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強者の責任

大理石とミスリルによって高く作られた魔術国家ウィルマ。その国境の壁にも負けない、荘厳とした立派な壁が建てられた国があり、その見た目は許可なき余所者を近寄らせない様子だった。


「見張りを始める!右よし!」


「左よし!」


それでも顔つきがそっくりな四人の衛兵が行進しながら外にいるモンスターや許可なく近寄る不届き者が近付かないように壁の中に埋め込まれた見張り台に立ち、槍や弓矢を構えて無断で近寄る者を威嚇するようにそれぞれの方角を警戒していた。


「後方よし!」


「前方…許可のない人影を確認!」


このまま何事もなく見張りが終われば良いと思っていたら招かれざる客が前方から来たことを確認して知らせてくる。


「何者だ!止まれ!」


「ここは我らキプロニアス王国の門前!許可なく通るのはまかりならん!」


影形からして野蛮なモンスターではなく話が通じる人間となれば城壁の上から武器を構えながら警告する。


「無礼だぞ!ここに仰せられるのはかの英雄王国グランドレイクの王女!キオナ姫様であらせられるぞ!」


いきなり武器を構えてキオを威嚇され、衛兵達に食って掛かったのはリオーネ。


「王女であろうと許可なく入ることは出来ませぬ!」


「何よりも王女と言う証や証拠はあるのですか!」


「そもそも王女であるのならばここは許可なく立ち入ることは禁止されていると存じているはずだ!」


しかし規律や階級を重んじるキプロニアス王国だからこそ、相手が本当にグランドレイクの王女かどうか不明だし、それ以前に国に入る許可を得てないのだから門前払いをしようとしていた。


「貴様ら!ああ言えばこう言いおって!」


「リオーネ!止めなさい!」


やはりリオーネはキオナのことになると熱くなりやすく、キオナが止めない限り剣を抜いて襲い掛かろうと言う雰囲気だった。


「これじゃあキプロニアス王国に入れないじゃん」


「もうすぐ日が暮れるし、国の中に入らないと…」


もうだいぶ日が傾いており僅かだが不気味な唸り声も聞こえてきて、早く国の中に入りたいのが心情だった。すると誰かがキオナの前に歩み出て壁の上の衛兵達を見上げる。


「私はエルフの里の長ソルラス!バンシアナ王に火急の用のために謁見に参った!」


「エルフの里の長でも許可なく入ることは…」


「待て。あの長い(ひげ)に出で立ち…何度か見たことがあるが間違いない」


大声で呼び掛けるソルラスに対しても冷たい視線を向けるも、その内の一人が顔をよく知っているのかソルラス本人であると考え込む。


「エルフの里の長かどうかも怪しいのに許可もなしに王に突然の訪問をしなければいけないとは何用か!場合によっては即刻立ち去って貰うぞ!」


「いや、待てサンスー。俺は何度かエルフの長は見たことがある。ちょっと待ってろ」


変わらず許可や証明が出来なければ追い払う腹積もりだったが、衛兵の一人が見覚えがあったらしく、もしエルフの長が本当ならば王にも一応話を通す必要があるため三人を残して国内へと向かう。


