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天空の支配者は『蛇の神』

遡ること隕石が落ちる前のことー


「郵便でーす!」


「あら、ありがとう。」


「そろそろ買いに行かないとな。『テレポート』!」


「さあ、炎の魔術で焼き上げた美味しいオバケ鳥焼きだよ〜!」


「換金魔術で支払いをお願いします。」


この時の魔術国家ウィルマでは魔法が常時発動出来たため、人々は魔法で郵便物を届けたり転移魔法で出かけたり、料理や料金の支払いなどの生活全てに魔法が使用されていた。 


「『フライト』!」


「今日も良い天気だなー、魔法の絨毯でお昼寝とするか。」


「見てよこの新作の箒!空飛ぶ時にめちゃくちゃ見栄えするでしょ?」


そして飛行魔法はもちろん空飛ぶ魔法の箒や絨毯を使って人々は空を自在に飛び交っていた。


「レルカル様の噂を聞いたか?四次元魔術とやらを生み出しドラゴン達を一網打尽にしたとかって。」


「スゴいよな。レルカル様はもちろん、魔術士のトップである賢人の方々はウィルマの誇りだ。」


そしてこの魔術国家には魔術が高等であればあるほど魔術士の更に上を行く『賢人』や『賢者』の名誉を与えられ貴族のように崇められる。


結果的にウィルマにはかつてのグランドレイクと同じく魔法や魔術による優劣の差や身分の格差が存在することを意味していた。


ウィルマには高く聳え立つ塔が存在するのだが、そこに立ち入れるのは先述の魔法の名門貴族、賢人や賢者の称号を持つ魔術士だけであり、正しく雲の上の人物だけが住める場所なのだ。


『クアアアアァァァ!』


「ぎゃあああ!?」


ところがある日、一人の魔術士がモンスターによってなす術なく殺害された事件が起きた。


その魔術士は魔法の絨毯に乗っていて、ワイバーンやドラゴンを何度も討伐した実力者だったのにも関わらず、ほぼ一方的にズタボロの八つ裂きにされて殺されていたのだ。


「殺された魔術士はいずれ賢人の称号を受けるはずだった者だ。そんな人物が殺されるだなんてあり得ない話だ。」


「油断して魔族かドラゴンの群れに襲われたのか?」


滅多なことがない。と言うよりもまずウィルマの魔術士が殺されることなんて何世紀も聞かなかったため、事件は大きく取り上げられウィルマの賢者達も眉をひそめていた。


「ん?何だあれは?」


「鳥の群れか?」


ところが事件に首を傾げている間もなく飛行魔法で空を飛んでいた国民が、空の彼方からウィルマに向かって飛行してくる鳥のような影を目撃した。


『ケエエエ!』


『グエエエ!』 


『ギャアギャア!』


その直後に彼らは瞬く間に襲われ帰らぬ人となり、新たなる犠牲者として加算される。


「何!?ワイバーンによく似たモンスターの群れが国に侵入しただと!?」


「防御結界はどうなっている!?まさか我々の魔術による結界をすり抜けたのか!?」


他の国々から存在を隠蔽するために魔術による結界を張り巡らせたはずのウィルマにワイバーンに似たモンスター…翼竜達が空から強襲したことで事件どころではなくなってしまう。


『クアアア!』


「何だこいつらは!ワイバーンにしては見たことない見た目だ!何だか鳥みたいだぞ!」


『ケエエエ!』


「何で防御結界が消失してるんだ!モンスターにもここの場所は分からないはずなのに!?」


魔術士達が翼竜を撃退するために空を飛んで挑んでいたが、これまでに侵入されたことがないため予想外の事態にあたふたしていた。


「それよりもどうしたんだ…魔法が上手く使えない!?」


しかしあたふた理由として一番大きかったのは結界ではなく、自分達の魔法の威力が落ちたり通常よりも魔力切れが早いなどの弊害が起きて上手く扱えないことだった。


そもそもこの国では魔法の常時発動は当たり前であり、威力が大きく魔力の消耗が大きい魔法でもほぼ無尽蔵に撃てていたため、このような事態は天地がひっくり返るような緊急事態だった。


