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『略奪者』の『恐ろしい爪』

「悲鳴がここまで…!?」


「本当に何があった…私達も身体がいつもより重く感じる上に、モンスターの侵入を許して被害を出すなんて…!」


エインと別れたキオナはリオーネ達に連れられて騒ぎの渦中へと向かっていた。近づくにつれてたくさんの悲鳴が聞こえてきて思わず耳を塞ぎそうになる。


「リオーネ様ぁ…!?」


「ひいっ!?」


「大丈夫か!?」


すると戦っていたであろう戦士の一人が血まみれになってリオーネに縋り寄ってくる。身体のあちこちが刃物でズタズタにされたような痛々しい生傷が目立ち、早く治療しないと出血過多で死んでしまうほどだ。


「リザードマンが…リザードマンが襲って来て…!?」


「リザードマンだと…そんなバカなことがあるか!ドラゴンの爪にヤラれたような傷じゃないか!?」


出血と恐怖のあまり震える声で何があったか話す戦士だったが、リオーネからすれば戦士の傷はリザードマンに負わされた物だとは到底信じられなかった。


確かにドラゴンは下手をすれば深手を負わされ最悪殺されてもおかしくない相手だが、格下であるリザードマンにここまでの傷を負わされるなんてあり得なかった。


「最初は皆そう思ってました…けど…それは間違いだった…。」


「ああ…そんな…!?」


その戦士は無念と後悔を呟くと同時にピクリとも動かなくなる。目の前で人が死ぬ光景にキオナは絶句してしまう。


「くっ…姫様を早く城へ!ここは我々で持ち堪えるぞ!」


「「「はっ!」」」


キオナを先に城へと戻らせ、自分達だけでリザードマンもどきの侵攻を抑えようとする。


「ぎゃあああ!?」


「いてぇよぉ!?」


「ぐあああ!?」


「バカ者!グランドレイクの民がリザードマンごときにヤラれるとは何事か!?」


悲鳴が聞こえる方に衛兵と共に向かうが、あまりにも悲痛な声がするため耐え切れずに不甲斐ないと叱責するように路地から飛び出す。


『ギシャアア!』


「っ!?」


だが、その途端に聞こえてきた不気味な鳴き声にリオーネは凍り付いてしまう。


『グルルル…!』


「ぐあああ!?」


ある者はズタボロにされたために立ち上がることも出来ず、リザードマンもどきに群がられ生きたまま食われていた。


『ギシャアア!』


「いやああ!?」


またある者はリザードマンもどきの鉤爪によって、魔力で鍛えられた衣服どころか皮膚と肉体までもが絹のように切り裂かれていた。


「な…何だこれは…地獄か…!?」


そこは街の通りでいつも英雄達を讃える人々で賑わいお祭りムードな場所だが、祭りは祭りでも血祭りとなっておりモンスターの肉の代わりに殺された国民の肉を貪り食う様子に息を呑む。


『…!グククク…!』


リザードマンもどきはリオーネ達の存在に気が付き、視線を彼女達に移して歯を剥き出しにして唸り声を出しながら近寄って来る。


「貴様ら!これは我が国に対する敵対攻撃だと見なすぞ!総員、戦闘態勢!」


国民を襲って殺した上に食べていたとなれば敵対意識を確認するまでもなかった。リオーネの指示で全員が武器を構えてリザードマンもどきを迎え撃とうとする。


『プオ、プオ、プオ!』


『『『グルルル…!』』』


リザードマンもどきのリーダーは甲高い鳴き声を出すと、殺して食べていた人間達を放置してリオーネ達に狙いを定める。


「何だこのリザードマンは…まるで獣のような見た目だ。」


「集中しろ!スキル、ガードウォールだ!」


「「「おう!」」」


衛兵達は盾を横一列に並べて防御系のスキルを発動して相手の初動を伺うことにする。


『『グルルル!』』


「うおっ!?やはり…いつもより身体が思ったように動かせん…!?」


リザードマンもどきの攻撃は何とか防げたが、思ったよりも衝撃が伝わって来て盾を持つのもしんどくなる。


「蹴散らしてくれる!バーニングエッジ!」


魔法を付与させた剣で一気にリザードマンもどきを切り捨てる。


「うぐっ…どう言うことだ、やはり剣が重い…それに魔法も付与されていないだと…!?」


いつもならリザードマンぐらい容易く切り捨てることが出来るのに、剣が重くていつもより勢いよく振り抜けず、しかも魔法を付与したはずなのに剣は単なる刃のままだった。


「リオーネ様!お下がりください!」


「済まない!?」


やはり不調は気の所為などではなく、今も確実にリオーネや衛兵達を蝕んでおり焦りを伝播させていた。リオーネは衛兵の防御壁の中へと再び隠れるヒット&アウェイで凌ごうとする。