「イワン兄さん、どうでしたか?」


「今日この国に訪れる予定はなかったが、エルフの長と言うのはどうやら本当らしい。通行履歴の写真とも一致する」


顔付きがよく似ていると思っていたらこの四人は兄弟らしく、長男であるイワンはソルラスの写真が載った書類を手に戻って来た。


「それで王はなんと?」


「このような事態になっているため、王も謁見を許すそうだ。念の為検査は厳重にな」


話にあったように厳格ではあるものの融通が利かないわけでもないため、火急の用とあらば検査さえ済ませれば通してくれるようだ。


「はぁ〜…あんなに体を触られるとは思わなかったし」


「仕方ないよ。私達が何者で何を持っているか分からないからね。まあ、女の人が調べてくれたのが幸いだったけどね」


正門を通らせて貰うも、直後に所持品検査のために体を触られたことにエリーシャはゲンナリしていた。唯一の救いは女子達を検査してくれたのが女性の衛兵だったことだ。


「はう…恥ずかしかった」


「ラピスさんって恥ずかしがり屋なんですね?」


もちろん男子達は男性の衛兵が検査したのだが、その中でも何故かラピスは恥ずかしそうにしていた。


「では会わせてやろう。付いてこい」


「他の者達もだ。許可なく彷徨(うろつ)かれても困るからな。行進始め!」


衛兵四人兄弟は統率の取れた行進で一同を先導し始める。


「この肉と魚、食べられる保証や許可はあるんですか?」


「問題ありません。事前に調査や実験を行い、売り出す許可も得ました」


「もうすぐ日没になります!お子さんはお家にお帰りくださーい!」


「もうそんな時間?門限になっちゃうよ!」


「ルールには厳しいとは言ってたけど確かにこれはスゴいですね」


案内される道中でキプロニアス王国の人々が規律だけでなく、時間を厳守している光景がレイの目に入る。


「おい、水源からモンスターが迷い込んでこの近くまで来ているそうだ」


「ギルドから撃退依頼が来ていた。行くぞ」


「それだけでありませんわ。我が国と比べてギルドの運営が盤石(ばんじゃく)ですわね」


ルールや時間に厳格なのもだが、この国ではギルドの活動も盛んだった。


「ギルドは国営もしくは他国同士で統括されていますからね。この国は後者で他のギルドに対してもルールが厳しい分、運営を円滑に進められたのでしょうね」


厳格だと多少面倒くさい部分はあるものの、その分依頼も報酬も確約されるため、異世界に置いてギルドの運営はグランドレイクより発展しているのだろう。


「そう言えばあの国にはギルドそのものがなかったけど何でだ?」


「それは我が国が英雄の国と言われているからだ。英雄がおいそれとギルドのクエストに介入する訳にもいかないだろ」


元の世界ではグランドレイクの英雄達は注目視されていたが、それに見合った実力を持つためギルドのクエストの報酬や実績を欲しいがままにするため、不平等であると他の国から指摘されたためあの国にはギルド自体がないのだ。


「そう言うことですよ。だからエインが知らなくても何も不思議は…」


「…そうだね」


流れるようにエインの様子を見るつもりで語りかけるも彼はまだ俯いたままだった。


ここへ来る道中で連れ去られたエルフの子供達を助けるためとは言え、人攫い達の腕や頭を生体電流(パルス)を纏わせた石の投擲(とうてき)によって粉砕し命を奪ってしまったことにエインは負い目を感じていたのだ。


「お兄ちゃん…」


『ギィ…』


「エイン…元気を出してください」


「そうよ。あんたはただでさえパッとしないのにそんなに落ち込んだら姿が見えなくなっちゃうわよ?」


リリーもフォーク達もそんなエインを心配しており、キオナはもちろんトランも何とか励まそうとするも彼の表情は晴れることはなかった。


「着いたぞ。念の為言っておくが、お前達は許可がないのにも関わらず王の謁見を許されたのだからな。無礼のないようにな」


今回は顔馴染みで通してくれたが、本来ならば許されないため衛兵四兄弟は釘を刺すように睨みを利かしながら王宮への扉を開く。


敵兵の侵入を防ぐように作られたやたらに長い廊下や階段を昇り降りしたり、衛兵が守りを固めるように整列する通路を通り抜けた後に大きな扉を開ける。


そこにはソルラスほどでないにせよ立派な(ひげ)を生やし、軍服に似た立派な服を着こなし正しく規律を厳守する国の威厳ある王が玉座に腰掛けこちらを見ていた。


「バンシアナ国王…突然の訪問をお許しください」


「ソルラスか。あの頑固者ドワーフの長と比べて柔軟性に優れ、どっしりと腰を構えるお主が森の外へ出て火急の用とは…やはりこの異世界にはお主達も苦労していると見えるな」


