生命の神秘と掟〜前編〜
「何よ!そんな無駄にトゲトゲした身体してるからって良い気にならないでよね!」
『『『ウオオオン!』』』
ルミナスの果樹園を食べ荒らしていたケントロサウルスを目の当たりにして、これまでの恨みをぶつけるようにトランが食って掛かるが、尻尾のスパイクを地面に叩きつけて威嚇するため一瞬の内に萎縮する。
「彼女達には手出しさせない!私が相手だ!」
『ウオオオン!』
ラピスが剣を抜きジリジリと間合いを測りながらケントロサウルスに近付いていく。
「行くぞ!」
『ウオオオ…!』
「あれは…!」
充分に近付いたところでラピスは一気に首を切り落とすかのように剣を振り上げて駆け出す。しかしエインはケントロサウルスが頭を低くし、尻尾を振り上げるルーティンに既視感があった。
「危ない!」
「ひゃっ!ちょ、何を…」
エインが後ろから押し倒しラピスは彼と共に地面に伏せてしまうも、直後に踵を返したケントロサウルスの尻尾のスパイクが近くの木に突き刺さり幹を貫通したのだ。
「…!嘘でしょ、あんなの食らったら串刺しじゃないの!?」
「変わった尻尾だと思ってたけど、あんな武器があったなんて…!?」
「前に似たようなモンスターと出会ったけど、攻撃前にも同じ動作をしてたんだ…。」
この中ではステゴサウルスやケントロサウルスのような剣竜の戦い方を知っているのはエインだけだ。そのお陰でラピスは少なくとも九死に一生を得たのだった。
『ブオオオオ!』
「このモンスターは草食なのに何で私達を敵視してるの?」
「トランがいきなり矢なんか撃ち込むから…。」
「あたしのせいだっての!?」
「僕に任せて。」
エルフの少女や子供達が騒ぎ立てる中でエインは生体電流を纏いながらケントロサウルスに近付いていく。
「ごめんね…いきなり矢なんか撃ち込んだから痛くて驚いたよね?」
『ブオオオオ…!』
「ちょ…何してるの!」
「お兄ちゃん…。」
見慣れない面々からすればエインが興奮するケントロサウルスに近付いており、自殺行為に見えるためトランもリリーも目を丸くして見ていた。
『ブオオオオ…。』
「大丈夫、大丈夫だからね…その矢を抜いてあげるから。」
警戒するケントロサウルスに生体電流で意思疎通をしつつも、呼び掛けながら後ろ脚に刺さった矢に近付いていく。
「待っててね…ちょっと痛いよ…ふん!」
『ブオオオオ!?』
「エインくん!」
「お兄ちゃん!?」
苦痛を長引かせないように一気に矢を引き抜くと、ケントロサウルスはうめき声を出し尻尾を地面に叩きつけたために全員がギョッとなる。
『ブオオオオ…。』
「これでもう大丈夫だよ。ごめんね。」
「…ちょっと何者なのよあいつは…。」
「普通はそう思うわよね。でも、あたしらにもよく分かんないのよ。」
傷口を撫でてケントロサウルスを宥めるエイン。これには敵視していたトランも他のエルフ達も呆気にとられる。しかしエリーシャ達にも説明しろと言われても説明は出来なかった。
「って、それどころじゃないわよ!そいつらのせいであたしらの果物が食い荒らされたのよ!」
『ブオオオオ…。』
「うひぃっ!?あたしは美味しくないわよ!?」
思い出したようにトランが詰め寄るとケントロサウルスが顔を舐め回すため彼女は全身に鳥肌が立つのだった。
「あはは、でもそのモンスターはどうするの?このままここに置いて置く訳にはいかないし…。」
「後で森の外へ出そうと思っているよ。」
「とにかくエインくんのお陰でモンスターの襲撃に怯えずに収穫が出来るわ。」
ケントロサウルスの脅威を取り除いたことで安心して収穫を進められる。
『っ!…ウウウッ…!』
「お兄ちゃん…この子どうしたの?」
ケントロサウルス達を宥めて一応解決かと思いきや、ロボは何かに気が付いて唸り声を挙げる。まるで自分達に害をなす敵を前にしたかのようだった。
「もしかして…何か他にもいるの?」
