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飛ばない鳥は『恐ろしい鳥』

『キャンキャン!』


「しょっぱい匂いがするの?」


「潮の香りがする…海に着いたんだ!」


バリオニクスとの遭遇の後でロボとメリアスが潮の香りを嗅ぎ取り、ようやく目的地である海辺に辿り着いたようだ。


「おおっ〜…!これが海…!大きくて…綺麗だなぁ…!」


閉鎖的な環境にいたエインは地平線まで広がる青い海を初めて見て、海にも負けないほどキラキラとした目で見ていた。


「わたくしも海の近くの国には何度か訪れて、その度に見てきましたがこんなにも綺麗だったでしょうか…。」


「まるで物語の中の楽園みたい…。」


「アンビリバボー…。」


彼と比べれば何度か海を見てきた面々も美しい芸術品を目の当たりしたかのように目を奪われていた。


「…しかし人の気配がしないな。」


「恐らく手つかずのためここまで綺麗なのでしょうね。思えばこの異世界では私達以外の文明の気配が感じられませんし…」


ひとしきりキョロキョロしていたシスカの言葉を聞いて、ラスコは自分なりの考察を述べる。思えば自分達以外の知的生命体が作り出したであろう人工物や文明の気配がなかったことがここが異世界であることを証明していた。


「見惚れている暇はないぞ。火薬に使う海鳥の糞を集めるぞ。」


「何が悲しくて汚らしい鳥の糞を集めねばならないんですの。」  


海に見惚れていたが汚い物は集める以前に触りたくないとエルケや魔法使い達は嫌がる素振りを見せていた。


「全部あんたらのためでしょうが!魔法が使えない代わりでしょ!」


「そんなのが本当に魔法の代わりになるんですの?出鱈目を言ってるんじゃありませんこと?」


「そんなことは…実際に作って試しましたし…。」


「まあ!つまりあなたは鳥の糞塗れになっていたんですの!?汚らしいですわね!?」


何かに付けてエルケ達は糞集めをやりたくないと言い続け、我慢が出来なくなったシスカは目を細めながら睨みつける。


「いい加減にしろ、贅沢を言える立場か貴様らは。プライドが許さないのならば、あのモンスターに食われて誇り高く死ぬがいい。」


シスカの冷徹な発言と視線に喧嘩していた双方は凍りつき言い争いもピタリと止む。


「…とにかく海鳥を見つけようよ。」


「そうだな…。」


凍りついた雰囲気を何とかしようとエインが気を取り直して海鳥を探すことを提案し、他のメンバーも少しずつ立ち直って海鳥の捜索を始める。


「と言っても何かガランとしてるわね。海鳥が一羽もいないなんて…。」


しかしながらキャロラインは海辺にいるのにカモメを始めとする海鳥が一羽もいないことに気が付く。


「生態系が変わっている可能性がありますね。」


「あのモンスター達のことと言い、ここが異世界と言い、海鳥達ものっぴきならないことになっているのかもしれないな。」


異世界転移して忘れていたが人間である自分達はもちろん、元の世界のモンスターや動物達も巻き込まれている可能性もあり、肉食生物達によって既に食い尽くされても不思議じゃない。


