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『蛇の神』への福音

「こっちだよー!」


『『『クアアアアァァァ!』』』


思いがけない方法で空を飛ぶエインはケツァルコアトルス達を引きつけ、国の空の彼方へと飛び去っていき姿が見えなくなる。


「行っちゃった…。」 


「まさか空を飛んじゃうなんて…。」


人間が魔法も無しに空を飛べるなんて考えもしなかったエリーシャ達は暫く呆然としていたがすぐにハッとなる。


「あいつ、なんて無茶を…追いかけるぞ!」


「けど、何処をどう探したら…姫様とエルケは攫われたし、エインは自分でどっかに行っちまうし…。」


三人共、空を飛んで行方が分からなくなってしまったため探す範囲が更に広まってしまった。


「奴らのホームグラウンドである空に近い建物を伝うのは危険だが…奴らの住処も高所にあるはずだ。」


「ずっと飛び続けている訳じゃないですしね。行くしかないですよね。」


鳥の巣だって空を飛ぶ鳥が天敵に襲われにくくしたり飛ぶための高度を必要とするため、翼竜達もウィルマの背の高い建物に巣を作っている可能性がある。


虎穴に入らずんば虎子を得ず。シスカが言うように危険は伴うものの攫われた二人は巣に連れ込まれた可能性もあり、自分達は建物を探し周り見つけ出すことが重要だった。


「う…ううん…ここは…?」


「何ですの…この匂い?」


攫われたキオナとエルケは翼竜に攫われ空を飛び回ると言う未知の感覚に気を失っていたらしく、気が付くと自分達は豪華な造りの部屋の中にいるのだがそれに似合わず辺りには独特の刺激臭が充満していた。


「随分と豪華…とは言い難いですわね。」


「無数の爪痕に、悪臭を放つ物質…ワイバーンの爪痕と排泄物ですね。」


余りの匂いに鼻を摘んで辺りを見回すとその部屋は元々白と金の装飾が施された豪華な部屋だと言うのは分かった。しかし爪痕や糞尿が部屋を埋め尽くし、ガラクタが散乱していて部屋を台無しにしていた。


「私達を攫っておいて食べずにこんな悪辣な場所に置き去りにするとはどう言うつもりなんですの。」


「運が良かったと言うべしでしょうが、置き去りにした辺り後で食べるのでしょう。ここはきっとワイバーンの住処なのでしょう。」


空中に攫われた時はそのまま食べられるかと思っていたが、運良くケツァルコアトルスは食べずに自身の巣へと連れ込んだだけだった。


「それにしても、ここはまさか…Sランクの賢者や魔術士の方だけが訪れる幻の『円卓の尖塔』!?」


憧れて推薦を受けるだけあるのかウィルマの諸事情に詳しいエルケは自分達がいる場所、及びケツァルコアトルスの巣が位の高い人間だけが訪れることが出来る場所だと判明した。


「まさか…こんな形で円卓の尖塔を訪れるとは…。」


しかしそれもあの忌々しい翼竜達が滅茶苦茶に荒らして見る影もなく、獲物として連れ去られた上に変わり果てた憧れの場所を目の当たりにしてエルケは落ち込んでしまう。


「…ここら辺には妙にキラキラした物がたくさんありますね。」


話題を変えようとキオナは周りにあるガラクタを見て銀食器、宝石をあしらったアクセサリー、魔石が嵌め込まれた魔法の杖など統一性がないもののどれも光沢を放っている代物ばかりだと口にする。


「もしかしてあのワイバーンが集めたのでしょうか。エルケさん、まずはここから脱出しましょう。」


「無駄ですわ。ここは選ばれし者の中で更に最上位の人だけが成り上がることが出来る最高位の場所…。」


今は助かったもののいずれケツァルコアトルスに食べられるためエルケに脱出する手立てはないかと聞くも彼女は落ち込んだ様子でバルコニーで途方に暮れていた。


「ここへ来るには飛行魔法や浮遊魔法で空を飛び、高高度を維持しなければ来れない場所…故に今の私達には…。」


ここは空を飛ぶ魔法と高度を変化させる浮遊魔法を同時発動と常時発動をする必要があり正しく選ばれし者しか来れない場所である。そのため地上はバルコニーから全く見えず文字通り天と地の差があるのだ。