「ワイバーンもどき?それとも…。」
これに既視感を覚えていたのはエリーシャとルシアンだった。あの時はカルノタウルスの足跡を見て唸り声を挙げていたが、今はそれらしい足跡などは見られなかった。
『カロロロ…!』
「っ!な…何よあんたは!」
『『『ブオオオオ…!』』』
すると森の暗がりの中で爛々に光る眼光と飢えを表すかのように涎を垂れ流す巨大な口がうっすらと見え、ケントロサウルス達もそれに気付いて異様に殺気立っていた。
『カロロロ…!』
「狼…いや、フェンリル…!?」
暗がりから出てきたのは一見すれば狼のようだが、ライオンにも匹敵するサイズに身体の四分の一を占める大き過ぎる顎はSランクモンスターのフェンリルを彷彿とさせた。
『『グルルル…!』』
「しかも三頭も!何でフェンリルがここにいるの!」
最初の一頭の影から更に別の個体が二頭姿を現して合計三頭となった。
「あれは…『アンドリューサルクス』だよ!」
「どっちでも良いわよ!こんなのがいるなんて…!?」
「待てよ、肉食のモンスターも現れるとは言ってたけどあれじゃないの?」
「いつもはもっと小型のリザードマンみたいなのが多かったんですけど…フェンリルが現れたのは初めてです!」
エルフ達はこれまでに見てきた肉食の動物の多くがリザードマンことラプトルなどであったが、フェンリルことアンドリューサルクスを見たのは初めてであるためまさかの登場に凍りついていた。
『『『ブオオオオ!』』』
『『『グルルル…!』』』
被食者だが身を守るスパイクを武器に持つケントロサウルス達は、捕食者であるアンドリューサルクスを見てエイン達を放置して睨み合う。
『ブオオオオ!』
『ギャイン!?』
先手必勝と言わんばかりにアンドリューサルクスの一体が飛び掛かるも、ケントロサウルスのショルダースパイクが前脚に刺さり堪らず仰け反る。
『ブオオオオ!』
『ギャウ!?』
ダメ出しで先程ラピスに振り回した尻尾のスパイクをアンドリューサルクスの身体に打ち込み横たわらせる。
「木の幹に穴を開けるほどだとは周知していたが…。」
「やるじゃない!フェンリルを近寄らせない上にダメージを与えるなんて!」
ケントロサウルス達がフェンリルに似たモンスターに対して圧倒的であるために、実力を目の当たりにしたラピスや敵視していたトランも歓喜していた。
『グルアア!』
『ブオオ!?』
「ひっ!?」
しかし別のアンドリューサルクスがスパイクを抜けて、特徴的な大きな顎でケントロサウルスの脇腹に噛み付いたのだ。
『オオオ…!?ウオオオー!?』
「この音…骨が砕ける音ですの…!?」
ケントロサウルスの悲鳴に混じってバギバキと硬い物が砕ける音がアンドリューサルクスの顎から聞こえてくる。どうやらケントロサウルスの肋骨が顎の力で噛み砕かれているのだ。
『グルアア!』
『ギャアアア!?』
「うわ…お腹の肉が抉られた…!?」
バキンと言う音と共に骨と脇腹の肉が噛みちぎられ血が滝のように流れ出るためにケントロサウルスはヨロヨロとし、まんまと肉をせしめたアンドリューサルクスは肉を咀嚼し飲み込む。
『ガルル…!』
『グオオオオ!』
『ブオオオオ…!?』
それを皮切りにダメージを負ったケントロサウルスに他のアンドリューサルクスも飛びつき、一体は前脚に噛み付きもう一体は先程の攻撃の仕返しにと尻尾に噛み付いて動きを完全に封じる。
『ギエエエエ!』
『グアアア!?』
「見ちゃダメだよ!」
「はう!?」
そしてトドメを刺すように首に噛み付き一捻りで首の骨をゴキンとへし折る。余りの光景にエインは慌ててリリーの目を防ぐ。
「嘘でしょ…あっと言う間に殺されちゃったじゃない…!?」
『カロロロ…!』
「ちょ…僕らも逃げよう!?」
優勢だったケントロサウルスが殺されたことと、アンドリューサルクスがにじり寄って来るのを見て、レイ達は収穫した果実の入ったカゴを捨て慌てて果樹園から逃げ出す。
