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異世界と未知の生物を学ぼう

『キャンキャン!』


「ん…ふふっ…くすぐったいよ、ロボ…。」


城の客間で一夜を過ごしたエインはロボに舐められるくすぐったさで目を覚ます。


「ん〜!よく寝た…何だか身体が軽いや…!」


気持ち良く伸びをするエインはいつもと違って身体が身軽なのを感じる。


「ほら、フォークも起きて。」


『ギィ〜…!』


側で眠るフォークを揺すって起こすと、彼も大きく欠伸(あくび)して四肢と身体を伸ばすのだった。


「エインくん、よく眠れた?」


「あ、はい!とても気持ち良かったです!」


部屋の前にティアが出迎えてくれたのでエインは外に出るのだった。


「姫様が王座の間で来るように言伝を預かっています。いらしてくださいね。」


「分かりました。ロボ、フォーク、まだ少しここで待っててね。」


ロボとフォークを残し、キオナの待つ王座の間へとエインは急ぐのだった。


「おや、随分と様になった姿になったじゃないか。」


「あれがあのエインなのか?」


「はー…こりゃ何か見違えたな…。」


メリアスからデコボココンビのリュカとマーキーまで、皆口を揃えてエインの整った身嗜みに目を丸くしていた。


「揃いましたね。皆さん、それでは今日の集会を始めましょう。」


昨日と同じくキオナは王座に腰掛けて本日の集会を取り仕切るのだった。


「本日もやはり食糧調達をして貰いますが、防衛の方にも力を入れるべきだと考えています。」


本題としてキオナは食糧調達とは別に防衛力を上げるべきだと指摘する。


「防衛って言うと…。」


「城壁の修復はもちろんですが、私達全員の錬度を上げれば身を守る力が強まり、引いては国全体の防衛力が高まるはずです。」


こう言う情勢に疎いエインのためにキオナは、防衛力を高めることはどう言うことか詳しく説明をする。


「やはり魔法やスキルはもう使えなくなっているのですか?」


キャラバンの護衛で魔法使いを務めていたキャロラインがキオナの話を聞いて魔法やスキルが使えなくなっているのを確認してくる。


「それについては…ラスコさん。」


「はい…皆さんの身体検査をしたところ、魔法やスキルを使う際に見られる、魔力が流れる腺や根源たる魔力溜まりそのものが見当たりませんでした。」


元の世界でも魔法やスキルが使えなくなることがあったが、その際には元となる魔力の流れや根源を診察するのだがラスコの見立てではそれが見られなかったと言う。


「魔法やスキルが使えない魔力枯れによる症状はあります。ですが、腺はおろか魔力の根源そのものが見つからないとなれば…。」


年齢を重ねると魔力が枯渇して魔力枯れと言う症状をきたすのだが、基本的に枯渇しても根源が全く失くなると言うことはない。だが、どう診察しても根源がないとなれば…。


「やはり私達は()()()()()()()()()()せいで魔力やスキルが全て消失したようですね。」


どう考えても理由や理屈は不明だがこの異世界に転移した時点で、自分達はこれまで呼吸するように使えていた魔法やスキルが消失してしまったようだ。


「はい…大変申し上げ難いのですが、魔力の根源が消失している以上はもう二度と私達はスキルや魔法は使えないと…。」


これまではあくまでも憶測として考えていたが、医学に精通した科学者の見立てとなればもはや否定のしようはなかった。


「やっぱり俺達は…。」


「もう…魔法を使えないのね…。」


これまでにも死ぬような思いをして実感して来たが、こうも理論づけてキッパリと告げられたことで人々はぐうの音も出なくなる。


「魔法が消失したことで魔法で鍛えた武器や、付与されたアイテムも使えなくなったようです。」


「…殺された人の中には魔法で鍛えた武器を持っていましたが…納得ですね。」


元の世界では魔法で武器や防具を鍛えたり、付与したりもしていたが、そちらもこの異世界ではガラクタも同然となったようだ。


「しかし有益なことも幾つか分かりました。あなた方が仕留められたリザードマンもどきや、バジリスクを検査した結果…従来のモンスターとは構造が異なり、魔力を扱うための器官などは備わっていません。」