『『『クオオオ…!クオオオ…!』』』


「うっ…確かにこれでは脱出は…。」


「逃げようがありませんわ…。」


この異世界に置いてここへ来れるのは翼竜だけであり、今の人間に脱出する手立ては皆無だと落胆するエルケやキオナを嘲笑うように『タペヤラ』達が廃墟となった塔の中で鳴き声を挙げていた。


「っ!誰ですの!」


ここには自分達だけしかいないし、ケツァルコアトルスが戻って来たのならあの巨体で丸分かりだが、それとは別の何かの物音がガラクタの山から聞こえてくる。


『『ギャアッ!ギャアッ!』』


「ワイバーンの子供!?」


「まさか私達を食べようとしたのではなくて…子供の餌にするために!?」


物陰からケツァルコアトルスをそのまま小さくさせた雛が姿を現すも決して可愛いとか言ってられなかった。


何故なら雛とは言えサイズは既に人間の身長を頭一つ抜きん出ており、しかもここへは雛の餌として連れ込まれたから抵抗しなければ瞬く間に餌食となるだろう。


『『ギャアッ!』』


「きゃあ!?」


「止めてくださいまし!?」


雛達は待ち詫びたと言う様子で翼を羽ばたかせてキオナとエルケに迫り、(くちばし)で服を(つつ)いて破いていきいずれ二人の肉を(ついば)むだろう。


「あう!?エイン…!?」


『ギャアッ!……?』


一羽がキオナの身体を啄こうと嘴を振り上げるも後ろから高級そうなアンティークが投げつけられる。


「えい!えい!」


『ギャアッ!』


『クエエエ!』


キオナとエルケは抑えつけられていて互いに助けられないし、誰だか知らないが少なくとも第三者がいてケツァルコアトルスの雛達の注意を引いているようだ。


「今の内です!逃げてください!」


「ありがとうございます!」


注意が逸れたのを見たキオナはエルケの手を引いてその場を脱してガラクタの山の中に隠れる。


「大丈夫ですか?」


隠れた直後に助けてくれた恩人…修道服を着用した十四歳ぐらいの金髪のシスターがこちらに合流してきた。


「あなたは…見掛けない方ですが、もしかしてウィルマの方ですか?」


キオナ達とは初対面の人物でありウィルマの生存者ではと指摘する。


「私はリアーナと言います。この国のシスターとして修行をしていました。ある日を境に見たことのないワイバーンが空から襲来しこの有様に…。」


「そうでしたか…。」


彼女…リアーナはウィルマの住民のようだが、世界に名高い魔術国家もまた異世界のモンスター達の襲撃の被害を受けていたことを打ち明かす。


「ところであなたは何処から来たんですの?もしかしてここから脱出する方法を知っているのですか?」


彼女も危機的状況を今まで生き抜いて来たのだろう、だからこそこの尖塔から脱出する方法を知っているのではと考える。


「すみません…実は私は皆のために食糧を集めていたら、ホワイトアウト様に連れ去られて…。」


「ホワイトアウト…様?」


残念ながらリアーナもここへは自分達と同じように攫われたらしいが、聞き慣れない固有名詞に何のことかとキオナは首を傾げていた。


「先程の白いワイバーンのことです。ウィルマのワイバーン達を纏め上げ、一線を画した美しさと恐ろしさに私達は畏敬の念を込めてそう呼んでいます。」


どうやらウィルマの人々は魔法が使えなくなる未曾有の危機の中で、翼竜の中でも身体が恐ろしく巨大なことに合わせ、一際美しく目立つ白いケツァルコアトルスを『ホワイトアウト(白い闇)』と呼称し邪神のように畏れていた。


『『ギャアッ!ギャアッ!』』


「とにかく今は隠れてください!ホワイトアウト様のご子息がまだ彷徨いています!」


結局のところ自分達は邪神のように畏れられるホワイトアウトの巣の中でその子供と共に閉じ込められたことになり今は逃げるしかなかった。が、視界の隅で何かがチカチカと光っていた。