「エイン達…少し遅いですね。」
「収穫する物が多いのかもしれませんね。」
その頃、キオナ達は集落にて仲間達の帰りを待つもだいぶ遅いことに心配していた。
「遅いと言えばピーター達の帰りもだいぶ遅いですな。森の周辺を調査するだけのはずなのに…。」
遅いと言えば森の調査に向かったエルフの仲間が帰って来ないことにソルラスも心配していた。
「おい、急患だ!誰か来てくれ!」
「手を貸してくれ!」
比較的落ち着いた様子のルミナスに殺伐とした喧騒が響き渡り、何事かと他のエルフ達が声の主であるリュカとマーキーに集まってくるが、二人は誰かに肩を貸しているらしく急患と言うのはその人物のようだ。
「マリーじゃないか!どうしたんだ、酷いやつれようじゃないか!」
その人物はピーター達と共に森の調査をしていたマリーだったが、少し見ない間に目の下に隈が出来て目も死んだ魚のようになっていた。
「ピーターや他の奴らはどうした?」
「見つけた時はこの子しかいなかったぞ?」
「何かボロボロになりながら森の入口から来て、突然泣きながら俺らに抱き着いて来たけど…。」
他の仲間の所在を聞くもリュカもマーキーも彼女に突然抱き着かれたことで最初は困惑していたものの他のエルフの姿は見ていなかった。
「大変です…巨大なモンスターが森に侵入して…。」
「巨大なモンスター…?」
乾いた唇を開いて何があったか伝えようとすると、里の入口からズシン…ズシン…と言う地震のような足音がしてくる。
「はあ…はあ…やっぱり走ってばっかじゃないのよ〜!」
「まだ追ってくる?」
『カロロロ…!』
「動きはフェンリルや狼よりもずっと遅いけど…着いてくる!」
果樹園から逃げ出すもアンドリューサルクスは付かず離れずの距離でエルケ達を追いかけてくる。まるで猟犬に追われる獣になった気分だった。
「あの…気が付いたんですけど、このまま逃げていたら里にフェンリルを誘い込んでしまうのでは?」
「あ、確かに!でもどうやって追い払ったら…。」
逃げるのに夢中で気が付かなかったが、このまま逃げていたらアンドリューサルクスを里に道案内してしまうのではと考えるも実際どうしたら良いか分からなかった。
「あれ、待って。既に里が騒がしくない?」
「お兄ちゃん、何かいるよ!」
里が見えてくるも何やらバキバキと木々をへし折るような音や地響きに似た音がするため何事かと目を凝らすと里にいつの間にいたのか大きな影が目に入る。
「ちょ…何よあれ!?家の中に何かが頭を突っ込んでるわよ!?」
戻ってくると里には大木のような太く長い脚にそれに見合った大きな胴体、そして見たことないほどに長い首と尻尾を持った巨大なモンスターが複数いて、特徴的な長い首をツリーハウスに突っ込んでいたのだ。
「あのフォルムは…砂浜にいた巨大モンスター!?」
「でもあれよりは随分小さく見えるけど…。」
その見た目は砂浜でエルケのプライドを粉々に砕いたドレッドノータスによく似ていたが、大きさは三分の一程しかなかった。
『ウオオオン…?』
「あー!それはあたし達エルフが丹精込めて育てた大事なブドウリアの実よ!」
騒がしいと思い一頭が家屋から頭を抜いて振り返ると、口にブドウに似た果実がたくさん咥えられておりその果汁がたっぷりと付着していた。
「それはエルフのワインに使われるブドウリアの実なのに…あんたらよくも貪ってくれたわね!」
「危ないトランちゃん!」
食べているブドウリアの実はエルフ達の血と汗の結晶らしく、トランは憤りを露わにして詰め寄るもエインが慌てて止めようとする。
「何でよ!果実を食べるってことはこいつらは草食でしょ!」
「でもこのモンスターは…『シュノサウルス』なんだよ!?」
「は?シュノ?何を言って」
引き止められたことで八つ当たりするようにエインに怒鳴り散らすトランの目の前にドシンと鈍い音共に何かが落ちて土が舞い上がる。