長い間ドワーフとエルフの争いの仲裁をしてきただけあって、バンシアナはソルラスとはもちろんドワーフの長とも面識があり、親しい間柄のためか多少砕けた様子で話してくる。


「お主もドワーフの長と比べれば、この国の規律は熟知しているはずだ。それほどまでに私に会いたいとは何があったか説明して貰おうか」


「仰せのままに…」


相手がこの国の絶対的なルールを知っているからこそ、好奇心から火急の用が何なのかと知りたい様子のバンシアナにソルラスは包み隠さずに全てを話した。


「ほう…お主達の森にドラゴンが入り込み、追われる形でここまで来たのか。里のエルフが全員と言う割には数が随分と少ないようだが?」


「先に避難させた者達が人攫いに襲われたようで…」


「なるほど…言いたいことは分かったが証拠はあるのか?」


内容を聞いていたバンシアナは先程の好奇心から一転して人攫いにエルフが攫われた証拠はあるのかと冷淡に告げてきた。


「証拠って…何よ?!でなきゃあたし達の仲間のエルフが何でこの場にいないって思ってるのよ!?」


しかし証拠を求めると言うことは人攫いに襲われたことを疑っているも同然でありトランは気に食わず食って掛かる。だが、無礼者と言わんばかりに衛兵四兄弟が文字通り矛先を向けてくる。


「王の前で無礼であるぞ!」


「そもそも人攫いに襲われたのではなく、モンスターや仲間に襲われたりしたと言うケースもある!」


「或いは王の命を狙うために何処かに潜ませている可能性もある!」


「それに未知の病原菌を持っている可能性も捨て切れないと言うのにここへ案内したと言うのに…恥を知れ!」


四兄弟は王の顔馴染みであるソルラスだけならともかく、トラン達を通すことに懐疑的だったがやはり案内したのは間違いだったとジリジリと矛先を近付ける。


()さぬか。まだ幼いゆえの癇癪(かんしゃく)だろう。しかしそこの娘よ、襲われたと言うのなら大なり小なりの証拠はあるのか?」 


そこは王としての余裕があるからかトランの言葉にも耳を貸すと同時に証拠を提示させようとする。


「それなら…ここにいる子達が証人よ!さっきまで人攫いに無理矢理連れ去られて危うくモンスターの囮にされそうになったんだから!」


「うん…怖かった」


「ドラゴンに食べられそうになった…」


証拠はないが事件の証人はいた。あの時人攫いの手によって連れ去られていたエルフの子供達は、思い出すのも辛いと言う様子でハイライトの消えた目で奥歯をカチカチさせながら一言一句話していた。


「…嘘を言っているようには見えん。が、口裏を合わせている可能性も捨て切れない」


そんな子供達の様子を見て多少は確信を得たかもしれないが、それでも裏で何かしら打ち合わせをしていたと疑っており証言として扱うことは出来ないと冷淡に告げる。


「ちょっと!幾ら何でもこの子達の言葉を疑うの!?」


「無礼者!子供の発言は雲のように気まぐれだ!」


「だからこそ証言として扱えないのだ!」


「証拠があれば良いんですね?」


再び衛兵四兄弟がトランを矛先で威嚇する中でカレンの夫のエルフが証拠を提言するために懐に手を伸ばす。


「これは私の弟の耳です。人攫いの同業者なる者達が仲間のエルフの何人かを殺害したらしく、これはここにいる子達を連れ去った人攫い達が持っていた物です」


「…なるほど、作り物でもないし血も確かに滴っている。どうやら言っていることは本当のようだな」


取り出したのは自身の弟の形見であるイヤリング付きのエルフの耳だった。あの後でせめてもの餞別(せんべつ)として保管していたが、そのお陰でバンシアナを納得させることが出来た。


