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思いがけない『繋がり』

「あ、姉様!見えてきたのだ!グランドレイクの国境の壁が見えてきたのだ!」


ウィルマから帰還したルティカはグランドレイクの壁が見えたことに歓喜の声を挙げる。


「皆さん、ようこそ!グランドレイクへ!」


「「「おおおっ…!」」」


ウィルマは既に翼竜の巣窟となり、生存者はキオナの提案でグランドレイクへ移り住むこととなりようやく辿り着いたのだった。


「あれ、誰かあそこに…あ。」


「姫様、ルティカ様…よくご無事でお帰り頂きました…!」


「リ…リオーネ…!?」


門の前にはリオーネが引きつった笑顔をしながら仁王立ちしていたことにキオナとルティカは凍りつくのだった。


「姫様!ルティカ様!一体これはどう言うことですか!?国を二日も空けて遠征に参加されたのですか!?」


「こ…これは王女として外のことを知るためにも…。」


「そうなのだ!」


「ご自身の立場をご理解ください!おまけにもしものことがあれば我が国は危ういことをお忘れですか!」


何とかして言い訳しようとするもリオーネはカンカンに怒っており王女なのに言い返すことも出来なかった。


「それに危ない目には特には…。」


思わず誤魔化そうとして目が泳ぎながらそんなことを呟くもリオーネはエインを睨みつける。


「…エイン!本当の所は!どうなんだ!」


「あの…その…ケツァルコアトルスに攫われて雛に食べられそうになったり、ディアトリマに襲われそうになったけど…。」


「姫様ー!!ルティカ様ー!!」


彼女の視線に耐え切れなくなり良くも悪くも素直な性格のエインは本当のことを話してしまいリオーネは国中に響き渡るような怒号を挙げる。


「くうう…姫様とルティカ様に何かあったらと思うと…私の心配ではどうでもいいんですか…?」


「…すみません。」


「ごめんなさいなのだ…。」


この異世界ではたった二日でも生きていられる保証があった物ではない。ましてや外に出てモンスターに襲われたのではと考えていたリオーネの心労はかなりの物のはずだ。


それを聞き入れて自分達が人の心配を知らず知らずの内に踏みにじってしまったことを謝罪する。


「ですから!これから二十四時間!つきっきりで!もう姫様の側から離れませんからねぇ〜!」


「ちょ…リオーネ…!?怖いですよ何か…!?」


爛々とした目で涎を垂れ流しながら迫る様にキオナは思わず気圧されるのだった。


「僕はオヴィラプトルとパラサウロロフスを放牧場に連れて行くね。」


「ちょ…エイン!?待ってください!?」


「さあ!姫様!ルティカ様!城に戻りましょうねぇ〜!」


「ああ〜!?」


二人はリオーネに抱えられて瞬く間に城へと拉致…及び帰還させられるのだった。


『『『クエエエ…。』』』


『『『プオオン…。』』』


「皆、お疲れ様。ゆっくりしてね。」


放牧場にパラサウロロフスとオヴィラプトルを連れて行くと、オヴィラプトルは最初は戸惑いを見せるも喧嘩せずにそれぞれ寛ぎ始めたことにホッとするエイン。


「あの…エインさん…。」


「あれ、エルケさん?」


ここには自分しかいないと思っていたが不意に声を掛けられて振り返るとエルケがモジモジした様子でこちらを見ていた。


「どうしたんですか?」


「その…助けてくれて…ありがとう…。」


「え…ああ、それくらいなんてことないですよ。」


モジモジしながらお礼を言ってきたために最初はキョトンとするもエインは当然のことのように返すのだった。


「なんてことあるわよ!そのケガ…私達を助けるために負ったのですから…。」


「これくらいのケガならすぐにでも治りますよ。こんなケガぐらい慣れてますから。」


「そう言う問題じゃ…。」


お礼を言いに来たつもりだがエインの暗い過去を抉るような発言だったかとエルケは言葉を濁していく。


「とにかく!私としてもキチンと恩を返さなくては誇り高い貴族として名折れだわ!」


これ以上は問答無用だとエルケはエインの手を引いて何処かへと連れて行く。


「ここは何処ですか?」


「ここは貴族や上流階級の人達が一目置く庭園ですわ。まあ、この間のタイラントドラゴンの襲撃でほとんど荒らされていますが…。」


案内されたのはベルサイユ宮殿のように薔薇(バラ)や大理石によって飾られ、多少荒らされても豪華絢爛(ごうかけんらん)を体現したかのような庭園だった。


「ここでは愛する男女が互いに自身の気持ちを打ち明け、愛の告白をすると二人は未来永劫結ばれる場所として有名なのですわ。」


この庭園には逸話があり、伝説の桜のようにここで愛の告白すれば一生を添い遂げると言われていた。そしてエルケは何故ここにエインを連れてきたのか意を決して口を開く。


「この私、エルケ・カリュアデスをあなたに(めと)らせる許可を与えるわ!」


当初はエインのことを忌み嫌っていたエルケだったが娶らせる…つまり自分をエインの嫁として迎え入れて欲しいとプロポーズをしたのだ。


最初の頃はそんなことを考えるなんて(おぞ)ましいと思っただろうが、囚われて食べられそうになった自分を命懸けで助けに来て多くの翼竜と戦った姿に心を動かされたのだ。


それからと言うものの国に帰るまでエルケはエインを見る度に胸の高鳴りが止まらなくなり、何もそこまで認める気はなかったが次第に彼女は自身の恋心に火が点いたことを認めざるを得なかったのだ。