「…は?何これ…石?」
『ブオオオオ…!』
トランの足元に巨大な石ともヤシの実とも言える物体が地面にめり込んでいたのだ。その謎の物体は呆然としているトランの目の前で持ち上がるのだが、その端はなんと『シュノサウルス』の尻尾の先端に繋がっていたのだ。
「何あの尻尾!モーニングスター!?」
「ゴンちゃんの尻尾みたい。」
『ギァ!』
モーニングスターとは鉄球と杖を鎖などで繋ぎ振り回して相手を殴る武器のことであり、シュノサウルスやアンキロサウルスの尻尾はそれを彷彿とさせる形状をしていたためレイとリリーの指摘は的を得ていた。
『ブオオオオ!』
「ぎゃあああ!?」
「逃げるよ!」
とにかくシュノサウルスはそのモーニングスターのような尻尾を何度も振り下ろして地面を殴打してくる。エインはトランの手を引いてその場から急いで逃げ出す。
『カロロロ!』
「ひゃあ!?追いつかれたわよ!?」
「ど…どうしたら…!?」
そうこうしてる間に後方のアンドリューサルクスに追いつかれ、前方には尻尾を振り下ろすシュノサウルスがいて完全に挟まれてしまう。
『…!グオオオオ!』
『『ブオオオオ…!』』
「狙いが…変わったんですの?」
肉付きは良いとは言え自身よりも身体が小さいエルフ達よりも、ずっと身体が大きく肉が詰まったシュノサウルスに狙いを変えるアンドリューサルクスと、その思惑に気付いたシュノサウルス達が互いに睨み合う。
「でもこのままだと巻き込まれちゃうよ!」
「とにかくここから離れようよ!」
自分達を狙わなくなってくれたのはありがたいが、互いに巨体同士をぶつけ合う戦いに巻き込まれるのは御免であるためさっさと退避しようと辺りを見回す。
「エイン!皆さん!こっちです!」
「キオナ!皆、あそこに!」
すると一つのツリーハウスからキオナがこちらに向かって呼び掛けており、エインを先頭にツリーハウスへと続く階段に向かって走り出す。
『ガルル!』
『グアア!?』
その直後に彼らが立っていた場所にアンドリューサルクスが立っており、シュノサウルスの脚に噛み付くのだった。
「リリーちゃん、先に行って!さあ、君達も…!」
『『ブゥ〜…!』』
階段に辿り着いたエインは殿を担い、リリー達を先に登らせスティラコサウルスの子供達も登らせる。
『…ブオオオオ!』
『ギャア!?』
別のシュノサウルスが脚でアンドリューサルクスの身体を蹴り飛ばす。脚にはスパイクのような尖った爪が備わっており、蹴っただけでアンドリューサルクスの身体に傷を負わせることが出来る。
「さあ、トランちゃん!登って!」
「でもブドウリアの実が…」
ブドウリアの実を食べ尽くされることもだが、逃げてばかりは嫌だと言うトランの側にモーニングスターのような尻尾に殴られたアンドリューサルクスが転がって来る。
『グルルル…!』
「あんたなんかに食われてたまるもんか!?」
ケントロサウルスを怒らせたのにトランは懲りずにボウガンを手にして射抜こうとするが、背後から大木のような前脚がアンドリューサルクスの頭部に振り下ろされる。
『ブオオオオ!』
「ひっ…ひゃあああ!?」
「こっち!?」
シュノサウルスの全体重がアンドリューサルクスの頭蓋骨を叩き割り、その衝撃で大きな目玉が飛び出てトランの胸元に落ちて来たために鼓膜が破けるほどの悲鳴を出し、エインが慌ててツリーハウスに引きずり込む。
「はあっ…はあっ…はあっ…!?」
「落ち着いて…吸って、吐いてを繰り返してください。」
目の前でモンスターの頭部が潰され、さっきまで自分のことを睨んでいた目玉が飛んできたことにトランは涙目で過呼吸になってラスコに宥められていた。
「皆、無事か。」
「長老様!はい、私達は全員無事です!」
ツリーハウスには全員ではないがルミナスの里のエルフ達やキオナ達が避難しており、ソルラスは果樹園に向かっていた面々を心配していた。
