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狼の道は『ロボ』

「ここだ。」


「地下…?」


メリアスと合流したエイン達は他の仲間達が待つ場所へ案内されるのだが、目の前にあったのは街の地下に繋がる重厚な扉だった。


「この街には避難用のシェルター…つまり地下空間のような物が設けられており、有事の際にはここへ避難することになっているそうだ。」


大きな街には台風などの自然災害やSランクモンスターが襲撃した際には避難所が設けられており、どうやって見つけたかは謎だがここほど安全な場所はないはずだ。


「私だ。入れてくれ。」


メリアスは重厚な扉の前に立ってリズミカルにノックした後に呼びかける。すると中でガチャリと鍵を開ける音がして扉が開いていく。


『グルルル…。』


メリアス達が地下の避難所に入って行くも、その様子をダイアウルフが監視していたことに誰も気が付かなかった。


「エリーシャ!無事だったんだ!」


「ルシアン〜!?」


中には生徒達はもちろんエリーシャよりも先に保護された彼女の取り巻き達も、ルシアンの友達もいて彼女らが無事であることに歓喜し抱き着いて来た。


「…良かった…。」


エインはルシアンとエリーシャが友達と再会出来たことと、その友達も無事であることを確認してホッとした様子で微笑んでいた。


『キャン!』


「ロボ!君も無事で良かった…そして皆を守ってくれてありがとう。」


ロボが駆け寄ってくれたことでエインは先程よりも満面の笑みを浮かべロボの頭を撫でるのだった。


「それで…俺達これからどうするよ?」


「決まってんだろ!この街から脱出すんだよ!」


「…あの、ここの街の人達は…。」


リュカはこれからの方針を訊ねるとマーキーが脱出するしかないと切り出し、話を聞いていたエインは当初の目的であった街の人達の顛末(てんまつ)を気に掛ける。


「…残念だが全滅だ。お前達もあの骨の山は見たはずだろう。」


「じゃあ…やっぱり街の人達は…。」


メリアスは重苦しく伝えてくるが、やはりあの骨の山はこの街の犠牲者の物だったようだ。調査の他に救助も兼ねていたが既に手遅れだった。


「あの…ウチらが迷惑をかけた間に何が?」


顛末は分かったが経緯が分からないためエリーシャは自嘲気味に何があったか訊ねる。


「昨日の夜にここへは辿り着いたのだが、ご覧の通り誰もいないのかと思い捜索していたら…あの四つ足のドラゴンから襲撃を受けたんだ。」


「四つ足…ゴルゴノプスのことですね。」


ドラゴンと言うからには最初はダスプレトサウルスかと考えたが、四つ足のドラゴンとなればゴルゴノプスしか当てはまらない。


「奴らの襲撃を受け逃げ回っている内に狼を連れたタイラントドラゴンと出会ったのだ。」


「え?あのドラゴンと狼達とも出くわしたの?」


「それなのによく無事でいられましたね…。」


更に驚くことにメリアス達は逃げている内にダスプレトサウルス達とも遭遇してしまったと話してくれた。


驚いたのはダスプレトサウルスとダイアウルフ達の連携を前によく犠牲者を出さずにここまで逃げれたと言うことだった。


「どうやらあの四つ足のドラゴンとタイラントドラゴン達は仲が悪いのか出くわした途端に争い始めたんだ。」


「争ったって…狼とは仲良くしてたのに?」


ダスプレトサウルスとダイアウルフが共生関係を持てるなら、ゴルゴノプスと組んだっておかしくないのではとエリーシャは首を傾げる。


「やはり違う生物種であるため誰とでも仲良くなれると言う訳では無いのかもしれませんね。」


「そう言えばダイアウルフをゴルゴノプスが食べてたような…。」


「そうだろうな。人間だってエインのことを色々と蔑んだ者達もいるくらいだ。獣やモンスターにだってあり得ないこともないだろう。」


研究者として自分なりの考察を挙げるラスコにメリアスも多少責める様子で語り継ぐ。台詞を聞いてエリーシャ達はもちろん、同じ思考を持っていた者達の胸にグサリと刺さるのだった。