「……あの…!何か言いなさいよ!」


一世一代のプロポーズをしたのに返事がないことにエルケは耐え切れずに、胸の高鳴りが強くなり過ぎて直視することが出来なかったエインを見ようとする。


『ギィー!ギィー!』


『キャンキャン!』


「ちょ…どうしたのフォーク、ロボ?」


「なっ…!?」


ところがエインはフォークとロボに遠くへと引きずられており、エルケのプロポーズは耳にしていない様子だった。


「ちょ…エインさん!あなた、私のプロポーズを」


「私の…何ですか?」


「はい!?キオナ姫様!?」


追い掛けて問い詰めようとしたが後ろから何やら迫力のある声が聞こえたと思ったら、笑顔だが王族ならではの威圧感と迫力をこれでもかと見せつけるキオナの姿があった。


「エインは私の側近ですよ?何を勝手なことを?」


「そ…側近でも結婚は自由なはずですわ!何よりも王女様とは言え勝手にする権利はないはずですわ!」


王女として側近を引き離すようなことは許さないと笑顔で脅すが、結婚のことまで王女が好き放題にして良いはずがないと反論する。


「それよりも王女様がここにいて宜しいのですか?」


リオーネに拉致同然と言わんばかりに城へと連れて行かれたはずなのに、もうここへ来て自分のプロポーズを邪魔しに来たのかと文句を述べる。


「ここへ来るのは大変でしたよ。リオーネを振り切ったのですからね。エインを探していたらあなた達がここへ来ていたのでまさかと来てみれば…!」


よく見ると多少衣服が乱れており、あの鬼気迫るリオーネから逃げ延びたことを意味していた。


「あれ、あなたは。」


「あ、エインさん。」


一方フォークとロボに連れられたエインはボカージュから出てきたリアーナと鉢合わせになる。


「どうしたんですか?」


「あら、リアーナさん?どうしてここに…。」


「それが教会でお世話していた子がここに…。」


「やめて!来ないで!?」


エルケ、キオナ、リアーナとウィルマでホワイトアウトの巣に囚われていたメンバーが揃ってところでボカージュから幼い叫び声が聞こえてくる。


「今のは?」


「まさか犯罪を働く輩が?」


何が起きているのか一同はボカージュに乗って声の主を探していると、背丈と姿からして女の子だろう人物が慌てて駆けて行く。


「まさかあんな小さな子供を…一体誰がそんなことを?」


小さな子供を追いかけ回すだなんて鬼ごっこでなければ非合法な行いでやっているとしか思えない。キオナはその人物が何者か確認しようと身を乗り出すのだが…。


「待て!止まらんか!」


「な…リオーネ!?」


まさか自分を追い掛けているはずのリオーネや衛兵達がキオナ以外の自分を追いかけ回していると目の当たりにして唖然となる。


「いや、来ないで!?」


「何を隠している!早く見せんか!」


「違うの!何もいないよ!?」


「いないならさっさと見せんか!」


リオーネと衛兵達はその子を大きな木の下にまで追い込み何かを差し出せと迫っていた。


女の子は年齢は四歳ほどで長いポニーテールと下がった目尻が特徴であり、木を背にして今にも泣き出しそうになりながらも何か隠しているようだった。


『ギァ、ギァ~!』


「あ…!出てきちゃダメ!?」


その木の根元には穴が開いていたのだが、そこから小さな亀に似たモンスターが這い出てきてしまい彼女は慌ててリオーネ達に背を向ける形で隠そうとする。


「やはり…モンスターの子供を匿っていたのか。」


「見たことないモンスターだ…岩石トカゲにもよく似ている…。」


「さあ、そいつを早く渡すんだ!」


何処からか彼女がモンスターの幼体を隠していると聞きつけたリオーネ達がここまで追ってきて国の安全のために取り上げようとしていた。


「この子はそんな酷いことはしないよ!」


「どう見ても岩石トカゲの幼体だ!すぐさま始末するんだ!」


相手は幼い女の子故に抱えているモンスターが危険であることを知らないと考えたリオーネ達は乱暴にモンスターの尻尾を掴んで取り上げる。


『ギァ~!?ギァ~!?』


「お願い止めて!?殺さないで!?」


助けを求めるように鳴き叫ぶモンスターと同じように懇願するように泣き叫ぶ女の子。


「待って!リオーネさん!」


「っ!エイン…!」 


「え…?」


見ていられなくなったエインが割り込んで来たことにリオーネ達も女の子も驚くのだった。


「って、姫様!ここにいらしたのですか!」


「それよりも何をしているんですか!そんなルティカとほぼ変わらない歳の子を追いかけ回して…。」


エインだけでなく一部始終を見ていたキオナ達も飛び出してきたため、リオーネは探していた相手をここで見つけたものの間が悪いのか良いのか分からないと言った様子を見せていた。