「けど…僕達が育てた果樹園がめちゃくちゃに…。」
「収穫した果物もあのフェンリルに追いかけられて全部落としちゃった…。」
「良い良い、皆が無事で良かった。」
子供のエルフ達は果実を持ってこれなかったことを嘆いて泣きそうになっていたがソルラスは優しく微笑みながら頭を撫でる。
「しかしそのモンスターの子供は何じゃ?」
「果樹園にいたんですけど…アンドリューサルクスから逃げる時にそのまま…。」
「あのフェンリルみたいなモンスターのことですね?」
果樹園から戻って来たのに果実ではなく、スティラコサウルスの子供を連れていたことに疑問に思うソルラス達にエインが説明する。
「それにしても何があったんですか?あのモンスターは…。」
話は変わって里の果実を我が物顔で食べているシュノサウルスは何なのかと質問が挙がる。
「ふむ…どうやら森の外から来たらしいのじゃ。マリーの話によると、やはり森の木々が切られたためにモンスターの通り道が出来てしまい、保存してあったブドウリアの実を食べ始めたのじゃ。」
「やっぱり…はあ…バリオンのドワーフ達の仕業よ!」
事情を聞いたトランはまだ過呼吸気味ながら自身の意見を吐き捨てるように言い放つ。
「ところで…エルフの人達が少なくなっているように見えるけどどうしたんですか?」
「あの大きなモンスターが来た時に避難させたのだ。ここには事情により素早く移動出来ない者達が残っているのだ。」
更に話は変わってエルフの人数が少なくなっていることに疑問に思っていたが、シュノサウルスが来た時点で動けるエルフ達は各々で避難していた。
残っていたのはケガをしたり、年老いたり、家族を待ったり、殿を務めている者達ばかりだった。
「けど、一番気になっているのが…。」
「ひぃ…ひぃ…ふぅ…。」
「カレン…頑張ってくれ…!」
白衣とマスクを身に纏ったアレシアが心配そうに後ろを見ると、お腹が大きく膨らんだカレンと呼ばれるエルフの女性が荒い呼吸をしながら横たわっておりそれに付き添う男のエルフがいたのだ。
「あの人のお腹…どうしたんですか?」
「陣痛が始まったの…つまり赤ちゃんが今にも産まれそうなのよ。」
「「「ええっ!?」」」
人から疎外されて生きてきたエインに取ってお腹が膨らんでいる意味が分からなかったが、アレシアがカレンは妊婦で今にも子供が産まれそうになっていると答えたのだ。
「そろそろ出産日だとは思っていたけど…いずれにしてもこれだと下手に動かすことは出来ませんし、それに道具や設備が整っている場所でないと…。」
遅かれ早かれ産まれることになっていたが、出産のための手術道具や分娩部屋などは自然界では手に入らないし、母体と子供の安全を考えればおめでたいことだがこれでは動かすこともままならない。
「安心しろ!ここは俺らが守ってやる!」
「あなた達は赤ちゃんとママのことを考えてあげて!」
「…この異世界で初の子供は…私達が守る。」
「皆さん…ありがとう!?」
しかしドラン、キャロライン、シスカなどグランドレイクから来た者達はカレン達の出産を守るためにここに残り順番に励ましの言葉を掛けるため夫であるエルフは泣きながらお礼を言う。
「さあ、落ち着いて…ひぃひぃふぅ…ひぃひぃふぅ…。」
「ひぃひぃふぅ…!?」
アレシアは付き添い出産のための呼吸を教え、カレンも辛いながらそれに倣って呼吸を行う。
「ううん…ここは…。」
「あ、アレシアお姉ちゃん!マリーお姉ちゃんが起きたよ!」
アレシアの手伝いでケガ人のことを診ていたエルフの子供がマリーが起きたことを伝えてくる。
「ここはわしが…マリーよ、大事はないか?お主はボロボロになりながら里に帰って来たのだぞ。」
「あ…長老…。」
「ピーター達はどうしたのだ?聞こうと思ったらお主が気絶してしまい、行方が分からなくなってな…。」