だが、何も悪いことばかりでなかった。ラスコはティタノボアとディノニクスの身体を調べた結果、元の世界のモンスターにあるはずの器官がないと報告する。


「つまり…どう言うことですの?」


「モンスターの中には魔法やスキルを使う個体もいますが…憶測ですがこの異世界のモンスター達はそもそもスキルや魔法を使わないと言うことです。」


元の世界のモンスターは魔法やスキルを使用していたが、そのためには魔力を扱うための器官が備わっているはずなのに、ティタノボア達には見受けられなかったのだ。


全てのモンスターを調べた訳では無いが、ラスコは結論から言ってこの異世界のモンスター達はスキルや魔法を頼る必要がないと考えていた。


「確かにドラゴンと出会いましたが、火を吹くような様子はありませんでした…。」


言われてみればティラノサウルスが襲撃した時にも、ドラゴンの代名詞である火のブレスを吹く素振りがなかったことを思い出す。


「…何と言うことでしょう…魔法やスキルが使えなくなったことに動揺して、モンスターの特徴に気が付かなかったとは…愚かでしたわ。」

  

キオナは今の今までこの異世界のモンスター達が魔法やスキルを使わないことに気が付かなかったことを悔やんでいた。


「この異世界のモンスターが魔法やスキルを使えないと言う情報は確かに有益ですが…あくまで憶測…必ずしも全ての種類が使わないとは限らないはずです。」


リオーネもこれまでのモンスターのことを思い返してラスコの話に首を縦に振るが、それでも(にわか)に信じれなかった。


「もっと言い換えれば元の世界なら魔力が存在しているのですが、この異世界には魔力そのものすらないのです。」


「魔力がない…だと!?」


元の世界で魔力は目に見えない空気のような物だが、それらを空気と取り込むことで自然と体内の魔力溜まりに魔力が蓄積していくことになる。


「…と言うよりも魔法や魔力と言った()()がないと言った方が良いかと…突飛な話にはなりますがそんな魔力のない異世界に来たために私達は魔法やスキルが消失したのかと…。」


「父上からよく聞かされていた異世界への転移や転生の絵空物語…そしてそれが今や私達の目の前で現実に起こっていると…。」


そもそも消失した理由はこの異世界に魔法もスキルも存在しないのが当たり前であり、キオナ達はこの異世界に転移ことでそれに合わせるように魔法もスキルも消失したのではと言う考えに至る。


「と言うことはつまり元の世界に戻らない限りは決して魔法やスキルは再び使えないってのか?」


「はい…この異世界では魔法やスキルの存在は最初から存在しないことが普通…それがこの異世界の(ことわり)だとするのなら私達ではどうにもなりません。」


時の流れは決して止められない。それが当たり前なようにこの異世界では魔法やスキルは存在しないのが当然であり、リュカ言うように元の世界にでも戻らない限りは使用不可能だ。


「その…ルールを変えたりとかして使えるようにするとか…それでもダメなのか?」


「変えるにしてもそれこそ世界の理を変えるような魔法やスキルがない限りは…。」


逆立ちしたって世界の理を変えるなんて人間技では不可能だ。出来るとしたら神様か、もしくは既に失われたであろう規格外のスキルや魔法しかないだろう。


「…魔法やスキルが使えなくなった理屈は分かったが本当にそんな異世界があるのか?それ以前に前の世界とは理が異なるだけで私達まで魔法やスキルを消失する理由になるのか?」