「もう少し詳しい調査が必要ですね。」


「幸いここは開けている。各自固まって周辺の調査をするんだ。」


糞を集めるには海鳥の存在を確認する必要があり、海辺の何処にいるか手分けして探すことにする。


「ロボ、どう?」


『クゥン…。』


「この辺にはいないんだね。」


エインはロボの鼻を頼りに海鳥を探すも、羽根一本すら見つからなかった。


「それにしても本当に綺麗ですわ。」


「暑いし、ここで泳げたらなぁ…えい!」


「きゃっ!ちょっとエリーシャちゃんってば〜!」


余りの美しい海にエリーシャは我慢出来ずにルシアンに向かって海水を浴びせる。対するルシアンも驚くもののお返しに海水を浴びせ返して戯れる。


「わたくしもやりますわ!エイン〜!」


「わばっ!?やったな〜!」


キオナとエインもそれに合わせて水遊びを始める。ロボとフォークも二人の周りでクルクルとはしゃいでいた。


『……。』


しかし彼らは気付いていなかった。遠方の水面では獰猛な視線が狙い澄ましたように凝視しており、波音を立てずにこっそりと泳いで来ることに…。


「ここにはモンスター達はいないのか…。」


「それと同時に海鳥もいないがな。」


別の場所でメリアスとシスカは海鳥とは別にモンスターの気配がないことを気に掛けていた。それはそれで良いだろうが逆に不気味さすら覚えていた。


「むう…姉様ばかりズルいのだ!」


「何がですか?」


下手をすると娘と母親の歳の差だが、キャロラインは敬語で不満に思うルティカの話を聞いていた。


「姉様には二人も騎士(ナイト)がいるのだ!」


「二人?一人はエインくんだろうけど、もう一人は誰なんですか?」


キオナに取って騎士とはエインのことだろうが、もう一人の騎士のことは皆目見当がつかなかった。


「フォークなのだ!あんなカッコいい騎士まで姉様の騎士だなんてあんまりなのだ!」


「ああ〜…なるほど…。」


自分を文字通り振り回したバリオニクスを追い払ったため、ルティカもトリケラトプスのフォルムを騎士として見込んでおり気に入っていたようだ。


「もう!魔法の名門貴族であるこのわたくしにこんなことをさせるなんて極刑物ですわ!」


「まだ言ってるよこのお嬢さん…。」 


「他の魔法使いのお前らもサボってないで手伝ってくれよ。」


リュカとマーキーは暑い中海鳥を探していたが、魔法使い達はすぐにバテて日陰に座り込み文句を並べていた。


「ん…?今何か揺れなかったかしら?」


座り込んでいたエルケは妙な揺れを地面から感じ取り周りの魔法使い達に確認を取る。


「本当だわ…揺れてる!」


「何これ、地震!?」


他の魔法使い達も地面の揺れを感じ取って地震が発生したのではと騒ぎ立てる。


「バカ!何してんだよ!?」


「前衛職の分際で何を無礼な…!?」


地震が起きて慌てていたのは魔法使い達だけではなかった。リュカ達も慌てて警告するも思わず悪口が出てしまいエルケ達を怒らせてしまう。


「お前ら一体何に腰掛けてんだよ!?」


「は?何にって…?」


『……!』


自分達は砂の上に腰掛けているのに何を言っているのかとお尻の下を見てみると砂の中に何かいて目が合ってしまう。


「きゃあああ!?」


「今のは?」


「エルケの声だけど…何やったのかしら。」


水遊びを楽しんでいたエイン達はエルケの悲鳴が聞こえてハッとなる。


「何かあったのかしら…。」


「あいつらはあたしみたいに少しは痛い目に遭えば良いのよ。」


昔の自分のように傲慢なエルケを懲らしめようとこのまま放置しようと考えるエリーシャ。


「…でも放って置けないよ!行こう!」


「そうですわ!王女として民の危機は見過ごせないですわ!」


だが、心優しいエインと王女として民を大切にする信念を持つキオナはロボとフォークと共にエルケ達の元へと向かう。


「エリーシャちゃん…。」


「…ま、そうなるよね。行こうか。」


「うん…!」


そうするだろうと考えていたため二人も後を追い掛けて海辺から出る。


『……。』


しかしながら彼らの行動は得てせず自らを救うことになっていた。海中から音を立てずに近寄っていた影は獲物が海から離れてしまったことで断念するように引き返していく。


「どうしたんですか!」


「ああ、エインか…ちょうど良かった!あれは何だ?」


エイン達が辿り着くと騒ぎを聞き付けたメリアス達が彼らの到着を待ち侘びたように語り掛けてくる。


「ひゃあ!?何処に頭を突っ込んでますの!?ひゃん!?そこはぁ…!?」


『ブモオオオ…。』


ゴツゴツとした甲羅を持つ大きな亀のような生き物が尻餅をついたエルケのスカートの中に頭部を突っ込んでモソモソとし彼女に甘い声を漏らさせていた。


「スカートに頭を突っ込むモンスター?そりゃあエロいことをしてくるモンスターはローパーとかオークとかいない訳でもないけど…。」


元の世界でも単に好戦的なモンスターは多くいたが、それでも人間に対して…特に女性に卑猥(ひわい)なことをする目的で襲ってくるモンスターも多くいたが、この亀のような生き物もそうなのだろうか?


