無事に帰還するまでが遠征
「いたた…そんなに強くしないで…。」
「もう!またこんな無茶をして!良い薬です!」
「そうだよ!あんな危ない真似をして!」
水から引き揚げられたエインはキオナとルシアンから怒られる形で頭に包帯を巻かれていた。
「正直、今回はもうダメかと思っていたぞ。」
「こっちはもう冷や冷やしてたわ…私なんて空飛んだ時からもう…。」
と言うのもエインは外套のような物で空を飛んでキオナ達を救助しに行っただけでも無謀なのに、ホワイトアウトの嘴による殴打で頭を負傷したことなどかなり危険なことを連続でやったからだった。
「…にしてもどうやって空を…あなたや私達は魔法は使えないはずなのに…。」
「これを使ったんだよ。」
「それって…ウィルマの旗?それを身に纏っていたの?」
エルケに聞かれてエインはボロボロになった外套…ウィルマの旗を見せびらかす。
「プテラノドンの身体が翼の膜やロンギスクアマの羽みたいな鱗に風が当たって浮いたり動いたりしていたのを見て思い付いたんだ。」
「プテ…ロンギ…?」
「メリアスさんが仕留めたワイバーンとここへ来る前にエルケさんの顔に貼り付いたトカゲのことだよ。」
空を飛ぶ方法と手段を思い付いたのはプテラノドンとロンギスクアマの生態を見てからだった。
「だからと言ってあんな危ないマネは二度としないでください!」
「はい…。」
結果的に死者が出なかったから良かったものの今回ばかりは余りにも無謀過ぎるとキオナからしこたま怒られてしまう。
『クアアアアァァァ…!?』
「ホワイトアウト様!?」
「うわ!こいつまだ…!?」
鐘楼の瓦礫を押し退けて倒したと思っていたホワイトアウトが這い出てくる。
『アアアァァ…!?ケエエエ…!?』
「待て、あいつ瓦礫に翼を挟まれて出られないようだな。」
羽ばたいて再び空へと返り咲こうとするも片方の翼が瓦礫の下敷きになり動かせなくなっていた。
「ちょうどいいですわ!私達を食べようとした報いにあのワイバーンを仕留めて食べましょう!」
「さっき食われそうになった仕返しか?」
「さすがご令嬢…復讐方法もえげつないな。でも確かに味は気になるかもな。」
千載一遇のチャンスだと雛の餌にされそうになったエルケはホワイトアウトを仕留めて肉にしてしまうと提案し、リュカとマーキーも最初は難色を示すも味への好奇心が勝ったか乗り気になる。
「確かにこんなワイバーンを仕留めれて食べれるチャンスはもうないかも…。」
「この世界でワイバーンだけどドラゴンスレイヤーを名乗れるかも…。」
フィオナとレナも話を聞いて思わず魔法の杖を握り締めてホワイトアウトを見据える。
「あれだけの大きさのモンスターが魔法も無しに空を飛ぶには身体を軽量化する必要があるはず…可食部分はそんなにないかと…。」
「それでも貴重な食糧にゃ!おまけに鳥みたいだからやり方や食べ方はそんなに変わらないはずにゃ!」
食べられる部分は多くないとラスコは難しい顔をするがモナは仕留めた後に身を捌く気満々で包丁を握っていた。
『クアアアアァァァ!?』
「不用意に近付くな。確実に仕留めてからだぞ。」
狩人だからこそ手負いの獲物ほど恐ろしいのは知っているらしく、メリアスは弓を引きながらジリジリとホワイトアウトとの距離を詰めて脳天か喉を貫くように身構える。
『クアアアアァァァ…。』
「…!待って!」
「エイン…!何をしている。」
後は矢を放って穿つだけだがホワイトアウトの前にエインが立ったことでメリアスは引く力を弱める。
「このケツァルコアトルスは…殺しちゃダメだよ!」
「何故ですか?」
「あなた!私達が食べられそうになったのに庇い立てするのですか!」
エインはホワイトアウトを殺してはいけないと叫んでいたが、雛に食べられそうになったエルケと同じ目に遭ったキオナもこればかりはその理由が聞きたかった。
「このケツァルコアトルス…ホワイトアウトには子供がいるんだよ。」
「ええ、いますわ!その子供に私達は食べられそうになったのですわよ!それにあなただってそのワイバーンに頭を負傷させられたのに何故…。」
