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魔術国家は『鳥の巣』になりけり

「隊長!我が軍はもうすぐで攻め落とされます!?」


「諦めるな!最後まで守り通すのだ!」


ある時敵軍に攻められ全滅寸前まで追い込まれた国があった。しかしその国は決して攻め落とされることはなかった。


「コキュートス・インパクト!」


「おおおっ!ウィルマの魔法使いだ!来てくれたのか!」


ウィルマから来た魔法使いがその国を守り抜いたのだ。


「バーニング・ブラスト!」


「軍事国家ラシュエルが火の海に!」


最強と謳われ他国に戦争を仕掛けていた過激な軍事国家は炎の魔法で火の海にされ…。


「ストーム・エクスプロージョン!」


「タイラントドラゴンが木っ端微塵に…!?」


襲って来るタイラントドラゴンは竜巻のような爆破によって強靭な肉体と堅牢な鱗を粉々に打ち砕き…。


「ライトニング・テンペスト!」


「雷で敵軍を瞬く間に全滅…!」


長年戦争を引き起こしていた敵の傭兵軍団は雷を雨のように降らせて全滅させ…。


「うわっ!?何処から魔法が!?」


「そ…空を見ろ!?」


「人が空を飛んでる!?」


「はーはっはっ!もはや空はドラゴンの物ではない…我らウィルマの魔法使い…いや、『魔術士』の物だ!」


それからと言うもののウィルマの魔法使い達は強力な魔法を使い他国の英雄達を差し置いて多くの功績を残し、飛行魔法などの新たな魔法を生み出しては魔法による技術『魔術』を生み出した。


やがて彼らは世界に名高い魔法使い『魔術士』と呼称され、一人いれば国家間の情勢や軍事均衡は簡単に覆され、結果的にウィルマは魔術士と魔術文明により様々な国や魔法使いの注目の的となり他の追随を許さないほどに発展したのだった。


「特に飛行魔法の確立は素晴らしいですわ!これまで空を飛ぶのは鳥かドラゴンかとされていましたが、人間は魔法で空を飛び制空権を握ったのですからね!」


ウィルマがこれまでに歴史に名を残した功績をエルケが自慢気に話していた。特に飛行魔法によってドラゴンや鳥に代わって制空権を握ったことを力説していた。


「空を飛ぶのがそんなに良いの?」


「良いに決まってるよ。空を飛べば敵の攻撃は当たりにくいし、逆にこっちは高い位置から広範囲の強力な攻撃を出せば敵に甚大なダメージを与えられるんだから。」


「おまけに空には障害物が少ないし、敵の攻撃や守りも空からならひとっ飛びだからね。欲しがる人はたくさんいると思うわ。」


人間が空を飛ぶことや何がスゴいのか分からないエインに、レイやアルロはエルケが力説していることや飛行魔法の偉大さを噛み砕いて説明する。


「ああ、憧れのウィルマ…!遂に行けるのですね…!」


ティラノサウルスの群れに追いかけられグロッキーだったエルケは憧れのウィルマに行けるとウキウキ気分で歩いていた。


「しかしウィルマは極秘とされた魔術国家で、見つけるのはダンジョンの宝を探し当てるのと同じで一生に一度見つけられるかどうか分からない国だぞ。」


「私もお父様から聞いたことがありますが、魔術の漏洩や悪用…更には国家間との摩擦を防ぐために王族でも魔法に適性のある王族しか知らないとされています。」


しかし良いことばかりではない。過激な思想や邪な考えを持つ者なら魔術士の子供を攫おうとしたり、逆に存在が危険だと言うことで戦争を仕掛けるなどの事例があるぐらいだ。


そのためウィルマは魔術や魔術士が悪人の手に渡るのを防ぐため、存在そのものを王族相手でも秘匿にするようにしたのだ。


「それをこんな地図で見つけるとはな。そんなのがあるのなら誰だった辿り着けるんじゃないのか?」


しかし極秘中の極秘とされた秘密の国から届いた地図があるのならば、自分達だけでも見つけられるのではと考える。


「それは不可能ですわ。ウィルマは特殊な魔術による障壁で守られており、地図だけあっても選ばれた者の魔力が適正値に達していなければ見ることも不可能とされていますわ。」