『『…?』』


それに気が付いたのかキオナ達を放置して雛達はそちらに注意が向く。


「……!」


「え…この声は…?」 


しかしキオナも遠くから徐々に聞こえ始める一番聞きたかった声にハッとなるも、すぐさまおかしいことに気が付く。


「あり得ないですわ…ここはとても高い場所にあるのに?」


「ルケ…ん!キオ…!!」


現実逃避か走馬灯で幻聴でも聞こえてるかと思っていたが、聞こえなくなるどころかどんどん声がハッキリと伝わってくる。


「エルケさん!キオナー!!」


「気の所為ではありません!エインー!!」


もはや良い意味で現実逃避は出来ないほどに声が聞こえ、キオナは雛の側をすり抜けてバルコニーに移動し聞こえた人物の名を叫ぶと遠くの空から一番出会いたかったエインの姿が見えてくる。


「っ!キオナー!!」


彼もまた自分を呼んだ相手を見つけて腕を畳んで一気に急降下する。


「エイン!エインー!!」


「キオナ!今行くよ!」


もうすぐでお互いに再会出来る。そう思われた時、目の前が一気に()()()()


『クアアアアァァァ!』


「うわっ!?」


「ホワイトアウト様!?」


正しく白い闇と言われるホワイトアウトが巣の入り口であるバルコニーの前で翼を広げてエインの行く手を阻む。


しかしながらここはホワイトアウトの巣であり、そこに雛を守るためにエインの侵入を妨げようとする。


「ぐっ…!」


『クアアアアァァァ!』


これには一度引き下がるしかなくエインは腕を広げてそこから離れるも、ホワイトアウトは逃がすものかと追跡してくる。


「エイン!?」


「姫様、危ない!?」


『ギャアッ!』


呼び掛けられてキオナは咄嗟に雛の嘴を避ける。エインの心配もだが自分の心配もしないと彼が助けに来る前に雛の餌食になってしまう。


『クアアアアァァァ!』


「早い…!」


身体が大きい割にはホワイトアウトはエインのスピードに追いついていた。付け焼き刃同然に空を飛んでいるエインと比べれば、飛ぶために身体を進化させた翼竜から比べれば遊戯も同然だろう。