「いずれにせよこの街にはヤバい奴らがワンサカいるってことだな。」


「早急に脱出せねば我々の方が飢え死にするぞ。」


「分かってはいるがどうしたら…。」


ドランとシスカの指摘は間違ってはいないが簡単には脱出することは出来そうにない。


「そう言えば仲が悪いのに何でゴルゴノプスとダスプレトサウルスはずっとこの街にいるんだろう。」


「恐らく街を住処にしている可能性がありますね。餌が手に入りやすければ生き物は必然的にそこを縄張りにしますからね。」


縄張りとは寝床や水飲み場、そして餌を取るための場所が含まれている。食べるための獲物が豊富であればそこを縄張りにしていてもおかしくはない。


「そうなんですね。でも、何で仲が悪いのに同じ縄張り内に…。」


「そこは住み分けをしているのでしょう。」


「住み分け…?」


「人間だって同じ土地でも境界線を引いてそこから先への土地には干渉しないと言うように、あのモンスター達もイーロスの街の中でお互いに干渉しないようにしているのでしょう。」


仲が悪いのにイーロスの街で共に住んでいるのは、住み分けをしてお互いに干渉をしないようにしていたからだった。


「その結果イーロスの街の人々を食べ尽くしたのか。」


「もしもあのタイラントドラゴンが居座ってたら私達も…。」


三種類の肉食生物がイーロスの街を縄張りにしたことで瞬く間に街の人々は全滅させられたのだ。グランドレイクも下手をすれば同じ結果になったのではとゾッとなる。


「最早この街に長居は無用。脱出するしかあるまい。」


「けどどうするのさ。ここはひとまず安全だけど、街の外には出られるの?」


やはりここは脱出すべきだとシスカは告げるが、脱出の手立てはあるのかとエリーシャが質問する。


脱出するだけならわざわざ安全地帯に残らず、エリーシャ達を探していたメリアスだけ残して脱出していれば良いはずだからだ。


「そこが問題なんだよ。あの四つ足ドラゴンと狼共が徘徊してて隙がねぇんだよ。」


ドランが頭を抱えた様子で話していたが、服や装備がボロボロで何度か脱出しようとしてダイアウルフやゴルゴノプスと戦ったようだ。


『『バウバウ!』』


「ひっ!?この鳴き声は…!?」


「しまった!後をつけられたか!?」


扉の外からダイアウルフの鳴き声が聞こえてきて、中にいた全員が凍りつく。


「おいおい…俺達出られなくなっちまったぞ!?」


「閉じ込められたのかよ!?」


「落ち着け貴様ら!」


ダイアウルフが待ち構えている以上外には出られないと知り、リュカとマーキーが騒ぎ立てるために動揺が伝播してしまう。


『…キャンキャン!』


「どうしたの?」


何とか突破口はないかと見回しているとロボが天井に鼻先を向けて吠えていたのだ。


「ここに小さな穴があるな…僅かに外の空気の匂いがするな。例の流星の地響きの影響で外へ通ずる穴が開いたのかもしれんな。」


身長が高いシスカが代わりに見てみると、天井に外に通じる小さな穴が開いていたのだ。


「ここからなら出られるかもしれんな。」


「でしたらこれを使ってみてください!」


「それは何ですか?」


穴を大きくすれば出られると考えているとラスコは筒状のアイテムを見せてくる。


「点火すれば爆炎魔法のような爆発力と破壊力を有するアイテム…『爆弾』です!」


ラスコが見せてきたアイテムはなんと爆弾だったのだ。


「おい…爆弾?なんてアイテムは聞いたことがないが、そんな物をここで使うのか?」


「大丈夫なの?落盤とか起きたりとかするんじゃ…。」


スキルや魔法が生活基盤になっているメリアス達からすれば、『爆弾』は聞き慣れない代物だったが強力で破壊力のある爆炎魔法と同等と聞き、そんな物をこんな地下で使って大丈夫なのかと心配になる。