「それ以前に私達は既に全く知らない異世界に来ている訳ですし…あり得なくもないかと…。」


そもそも自分達の常識や概念などが通用しない以前に、何もかもが異なる異世界に転移した時点で特異なことか起きても何ら不思議ではないはずだ。


「実際のところ…経緯(いきさつ)はどうであれ、改めてこの絶望的な状況を打破する必要があるようですね。」


「打破するって…どうやって?」


難しい話ばかりで蚊帳の外だったエインはようやく口を開いてどうするのかキオナに訊ねる。


「先程も言いましたが、これまでと変わらず食糧調達を基本として動いてください。毒の有無などはモナさんに任せます。」


「お任せにゃ!」


まず大前提として食糧調達は変わらず続けて欲しいと告げる。今回は毒の確認を行うためにモナを同行させることになる。


「そして食糧調達とは別に武器や戦い方の見直しをしてください。これが防衛力の増加に繋がります。」


それ以外にもキオナは戦闘に置いての立ち回りの見直しを提言し、それによって防衛力を上げると言う。


「見直しって?」


「魔法やスキルが使えないとなれば、戦闘スタイルの大幅の変更が必要なはずです。それらに頼らない戦い方を身に着けると言うことです。」


誰もが思っていた疑問をエインが訊ねてくれたお陰で、キオナの提言の詳細をここにいる人間達は理解するのだった。


「それには私も賛成です王女様。最近は何かと魔法やスキルを頼るため、いざ使えなくなると脆弱(ぜいじゃく)さが著しく目立っていましたからね。」


その提案に賛同したのはキャラバンで護衛をしていた黒髪ポニーテールのシスカだった。彼女は仲間のキャロラインとドランを見ながらそんなことを呟き、見られた二人は図星なのか視線を逸らす。


「それで良かったと言う訳ではありませんが…こうなった以上は有りかと思います。」


「ありがとうございます。」


シスカはこの提案を受け入れ、他の者達もそれしかないと反対意見はなかった。


「ただ問題として魔法に頼っていた者は体力的に乏しい者が多いです。そちらはどうしましょうか?」


「でしたら戦士や剣士など肉体的な立ち回りをしことがある人を今回の活動に加えます。そちらの方はこちらで何か考えましょう。」


魔法を多用していた人間達はそれに反比例して体力がない傾向がある。キオナは対策を練るらしく、今回の調査には体育会系を参加させると言う。


「そして彼らと共にシスカさん、ドランさん、リュカさん、マーキーさん、モナさん、ラスコさん…それとメリアスとエインが中心となり調査と食糧調達をしてください。」


キオナは新しい戦闘スタイルの見直しをするビギナー達の監督として、上記の人間達が中心となり食糧調達と調査を並列して行って欲しいと命ずるのだった。


「あの…僕も行くの?その…反感とか買われないかな…?」


「気持ちは分かりますが…少なくともここにいる皆はあなたの味方ですよ。」


キオナは務めて励ますようにそう言うが、昨日のいじめっ子のこともあり胸の内では不安が残っていた。


「ところで…エイン、あなたは武器を持っていますか?昨日は武器を持っている様子は見られなかったのですが…。」


「武器ですか?」


「これから先そのスキルとも魔法とも異なる特殊な力だけでは解決出来ない時が来るでしょう。そのためにも今後ともあなたには武器が必要ですね。」


キオナは昨日のことで彼が武器を所持していないことを憂いていた。生体電流(パルス)の力があるとは言え、万能と言う訳でもないため多少なりとも武器を持っておいた方が良いとアドバイスする。