ホワイトアウトの雛がいることは食べられそうになったため言われなくても分かっていた。おまけに引き止めているのはホワイトアウトにケガをさせられた本人だと言うのに何故庇うか分からなかった。
「ホワイトアウトが死んだら…子供はどうなっちゃうの!?」
「…!親がいなくなれば雛も…。」
そう、ホワイトアウトはあの雛達の育ての親であり、もしここで仕留めてしまえば残された雛達は育ててくれる者がいなくなり、その後の運命は絶望的と言っても過言ではない。
「…何故あなたがそんな心配を…たかがモンスターではないですか。こんなの元の世界でもよくあったことですわよ。」
食べられそうになった恐怖で気が動転していたこともあってエインが何を言いたいか理解した途端に落ち着きを取り戻すも、元の世界でもよくあったことなのに今更何を言うのかと聞き返す。
「僕は元の世界のモンスターがどんなだったかは知らないけど…親がいなくなることは痛いほど分かるよ…今だって…。」
胸を押さえつけ押し殺すように呟くエインの台詞は確かな重みがあった。今思えばエインは魔法とスキルが身に付かず幼くして親から捨てられ孤独を嫌と言うほど味わった経緯がある。
「もしもここでホワイトアウトを殺したら…きっと…。」
「…エイン。」
ここにいる全員がそれを知らない訳では無いため、今彼がどんな気持ちか察して何も言えなくなる。
「だとしたらどうするんですの?このまま放って置いてもどの道死んでしまいますわよ。」
さすがのエルケも仕返しに仕留めようとは思わなくなったものの瓦礫の下敷きになって動けないのでは、他の翼竜の餌か餓死によって命を落とすのは明白だった。
「それは僕がやってみる…。」
『クアアアアァァァ!』
そう言うとエインは生体電流を纏って威嚇してくるホワイトアウトに近付いていく。
「もう…僕らを襲わない?それならそこから出してあげるよ…。」
『…!?』
意思疎通が伝わったのか威嚇していたホワイトアウトは吠えるのを止めて黙り込んでエインを見つめていた。
「子供のことが心配なんでしょ?僕がそこから出してあげるからじっとしてて…。」
『クアアアアァァァ!?』
『信用出来るか!』と言いたげに再び吠え立てるホワイトアウト。しかしエインは臆せず自身の目を見据えており、これにはホワイトアウトも再び唖然となる。
「お願い…。」
その視線はまるで強者と相対したかのようなプレッシャーを放っていたが、その内面は優しさと思いやりに満ち溢れているようで不思議な安心感があった。
『……。』
「…ありがとう。」
敵わない或いは承諾したかは不明だがホワイトアウトはもはや威嚇することも敵意も見せることなく嘴を近付けていきエインに撫でさせる。
「…神の御業です。」
「タイラントドラゴンの時と同じですね。」
「本当に何者ですの?」
呆気に取られるエルケ達を余所に、邪神として畏れていたホワイトアウトがエインを慕う様にリアーナは思わず祈りを捧げていた。
「ふん!えい!」
『……。』
エインは瓦礫を何とか押し退けていく中でホワイトアウトは大人しくそれを見守っていた。
『ギィー!』
『グルルル…!』
するとフォークは角を使い、ロボは前脚を使って瓦礫を退けていく。
「ふん…んぐぐ…!?」
『ギィー…!?』
ところが大きな瓦礫にぶち当たりエイン達でも退けられそうになかった。しかしその側に誰か駆け寄って来る。
「エイン…!私も手伝います…!」
「キオナ…!」
意を決したキオナがエインの側に寄って瓦礫を退けようと全身に力を込めていた。
「はあ〜…あいつのお人好しには困ったもんだねぇ。」
「でも、それで私達は今があるんだよ。」
エリーシャは溜息をつきながら、ルシアンは微笑みながら瓦礫を退けに向かう。
「頼むから自由の身になったからって俺らを襲うなよ。」
「言って聞くようなワイバーンかよ。」
リュカとマーキーはもちろん、他の仲間達も瓦礫を退け始める。
「……。」
「どうしたエルケ?最初と比べると何かしたそうだな。」
それを遠くからエルケが見ていたが当初見られていた嫌悪感やプライドの高さは何処にもなくモジモジした様子をシスカに見抜かれる。