「しかし危ないモンスターの幼体を隠していたんですよ!早めに対処しなくては!」


リオーネはこの国を守る者として危険なモンスターを始末する義務があるとキッパリと告げてくる。


「そのモンスターは危なくないですよ。」


「何を根拠にそんなことを…。」


「そのモンスターは『アンキロサウルス』の子供で、草しか食べないんですよ。」


「なん…だと?暗記…?」


掴んでいる見たことないモンスターが無害であることと、個体名がアンキロサウルスだとエインがペラペラと言い当てたことにあまり見慣れないリオーネは唖然となってしまう。


「リオーネ、私達もその岩石トカゲによく似たモンスターと出会いましたがエインの言う通り人畜無害でしたよ。」


「ええ、まあ…人のスカートには入ってきましたが…。」


砂浜でアンキロサウルスによく似たエドモントニアと遭遇し、最初は彼女らも岩石トカゲかと思い警戒したがエインから大人しいモンスターだと教えられたことを話す。


「エインはこれまでにも色々なことを教えてくれました。タイラントドラゴンも正式にはティラミス何とかだと仰っていましたが…。」


「ティラノサウルスだよ。」


これまでタイラントドラゴンだと呼称していたモンスターにも正式名称があったことを告げたことと、それを言い当てたエインにリオーネ達はまたしても驚くのだった。


「とにかくそのモンスターは危険ではないことは…僕が責任を持ちます!」


「…っ!言うようになったな…。」


いずれにしてもエインはアンキロサウルスが危険ではないと、自らの責任を懸けて断固として言い放ったことにリオーネも負けたように笑う。


「感謝するんだな。こいつの始末は保留とする。」


()()()()ではなく敢えて保留にしたのはエインの言葉を信頼したからであり、もしもの時は彼に責任を取らせる腹づもりだったからだ。


『ギァ~!』


「ぐあっ!?貴様ぁ…!」


「尻尾を乱暴に掴むから…。」


しかしアンキロサウルスの子供からすれば尻尾を掴まれて痛い目に遭ったために、腹いせにとその尻尾の先にある丸いコブのような物でリオーネの足首を穿つのだった。


「ゴンちゃん!良かったぁ…!」


『ギァ〜!』


穿った後にアンキロサウルスの子供…『ゴン』と呼ばれており、名前を呼んでいる女の子の足元にいて尻尾を振るのだった。


「名前まで付けていたのか…。」


「良かったね。えっと…。」


「リリーちゃん!」


ゴンが始末されずに済んで喜んでいる女の子の名前は『リリー』と言うらしく、名前を叫んだのはリアーナだった。


「リアーナさん、その子のことを知ってるんですか?」


「はい、教会で預かっていた子の一人です。ごめんね、リリーちゃんだって気が付くのが遅くなって…そしたらその子のことも…。」


「おい、待て…まさかこのモンスターのことも知っていたのか?」


リリーのこともだがゴンのことも知っていたような口振りをするためにリオーネをリアーナを問い詰める。


「う…すみません、教会で預かっていたリリーちゃんが何処かで拾ってきたのですが、シスターとして殺生は御法度(ごはっと)とされていましたし、何よりも植物しか食べていなかったので…。」


「はあ…もう済んだことだが、知っていたのなら先に言って欲しかったな。」


