、家畜としてよく知られている馬を見て少しホッとなる。
「そうですね。しかし前半分が縞模様だなんて珍しいですね」
「あれは『クアッガ』だよ」
しかし当然その馬はただの馬ではなくクアッガと言う動物であり、見た感じは後ろ半分の模様がないシマウマだった。
「おかしいわね…あれもこの辺では見かけない馬ね」
『…クーアッハ!』
「わっ!何よ突然…!?」
するとクアッガの一頭が鳴き出すと他のクアッガ達は一斉に別方向へと走り出すため驚いてしまう。しかし更に驚くことに地面がグラグラと揺れ始める。
「何だ!地震か!?」
「いや、もしかしてこれって…!?」
キプロニアス王国の冒険者達は地震ではないかと警戒するも、もはやこの揺れはそうではないとグランドレイクの人間達は自信を持って言えた。そして揺れが大きくなると巨大な影が森の中から出てきた。
『ウオオオン…』
『ウルルル…』
「うおっ!タイラントドラゴンかと思ってたけど…!?」
「首の長いドラゴンだ!?」
丘の地平線からヌッと長い首が現れ、その直後にそれに見合った太い胴体に首よりもずっと長い尻尾をユラユラと揺らしながら、大木顔負けの脚で地震のような行進をしてくる。
ブラキオサウルスやドレッドノータスと同じく巨大な身体を持つ竜脚類であり、しかも数頭の群れを成して森の中から草原へと出てくる。
「これは…何ですか…!?」
「『ディプロドクス』だよ!」
キプロニアス王国の冒険者達はもちろんだが、相変わらず竜脚類の大きさには度肝を抜かれてしまう。そんな彼らを尻目にディプロドクス達は彼らの前で歩みを止めるのだった。
「スゴいわ!これもこの辺では見かけないモンスターよ!」
「あれ…何だか少し違うような?」
「何がよ?」
シーナは興奮しつつも早速ディプロドクスのことを自作の本に書き留めており、ルシアンはディプロドクスの容姿を見てとある違和感に気が付く。
「海で出会ったのはヤケに背が高く見えたけど、このドラゴンはそうは見えないんだけど」
「そう言えば…前会ったのは上に首が伸びてたけど、こいつは首が横に伸びてるじゃん」
ルシアンの指摘でエリーシャはディプロドクスの首がドレッドノータスの首と比べて横に水平に伸びていることに気が付く。
「恐らく進化の過程で首の伸び方が変わったのでしょう。モンスターにもゴブリンとホブゴブリンなんてものいましたし、ドラゴンにもワイバーンやリヴァイアサンなど亜種や派生種族がいましたからね」
元の世界でも似たような見た目でありながら別種や特定の進化をしたモンスターも多数見受けられたため、この異世界でもないこともないのだろうとラスコが語る。
「更に興味深いわね!それにしても何で見たことがないモンスターがこんなにここにいるのかしら?」
「……」
「エイン、どうしたのですか?」
「何だかこの辺のモンスター達は…何処か怯えてるような気がする」
本を纏めているシーナを尻目にエインは先程までのモンスター達が何処か恐怖心を抱えているようだとキオナに告げる。
「いずれにしてもここを通り抜けないといけないのう。踏まれないように通り抜けるのじゃぞ」
『ウオオオ…』
ソルラスが警告すると大木のような脚が地響きを立てて地面にめり込み大きな穴が空いていた。あんなのに踏まれたら一貫の終わりだと言うのは見て分かった。
「頼むから今脚を動かすなよ…」
「大人しいとは言え油断は出来ないと言うことだな」
あんなの見せられた後のためドランもおっかなびっくりで脚の合間を通り抜け、シスカもディプロドクスの様子を見ながら通り抜けていく。
「姫様、お気を付けください」
「はい。あら、雷かしら?」
「いえ、空は快晴ですが…」
キオナはリオーネに手を引いて貰いながらディプロドクスの腹部を通り抜けていると、上からゴロゴロと言う雷に似た音がしてくるのを聞きつける。
「ディプロドクスのお腹から聞こえてくるよ」
「お腹でも壊したのでしょうか?」
音はディプロドクスのお腹から聞こえており、人間がお腹を壊した時の音に似ているためそうなのかと考え込む。
「どうなってんだこれ?」
「おい!どつくなよ!?」
興味本位でかリュカがディプロドクスのお腹を棒で突っついており、大人しいのにわざわざ刺激するなとマーキーが慌てて止めに入る。
『ブオオオ〜!』
「バカ野郎!?怒ったじゃねぇか!?」
「え、あれくらいで!?」
突然ディプロドクスが船の警笛に似た野太い鳴き声を発し始めたのだ。お腹が痛い時に突かれたら誰だって怒るのは当然だろう。
『ブオオオオ〜!』
「おわあっ!?他の奴らも暴れ出した!?」
それを聞いた他のディプロドクス達も同じく鳴き出し暴れ始める。
『グオオオオ〜!』
「それにこんなに身体がデカくて長いのでは…」
「破壊する範囲がめちゃくちゃ広いじゃん!?うわっ!?」
「こんなのどうしたら…ひゃあ!?」