「確かに…魔術を手に入れるために地図を盗んだ人もいるらしいけど、結局見つけられずに手ぶらで帰ってきたって。」


さすがは世界最高峰の魔術国家は各国から選りすぐりの魔法使いを選抜する方法も魔力が適正値でなければ門前払いされると言う厳格なものだった。


「そんなスゴい国がこの近くに?」


「まあ、『無能』なお子様には高等過ぎてお分かり頂けないでしょうね?私の足を舐めたら入国を考えてあげても宜しくても良いですわよ?」


いまいちスゴいのかどうか分からないが、少なくとも周りの人間が驚き夢の国へ旅立つかのように胸を躍らせているため同調はしていたがそこをエルケに見透かされ無茶な要求をさせられてしまう。


「あんたまたそんなことを…。」


『ケー!』


「ぎゃあああ!?」


エリーシャは文句を言おうとしたが、背中に羽のような鱗を持つトカゲがエルケの顔にへばりつき悲鳴を挙げて尻餅をつかせる。


「何ですの!もう!?」


「『ロンギスクアマ』だね。上から羽みたいなのを広げて降りてくるみたい。」


顔にへばりついたのはロンギスクアマであり、エインが説明しながら引き剥がすと自ら羽のような鱗を広げて茂みの中に軟着陸して逃げるのだった。


「カッコ悪。」


「ふ…ふん!?」


エリーシャからダメ出しされたエルケは意固地になってそっぽ向く。


「ウィルマまであとどれぐらい?」


「もう少しのはずですが…。」


「あ、あれじゃないですか?」


地図を見ながら歩いているとアルロが人工物を指差してウィルマではないかと訊ねる。


「あれが憧れたウィルマ…荘厳ですわ。」


「あの壁は何なの?ピカピカしてる…。」


「確か景観を良くするための大理石と魔力を吸収し利用出来るミスリルで出来ているとかって。」


見つけた人工物は大理石とミスリルで構成されたウィルマの国境の壁でり、独特な光沢を持ち世界一の魔術国家としての誇りや攻め落とすことが出来ない難攻不落を誇示する存在感を放っていた。


「やはり魔法が消失しているために我々でも簡単に目視出来るようだな。」


「伝説の魔術国家もこれでは型無しだな。」


しかしそれは元の世界の話で、魔術国家として名を馳せたもののこの異世界に転移したことで魔法そのものが消失してしまったのでは存在意義すら問われるだろう。


「むっ…ですが情報漏洩を防ぐために、万が一に備えて壁の強度はタイラントドラゴンが全力で攻撃しても破壊されない程で水を漏らさないのですわ!」


しかし壁は魔法だけの防御に頼らず元の世界でもかなりの強度を誇る素材で作られているため、この異世界でもその強度ゆえに破壊や攻略は不可能だと自慢する。


「確かに壊された形跡がありませんね。」


「ここは壁が頑丈でタイラントドラゴンも侵入出来なかったのかもしれないにゃ!」


「と言うことは生存者がまだ…。」


魔法は消失しても壁があったため、恐竜もそう簡単には侵入出来なかったらしく傷は幾つかあったが破られた跡はなかったため中にいる国民は無事である可能性が出てきた。


「とにかく今日はここで夜を明かしましょう。」


「王族でも限られた者しか入れないのにどうやって中に入るのですか。」


血に飢えた獣が闊歩するジャングルよりも侵入した形跡がない王国で夜を明かす方が一番だろうが、水を漏らさないどころか王族すら簡単に出入り出来ない厳重な守りの国にどうやって入国するのか気になっていた。


「魔法の適性が良ければ入り口が現れるはずですが…。」


「それも()()()()なんだろう?この異世界では通用しない、つまり入り口は幾ら待っても開かないと言うことだ。」


魔法の適性が鍵となっているのだからこの異世界では鍵はおろか鍵穴がないのも同然であり、どうやって入るかは今や分からないがこれでは単なるデカい壁でしかない。


「ん~…そう言えば兄様から聞いたことがあるのだが、ウィルマには私達の国の英雄が来賓で来た時のための秘密の入り口があるとかないとか。」


「兄様が?」


ルティカは兄から…つまりキオナの兄からグランドレイクの英雄がウィルマを訪れた時のための入り口があると聞かされていた。


「つまりその方はよほど魔法の適性が高かったのでしょうね!」


「いや、魔法はそんなに得意じゃなかったと言ってたぞ。」


グランドレイクの王族であるキオナとルティカの兄ならば英雄としてウィルマに招かれてもおかしくないとエルケは興奮するが、彼はそんなに魔法に適性はないと言うことだった。