教会に従事する者として肉や魚など他の命を奪う食事は基本的に禁止されており、ましてや食べる訳でもない殺処分すると言う名目では尚更出来なかったのだろう。


おまけにゴンは草しか食べないし、子供で危険性もかなり低かったことも相まって立場上のことも含め問題ないと考えていたが、その報告が遅れたためにこのようなことになってしまったのだ。


「とにかくこれでもう大丈夫だよ。」


「ありがとう、お兄ちゃん。」


目線を合わせて微笑むエインにリリーもまたゴンを抱えながら笑顔でお礼を言う。


「ねぇ、リリーちゃん。せっかくだしパパとママの所に行ってみようか。」


「うん、パパとママに会いたい!」


同じくリアーナも目線を合わせて両親との再会を提案してみるとリリーは二つ返事で了承し微笑むのだった。


「あら?リリーちゃんはウィルマの子ではないのですか?」 


「この子はグランドレイクからの留学生ですよ。まだ幼いのに偉いですよね。」


「…少なくともグランドレイクからの留学生は私が唯一無二と言う訳でも、そして私が一番最初と言う訳では無かったようですね。」


驚くことにリリーはエルケよりも先にウィルマからの推薦が来て留学していた優等生の一人であり、これには自慢していたエルケも気まずそうにしていた。


「じゃあ、リリーちゃんはこの国の子なんだ。」


「はい、この子もホームシックになっていたのでちょうどいいのかと。」


「パパとママに会いたいなぁ…。」


思い出したように落ち込むリリーを見たエインはとある決心をした。


「じゃあ、僕が一緒に探してあげるよ!」


「本当に?嬉しい〜!」


先程ゴンを助けてくれたエインが両親を探してくれることにリリーは大喜びする。


「でしたら私も…。」


「姫様?あなたのお家はお城ですよね?」


「あっ…。」


当然キオナも付き添うとしたが追跡を振り切っていたリオーネに捕まり目が点になっていた。


「思いがけない形で姫様が見つかって良かった良かった。エインよ、その子のことは頼んだぞ!さあ、撤収だ!」


「ちょ…エイン〜!?」


衛兵達がキオナを胴上げする形で抱え上げリオーネを先頭に城へと直行するのだった。


「何と言うか…嵐のように去ったわね。」


「それでリリーちゃん、君のお家は何処?」


「えっとね…。」


あれだけ人がいて騒がしかったのに、今ではガランとし一気に静まり返ったことで呆然となるも気を取り直してリリーの家を探すことになる。


「リリーのお家はこっちだよ!」


「だいぶ復興が進んでいるわね。」


案内される中でティラノサウルスの襲撃によって壊滅的な被害を受けていた街は次第に復興しつつあった。中には出店などを何とか出そうとしている所もあった。


「…スゴい人や建物の数…。」


その中でエインはジャングルや田畑や放牧場とは異なる街並みに好奇心を刺激され辺りを見回している様子を見せていた。


「あの…どうしたんですか?あなたはこの国の人では…。」


「あ…まあ、僕は色々あって…。」


ティラノサウルスの襲撃の際は見物する暇もなかったし、それでなくとも『無能』と迫害され街から離れた辺境に追いやられて孤独に生きていたため、活気立つ街やそこに住むたくさんの人を見るのは初めての経験だった。