「ん…しかし君はバジリスクもどきの腹から出てくる時に、キラキラしたナイフのような物を所持していなかったか?」


「キラキラしたナイフ…それってこれのことですか?」


メリアスから言われてエインは艶のある綺麗な石を取り出す。


「それは…あの洞窟にあった石ですね。」


「うん、刃物みたいに尖ってて切れ味もあるように見えたから、ティタノボア…あのバジリスクもどきに呑み込まれたホラアナライオンの子供を助ける時に使ったんだ。」


「…モンスターの子供を助けるために?エイン…あなたが優しい人だとは理解してますが、だからと言って何と言う危ない真似を…。」


今になって思い出したがエインはホラアナライオンの子供を助けるために、自らティタノボアに丸呑みにされたのだ。


「下手をしたらあなたは死んでいたかもしれないんですよ。」


「あのバジリスクに丸呑みにされただって…?」


「モンスターの子供を助けるために…?マジかよ…。」


そのことを知らなかったキオナはもちろん、自分達が食べたティタノボアに丸呑みにされていたと聞いて救助隊に加わらなかった者達は騒然としていた。


「もうあんな危ない真似はしないでください。そのためにも武器はキチンとした物を持ちなさい。」


「僕にはこの石のナイフがありますんで…。」


「ダメです!せめてロングソードくらいは持ちなさい!」


大層な武器は持つつもりはなかったがキオナからキッパリと申し出を突っぱねられてしまう。


「…重いなぁ…。」


集会が終わってエインは腰にロングソードが収められた鞘を下げていたが、今の彼には少し邪魔そうに見えた。


「君が昨日のバジリスクを仕留めたのか。」


「え?いや、僕は何も…中から攻撃しただけで仕留めたと言う訳では…。」


今は正門前にキオナから指名された人間達が集まっていたが、ロングソードに四苦八苦するエインにシスカがバジリスクを仕留めた者として興味深そうに訊ねてきたのだ。


「モンスターの子供を助けるために、防ぎようのない体内に侵入して攻撃したのだろう?中々やるじゃないか、Aランクの冒険者でも出来ないことだぞ。」


「そんなことは…。」


褒められるよりも蔑まれることが多かったエインはそんなことはないと謙遜(けんそん)するが、シスカはクールビューティーながら不敵な笑みを浮かべていた。


「ニヤニヤしてんじゃないわよ気持ち悪い。」


「うっ…あなたは…。」


そんなエインに心ない言葉を掛けたのは銀髪に高飛車そうな女子生徒だった。彼女を見てエインはいじめっ子と対面したような怯えた顔付きになる。


「エリーシャさん…。」 


彼女は隕石が落ちてくる前にイジメられたエインに更に追い討ちを掛けた女子生徒のエリーシャだった。


「はあ?汚物の分際で私の名前を許可なく言わないでくれる?穢れるじゃない!」


彼女はエインに名前を呼ばれただけで嫌悪感を覚え、その辺に落ちていた石を不快感を表すように投げつけてくる。


「貴様…何のつもりだ?」


「な…何よあんた!?汚物が目に入ったから片付けようとしただけよ!」


シスカは投げられた石を掴んでエインを守り、対するエリーシャは邪魔するなとシスカを睨みつける。


「汚物だと?貴様見たところ日常的にこの子を虐げていたようだな。」


掴んだ石を乱暴に地面に叩きつけ、慣れた口調でエインを冒涜しているのを見て嫌悪感を表すシスカ。


「この子はモンスターの子供を自分の命を懸けて助けた優しい子なんだぞ。それなのに…貴様の方が汚物にも劣る屑も同然だ!」


「な…なんですって!?ちょうどいいわ!そこにいる汚物と一緒に剣の錆にしてやるわ!魔法は使えなくても剣は普通に使えるからね!」


互いに罵り合いをするも遂には剣を抜いて互いに決闘をする状態までもつれ込む。しかし二人の間の足元に矢が突き刺さる。


「止めんかお前達は…ただでさえ周りのモンスター達に狙われているのに、これ以上互いに敵を作るな。」


「メリアスさん…。」


矢を放ったのはメリアスであり、これ以上の(いさか)いを起こすなと怪訝な顔を浮かべていた。そして彼女の後ろには数十人の制服の男女が付き添っていた。


「連れて来たぞ。グランドレイクの学校の生徒達だ。」


「い、いよいよだな…。」


「そうだね…。」


彼女の後ろにいたのはこの国の学校の生徒達であり、その多くが中学生か高校生とエインやキオナよりもずっと歳上だったが皆緊張した面持ちだった。


英雄を多く輩出しているため、学校では冒険者としてのサバイバルの訓練を受けている者も大勢いるため何ら緊張することはないのだが…。


「マジで行くのかよ…あんなドラゴンやワイバーンが彷徨いてる森の中に…。」


「しかも武器も最低限って…。」


それもこれも全ては魔法やスキルが消失していなければ、ふんぞり返って『俺、TUEEE』みたいに自然界でもモンスターの前でもデカい顔が出来るのだが…。


今や信頼出来るのは己の肉体と素の身体能力…そして手にした最低限の武器くらいだ。


「しょうがないですよ、タイラントドラゴンの襲撃の際にほとんどがダメになったんですし…。」


「あんたは怖くないの?ルシアン…。」


「怖くないと言えば嘘になるけど…メリアスさん達がいるし、それに私達だって身体一つがあれば何とか出来るって!」


ドンヨリした気分になる生徒達を宥めるのはそばかすと編み込んだ後ろ髪が特徴的なルシアンと呼ばれる女子生徒だった。


「でも、今や回復薬や回復魔法も使えなくなったんだよ?もしも何かあったら…。」


例え冒険の初心者でも回復薬や回復系の魔法などの準備は欠かさない。それがあればまだ落ち込むことはなかったが、ないとなれば命綱無しで綱渡りをしろと言っているような物だ。


