表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/52

『恐れ知らず』な『巨竜』

『『『ケエエエ!』』』


「急げ!こいつらの相手はそう長くは出来ん!?」


エドモントニアもだがメリアス達もターゲットにしたディアトリマ達は迷うことなく襲って来る。


「ふん…!重い…!?」


『ブモオオ〜…!?』


ひっくり返ったエドモントニアの子供を戻そうとするが、子供とは言えさすがに丈夫な皮骨の鎧を持つためか重量がありエイン達が数人掛かりで押すも中々転がらなかった。


「もう、ダイエットしてよ〜!?」


「くくくっ…!?あたしらだってそんな力強くないんだからぁ〜!?」


魔法使いの少女達も杖を使って起こそうとするもエドモントニアの子供の重量に悪戦苦闘していた。


『ケエエエ!』


「うわっ!何だこいつの(くちばし)は!」


「まるで斧みたいな威力だ…まともに受けるとヤバいぞ!」 


盾で防御するもディアトリマの(つつ)く力は強く、ノーガードで受けるのは自殺行為も同然だった。


『グエエエエ!』


「きゃあっ!?ふ…服が…!?」


ディアトリマの武器は嘴だけでなく、強靭な脚から繰り出されるキックだ。ルシアンは当たりそうになるも何とか回避するも脚の鉤爪が彼女の服を切り裂いてパステルカラーの下着を露出させた。


