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『暴君』との謁見

「ん〜!?ん〜!?」


後ろから抱きつかれたために姿は見えないが、ディノニクスに見つかったと思わず暴れるキオナ。


「姫様、静かに…!僕だよ…!」


「んむ…!?」


ところがディノニクスかと思っていたが、その正体はエインだったのだ。


「ん…ん…!」


ホッとして落ち着いたキオナはエインの腕を軽く叩いて解放して欲しいと伝える。


「あ、ごめんなさい!?僕みたいな人が抱き着いて嫌でしたよね!?」


「ぷはっ!?そう言うことではありません!」


助けるためとは言え触れるどころか咄嗟に抱き着いてしまったことを謝罪するエイン。リオーネにあれだけされたのだからそう思うのも無理もなかったがキオナはそうは思っていなかった。


「助けていただきありがとうございます。これで二度目ですね。」


「え〜?えへへ…。」 


日に二回も人に褒められるなんて、彼の人生からすれば滅多にない嬉しい出来事だった。


「それにしてもエインはどうしてここに?」


「ここら辺は僕の住んでる場所の近くなんだ。けど、姫様を見つけたのはロボなんだよ。」


『キャン!』


暗闇に目が慣れてよく見てみると、確かにここはエインが住んでいる街の外れ近くで知らず知らずの内にここへ迷い込んでいたのだ。しかしながらキオナを見つけたのはロボのお陰であった。


「小屋で寝てたらロボが吠えててね。付いて行ったら姫様がいたんだよ。」


「そうだったんですね。ありがとう、ロボ。」


『キャン!』


異変を知らせここへ案内してくれたのはロボのお陰であり、キオナはロボにもお礼をするのだった。


「それにしても何があったの?街が騒がしい上にこんなに暗いなんて…それに少し見たけどあのモンスターは一体何?」


今まで寝ていたことも含め街外れにいるため、何が起こっているかはエインには訳が分からなかった。


「それが私達にもサッパリで…分かっているのは私達は魔法もスキルも使えなくなっていることです。」


「魔法やスキルが使えない…!?それじゃあどうやって…。」


「分かりません…武器は使えますが、それでもあのモンスター達の攻撃に多くの犠牲者が…。」


無能と言われていたエインでも魔法やスキルの重要さはよく知っている。この国はもちろん世界中の人間に取って魔法もスキルも重要な力だ。


戦闘はもちろん日常生活に置いても重要視されており、上位下位はもちろん才能のある・なしによって今後の人生が左右されると言っても過言ではない。


特にエインに取っては()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に置いては無能だの役立たずなど人生の負け組なんて比喩される扱いを受ける結果になったのだから…。


しかしながら突如としてその当たり前は崩れ去り、何が起こったか分からないまま大勢の人間が犠牲になってしまっていた…。


「でもそれなら姫様がここにいるのは危ないんじゃ…すぐにお城に戻らないと!」


「ですが暗くなっても灯りがないのでは何処をどう行けば…それにリザードマンやワイバーンがウロウロしていて出回るのは…。」


こんな危険な所に王女がいるのは場違い以前の問題なため城へと帰そうとするが、そもそもこんな暗所では帰りたくとも帰れなくなってここまで来てしまったのだからどうしようもなかった。


「僕だって城への道のりなんて知らないし…。」


事情が事情なだけにエインも城への道のりはちんぷんかんぷんだった。


『グルルル…!』


「っ!とにかくここは危険だよ!取り敢えず僕の小屋に!?」


「はい!?」


ディノニクスの唸り声が聞こえ、ここもいつまで安全か分からない。ここから近くて安全そうな場所はもうエインの住まいである小屋しかなかった。二人と一匹は急いでその場を離れるのだった。