「彼は何者なの?今まで虐げてきた私達だけでなく、食べようと襲って来たワイバーンにまであんなに優しく出来るなんて…。」
「それが奴の強さだからだ。お前を助けようとあいつは空を飛んだんだ。ある意味ではどんな魔法よりもスゴいのかもな。」
「私は…。」
迫害されても襲われそうになってもエインは誰に対しても優しさや思いやりを持って接しており、それはどんな魔法よりも素晴らしい物だとシスカから言われエルケを胸を押さえながら自然と足が前へ進んでいた。
「エインさん!」
「エルケさん…?」
「あの岩石トカゲの時は手伝えませんでしたが……今回ばかりは手を貸して宜しいですわよ!」
そしてエインとキオナが押している瓦礫に手をやって全身全霊で力を込めていた。
「エルケさん…皆…ありがとう!」
「行きますよ!せ〜…の!」
「えい!」
全員で瓦礫に向かって力を込めると、遂に動き出してホワイトアウトの翼から転がり落ちる。
『…クアアアアァァァ!』
「離れろ!」
自由の身になり翼をバタつかせて起き上がるホワイトアウトに一同は慌てて距離を取る。触るまで接近したとは言え危険性は未知数であるため慌てて安全確保と戦闘態勢に務める。
『…!クアアアアァァァ…!?』
「あ…翼の膜が…。」
「破けています…。」
ところがあれだけの衝突があったためにホワイトアウトの翼膜には穴が空いてしまっていた。
『クエエエ…。』
「やはりどの道こいつは…。」
「…待って!これを使えば!」
ホワイトアウトは自身の運命を悟ったのか力無く横たわり、助けても野垂れ死にだったかと落胆する一同だったが、エインだけは違ったらしく纏っていたウィルマの旗を見せびらかす。
「これで…どうかな?」
『…!クアアアアァァァ!!』
「問題ないようですね。」
翼膜の穴の空いた場所にはルシアンとラスコによって縫合されたウィルマの旗印が高らかに刻まれており、ホワイトアウトがこの国の王者であることを改めて知らしめているようだった。
『…クククク…。』
もう二度と空は飛べないと思われたが再び翼を手に入れたことにホワイトアウトはエイン達に感謝しているようだった。
「…これで大丈夫だよ。僕らはもう行くね。」
『クアアアアァァァ!』
約束通りホワイトアウトは彼らに手出しすることなく空へと飛び立ち、我が子が待っている巣の方へと飛び去って行くのだった。
「終わったか…しかし肝心の鳥の糞を集めに来たのに散々たる結果だったな。」
これで一件落着かに思えたが火薬を作るのに必要な鳥の糞を集めに遥々ここまで来たのに収穫がゼロと言うのも如何なものかとメリアスが呟いた。
「ふふふっ…それなら問題ありません!調べた結果ワイバーンの糞は硝酸ナトリウムを含んでいることが判明しました!」
しかしラスコは心配無用と笑いながら鳥の糞の代用品を見つけていた。
「暫くは大丈夫でしょうし、今後は硝酸ナトリウムはワイバーンの糞から採取出来ますね!」
「それでいきなり俺達にワイバーンの糞を樽いっぱいに集めさせたのか…。」
「ううっ…お風呂入りたい…。」
ドランとキャロラインは翼竜の糞集めをしていたらしく服や装備のあちこちに糞が付着していた。紆余曲折あったものの本来の任務であった硝酸ナトリウムは手に入った。
「ところでリアーナさん…生存者はあなただけですか?」
「いいえ、実は他にも生存者がいまして…こちらに来てください。」
話は変わってキオナは他にウィルマの生存者がいないか訊ねると、リアーナは頷いて生存者がいる場所へと案内する。
「皆さん、お変わりはありませんか?」
「おおっ…!リアーナちゃん!」
「あたしらは大丈夫だよ!」
案内されたのは地下室らしい場所でその中にはケガ人もいたが、リアーナの顔を見て元気そうな表情をする生存者がたくさんいた。
「その人達は?」
「初めまして、私はグランドレイク王国の第四王位継承者にて国王代理のキオナと言います。何卒宜しくお願いします。」
「お…王女様!?しかもグランドレイクの!?」
「我々を助けにわざわざ…!?ははー!?」
見慣れない人間が大勢いるために救援が来たと思っていたが、その中に高貴な王女らしき人物がいるなと思えば誉れ高いグランドレイクの王女が直接赴いてくれたことに人々はひれ伏すのだった。