「許せ。我らは法や規律を遵守するために公私混同は一番の御法度(ごはっと)とされているのだ」


証拠に納得し証言を信じたバンシアナは謝罪するのだが、規律を守るためには私情を挟む訳にはいかないために敢えて冷淡に振る舞ったと告げてくる。


「とにかくこれで私達のことを信用して貰えましたか?」


「もちろんですともキオナ姫…そなた達の噂はかねがね聞いております。よくぞご無事で…」


冷めた様子から穏やかな笑みを浮かべながらキオナに深々と頭を下げるバンシアナ。


「エルフの里がそんなに大変なことになっているとは気の毒な話だ。しかし森を切り開いたのはドワーフと言うのは私は考え難いのだ」


「何故ですか!森を切り開くのはドワーフしかいないじゃないですか!あいつらのせいであたし達は故郷を…!?」


バンシアナはエルフの里の境遇を気の毒に思うも、森が切り開かれたのはドワーフの仕業ではないと告げてくるもトランは到底聞き入れることは出来なかった。


「何もドワーフに限った話ではない。それに実のところ我が国の木々も何者かに無許可で倒される事案が続いていてな」


「この国も同じように木を切られていたのですか?」


「うむ、調べてみてもそれこそドワーフはもちろん人が押し入った形跡がなくてな。それに調べてみると木は切り倒されたのではなく()()()()()ていたのだ。幾らドワーフでもそんな力技は出来ないはずだ」


エルフの里と同じくキプロニアス王国でも木々が倒されていたことで調査を進めていた。


もしドワーフやそれ以外の人物が木々を切り倒すならば斧やノコギリなどの道具を使うのだろうが、調べた木々は全て切断されたと言うよりも力任せに圧し折られていた。


つまり木は切られて倒されたのではなく物理的な力で倒されていたと突き止めたのだ。


「つまり犯人はドワーフではないと言うことですか?」


「けど、それはこの国ことであたし達の里の森は…」


「あの…実は言われてみて思い出したのですが、確かに森の入り口の木々は切られたと言うよりも押し倒された感じでした」


森の入り口近辺を調査していた唯一の生き残りであるマリーは思い出したように木々の状態を話す。


「それにですよ。物理的に木々を道具も無しに圧し折るなんて並大抵の人間には出来ません。とするのならば相手は人間でない可能性が高いですね」


「その通りだ。道具や人の形跡がないのはそもそも()()()()()可能性があるからな」


切るのではなく圧し折るのならばハンマーやモーニングスターでも出来なくもないだろうが、そんなのは今や失われた魔法やスキルでも使わない限りは不可能だ。


とすると残るとすれば自身の肉体のみで圧し折る必要があるが、そんなことが出来るのは少なくとも人間の仕業ではないことは確かだろう。


「とは言えこれは状況証拠でしかない。近い内にドワーフのことも調べる必要があるだろう」


「私達もドワーフの国であるバリオンに行く必要があります」


法や規律に厳しいだけあって今ある証拠ではドワーフが有罪かどうか判別出来ないため、バンシアナはバリオンに向かい真実を突き止めるつもりのようだ。しかしながらバリオンにはこちらも用があるためそれに便乗することとなる。


「とにかく長旅ご苦労であった。疑ってしまったお詫びと言ってはなんだが暫くはこの国で休むと良い」


「感謝致します」


いずれにしても滞在を王から認められたことでひとまずは危険な外で野宿することはなくなった。キオナはスカートの裾を摘んでお淑やかにお辞儀する。


「一時はどうなるかと思ったよ」


「けどまさかドワーフの仕業じゃなかったとはな」


衛兵四兄弟に王宮から宿場町に案内される道中でレイとドランが森を切り開いたのがドワーフでないことを話題にしていた。


「私達エルフは敵対する余り大事なことを見落としていたかもしれませんね」


「まだ分からないわよ!王様の言う通り事実確認が必要よ!」


里を追いやられたのは長年敵対していたドワーフではなかったことにアレシアは考えを改めるも、トランはここぞとばかりに決め付けるのはまだ早いと話す。


「とにかく今は体を休めましょう。カレンさんも今は赤ちゃんのためにも…」


「そうさせて貰います。さあ、良い子ね…」


産まれたばかりなのにアクロカントサウルスに襲われそうになったり、自分より遥かに大きなブラキオサウルスと出会ったりとエルフの赤ちゃんに取っては初日から色々あり過ぎたのだろう、カレンの腕の中で安らかな寝息を立てていた。