「もしかすると我が国の魔法使い以外の英雄を招くために作った出入り口が何処かに?」


「恐らくそう考えた方がよろしいかと。」


英雄を多く輩出したグランドレイク王国でもウィルマに選ばれる程の魔法使いは後にも先にもエルケだけであるためそれ以外の人の出入りは認められない。


だがそれでも世界に名高い英雄は招きたいため専用の出入り口を作ったのではないかと考える。


「それに貿易商や行商人の人達が外からの物資とかも搬入するための出入り口もあるんじゃ…。」


「それも…そうですわね。」


幾らなんでも人の出入りや物資などの搬出を完全に封鎖している訳でもないはずだとルシアンが付け加えたためエルケはそう考えながら他に出入り口があるのではと辺りを見回す。


「しかし巧妙に隠してあるはずですわ。」


「つまりお前にも見つけられないってことかよ。」


とどのつまり魔法で開けることも出来なれば、ルティカの話にあった通路も()()とされている以上は国を見つけても中に入ることは出来なかった。


「…ロボ、もしかして通路の匂いとかって分かる?」


『キャン!』


ふと考えたエインはロボにその通路の匂いを嗅ぎ取れるかと訊ねてみると、ロボは地面の匂いを嗅ぎ始める。


「通路の匂いなんて分かるの?」


「人が通るのなら多分…。」


正直、元の世界では魔法とスキルが皆無だったエインに取って魔法がどう言う物かは推し量れなかったが、少なくとも魔法使いではない人が通る道があったのなら匂いが地面に残っててもおかしくはないと考えたのだ。


『クゥン…。』


匂いを嗅いでいたロボが困ったように座り込んで振り返る。


「ここで匂いが途切れてるの?」


「途切れてる?ここが入り口なの?」


「でもなぁ…壁の様子はさっきと変わらないようだけどな…。」


追っていた匂いはここで終わっているのだが、見てもさっきと同じ壁が(そび)え立っているだけで区別が付かなかった。


「こう言うのは何処かに秘密のスイッチとかレバーとかがあるはずなのだ!こうやって叩くと何か仕掛けが…。」


ダンジョンにも誰が仕掛けたか分からないトラップやそれを起動させたり停止させたりする装置があったが、秘密の通路と言うだけあってここにも同じように隠された装置があるのではとルティカを壁を叩いてみる。


「ん…。」


「どうしましたか?」


「何だか…耳がグワングワンする…。」


壁を叩いているとエインが耳を抑えて少し辛そうにしていた。


「耳が?もしかしてルティカ様の壁を叩く音で?」


「私達は何ともないけど…。」


「耳がおかしくなったのかい?」


聴覚に異常があると言うのならルティカが壁を叩いている音が原因だろう。しかしエイン以外は何ともないためそれこそ空耳か耳鳴りではないのかと訊ねる。


「そう言えばあんた、ワイバーンもどきと出会う前にあたしらには聞こえなかったけど水の流れる音を聞きつけてたわよね。」


「もしかして耳がおかしいんじゃなくて、耳が良くなり過ぎてるんじゃ…。」


以前の遠征でエインだけが川の音を聞きつけたことがあったが、今思えばあの時から聴覚に変化が起き始めていたのだろう。


「けど壁を叩く音だけでそこまで苦しむんじゃなぁ…。」


「逆にうるさくて不便そうだな。」


しかしこれは聴覚が良くなると言うよりも鋭敏になりどんな小さな音でも場合によっては騒音になるのと同じであり、リュカとマーキーが言うようにあっても苦痛になるだけでしかなかった。