『『『ブオオオ…!』』』


「え…あなた達…。」


「守ってくれるのか!有り難い!」


しかしそんな彼女達をディアトリマの攻撃から守るようにエドモントニア達が鎧による壁を形成する。


『グエエエエ!』


「こっちに来ましたわ!」


エドモントニアの子供を再び狙ってディアトリマが迫り、起こそうと躍起になるエイン達にも再びピンチが迫る。


「もう早くひっくり返ってよ〜!?」


「頑張って!」


「分かっています!」


「でも重いのだ〜!?」


魔法の杖を梃子(てこ)代わりにしようとするも中々ひっくり返らず、エインもキオナもルティカも精一杯力を込めていた。


「フィオナ、レナ…そんなモンスターを助けてどうする気ですの?」


遠くから離れて見ていたエルケは魔法の杖で起こそうとしている二人の魔法使いにそんなことして何になるのかと訊ねる。


「分からないよ…けどこの子達が頑張っているのに、私達が頑張らないなんて耐えられないよ!」


ボサボサのショートヘアの魔法使いであるフィオナは困惑した様子を見せていたが、このままでは悔いが残ると言った口振りで杖に力を込める。


「どうする気も何も…身体が勝手に動いちゃったのよ!でも不思議と後悔はないわ!さあ、早く起こすわよ!?」


サラッとしたポニーテールの魔法使いのレナも困惑した様子であったが、何処か晴れ晴れとした様子で彼女も力を込める。


「ですが注意が向いていない今なら…。」


『ケエエエ!』


「ボヤボヤするな!もう既に狙われているんだぞ!」


エドモントニアが狙いなら囮にして逃げるべきだとエルケは考えていたが、既にディアトリマ達は人間にも狙いを定めていた。


「ロボ!お願い!」


『グルルル…ガウ!』


『ケエエエ!?』


エインの合図でロボが迫って来たディアトリマの脚に噛みついて足止めさせる。


「フォーク!君もだよ!」


『ギィー!』 


『グエエエエ!?』


今度はフォークがもう片方の脚目掛けて突進し、三本の角がめり込んでディアトリマを転ばせる。


「さすがは角の騎士の子供だ!オバケ鳥を転ばせたぞ!」


『ギィー!』


角の騎士たるトリケラトプスに出会い憧れを抱いたのか勢いが増したフォークと、同じく憧れを抱いたラピスは興奮した様子を見せる。


「今の内だよ!」


「はい!」


『ゲエエエ…!』


のたうち回っている間に一斉に力を込めるエイン達だが、ディアトリマも脚をバタつかせながら起き上がろうとしていた。


「せーの…それ!」


「ふぬぬ〜!?やっぱり重いのだ…!?」


「あと少し…!」


しかしながらディアトリマは起き上がりそうなのに、エドモントニアの子供はあと少しなのに起き上がりそうにないと焦れったくなる。


『…!グエエエエ!』


「き…来たわよ!?」


起き上がったディアトリマは再び砂を蹴りながらこちらに向かって来るためにレナは恐怖に駆られる。


「ぐぐっ…!?フォーク!!」


『ギィー!』


エインの呼び掛けに応じてフォークが今度はエドモントニアの子供の側面に向かって突進して来る。


『ギィー!』


「うわっ!?」


『…ブモオオ!』


突進は見事に側面に命中しエドモントニアの子供の身体を跳ね上げ、エイン達の力も加わって見事にひっくり返る。


「やりましたわ!」


「ようやくひっくり返ったわね!」


『ケエエエ!』


ようやく元通りになったことに安堵するのも束の間、ディアトリマは怒りを孕んだ雄叫びを挙げながら突進して来る。


「キオナ!皆と一緒に下がって!」


『ウオオオン!』


『ギィー!』


前に出たエインは艶のある尖った石を握り締め、ロボは遠吠えをしフォークは角とフリルを振りかざす。


「エイン!?」


『…!ブオオオ!!』


ひっくり返った子供エドモントニアはキオナの側で呼び掛けるように叫ぶ。


『ブモオオオオ!』


「うわっ!急に何だ!?」


「避けろ!?」


それに応じたのはその子供の母親であるエドモントニアだった。雄叫びを挙げリュカとマーキーの側を通り抜けて行き、エイン達に迫るディアトリマに向かって突進して行く。


『グエエエエ!?』


ドッシイインと言う音と共にディアトリマが苦痛による断末魔を挙げる。エドモントニアの肩のスパイクがディアトリマの脹脛(ふくらはぎ)に命中したのだ。


『ギャアアア!?グエエエエ?!』


『ブモオオ…!』


それだけではなく肩のスパイクはディアトリマの脚を貫通しており先端の部分が血によって赤く染まっていたのだ。


「嘘でしょ、尖ってるから痛そうだなぁって思ってたけどあれって武器だったの?」


「あんなのが刺さったら流石のオバケ鳥も耐えられないと言うことか。」


エドモントニアの思わぬ反撃方法にエリーシャとメリアスは呆気に取られてしまう。


『ギャアアア!?』


『ブオオ…!』


苦痛から逃れようと脚を動かせばより深く食い込んでは傷口を広げ、啄こうにも鎧に守られているため決定打にはならなかった。


「エイン!お前達もここに集まれ!防衛体勢を取れ!」


「はい!皆、こっちに!」


他のディアトリマ達もエドモントニアの反撃を目の当たりにして取り乱しており、その間にシスカはエイン達を自分達の場所へと招き入れる。


「追い打ちを掛けるぞ!弓矢で攻撃だ!」


「私も弓矢には心得があるにゃ!」


「僕はこれだ!」


矢と生体電流(パルス)が取り乱すディアトリマ達を攻撃し更に散り散りにさせる。


『ギャアアア!?』


もちろんスパイクが脚に貫通したディアトリマにも命中するが、あまりの苦痛に強引に脚を動かして何とか引き抜いたのだった。


『グエエエ…!?』


引き抜いたものの脚に深手を負ってしまい、ヒョコヒョコと歩くことしか出来なくなっていた。


「脚を負傷したな。あれではもう戦えんな。」


脚力を武器にするディアトリマに取っては強味でもあるが、ケガをすれば攻撃だけでなく移動もままならなくなるため弱味にもなるのだ。


『『『ブモオオ…!』』』


『『グククク…!?』』


ひっくり返らないように踏ん張るので精一杯だった他のエドモントニア達も、防御壁を形成したまま肩のスパイクを振りかざしながらディアトリマ達に逆に迫って追い詰めていく。