『『『ギャアギャア!』』』


「ぐわあああ!?」


箒に乗った魔術士は魔法が使えなくなったことに動揺した瞬間に、肉に群がるピラニア状態になったディモルフォドンに生きたまま空中で食いちぎられ、残ったのはボロボロになった箒だけだった。


『『グエエエ!グエエエ!』』


「わあっ!?止めろ!?絨毯をボロボロにする…うわあああ!?」


空飛ぶ絨毯に乗った魔術士は威力の落ちた魔法でプテラノドンに対抗したが、鋭利な(くちばし)によって絨毯を穴だらけにされ墜落させられる。


魔法の常時発動が出来ると信じてやまないでいたために最初こそは勢いがあったが、その魔法が次第に使えなくなってくると翼竜達の猛反撃を受けて次々と犠牲者が出てくる。


『ケエエエ!』


『ギャアギャア!』


「きゃあああ!?止めてぇ!?」


ある者は翼竜に空へと連れ攫われ、空中で他の翼竜との獲物の奪い合いにより悲鳴を挙げながら身体をバラバラに引きちぎられる。


『クエエエ!』


『ガア!ガア!』


「がはっ!?ぐあああ!?」


またある者は集団で囲まれ、鋭利な嘴で身体の肉を削ぎ落とすように啄かれていく。


「バカな…ウィルマの魔術士が次々と餌食になつもていく…!?ワイバーンごときに!?」


「いや、それだけじゃない。結界どころかあらゆる魔法が…あっ!何だあれは!?」


魔法使いの中では無敵とされた魔術士が次々と翼竜に殺され、それどころか肝心の魔法が次第に使えなくなることに動揺していると例の運命の隕石が飛来してくる。


「こんな明るいのに流れ星…?」


「落ちて来る…。」


隕石は地平線の先へと消えた後に、グランドレイクと同じくウィルマは嵐の日の雷のような轟音と閃光が(ほとばし)り人々は意識を一時的に手放してしまう。


「うわああ!?何だ!?魔法の箒が空を飛ばない!?」


「私の魔術が…魔法が…魔力が…失くなった!?」


「そんな…どうなってるんだ!?」


そしてグランドレイクと同じく飛来した隕石が落ちた途端に彼らは魔法が使えなくなり動揺し、箒や絨毯は重力に倣って次々と墜落し、魔法の杖も武器もその効力を失いガラクタ同然となる。


『クアアアアァァァ!!』


「お…おおっ…何だあの神々しいのは…!?」


「綺麗…神様みたい…。」


絶望に染まるウィルマの上空に突如として神々しい純白の光を放つ翼竜が甲高い鳴き声と共に現れる。まるで希望を指し示すかのようであり、人々は思わずその見た目の翼竜を神のようだと思ってしまう。


『クアアアアァァァ!』


「きゃあああ!?」


「エインー!?」


そして時は戻り、神々しい純白の身体を持つ神と呼ばれたその翼竜…


翼竜種や空を飛ぶ生物種の中でも最大種であるために『翼のある蛇の神(ケツァルコアトルス)』と呼称され、ウィルマの翼竜達の頂点に立ち今まさにキオナとエルケを脚で捕らえ空中へと攫っていた。


「キオナとエルケさんを返して!」


「くそ!まさかウィルマがワイバーンの巣になっていたとは…!?」


「こんなにいっぱい何処にいたのさ!?」


橋の上ではエイン達がたくさんの翼竜に囲まれ、二人を助けたくとも動けないでいた。


『クアアアアァァァ!』


「エインー!?」


「キオナ!?」


純白のケツァルコアトルスは動けないエイン達を嘲笑うかのように何処かへと二人を連れて飛び去ってしまう。エインも追いかけようとするが目の前に別の翼竜が橋の上に着地する。 