ソルラスはマリーの安否を気にするのはもちろん、共に向かったはずのピーター達が帰って来ないことを気にしていた。
「あ…そうだ!?モンスターがここに来ます!?」
「んあ?モンスターが来るも何も、もう来てるぞ?」
「ええっ!?」
やはりマリー達はモンスターと遭遇して何かトラブルが起きたと思っていたが、彼女はモンスターが接近してると報せてくるも既に来ていると返されたために血相を変えて外の様子を伺う。
「慌てなくともあのモンスターは草しか食べませんわ。」
「でも今は私達の大事なブドウリアの実を貪ってるのよ!やっぱり我慢ならないわ!」
アンドリューサルクスを始末したシュノサウルスは気兼ねなく、再びツリーハウスの中に頭を突っ込みブドウリアの実を食べていたため過呼吸が治ったトランは怒りが再燃する。
「止めるのじゃトラン。今はカレンの出産が第一じゃ。ブドウリアの実はまた作れば良いが、カレンのお腹の子の命はたった一つしかないのじゃぞ。」
「ソルラス長老の言う通りだ。あのモンスターに暴れられたら母子共に危険が伴うぞ。」
「…はい。」
エルフの長老のソルラスとエルフ達から尊敬されるメリアスから、カレンとお腹の子のことを考えろと諭されさすがのトランも大人しく引き下がる。
「あの…私が見たモンスターはあれじゃないです…!?」
「あれじゃないなら…その側で倒れているフェンリルのことですの?」
外の様子を伺っていたマリーは自分が見たのはシュノサウルスではないと呟き、それならとエルケはアンドリューサルクスのことかと付け加える。
「違います!?ドラゴンなんですよ!?」
「なっ…ドラゴン…!?まさかタイラントドラゴンですか!?」
ところがマリーの口からドラゴンと聞いて、キオナ達は自分達の国を襲ったタイラントドラゴンことティラノサウルスのことを思い浮かべる。
「私が見たのは二足歩行のドラゴンで、翼などがなく代わりに背びれがありました…」
「背びれですか?エイン、バイス達に背びれなんてありましたか?」
「ううん、背びれなんてなかったはずだよ。」
身体的特徴としてはだいたいティラノサウルスと同じであるが追加情報で背びれと言われてエインも困惑してしまう。
「そのドラゴンにピーターさん達が食べられてしまって…!?」
「なんとピーター達が…!?しかしまさかドラゴンの侵入を許すほどまでに森が切り開かれていたとは…。」
「いずれにしてもタイミングが悪いですね…来ないことを祈りますよ…?」
今はカレンの出産を無事に済ませる必要があり、相手が草食性のシュノサウルスや木に登って来れないアンドリューサルクスならまだ良かったかもしれない。
しかし相手がまだ見ぬ未知のドラゴンとなれば出産への危険性は高まることだろう。アレシアはここへ来ないことを切に願うも、森の中からズシン…ズシン…と言う足音がしてくる。
「この足音は…まさか!?」
「来てしまったんですか!?」
この地響きのような足音には嫌と言うほど聞き覚えがあり、エインとキオナは慌てて外を確認する。
「何?何が来たの?」
『ギァ〜!?』
『グルルル…!』
『『『グウ〜!?』』』
ゴンやロボ、スティラコサウルスの子供達も何かが近付いているのか察知し騒ぎ立てるためリリーも心配になってくる。
『『『ブオオオオ…?!』』』
『グルルル…!』
外にいるシュノサウルス達も接近を察知して食べるのを止めて騒ぎ立てていた。と言うのも接近してくるのが自分達の命を脅かす圧倒的な捕食者であるため嫌でも警戒する他ならなかったからだ。
『グオオオオン!!』
「背びれのある…ドラゴン!」
「『アクロカントサウルス』だ!」
森の木々を掻き分けてルミナスに現れたのは、体格はティラノサウルスと同じだが前脚が長く指が三本で鼻先も少し長いなどの差異があり、マリーの話にあったように背びれが特徴的である恐竜『アクロカントサウルス』だった。