「火薬は減らしてありますから多分、大丈夫です!」


「多分って!?」


「とにかくここから脱出しますよ〜!」


「って、もう点火してるし!?」


色々不安が残っているのにラスコは構わず導火線に点火してしまい天井の穴に放り投げていた。


それを見た一同は大慌てで身を隠し、その直後にドカアアアンと言う内臓が震えるような爆音が地下内に響き渡る。


「けほけほ…あのドラゴンに食われる前に爆弾で死ぬかと思ったわよ…。」


「それで…どうなったの?」


エリーシャとルシアンは土煙に咳き込みながら事の顛末(てんまつ)を確認しようとする。


土煙が収まりつつあり、朧げだがパラパラと小さな破片が爆発によって出来た瓦礫の山に落ちているのが見えた。


「やった!成功ですよ!」


「成功じゃねぇよ!俺らまでぶっ飛ばす気かよ!」


「それで…穴はどうなったの?」


ドランが爆弾が成功して喜んでいるラスコを怒鳴っている間にエインは天井を見上げると確かに穴は大きくなっていたが…。


「これは…我々は通れないな。」


「ありゃりゃ…火薬を減らし過ぎましたかね?」


問題は派手な爆発が起きた割には穴のサイズが大人が通るには小さ過ぎることだった。


「私達でも通れるかどうか…。」


「あんたは育ち過ぎな部分があるからねぇ〜。」


「くそ!この自慢の筋肉が今は恨めしい…!?」


それだけ小さいのなら多くが青年である学生達も通れるかどうか怪しかった。おまけに一部分が魅惑的だったり、恵まれた体格などが災いしてより通れなくなっていた。


「ですが、小さな子供なら外に出られるはずですよ。」


「小さな子供って、俺らが脱出出来なきゃどうしようも…。」


「おい、待て。子供なら通れる?まさか…。」


ラスコの見立てが確かなら子供であれば通れるが、生憎とここには子供はいないとリュカが皮肉るもマーキーはある人物のことを思い出す。


「「「あ…。」」」


「え?え?…僕?」


天井の穴はこの中で最年少でしかもかなり痩せた体付きをしているエインならば通り抜けられそうな面積であった。そのことに全員が気が付いて彼に注目が集まる。


「エイン!君は外に出てこの状況を打開してくれ!」


「打開って…どうしたら…?」


「あの狼を追い払えば良い。そしたら後は一気に駆け抜けて脱出する!」


メリアスとシスカから激励されるもエインはこの困窮とした状況を何とかしてくれと頼まれ戸惑ってしまう。


「僕は何の取り柄もないんだよ…あるのはこれくらいだし…元々『無能』だったんだし…。」


エインは生体電流(パルス)を出しながら、自分が元々無能と蔑まれていたのに仲間達の危機を救わねばならないプレッシャーに弱気になっていた。


「それは…。」


「エイン…お前は自分の置かれた立場に甘えるな。」


メリアスはエインに何とか言葉を掛けようとするが、珍しくシスカが強い口調で割り込んできた。


「お前は蔑まれたことで自己肯定感…つまりは自分のことを高く評価する感覚が余りにも低過ぎる。だからこそお前は今でも自分が弱いと()()()()()()()んだ。」


これまでのことでエインと言う人間のことを知ったシスカは彼には自己肯定感が足らないと指摘した。


「でも強ければもっと出来ることがあったはずなのに…実際にエリーシャさんやルシアンさん、他の人達のことも守れそうになかった…。」


そうは言っても強いのならもっと早い段階で合流出来たかもしれないし、それこそカルノタウルスなどにも負けなかったのではと卑屈になる。


「そんなことは…。」


「バカ!あんたは何度もあたしらを守ったじゃないの!こうやって生きていられるのもあんたのお陰じゃないのよ!?」


ここへ来るまでずっと助けてくれたのに、そんなこと言われたら自分達の不甲斐なさはどうなるのかとエリーシャは猛反発する。


「強さとは力だけを指すのではない…己の在り方が他者に何をもたらすかさ。君の強さは紛れもなくその『優しい心』だ。」


「優しい…心…?」


強さとは単なる力で全て語られるのではないと話し、エインには元からある優しさこそが彼の強さだと語る。


「誰かを守りたい、誰かを助けたい…君の心は優しさと思いやりで満ち溢れている。その心はどんな恐怖にも立ち向かう勇気を生み出すんだ。」


「そうだよ。あのワイバーンやオオムカデから私達を助けたり、エリーシャちゃんの友達を探しに向かったのも…エインくんが優しかったからなんだよ。」