赤ちゃんを腕に抱いてカレン夫妻は先に宿場町の宿の一部屋に泊まるためにその場を後にする。


「お兄ちゃん…」


「あ!ダメだよ!?」


リリーは手を繋ごうとするが、人を傷つけてしまうと思ったエインは大声を発して大慌てで手を引き、彼女も拒絶されて思わず手を引っ込める。


「僕は人を殺したんだ…君は僕に近寄っちゃダメだ…」


「お兄ちゃん…」


本当の兄妹であることはまだ明かしていないが、実の兄が人を殺したことを知ればきっと悲しむと考えたエインはこのまま距離を置こうと考えていた。


「おい、こっちだ」


「うわっ!シスカさん…!?」


ところが距離を置くどころか肩を鷲掴みにして何処かに引きずって行く者がいた。それはキャラバンの護衛を務めていたシスカであり、エインの肩を掴んで王宮を後にし、国の外に通ずる門の方へとズカズカと連れて行く。


「止まれ。許可なく外に出ることは禁じられている」


「ましてや獰猛なモンスターがいては尚更だ」


怪しいと思ったのか衛兵四兄弟の内の二人が先回りして槍を交差させて通行止めしてくる。許可なく国に入るのは禁止だが、逆に許可なく外に出ることも禁じているとはさすがとしか言いようがない。


「悪いがこいつのためだ。退いて貰おう」


「何を勝手な…おわっ!?」


「貴様…うわっ!?」


一人がシスカの肩を掴もうとしたが逆に腕を掴まれたと思ったらその場でグルリと身体が一回転し、それを見た兄弟が槍を持ち直そうとするが槍の柄と握り手を鷲掴みにされ一本背負いされていた。


「貴様!ジニーとフォーシに何をする!」


「これは執行妨害にあたるぞ!」


衛兵四兄弟の長男イワンとサンスーが槍を構えながら突進して来たことにシスカは舌打ちをし、エインを連れて正門の外へと出てしまう。


「お前はいつまでもそうしてる気だ。たかが人攫い共を殺したぐらいで」


「たかがって…そんな!人の命を奪ったのに…」


辺りは夕暮れになり、ここにいては危険なのではと戸惑うエインを乱暴に突き飛ばし、シスカは彼が今一番気にしていることを些細(ささい)なことだと吐き捨てる。


「いいか、この世界では一人の死をいちいち気にしていては次に失うのは己の命…つまりお前の命かもしれんのだぞ」


この異世界は原始的であるためか弱肉強食が最も強調されており、一人の死はさほど大きな問題ではないと述べてくる。


「…誰かが死んでしまうのなら僕は…」


「自分が死ねば良いと思っているのか?そんなのはお前の自己満足でしかない!思い上がるな!」


「誰かが死ぬのが嫌だから…それなら僕の命くらい何ともないよ!」


それでもエインは誰かが死ぬくらいなら自己犠牲を選ぶものの、シスカは声を荒らげて思いを真っ向から否定したが、怒鳴られるのは元の世界でも慣れていたエインは自分の思いをそれでも伝え続ける。


「死んでしまうのが嫌なら戦え!もしもお前が死んでも、この異世界のモンスターは止まらない!最悪お前がようやく手に入れた大切な者が奪われてしまうかもしれないんだぞ!」