「キオナ様がまだ城に戻ってないだと!?」


その頃、城では大騒ぎになっていた。ただでさえ未曾有の危機に灯りもない状況で不安が募ると言うのに、リオーネはキオナがまだ城に戻って来ていないことに青ざめていた。


「姫様の護衛でありながら何をしていた!?」


「途中でモンスターを迎え討ったのですが、新手が現れて戦況はめちゃくちゃに…ワシらで何とか逃がしたのですが…。」 


護衛を担った衛兵を怒鳴るリオーネだが、その衛兵も鎧に歯型が着いており、その上で鎧の合間から血が流れ出ていた。


「メリアスも何故姫を一人きりにしたのだ!」


「ワイバーンもどきが押し寄せてそれどころではなかったんですよ!?」


名うての狩人として有名なメリアスのことも知っているが、それならそれでキオナの護衛をしなかったことを責め立てるリオーネ。


「くっ…今すぐに捜索隊を編成し、姫様を救出するのだ!」


しかしリオーネは相手の非を責めるよりもキオナを救出するための捜索隊を編成することが先決するのだった。


「なっ、皆ボロボロな上にこんな暗闇を進むつもりですか!?自殺行為も同然ですよ!?」


これまでの戦闘で多くの犠牲者や、それに比例して多くのケガ人が続出し疲労困憊(ひろうこんぱい)となっていた。しかも今は街に灯りはなく、暗闇に包まれているため右も左も分からない。


「しかし姫様はあんな野蛮なモンスターが闊歩する街に取り残されているんだぞ!?助けに行かなくてどうする!?」


「そのモンスターもいるから危険なんですよ!単なる灯りのない街の夜道なら危険なんて言いませんよ!」


おまけにディノニクスやカルノタウルスがまだ街の中にいるのなら、その危険性は火を見るより明らかだ。しかしだからこそリオーネは救出しようと躍起になっていた。


「リオーネ様、失礼。」


「ぐふっ!?」


部隊長の兵士はリオーネに謝った後に彼女の腹部を殴って気絶させる。


「隊長…!?」


「責任はワシが取る。今のリオーネ様は冷静ではない。」


幾ら衛兵達の隊長と言っても王女の側近とでは階級に差があるため、この行為は反逆罪に問われるだろう。しかしながらリオーネが危険なことをしないようにと自ら汚れ役を買ったのだった。


「明るくなったらキオナ様を捜索するぞ!今は暫く身体を休め、市民の治療を行うんんだ!」


「「「ははっ!」」」


無闇に探せば更なる犠牲者を生む危険性がある。それに城には大勢の市民が避難しており、彼らを守るためにも明るくなるまで待つのだった。当然、夜が明ければキオナを捜索するつもりだった。


「姫様、大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫ですわ。ところであなたの家は何処ですか?」


その姫様はエインに連れられて彼が住まう家まで避難していた。しかしながら彼女の眼の前には畑や家畜小屋の他にはあばら屋と間違うような納屋しかなかった。


「ここだよ。」


正解はあばら屋と間違うような納屋であり、馬小屋よりマシとは言え、エインはそこに住んでいると言う。


「え、ここに住んでいるんですの!?随分と狭苦しいですわね…。」


見た目も然ることながら中は三畳程の面積しかなく、城で暮らしているキオナと比べると…いや、お世辞にも比較にならない程に手狭で劣悪であるため彼女は言葉を失ってしまう。


「ごめんなさい…こんな所、イヤですよね。」


「いえ、今はそんなことを言ってる場合ではありませんわ。失礼致しますわ。」


やはりこんな所はキオナには不釣り合いだと思うエインだったが、彼女も彼女で今は助かるためにもそんなことを言ってる場合じゃないのは周知しているため上がり込む。


「ベッドは使ってください。僕は床で良いんで。」


「ありがとうございます…。」


ベッドとは言うが家畜の餌や寝床にする(わら)の上にシーツを被せただけの簡素なベッドだった。

  