『…プオ!プオ!』


「また来たぞ!」


再びリザードマンもどきは飛び掛かって足の鉤爪を使ってくるが、衝撃は防げないものの盾としての防御力は健在であり不安は残るが一応の安心感はあった。


『『グルルル…!』』


「幾らやっても無駄だ!本調子じゃないが、リザードマンごときに遅れを取る我らではないわ!」


それから何度かリザードマンもどきは飛び掛かったり盾に噛み付いたりするも、盾で防がれるの繰り返しなのに攻撃を止めなかった。最初は焦るも攻撃が単調で防ぎやすいことに得意気になる。


「何か変だ…効かないと分かっているのに攻撃を止めないのか。」


長年の戦いの勘からか攻撃が単調であることに疑問を覚えたリオーネはこっそりと盾越しに様子を伺う。


「先程より数が減っているだと…!?」


十匹はいたはずなのに今はリーダーを合わせて三匹しかいないのだ。他のリザードマンもどきがの姿が見えないことに心臓を掴まれるようなドキッとした感覚を味わう。


「まさか…総員、周囲を警戒し」


『『『ギシャアア!!』』』


リオーネが慌てて警告しようとするが、家屋の窓を破ってリザードマンもどき達が飛び出してくる。


『ギシャアア!』


「うわあっ!?」


『グククク…!』


「ぎゃあっ!?」


思いも寄らない場所から飛び出したため対処が間に合わず隊列が崩れ、その間にリザードマンもどき達はドロップキックを食らわせると同時に鉤爪を鎧の合間に突き刺してくる。


「おのれ!散れ、散れぇ!?」


剣を振り回してリザードマンもどきを薙ぎ払いながら命令するが、一度瓦解した隊列と統制は戻らず皆自分のことを守るので精一杯だった。


『ギシャアア!』


「がっ!?」


何とか体勢を整えようとするが、リーダー格のリザードマンもどきがリオーネの背中にドロップキックを食らわせて前のめりに倒す。 


『グククク…!』


「その汚い足を退けろリザードマン!」


落とした剣を掴もうと手を伸ばすが、足を踏まれたことに嫌悪感を表しながら睨みつける。


「ぐあああ!?」


『グククク…!』


だが『うるせぇ』と言わんばかりにリザードマンもどきは足の鉤爪を下ろして腕に食い込ませ、皮膚と筋繊維を意図も容易く切り裂くのだった。


「リオーネ様!」


『ブギャ!?』


衛兵の中の隊長格がリーダーのリザードマンもどきをタックルで弾き飛ばす。


「ぐあああ…!?」


「リオーネ様…!?しっかりしてください!?」


腕を鉤爪で切り裂かれ苦痛に悶えるリオーネ。傷口からドクドクと血が流れ出ており、これではもう剣は握れそうにない。


「ひいいっ…!?」


家の中から震える声が聞こえ見てみると、恐らく逃げ遅れたのだろうか魔法使いの少女がいて縮こまって震えていた。


「おい、そこの魔法使い!治癒魔法を!?」


「ひえっ!?む…無理ですよ!?私…いいえ、多くの人がどう言う訳かスキルや魔法が使えなくなってるんですよ!?」


原因は不明だが状況的に考えて言えることは魔法もスキルも使えなくなっていることだった。


「スキルと…魔法が使えないだと…まさかこの不調も…!?」


「他の奴らもまさかそれが原因で…!?」


誰もが容易に覚えられて気軽に扱える魔法とスキル。身体の一部のように扱ってきたが突如として失われたとなればショックであることは確かだった。


「アルフレッド様とビング様もスキルが使えなくなっている所を一気に襲われて…!?回復しようにも私も先輩達も魔法が使えなくなってて…そしてそのまま…!?」


「まさかアルフレッドとビングが…!?」