「僕が大切に思っていても…その人が本当にそう思っているかどうかは…」


確かに大切な人はたくさん出来たかもしれないが、それでも自分のことを大切な存在か思ってくれるかどうかなんて長い間蔑まれていたエインには分からないし知るのがとても恐ろしかった。


「それ以前にお前の心配はあまりにも下らな過ぎる」


「それはどう言う…」


「少なくとも私やキオナ姫達はお前のことを大切に思っているからだ」


分かりきっていたとは言え、傷口に塩を塗るかのように下らないと言われたことにエインもムッとした様子を浮かべるも、彼女は怒鳴っていた時と違い哀れむ目線を向けていた。


「イーロスの街でお前は自分を過小評価してると言っていたが、周囲の人間の好意が分からないまでとは…」


「それは…僕が…使える存在だからじゃ…」


エインがこれまでの長い時間を経ても、心の奥底では人のことを信用出来ない、或いは自分を都合の良い道具として見ていないのではと思い込んでいるのを察したシスカは思わず哀れみの視線を向けたのだ。


「お前を使える道具として扱っているからと言いたいのか?それ以上だ」


「それ以上…って?」


「ずっと蔑まれたことでよく分からないだろうが…道具なんかじゃない、お前は私やあいつらの大事な仲間…大切な存在だと言うことだ」


怒鳴った時もだがシスカの言葉の裏には何処か優しさや思いやりが含まれていて、エインの心の中に深く響いてくるのだった。


「でもやっぱり僕は…人を殺してしまったんですよ?今度はその大切な人を傷つけてしまうかも…」


励ましてくれるのは嬉しい。だが、人を殺してしまった事実は消えないし自分のこの力で最悪大切な人を傷つけてしまうでのはと恐れていた。


「元の世界でも敵対する人間…盗賊や山賊と出会った場合は時として殺める場合もある。私も大勢人の命を奪ったんだ」


シスカはエインの頭に手を置いて微笑みつつも、何処か寂しげに自分だけが負い目を感じることはないと語りかける。


「それにお前はその目覚めた力で大切な人を傷つけることはない。お前はこんなにも優しいんだ。ただでさえ人を傷つけてしまうのが怖いと思っているのなら決してそれはないだろう」


優しく思いやりがあるからこそ自分の力で人を傷つけないかと不安に思うのなら、まず傷つけることはないだろうと勇気付けられエインは胸が熱くなる。


「それでもお前は自身の力に責任を持つ必要がある」


「責任…?」


「今はよく分からないだろうが、きっと分かる時が来る。簡単に言えば力を持つ者はその力を正しく使い、大切な人を守り通すことがお前の責任だ」


まだ九歳であるエインに責任なんて言葉の意味はよく分からないだろうが、力に目覚めたのならばそれ相応のやるべきことをやる必要があると激励するのだった。


「僕は…僕のことを大切に思ってくれる人を…大切な人を守りたい。でも、どうしたら…」


「それはこれから教える。お前のその力の使い方はもちろん、必要なことはある程度教えるつもりだ」


責任が大切な人を守りたいと言うが、既にその気持ちはあるが実際はどうしたら良いか分からないでいたがそこはシスカが教えてくれると言う。


「お兄ちゃん〜!お兄ちゃん〜!」


「リリーちゃん?」


エインを追いかけて来たのだろう。リリーの必死の呼び声が聞こえてきた。


「お兄ちゃん達…何処に行ったんだろう?」


『ギァ〜…?』


シスカが衛兵四兄弟を倒して無断で外出したために騒ぎが大きくなり、リリーとゴンは得てせずエインを追いかける余り国の外に出てしまったことに気付かなかった。


「あれ、他の皆もいない…?」


ここでようやく周りに親しい人間がいないことに気が付き、夜の草原にゴンと共に一人きりだと言わんばかりに不気味な風が吹いてリリーは次第に不安になってくる。すると近くの茂みでガサガサと音がしてくる。