「ここはもはや危険です。我が国へいらしてください。」
「おおっ!良かったぁ…。」
「私達…助かるんだね!」
「ありがたや…ありがたや…。」
やはり翼竜達にはウィルマの人々も追い詰められ困っていたらしく、キオナの申し出を快く受け入れるのだった。
『『『クアアアアァァァ…!』』』
「ウィルマ…憧れの国でしたがこんな形で別れることになるとは…。」
ホワイトアウトの抑止力があったのか他の翼竜達は襲うことなく静観するか飛び回るだけであったため夜明けと共に無事に出国を果たすのだが、エルケやウィルマの人々はこんな形で国を出ることになり名残惜しそうに国境の壁を見つめていた。
「ここからならタイラントドラゴンの縄張りから離れているし安全に帰還出来るはずだ。」
「けど、他にも危険なモンスターがいるかもしれん…用心しろ。」
ウィルマへ来たのはティラノサウルスの縄張りを回避するためでもあったが、それでなくとも他に危険な生物がいてもおかしくないと仲間達に警告する。しかし緊張感のない虫の音が聞こえてきた。
「はう…お腹空いたのだ…。」
「そう言えば海で食べてから何も食べてないよね…。」
その虫の音とは腹の虫の音色であり、昨夜は命の危機から助かったために疲労ですぐに眠ってしまったがホッとしたのか空腹が襲い掛かってくる。
「あの巨大なドラゴンが踏みつけなきゃ、まだ食糧に余裕があったんだけどにゃ〜…。」
海で出会ったドレッドノータスに馬車ごと踏み潰されてしまったために食糧は雀の涙ほどしかなかった。
「何か食い物ねぇかな…。」
「木の実とか魚とか…。」
「またあのブラッディダイルに出くわすかもよ…。」
レイの言うブラッディダイルとは川で魚釣りをした際に襲って来たバリオニクスのことだ。
「あのイノシシと卵の味が恋しいよ…。」
「うわぁ…朝飯に食いてなぁ、それ…。」
「そのイノシシと卵って持ってねぇのかよ。」
ラピスはエイン達と出会う前にパーティーが仕留めたと言う見たことないイノシシと卵を手に入れていたが生憎と持ち合わせておらず食べる想像と食欲を増進させただけだった。
「ここで少し休みましょうか。食糧があれば調達しましょう。」
ほぼ全員の頭が食事のことでいっぱいになり暫く休息と食糧調達をすることとなった。
「何か仕留めやすい鹿とか鳥とかいねぇかな…。」
「家畜用に何か連れて行きたいところだな…。」
「前のコリトサウルスとかいないかな。」
ドランやメリアス達は獲物を狩りに向かっており、狩猟はもちろん以前出会ったコリトサウルスや他に家畜用になる生き物がいないか探し回っていた。
「だから僕が呼ばれたんですね。」
「ああ、その時は頼む。」
エインもこちらのチームに加わっており、家畜になりそうな生き物を国まで連れ帰るように承っていた。
「お?…卵食べたい人〜?」
すると先頭を歩いていたドランが立ち止まり、他の仲間達も何を見つけたのかと横から覗き込む。すると目の前には楕円形の卵が円を描くように、点々と無数にある盛り上がった土の中に並んでいた。
「これは…何かの巣かしら?」
「鳥にしては少し大きいな?」
鳥の卵にしては見たことない形状とサイズをしており、普通は木の上の巣の中に産むのに土の上に産むなんて不自然だった。
「何にしてもこれで食糧は手に入ったな。」
「そうだな!早速目玉焼きに」
卵が手に入って上機嫌なリュカとマーキーの側でガサガサと茂みが揺れ全員が警戒する。
『クエエ…?』
「何だ?鳥…なのか?」
「翼がないわよ…。」
出てきたのは半円状のトサカと嘴に羽毛と鳥の特徴を兼ね備えた小型の恐竜だった。恐竜は見慣れない生き物がいることに首を傾げてこちらを見ていた。
「あれは『オヴィラプトル』だよ。」
「帯…?」
現れたのはオヴィラプトルと呼ばれる恐竜らしく次第にこちらに歩み寄って来る。
「おい、こっちに寄ってくるぞ。肉食か?」
「ううん、オヴィラプトルは雑食だけど基本的に草しか食べないよ。」
こちらを食べようと迫っているのかと警戒するもさほど凶暴な生き物ではないとエインが補足する。