「あなたそれでよくリリーちゃんのお家や両親を探そうなんて言えましたわね。」


「あはは…そうだよね。でも、何だか放って置けなくて…。」


「まあ、それでこそあなたらしいですわね。」


嫌味を言うものの超が付くほどのお人好しを見せるエインにエルケもクスッと微笑みかける。


「おや、エインくん、珍しいにゃここにいるにゃんて。」


「あ、モナさん。」


復興に従事している人達に混じって大工仕事ではないことをしているモナの姿が目に入った。


「モナさん、それは?」


「復興を頑張っている人に差し入れにゃ!この間のオバケ鳥の肉を使ったサンドイッチにゃ!」


海で出会ったディアトリマの肉を持ち帰っていたモナはその肉でサンドイッチを作って差し入れをしていたのだ。


「あれを持ち帰ってたんですの?どうりで荷物が多いと思えば…。」


「ざっくりとした大味にゃけど、力がみなぎること間違い無しにゃ!」


確かにモナの背後ではサンドイッチを口にした大工達がパワー全開で仕事に従事しているのが目に入った。


「ところでエインくん達は何をしてるにゃ?」


「それがですね…。」


モナはエイン達が手伝いに来たと言うよりも偶然通りがかったように見えたため何をしているのか訊ね、対するエインも自分達の目的を話すのだった。


「なるほど、そう言うことだったかにゃ。じゃあ、その子のためにもパパとママにも会わせてあげるにゃ!それとこれを食べて元気と力を付けて欲しいにゃ!」


「ありがとうございます!」


事情を知ったモナはサンドイッチをエイン達にも渡し励ますのだった。


「あれ、う〜ん…。」


「どうしたの?」


サンドイッチと元気を貰って暫くは街並みを見ながらリリーの案内で進んでいたが、彼女は辺りをキョロキョロしながら戸惑い始める。


「ここから先が分からなくなっちゃった…。」


「無理もないですわ。ここら辺も襲撃があって滅茶苦茶になった上に復興が追いついていないところですし…。」


よく見ると今いるエリアはまだ復興が着手されていない場所であり、あちこちの家屋や国境の壁に襲撃の爪痕が残っておりリリーの知っている街並みとは大幅に異なっていた。


「あの…それだけではなく雰囲気も異なっているような気がします…。」


『ウウウッ…!』


「ロボも感じる?確かに何だかここだけ変かも…。」


復興が行き届いていないために住人も大工もいないためにガランとしていて、そこだけゴーストタウンのようで今にも何か出てきそうな雰囲気だった。


『『『ブオオオオ…!』』』


『ギィ…?』


「え、フォークみたいなのがたくさん…。」


すると静寂を打ち破って隠れていたモンスターが飛び出して来たことに全員がギョッとなってそちらを見ると、イノシシサイズの角を取り払ったトリケラトプスのような生き物達がこちらに向かって駆けてくる。


「まさか国の中にモンスターが侵入したんですか?」


「こんな所まで…!?」


あの襲撃の後に他のモンスターの襲撃の報告はなかったが、まさか侵入されていたことにショックを受けていた。


『『『ブオオオオ…!』』』


「皆!こっちに隠れて!」


どっちにしてもモンスターが突進してくるのは変わらず、エインはショックを受けていたエルケ達を廃屋の中へと連れ込んだ。


『『『ブオオオオ…!』』』


モンスター達は見えなかったか或いは眼中になかったのか、エルケ達の隠れた家屋には目もくれずに走り去っていく。


「あれは何なんですの?」


「あれは『プロトケラトプス』って言う草食のモンスターだよ。」


「草食?でしたら…。」


最初は何なのかは分からなかったがエインがモンスターの正体が『プロトケラトプス』と言う草食のモンスターであると看破したために何もそこまで脅威ではないのではとリアーナ達は言いたげだった。


「僕が隠れようって言ったのは…プロトケラトプスのことじゃなくてあれだよ。」


そう言うとエインはこっそりと窓から外の様子を伺い、エルケとリアーナもそれに倣うように外の様子を覗いてみる。


『ブオオオオ…!?』


『『『ギャア!ギャア!』』』


「…!リザードマン…!?」


外では先程のプロトケラトプスの内の一体が逃げ遅れ、その周囲をリザードマン…背格好はディノニクスを犬ほどのサイズにし、鼻先を伸ばしたようなモンスターに取り囲まれていた。