「そんなこと言ってる場合じゃたりませんわよ?!何をするのですかこの不埒者!?」


『ブモオオ!?』


取り敢えず食べられる心配はなかったが、それでもこのモンスターが女の敵に変わりはなかったためエルケは耐え切れずに顔面を蹴り飛ばし悲鳴を挙げさせる。


『ブモオオオ!』


『ブオオオ!』


『ブルル…!」


「うわっ!?もっとデカいのが足元から出てきた!?」


「しかも何か怖え!?」


悲鳴を聞きつけたのかサイズを大きくさせ、肩から鋭いスパイクを生やし、より厳つい顔付きのモンスター達が魔法使いの足元の砂から這い出てくる。


「こいつら…岩石トカゲか!」


「こんな所に何で…!?」


元いた世界には岩石トカゲと言うとても凶暴で岩のような鱗で覆われている身体を持つモンスターがいた。獰猛でその岩石の鱗を持つ体で暴れるため『生きた岩雪崩』とされるほどに危険なモンスターだ。


『ブオオオ…!?』


『ブモオオオ…。』


「あ…あなたのお子様でしたの…!?」


先程エルケが蹴り飛ばした個体は大きな個体に寄り添い手厚く蹴られた所を舐めて貰って甘えていた。見た目が似ていることとその様子に親子であることは間違いなかった。


『ブモオオオ!』


「ひゃあ!?来ないでください!?」


子供を攻撃されたと思った母親はエルケに向かってノシノシと歩いてくる。


「彼女に手を出すな!」


エルケのピンチにラピスが果敢に立ち向かおうとして剣を振り上げる。しかし慌てて助けようとしたため刃を甲羅のような部分に当ててしまい、ガキイイィィンと言う甲高い金属音と共に剣の刃が弾かれてしまう。


「はうあっ!?な…何て硬い皮膚なんだあぁ〜…!?」


「バカ者!よりにもよって硬い部分を狙ってどうする!」


その衝撃でラピスはビリビリと身体と声が震えていた。幸い剣は折れなかったが攻撃する部分を間違えてしまったようだ。


『ブモオオオ!』


「うっ…?!」


「待って!」


しかし目障りに思ったのか岩石トカゲらしきモンスターはラピスに向かって突進してくるが、生体電流(パルス)を纏ったエインが両者の間に割って入ったために一旦立ち止まる。


「ごめんなさい、この人達はびっくりしただけなんだ。」


『…ブオオオ。』


謝罪が通じたのかモンスターは落ち着きを取り戻し子供や仲間達と一緒に草を食べ始める。


「あら?岩石トカゲは肉食のはずなんだけど…」


「見た目がよく似ているだけで本当は草食の大人しいモンスターのようですね」


岩石トカゲは本来なら目に付く獲物を徹底的に襲うと知られていたが、目の前のモンスターは見た目こそ似ているが草食で、先程も子供を攻撃されたから攻撃的になっていただけだった。