「おおっ、良いぞ!まるで要塞なのだ!」


「確かに生きた要塞だぜこりゃ!」


「このまま焼き鳥にしちまえ!」


エドモントニアの防御壁に守られているためルティカ達は徐々に得意気になっていく。


『グエエエエ…!?』


負傷したディアトリマは波打ち際まで追い詰められ、傷口から流れ出た血液が海へと流れていく。


「もう僕達のことは諦めて!」


『ゲエエエ…!』


「応じる気はないらしいぞ。」


生体電流でエドモントニアと自分達のことを諦めるように説得するも、ディアトリマ達は攻撃的な姿勢を崩すことはなかった。


『グオオオン!』


「「「っ!?」」」


まだまだ戦闘が長引くかと思えば、海から水飛沫(みずしぶき)が上がり波と一緒に長く巨大な口が飛び出して負傷したディアトリマの首に喰らいついた。


『グエエエエ!?ギャアアア!?』


『グルルル…!』


海からの襲撃に逃げる間もなく組み伏せられたディアトリマ。その相手は流線型のワニを彷彿とさせる爬虫類であり脚がヒレのようになっていた。


「ちょっと何よあれ…シードラゴン!?シーサペント!?」


「『モササウルス』だよ!」


飛び出したモンスターの正体は恐竜が地上を支配していた時代に、海の中を我が物顔で支配していた海生爬虫類の頂点である『モササウルス』だった。


元の世界でも海の絶対的脅威であるドラゴンのシードラゴンや凶暴で巨大な海蛇モンスターのシーサペントがいたがあながち間違いではなかった。


『グルルル…!』


『グエエエエ…!?』


波打ち際まで飛び出したモササウルスは藻掻き苦しみながら蹴ってくるディアトリマに気にせず、方向転換して海の中へと消えていく。


「嘘でしょ…オバケ鳥をあっさりと海に引きずり込んじゃったわ…。」


さっきまで自分達を食べようとしていたのに、更なる捕食者によって逆に食べられてしまう弱肉強食の光景に言葉を失うキャロライン。


「…もしかして下手をしたら私達が食べられたってこと?」


「こんな浅瀬にあんなモンスターがいるなんて思わなかったもんね…。」


シードラゴンもシーサペントももっと沖の方で見られるし、モンスターがいたとしてもそこまで強くない個体が多かったが、この異世界では通用せず下手をしたらディアトリマと同じ末路を辿ることになったのではとエリーシャ達は震える。