ただでさえスキルと魔法が使えないことにショックなのに、英雄の中でもトップクラスだったはずのアルフレッド達が殺されたとなれば絶望的になってしまう。


『ギシャアア!』


「きゃあっ!?止めてぇ!?」


話し掛けられたことで見つかってしまい、逃げ遅れた魔法使いの少女はリザードマンもどきに足を噛まれ引きずられていた。


「うわあああ!?止めろぉ!?」


『ギャア!?』


だが、若い衛兵がイスをリザードマンもどきの脳天に振り下ろしす。


「は…早く逃げるぞ!?」


「はい!?」


「撤退だ!?」


足を噛まれてケガした魔法使いに手を貸し、これ以上の戦闘は危険だと衛兵達は慌てて撤退する。


『プオ!プオ!プオ!グァァククク…!!』


殺した衛兵の死体に足を乗せ、勝利宣言とも言える不気味な甲高い鳴き声を発するリザードマンもどき…いや、このリザードマンもどきには本当の名称が存在する。


彼らはとある生物種の中でも小型でありながら高い知性と統率力を持ち、狼やライオンのように群れで動きなおかつ高い戦略性を用いて素早く襲うことから『略奪者(ラプトル)』の愛称を持つ。


このリザードマンもどきの本当の名は『ディノニクス』。その意味は『恐ろしい爪』であり、名前の意味ともなった特徴的である後ろ足の鉤爪が一番の武器であった。


『恐竜』…太古の昔に生息し地球を支配した生物種であるが、現在では既に絶滅しその姿を見る者はいない。しかし絶滅したと言うことはもちろん、そんな生き物が存在したなんて彼らが知るはずもなかった…この時までは…。


「……。」


「姫様、もうすぐ城でございます!」


一抹の不安を抱えながら城へ向かっていたキオナの足取りは重いものの、衛兵達の護衛もあって城へと確実に向かっていた。


「おい、押すなよ!?」


「しょうがないでしょ!?奴らが来るんだから!?」


「お母さんー!?」


ふと見てみれば恐怖とパニックに駆られた国民が先を争うように防衛力の高い城へと殺到しており、押したり、言い争ったり、泣き喚いたりとこの世の物とは思えない阿鼻叫喚の光景が広がっていた。


「あんた強いんでしょ!戦いなさいよ!?」


「バカを言うな!?スキルが使えないのにどうやって戦えってんだよ!?むざむざ死にに行けって言ってるもんだぞ!?魔法は万能とか抜かしてたお前らはどうなんだよ!?」


「それは…魔力が何故か枯渇してて…。」


群衆の中には英雄として名を馳せた強者や有名な魔法使いなども大勢いたが、魔法やスキルが使えなくなれば彼らは凡人以下の存在に成り果ててより弱い者を差し置いて我先にと逃げようとしていた。


「こんなことが我が国で起きるなんて…。」


Sランクモンスターには災害を起こすような個体もいたが、それでも皆で力を合わせれば辛くも勝てていた。だからこそ自分達は一人一人が強い、団結すればもっと強いと言う信念が生まれていた。


「姫様…?」


「我が国は…ここまで落ちぶれるものなのですか?」


その話を父親である王とその家族、付き人のリオーネから聞いてキオナは国と国民達を誇りに思っていた。しかし未曾有の危機により信念も尊厳も砕かれ崩壊していく事実にキオナは唖然となっていた。


「姫様!今はここを抜けなければ…貴様ら!キオナ姫様が通られる!頭が高い!道を開けよ!」


「!キオナ姫様!?これはどう言うことですか!?」


「我らはどう言う訳か魔法やスキルが使えません!?ご説明を!?」


「未知のウイルスか何かでございますか!?」


国民達は王族のキオナがいると知って、半数はそちらに殺到し始める。城へ向かっていたのは助かるためでもあるが、自分達の身に起きた異常事態が何なのかを追求することだった。