改めて中を見てみるとそれ以外は農具や服、小さな窓が壁にあるだけで、本当に納屋を自宅にしているような感じにキオナは再び唖然とする。


「あなたはこんな暮らししてて辛くはないんですか?」


「もう慣れちゃったし、ここなら誰も僕を殴ったりとかしないしね…。」


キオナは見ていないが昼間はエインは目を背けたくなるような暴力を振るわれていたのだ。そんな彼に取っては数少ない憩いの場となっているのだ。


「あの…エイン、その敬語は使わず『キオナ』で良いんですよ。」


「でもそうしたら…。」


「女王として命令します!私といる時は普通に接するのです!」


自分達だけでいる時はフランクでいて欲しいと良い意味で職権乱用みたいなことをするキオナ。


「じゃあ…キオナ。」


「何でしょう?」


これではさすがのエインも逆らえないため、仕方なく呼び捨てにすると上機嫌で返事をするキオナ。


「初めて君と出会った時はお姫様だって思えなかったからまず驚いたよ。」


「あら、そうでしたわね。」


気を取り直して質問するが、最初出会った時は王女とは思えない格好をしていたため驚かされたことを話す。


「普通はドレスとか着ているのかと思ってたけど…。」


「四六時中ドレスでは息が詰まりますわ!何よりもリオーネや付き人が大勢いてあれこれ世話を焼きますし、勉強勉強でウンザリしてしまいますわ!」


王族とイメージが異なる格好だと指摘すると、キオナは何かが切れたように不満をぶちまける。


「テーブルマナーや王族としての振る舞いをメイドから口やかましく言われますし!私だって庶民の女の子が着る服とか着てみたいですし!自由に遊んでみたいですし!ああああー!!」


「キオナ…?」


よほど不満を抱えていたらしく、髪を掻き毟りながら地団駄を踏み叫ぶ様はお淑やかな雰囲気を掻き消すには充分だった。


「…だからわたくしは城からこっそりと抜け出してこの服を着ていたんですよ。」


「そうだったんだ…。」


キオナの迫力に圧倒されるも城にいるはずの彼女が何故ドレスではなく、カジュアルな服を着てエインの前に現れたかは納得がいった。


「ですがすぐにリオーネに見つかってしまいましたがね…そのせいでエインに多大な迷惑を…。」


結果的にすぐに確保されてしまった上に、事情を知らなかったとは言えエインが迫害どころか濡れ衣を着せられる羽目になったことにシュンとなって申し訳なくなるキオナ。


「…でも僕はそうは思ってないよ!だって、キオナと会えて話せたことや褒められたことに果物を一緒に食べたことは僕に取っては最高の瞬間だったよ!」


しかしながらエインは偶然とは言えキオナと出会えたことは生きていた中で最後の瞬間として記憶に深く刻み込まれていた。


「エイン…。」


「だからそんなに気にしないで!」


『キャン!』


「あ、もちろんロボと出会えたこともだよ!」


「忘れないでよ!」とロボはエインの膝の上に乗り、キオナを見てエインと共に微笑んでいるようだった。


「とにかく明るくなったら城まで行ってみようよ!」


「はい…!」


そんなエインとロボを見たキオナも微笑みを取り戻して力強く頷くのだった。


「そろそろ寝よ……っ!?」


「地震…?」


今日は色々あり過ぎたし明るくなるまで寝ようとしたが、ズウウン…ズウウン…と言う地響きが聞こえてきて二人はハッとなる。


「地震…ではないような…?」


『ウ〜…!』


地響きと揺れは大きくなるが地震にしては小刻み過ぎるし、一定のリズム感で伝わる地響きは自然現象の地震には到底思えなかった。ロボもそのことに気が付いているのか唸っていた。


『ヒヒ〜!?』


「今のは?」


「馬の鳴き声?」


すると地響きに代わって馬の鳴き声が聞こえてきたのだが途端に静かになってしまう。


「ひっ!?」


だが、ベチャッと音が窓からしてギョッとなって見てみると、()()()()()()()が窓にへばりついていたのだ。


『グルルル…!』


血で真っ赤に染まった窓の先では、闇夜の中で馬の身体を噛み砕き丸呑みにする巨大なシルエットが見えた。


『ゴルルル…!』


「…!こっちに来た!?」


一瞬だけだが目が合ってしまい、慌てて隠れるエインとキオナ。無情にもこちらに気が付いたのか地響きのような足音が近付いて来て二人は縮こまる。


『グルルル…ガオオオン!』


「いっ!?」


「はう!?」


間近にいるからか或いはよほど近くにでもいるのか鼓膜が破け、内臓が震えるほどの鳴き声が納屋の中に響き渡り更に恐怖で縮こまる二人。


『グルルル…!』


「…!ちょっと待ってて!」


唸り声が聞こえ納屋の壁の穴から腐った肉の臭いをさせる吐息が入ってくる。いつ壁をぶち破って乗り込んで来るか分からないと考えたエインはなるべく音を立てないように床を触っていた。