優しい心は誰かのために恐怖に立ち向かう勇気を生み出すと、シスカの言葉を聞いたルシアンは思い出したようにエインがやり遂げたことを称えるように語り出す。


「だから君には我々を助けるだけの力がある。エイン、私達を助けてくれ…頼む。」


「…分かりました!」


今まで怒鳴られて蔑まれることはあったが、自信を持つように叱咤激励されたのは初めてであるエインは目に涙を溜めながら自分に任された使命を全うしようと決意する。


「よし、良い面構えだ。肩車をして持ち上げるぞ。」


「お願いします…!」


シスカはエインを肩車して穴の外へと持ち上げる。


「ぷはっ…良かった、こっちには何もいない…。」


「よし、そのまま上がってくれ。」


あんな大きな音がしたため気付かれたのではと警戒していたが、穴の外には何もおらずこれ幸いにとエインは外へと脱出する。


『キャンキャン!』


「ロボも外に出してください、何か手伝いたいそうです。」


「よし、良いだろう。」


シスカはロボを抱えて穴の外に出し、外からエインが受け取るのだった。


「けど、お前本当にどうにか出来るのか?」


「まだ分からないけど…何とかやってみます。行こう、ロボ。」


『キャン!』


ドランが穴の中から心配されるも激励を受けた以上エインもやり遂げようとロボと共に何処かへと向かうのだった。


『ウオオオン〜…!』


「狼の遠吠え…。」


それから暫くして遠くから狼の遠吠えが聞こえた後に扉の前から聞こえていたダイアウルフの唸り声が聞こえなくなる。


「…狼達がいなくなってます。」


「…まさかエインは囮になったんじゃないだろな?」


慎重に扉を開けてみるとダイアウルフがいなくなっており、エインは自分達を助けるために自ら囮になったのではと心配になる。


「彼ならやりかねん…助けに行きたいが今は脱出を優先するぞ。」


「え…あいつを見殺しにするの…!?」


シスカも安否を気に掛けるもこのまま脱出しようとしており、見殺しにするのかとエリーシャが問い掛ける。


「見殺しになどせん。ただお前達を脱出させ我々自身が無事でなければ救出は不可能と言うことだ。」


残酷に思えるかもしれないが今は自分達が脱出しないとエインが自ら囮になってくれた意味がないし、モタモタして餌食になればエインを助けることも出来なくなるのだ。


「彼は私が助けに行く。お前達は先に脱出しろ。」


学生達の護衛をしながらの街からの脱出なためより慎重に事を運ばねばならない。エインのことはシスカが助けるらしく、エリーシャ達は先に避難することとなった。


「にしてもエリーシャ…あんたどうしたの?」


「何があったのさ…その…あいつと…。」


取り巻きの女子達はあんなにエインを毛嫌っていたがルシアンからの話を聞いて認識を改めていたが、自分達よりもかなり嫌悪していたエリーシャの変わりように驚いていた。


「…バカらしくなったのよ。自分の意地の張り合いにね。」


これまでエインを虐げてきた自分の器の小ささと無駄な意地の張り合いに嫌気が差したと呟き、エリーシャは彼女らの知らない間に一皮剥けた所を見せたのだった。


「いずれにしてもまずは私達が無事じゃないと…。」


「皆で帰ろう、グランドレイクに…。」


ルシアンの言葉で全員が満場一致と言わんばかりに心の中で頷くのだった。


『グルアアア!』


「おっと!エインに付いて行かなかった連中がおいでなすったぞ!」


「いつまでもあいつに頼り切りじゃないわよ!」


街角からゴルゴノプス達が出てくるも、エインの勇気に触発されて生徒達は一斉に武器を手に取る。


「防御するよりも回避を中心に動け!奴の口の長さでは盾での防御は間に合わんぞ!」


「はい!」


持っている盾では守れる範囲が狭いため、口先が長いゴルゴノプス相手ではあまり意味がないだろう。


『ゴアアア!』


「うおらぁっ!」


ドランは噛みつき横に回避して剣を首筋に振り下ろすも、ゴルゴノプスの体表は分厚く刃が奥まで到達することはなかった。


「この自慢の筋肉によるハンマーの一撃を受けてみろ!」


『ガッ…!?』


自慢するだけあってボディビルダーのような体付きの男子生徒がハンマーでゴルゴノプスの顔面を横殴りにして牙を圧し折る。


「よっしゃ!」


『…グオオオオ!』