『ギエ!』


『ブオオオオ!?』


エルケ達が驚いているとその内の一体がプロトケラトプスの背中に乗って噛み付いたのだ。


『グルルル…!』


『ギャア!』


『ブオオオオ!?オオオ!?』


それを筆頭に他の個体も脚や胴体に噛み付いて動きを封じ込める。


『グルルル…ギシャアア!』


『グエエエェェ…!?』


そして群れの中で一番大きな個体が後ろ脚にある長くカーブした鉤爪をプロトケラトプスの首目掛け、処刑人の刃の如く切り裂いて血飛沫を飛び散らせるのだった。


『プオ!プオ!プオ!グアアククク…!』


『『『プオ!プオ!プオ!』』』


血が勢いよく流れ出たプロトケラトプスはやがて動かなくなり、勝利宣言のように甲高い鳴き声を放つと他の仲間達も共鳴し始める。


「お…悍ましいです…!?」


「何なのあれは…!?」


「『ヴェロキラプトル』だよ…群れで行動して獲物を捕まえるんだ。あの後ろ脚の爪が最大の武器なんだ。」


やはり殺生を見慣れないためにリアーナは目を逸らし、エルケはエインからあのモンスターがヴェロキラプトルだと教えられる。


「姿形はリザードマンによく似ていますが…子供なのでしょうか。」


「ハッキリとはしないけど、多分違うと思う…。」


ディノニクスは襲撃の時には見たがその時は生体電流(パルス)が開花していなかったため名前などは知らなかったが、ヴェロキラプトルと比較すると別種であるとエインにはなんとなく理解出来た。


因みに某映画などではよく知られる『ヴェロキラプトル』は本来は犬ほどの大きさであり、映像の姿は『ディノニクス』などに起因している。


「でも、これって大変なことなんじゃ…。」


「大変に決まっているわ!草食ならまだしも人間に危害を加えるモンスターが侵入していたとなればどんな被害が出ることか…!」


相手は小さいとは言え肉食だ。言うなれば爪が鎌のようになった猛犬と同じでありそんなのが国内に侵入したとなれば被害がどうなるか分かったものではない。


「とにかくこのことを知らせなくては…。」


「ねぇ、何が起こってるの?パパとママは?」


蚊帳の外で呆然としていたリリーは何が起きているのか、両親がどうなったか分からないでいたためにエルケ達に話し掛ける。


「すみませんがそれはまたの機会と言うことに…。」


「ええっ〜!パパとママに会いたいよ!」


『『『!』』』


ホームシックによるフラストレーションが爆発したのと現状が分からないために思わず大声で叫んでしまったリリー。それをヴェロキラプトル達は聞き逃さなかった。


「ちょ…大声を出さないでください!死にたいんですの!?」


「むがっ…!?」


隠れているのに大声を出すなと慌てて彼女の口を塞ぐエルケ。


『グルルル…。』


「こっちに来る…皆、二階に!」


反響音(ソナー)でヴェロキラプトルが三匹ほどに近寄って来ることに気が付いたエインは姿勢を低くしながらリリー達を二階へと誘導する。


「しかしあれだけの大きさならドアや窓を破れるはずがありませんわ。」


大きさは犬ほどのサイズでありディノニクスに比べればパワーはそこまででもないと思ったエルケは振り返って事の顛末(てんまつ)を見届けようとする。


『グルルル…!』


「え…?」


ところがドアノブがガチャガチャと動いたかと思えば、ゆっくりと内側に開かれていくことにエルケは凍りつく。


『ギシャア!』


「ひあっ…!?」


なんとヴェロキラプトルは背を伸ばしてドアノブを前脚で掴んだかと思えば器用に回して扉を開けたのだ。


開け方以前にドアの存在すら知らないはずなのにヴェロキラプトルは短いスパンで使い方をマスターし、中に入って来たことにエルケは野蛮なモンスターがここまでの知性を持っていることに恐怖し悲鳴を思わず出してしまう。