「何をしてるんですか?」


「ここに収納スペースがあるんだ、ここなら…。」


その床には四角い金属のフレームと握り手が備え付けられており、そこは本来は床としてはもちろんだが床下の収納スペースの蓋となっている場所だ。


「あれ…動かない…!?」


「そんな…!?」


だが長年使っていなかったこともあって、全く持ち上がらずキオナも共に引くがビクともしなかった。


「こうなったらそこのシャベルで…!」


自分達の力では無理だと分かれば道具の力を頼ろうと、納屋の壁に立てかけてあるシャベルを取りに行こうと物音を立てずに歩いていく。


『ギシャアア!』


「ぎゃあ!?」


「エイン!?」


だがシャベルを握った途端に壁が破られてディノニクスが押し倒してくる。


『グルルル…!』


「ううっ〜!?」


シャベルの柄を噛ませて踏ん張るものの、いずれ力負けしてしまう。


「止めなさい!?」


『ギャッ!?』


咄嗟にバケツを握ったキオナはディノニクス目掛けて投げつけ頭に命中させる。


『キャンキャン!』


『ギャア!?』


更にディノニクスの尻尾にロボが噛み付き、その痛みからエインから離れる。


『ギエエエ!』


「あっ!?」


『ギャン!?』


しかし怒ったディノニクスは咥えたシャベルと尻尾を振り回してエインとロボをキオナのいる方へと放り投げる。


「エイン!?」


「はっ!?」


キオナの悲鳴を聞いて投げ飛ばされたエインはすぐさま起きてシャベルを収納スペースのフレームにねじ込み梃子の原理でこじ開けようとする。


「ぐ…く…く…!?」


「エイン!?エイン!?」


しかしそれでも収納スペースは開かず、キオナも一緒に力を加えるが全く微動だにしない。


『グルルル…ギシャアア!』


「きゃあああ!?」


逃げないと分かったのかディノニクスは身体を低く構えた後に、一呼吸置いてからジャンプし二人に飛び掛かろうとする。


『ギエエエ!!』


『ギャッ!?』


だがその瞬間に襲われたのはエインでもキオナでもロボでもなかった。納屋が破城槌でも受けたかのように大きな音を立てて破壊され、バナナの形状をした鋭い歯が並んだ大きな口がディノニクスを襲ったのだ。


「開いた!?早く!?」


納屋は壊されたもののシャベルに力を入れるために体勢が低くなっていたことが幸いして、エイン達はその巨大な顎から逃れられたのだ。更に先ほどの拍子で収納スペースがこじ開けられ、二人と一匹は慌てて穴の中に飛び込む。


『グルルル…!』


『ギャア…!?』


「…!」


蓋を閉じようとして上を見上げると、自分達を襲おうとしていたディノニクスは巨大な顎と牙によって肉体が骨ごと噛み砕かれ、圧力によって傷口から血が勢いよく噴き出る光景が目に入った。


『ゴルルル…!』


動かなくなったディノニクスの肉体を挽き肉にするかのように噛み砕きそのまま夜空を見上げて一呑みにする。まるでディノニクスの肉を肴に月見をしているようだった。


身体の大きさはタイラントドラゴンと変わらないが、角も翼もない上に前脚は異様な程に小さく二足歩行をする風変わりな見た目ではあるが、ドラゴンにも匹敵する堂々たる王者の風格を持ち合わせていた。


『グオオオォォォン!!』


その生き物の名は『ティラノサウルス・レックス』。恐竜の時代に置いて最強として名高い存在であり、知らない人はまずいないとされる恐竜の帝王…その名前の意味でもある『暴君トカゲ』に相応しい存在だった。


『グルルル…。』


ディノニクスを食べ終えたティラノサウルスは真下を見てみるも、そこには誰もおらず先程食べたディノニクスの血溜まりがあるだけだった。


「「…!」」


その血がポタポタとエイン達のいる収納スペースへと落ちてくるが、彼らは息を殺して身を潜めていた。


『…ギエエエ!』


「うっ!?」


一度吠えた後に上から強い衝撃が伝わって来ると同時に天井が迫ってくる。どうやらティラノサウルスが収納スペースを踏みつけたようだ。


『ギエエエ…!』


「…良かった…気が付かなかったみたい…。」


ディノニクスの血溜まりが彼らの匂いを打ち消したお陰でティラノサウルスには気が付かれなかったようだ。収納スペースも多少上から押し込まれたもののギリギリ持ち堪えてくれた。