しかしそれがゴルゴノプスをより怒らせることとなった。


「いい加減に…しろっ!」


『ギャア!?』


しかしそのゴルゴノプスの脚をエリーシャが剣で斬りつけて転ばせる。


「おおっ…ありがとうな!上腕二頭筋からお礼を言うぜ!」


「あんた、ルマッスって言ったけ?それを言うなら心からでしょ?それに礼だったらここから脱出した時にしてくんない?」


「その通りだ!」


『グガアッ!?』


エインのお陰で学生達の団結力が強まり、人当たりも良くなったことを微笑ましく思いながらもゴルゴノプスに向かって矢を放つメリアス。


『ゴルルル…!』


『グガアッ!』


「はあ…はあ…まだまだ来ますよ…。」


しかし決意と団結が強まったのは良いことなのだが、ゴルゴノプスの頭数は相手した数に反比例して増える一方だった。


「数が減るどころかどんどん増えているな…街中のモンスターが集まっているのかもしれん。」


「もうこの街には獲物がないのかもしれません…だからこそ私達を狙っているのかも…。」


ラスコは考察しながら小規模の爆発を起こす爆弾を投げていたが、もしそうなら残された獲物を我先に食おうと自分達を執拗に狙うのも当然だろう。


『ウオオオン〜!』


「いっ!?あの狼の鳴き声…!?」


「まさかエインくんは…!?」


ゴルゴノプスだけでもいっぱいいっぱいなのに、エインが引きつけたはずのダイアウルフの鳴き声が聞こえ、エインがヤラれ今度は自分達の番なのかと絶望的になる。


『グルルル…ゴアアア!』


「いかん…!?」


絶望的な状況に追い討ちを掛けるように、ゴルゴノプスは姿勢を低くし飛び掛かって来た。


『グオア!?』


「「「…!?」」」


しかし彼らが絶望的な結末を迎えることはなかった。何故ならば飛び掛かってきたゴルゴノプスを()()()()生き物が乱入してきたからだった。


『グオオオオン!』


「ドラゴン…だと…!?」


捕食したのは他でもない、ゴルゴノプスとはライバル関係であったダスプレトサウルスだった。


「ドラゴンが私達を助けた…!?何で…!?」


結果としてはルシアン達を助けたことになるが、あれほど自分達を食べようとしていたのにどう言うつもりなのかと唖然となってしまう。


『ウオオオン〜!』


『『『バウバウ!』』』


「げっ!?狼達だ!?」


再び狼の遠吠えが聞こえた後にダイアウルフ達が大挙して押し寄せてくる。


「こんのぉ…あ?」


『ギャア!?』


『グガアッ!?』


身構えるもダイアウルフ達は素通りしてゴルゴノプス達に噛み付いていく。


『…!グオオオオ!』


『ギャン!』


ゴルゴノプス達も負けじとダイアウルフ達に食らいつき骨ごと噛み砕く。


「あいつら、お互いに食い合いを始めたぞ。」


「何が始まったのさ?」


獲物である自分達を差し置いて捕食者達はお互いにどちらが食うか食われるかの争いを繰り広げていた。


「どうやら上手く行ったようだな。」


「皆、大丈夫だった?」


一同は巻き込まれないように離れた位置に避難して、捕食者達の争いの経緯を見守っているとエインとシスカとロボが合流してくる。


「エインくん!無事だったんだ!」


「心配したじゃないのよ!…って、あんたその匂い何なのよ…。」


囮になってヤラれたのではと心配になっていたが、無事だったことに安堵するも不意に鼻を突くような嫌な臭いに顔をしかめる。


「探すのに手間取っちゃって…。」


「何だこれ?濁った水…?」


エインは瓶の中に入っている黄色く濁った水を見せてくる。リュカは中身が気になって掲げてチャプチャプと揺らしてみる。


「おい…変な匂いするぞ、それ…。」


「しかもこの匂いって…。」


中身がチャプチャプと揺れると匂いが強くなり、マーキーとエリーシャは中身が何なのか薄々勘付き始めて顔をしかめる。


「まさか…あの生き物達の尿か?」


「そう。」


狩人であるため何なのか分かったメリアスはズバリ言い当てるとエインは首を縦に振る。


「うわっ!?なんて物を持ってんだよ!?」


「わっとと!?」


ジュースかと思ったらまさかの尿であったことにリュカは思わず瓶を放り投げてしまい、エインは慌ててキャッチする。


「気を付けてください…これはゴルゴノプスのおしっこだよ。」


「そんなの何で後生大事に持ってんだよ!そんなの捨てろよ!」