『…!グルルル…!』


悲鳴に振り向くもそこには何もおらずヴェロキラプトルは唸りながら中へと入っていく。


「た…大変ですわ…!?」


「エルケさん…どうしたの?」


二階の部屋には既にエイン達が退避しており、後はエルケを迎え入れるだけだったが階段下に招かれざる客がいた。


『ギシャアア!』


「きゃあ!?」


「わあっ!?早くこっちに!?」


ヴェロキラプトルが既に階段を登っているエルケを視認していたのだ。エルケは死に物狂いで階段を登り、エインは彼女の手を引いて部屋の中へと引き入れドアを閉める。


「危なかった…。」


「鍵を…鍵を閉めてください!?」


「え…うわあっ!?」


ドアを閉めたことで取り敢えずホッとして腰を下ろすも、エルケの警告も虚しくドアノブが回されたと同時にドアに強い衝撃が働いて中へと押し込まれる。


『『『ギャア!ギャア!』』』


「このモンスターはドアを開けられるようですわ!」


「鍵を掛けないと!?」


外では複数のヴェロキラプトル達が中へ入ろうと押し合いへし合いをしており、エイン達はドアの裏側から反対方向に押して鍵を掛けようとするもそれには一旦ドアを閉めないとならない。


『ギャア!ギャア!』


「ううっ…このままだと押し切られてしまいます!?」


「何とかしないと…!?」


何体かは中に入ろうと首や前脚などを隙間に挿していドアをこじ開けようとしており、リアーナ達も噛み付かれないようにドアを抑えるも時間の問題だった。


「あわわ…!?」


「リリーちゃん!君だけは逃げて!?」


リリーも何があったかは知らないが殺気立っているヴェロキラプトルを見て、命の危機であることが嫌と言うほど分かり腰を抜かしエインは逃げるように勧告する。


「で…でも…えっと…。」 


「フォーク!ロボ!リリーちゃんをお願い!」


『…!ウオオオン!』


『ギャア!?』


リリーのことをロボとフォークに託すも、ロボはリリーではなくドアの隙間から見えているヴェロキラプトルの脚に噛み付いた。


『ギィー!』


『ギャギャ!?』


『ギァ〜!』


『グエ!?』


フォークとゴンもロボに続くように嘴のような口で噛み付いたり、ハンマーのような尻尾で穿ってヴェロキラプトルを追い払う。


「ゴンちゃん…皆…。」


最初はリオーネから待っていたはずのゴンが勇敢に戦うのを見たリリーは次第に恐怖以外の感情が湧き立つ。


「何とかしないと皆が…。」


ウィルマにいた時に翼竜達から何度も死への恐怖を目の当たりにし、大切な人を失う恐怖は生き残った人々の嘆きや両親への恋しさから学んだリリーはこのままだといずれその両方が訪れると理解し何とかしようと辺りを見回す。


「えっと…えっと…。」


周りにあるのは記念のトロフィー、二人用のベッド、写真立てに本と言った物ばかりだ。


『ギャアアア!』


「くっ…もう流石に…!?」


「ううっ…ひああああ!?」


「リリーちゃん!?」


もう限界に達したと言うエルケの言葉を耳にしたリリーはトロフィーを掴んでドアへと走る。


「えい!えい!あっちに行って!?」


『ギャア!?』


トロフィーでヴェロキラプトルの頭や前脚をがむしゃらに殴り続ける。


『ギシャア!?』


「今だよ!」


突然硬い物で殴られたことでヴェロキラプトルは堪らずドアから離れ、エイン達は空かさずドアを閉めて今度はしっかりと鍵を掛けるのだった。


「はあ…ひい…はあ…!?」


「リリーちゃん、下がってて!?」


火事場の馬鹿力のような勇気を出したもののホッしたのか再び腰が抜けてしまう。しかし安心は出来ないとエインはリリーを抱えてドアから離れる。


『ギシャアア!』


『グエエエ!』


エルケとリアーナもドアから離れると外からヴェロキラプトル達が体当たりしたり、脚の鉤爪を突き刺したりしてドアを破ろうとしていた。四人はドアが壊れないよう固唾を呑んで見守っていた。