「エイン、エルケさん!ラピスさん!大丈夫ですか!」


「まだ痺れるけど…何とか…。」


「僕は大丈夫だけど、エルケさんは?」


「無能に心配される筋合いはありませんわ!?」


咄嗟に間に入ったエインも、剣を弾かれたラピスも襲われそうになったエルケも無事であった。しかし罵倒していたエルケは腰が抜けたのか魔法の杖を使って立とうとしていた。


『ブオオオ…』


「エイン、これは何と言うモンスターなのですか?」


「『エドモントニア』って言うモンスターみたい。」


いつものごとくエインの調べによってこのモンスターが『エドモントニア』と言う名前であることが分かった。


「それにしてもなんと硬い鱗なんだ…ここまでの道のりでくたびれていたとは言え、この世界のドラゴンの鱗に傷を入れることが出来る剣が弾かれたんだぞ。」


「まるっきり頑丈な鎧みたいだな。」


『鎧竜』。鳥盤目に属する草食恐竜の総称であり、総じてほぼ全身が皮骨と言う硬い鎧のような物で覆われており、肉食恐竜の牙も通さないほどの防御力を誇るのだ。


そのため人間の作った剣の刃など弾くなんて造作もないことだった。


「それにしても砂の下でわたくしのローアングルを覗こうだなんて無礼にも程がありますわ!」


「いや、知らなかったとは言え砂の中にいたこいつらの上に乗ったからじゃ…。」


「おまけに頭を突っ込んだのは子供の個体だしな…興味本位だったのかもな。まあ、俺らもない訳じゃないが…。」


大人しい生き物とは言えいきなり恥ずかしい思いをさせられたことにエルケは怒っていたが、こちら側に非がないとも言い切れなかった。


「あの…結局、海鳥は見つかったんですか?」


「残念だが収穫無しだ。しかし貴様ら濡れているが遊んでいた訳ではなかろうな?」


シスカの指摘にルシアン達はドキリと図星を指される。先程まで水遊びしていたため正しくズバリとした指摘だった。


「あれ、キオナ。髪に何か着いてるよ。」


「あら、何ですの?」


キオナの黒髪に髪の毛とは思えない物が絡み付いておりエインはそれを丁寧に取り除く。


「これは…羽根だ!」


「おおっ!と言うことは海鳥がいるのか!」


取り除いたのは鳥の羽根でありこれが探していた海鳥なのではかと希望が持てる。


『ブモオオ…!?』


『ブオオオ…!?』


「あれ、どうしたの?」


しかしエドモンドニア達はその羽根に気が付いた途端にザワめきだし警戒する様子を見せる。


「この羽根は何処で?」


「案内します、こちらです。」


エドモンドニア達と一度別れた後に羽根が付着したと思われる場所へと向かう。


「この辺りのはずですが。」


「けど、あたしらはあの時水浴びしていたからもしも流されて来た物だとしたらあんまり当てにならないかも。」


「って、お前達やっぱり遊んでいたな。」


水浴びをしていた場所に戻るも海で付着した場合は手掛かりになるかどうか分からなかった。


『ウウッ〜…!』 


「ロボ、どうしたの?」


「モンスターか?」


するとロボが何かに警戒するかのように唸り声を挙げており、モンスターが来ているのかと一同は武器に手を伸ばす。


「最悪ですわ…糞集めだけでなく、魔法も使えないのにモンスターの襲撃なんて…!」


「ううっ…どうしよう…?」


「落ち着け、ここは一旦馬車まで戻るんだ。」


今回は魔法が使えない魔法使いの護衛もしなければならないため、糞集めは諦めて撤退を視野に入れて馬車へと急ぐ。


『『『ブモオオオオ!』』』


「あれ、さっきのエドモンドニアだ。」


唸り声に振り返ると砂煙を上げてエドモンドニアが一斉に押し寄せて来るのだ。


「って、何でこっちに突進して来んのよ!?」


「さっきと様子が違うみたいだけど…。」


「いかん!馬車に急げ!」


あんなに大人しかったはずのエドモンドニアが、何が気に入らなかったのか我先にとこちらに向かって突進して来るため急いで馬車の方へと駆けていく。


「あいつら…そんなに素早くはないみたいだな。」


「なら良いだろ!さあ、行け!」


『プオオオン!』


幸いエドモンドニアは鎧のためか動きは鈍いため、追いつかれる前に馬車に戻ることが出来たためパラサウロロフスの手綱を操作して走らせる。


「これで一安心…きゃっ!?」


「うわっ!何だ!」


「誰だ!馬車に体当たりしてるのは!」


馬車でエドモンドニアを振り切れると一安心したが、何かが馬車の外側から強い力でぶつかって来て馬車をヘコませ衝撃を与えてくる。


すると馬車の(ほろ)が突き破られたのだが、少なくとも相手は馬車より体高が低いエドモントニアではなかった。


『ケエエエ!』


「ぎゃあっ!?オバケ鳥だ!?」


正体は体長二メートルはあろう怪鳥が馬車と同じ速度で走ってきて体当たりしていたからだ。


『ケエエエ!』


「きゃああ!?」


『ケエエエン!』


「うおおおっ!?何だこいつらは!?」


『ディアトリマ』、またの名を『ガストルニス』と呼ばれる恐竜絶滅後に現れた鳥類だ。その特徴はダチョウのように空は飛べないものの発達した後ろ脚で地上を駆け抜けることだ。