「お兄ちゃん…?」


『…!ギァ〜!』


恐る恐る声を掛けるもゴンは血の匂いを嗅ぎつけて尻尾のハンマーを地面に叩き付けて威嚇していた。


『クアアア!』


『ケエエエ!』


「きゃあああ!?」


人間の頭一つ抜きん出た恐ろしい鳥が不気味な声を発しながらリリーに近寄ってくる。


「今のはリリーちゃんの!?」


「まさか追いかけて来たのか!?」


悪い予感はしていたが悲鳴が聞こえたことに二人は急いでリリーの元へ急ごうとするが、辺りはすっかり暗くなり周りがよく見えなかった。


「マズいな…この暗さじゃよく探せないな。おまけにあの子の身長じゃ草原でも隠れる場所はたくさんある!」


幾らベテランの戦士のシスカと言えども暗闇では視界が通用しにくく、おまけに草原と言ってもリリーよりも背の高い植物が生えているため見つけるのは容易ではない。


「リリーちゃんを助けるためには…シスカさん、少し静かにしてて!」


視力が頼れないとなればエインはその場に膝をつき、目を閉じて周囲の音に耳を傾ける。


雄大に広がる草原に潜むモンスターや障害物、そこで動くあらゆる物体の情報がエインの脳内に立体的に伝わってくる。


「…あそこだ!」


「よし!」


その中で子供の姿を捉えたエインはその方向へ走り出しシスカを誘導する。


「はわわ…!?」


『ギァ!ギァ〜!』


「いた!リリーちゃん!」


およそ十五メートルほど先に腰を抜かしたリリーと尻尾のハンマーで威嚇しているゴンが暗闇の中で何とか見えてくる。しかしその側には巨大な鳥のシルエットも見えていた。


『クアアア!』


『ケエエエ!』


「海岸にいたあの時のオバケ鳥か?」


「ううん、あれは『フォルスラコス』だよ!」


見た目はディアトリマに似ていたが身体のサイズと(くちばし)が一回り小さく、名前も異なるため全くの別種だった。


「エイン、ここからだとリリーの所まで間に合わない…今こそあれを使うべきだ」


「あれを…」


「大切な人を…守れ!」


「リリーちゃん!伏せて!」


あれとは生体電流を纏った後に投擲をすることで投げられた物体の威力と速度を上げる技のことだ。最初は躊躇(ためら)うもののシスカから再び激励をされ、今こそ責任を果たすべきだと考えたエインは石を拾い上げ生体電流を纏いリリーに警告する。


「その子に…手を出しちゃダメー!」


『ケエエエ!?』


「ひゃあ!?」


過電圧になっていたのか投げられた石は目の前で爆ぜ、突然の閃光に襲おうと首を持ち上げたフォルスラコスも、ゴンと共にその場に伏せていたリリーの目を眩ませる。


『クアアア!?』


『ケエエエ…!?』


思わぬ反撃にフォルスラコスはその場から逃げ出していき、エインはその間にリリーに駆け寄る。


「リリーちゃん!ゴンちゃん!大丈夫!?ケガはない!?」


「うん…大丈夫…」


『ギァ…』


まさか行った側から責任を果たすことになるとは夢にも思わなかったが、実の妹が襲われそうになったため思わず食い気味でリリーとゴンの無事を確認してしまう。


「落ち着け。この子達は無事だ」


「ありがとう…またお兄ちゃんに助けられたね…ぐすっ…」


シスカに呼び止められてハッとなるも、リリーはホッとした表情を浮かべた途端に涙を浮かべる。


「わぁ〜ん!?怖かったよ〜!?」


「リリーちゃん…良かった…」


不安と恐怖が一気に爆発したリリーは泣きながらエインに抱き着き、エインも無事だったことに心の底から安堵して抱き返す。


「…よくその力で大切な人を守ったな。偉いぞ」


それを見ていたシスカも誇らしげに微笑みながらエインとリリーを見つめるのだった。

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