「そうならないためにお前達自身に強くなって貰う必要があるのだ。肉体の欠損は命取りとなる…いや、心して掛からねば命はないと思え。」


話を聞いていたシスカはエリーシャも含めて彼らにそう警告し、その言葉に生徒達はもちろんだがエイン達も改めて息を呑む。


「では行くぞ。離れるなよ。」


跳ね橋が降ろされ、一同は調査と訓練のために危険なジャングルへと足を踏み入れる。


「昨日、俺達が通ったから道が出来てて楽だな。」


「けど道すがらに木の実とかも採ったから、そっち系の食い物は期待出来ないな…。」


幾らなんでも道なき道を進むことはせずに、キャラバン一行とパラサウロロフス達と通って来た道を歩いていた。


「キツい〜…!?」


「なんたって街道がないんだよ〜…!?」


しかし昨日この道を通って来た面々ならいざ知らず、舗装された地面を歩き慣れた人間達からすれば、石や枝などが転がっているために悪路であることは変わらなかった。


「それで今日は何処に行くんですか?昨日のキャラバンの場所は…。」


エインはこの調査隊のリーダーであるメリアスに目的地を訊ねる。キャラバンと合流した所にはケラトサウルスなどがいて、危険なのではと憂いていたからだ。


「ああ、それか。この地図によると東に行くと『イーロスの街』がある。そこへ向かう手筈になっている。」


「街?でもそれは元の世界の話で…今でもそんなのがあるんですか?」


元の世界の地図を見せてくるが、今や異世界に来てしまったと言うのに役立つどころか地図上の街があるかどうかだなんて火を見るより明らかだ。


「確かにそうですよ。しかし国や街にいなかった私達がこうして転移したこと。更にグランドレイク王国が国ごと転移していると言うことは…他の国や街だって同じように転移してる可能性だって…。」