そして地上を駆ける鳥類の中でも恐ろしく身体が大きく肉食性であるディアトリマは『恐鳥類』と言う当時のヒエラルキーの頂点に君臨した存在だ。


恐るべき怪鳥ディアトリマは太く鋭い(くちばし)を備えており、馬車の外枠を叩き壊すように突いてくる。


『ケエエエ!』


「ぐっ!?しまっ…!?」


その内ディアトリマの嘴はシスカの操るパラサウロロフスの手綱を切断したことで機動力が極端に下がってしまう。


『ケエエエ!』


「きゃああ!?」


「姉様〜!?」


その馬車にはキオナとルティカとエルケも乗っており、ディアトリマ達は動きが鈍くなり始めた馬車を太く強靭な脚で蹴り飛ばして破壊していく。


「キオナー!」


「ちょ、エインくん!?」


「あのバカ…!?」


助ける余りエインは馬車から飛び降り、暫く地面を転がった後で襲われている馬車へと駆け出す。


『ケエエエ!』


「うおっ!?」


遂に車輪が壊され車体が地面を擦りながら止まってしまい、その反動でシスカは何処かに投げ出されてしまう。


『グエエエエ!』


「いやあああ!?」


「ルティカ、皆さん!?私の後ろに!?」


妹や他の魔法使いを守るために木箱の剣を抜いて守ろうとするキオナ。


「待って!その人達を襲わないで!」


『グエエ…?』


「エイン!?」


エドモンドニアの時と同じくエインは生体電流でディアトリマに呼び掛ける。それが功を奏してディアトリマは話し掛けられたことに戸惑うかのように小首を傾げていた。


「お願い…止めて…!」


『グエエエエ!』


『ケエエエ!』


最初は戸惑いはするもディアトリマ達は話し掛けてくるエインに邪魔をするなと言わんばかりに吠え立てる。


「それなら…えい!」 


『グエ!?』


話が通じても聞き入れて貰えないのならとエインは生体電流を流してディアトリマ達の一羽を痺れさせる。


『ケエエエ!』


「エイン!逃げなさい!?」


破綻しかけていたがもはや交渉決裂だと言わんばかりにディアトリマ達がエインに向かって走ってくる。


「えい!やあっ!」


『ケエエエ!?』


生体電流を読み取って寸前で嘴や後ろ脚を躱し、逆に生体電流を流して痺れさせるエイン。


対するディアトリマは身体が大き過ぎるため、身体の小さなエインの小回りを活かした動きに翻弄される上に、一時的に痺れて動けなくさせられたために悪戦苦闘していた。


「キオナ!早く皆を!」


「はい!さあ、急いで避難を…!」


「避難たって何処にですの!?」


ディアトリマ達を翻弄している間に馬車の仲間達を避難させようとするが、馬車にも追いつくほどの怪鳥を前にどう逃げ隠れするべきか分からなかった。


「それは…。」


『ケエエエ!』


「とにかく逃げてください!?」


考える暇も与えないとディアトリマがこちらに向かって来るためにキオナは慌ててルティカの手を引いて走り出す。


『『『グエエエエ!』』』


「ダメですわ!?追いつかれます!?」


後ろから二メートルの肉食怪鳥の群れが迫って来れば誰だって怖い。そんな悪夢から逃れるかのように走っていたが『死』と言う恐ろしい現実が徐々に迫って来るのを実感し心身共に擦り減り吐きそうになる。