「貴様ら!無礼であるぞ!道を開けろ!?」


「あんたらに用はないんだよ!?これはどう言うことなんだ!?」


「お願いしますキオナ様!?魔法を扱えるようにしてください!?」


衛兵達は詰め寄る群衆を抑え込もうと牽制するがパニックに陥った彼らには意味がなく、多勢に無勢と言わんばかりにキオナに言及する。


「皆さん!落ち着いて行動してください!私達は誉れ高いグランドレイクの人間ですよ!こんなことで狼狽えてどうするのですか!」


幾ら王族とは言え齢十二歳の少女に縋る群衆もどうかと思うが、キオナはその期待を裏切らない確固たる威厳で叱咤激励をする。


「恐ろしいのは分かります!ですが力を合わせれば私達はより強くなるはずです!その信念を忘れたのですか!」


「キオナ様…!」


「やはりあなたは…!」


叱咤激励に国民達は次第に表情が明るくなり互いに頷き合っていた。


「さあ、今こそ我が国と大切な家族を守るために立ち上がるのです!」


「「「うおおおっ!!」」」


気が付くと国民全員が鼓舞されており、各々が剣や弓はもちろん(くわ)や斧などを武器にして立ち上がるのだった。


『プオ!プオ!』


「来たぞ!盾を持つ者は前に立て!」


「槍を持つ人はその背後に!これ以上の侵攻を許してはなりません!」


「「「うおおおっ!」」」


リザードマンもどき…もといディノニクス達は案の定、逃げた国民を追いかけて来たがこれまでの戦闘での経験からかここへ来ると踏んだ国民達は近づけまいと盾や槍で武装して壁となる。


『『ギシャアア!』』


「長槍、構え!」


何体かがドロップキックをしてくるが、待ち構えていた長槍が盾の合間から飛び出しディノニクス達を串刺しにする。


『ギシャアア!グククク…!』


リーダー格のディノニクスは正面突破は不可能と考えて仲間達を散開させる。


「姫様、あいつらきっと…。」


「皆さん!左右に気を付けてください!」


短髪のエルフの狩人がディノニクス達の動きをキオナに話し彼女は国民達に警告を促す。


『『ギシャアア!!』』


リオーネの時のようにディノニクス達は家屋の窓を破って防御が薄い側面を攻めてくる。


「近寄るなこのリザードマン風情が!?」


『ギャア!?』


「さっきはよくも!?」


『グエエ!?』


しかし飛び出した先には槍の石突や剣の刃が待ち構えており、ディノニクス達は避ける間もなくそのまま自ら串刺しになっていく。


「はあっ!」


『ギエエ!?』


エルフの狩人も矢を放ってディノニクスの脳天を貫いたのだった。


「やはりあいつらはリザードマンのようですが、かなり頭が回るようです。」


「メリアス、あなたのお陰で対処が間に合いましたわ。」


メリアスと呼ばれるエルフの狩人はディノニクス達の作戦を見抜いていたが、並大抵のモンスターよりも策略的な行動をするディノニクスに冷や汗を流していた。


『グククク…!』


「…!睨んでる…!」


その中でもリーダー格のディノニクスはメリアスを睨み付けており、その冷酷な目付きに彼女は戦慄を覚える。


『グククク……!?』


『『『…!?』』』


「な…何だ?」


側面が攻めるのが不可能と分かったディノニクス達は次はどう攻めようかと思案していると、不意に鼻先を上に向けて仕切りに匂いを嗅いでいた。


『…!プオ、プオ、プオ!』


『『『ギシャアア!』』』


リーダーは甲高い鳴き声を発するとその場から立ち去ってしまう。他のディノニクス達も一斉にリーダーの後を追うようにその場から去る。


「また何かの作戦ですか?」


「いえ、どうも様子がおかしいです。逃げたようにも見えますが…。」


「と…言うことは退けたんだ俺達!?」


「や…やった!やったぞー!!」


「「「わあああ!!」」」


また何か策略があるかと思われたがリーダーがその場から逃げたことで子分達も逃げたらしく、国民達は撃退出来たのだと喜んでいた。


「英雄が倒せなかった奴らを…俺達はスキルも魔法もなしに倒せたんだ!」


「追い払ったんじゃないのか?」


「どっちだっていいじゃない!とにかく私達は勝ったのよ!」


「私達こそが英雄よー!」


追い払っただけだが既に勝った気でいる群衆は先程狼狽えていたことも忘れて、自分達は英雄に成し得なかったことをやってのけたなどと自慢気にしながらドンチャン騒ぎをしていた。