「なら、安心だな!ほ〜ら、コッコッ!ほ〜ら、コッコッ!」
「鶏かよ!」
敵じゃないと分かりドランが鶏でも扱うかのようにからかい始め、周りにいた一同も思わず笑ってしまう。
『クエエエ!』
「どわあああ!?」
「いや!凶暴じゃん!」
しかし気に食わなかったのかオヴィラプトルは嘴でドランを啄きながら追いかけ回し、どの辺が大人しいのか説得力がなかった。
『『『クエエエ!クエエエ!』』』
「…どうやらここはこいつらの巣のようだな。卵を盗もうとしたから怒っているらしいな。」
騒ぎを聞きつけて他のオヴィラプトル達も集まり嘴をカチカチ鳴らして威嚇してくる。
「う〜ん…木の実が見つからないなぁ〜。」
「やっぱり早々手に入る物じゃないよね…。」
「…あの…どうでも良いんだけど…何で私にピッタリくっついてるのかな?」
フィオナとレナは両側から挟む形でラピスにピッタリとくっついて歩いていたが、ラピスはどうでも良いとは口では言いながら歩き難くて困っていた。
「だってここ何がいるか分からないからさ〜…一緒にいて欲しいなって。」
「そうそう!ラピスさん強いですし!守って欲しいなぁ〜。」
二人は完全にラピスにゾッコンらしく男からすればかなり羨ましい状況になっていることは間違いなく、他の男性陣は嫉妬の視線をラピスに向けていた。
「何やってるんだか…ん?あれは何の音?」
「何かいるわ。」
そんな光景を呆れるか苦笑いしていたレイとアルロは物音と生き物の影を目の当たりにする。
『ブオオオオ…。』
茂みからこっそりと覗くと木に前脚を載せて実っている果実を食べている恐竜がいたのだ。
「あれは…角の騎士!」
その生き物は川でバリオニクスを追い払ったフォークと同じ恐竜『トリケラトプス』によく似ていた。
「けど、角の数と大きさが合わないわ…レイくんは何だと思う?」
「僕に聞かれてもエインくんでないと…まあ、明らかにブラッディダイルを追い払ったのとは別種だろうね。」
エインがいれば何なのかは分かるが確かにトリケラトプスと同じグループには属するも、特徴的な角は鼻先にある前を向くように曲がった長い角だけで、フリルには二本の角飾りが天辺に生えているなど全くの別の種類の恐竜である『セントロサウルス』だった。
「しかしあの角とフリル…正しく騎士に相応しい出で立ちだ!是非とも近くで謁見したいものだ!」
だが、ラピスからすればランスのような角と盾のようなフリルのある四足獣は一括りに『角の騎士』として敬愛しておりキラキラした目で見つめているとパキッと小枝が折れる音が足元でする。
『…!』
「あ、しまった…。」
音に気が付いたセントロサウルスは鼻をヒクヒクさせてこちらの存在に気が付き、前脚を木の幹から地面に降ろして蹴り始める。
「あー、済まないね。私達は別に食事に邪魔をしに来た訳じゃないんだ。ただ、君の姿があまりにも勇猛果敢な騎士に見えた物だからつい…。」
『ブルルル…!』
「って、ちょっと…何か興奮してない!?」
エインのように言葉が通じるかどうか分からないがラピスは何とか説得しようとするも、セントロサウルスの目付きがだんだんと殺気に満ち溢れていくことにレイ達は気圧される。
『ブオオオオ!』
「ひゃあああ!?」
「突進して来たぁー!?」
「そんなに気に食わなかった!?」
体長六メートルで体重ニトンの身体を持つセントロサウルスが角を正しくランスのように構え突進してくるためラピス達は大慌てで逃げ始める。
『ブオオオオ!グオオオオ!』
「木や岩を力任せに吹き飛ばして来るよ!?」
「それに木の実しか食べないのに何で執拗に追い掛けて来るの!?」
セントロサウルスは果実を食べるため植物食であることは間違いないが、目の前に木があろうが岩があろうがお構い無しにラピス達を追い掛けて来るのだ。
「どっちにしても逃げ切れません!?何か方法を考えなければ…!?」
逃げている内にいつの間にかエルケ達は周囲に獣や恐竜や人間の骨が周囲に散らばっている、安全地帯とは程遠い開けた場所に出てしまった。
「もしかしてここは…。」
『『グルルル…!』』
「もしかしなくともモンスターの住処だよ!?」