「ルティカ、壁を叩くのを止めなさい。エインが苦しがってますよ。」


「ん?そうなのか?」


「ううっ…待って、何か変だよ…。」


壁を叩くのを止めさせるも、エインはまだ何かおかしいと付け加えてくる。


「そりゃあ今は壁を叩く音だけで苦しがってんだから。」


「ううん、壁の中の音がおかしいですよ。」


「は?それどう言うことだよ?」


介抱していたリュカとマーキーにエインは壁の中から聞こえる音に違和感があると伝えてくる。


「そこに何かあります…。」


「そこって…ここか?」


と思ったら壁を指差して示唆し、ドランが手探りで壁を触ってみると一部がガコンと押し込まれる。


「お…おおっ…!?通路が…!?」


土埃と共に壁の一部が上に開いていき、中に入るための通路が出現する。


「本当に隠し通路があったとは…。」


「ドランさんが押したのはルティカ様の言う隠し通路を開くための装置のようですね。」


正に鉄壁の守りを誇るウィルマに秘密の隠し通路があったことにエルケ達も目を丸くしていた。


「それにしてもエインさん、どうしてそこに装置があると?」


「ルティカちゃんが壁を叩いた時に音の聞こえ方がそこと通路だけが違ったんで…。」


見つけられたのは壁を叩いた時の音が通路と装置の場所だけ違っていたからだ。


「ふむ…反響音ですか。」


「何だ、その反響音と言うのは。」


「音と言うのは周りの空気が震えることで聞こえるんですけど、ルティカ様が叩いた所には通路と装置があったために反響…つまり叩いた音が空気を伝って物質に当たり、その跳ね返り具合が異なっていたので聞こえる方に差異が生まれたのでしょう。」


「…よくは分からんが音で隠された物を探り当てたのか。」


コウモリやクジラなどは音を発っしてその反響によって周囲の情報を得ている。それは音が当たった物体の硬度や状態や大きさなども手に分かる程だとされている。


生体電流(パルス)のこともだがエインは音で周りを探る反響音(ソナー)の能力を知らず知らずの内に身に着けたようだ。


「とにかく道は開けた。日が暮れる前にウィルマに入った方が良かろう。」


「そうですね、皆さん続いてください。」


シスカは生粋の戦士であるため理屈云々(うんぬん)は分からないが安全地帯への道が拓けたことだけは確かだった。


「ここが…僕ら魔法使いが夢にも見た魔術国家ウィルマ…。」


「家が縦に連なって建ってる…。」


秘密の通路からウィルマに入って最初に目にしたのは、住宅らしき家屋が塔のように縦に連なって建てられていたことだ。


「どう言う建物の造りをしてんだ?普通は家の屋根の上に更に他の家を建てるなんてことしねぇだろ。」


「それに他の建物もやたらに背が高いし、何か橋のような物が見えるわ。」


住宅以外の建物もあるのだが、どれも聳え立つかのように背が高く最初は城ではないのかと見間違う程であり、よく見ると建物と建物の間には橋や階段らしき物が見受けられた。


「あれは窓ではなく、もしかしてドアでしょうか?何で建物の中腹辺りに…。」


「あれでは開けた瞬間に落ちてしまうのだ!」


更に気掛かりなのは窓と言うよりも出入り口と思わしきドアが地面より離れた位置に設置されていたことだ。間違って開けて外に出ようならば地面に真っ逆さまだろう。


「ウィルマでは飛行魔法が確立されたことと、魔法の適性が高いことで常時飛行魔法を発動させることが出来るのですわ。」


「それはつまり…ウィルマの人達は常に空を飛ぶか、宙に浮いて活動していたってこと!?」


エルケからウィルマの魔術士は魔法を常に使っていたと言う補足情報を耳にしてレイは驚いていた。


「魔法の常時発動って…。」


「魔法は呪文を唱えたりイメージをする必要があるの。おまけにずっと使い続けていると体力や魔力を消耗していずれ使えなくなるんだけど…。」


「ここの人達は無意識…つまり何も考えたり、魔力が尽きることもなくほぼ永久に魔法が使えて空を飛び回れるってことよ。」


これまたよく分からないエインのために今度はフィオナとレナがどう言うことなのか説明した。


「ですからウィルマの魔術士は常に空を飛ぶことで地面すら見下し足を着けることなく移動することが出来るんですのよ!そのため見下している地面に扉だなんてもってのほか!ウィルマの魔術士ならば地面より高い場所にあって当然ですわ!」


「なるほどな。魔法の適性が良いと魔法の常時発動が可能であり、そのために扉の位置や家の配置などが常に上へ上へと向かっているのか。」


他国には風習や文化などの違いがあり、時としてそれが戦争の引き金にもなるがウィルマの場合は魔法の適正値による文化や風習の違いがあるようだ。


「でも、人がいないですね。」 


ここまで聞けば確かにウィルマは魔法使いに取っては素晴らしい国かもしれないが、まるでもぬけの殻になったかのように住人と出会わないため不気味な雰囲気を醸し出していた。