『ギャア!?』


『グエエエ!?』


「…何が起きたんですか?」


「心なしか周りが騒がしくなってきたような?」


突然ヴェロキラプトル達が慌てたような鳴き声を発したと同時に次第に彼らとは異なる音が聞こえてくる。


「リザードマン!いつの間にこの国に侵入したんだ!」


「我々が見たのはもっと大きかったが…それでも充分脅威だ!」


「ラピスさんとメリアスさんだ!」


二階の窓から見るとラピスが剣を振ってヴェロキラプトルを追い払い、メリアスが矢を放って追い討ちを掛けていく。


「あんたら!ウチらの国で好き放題してんじゃないわよ!」


「しかも何処から入りやがったんだ!」


『『『グククク…。』』』


更にその後方にはエリーシャやドランと言った武装した衛兵や冒険者達が大勢駆けつけてヴェロキラプトル達を国から追い出すのだった。


「やった!追い出した!…あれ?」


「おーい、ルシアンさん〜!」


追い出したことに歓喜の声を挙げていると二階にエイン達がいることに気が付く。


「済まない、迂闊だった…ここは復興前で壁に穴が開いていたようだ。」


「でも、どうしてここにヴェロキラプトルが侵入しているって分かったの?」


「角のない角の騎士が着手している場所に来たって報告があったからまさかとは思ってたけど…。」


ヴェロキラプトルに襲われたあのプロトケラトプス達が復興現場まで逃げたことで、守りの要である国境の壁に異常があるのではと考え調査が入ったのだが案の定侵入を許してしまったようだ。


「壁の調査と点検を重点的に行ってください。それと他にモンスターが侵入していないか偵察もお願いします。」


今後このようなことがないようにとキオナは衛兵達にそう伝令を言い渡すのだった。


「ところでリリーちゃんのお家はどうなりましたか?」


「それがこの辺で分からなくなったみたいで…。」


ここへエイン達がいるのはリリーの両親を探すためだとキオナは理解していたが難航していると聞かされる。


「ここは…パパ…ママ…?」


「どうしたの?」


ところがリリーは呆然とした様子でヴェロキラプトルから隠れていた家を見上げていた。


「ここだよ…リリーのお家…。」


「え…ここが?」


なんと隠れていたこの家こそがリリーの実家だったと彼女の口から聞かされた。


「でも…パパとママは何処に…?」


「リリーちゃん…。」


もう一度家の中に入ってみるも誰もおらず悲しみに暮れながら力無く呟くリリーをリアーナが抱き締める。


「押し入ったり襲われた形跡がないな。恐らくその前に引き払ったのだろう。」


ヴェロキラプトルが踏み入った場所以外は綺麗なままで、長年放置された証に埃が層になって積もっていた所を見るに少なくとも襲われた可能性は低かった。


「つまり…まだ生きているってことですよね?」


「そうだ。安心しろ、君の両親は私達が探そう。」


「本当に?」


「ああ、本当だとも。その代わり写真を少し借りるぞ。そうしないと君の両親が分からないからな。」


こうなるとエイン達の力だけは遠く及ばないため、国の力を使って探すことにしリオーネはリリーから両親の写真を失敬することにする。


「パパとママの写真は…それだよ。」


「これ?……え…。」


写真はエインの後ろにあり、リオーネに渡すために彼は手渡そうとするもそこに映っている人物を見て硬直する。


「そんな…これって…!?」


「…エイン?どうしたんですか、リリーちゃんのご両親を見て…。」


まるでオバケでも見たかのように凍りつくエインにキオナは何を見たのか写真を覗き込むと、そこにはリリーと写る男女がいてその二人が彼女の両親なのは間違いなかったが何故硬直しているのか分からなかった。


「この二人は…僕の父さんと母さんだ…!?」


「なるほど、エインのご両親でも……はい!?」


突然のことでキオナは理解が追いつかなかったが、写真に映るリリーの両親はエインの両親でもあったのだ。


「それはつまり…リリーちゃんはエインの妹と言うことになりますよ…!?」


エインは五歳の時に捨てられてから四年が経過しておりリリーの年齢を考えれば入れ替わりで誕生したとすれば時系列も合う。いずれにしてもリリーとエインの両親が同じと言う事実は二人が兄妹であることを意味していた。

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