「追いつかれる前に何とかキオナ達のいるあそこに行かないと…それ!」


『クアアアアァァ!?』


しかし負けるものかと左腕を大きく広げ、右腕を閉じたエインは右に旋回してホワイトアウトの視界から消えると同時に上昇気流に乗っかり一気に高高度へと上昇する。


「キオナー!エルケさんー!」


「エイン!来てくれたのですね!」


上手く撒いて上昇気流に乗ってバルコニーにまで来たエインはキオナとの再会に喜び合う。


「あなた、どうやってここに…。」


「今は早くここから逃げないと…!」


エルケからすれば無能と罵っていたエインが魔法も無しに空を飛んでいることを説明して欲しいが、そんな暇はないと言わんばかりにキオナとエルケを避難させようとする。


「でしたらまずはリアーナさんとエルケさんからお願いします!」


「…分かった!僕の背中に!」


エルケのことは分かるがリアーナとは初対面であるため最初は戸惑うもエインは生体電流で肉体を強化して二人を背負おうとする。


「そんな…あなたは?」


「そうですよ!あなたは…。」


「私は構いませんから先に!それに幾ら何でも二人しか…。」


『『ギャアッ!』』


同じ巣に連れ去られた者同士お互いに順位を譲り合うも、雛が三人を見つけてもうすぐ側まで来ていた。


「さあ、早く行ってください!?」


「うわっ!?キオナ!?」


雛から逃げるためキオナは二人をエインに託すように突き飛ばす。対するエインも二人分の重量が背中に乗りそのままバルコニーから落ちるも何とか気流に乗る。


「ひええ…!?そ…空を飛んでます…!?」


「キオナ…必ず助けに戻るからね!」


気流に上手く乗りながらゆっくり降下していき、エインは必ず助けに戻ると誓うように巣を見上げる。


『『ケエエエ!』』


「こんな時に…来ましたわよ!」


姿形はオルニトケイルス似ているがより小型な『アンハングエラ』がエイン達を狙ってくる。


『ケエエエ!』


「この人達に手出しはさせない!」


生体電流を指から放ってアンハングエラが近付かないように威嚇するエイン。


『ゲゲゲッ!』


「うわっ!?」


ところがニクトサウルスが前から来てぶつかりそうになるも、エインがいち早く気が付いて身を翻したことで事なきを得る。


「ひゃあ!?もっと丁寧に飛んでくださいまし!?」


「うぷっ…!?」


しかし背中に必死にしがみついているエルケとリアーナからすれば空を飛ぶだけでも初めての経験なのに空中で身を翻されるように飛ばれたら恐怖と未体験の感覚に吐き気を催してしまう。


「僕の電気の力だけじゃダメだ…考えは分かるけど早過ぎるしどうにかしないと…。」


生体電流で翼竜達の考えなどは分かるが相手は空を飛ぶことに進化した生物種であるため、考えが分かってもエインの回避が翼竜の飛ぶスピードに追い付けないのだ。


『クアアアアァァァ!』


「危ない!?」


「うひゃっ!?」


しかし考えている暇は与えないとケツァルコアトルスが襲い掛かり、エインは何とか避けるも通った際に乱気流が起きて振り回されてしまう。


「お願いですから今は回避に専念してください!?」


「は…はい!」


翼竜に襲われながらパラシュート降下しているため、さすがのエルケも忌み嫌っている場合ではないらしく命綱的な存在であるエインに懇願する。


「すみません!あそこの池に私達を!」


「あ、分かりました!」


リアーナが指差した先には大きな池と大理石で作られた噴水が設けられており、彼女がそこの水の中に降ろして欲しいとエインにも分かり徐々に降下していく。


「あそこに降ろしたら僕はキオナの所に行きます!」


「その…あなたには色々言いましたが…っ!?」


後少しで着水出来そうなところでエルケは申し訳なさそうにエインに語りかけるも上空が()()()になり顔に赤い液体が滴り落ちて来たことに我が目を疑う。


『クアアアアァァァ!』


「あがっ!?」


「エインさん!?」


不気味な鳴き声と共に上空にはホワイトアウトがいて、その嘴がエインの頭に当たり血を流させていたためにエルケも思わず彼の名前を叫ぶ。


「うぐっ…!?」


「「きゃあああ!?」」


嘴が当たって意識を手放してしまったエインは飛行体勢を取れなくなり真っ逆さまに落ちていく。


『クアアアアァァァ!』


ダメ出しするようにホワイトアウトが翼を畳んで急降下してくる。


「そんな…ここまでですの!?」


「ああ…神よ…何故にこんな残酷な仕打ちを…せめて彼女らに救いを…!」


このままでは追いつかれるとエルケは覚悟を決め、リアーナは神に祈りを捧げていた。


「かはっ!?おおおおっ!!」


「「ひゃああ!?」」


しかし水面に当たる寸前に祈りが届いたのかエインが意識を取り戻し、身体を大の字にしたことで高度が維持され墜落することはなく水面ギリギリを波を立てて滑空するのだった。