『グアアア!』


トサカはないが嘴の中には(くし)状の歯がズラリと並んでおり、先端には半円状の突起物が付いていて何処となくトングを彷彿とさせる翼竜だった。


「『オルニトケイルス』…!」


『グククク…!』


「エイン!下がってろ!」


嘴をカチカチ鳴らしながら、翼を折り畳み四つ足で橋を渡って来るオルニトケイルスにメリアスは矢を放つ。


『グケェ!』


「なっ、矢を嘴で受け止められた!?」


ところが水の中では動きの早い魚を捕まえ続けたお陰か、オルニトケイルスは飛んでくる矢を見事にキャッチしてその場に捨ててしまう。


「なら、もう一度…」


『グエエエ!』


「危ない!?」


弓を引くメリアスのに小さな半円状のトサカを持った翼竜のプテロダクティルスが脚の爪を構え急降下してくる。エインはそれに気が付いて押し倒し彼女を危機から救い出す。


「あの…ここにいたら格好の的なんじゃ?」


「右に同じ!こんなの餌をぶら下げてるのと同じし、橋だって何処まで耐えられるか…!」


キオナ達を助けるのはもちろんだが、このまま橋の上にいても翼竜達に狙われて身動きが取れなくなる一方だし下手をすると今いる橋が落ちる可能性があった。


「じゃあ、早い所こっちに…。」


『ゲケケケ…!』


オルニトケイルスとは反対方向に走ろうとした矢先、プテラノドンが橋の上に降りて近付いてくる。


「囲まれた!?」


「私達どうなっちゃうの…!?」


「きっと…あの鉤爪と嘴で身体をズタズタにして…内臓を引きずり出して…それからじっくり食べるんじゃ…。」


「「ひえええ!?」」


根暗そうな魔法使いの少女が絶望的な未来を口にしたために、フィオナとレナも想像してしまい震え上がる。


「ちっ…ケガしてなきゃ戦えないこともないが…。」


「空を飛んでいるワイバーンも隙あらば襲って来る…!」


橋と言う一本道では狭くて戦い難い上に、空を飛び回る翼竜達が付かず離れずの距離を旋回しているため次第に追い詰められていく。


「ん、この手すりは金属製ですか。なら…皆さん!手すりから手を離してください!」


「え、いきなり何を…。」


ラスコは手すりが金属製であることを見抜き、全員に手すりから手を離すように勧告した。


「良いから早く!エインくん、君の電流を手すりに!」


「あ、はい!」


言われた通り仲間達が手すりから手を離した後にエインは生体電流(パルス)を纏い流し込む。


『『ギャアアア!?』』


「わっ!何が起きたの!」


手すりに生体電流を流すとオルニトケイルスとプテラノドンの近くで火花が散る。それにエインはもちろん翼竜二体も驚き慌てて空中へと飛び上がる。


「金属は電流を通しやすいですからね。電気を流せばワイバーンを驚かすことは可能だと思いましてね。さあ、今の内です!」


さすがは研究者と言うべきか頭の回転の速さで危機を脱っし、一同は他の翼竜が来る前に橋を渡り切るのだった。


『『『ケー!ケー!ケー!』』』


「あたしらを探してんのかな。」


上空では翼竜がエリーシャ達を探し回るかのように旋回を続けたり、建物の壁に貼り付いたりして辺りを見回していた。


「人と会わないけど…もしかして、もうウィルマの人達も…。」


「そんな…夢にまで見た魔術国家がワイバーンに?」


自分達が襲われることとと、自分達以外の人間に出会わないことを鑑みるにウィルマの魔術士達はもう既に翼竜達の餌食になったのではと考える。


「その犠牲者にキオナ姫と口うるさいエルケが加わるかもしれないぞ。」


「そんなの絶対にダメだよ!早く助けないと…!」


このままだと二人も魔術士達と同じ末路を辿ることになる。それだけはダメだとエインは奮い立つ。


「けど、どうやって?魔法があれば空を飛べるけど今は…それに対してあのワイバーン達は魔法が無いのに空を飛べてるんだよ?」


しかし根暗そうな魔法使いの少女が人間は魔法を使うことで空を飛べるが、翼竜達は魔法が無くても空を飛べていると的を得た異論に誰もが項垂れる。


言ってみれば元の世界の制空権は人間が我が物顔で支配していたがこの異世界に置いては翼竜達が空の支配者だった。


「…魔法が無いのに?あれ、僕は魔法には詳しくないけど人間以外だと空を飛ぶのに魔法が必要なの?」


「えう…全部が全部じゃないけど、確かドラゴンや身体の大きな鳥のモンスターは魔力を使っていたと思うけど…。」


これまで魔法とスキルの才能に恵まれず無能と呼ばれてきたエインからすれば、魔法で空を飛ぶと言う概念はもちろん人間以外の生き物も同じく魔法で空を飛んでいたなんて知る由もなかった。