「うおおおっ!」


『ギャア!?』


だが、馬車から放り出されたシスカが刀を握り締めてディアトリマの脚を斬りつけて転ばせる。


「はあ…はあ…ははは…私が相手になってやろう…!」


放り出された際に負傷したのか頭から血を流していたものの不敵な笑みを浮かべていたシスカはその血を舐めながら担架を切る。


「シスカさん!」


『ケエエエ!』


「早く行け!逆に食ってやるわ!」


エインのように相手の攻撃を読み取ることは出来ないが長年の戦闘の経験により攻撃を躱して隙を突くように斬りつける。


『グエエエエ!』


「ぬん!…ちっ、羽根が邪魔で中々決まらんな…!」


ダメージがない訳ではないが羽根が緩衝材になり刃は当たっても決定打にはならない。


「おまけに肉が分厚いために刃が通り難いか…!」


空を飛ぶ鳥であれば飛行のために身体を軽量化させる進化をしてきたが、地上性の鳥は空を飛べない代わりに脚力とそれに見合った強靭な身体を持ち合わせている。


「久しぶりの手応えのある獲物だな…どっちが生き残るかな?」


『『『グエエエエ!』』』


その言葉に応じたかは不明だが『それは俺達だ』と言うかのようにシスカに一斉に襲いかかるディアトリマ。


「早く隠れませんと…!?」


「ですから何処にですの!?」


シスカのお陰で何とかディアトリマから離れることが出来たキオナ達は隠れる場所を探していた。しかしここは海辺で隠れるどころか障害物がほとんどなかった。


『グエエエエ!』


「ひっ!?シスカさんは!?」


時間稼ぎをしてくれたはずなのにもうディアトリマが迫って来るのを見てシスカの安否を気掛かりになる。


「ぐううっ…!?」


『『ケエエエ…!』』


まだシスカは生きてはいた。しかし二羽のディアトリマが脚で彼女の腕と足を押さえ込んでいて、おまけに彼女の身体は複数の傷をつけられボロボロになっていた。


「多勢に無勢だったようですわね…。」


「そんな…シスカさんが…!?」


シスカはキャラバンの護衛を務めるだけあって優秀な戦士だったかもしれない。


しかし相手が多過ぎたこともだが、この異世界に転移しモンスターに襲われ続けて薄々勘づいていたが、人間はこの異世界に置いては余りにも()()()()()であると嫌と言うほど思い知らされキオナ達は絶望する。