地響きのような足音が徐々に遠ざかるのが聞こえ、エインは安堵して腰を降ろすと左手に生温かい液体が付いて何事かと振り返る。


「あ…う…あ…!?」


しかし振り返らない方が良かったかもしれない。何故ならキオナは涙目で奥歯をカチカチ言わせながら震えており、しかも彼女の下半身は不自然に濡れて湯気を立ち込めさせていた。


危うく自分達が食べられると思い、ましてや目の前で食い殺される光景を目にしたのだから怖くない訳がなかった。その結果、彼女は粗相をしてしまい自尊心をものの見事に砕かれてしまったのだった。


「姫様ー!姫様ー!?」


「おーい、そっちはいたか!」


「ダメです!捜索範囲を広げます!」


夜明けで辺りが明るくなってからリオーネ達は衛兵達を連れてキオナの捜索を開始した。


幸いなことにモンスター達は寝静まっているか満腹なのかは分からないが、姿を消しており昨日までの大騒ぎが嘘のように静まり返っていたため捜索は容易だった。


「くっ…姫様が死んでいたら貴様は処刑だぞ!」


「この命…惜しくはありません!」


無茶苦茶言っているようだが、冷静にさせ無駄な犠牲者を出さないためとは言え、結果的にキオナを助けるのを妨害したためもしも死んでいれば部隊長は責任を取るために処刑されるだろう。


「隊長ー!リオーネ様!こちらに来てください!?」


「見つかったか!?」


すると捜索していた衛兵の一人が叫んでおり、慌てて駆けつけてみると粉々に壊されて変わり果てた納屋と血溜まりが目に入った。


「この血溜まり…まさか…?」


「おい!滅多なことを言うな!?」


納屋に隠れたは良いもののキオナはモンスターに襲われて、挙句の果てに殺されてしまったのではないかと憂いてしまう。


「誰かいるんですか!?」


「待て!下にいるぞ?!」


最悪の可能性を振り払おうとして他を捜索しようとするが、歪んだ収納スペースから声が聞こえてきて衛兵達は棒をねじ込んで梃子の原理でこじ開ける。


「うっ…!?」


「何だ貴様か紛らわしい!?姫様を探しているのに役立たずのお前なんかに用はない!?」


ただでさえキオナの生死にヤキモキさせてられているのに、収納スペースにいるのがキオナではなく寄りにもよって忌み嫌っているエインがいたことに八つ当たりをするリオーネ。


「姫様なら…。」


「……。」


エインは収納スペースに視線を戻すが、そこにはカピカピに乾いた唇と死んだ魚の目で小刻みに震えるキオナの姿があった。あれからずっと塞ぎ込んでおり、朝になっても彼女は立ち直れないでいた。


「き…貴様ぁー!?まさか姫様を…姫様を…ぬぎああああああ!?」


「うわっ!?」


変わり果てたキオナの様子を見たリオーネは、エインがキオナに手を出したのかと思い奇声を挙げながら胸倉を掴んで収納スペースから引きずり出す。


「こ…殺す!?殺してやる!?」


「ううっ!?」


「おい、止めろ!今は姫様を助けるのが先だ!」


剣を抜いて首を刎ねようとするが部隊長が止めて、まずはキオナを助けるべきだと諭す。


「…!こいつは城に連れ帰り、そこで見せしめに処刑してくれる!行くぞ!」


「あがっ!?」


腹を膝で蹴り飛ばしエインを気絶させたリオーネは、彼をそのまま乱暴に放り投げる。


「姫様は私が連れて行く。だがそいつは貴様が連れて行け!そんな汚らわしい奴は私が触れる価値もないと言うのに…責任を取ってその汚物を連れて行け!」


「ははっ…。」


キオナはリオーネが抱えるが、彼女は部隊長に気絶させて救援を遅延させた責任としてエインを連れて行くように命ずる。部隊長も命が助かっただけでも儲け物であるため喜んでエインを抱えるのだった。

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