「だからあれほど大きなワイバーンが魔法も無しに空を飛べるなんて…あり得ないの。」


「僕らからすればこっちは魔法使えないのにそっちは悠々と飛べているなんてそんなのアリ?って感じなんだけどね。」


魔法が使えなくなった魔法使い達からすれば翼竜達が制限もなく空を飛べているのが気に食わないでいた。


「どうやって空を飛んでいるのかしら…きゃっ、また風が…。」


空を飛ぶ方法を教えて欲しいものだと口々に呟いていると再び風が吹き、渡りきった橋の方から何かが転がってくる。


「…何だ、さっき仕留めたワイバーンじゃないか。」


一同は警戒していたがその正体はメリアスが矢で仕留めたプテラノドンの死体であり、風に煽られて転がってきただけだった。


「改めて見てみると…ワイバーンよりも鳥っぽい顔ね。」


「この羽…膜みたいになってる。」


「鳥の翼は基本的に羽毛で覆われていますが、ドラゴンの翼は基本的に膜状になってるんですよ。ワイバーンと見間違うのも無理もありませんね。」


死んでいるためマジマジと観察してみるとワイバーンとも鳥とも似つかない見た目をしているため、誰もが興味深く思いながらプテラノドンを見ていた。


「それにしてもこんな大きなワイバーンが風なんかで転がってくるなんて…。」


「確かに…これだけのサイズなら風で飛ばされるなんてことがあるのでしょうか?」


プテラノドンは翼を広げただけでも人間の身長を上回っているのに、風が吹くだけで転がってくるのだろうかとルシアンとラスコは疑問に思っていると再び風が吹く。


「ぶわっ!?何なのだこれは!?」


風に煽られてプテラノドンの翼がルティカに覆い被さってしまう。


「ルティカちゃん、大丈夫?この翼が風に当たったせいで動いたみたい。」


エインが翼を持ち上げるも風を受けてバタバタと揺らめいていた。


「…!もしかするとこの膜状の翼と風が空を飛ぶ理由なのかもしれません。」


「どう言うことですか?」


「確かにサレトさんの言う通り魔力を使って空を飛ぶモンスターもいますが全部が全部ではないのです。中には薄い膜状の翼を使って空を飛ぶ種類もいました。」


先程の根暗そうな魔法使いの少女サレトが全部が全部ではないと言っていたが、元の世界のモンスターの中には魔力に頼らずに己の翼だけで飛ぶ種類もいた。


「この膜状の翼は船の帆のように風を受け止める役割があるのでしょう。そしてウィルマに吹き荒れる風を受けて浮力を得て空を飛んでいるのでしょう。」


となると翼竜達もそのモンスターと同じような理屈で空を飛んでいるのではとラスコが結論づける。


「えっと…つまり膜の翼に風が当たることで空を飛べるってことですか?」


「ええ、それで間違っていません。」


「信じられないな。こんな薄い膜みたいな物と風で空を飛ぶなんて。」


エインにはもちろん、これまで魔法で空を飛ぶと言う概念を持っていたメリアス達からすれば本当にそんなことが出来るのか信じられなかった。


「それよりも姉様達はどうするのだ!早くしないと…!?」


「そうしたいですが相手は空を飛んでいるため何処に連れ去ったかは…。」


二人を攫ったケツァルコアトルスは既に何処かに飛び去ってしまっていた。追いかけたくとも何処へ行ったかはもちろんあれだけ大きな生き物が飛び回る範囲となれば探すのはかなり難しいだろう。