ラスコの言うように王国はもちろん、国の外に出て旅をしていたキャラバンがこうして転移しているのなら地図上の街があっても不思議じゃないはずだ。


「…ってことは僕達の目的はその街があるかどうかってことと、そして生きている人がいるかどうかってこと?」


「そうなるな。もしもタイラントドラゴンやワイバーンが向かっていなければの話だがな。」


もしも仮説が当たっているのなら地図上の街や国も同じように転移し、助けを求めている人達が大勢いるはずだ。それを確かめるためにもこうやって調査に出ているのだ。


「このまま行けばイーロスの街に昼辺りに辿り着き、順当なら日帰りで国へ帰れるはずだ。」


「あの…もしかしてこのまま歩き続けるんですか?」


話を聞いていたルシアンはハァハァ息を切らしながら、同じく息切れ寸前の生徒達を見て質問してくる。


「幾つか開けた場所がある。そこで一休みしよう。」


幾ら体力的に自信がありそうな生徒達を集めたとは言え、無理をして危険な目に遭わせては本末転倒なため幾度か開けた場所で休憩を取ることにしていた。


「見えたぞ。」


「はぁ…皆ぁ〜、ようやく一休み……っ!?」


木々を切り開いて行くと明るくなり、目の前には爽やかな風が吹く草原が広がっており、ルシアンは休憩が出来ると仲間達に伝えるのだが…。


『プオオオオ…。』


「きゃあ!?モンスター!?」


目の前には牛よりも遥かに大きな身体に、頭部に半円状のトサカを持つモンスターの姿が見えたことでルシアンは悲鳴を出してしまう。


「モンスターだって!?」


「ぶ…武器を…!?」


疲れていた生徒達はモンスターと聞いて慌てて武器を手にしたり、抜いたりして迎撃をしようとする。


「待って、大丈夫だよ。」


「え?でも…。」


しかしエインが両腕を挙げて止めに入るため、今度は慌てて構えていた武器を降ろす。


「見てて…よ〜しよし、大丈夫だよ。」


エインは生体電流(パルス)を纏いながらそのモンスターに話しかけながら近寄る。


「少しの間だけここで休ませてね…。」


『プオオオオン…。』


そっと手を伸ばすとモンスターは自ら顔をエインの手に触れさせる。彼は落ち着いた様子でモンスターの頭を撫で回す。


「だ…大丈夫なの…?」


「うん、草しか食べないよ。」


生徒達はこの異世界で初めて見る野生の世界のモンスターにおっかなびっくりだが、エインはこのモンスターが大人しくて草食性であることを教えてくれる。


『プオオオオン…。』


「ほ…本当だ…草しか食べてない…。」


「『コリトサウルス』って言うんだよ。」


『コリトサウルス』。パラサウロロフスと同じく鳥盤目カモノハシ竜の仲間でとても大人しい草食恐竜だ。


『『『プオオオオン…。』』』


「スゴい…いっぱいいるぜ…。」


しかも一頭だけではない。目の前には数えるのがバカらしくなるほどの(おびただ)しい数のコリトサウルスがいたのだ。


「よし、皆。休憩しよう。必要以上に離れたり、このモンスター達を刺激しないようにな。」


「はぁ〜…疲れたぁ…。」


「少し切れ味がイマイチかな…。」


「ねぇねぇ、少しあのモンスター…コリ何とかを見に行かない?」


メリアスの合図で生徒達はそれぞれ座り込んだり、読書や武器の手入れをしたりなどグループに分かれて休憩をする。


『プオオオ…。』


「本当に大人しいモンスターね…大きな牛みたい…。」


「あんただって牛みたいな胸してるくせに〜?」


「ちょ、セクハラ止めてよぉ〜。」


草を食べるコリトサウルスは本当に牛のようでルシアンは興味津々で見ていたが、友達から身体の一部分を冷やかされる。


「ちょん…!?見ろよ、触ったぜマーキー!」


「生温いなぁ!もっとこんな風にしろ!」


『プオオオオン!』


「ぐへぇ!?」


リュカは指一本でコリトサウルスに触れただけで得意気になるが、マーキーは調子に乗って尻尾に抱き着くがさすがに鬱陶しいと乱暴に振り払われる。


「ふむ…この頭の突起物は角と言うよりもトサカのようですね。身を守るために使われるとは思えませんね。」


ラスコは寝そべって寛ぐコリトサウルスのトサカをマジマジと観察し有用性を調べていた。


「ふむ…エイン、彼らもあのパラ何とか達みたいに何頭か連れて行けるか?」


「はい。出来ると思います。」


離れた位置で休んでいたエインにメリアスがコリトサウルスも、パラサウロロフス達と同じように飼育場へと連れて行けるかと訊ねられ、彼は可能だと返答するのだった。


「帰り道にまたここへ寄るから、その時に彼らを誘導してくれ。恐らく生徒達の誰かが疲れて歩けなくなるだろうからな。」


「良いですよ。」


調査を終わらせて戻って来たら、コリトサウルスを王国へと誘導するように頼むメリアス。帰り際なら疲れて歩けない生徒達のために足代わりにするつもりだった。


『『プオオン!』』


「可愛い〜♡子供もいる!」


「他のモンスターもこんなのだったら良いのにぃ〜!」


群れの中には子供のコリトサウルスもいて、女子生徒達はその丸みを帯びた愛らしさに骨抜きになっていた。


『プオオオオン…。』


『『プオオン!』』


「あ、お母さんかな?」


その子供の側に母親らしきコリトサウルスが近付いて来て子供達は嬉しそうに甘えていた。


「……。」


それを見たエインはホラアナライオンの時のように少し寂しそうにしていた。


「…ふむぐっ!?」


しかしその事で気を取られていたためか、後ろから迫る手によって口を塞がれたエインは茂みの中へと引きずり込まれるのだった。

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