周囲の骨を踏みしめながら狼とハイエナを足して二で割った獣の『ヒアエノドン』達が姿を現す。
『ブオオオオ!』
『『グアアア!』』
「いつものことですが…どんどん状況が悪くなるばかりですね!?」
後ろから荒ぶるセントロサウルス、前からは飢えたヒアエノドンによる挟み撃ちの状況に立たされていた。
「ここは私が引き受ける!皆はここから避難するんだ!」
「一人じゃ無理ですよ!」
『グオオオ!』
剣を抜いてヒアエノドンを相手にしようとするが、追いついたセントロサウルスはヒアエノドンを前にしても一時停止するどころか寧ろ走る速度を上げて向かってくる。
「はあっ!?躊躇い無し!?」
「避けてください!」
『ブオオオオ!』
『『ギャン!?』』
走り出したら急には止まれないとは言うが、明らかに止まる様子が無いためにレイ達は慌てて横に飛んで回避し、さすがの勢いにヒアエノドンもステップで避けるのだった。
『グオオオオオ!』
「これはスゴい殺気…いや、もはや何処か常軌を逸脱している!」
この異世界に置いて人間はか弱い存在ではあるため立ち止まることはないだろうが、捕食者であるヒアエノドンを前にしても止まらないのはおかしかった。
最初は分からなかったがセントロサウルスは今や激情に支配され、一つの目的に執着しているようで側にいるだけで押し潰されそうなぐらいの気迫を放っていた。
『グルルル…グアアアアア!』
『ブオオ!?』
『ガルル…!』
しかしそれでもお構い無しだとヒアエノドン達は背中や脚に噛み付き動きを封じてくる。
「今の内だよ!」
「早くここから離れましょう!」
結果的に意外な援軍となってくれたため振り払われる前に急いでこの場から脱するのだった。
「皆さんは大丈夫でしょうか?」
「ええ、今日まで生きてきたのですから大丈夫ですよ。」
ベースキャンプではキオナとルティカ、そしてリアーナを始めとするウィルマの人々と共に帰りを待っていた。
『クエエエ…。』
『クククク…。』
「ん?何なんのだ、あの変な鶏は?」
ところがベースキャンプに来たのは数体のオヴィラプトル達だった。見慣れないモンスターに首を傾げていると、後方から見慣れた人物達が歩み寄って来た。
「皆、お待たせ。」
「エイン、お帰りなさい。そのモンスター達は?」
エイン達がオヴィラプトル達を引き連れて帰ってきたためにキオナは何なのかと質問する。
「オヴィラプトルだよ。この子達も国に連れて帰ろうと思ってね。」
「このモンスターからは卵が採取出来ますので鶏の代わりにちょうど良いかと。」
「でも採る時は気を付けてな…。」
散々オヴィラプトルに啄かれたらしくドランの手には包帯が巻かれ衣服もボロボロになっていた。
「ラピスさん達は?」
「木の実を取りに行ったはずですが…。」
まだ帰って来てないラピス達のことが気になっていたが、反対側の茂みからガサガサと音がして数人の見慣れた人間が姿を現した。
「「「はあ…はあ…。」」」
「あの…どうしたんですか?」
「何かグロッキーだけど大丈夫なの?」
元から体力的に不安がある魔法使い達が疲れ切って今にもダウンしそうな様子で帰って来たため何事かと心配になる。
「早くここから離れよう!?角の騎士が…襲って来るんだ!?」
「はい?」
何があったかは知らないがラピス達は大急ぎでここから立ち退くように勧告してくる。キオナ達は訳が分からないものの、のっぴきならない様子を見て急かされながらも荷物を纏めて空腹の体に鞭を打って出発するのだった。
『グオオオ!』
『ギャン!?』
その頃、ヒアエノドンはセントロサウルスの角に突き上げられ木に叩き付けられた後に動かなくなる。
『…!ブオオオオ!!』
ラピス達を取り逃がし、邪魔をしたお返しにとヒアエノドンの死体をこれでもかと踏み潰しグチャグチャにするセントロサウルス。
『グオオオ!』
『『『グオオオオオ!!』』』
たった一頭でヒアエノドンを仕留めたのかと言えばそうではなかった。いつの間にかセントロサウルスは数が増えてどの個体も強い激情を孕んでいた。
そしてこの出会いが後に大きな事件へ繋がるのだが誰も知る由もなかった…。