「せめて私達も空を飛べたら…。」


「空を飛べたら…。」


アルロのふとした台詞を耳にしたエインはプテラノドンの死体と先程橋の上で覆い被さってきたウィルマの旗を見ていた。


「……。」


「エインくん?どうしたの?」


すると何を思ったのかエインは上を見上げてキョロキョロと見回していた。


『クアアアアァァァ!』


「ぎゃあ!?姫様とエルケを攫ったさっきのワイバーンか!?」


「いや、色が違う…別個体か!?」


「ってか、見つかった!?」


二人を攫ったケツァルコアトルスとは別個体が空から急降下して一同を襲おうとしてくる。


「きゃっ!?」


「キャロラインさん!?」


急降下したケツァルコアトルスはキャロラインに向かってきて彼女に尻餅をつかせる。


『クアアアアァァァ!』


「あ、私の魔法の杖が…!」


ケツァルコアトルスの嘴にはキャロラインの魔法の杖が咥えられ高らかに掲げられていた。


『ケエエエ!』


『グアアア!』


「うわっ!他にも二体来やがった!?」


「ひいい〜!?もうダメ〜!?」


すると別のケツァルコアトルスもまた急降下しながら迫ってくるため、サレトは今度こそ殺されると思い涙目になりながら身体を丸くする。


『ガアアア!』


『ゲゲッ!?』


「あ…あれ?」


「何だ?俺らをそっちのけでキャロラインの杖を奪い合ってる?」


「そ…そんなに私の杖って美味しいの?」


ところがキャロラインの杖を奪った個体と新しく来た二体は目の前に獲物がいるのに、放ったらかしにして彼女の杖を奪おうと必死になっていた。


『…!』


「は?」


『クアアアアァァァ!』


「うえっ!?何でこっちに!?」


すると一体がエリーシャを見た途端に甲高い鳴き声を発しながら迫って来る。


「エリーシャさん!」


『…!クアアアアァァァ!!』


エインが生体電流を纏うとまた別の個体が反応し、彼の方へと近寄って来る。


「え、何で僕の方にも!?」


「ちょっと何なのよあんたら!?ストーカー!?」


ケツァルコアトルスが目の色を変えてエインやエリーシャを追いかけ回す。


「光っている物です!」


「はあ?光ってる物って?」


「恐らくこのワイバーン達は光っている物を集めたがる習性があるんだと思います!きっとエリーシャさんの髪の色とエインくんの火花が注意を引いているんだと思います!」


カラスも光っている物を好んで集めたがるが、ケツァルコアトルスもまた魔石や銀髪や火花を放つエインに興味があるらしく積極的に追いかけ回しているようだ。


「そう言えば私の杖の先端にも魔石が嵌められているけど、まさか最初はそれで?」


「だからすぐ側にいたキャロラインは放置していたのか。」


最初に杖を咥えていたのは狙いが外れたのではなく、元から杖に嵌め込まれた魔石が光っていたからであり自分達を襲わなかったのもそれが要因だった。


「ちょっと冗談じゃないわよ〜!早く何とかして〜!?」


理由は分かったがエリーシャは必死に助けを求める。キリンと同じ背丈の翼竜がランスのような嘴を振り下ろして来るのだから一度でも当たればお陀仏だろう。


「光る物が好きなら…これならどう!」


『『…!クアアアアァァァ!!』』


エインは懐から艶のある尖った石を出して見せびらかすように掲げると、エインの火花を反射して光を放ちケツァルコアトルス達の注意を引く。


「こっちだよ!おいでおいで!」


『『クアアアアァァァ!』』


エインは何処かへと走り出し、その後をケツァルコアトルス達は追いかけていく。


「え、エインくん!何をする気なの!?」


「ものっそい嫌な予感がするんだけど!?」


あまりの喧騒に呆気に取られていたがエインはケツァルコアトルス達を率いて何処かへ向かっているようだ。彼のことだからまた何か無茶なことをしようとしているのではと心配になり彼女らも追いかける。