「あいてっ!?」


「きゃっ!?何ですの!?」


ダメ出しをするかのように何かに躓いてしまったキオナと手を繋いでいたルティカ。


『ブモオオ…!?』


「さっきの岩トカゲだぞ姉様!」


「…何をしてますの…?」


躓いたのはこんな時だと言うのに寝そべっているさっきのエドモンドニア達だった。


『ケエエエ…!』


『ブモオオ…!』


「狙いが変わりましたわ!」


「姫様!こちらです!」


「メリアス!来てくれたのですね!」


ディアトリマ達もエドモンドニアに気付いて注意がそちらに向いたことで、この隙にエインが飛び降りたことでUターンして来たメリアス達の馬車に乗り込む。


『ケエエエ!』


『グエエエエ!』


『『『……。』』』


「なるほど…ああすることで身を守っているのですね。」


ディアトリマ達は捕食しようと(つつ)いたり蹴り飛ばしてみるも、エドモンドニア達は不動と言わんばかりにビクともしなかった。


「前衛職の方が傷つけることも叶わなかったのですわよ。鳥風情にそんなことが出来るとは思えませんわ。」


色々なことを棚上げにしながら上から目線を止めないエルケはディアトリマ達が無駄な努力で終わるのを心待ちにしていた。


「あれだけの防御力ならオバケ鳥でも絶対に不可能なはず…。」


しかしながらAランク冒険者のラピスの剣でも傷が入らなかったのだから、幾らディアトリマでも突破するのは不可能だろう。


『…グエエエエ!』


『ブモオオ!?』


「あ!子供が襲われているのだ!」


ところがディアトリマ達はすぐさま標的をエドモンドニアの子供に変えて側面を強く蹴り飛ばし始める。


『ブモオオ〜!?』


「ひっくり返しただと?」


「ん?あの岩石トカゲのお腹、背中と比べると見た目がなんかツルッとしているような?」


蹴り飛ばしたと同時に脚で押さえ込んでそのまま子供をひっくり返すと、皮骨がなく柔らかそうな腹部が露見される。


「そうか!それが狙いだったんですね!」


「何がですの?」


何がしたいか分からなかったが、ラスコは逆さまになったエドモンドニアとディアトリマの一連の行動を見て何かに気付いたようだ。


「恐らくあの岩石トカゲは腹部は鎧に守られてないらしく、オバケ鳥達はそれを理解した上でひっくり返したんですよ!」


「私達がモンスターの柔らかい肉質の部分を狙うのと同じ理屈か…!」


そう、鎧竜は()()全身を鎧のような物に包まれている。


だが腹部などは覆われておらず何らかの要因によってひっくり返った場合、自慢の鎧も役に立つどころか起き上がるのを妨げてしまいそこを狙われることもある。


元の世界でもスライムならコア、ドラゴンなら鱗に覆われてない部分を狙うこともあったが、ディアトリマ達もエドモンドニアの急所を知っててひっくり返したのだ。


『ブモオオ!?』


『ケエエエ!』


『グオオオ!?』


『グエエエエ!』


他のエドモンドニア達も子供のピンチに起き上がるが、あわよくば大人のエドモンドニアもひっくり返そうと他のディアトリマ達が側面を蹴り飛ばしてくる。


「このままだとあの子が食べられちゃう…。」


「残酷だがこれが自然の掟なんだ…。」


人間の常識からすれば子供や老人は守るべき対象ではあるが、弱肉強食が強調されたこの異世界に置いては真っ先に襲われるのが常である。


確かに自分達も弱肉強食はあったものの何も人の命を奪う事はなかった。そのためエドモンドニアの子供が食べられそうになっているのを見て心を痛める。


「そう言えばシスカさんは!?」


「うおおおっ!」


自分達のことで精一杯だったがディアトリマに囚われたシスカの安否が気掛かりになっていると、彼女の雄叫びが聞こえてくる。


「やあああ!」


「でえやぁ!!」


『ゲエエ!?』


なんとシスカを背負ったエインが子供を狙うディアトリマに向かって突進していき、背中のシスカは刀をディアトリマの身体に突き刺したのだ。


「はあ…はあ…大丈夫?今元に戻すからね!?」


『ブモオオ…?』


ディアトリマが怯んで下がったと同時にエインはひっくり返った子供のエドモンドニアに生体電流を流して落ち着かせ、側面から一気に力を込めて起き上がらせようとしていた。


「はあ…はあ…イカれているな、こんな時までモンスターの子供を心配してやるとはな…。」


「ごめんなさい…。」


「ははは…でも、助けて貰ったあたしが言える立場じゃねぇな…早くしろ、長くは保たねぇぞ!片腕片足がイッチまって使い物にならねぇ!」


腕と足を引きずりながらシスカはさっきまで抑え込んでいたが今や痺れているディアトリマを見た後に、子供のエドモンドニアとエインを守りながら早く起こすように示唆する。


「まさか戦う気ですの!?正気ではないですわ!?」


「…エインならやりかねないですわね。」


どうやらエインはエドモントニアの子供を助けようとしているらしく、せっかくディアトリマの注意が逸れていたのに誰もが彼の正気を疑う。


「無能のくせに何をするかと思えば…。」


「エイン!」


「キオナ!?」


「世話が焼けますわね…私も手伝いますわ!」


しかしながら正気を疑ってもキオナはエインを見捨てる気はないらしく、彼女もエドモントニアの子供の側面に回り込み起き上がらせようとする。


「でも、君まで来ることは…。」


「ふぬぬ〜!?意外に重いのだ〜!?」


「って、ルティカちゃんまで!?」


続いてルティカまでもが起こそうと力を込めていたことにエインはもちろんキオナも目を丸くする。


「姉様とエインがやるなら我もやるのだ!」


「急ぎましょう!」


「二人とも…。」


シスカも巻き込んだ以上は自分だけで何とかしようとしていたが、ルティカとキオナが手を貸してくれたことにエインは胸が熱くなる。


その時長い杖のような物がエドモントニアの子供の身体の下に潜り込むように刺さる。


「ふぬぬ〜!?早くしてぇ〜!?」


「これで食われたらあんたを一生恨むからね!?」


「私達もこれくらいなら…!」


魔法使いの女子生徒の二人とキャロラインが杖を梃子(てこ)にして押し上げようとしてくれたのだ。


「エイン!急げ!」


「早くそいつを起こしてここから離れるぞ!」


「このオバケ鳥は任せろ!」


「急いで!?」


デコボココンビとメリアス達も馬車から降りてディアトリマと戦い時間稼ぎをするつもりだった。


「皆…!ありがとう!」


昔と違い仲間達が自分のために戦ってくれることに不思議な気持ちになりながら、何としてもエドモントニアの子供を起こそうと力が入るのだった。

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