「最初は少しは期待していたが、ここも不穏な空気に包まれているな。」


「不穏な空気だけではない…霧も出てきたぞ。」


壁は壊されていなかったし秘密の通路も自分達がようやくの思いで見つけたためまず肉食生物に侵入はされていないと考えていたが、不気味な静けさがそれを否定しおまけに二度と帰さないと言わんばかりに霧が濃くなってきた。


「とにかくここで夜を明かした方が良いですね。建物の中に入りましょうか。」


まだ日没まで時間はあるが今更野宿と言う訳にもいかないため最初の手筈通りこの国で夜を明かして、それからグランドレイクへ帰還することにする。


「…ここの人達は常に空を飛んでいたんですよね?だったら何で橋や階段が?」


扉のほとんどが高い位置にあるため魔法が使えなくなった一同は階段や橋を使って移動をしていた。しかしエインは魔法が使えた時から何故階段や橋があるのか気になっていた。


「…無粋な質問をしないでくださりますか無能さん?魔術士の方々は優しいですからね、あなたのような方でも移動出来るようにしたのではありませんこと?」


「…どうせ体力が切れた時のためだろう。この国も我が国と同じく魔法に優劣の差があった場合、魔法の常時発動が出来ない者のためにこうやって作ったのだろう。」


エインの疑問に対して相変わらず冷たくあしらうエルケに、メリアスはいい加減にしろと言う様子で口を挟むように考察を述べるのだった。


「それにしてもここには生存者はいないのでしょうか…。」


「それは…。」


『キャンキャン!』


王女としてウィルマの国民の安否を気に掛けるキオナにどんな言葉を掛けようか迷っているとロボが唐突に吠え始める。


「誰かいるの?」


『クゥン。』


霧が深くなってきたために捜索は難しいかと思われたがロボは鋭い嗅覚で何か捉えたらしく、前脚で指し示した場所を見ると霧の中に見える長い金髪が霧の中で揺れているのが目に入った。


「誰ですか?」


キオナもそれに気付いたらしく声を掛けるも金髪の持ち主は慌てた様子で橋を渡って行ってしまう。


「あ、待って!」


「誰なの?」


橋を渡る音に他の者達も気付き金髪の持ち主の足音を頼りに追いかけていく。


「ぶわっ!?何これ…!?」


「ひゃあ…!?風が…!?」


ところが風が吹き荒れエインに飛ばされてきた布のような物が覆い被さり、スカートを履いている者は慌ててその裾を抑え込む。


「これは…旗?」


「まあ!ウィルマの旗をあなたみたいな無能が触らないでくださいまし!」


覆い被さったのはウィルマの国旗でエインを包めるほど大きかった。しかし誇りに思っていた国旗を忌み嫌っている相手が触っているのを目にしたエルケは激昂する。


「それよりもさっきの人は何処へ行ったにゃ?」


「風が吹いた途端に気配が消えた…?」


「道は…他は崩落してこの橋しかない。行ったとしたらこの先か。」


何が起きたかは分からないが先程の人物は唯一の通り道である建物と建物を繋ぐ橋を渡ったったと考えた。


「霧が深くてよく見えませんわね。あなたが先に行きなさい。」


「僕が?」


霧が深いせいでよく見えずこの先がどうなっているかどうかエルケはエインを指名した。


「ウィルマの国旗を触ったことへの罪滅ぼしだと思いなさい。私達の安全を確保するのがあなたの役目でしょう。」


国旗に触れたのはあくまでも事故なのだが、エルケはそれでも許さないらしくエインに橋が安全かどうか確かめさせようとする。


「貴様、いい加減に…」


「メリアスさん、僕は大丈夫だから。様子を見てくるよ。行こう、ロボ!フォーク!」


『キャン!』


『ギィー!』


下手をすれば二度と戻って来ないかもしれないのに勝手なことばかり言うなとメリアスは口を開くもやはりエインは自ら名乗り出て彼女が引き止める前にロボとフォークと共に橋を渡り始めてしまう。