注意されれるも()()()であるため早く破棄しろと相方のマーキーが文句を言う。


「だったら…えい!」


『『…!?バウバウ!!』』


言われた通り瓶を放り投げるとダイアウルフ達が興奮した様子で再びゴルゴノプス達に襲い掛かる。


「どうなってんだ…小便なのに狼共がキレてらぁ…。」


「モンスターの中には縄張りを糞尿などで匂い付けすることがあるらしいが…まさかエイン、ゴルゴノプスの尿を狼達の縄張りにばら撒いたのか?」


「うん、ロボが自分の場所におしっこをかけて決めていたからダイアウルフやゴルゴノプスもそうじゃないかなって思って。」


縄張りを持つ生き物は範囲を決める際に排泄物を使って匂いを残すことをマーキングと言う。


ロボもマーキングしていたのを思い出したエインは、イーロスの街内にも縄張りを示すマーキングがされていると考えたのだ。


「だからロボに頼んでゴルゴノプスのおしっこを探して貰って、それをダイアウルフ達の縄張りに撒いたんです。」


「それでどうなるの?お…おしっ…げふげふ…なんかでさ。」


さすがにエリーシャも恥ずかしくて言い難そうにしており、言葉を濁しつつもエインのやったことが効果があるのかどうか質問する。


「恐らく狼達は四つ足のドラゴン達が縄張りに侵入して匂い付けをしたと思い込んだのでしょう。これは言わば縄張りを脅かしたも同然ですからね。」


「それであいつらは大挙してゴルゴノプス達に報復を始めたのだろう。」


排泄物を撒いたのはダイアウルフ達に縄張りをゴルゴノプスに無断侵入されたとミスリードさせたのだ。


「どっちにしても脱出するなら今だ。あいつらは縄張り争いに忙しくて我々は眼中にないようだしな。」


目には目を、毒に毒を、そして捕食者には捕食者をぶつけたことで脱出の機会が巡ってくるのだった。


「どちらかが生き残れば再び私達を狙う…その前に脱出するぞ!」


外敵を縄張り内から追い出ば今度こそ自分達が狙われ最悪餌食になる番だ。今を逃せば脱出する機会は皆無と言っても良いだろう。


「出口まで一気に行くぞ!離れるな!」


「「「はい!」」」


避難訓練のようにメリアスを先頭に学生達はイーロスの街から避難し始める。


「あいっ…!?」


「ルシアン!?」


ところがルシアンは瓦礫に躓いて転んでしまい、それをエリーシャが心配して駆け寄る。


『『グルルル…!』』


「ひっ…!?」


「ヤバ…!?」


それに気が付いたダイアウルフがルシアンとエリーシャににじり寄る。


「ロボ!」


『ウオオオン〜!』


エインの呼び掛けに応じるようにロボはダイアウルフにも負けない遠吠えをしたのだ。


『『…!?』』


「え…ロボくんの…あの遠吠え…狼?」


遠吠えを聞いたダイアウルフは硬直しており、ルシアンはダイアウルフに負けないどころかほとんど狼と変わらないことに目を丸くしていた。


『ウオオオン〜!』


「…!悪いけど、手を出さないで。」


『『…グルルル…。』』


ロボの遠吠えとエインの生体電流にダイアウルフ達も後退りしルシアンとエリーシャを諦めるのだった。


「大丈夫ですか?」


「また…助けられちゃったわね。」


ダイアウルフが去ったのを見てルシアンの手を引いてその場から脱するのだった。


「にしてもあんたの犬…何なのよ?あたしらの後ろを追いかけて来るけど…。」


「どう見ても犬じゃないと思うけど…。」


「そうかな?」


エインも知らなかったが、ルシアンの指摘したようにロボは犬ではなかった。


ロボは殿(しんがり)を務めるようにエイン達の街の脱出を背後から見守りながら追いかけてくる。


この行動は本来縄張りに侵入した相手…特に人間に追従するロボの一族に伝わる習性なのだが、追従する間は他の獣も寄り付かないのだ。


「よし、お前達で最後だな!国へ戻るぞ!」


「イーロスの街を出たよ!ロボが守ってくれたお陰だよ!」


『キャン、キャン!ウオオオン〜!』


そのためロボの一族…『ニホンオオカミ』は道を守り、他の獣も畏怖することからその名を取って『大神』と崇められたこともある存在だった。


今もこうやってエイン達を見守るようにロボは追従し無事にイーロスの街を脱出するのだった。そして大好きなエインと共に喜び合うように遠吠えをするのだった。

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