「メリアス…どう思いますか。」


「逃げたのは確かです…ただ、まだ余力を残していたはずなのに引き揚げるなんて不自然に思えます。」


群れを作って狩りをする生物は仲間が大勢ヤラれてしまえば狩りの成功率が下がるため引き下がることはあるが、ディノニクス達はまだ数は大勢いるのに引き揚げたことが謎だった。


「きっと我らの恐ろしさを目の当たりにし、敵わないと思って尻尾巻いて逃げたんですよ!」


「いずれにしてもここは危険です!国民の方々を城に…。」


「あ…悪魔じゃあ〜…!?」


ディノニクス達の意図は分からないが、少なくとも危機は去り今なら避難をスムーズに進められると思っていたが、一人の老人が急に叫び出し頭を抱えて怯えていた。


「おい、爺さんどうしたんだ?具合でも悪いのか?」


「大丈夫ですか?」


余りの狼狽えように賑わってた雰囲気が一気に掻き消され、何人かが老人の容態を診ようとしていたが彼は何かブツブツと呟いていた。


「ここは地獄じゃ…悪魔がワシらを食べに来たんじゃ…!?」


「何言ってんだよ、リザードマンなら追い払っただろう?」


悪魔とは恐らく先程のディノニクスのことだろう。確かに地獄のような光景を作り出したのなら、悪魔と言っても過言ではないだろう。


「違う…奴らなんかじゃない…ほら見てみろ…悪魔が来おったぞ…!?」


だが、老人はディノニクス達のことを言っているのではなかった。何を恐れているのか彼は震えながら指を差す。


「な…何だあれは…!?」


「リザードマンじゃ…ない…!?」


そこには最初建物があるだけかと思われたが壁にとある生き物の影が映り込む。先程のディノニクス達は異なるシルエットで、鋭い牙が生えた恐ろしい口は変わらないものの悪魔や鬼を彷彿とさせる角が生えていた。


『グルルル…!』


建物に映り込んだ影が唸り声と共に大きくになるに連れ、その生き物の全容が明らかになっていく。


「ワイバーン…いや、悪魔か…!?」


誰が口にしたかは分からないがその生き物はディノニクス達よりも身体が大きいことはもちろん、刺々とした鱗に鬼や悪魔を彷彿とさせる角を生やしておりまるで翼のないワイバーンのようにも見えた。


『…!グオオオオン!!』


「ぼ、防御体勢!?」


獲物の存在を確認したワイバーンもどきは涎を垂らしながら吠え立て、こちらに向かってノシノシと歩いてくる。


「この!近寄るな!?汚らわしい!?」


「あっちに行け!?涎を撒き散らすな!?」


『グオオオオン!』


最初は動揺するもののディノニクス達と同じく槍と盾を駆使してワイバーンもどきを近寄らせないようにしていた。


『グオオオオン…!』


「諦めたか…!?」


「ざ…ざまぁみろぉ!?」


不用意に近付けばヤラれると判断したのかワイバーンもどきは踵を返して歩き去る。何はともあれまた追い返せたことに得意気になる。


『グルルル…!』


「待って!何してるのかしら…。」


ところがある程度下がった所でワイバーンもどきは再び踵を返してこちらを睨みつける。そして頭を少し低くし片脚の爪先で地面をしっかり踏み締めていた。


『…!グオオオオン!!』


「おい!?嘘だろ!?」


「いかん!?防御スキル…!?」


咆哮を挙げながら頭の角を前方に突き出してこちらに目掛けて突進して来たのだ。まさかの逆襲に動揺し使える訳でもないのにスキルを使おうとする。


『グオオオオン!』


「「「うわああっ!?」」」


当然、スキルも魔法も使えないため盾で防御せざるを得ないが、ディノニクスより体格も体重も倍あるワイバーンもどきの突進を人間の力だけで防げる訳がなく突破されてしまう。


このワイバーンもどきもその正体は恐竜であり、名前は『カルノタウルス』。この恐竜は生物種の中でも中型に属し、最大の武器は二本の角による突進攻撃であり名前の意味である『肉食の雄牛』と言う意味も頷ける。