『グエエエ…!?』


『ギャアアア!?』


「見てください!オバケ鳥達が逃げて行きますよ!」


エドモントニアの反撃とモササウルスの襲撃により、戦意喪失したディアトリマ達は慌ててモササウルスの縄張りである海から離れて森の中へと帰っていく。


「これで一安心のようですね。しかしながら海には近付かない方がよろしいですわね。」


『『『ブモオオ…。』』』


安全を確認しようやく一息が付けるとその場にへたり込む一同。エドモントニア達もようやく落ち着きを取り戻したのかその場で寛ぎ始める。


「海鳥を探していたのに見つかったのはあんなオバケ鳥だったなんてね。」


海鳥を探していたがあんな凶暴な鳥から糞を採取するのは至難の業だ。


「見たところ海鳥と言うよりも地上性の鳥のようですし、糞を手に入れても『硝酸ナトリウム』は入手出来そうにないそうですね。」


ところが気休めと言うべきかラスコはディアトリマかの糞はお目当ての物ではないと告げてくる。


「これからどうする?」


「海鳥が見つからないですし、馬車も一つ壊れては続行は不可能ですね。国へ一旦引き上げましょう。」


エインの問い掛けにキオナはこれ以上は危険だと判断して撤退を思案するのだった。


「けど姉様、さすがに疲れたのだ…。」


「私も腕と足が…ぐっ…。」


しかし激しい戦闘を終えたばかりで負傷者もいるため今すぐと言う訳にはいかなかった。


「では治療を優先した休息を取ります。周囲の警戒を怠らないでください。」


それを聞いて一同は馬車から荷物を降ろして野営の準備を始める。


「骨はヒビが入っているため、激しい運動は避けてくださいね。」


「それは周りのモンスター共に言ってくれ。現れたら応戦せねばならん。」


ラスコの治療を受けていたシスカは骨は折れていなかったが、戦闘などの激しい運動が出来なくなってしまう。


『ブモオオ。』


『グオオオ…。』


「良かったね、お母さんと一緒にいれて。」


エドモントニアの親子はお互いに無事を確認し合うと触れ合いを始める。


「見ろよ、マーキー!こんなに触ってるぜ!」


『ブオオオ…。』


リュカはエドモントニアの頭をヘッドロックしながらこれでもかと撫で回す。


「甘いなぁ!俺なんてこうだ!」


『ブモオオ…。』


「あはは…さすがに困ってるわよ。」


マーキーはエドモントニアの背中に寝そべり寛ぐが、キャロラインの言う通り載っかられているエドモントニアは迷惑そうにしていた。


「しかし硬いなぁ…鎧にしたら安心出来るな。」


「確かにオバケ鳥の攻撃を防ぐほどに頑丈ですからね。今後の鎧開発に役立てそうですね。」


しかし寝心地は悪いらしく皮骨の鎧を叩くマーキーの側でラスコは興味深く観察していた。


『ブオオオ…。』


「こうしてみると案外可愛いね。」


「ラピスさんって意外と可愛いものが好きなんですね。」


「意外〜!」


最初は厳ついために近寄りがたかったエドモントニアだがよく見てみると愛嬌があり、勇ましい雰囲気のラピスも頰が緩んでおりフィオナとレナもその様子に癒されていた。


「姉様、我はお腹空いたのだぁ。」


「モナさん、食事の方はどうなりましたか?」


空腹になったルティカを見てキオナは馬車で荷降ろしをしているモナに食事のことを訊ねる。


「あるのは持ってきたパンと保存食ぐらいですね。」  


「ええっ〜、こんな手のひらに載るぐらいちょっぴりなのか?」


「しかもそんなに美味しくないですわよね。」


降ろした木箱から干し肉やチーズや乾パンなどを見せてくる。日持ちはするが非常食であるため味と量はあまりよろしくはない。


「後は海で魚を釣るぐらいですが…。」


「冗談言わないでよ!あんなのがいる海で釣りなんかしたら逆に引きずり込まれて食われるわよ…。」


食糧ならば海で魚釣りと言うこともあるがモササウルスが海にいるため、とても釣りが出来る雰囲気ではなかった。


「だったら贅沢を言っている場合じゃないにゃ!」


「確かにその通りだ。これでも立派な栄養源なんだからな。」


こんな弱肉強食の異世界では食べれる物があるだけでも儲け物なため選り好みばかりしてたら飢え死にするだけだ。


「まあ…チーズとかならまだね。」


「干し肉は…硬いのだ〜!?」


渋々食べてみるもチーズの独特な味にフィオナは渋い顔をし、ルティカは干し肉に齧り付くも子供故に硬い食感に苦戦していた。


「ふんぬぅ…!あぐ…!」


『グウウ…!』


「おおっ…!お主らスゴいのだな!」


「そうかな?」


「この干し肉は中々硬いのにやるね。」


苦戦している中でロボと共にエインは干し肉を噛み切って咀嚼(そしゃく)しており、ルティカとラピスは目を丸くしていた。


「色々言ってもほんのこれっぽっちかよ。」


「しょうがないにゃ!この異世界では手に入る物は限られるにゃ!おまけにどのモンスターや動植物が食べれて、逆にどれが食べると危険なのか一から十まで分からないことだらけにゃ!」


ドランが何気なく言い放った言葉にモナはこの異世界での食糧調達は苦労するのだと述べてくる。


「あの…チーズって牛のお乳から出来ると聞いたことがありますが、この子達からは採れないんですか?」


「このパラサウなんとかからか?」


家畜代わりに国に招いたパラサウロロフスから搾乳しそこからチーズを始めとする乳製品は出来ないのかと質問があった。


「見たところおっぱいらしい物は見えねぇけどな。」


「あんたみたいに分かりやすかったらねぇ〜。」


「や…止めてよぉ…。」


覗いてみるもパラサウロロフスには牛のようなお乳らしい物は見受けられなかった。


それもそのはずだ。お乳が出るのはお腹で子供を孕み暫くの間はお乳で栄養を与えて育てる哺乳類だけだ。


パラサウロロフスを始めとする恐竜は産み落とした卵から子供が産まれ、お乳で育てる必要がない爬虫類に属するためお乳どころか乳房も存在しないのだ。


「そもそもゴブリンなどから搾乳してそれを飲みたいと思いですの?」


「それは極端だとは思うけど…確かにね。」


仮にお乳が出るからと言って飲んでも安全かと言われたら確かにその保証はないだろうとエルケが言い放ちレナも頬を掻きながら同意する。


「先程のモンスターもありますがやはり何とかして海産物を手に入れたいですね。」


「逆にあのモンスターを仕留められれば肉が大量に手に入るな。」


「それはだいぶ先の話になるな。」


モササウルスがいては海産物は手に入りにくいだろうがいずれ準備が出来れば隙をついて入手し、或いはモササウルスを仕留めてその肉を手に入れようとあれこれ意見を出し合うのだった。