「エイン!大丈夫ですか!」


「…大丈夫だよ!橋は壊れてないよ!でもさっきの人は見失ったみたい!」


霧の中に姿を消したエインだが問題なく渡りきったらしく、彼の元気な声が聞こえてほぼ全員がホッとする。


「次は私が行きます。念の為橋の強度も調べておきたいので…。」


次はラスコが橋を調べるために慎重に渡り始める。研究者ならば橋の強度がどれほどか分かるはずだ。


「おーい、ラスコ!大丈夫か!」


「大丈夫ですよ!橋の強度も問題なさそうです!ですが慎重に渡ってくださいねー!」


エインに続いてラスコも橋を渡りきり、強度も問題ないことが証明され二重の意味でホッとする。


「じゃあ、次は僕達だよ。」


「先に行ってますね。」


「ではその次は貴様が行け。安全は確保されたのだから渡っても問題なかろう。」


「ぐっ…分かりましたわよ!」


レイとアルロが渡ったった後に、シスカに押されながらぐうの音も言えなくなったエルケが橋を恐る恐る渡り始める。


『グルル…!』


「……この匂いは…。」


その頃、橋の反対側では白い石のような物体にロボが唸っており、エインもその匂いを嗅いで何処か険しい顔をしていた。


「エインさん、何してるんですか?」


「これ…何だと思います?」


「石…いえ、これは何かが固まったような物質?」


エインが見せてきた石のような物体からは()()()()に似た匂いがしており、触ってみると簡単に砕けてしまいまるで泥のような流動体が乾いて固まったかのようだった。


『バウ!バウバウ!』


『ギィー!』


「…!まさか…!?」


ロボとフォークは空に向かって仕切りに吠えたり、角とフリルを振りかざして何かに威嚇しているのを見たエインは慌てて手すりに身を乗り出す。


「ちょ…どうしたの?」


「何かあったの?」


「もしかしてこれって…あれ、どうしたんですか?」


ちょうどその時にレイとアルロが橋を渡りきり、暫く石のような物体を調べていたラスコも何を見たのかエインが青ざめているのに気が付く。


「大変だよ…ここは鳥の巣だったんだ…!?」


「鳥の巣…?」


「どう言うことだい?」


言っている意味が分からないが確かにエインは『鳥の巣』だと言った。しかし鳥の巣だなんて愛らしい物の何処が青ざめるほど大変なのか研究者のラスコにですら分からなかった。


「ううっ…飛行魔法さえ使えればこんな思いしなくても…。」


霧の中を恐る恐る渡って行くエルケは今だに魔法が使えなくなったことを嘆いていた。


「きゃあっ!?だ…誰ですの!悪ふざけをしているのは!?」


ただでさえ怖い思いをしているのに突然橋が大きく揺れてエルケは思わずへたり込む。


「…?無能…さん…ですの?」


何故だか知らねど悪ふざけをした相手が今だけはエインであって欲しいと思ってしまうエルケ。何故なら足音や霧の先から見えている影が()()()()()()()()()()からだ。