ディプロドクスは身体が大きく首と尻尾が横に長いため、単に旋回するだけでも振り回した尻尾が辺りを破壊し、おまけに一同は身体の下にいるため巻き込まれないように逃げ惑うしかなかった。
「お前がこいつらの腹を殴るからだぞ!」
「あれくらいで怒るか普通!?」
「待ってください!どうやら違うみたいです!?」
リュカとマーキーが言い争う中でエインはディプロドクスの暴走は他にあると草原を指差す。
『ガルルル…!』
「キラーパンサー!?」
草原の中から肉食哺乳類が顔を覗かせ、群れを成してディプロドクス達の方へと近寄ってくる。その見た目は元の世界のヒョウのようなモンスターのキラーパンサーによく似ていた。
『ガルアアア!』
『ガオオオ!』
「キラーパンサーに似ていますが…何だあの長い牙は!?」
草原から出てきてその全貌が明らかになるが、一番目に付いたのは元の世界のキラーパンサーでは見られなかった長くカーブした鋭い二本の牙だった。
「あれは…『スミロドン』ですよ!」
その正体は長い犬歯を持つことから『サーベルタイガー』とも呼ばれている『スミロドン』だった。
『グルルル…!』
『ブオオオ…!』
「おいおい…まさかこいつらこんなデカい相手に挑む気か!?」
大勢を低くして唸りながら近付くスミロドンにディプロドクスは警笛のような鳴き声を発して足踏みをしていた。
対するスミロドンは人間からすれば大きいがディプロドクスからすれば大型の猫ぐらいにしか見えないだろうがお互いに引く様子はないようだ。
「いずれにしても巻き込まれると危険だ!ここから離れるぞ!」
『グルアアア!』
『ブオオオ!』
シスカが退避を勧告するもそれを合図にスミロドンは走って来て、ディプロドクスは一時的に二本脚で立ち上がり威嚇してくる。
「まさかこんなにデカいのに立ち上がるとは…!?」
「危ない!?」
「え…ぎゃあああ!?」
キプロニアス王国の冒険者の何人かは二本脚で立ち上がるディプロドクスに圧巻されていると、上から丸太のような脚が降りてきてそれが最後の光景となってしまう。
「ん?これ何の音?」
「風を切るような音が…」
「ラピスさん!キオナ!伏せて!?」
ディプロドクスの腹の下で逃げているとヒュンヒュンと言う妙な音がしたと思っていたら、前を走っていたエインが警告して伏せたために後続の二人も慌てて伏せると鞭のような物が飛んできた。
『ギャイン!?』
「今のは…!?」
鞭のような物はキオナ達には当たらず、周囲にいたスミロドンの一体に命中し、牙や骨が折れる音と共に弾き飛ばされてしまう。
『ブオオオ〜!』
『ウオオオン!』
「ディプロドクスの尻尾だよ!」
「まるで巨人の鞭ね!」
ヒュンヒュンと言う音が辺りですると思えば、ディプロドクス達があの長い尻尾を振り回しており、巨大であるがためにシーナの言うように巨人の鞭のようだった。
『ギャイ!?』
「ぐぎゃあああ!?」
『グガア!?』
「かはっ…!?あたしの腕がぁ…!?」
そのディプロドクスの尻尾攻撃はスミロドンはもちろんだが運悪く側にいた人間達も巻き込み、いとも容易く空へと弾き飛ばしたり、掠っただけで腕や足を圧し折ったり切断してしまう。
「だが、厄介なことになったぞ!あいつらはキラーパンサーとの小競り合いに忙しくて私達のことを気に掛けていないらしい!」
「早くここから離れるのだ!」
踏み潰されることもだがディプロドクスの尻尾から繰り出される攻撃も、人間からすればひとたまりもない即死攻撃そのものであるため早く退避しないと全滅だってあり得るだろう。
「くそ…仲間がヤラれた…!?」
「そんな…何で私の友達が…!?」
「嘆いている場合じゃないわ!キラーパンサーの方が標的を私達に変えたわよ!」
『グガア!』
『ガルルル…!』
全体的にはまだディプロドクスに挑んでいるが、何頭かは嘆いているキプロニアス王国の冒険者達を狙って迫ってくる。
「とにかく逃げ…っ!」
「どうした…なっ!?」
「そんな…これは…!?」
逃げようとするが目の前に信じられない物があったことに一同は驚愕すると同時に凍りつく。
「ディプロドクスが…殺されてる…!?」
なんと一同の目の前には何者かに仕留められたディプロドクスが横たわっており、耳を澄ますと影から不気味な咀嚼音が聞こえてくる。
『…!ゴルルル…!』
『グルルル…!』
異変に気が付いたのか咀嚼音の主が姿を現す。目の上にトサカのような突起物に、長い前脚に三本の指を持つ肉食恐竜だった。
「まさかこのドラゴンがあの大きな首長ドラゴンを仕留めたのですか…!?」
「『アロサウルス』だよ!」
『グガアアアアア!』
餌は足りているが縄張りを脅かす外敵だと判断したか、或いは食事の邪魔をされたのが気に食わなかったかは不明だがアロサウルス達は口の周りを血で真っ赤に染めてエイン達に近寄ってくる。