「それ以前に魔法の代わりになると言って、わざわざこんな所まで海鳥の糞を集めに私達を駆り出したのにこんな無駄足を踏ませるだなんてどう言うつもりですの!」


「それは…。」


これまでの不満をぶちまけるようにエルケが大声でキオナに文句を述べる。相手は王女だが年齢のこともあって揚げ足を取ってまくし立てる。


「あの…食べないんですか?」


「はあ?何がですの?」


「さっきからお腹空いてるのに何も手を付けてないなんて…。」


突然話の腰を折るようにエインはエルケが空腹でありながら何も食べてないことに首を傾げてながら乾パンを差し出してくる。


「っ…何で分かるんですの?」


「たまに人の考えが読めると言うか…エルケさん、お腹空いててイライラしてるような気がして…。」


生体電流でエルケの考えが読めるため、エインは空腹なのに大丈夫なのかと心配しているようだった。しかし彼の心配は平手打ちによって返される。


「え…?」


「し…失礼ですわね!?本当にデリカシーがないし、不愉快極まりないですわ!?」


平手打ちされて呆然とするエインの手から乾パンをひったくったエルケは怒りを爆発させて何処かへと歩き去っていく。


「おい、何処へ行く気だ。」


「私の勝手でしょうに!」


「森に入るな!あのオバケ鳥がいるぞ!」


「直ぐ側の茂みに行くだけですわよ!もう!」


メリアスが止めるも聞かずにエルケは森の方へと勝手に向かって行ってしまう。


「…エルケさん。」


「エイン、大丈夫ですか?」


頬を擦りながらエインはエルケのことを心配しており、野営地は気まずい雰囲気に包まれるのだった。


「まったく…無能ならデリカシーもなくて当然ですが、人を不愉快にさせるのだけは有能ですわね!」


ディアトリマがいるため余り奥には入らず、近くの岩場に腰掛けて乾パンを食べようとするエルケ。


「あ…ふん、無能の触ったパンなんて汚らしくて食べる気にもなりませんわ。」


頭に血が上っていたこともあって自分が手にしているのはエインが触って物であるため、嫌悪感からゴミを見るような目をしたと思えば空腹なのに乾パンをゴミのように捨ててしまう。


「魔法の名門貴族である私が…何が悲しくて鳥の糞を集めにこんな惨めな思いを…。」


『…ウルル…。』


自身の境遇に嘆いていると岩場から長く太いピンク色の物体がエルケの捨てた乾パンを絡め取り何処かに持ち去ってしまう。


「…!?」


『………。』


何かと思い自身の背後にある岩場を見てみると()()()()()と目が合いエルケは滝のような脂汗を流していた。


「きゃああああ!?」


「どうしたんですか!?」


「何なのだ?」


「ちょっと今度は何したの!?」


またしてもエルケの悲鳴を聞いてエイン、ルティカ、エリーシャ、ルシアンが駆けつけるとエルケが慌てた様子でエインの前で腰が抜けて崩れ落ちる。


「あ…ああ…岩場が…私の捨てたパンを…食べて…!?」


「は?」


「落ち着いて、何があったの?」


取り敢えず身の安全は問題ないようだが、取り乱して忌み嫌っていたエインに(すが)る辺り何か恐ろしいモンスターと出会ってしまったのかと不安になる。


「ルティカちゃん、エリーシャさん、ルシアンさん…あれ…。」


「はい?……わえっ!?」


「ぎゃあっ!?」


「ひあああ!?」


その正体に気が付いたエインは呆然とした様子で()()()()()()、エリーシャとルシアンとルティカは気が付く間もなく地震のような揺れによって尻餅をついてしまう。


「何これ…丸太?」


「何で空から丸太が降ってくんのよ!」


目の前には太い大木から出来たであろう丸太のような物が突き刺さっており、異世界とは言えこんな物がいきなり空から降ってくるなんて考えられなかった。


「君達!そこから早く逃げるんだ!?」


「え、まだ丸太が降ってくんの?」


ラピスや仲間達がこちらを見て大騒ぎしており、目の前の物体は丸太ではないと警告している。


「丸太って…それは丸太じゃないよ!()なんだよ!」


「三人共、上を見て…。」


「脚?上?……ひっ!?」


言っている意味が分からないでいるとエインの言葉で上を見てみるとエリーシャとルシアンも一同が何を見たのか気が付いた。


『……ブオオオオオ…。』


「ぎゃあああ!?で…でで…でででで…!?