「ねぇねぇ、ラピスさん。怖いから一緒に渡ってよ〜!」


「ズルい〜!私と一緒に渡ってよ〜!」


「ええっ…困ったなぁ…。」


そんなことになっているとは知らずフィオナとレナはラピスに共に渡って欲しいと取り合っていた。


「俺とならどうだ?」


「いやいや!俺となら…!」


「「結構です。」」


「分かってないなぁ〜、このドラン様となら…」


「「絶対イヤです。」」


ラピスが困り果てて決断出来ないのを見たリュカ、マーキーと来て更にドランが同伴を名乗り出るも瞬く間に玉砕してしまう。


「今のところモンスターは見掛けないが、同時に人も見掛けないな。」


「もしも生存者がいるのなら何処に行ったんだ?」


その傍らではシスカとメリアスがモンスターはおろかウィルマの国民の姿が見えないことに首を傾げていた。


「きゃあああ!?」


「何だ!どうしたんだ!」


「エルケさんの声だ!」


霧がかかった橋の先から絹を裂くようなエルケの悲鳴が聞こえ一同は慌てて武器を構えて橋を渡り始める。


「きゃあああ!?」


「どうしたん…だっ!?」


霧の奥から涙目のエルケが走ってくるのだがその頭上には人とは思えない巨大な影が翼を広げて迫って来るのだ。


『ケエエエ!』


「あれは国を襲ったワイバーン!?」


現れたのは元の世界にいたワイバーンのように腕に翼膜を持つが、翼膜は腕だけでなくほぼ全身を占めており頭はトサカを持つ鳥のような顔つきをしたモンスターだった。 


そう、グランドレイクでティラノサウルスの群れの襲撃の際に空中から攻めてきた『プテラノドン』が橋の上から羽ばたきながらエルケに迫っていたのだ。


「伏せろ!」


「ひゃあ!?」


『ゲエ!?』


姿が見えたことでメリアスは矢を放ち、警告と矢に気が付いたエルケは慌てて伏せて回避し、放たれた矢はプテラノドンの喉に命中し橋の上に墜落させる。


「大丈夫ですか?」


「はあ…はあ…危ない所を助けられましたわ。」


「これは我が国を襲ったワイバーン…タイラントドラゴンと言い、またしても再会することになるなんて…。」


キオナはエルケの無事を確認した後で仕留められたプテラノドンを見て、再び国を襲ったモンスターと出会ったことに目を丸くしていた。


「キオナ!エルケさん!そこから離れて!?」


「エイン?」


「来てるんだ!早く離れて!?」


霧の奥から再び声と姿がすると思えばエインが慌てた様子でこちらに何かが向かってきてると警告してくるのだ。


「今更遅いですわよ!」


「ワイバーンならもうメリアスが仕留めましたので大丈夫ですよ。」


もう既にプテラノドンに襲われそうになり、そこをメリアスに助けられたのだから今更警告しても色々と遅かった。


「『プテラノドン』…そのワイバーンのことじゃないんだ!?」


「「はい?」」


言っている意味が最初は分からなかったが、掻い摘んで解釈するとエインはプテラノドンのことを警告しているのではなかった。


「もっと大きなのが近付いてるんだ!?」


「何を言って」


あれ以上に大きなワイバーンがいるのかと半分懐疑的になりながら頭上を見てみると、先程のプテラノドンよりも大きな翼を持つワイバーンらしき影が目に入る。


『クアアアアァァァ!!』


「きゃあああ!?」


「エインー!?」


「エルケさん!?キオナー!?」


霧の中から翼の大きさはセスナ機と同じで頭から足先はキリンと変わらない背丈と、プテラノドンよりずっと大きなモンスターが二人を脚で掴んで空中へと連れ去る。


「何!?今のデッカい鳥みたいなワイバーンは!?」


「姫様とエルケちゃんが!?」


エインの後ろからレイ達も追いかけるが一足遅かったらしく、二人が巨大なワイバーンに連れ去られるのが目に入った。


「姉様を返せー!?」


「このまま空を飛ばれて見失ったら間違いなく餌食になるぞ!」


「分かっている!」


まさか他にも大きな個体がいるとは思わなかったもののメリアスは冷静に弓矢を構えて狙いを定める。


『ギャギャギャギャ!』


「ぐわっ!?こいつも確かグランドレイクを襲った小型のワイバーン!?」


ところが霧の中からディモルフォドンが飛び出して弓に食らいついてきたのだ。


「メイナスさんから離れろ!」


『ギャギャ!?』


ラピスは剣を野球のバットのように振り回してメリアスからディモルフォドンを引き離す。


「無事か?」


「何とかな…姫様とエルケを攫った奴は?」


「見失った…と言いたいが、どうも気配が一つだけではないような気がするんだ。」


起こされたメリアスはキオナとエルケの行方を訊ねるも、シスカは霧の中で見失ったと同時にそれには多くの気配を察知して見分けがつかなかったからだと言う。


『クオオオ!』


『グエエエ!』


『ギャギャギャギャ!』


『ケエエエ!』


「ワ…ワワ…ワイバーンだらけじゃないか〜!?」


タイミング良く霧が晴れてくると頭部や(くちばし)やサイズに差異が見られるも、身体のフォルムはプテラノドンによく似た様々な種類のワイバーン…。


正式には恐竜時代に置いて制空権を握った生物種である『翼竜』がウィルマの上空を支配するかのように建物の合間を縦横無尽に飛び交っていたのだ。


「嘘でしょ…こんなにいっぱいのワイバーンがウィルマにいたなんて!?」


「一、二、三、四…数え切れないぐらいいるよ!」


「そうか…空からウィルマに侵入したから、地上に押し入ったり侵入した形跡がなかったのか。」


確かに壁には破壊して侵入した形跡はなかった。しかしながら翼竜達は空を飛べるため、壁を破壊せずとも空から飛んでウィルマへと侵入したのだ。


『『『ケエエエ!』』』


「それよりもこれはマズいぞ。私達は橋の上で囲まれているぞ。」


霧が晴れてくると自分達のいる橋の周りではプテラノドンを始めとする多くの翼竜達が、グルグルと辺りを飛び回ってどのタイミングで襲い掛かろうか待ち構えていた。

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