『クアアアアァァァ!?』


対するホワイトアウトはあそこで体勢を立て直すとは思わなかったらしく、翼を広げて急降下を中断しようとしたが間に合わず池に落ちてしまう。


「やりましたわ!」


『クアアアアァァァ!』


ところがホワイトアウトは執拗に狙っているらしく、羽ばたいて水から出ると再び追ってくる。


「って、しつこいですわよ!」


「…二人共!ごめんなさい!?」


「え、何を…きゃあ!?」


謝ってきたと思ったら二人の視界がひっくり返り、突然のことでエインの背中から池の中に落ちてしまう。


「こっちだよ!」


『クアアアアァァァ!』


「ぷはっ!?エインさん!?」


生体電流を飛ばしてホワイトアウトの注意を引き付ると同時に上昇気流に乗って空高く飛翔していき、ホワイトアウトは水に落ちた二人に見向きもせずに上昇していく。


「…あの子は一体…?」


「おい、何か落ちたぞ!」


「見ろ!池の中に誰かいる!」


この異世界で自力で飛べる人間なんて早々いないために、リアーナは呆然とした様子で飛び去ったエインを見ている中で人の声がしてくる。


「エルケちゃんよ!大丈夫!?」


「姫様も…って、誰だそのシスターさんは?」


駆け付けたのはメリアス達であり、連れ去られたエルケが無事だったと安心するもキオナがいないことと見慣れないシスターがいることに首を傾げる。


「エインくんはどうしたの?」


「姉様は!?」


「それが姫様を助けようと、ワイバーンの攻撃で頭をケガしているのに再び空に…。」


池の中から引っ張り上げられる中でエルケはエインが負傷したことと巣のだいたいの位置を指し示した。


「頭にケガって…エインの奴、一人で無茶し過ぎだっての!」


「私達で何とか出来ないかな?」


「どうやって?あんな高い位置まで援護するのは…。」


「それにまた霧が出てきたわ。」


自分達にも何か出来ないかと考えるもエインの真似事はおいそれと出来ないし、あんな高い位置にしかも霧が出て見えないのに援護をしたくてもかなり難しかった。


「霧…はっ!それですよ!皆さん手伝ってください!」


最後のアルロの言葉にラスコはハッとなり何かの準備をするように促す。


『『ギャアッ!ギャアッ!』』


「はあ…はあ…子供なのにお強いですわね。」


巣に残されたキオナはガラクタの中から魔法の杖を引っ張り出して杖術で応戦していたが、肩で息をしておりもはや餌食になる寸前だった。


『『ギャアッ!』』


「エイン…!?」


もはやこれまでかと目を瞑りエインの名を呼ぶキオナだったが、背後でバルコニーの下から影が飛び出した。


「ん…?」


『『ギャア…。』』


何時まで経っても啄かれる痛みや衝撃が来ないため恐る恐る目を開けると、雛達はキオナの前に立つ人物が手から放つ青白い光に釘付けになっていた。


「はあ…はあ…キオナ、お待たせ!」


「エイン!……ひっ!?」


信じて待っていたエインが来てくれたことにキオナは顔が明るくなるも、頭から血を流しているエインを見て思わず悲鳴を出してしまう。


「エイン…あなたそのケガは!?」


「はあ…はあ…ごめん、ちょっとね…。」


キオナは負傷を心配するもエインは彼女を怖がらせてしまったかと謝ってくる。


『クアアアアァァァ!』


「きゃあ!?」


「うわっ!?」


ところが二人の仲を割くようにホワイトアウトが巣の中に入り込んで嘴を振り下ろして来た。


『クアアアアァァァ!ゲエエエ!』