「デッカいのだあああぁぁぁ!?」


何が何だか分からなかったが、結論から言えば()()()()()その存在に気が付かなかった。


四人の前には丸太のような太く大きな脚にそれに見合った巨大な胴体、そしてあり得ないほどに長い首と尻尾を持ち合わせた巨大なモンスターが周りの木々を茂みを押し退けるかのように現れたのだ。


「何この大きさ…!?ドラゴンを上回ってるわよ!?」


「僕が前に木の上から見たモンスターはこのモンスターだったんだ…。」


「こ…ここ…腰が抜けたのだぁ〜!?」


その巨体は元の世界のドラゴンやこの異世界のタイラントドラゴン…ティラノサウルスよりも遥かに巨大で間違いなくこれまで出会ってきたモンスターの中でも一番の体格を誇っていた。


『ブオオオオオ…。』


「きゃあああ!?」


「あわわわ…!?」


長い首を下げ自分達の目線に合わせて顔を近づけてくるモンスターにエルケ達は慌ててエインに寄り添う。こんな大きな生き物が顔を近づけてくれば誰だって恐怖を覚えるはずだ。


『グオップ…。』


「…大丈夫、大人しいモンスターみたいだよ。」


「「「え?」」」


ところがエインは目の前のモンスターが危険ではないと見抜き、唖然とする四人を尻目に彼の言葉を証明するかのように木の葉を食べ始める。


「驚いたな…ドラゴンを上回る巨体なのに草しか食べないのか。」


「あんな大きなモンスターもいるとは予想もしなかったぞ。」


元の世界でも大きなドラゴンは山程見てきたが、それすらも凌駕するモンスターがこの異世界にいたとは名うての狩人のメリアスも好戦的なシスカも驚きを隠せなかった。


『竜脚類』。地球にかつて存在した恐竜のグループの一つであり、一番の特徴は地球の歴史上に置いて最も大きな体躯と長い首と尻尾を持っていることだ。


『『『ケエエエ!』』』


『『『ブモオオ!』』』


「げっ!さっきのオバケ鳥達…もう戻って来やがった!?」


先程仲間が食われたばかりなのに、ディアトリマ達は報復と言わんばかりにエドモントニアの群れを襲撃していたのだ。


『『ケエエエ…!』』


『ブオオオ…。』


「まさかあのモンスターにも挑む気か?恐れを知らない奴らだ。」


自分達だってあれほど大きなモンスターとは出来れば戦いたくはなかったのに、ディアトリマ達はその巨大モンスターにも食って掛かるかののうに嘴を鳴らし威嚇していた。


「呑気なことを言ってる場合か!エインとルティカ様が両者の間にいるんだぞ!」


だが、巨大モンスターに挑む前にエイン達に襲いかかる危険性があるとメリアスが指摘し弓矢を構える。


『グエエエエ!』


「あわわ…!?」


「ルティカちゃん、僕の後ろに…!」


案の定、挑む前にディアトリマは身体が小さいエインかルティカを狙っており見定めて近寄って来る。


『ブオオオオオオオオオン!』


「いっ!?何この鳴き声!?」


「内臓が…震える!?」


何を思ったかは不明だが巨大モンスターは野太い船の警笛のような鳴き声を発して威嚇し始める。


『『ケエエエ!』』


『キュオオオオ!』


威嚇を前にしてもディアトリマはルティカを狙って突進して来るのを見た巨大モンスターは尻尾を振り下ろして砂地に埋める。


『キュオオオオ…ブオオオオオン!!』


「お…おおおっ…!?」


「た…立った…!?」


なんと後ろの二本脚の力だけで直立し、ただでさえ高い体高があり得ないほどまでに大きく見せられ再び圧倒されるのだった。


『キュオオオオオ!』


『『ケエエエ!?』』


もちろんずっとこの状態を維持出来るわけではないため、暫くした後に再び四足歩行になるのだが地に脚をつけた瞬間に地響きが発生しディアトリマ達はバランスを崩して倒れてしまう。