『グオオオオン!』


「ぎゃああ!?助け…!?」


早速、吹き飛ばした人間を鋭い牙で捕らえそのまま顎の力で噛み潰すカルノタウルス。


『『グオオオオン!』』


「うわあっ!?仲間まで来たぞ!?」


防御を突破されてまた一人犠牲者が出たと言うのに、仲間のカルノタウルスまでもが建物から姿を現す。


「ちっ!防御体勢をもう一度取りなさい!?」


『グオオオオン!』


「ぎゃあああ!?」


メリアスが弓を構えて指示するが盾を持った戦士はカルノタウルスの突進で空高く跳ね飛ばされていた。


『プオ!プオ!プオ!』


「うわああ!?またあのリザードマンだぁ!?」


「まさか防御が崩れたのを見越して…!?」


更に悪いことに先程逃げたはずのディノニクス達が一斉に戻って来て、追い討ちを掛けるように国民に襲い掛かる。


「まさかこいつら…ワイバーンが来ると分かってて一度逃げて、防御が崩れたのを見計らってこんな…!?」


『グククク…ギシャアア!!』


遠くからリーダー格のディノニクスが不敵な笑みのような物を浮かべており、カルノタウルスが来て防御を崩すのを待っていたのではとメリアスを戦慄させるのだった。


「ううっ…。」


「姫様!?起きてください!?姫様!?」


最初の突進で跳ね飛ばさた人とぶつかってしまったキオナは気絶してしまい、衛兵が慌てた様子で揺すって起こそうとしていた。


「ううっ……はっ!?こ…ここは…!?」


「姫様!?逃げてくださ…うわっ!?」


『ギエエ!』


起きたキオナは目の前にいた衛兵に状況を確認しようとするが、ディノニクスがドロップキックをしてきたために吹き飛ばされてしまう。


気が付くと防御も連携も崩され、カルノタウルスだけでなくディノニクスまで入り混じって状況は混沌としていた。


「姫様!?今はお逃げください!?」


『ギエエ!?』


先程ドロップキックされた衛兵はキオナを守るためにディノニクスにタックルをし馬乗りになって抑え込む。


「ですが…民を置いて逃げるなんて…!?」


「いいですから!キオナ姫!?早く!?」


『ギャア!?』


馬乗りにされたディノニクスの頭をナイフで突き刺してトドメを刺し、メリアスが衛兵と共にキオナの殿を務める。


「お急ぎください!?」


『グオオオオン!?』


そこへキオナを狙ってカルノタウルスが突進してくるが、気付いたメリアスは矢を放って脚を射抜き転ばせる。


「きゃあ!?」


『…!グルルル…!』


転んだカルノタウルスは路地への入口を塞ぐように倒れ込み、更に頭を起こしてカルノタウルスが唸るため止むを得ずキオナは後ろ髪を引かれる思いをしながら路地へと走り出す。


「国民を置いて行くなんて…。」


止むを得ず路地を歩いていたがやはり王女として国民を置き去りしたことに罪悪感を感じていた。そんな彼女の雰囲気に合わせて辺りも次第に暗くなっていく。


「うっ…!?これは…外灯の魔法も使えなくなってるなんて…!?」


この街は暗くなると火や雷の魔法によって自然と明るくなる外灯があるのだが、自分達が魔法やスキルが使えなくなったとなるとその外灯ですら例外ではなかった。


「ううっ…まさか灯りがないとこんなにも暗いなんて…。」


外灯に限らず家屋の明かりも沈黙しており、そのため暗くなると周りがほとんど見えなくなってしまいキオナは不安になってしまう。


「あら…城はどっちだったかしら…。」


更に悪いことに暗くなって夜道になったことで城への道のりが分からなくなってしまう。


「一体何処へ行けば…っ!?」


『グルルル…。』


もっと悪いことにディノニクス達の唸り声が近くで聞こえ、思わず口を手で覆ってヘナヘナと座り込んでしまう。


『グククク…。』


(そんな…ここまで来てたなんて…!?)


夜道でディノニクスの眼光が不気味に灯っており、辺りの匂いを嗅ぎ周りながらこちらに向かって歩いてくるためキオナは恐怖で凍りつく。


『グルルル…!』


(いや…来ないで…!?)


徐々にディノニクスはキオナの匂いを嗅ぎつけて、後ろ脚の鉤爪で地面をカチカチ鳴らしながら迫り荒い吐息が足元の砂埃が舞い上がるのが見えてくる。


「むぐっ!?」


『ギシャアア…グククク…?』


暗闇から腕が伸びて来てキオナを何処かに連れ去り、入れ替わりでディノニクスが曲がり角を睨み付けるが何もいなかった。

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