「キオナ!外に!」


「はい!?」


雛に手出ししたと思いホワイトアウトはエインを執拗に啄こうとしていた。しかしこれ幸いとキオナにバルコニーに向かうように求める。


『クアアアアァァァ!』


「わっ!」


『『ギャアッ!ギャアッ!』』


「とっ!?」


ホワイトアウトの嘴はガラクタの山の中に入ったり、雛達の攻撃はスライディングして避けたりするエイン。


「エイン!よろしいですわよ!」


「キオナ!行くよ!」


『クアアアアァァァ!』


そうこうしてる間にバルコニーに立ったキオナは駆けてきたエインの背中にしがみつき共にダイブし、ホワイトアウトは追うように再びバルコニーから飛び立つ。


『クアアアアァァァ!』


「やっぱり早い…!」


先程よりは重量は軽くなったとは言えそれでもホワイトアウトに追いつかれそうだった。


『『『ギャギャギャギャ!』』』


「エイン!小型ワイバーンが!?」


「『ディモルフォドン』だよ!?」


まるでホワイトアウトに追いつかせるようにディモルフォドンの群れが一斉にエインとキオナに群がってくる。


『ギャギャ!』


「あ!止めて!?」


「止めなさい!この!?」 


何匹かはエインが身に纏っている外套に噛みつき破こうとしており、背中のキオナは必死に振り払おうとしていた。


『ギャギャ!』


「きゃあ…!?しまっ…エインー!?」


「キオナ!?」


ところが激昂したディモルフォドンが噛みつこうとし、驚いたキオナはバランスを崩してエインの背中から滑り落ちてしまった。


『クアアアアァァァ!』


「あっ!?」


「キオナを返して!うわっ!?」


空かさずホワイトアウトがキオナを脚で掴み巣へと持ち帰ろうとする。当然エインが阻止しようとするがディモルフォドンに邪魔されて向かえそうになかった。


「エイン!エイン!?」


「キオナ!ぐっ…どうしたら…っ!?」


このままだと再び離れ離れになってしまって今度こそ犠牲になるかもしれない。生体電流だけでは数の多いディモルフォドン達をどうすることも出来ないと絶望的になるエインの周りに煙がモクモクと立ち込める。


「これは…ごほごほ!?煙…?」


『『『ギャギャ!?』』』


煙にむせているとディモルフォドン達も同じくむせるだけでなく、前後不覚になって他の仲間達にぶつかったりしていた。


「エインくんー!」


「ラスコさん!皆も!」


声が聞こえて下を見るとラスコ達が焚き火を燃やし狼煙を上げていたのだ。 


「あんただけカッコいい真似はさせないわよ!」


「この煙でワイバーン達がパニックになってるの!その間に姫様を助けて!」


同じくエリーシャとルシアンも煙を焚きながら何が起こっているのか説明するように大声を張り上げていた。


「でも、この煙の中じゃ僕も…。」


反響音(ソナー)です!反響音を使って辺りを見てください!」


「あの時みたいに音を聞けってことですか?でも、周りの音を聞いても…。」


秘密の入り口を見つけ出した時みたいに反響音を使えと言われるも、音で聞こえるのは風や翼竜の鳴き声だけでこれだけでは煙の中を飛び回るのは難しかった。


「思い出してください!音はルティカ様のように出せば良いんですよ!」


「出す…そうか!」


しかしそれは()()()()を聞くことであって、反響音を使うとは()()()()()()を聞くことであり、ルティカが壁を叩いた時のように自ら音を出して探れば良いと理解する。