『ブオオオオオン!』


『『グゲェ…!?』』


巨大モンスターは踵を返すと長い尻尾を振り回してディアトリマ達を薙ぎ払う。尻尾が巨大であるためその一撃で骨が砕けて絶命するのだった。


『『ゲゲエエエ…!?』』


更に二羽の仲間がヤラれたことに臆したディアトリマ達はまたしても森の中へとが撤退するしかなかった。


「私達でも苦戦した相手をあんなにもあっさりと…。」


「あのオバケ鳥も恐れを知らなかったようだが、奴の方が一枚上手だったようだな。」


竜脚類達は身体を大きくさせることで外敵から襲われにくくすることで身を守っていた。


その中でも目の前のモンスターは特に巨体を誇り、恐れること事態が少なかったとされ『恐れ知らず(ドレッドノータス)』と呼称されていた。


「皆、大丈夫だった?」


「おおっ!姉様、我は大丈夫なのだ!しかし本当に大きくて羨ましいのだ!」


「どう言うつもりかは知りませんが妹とエインが助かりましたわ。」


『…ブオオオオオ。』


本当に何を思ってディアトリマを撃退したか分からなかったが、結果的にルティカ達は助かりキオナは言葉は通じないと分かっていながら礼を述べる。


『ブオオオオオン…。』


「こんなに大きいのにとても穏やかで優しいとは紳士の鑑だよ。」


「って、お待ちなさい!その先は…!?」


ドレッドノータスがゆっくりと地響きをさせながら歩き出すのだが、その進行方向を圧倒されながら見ていたエルケは慌てて大声を張り上げるもグシャンと言う音と共に遮られる。


『ブオオオオオ…?』


「って、ああっ!?馬車が!?」


「にゃにゃ!?載せていた荷物がぺっちゃんこにゃー!?」


『何か踏んだか?』とドレッドノータスは丸太のような脚を上げると、なんと停めてあった馬車を中に載せていた荷物ごと踏み潰してしまっていたのだ。


「うわあっ!?なんてことすんだよ!?食糧も薬も…武器も鎧も馬車に積んであったんだぞ!?」


「皆纏めてグチャグチャじゃないか!?」


人が乗っていなかったのがせめてもの救いだったが、馬車に載せていた物資は全て見る影もないほどの有様だった。


「ちょっと!これはどう責任を取ってくれますの!?このままでは私達は国へ帰れませんわよ!?」


たださえ散々な状況なのに馬車と物資を踏み潰されて野営どころか帰還が絶望的になったとあっては、エルケは黙っておらず恐竜相手に啖呵を切る。


『…ブオオオオオン。』


「コラ!責任逃れしようなんて、何処にも行かせませんわよ!?」


ところがディアトリマを蹴散らしたドレッドノータスからすればエルケは相手にならないらしく啖呵が聞こえたとしても気にせず地響きを伴いながら歩み始めたためエルケは大の字になって行く手を遮ろうとする。


「バカ!何をしてるんだ!?」


「何って責任を取らせようと…。」


メリアスの警告を無視してドレッドノータスを足止めしようとするエルケ。


「貴様は目の前のアリが文句を言っても聞き入れて足を止めるのか!」


「え?」


人間だって小さなアリのことなんか気にせず歩いて行くのだから、ドレッドノータスからすればエルケのことなんてそもそも足元にいても眼中にないはずだ。


シスカの忠告を聞いてようやく理解したのかふと考えるエルケの前に丸太のような脚がドスンと降りてくる。


「あ…ああ…!?」


『ブオオオオオン…。』


地響きと恐怖に腰が抜けて立ち上がれないエルケの頭上に、何も気付いていないドレッドノータスの丸太のような脚が迫って来る。


「危ない!?」


「あう!?」


エインが生体電流で身体能力を上げてエルケにタックルしてその場を脱するとドスンと脚が砂地にめり込むのだった。


『キュオオオオン…。』


「本当に恐れを知らない奴だ…。」


その巨大な姿が見えなくなるまで地響きのような足音は聞こえ続一同は終始圧巻されながら見送るのだった。


「大丈夫ですか?」 


「あ…う…あっ!?み…見ないでください!?」


「…?…うっ…これは…。」


タックルからお姫様抱っこをしていたエルケに無事を確認するが、彼女は涙目で慌てており次第に手から伝わる温かい液体の感触に既視感を覚え動揺するエイン。


その後精神的に粉々に踏み潰されたエルケはエインから女子達に任され、粗相をしてしまった衣服の後始末とメンタルケアを受けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