「……。」


エインは家屋が連なった塔を駆け登りバルコニーに出ていたが、そこから見える…いや、正確には余りの高度に位置するために地面が見えないことに息を呑む。


『クアアアアァァァ!』


『ケエエエェェ!』


そうこうしてる内にケツァルコアトルス達が壁をよじ登ってエインの元へとにじり寄る。


「エイン!無事か!」


「…何をしている?」


メリアスとシスカが追いついてエインと目を合わせるも、先程とは何処か様相が異なり何かを身に纏っているのだ。


「僕は…キオナとエルケさんを探してきます。もしも何かあったら、ロボとフォークをお願いします。」


「は?ちょ、何を言ってんの?」


「エインくん…!?」


エリーシャとルシアンも追いついてエインが何かトンデモないことをしようとしているのではと不安になる。


ましてやここは高所だ。嫌な予測は幾らでも出来るしエインが遺言のようなことを言い残すため尚更だった。


「バカ!エイン!?早まるな!?」


「貴様!死ぬ気か!」


唖然となる一同を尻目にエインはバルコニーの縁へと走り出し、最悪の予測が的中したと言わんばかりにメリアスとシスカは慌てて後を追いかける。


「えっ、ちょ…その先は危ないよ!?」


「…!」


ラピスが大声で警告するもエインはバルコニーの柵をハードルのように飛び越えてしまう。しかし知っての通り柵の先には足場はもちろん人が立てるような場所は一切ない。それはつまり…


「ええっ!?飛び降りた!?」


「エイン!?」


そう、バルコニーの柵を越えると言うことは塔から飛び降りることを意味し、エインの姿は重力に伴って一気に地面に向かって落下し彼らの目の前から消え去る。


「何やってるの!?飛び降り自殺!?」


「そんな…!?」


こんな高所から何の準備もなく飛び降りれば間違いなく死が待っている。


元の世界ではエインは魔法の才能がなかったために魔法の類はそもそも使えないし、魔法が使えなくなったこの異世界では他の者達も助ける術はない。


『ギィー!』


『ウオオオン〜!』


「エインー!?」


「ルティカ様!?危ないです!?」


フォークとロボはエインの身を案じて吠えており、ルティカはバルコニーの柵に身を乗り出すもメリアスに押さえられる。


「くっ…くくっ…!?」


『『『クアアアアァァァ!!』』』


落下の勢いによって潰されそうになるエインは身体を縮めて落下し、ケツァルコアトルス達は追い討ちを掛けるかのように壁から離れて急降下してくる。


「メリアス!エインが!?」


「ここからでは風があって狙えません…!?」


ルティカが何とかして欲しいとメリアスに懇願するも吹き荒れる風の前では矢は木の葉も同然だった。


『『『クアアアアァァァ…!』』』


「…!」


ケツァルコアトルスが翼を畳んで急降下し徐々にエインとの距離を縮めていく。エインも振り返って迫って来るのを確認し意を決したように落下の勢いに負けないように全身に力を込める。


「えい!」


「「「!?」」」


このまま地面に激突するまで猛スピードで落ちていくかと思われたエインが身体を大の字に広げた途端に信じられないことが起きた。


「え…!?あれ…!?落ちて…いかない!?」


「ううん、落ちていかないと言うよりもあれは…。」 


「待って…でも、それはつまり…あり得ないでしょ!?」


目の前の…と言うよりも目下にいるエインに誰もが目を疑う。今起きていることは夢でも幻でもなく紛れもなく現実だが、これを現実だと認めたら絶対に他の人から疑われること間違いないだろう。


「けど、今エインくんは…!?」


「わあっ…!あはは…僕、()()()()()()!!」


なんと地面に落ちていくと思われたエインの身体が突如として重力の法則に逆らうように空を飛び始めたのだ。


「「「魔法も無しに…空を飛んでる!?」」」


エインは魔法が消失したこの異世界では決して飛べることが出来ない空を飛んでいたのだ。


誰もが口を揃えてそう言うしかなかったし、意味が分からないにしても他に形容詞がなかった。


「それー!」


『『『クアアアアァァァ!?』』』


ケツァルコアトルス達はこれまで猿に似た生き物達を空から支配してきたが、地べたに這いつくばっていた相手が突如として自分達のように空を飛び、同じく高高度へと上昇していくことに動揺していた。


「こっちだよ!おいでおいでー!」


『『『クアアアアァァァ!』』』


それがケツァルコアトルス達のプライドを刺激したらしく、エインを追跡するかのようにセスナ機と同じ大きさの翼を広げて上昇する。

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