「〜♪」


エインは口笛を鳴らし始めるのだが、これは楽しくて鳴らしている訳では無い。


「右に建物…左はからディモルフォドンが来る…分かる…分かるよ!」


自ら音を出すのなら何でも良いがエインは口笛を吹いてその音の跳ね返り具合で辺りを探る。


「キオナは…そこだ!」


再び口笛を吹いて反響音を探ったエインはキオナとホワイトアウトの位置を確認した。


『クアアアアァァァ…?』


「けほけほ…これは?」


巣に帰ろうとした矢先、霧に混じって煙幕が立ち込めたことにホワイトアウトはその場でホバリングして困惑していた。


「やあああっ!」


『ギャアッ!?』


しかしその背後からエインが急降下して艶のある尖った石で脚を斬りつける。


「きゃあ!?」


「キオナー!」


「エインー!!」


痛みでキオナは解放されるもそのまま彼女の体は自由落下し始める。しかしエインの声が聞こえキオナは見えないながらそちらに向かって手を伸ばす。


「キオナ!大丈夫!?」


「エイン!やはり来てくれると思いましたわ!」


タックルするようにキオナの身体にしがみつき、彼女もエインから二度と離れないように背中にしがみつく。


『クアアアアァァァ!』


「もう…僕達のことは諦めて貰うよ!」


さすがのエインも我慢ならなくなったか執拗に付け狙ってくるホワイトアウトと決着を着けるべく煙の中へと飛び込む。


「〜♪」


「エイン…やはりあなた周りに何があるのか分かるのですね。」


エインは口笛を吹きながら辺りを探って障害物や他の翼竜を避けていき、背負われているキオナは見てて冷や冷やするものの神業を見ているようで目が離せなかった。


『クアアアアァァァ!』


『ゲゲゲ!?』


『グギャッ!?』


対するホワイトアウトはタペヤラやプテロダクティルスなど他の翼竜を蹴散らしながらエインの後を追い掛けていた。


「やっぱり…ケツァルコアトルスは周りが見えてないんだ。ラスコさん達のお陰だね。」


「ですがあれだけ他のワイバーンにぶつかっているのに止まる気配がありませんわ。もっと大きなのにぶつからないと止まらないでしょうね。」


「だったら…!」


ホワイトアウトも他の翼竜達と同じく前後不覚になって我武者羅に飛び回っており、何か大きな障害物でもなければ止まらないと聞いてエインはある方向へと進路を変えた。


『グググ…!』


ホワイトアウトは自分の住処に侵入し餌である猿に似た生き物を横取りし、大事な子供に手出しした空飛ぶ猿ことエインを絶対に逃がすものかと翼を畳んで加速する。


「〜♪」


『ケケケケ…!』


霧と煙幕で視界が効かないために他の翼竜達とぶつかるものの、幸いにもエインは甲高い音を出しているためすぐに居場所は突き止められた。


『クアアアアァァァ!』


「キオナ!離れないで!」


「はい!」 


そしてこの目でエインと獲物であるキオナを視認しホワイトアウトは嘴で串刺しにする勢いで向かってくるのに対し二人はより身体を密着させる。


「もう…これで終わりだよ!」


密着した二人は朧げに見える物体の下の隙間をすり抜けて何か叫ぶが、ホワイトアウトの眼前に自身の巣がある尖塔とよく似た屋根とそこからぶら下がる重く巨大な物体が目に入る。


『クアアアアァァァ!?』


『『『ギャアッ!?ギャアッ!?ギャアッ!?』』』


ホワイトアウトは慌てて翼を広げて止まろうとするが間に合わずぶら下がっている物体にぶつかってしまい、ゴオオオオオンと言う重低音がウィルマに響き渡り他の翼竜達をパニックにさせる。


「ちょっと、何今の!?」


「あれはウィルマの大聖堂の鐘の音です。まさか…。」


『ググアアアアァァァ!?」


もちろんレイ達にも聞こえており、何事かと確認してみるとホワイトアウトがガランゴロンと巨大な鐘と共に大聖堂の鐘楼から転がり落ちているのが目に入る。


「ホワイトアウト様が…地に堕ちた…。」


美しさと恐ろしさから曲がりなりにも神として崇めていたケツァルコアトルスが鐘と共に堕ちたことにリアーナは力無く呟いていた。


「エインくんと姫様は!?」


「まさか…!?」


ワイバーンが大聖堂の鐘にぶつかるなんてことは早々ないだろうし、そんなことが起きるのもエインが関与しているのではと心配になる。


「ぷはっ!?」


「おい!姫様とエインがあそこに!」


大聖堂の前にはエルケとリアーナが落ちた池があったのだが、そこからキオナとエインが顔を見せてたのだ。


「すげぇ!姫様とエインの奴、あのワイバーンを倒したんだ!」


「しかもエインは空まで飛んだんだぞ!ヤバいぜ!俺さっきから興奮し過ぎでチビっちまいそうだぜ!?」


囚われた人間を何とか取り返した上に、エインは空を飛んで翼竜の中でも一番強そうなホワイトアウトを倒したことに仲間達は興奮が冷めないでいた。


「ぷはっ!?あう!?」


「うぐっ!?ごほ!?」


「あれ…何かおかしくない。」


ところがキオナとエインはそれどころじゃないと助けを求めるように水面でバシャバシャて暴れていた。


「まさかあの二人…泳げないの?」


「そ…そう言えば姉様は小さい頃に溺れたことがあると兄様から聞いたことが…。」


「エインもエインで…海で水浴びはしたけど、泳いだところは…。」


「いやいやいや!その前に二人は確実に溺れてるからね!?早く助けないと!?」


そうこうしてる間にエインとキオナは沈み始めているとレイが警告し、シスカとメリアスが泳いで助けに向かったのだった。

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